専門家に聞く習近平氏の台湾観 統一は指導者としてのライフワークか

聞き手 論説委員・村上太輝夫

 高市早苗首相の「台湾有事」発言で、中国と台湾をめぐる問題に関心が集まっています。中国政治が専門の鈴木隆さんは、長く国政のトップの座にある習近平(シーチンピン)氏は歴代指導者の中でも台湾との関わりが深く、思い入れがあるといいます。習氏自身が17年間仕事をしていた福建省という土地にかぎがあるそうです。どんな意味なのでしょうか。

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 中国の歴代指導者のうち毛沢東や鄧小平には、台湾統一は国共内戦の続きで未完の課題という実感があったでしょう。習近平(シーチンピン)氏に内戦の経験はありませんが、台湾対岸の福建省に1985年から17年間もいた。漁民同士のトラブルや密航密輸の取り締まりなど、日常的に台湾と関わりながらキャリアを形成しました。

 その時期に中台間の危機が発生しました。95~96年に第3次台湾海峡危機が起こり、2000年に台湾で初の政権交代があった前後も緊張があった。いずれの事件でも習氏は台湾関連の実務を担い、働きが認められて昇進しました。最高指導者になり、ライフワークとして台湾を中国の主権下に置きたいと考えているのは間違いないでしょう。

 福建省には中国初の近代的な海軍学校ができ、日清戦争で日本海軍に敗北した北洋艦隊の将兵の多くは福建人でした。福建では記念の慰霊祭や学術研究会などが開かれます。そうした地元活動への参加を通じて、習氏は歴史認識を作ったのではないでしょうか。

 習氏はシーパワー(海上権力)を持たない国は強国になれないと言っています。シーパワー獲得を阻まれたのが日清戦争です。しかも台湾が植民地化された。

 福建省と沖縄県に友好関係があり、習氏自身も沖縄県を複数回訪れています。かつて琉球王国は日本と清朝の両方に従う日清両属で、1879年の廃琉置県(琉球処分)を経て沖縄県になった後も一部の琉球人が清朝を頼って王国復活運動をしたり、琉球の帰属問題が日本と清の間で話し合われたりしました。

 それらが全て挫折し、琉球処分が既成事実となったのも日清戦争です。同時期に尖閣諸島も沖縄県に編入された。これらを含め習氏は日清戦争を「禍根」と認識しているでしょう。

 習氏は21世紀半ばまでに「中華民族の偉大な復興」を実現すると言っています。それは世界最強の資本主義国家である米国を世界最大の社会主義国家の中国が抜くことだと、2017年の共産党大会後に幹部向けの演説で述べています。

 中国から見れば、目の前に日本列島、台湾、フィリピンがあって、太平洋への進出ルートがふさがれている。台湾を統一できれば直接、西太平洋に出られます。習氏にとって台湾は日清戦争以来の屈辱を晴らす象徴であり、将来におけるシーパワー強化の橋頭堡(きょうとうほ)として理解されています。

鈴木隆さん

 すずき・たかし 1973年生まれ。専門は中国政治。主な著書に「習近平研究―支配体制と指導者の実像」「中国共産党の支配と権力」など。

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