【動画】ふたばたけしさんの曲「水になって」のワンフレーズ。ふたばさんと交流のあった末藤佳織さんは、能登半島地震で亡くなった夫にこの曲を重ね合わせた=金居達朗撮影

友が歌う「帰ってくるよ」 亡き夫からの不思議な「ラブレター」

金居達朗

 そもそも出無精な僕のこと 引っ張り回したのは 君じゃないか おかげでこんな世界のこと すっかり好きになっちゃったよ

 4月、ユーチューブに公開された曲を聴いて、末藤佳織さん(41)は驚いた。

 「翔ちゃんが言ってるみたい」

 石川県輪島市に住んでいた佳織さんは2024年元日、能登半島地震で自宅の下敷きとなった夫の翔太さん(当時40)を亡くした。「心が何も感じなくなっていく」日々を過ごす中、曲は翔太さんからの「ラブレター」に聞こえた。

 曲の名は「水になって」。作詞作曲したシンガー・ソングライターのふたばたけしさんとは、友人同士だ。ただ、翔太さんが亡くなる前に書き下ろしたと聞いていた。

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「水になって」を歌うふたばたけしさん=2025年11月8日、熊本市、金居達朗撮影

記事の後半では、ふたばさんの歌う「水になって」とインタビューを動画でご覧になれます。

 ふたばさんとの出会いは、6年前にさかのぼる。

 19年、佳織さんは翔太さんと熊本市で福祉事業所「アトリエdot」を開業した。そこに知人の紹介でやってきたのが、介護福祉士としての顔を持つふたばさんだった。障害のある人と一緒に絵を描いたり、一緒に歌を歌ったり。ふたばさんがギターを奏でながら曲を作ることもあった。

 22年2月、夫妻が石川県輪島市に引っ越し、アトリエdotは閉業した。佳織さんが、県立輪島漆芸技術研修所に通い、漆芸を学ぶためだった。

きっかけは輪島でのライブ

 その1年後。熊本の介護施設で働きながら定期的にライブ活動をしていたふたばさんは、夫妻から「能登でライブをしてほしい」と誘われた。

 輪島市を訪れたふたばさんは、かやぶきの古民家に集まった約30人を前にライブを開いた。夏の深い緑に覆われた田んぼが夕日に照らされる。そんな風景を背に、縁側で汗だくになりながら、15曲近くを歌った。その時の美しい風景が、忘れられなかった。

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能登に招待され、末藤夫妻らの前で歌を披露したふたばたけしさん=2023年7月28日、石川県輪島市、ふたばさん提供

 「いつか能登で見たこと、感じたことを曲にしてくださいよ」。ライブが終わり、翔太さんに冗談めいて言われた。いつもは前に出る佳織さんを支えるように、後ろからサポートしていた翔太さんの方から声をかけてもらったのが、うれしかった。

 よく歌いに行く熊本市の江津湖と能登の風景が重なった。その年の秋、「死んでも、最後には好きな人のところに戻ってきてもらいたい」と水と散骨をテーマにしたラブソング「水になって」を書き下ろした。「いつかサプライズで聞かせよう」と2人には黙っていた。

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ふたばたけしさん(中央)が輪島でライブをした翌日に撮影された末藤翔太さん(左)、佳織さんの写真=2023年7月29日、石川県輪島市、末藤佳織さん提供

 曲が完成した直後、輪島市を能登半島地震が襲った。ふたばさんはすぐに2人に連絡したが、つながらない。2日後、ようやく佳織さんから返信があった。

 「翔ちゃんは、地震で家の下敷きになり、息を引き取りました」

 どう声をかけていいかわからない。何もしてあげられない。無力感にさいなまれた。

「早送りのように」過ぎる日々

 一方、翔太さんを失った佳織さんは失意の中、自分を責めることもあった。

 「これはひどい夢だ」

 「なぜ私だけ生き残ったのか」

 「私が輪島に行きたいと言ったから」

 時間だけが「早送りのように」過ぎていった。

 通っていた研修所は地震で休講。翔太さんの四十九日が終わった後、制作の場を提供してくれる大学がある金沢市に移った。研修所の卒業制作に没頭した。

 ふたばさんの曲を聴いたのは、そんな時だった。サムネイルには、縁側に座る男女の背中が描かれたイラストが載っていた。こんな歌詞もあった。

 僕は海になって雲になって雨になって山に降って川になって 君の元へ 君の元へ帰ってくるよ

 思わず、ふたばさんにLINEを送った。

 「この曲は去年作ったって言ってませんでした? 一体何が起きてるのかな」

2人がいたから完成した曲

 実は、ふたばさんは曲の発表を悩んでいた。地震の前に書いたはずの歌詞が、佳織さんの状況と不思議なほど一致していた。「聴いた佳織さんが悲しい気持ちにならないかな」という葛藤があった。

 でも、「2人がいたからこそ完成した曲。佳織さんを信じて、歌うことが自分の仕事だ」と発表すると決めた。

 ふたばさんは佳織さんにこう返した。

 「正直な気持ちを話すと、この曲をどう佳織さんに伝えればいいかわからなくなってしまっていました。でも、絶対にみんなに聴いてもらわないといけないと思った」

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「水になって」を歌うふたばたけしさん=2025年11月8日、熊本市、金居達朗撮影

 佳織さんから返信が届いた。「私ずーっと、翔ちゃんは私と一緒になって幸せだったのかなって、悩んで悩んで。私が連れ回しちゃったせいで、こんなことになっちゃったんじゃないかって。でも今日、新曲を聴いて、ふたばさんを通して翔ちゃんからの全力のラブレターだと思ったんだよね。心が救われたよ」

「次は誰かにとってのラブソングに」

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末藤佳織さん=2025年11月20日、金沢市、金居達朗撮影

 佳織さんはいま、漆器を手がける会社でアルバイトをし、研修所で学んだ漆芸の道を進んでいる。「この曲は、私にとっては翔ちゃんからのラブレター。次は聴いた誰かにとってのラブソングになって」と願う。

 「水になって」は、こんな歌詞で終わる。

 僕が死んでいなくなったら 二人の冒険思い出して 思い出し笑いで ふと涙がこぼれたら それは僕だから 帰ってくるよ

 ふたばさんは歌い続ける。「地震の曲でも悲しい曲でもない。僕が誰かにこの曲を届けようとする限り、翔太さんの道も終わらないような気がする」

【動画】ふたばたけしさんの「水になって」=金居達朗撮影

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能登半島地震

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2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする強い地震があり、石川県志賀町で震度7を観測しました。地震をめぐる最新ニュースや、地震への備えなどの情報をお届けします。[もっと見る]

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