100人以上の学生が暮らす京都大学吉田寮(京都市左京区)では、寮生の多くが学業の傍らアルバイトをしている。食費や学費を賄うため、専門分野の研究費を稼ぐため、賄いの出る飲食店を選ぶ人、深夜のバス清掃に従事する人など、働く理由も業種も多種多様だ。
そのうち、吉田寮には歴代引き継がれているアルバイトがある。
仕事場は京都市内の個人宅。そこには進行性筋ジストロフィー患者、湯口真さん(53)が住んでいる。仕事は湯口さんのトイレや食事など日常生活の介護だ。
5歳の時に、体の筋肉が動かなくなる難病が判明した湯口さんは、2001年から家族以外の介助者が入った自立生活を送ってきた。しかし、今春に誤えん性肺炎を患ってから、食事は胃ろうとなった。就寝時も人工呼吸器を付けた生活を送り、24時間のケアが必要だ。
湯口さんが所属する自立障害者グループは京大生と縁があり、吉田寮生は15年前に携わったのが始まり。介護に関わるのは総勢約20人で、介護士やヘルパーの他に吉田寮から6人が日替わりで自宅を訪れている。
勤務時間は午後2時から、訪問介護者が来る翌日午前9時まで。寮生の渡辺拓さんは20年に京大へ進学。寮の友人に誘われたことで、同年5月から週1回のペースで介護アルバイトを続けている。
渡辺さんは見習いとして半年間、トイレ介助などを前任者の下で学んだ。介護を安全に提供するため、国が定める研修も修了。現在ではたん吸引なども担っている。
アルバイト日の午前中は大阪市の専門学校で英語講師の仕事をしてから、湯口さん宅へ向かう。車椅子対応の住宅には、湯口さんが好きな漫画やキャラクターのフィギュアが並ぶ。
「そろそろかな」。午後4時ごろに湯口さんから声がかかった。渡辺さんは手を消毒し、ベッド近くにある経腸栄養剤の袋を手に取った。軽くもんでから、湯口さんの腹部につながる胃ろうチューブに接続した。同様の手順で、定期的に水分補給も手際よく行う。
介護以外の時間は湯口さんのそばで本を読んだり、持ち込んだノートパソコンで作業をしたり。湯口さんが寝付く午前2時ごろまで介護し、奥にある畳敷きの小上がりで仮眠を取る。
湯口さんは季節の変わり目に体調を崩すことが多く、呼吸器を外した点鼻薬の注入も欠かせない。鼻詰まりが緩和すると、優しく渡辺さんに言葉をかけた。「だいぶ楽になったわ。ありがとう」
そんな湯口さんだが、過去には渡辺さんに声を荒らげたこともあったという。
胃ろう造設前は寮生らの手料理を食べていた。しかし、渡辺さんは京大進学まで料理経験が無く「失敗をいっぱいした」という。包丁がうまく使えず、食材がつながったまま皿に盛ってしまったことも。みそ汁を煮立たせ過ぎた時は「風味が飛んでまうやろ」と湯口さんの雷が落ちた。
「雷」の理由は失敗したからではない。…
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