偶然と奇跡の終着点への方もしっかり更新していきます。
長期連載になると思うので、気長によろしくお願いします。
生まれた時は、僕はまだ僕を見てもらえていた。
両親にとって僕は初めての子供だったし、子育ても大変だった中よくここまで育ててくれたな、と思う。
あれが生まれるまでは。
あれが生まれてからは僕の人生は180度変わった。両親はあればかりを見て、僕がいくら努力してもそれを「このくらいして当然」だとか「-はもっとできるのになぜおまえはこの程度しかできない」だとか。
おまけに僕は努力が実りにくいタイプだった。
何をやっても失敗ばかり。趣味だった絵が高じていくつか賞を取ったことはあるけど、両親は見向きもしなかった。
あいつらは結局、僕ではなく「天才であるべき僕」を見てたんだろう。天才でない僕、凡才にも届かない僕に価値はないんだろう。
だから、僕は家を出た。
妹の才能が妬ましかったから。妹ばかり見る両親が嫌いだったから。
あの人たちは、僕がいないほうが楽しそうだから。
ゲヘナ自治区、そこが今の僕の居場所だ。家を出てから僕は賞の名前を客寄せに使い絵を売って金を稼いだ。ゲヘナに来たのは僕の足りない頭でも進学できそうなのと、両親が絶対に嫌がるだろうと思ったからだ。
両親とは一切の縁を切られた。だから苗字も変えた。もうあの苗字は僕には不要だ。
「川瀬ミナト、それが今からのお前の名になる。確認だが...構わないんだな?お前が知っての通り変更手続きは死ぬほど面倒だ。再変更となるとより面倒だ」
「構いません、羽沼行政官。僕にはもう必要ないものです」
「...わかった、受理する。これが学生証だ、受け取れ」
「ありがとうございます。お手数をおかけしました」
こうして、浦和ミナトは川瀬ミナトとして生きていくことにしたんだ。
3年後、4月。
「本日より風紀委員会に転属となりました、川瀬ミナトです。万魔殿での経験を活かし風紀の維持に尽力します」
「...というわけで、ミナト先輩が風紀委員に配属になったから。みんな、知ってると思うけどよろしく」
僕、川瀬ミナトは風紀委員会にいた。黒い髪と目、長身のせいか小さく見える銃、スーツ。うん、服の選択間違えたかも!
「...先輩、留年したの?」
「そそ、留年しちゃった。てへぺろ」
「てへぺろで済まないよ!?ゲヘナで留年って聞いたことないよ!?」
目が飛び出るほど驚いているのは銀鏡イオリちゃん。新進気鋭の切り込み隊長。組むと一番戦闘しやすいかも。
「まあまあ、人手が増えるのはいいことじゃないですか。でもヒナ委員長に近づきすぎたら撃ちますから」
「アコ、黙って」
漫才みたいなやり取りを繰り広げているのは甘雨アコちゃんと空崎ヒナちゃん。風紀委員のNo.2の行政官とトップたる委員長。
こんなやり取りをしているんだけど、なんだかんだ仲はいいんだよね。
「今までも何度か連携をとることがあったそうですね、よろしくお願いします」
最後に挨拶をしたのは火宮チナツちゃん。救急医学部と懇意にしていたらしいけど、連携のためこちらに来たみたい。
そのためか知らないけど、新入生にもかかわらずやけに風紀委員の内情に詳しいんだよね。即戦力は何人いてもいいからありがたいよ。
「ってことで、早速。マコトからバカみたいな量仕事が届いてる」
天井にもう少しで届きそうな量の書類、これが僕たちが果たすべき仕事らしい。
「...また?」
「うん、また。だけどヒナちゃんとかアコちゃんたちがする必要はないよ?全部捌けるしマコトの書類のやり方には慣れてるから」
隅っこに「28.16部隊」と書かれた小さい机に書類を置く。こじんまりとしてるけど、このくらいがちょうどいい。
「悪いわよ、先輩に全部やってもらうのは」
「でもこれ、ヒナちゃんが本気でやろうとしたらたぶん1日じゃ終わらないよ?マコトに文句付けに行く時間も考えたら長くても6時間くらい。なら早く終わらせたほうが得でしょ?」
「委員長、ここはとっても、ええ、とっても癪ですが、あれの恩恵にあずかったほうがいいかと」
「うんうん、ヒナちゃんばっかりに頼りっきりの組織もよくないからね」
ヒナちゃんは数秒熟考した後、「そうね、じゃあ。お願いするわ」と言った。
私には2歳上の兄がいる。
人の前に立って話すのが得意で、リーダーとしていろんなことをやっていた記憶がある。
私が生まれる前、兄がどうだったのかはわからない。でも、私の記憶の中にある兄はいつも苦しそうだった。
無理もないだろう。両親からのまったく年相応でない過剰な期待。応えられなくて当たり前なものばかりだった。
でも、運が悪いことに、私が応えた。応えてしまった。
兄が躓いている間、私はどんどんと先に進んでいた。その時はそれが当たり前だと思っていたし、だからこそリーダーシップがあり私より優秀なはずの兄が何でできないのか疑問だった。
一度そのことを母に聞いたことがある。それが間違いだった。
母は「あんなの不良品みたいなものだから考えちゃだめよ。ハナコはじぶんのやりたいようになさい」といった。
その時は母の言ったことがすべての世界だったのだから、そうなのだろうと思った。
年が離れるにつれ、自然な流れではあるが私たち兄妹の距離はさらに開いた。
そして、私は兄の居場所を奪ってしまった。私が優秀な成績を収めるにつれ、父は兄に対し非道な行いをするようになり、母は兄を怒鳴り料理を作らなくなった。
兄は生きながらにして死んでいるようだった。でも、私がトリニティの附属中学校に進んだ時には私が好きだった本をくれた。
「入学おめでとう、ハナコはすごいね。いつも頑張ってるね」なんて言ってくれた記憶がある。
思春期真っただ中の私は恥ずかしくて兄にいらない、と言った。
後から知ったのだが、兄はその時には生活費を要求されるようになっており、自分で描いた絵を二束三文で売って必死に稼いでいたという。
兄は絵を描くのが好きだった。中学校に上がってからはコンクールなどに出しては優秀賞を取って、周囲も才能は認めていた。両親以外は。
両親はこんなことする暇があるなら勉強しろ、とか言っていた記憶がある。耐えかねて兄は筆を折ったらしい。
そしてその翌日、兄は家を出ていった。
私に向けた置手紙には「自分の道を進んでください。遠いところから応援しています。」とだけ書かれていた。
部屋にあったキャンバスには私の絵が完成途中で置かれていた。
私は兄を必死で探した。私を静かに見守ってくれていた兄を失いたくない、その一心だった。
でも兄は見つからなかった。完全に痕跡が消えていた。
私は泣いて、泣いて、泣き喚いた。でも兄は来てくれなかった。
そして私は悟った。私は大切な人のすべてを奪ってしまったのだと。
あれから三年経った。私は今も兄を見つけられていない。
「...セイアさん、私はどうすればいいのでしょうか」
「なかなか難しい問いだね...そして、私がその言葉を聞くのは何回目かい?後悔しているのはわかるが。」
袖で器用にソーサーとカップをつかんで紅茶を楽しんでいるのは百合園セイアさん。ティーパーティーの新ホストであり、中学時代からの先輩であり友人。
「...兄さんには生きていてもらわないと困ります。だって、まだごめんなさいの一言すら言えていないのですから」
「君が謝ることでもないだろう?異常なのは環境であって君じゃない」
「それでもです。私は兄の考えを無碍にしてしまって、傷つけましたから」
「そうかい...なら、絵を探してみればいいんじゃないかい?君のお兄さんは絵をかくのが好きで、しかもなかなかの腕前だったなら絵描きとしてコンクールなどに応募している可能性がある。可能性が高いのはワイルドハントだと思うけれど、ほかの学園にいてもおかしくない」
セイアさんが携帯を出して少し検索した後画像を見せてくれる。どうやってその手で携帯を操作しているのかがものすごく気になる。
「こんな感じで入賞作品は公開されているから、君のお兄さんの画風を探すといい。おそらく君がインターネットや人伝で探しても見つけられなかったのは名前を変えたからだろうね...」
「やっぱりそう思います?」
無力さにため息が出てしまう。兄さんは今どこにいるんだろう。
久しぶりだね、みんな。元気にしてた?あははっ!僕はこのために生まれたのかもね?
吸わないとやってられない。堕ちたもんだな、僕も僕はただの猟兵です、多少政治向きなだけです
お世話になりました!先生!さあ、トリニティを地獄に変える時だ。この瞬間を待っていたさ。
お前なんかに僕の気持ちが解って堪るか!僕みたいな無才の気持ちが!
お前を超えて見せる...今度こそ、僕は存在証明をするんだ!
...ははは、なんだ。最後に勝つのは本能ってことか。莫迦らしい。
桃色に塗りつぶされたキャンバスで。