ナニカサレタ生徒の顛末   作:影のビツケンヌ

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派手に打ち上げましたが、自分はブルアカエアプ且つACはVIから参戦した者ですので、粗がありましたらどうかいちいちこらえてください。ついでに言うと曇らせを主目的に書くのも初めての試みです。

作劇上の都合で、ACの仕様を一部変更しております。ご了承ください。


ナニカサレタヨウダ

 連邦捜査部シャーレのある朝。先生は困惑していた。

 

「先生、どうかしたの?」

「“うん……ちょっとね”」

 

 連日シャーレに届く依頼は枚挙に暇がない。それらの中で、つい先程受信して彼の目に留まったその一つは異彩を放っていた。どんなメールにも送り手やその住まいである自治区毎の個性が表れるというのは、シャーレに就いてからすぐにわかったことだが、今回のメールはあまりにも、そして気味が悪い程簡素過ぎたのである。

 

 

  件名:輸送列車強襲

 

  依頼者:螻ア驥弱ヤ繝阪さ

  作戦領域:アビドス砂漠

  敵主戦力:不明

  作戦目標:列車の破壊

 

 

「輸送列車強襲……大胆なことを考えるものねえ」

「“ふむ……”」

 

 その日の当番としてシャーレの部室を訪れていた陸八魔アルが、デスクに向かう先生の横からディスプレイを覗き込んだ。アウトローに憧れる彼女は件名を見て感心したような声を上げたが、その下の依頼文と、深刻そうな先生の顔を代わるがわる見て首を傾げた。金さえ貰えば何でも請け負う便利屋68の社長といえど、この奇妙な依頼にはどこか不審なものを覚えたようだ。

 依頼主の名前の文字化けや列車を襲うという物騒な内容はさておき――自分も大分キヴォトスに染まってきた――その概要しか記されていない依頼文。詳細がわからない以上、この案件は後回しにしてもよさそうなものだが、彼の『先生』としての勘が、メールを閉じようとする手の動きを妨げていた。即ち、これを放置すれば、取り返しのつかない事態を引き起こす可能性がある、と。

 その時、先生は依頼文に添付された二つの添付ファイルの存在に気付いた。一つは位置情報と無線の周波数帯と思しき数字が記されたテキストファイルで、もう一つは音声ファイル。

 

「“これは……?”」

 

 もしや、わざわざ依頼内容を口頭で伝える為にこんな形式にしているのか。ミレニアム製のスキャンソフトでウイルスの類の心配がないことを確認してから、彼はダウンロードされた音声ファイルを再生した。

 

先生……協力して欲しい……

「ひっ……!?」

 

 酷く歪んだ、墓穴の底から来るかの如き不気味な、そして悲痛な声。それを聞いたアルが小さく悲鳴を上げる。先生は声こそ出さなかったが、部室の温度が急に下がったような気がした。

 

私は何か……されたようだ……人間でなくなってしまった……。カイザーを……列車を襲撃したい……これ以上手術を……。解放……されたい……協力してくれ……!

 

 文字に起こせば数行に満たぬ音声は、たっぷり四十秒近くも使って状況を克明に伝え、停止した。

 

「な、なな何……!? 何なのこれ!? ももももしかして、お、おば、おば――」

 

 依頼主がこの世の者ではないのではと震え上がるアルを尻目に、先生はしばし沈思黙考した。

 ホラー映画さながらの声の調子を抜きにして、冷静に文面通り受け取っても、これは只事ではない。人間性を喪失する程の‘手術’を受けた依頼主が、‘手術’を止める為にカイザーコーポレーションの(或いは系列企業の)保有する列車の襲撃・破壊を求めている。何より、もしも依頼主がどこかの学園の生徒で、本人の言うところの「解放」が、虜囚となっている自分を自由の身にするという意味ではないのだとしたら――

 

「“アル、便利屋の皆を集めてくれるかな。報酬はシャーレが言い値で出すよ”」

 

 財布事情にうるさい生徒の小言も、今回ばかりは大目に見てくれるだろう。何しろ人の命と尊厳が賭かっている。先生は努めて落ち着き払って、アルに声をかけた。

 

「“仕事の時間だ”」

 

 

 

 

 

 数時間後、先生ら一行はアビドスの砂漠の奥地、指定された座標へと向かう機中の人となっていた。

 ヘヴンズロックなるその補給基地の存在は、アビドス対策委員会でさえ感知していなかった。メサと呼ばれる、浸食によって形成されたテーブル状の台地の上に置かれ、その標高は千四百メートルを超える。屈強なキヴォトス人といえど、これから始まる戦いの前に登山は骨だと判断し、先生はヘリを手配して生徒達を連れて来たのだった――尤も、自分が楽をしたかった訳ではない、と言えば嘘になるのだが。

 

「改めて、今日はよろしくねえ皆」

「ええ、よろしくお願いね!」

 

 紆余曲折の末に良好な関係を築いていた便利屋と対策委員会だったが、お尋ね者であってもゲヘナの生徒。アビドスの領域での勝手な戦闘行為は内外に印象がよくない。形式上の監視役と助っ人を兼ねて、依頼には対策委員会の委員長小鳥遊ホシノが同行していた。

 

「……それにしても、変だと思わない?」

 

 ローター音が響く機内で、課長・鬼方カヨコがおもむろに口を開いた。他愛のない会話に興じていた一同の注目が一斉に彼女に向く。

 

「手術とかいうのを止めさせて、解放()()()()のに、列車を襲撃()()()なんてさ」

「言い間違いじゃないのー? 人間じゃなくなった、なんて言ってたんだし、自分でそれに気付けてないとか」

「そもそも、そんな状態でよく依頼を出せたものだわ……ほ、本当に幽霊とかじゃないわよね?」

「だ、大丈夫ですアル様! アル様の敵になるなら誰であろうと私が全部殺します!!」

「まーまー、それは着いてからのお楽しみってことで」

 

 カヨコの呈した疑問に、室長・浅黄ムツキが軽く答える。まだ相手の生死自体を疑っているらしいアルを、平社員・伊草ハルカが過激にフォローし、ホシノが話を纏めた。その一連の会話を聞きながら、先生もまた依頼の不審な点について考えていた。

 

「“……”」

 

 カヨコの言う通り、列車の襲撃を依頼しているのにも関わらず、「して欲しい」ではなく「したい」という表現を使っている。それを単なる言い間違いだと切って捨てるのは簡単だが、それが間違いではなかった場合、この依頼は正確には「襲撃計画の補助」であり、依頼主本人も計画を実行することになるだろう。これなら「協力してくれ」と最後に言っていたのも頷ける話だ。

 「人間でなくなってしまった」一方で、列車を襲撃できる力は持っている生徒。この齟齬が意味するものに、先生は後ろ暗い何かを感じずにはいられなかった。

 

『間もなくランディングゾーンに到着します。先生と生徒の皆さんは準備をお願いします』

 

 パイロットのアナウンスで全員が着陸の準備を整える。何にせよ、それが生徒の為になるならば、先生はどんなことでもやってのける覚悟だった。

 

 

 

 

 

 五キロ程歩いた先にあったヘヴンズロックは、遮蔽物となるものが殆どない場所にぽつんと建っていた。味気ない簡素なプラットフォームの置かれた敷地の端を掠めるように、二本の線路が東西方向に通っていて、線路の先は何もない荒野に続いている。殺風景な土地だが、アビドスに未だ残るカイザー所有の地区の一つなのは間違いない。

 小さな岩陰に皆ですし詰めになって隠れながら、アルがスナイパーライフルのスコープを単眼鏡代わりに偵察する。外にいるのは歩哨が十数人程度と守りは貧弱で、とても襲撃には耐えられないだろう。そんな中、アルは施設を囲うフェンスに掲げられた看板を発見した。

 

「ムラクモ……? カイザーじゃなくて?」

「“何か知っているの?”」

「最近までカイザーの子会社だったところだよ。今は独立してるけど、人を集めて怪しい研究してるって、ブラックマーケットじゃ専らの噂」

 

 先生の問いにはカヨコが答えた。PMCといい銀行といい、カイザー系列企業にはいい思い出がない。今回もまた、悪い大人に生徒が騙されたことが原因なのかと思うと、先生は心底うんざりさせられた。

 

「うへえ、またきな臭い感じだねえ。となると、襲って欲しいっていう列車も今はムラクモのもので、行先は手術をするムラクモの新しい研究所か何かってことかな?」

 

 ホシノの鋭い推測。しかしそれをあてにすると、アルがカイザーでないことを疑った理由が引っかかる。

 依頼主は対象の列車を「カイザー」と呼んでいた。カヨコの言うことが確かなら、ムラクモの名が浸透していない訳ではない筈で、依頼主はそれを知らないのだ。つまり、依頼主はムラクモがカイザーから独立するより前からムラクモの手に落ち、‘手術’を受けていたことになる。その内容がどんなものかは、今は考えたくなかった。

 

「そっか、独立したから会社の持ち物を移管しないといけないんだね。くふふ、そのタイミングで襲って一網打尽だなんて、誰だか知らないけど頭いいじゃん!」

 

 とにかく、ムツキの言う通り、列車に積まれているであろう‘手術’の為の資材や機材を破壊し、これ以上の違法行為を阻止するにはうってつけの計画だということは確かだった。

 

「“……よし、それじゃあ始めよう。ムツキはハルカと一緒に線路に爆弾を仕掛けに行って。列車が到着したら起爆して、逃げ道を塞ぐんだ。仕掛けたらハルカはカヨコと合流して車内を制圧、並行してムツキが車体に爆弾を仕掛ける。その間施設から来る敵の迎撃はアルとホシノにお願いするよ。制圧が完了次第退避して爆破。あとの問題は離脱なんだけど――”」

 

 先生が立案した作戦内容を説明していると、丁度それを遮るようにして通信が入った。周波数はあのテキストファイルに記されていたのと同じもの。そして当然というべきか、相手の声もまた音声ファイルのそれと同じであった。

 

先生……どこだ……

「ひいっ!? またその声?!」

「アルちゃんビビり過ぎー」

「アル様を怖がらせるなんて……許せない……」

 

 そう、機内での推測通りならば、一行はまだ依頼主と合流できていないのだ。作戦の決行タイミングを合わせるべく、先生は相手が生徒である仮定の下、同じ周波数で返答する。

 

「“君が依頼を送ってくれた子だね? 私はシャーレの顧問先生だよ。私達は施設の北、線路の反対側にある岩陰に隠れているんだ”」

……着いた

「先生、あれ!」

 

 すると東の空から、山吹色の噴射炎をたなびかせた何かがこちらに飛んでくるのが見えた。アルが指差したそれに目を凝らすと、その姿は人型の物体であるらしかった。やがてその物体は徐々に高度を下げ、先生達の目と鼻の先に降りてくる。

 果たしてその正体は、オレンジと黄色に彩られた全高四メートル弱の人型ロボットであった。四連装ミサイルと軽量ガトリングキャノンを背負い、アサルトライフルを右手に携え、左前腕には奇妙な機械が据え付けられている。先生自身の個人的な趣味にも合致したものだったが、それに乗っているのがあの声の持ち主であることを思うと、とても喜んでいられる心境ではなかった。

 

「こ、コード5!! 敵を発見!! ワイルドキャットです!!」

「報告にあった機体か、単騎で来るとはな……!」

「起動まで持たせろ! 一分で済ませる!」

 

 敵の出現で敷地内がにわかに騒がしくなる。彼らは依頼主の情報を事前に掴んでいたようだ。先生の次の言葉を待たず、ワイルドキャットと呼ばれたロボットは右肩のミサイル発射管を開いた。

 

「“っ、作戦開始!”」

 

 放たれた四発のミサイルが二手に分かれ、それぞれ通信塔とレーダーを粉々にする。依頼主の認識ではすでに作戦が始まっていることを理解した先生は、遅れまいと開始の号令をかけ、生徒達はそれに従って展開していく。

 

「通信塔及びレーダー大破!!」

「くそっ、これでは応援要請が……!」

「こんな僻地に寄越してくれるもんか、今までも――ぐああっ!?」

「どわあっ!?」

 

 初手で敵の通信と索敵の手段を奪う依頼主のファインプレーに感謝しつつ、先生はその場でシッテムの箱を起動した。生徒達には認識できない画面には、ヘヴンズロック全体を俯瞰した三次元マップが表示されている。依頼主駆る鮮やかな色合いの機体が敷地の中を暴れ回り、その混乱に乗じてアル達五人がプラットフォームに向けて走っていくのがわかった。どうやら依頼主は本命をこちらに任せ、自分は陽動に徹するつもりらしい。アサルトライフルが火を噴き、敵も施設も目に付くものは片端から破壊していく。

 

来た……

 

 一分と経たないうちに状況が変化した。線路の西方面から標的と思しき列車がやってくるのと時を同じくして、一際大きな倉庫の中から四脚のロボットが躍り出てくる。両手はガトリングガン、機体上部に多連装ロケット砲を載せた、ワイルドキャットより二周りも大きな機体。脅威ではあるがしかし、まともな戦力はこれだけとも言えよう。

 

車両……破壊しろ……

「“ムツキ、今だ!”」

「オッケー!!」

 

 相手を見るなり、ワイルドキャットは躊躇なく突っ込んでいく。依頼主の期待に応えるべく、先生はすぐさま合図を出した。前方の線路が爆破されたことを察知した列車は急ブレーキをかけ減速するも、それは待ち伏せていた生徒達の格好の餌食だ。

 

「死んでください死んでください死んでください!!」

「ムツキ、次の爆弾は?」

「今やってるよー!」

 

 ハルカが非武装の乗員一人一人にショットガンをぶち当てて回り、カヨコがハンドガンで先頭車両の操作盤を回路ごと穴だらけにする。ムツキの爆弾設置も順調なようだ。ワイルドキャットへの対応に追われ、プラットフォームに向かってくる敵は全くおらず、護衛の筈のアルとホシノの興味はワイルドキャットの大立ち回りに向いていた。

 

「す、凄い……」

「うへえ……これは、敵には回したくないねえ」

 

 四脚ロボットが放つロケット弾の雨に果敢に飛び込むワイルドキャット。左右へ前へと瞬間的にブースターを噴かし、攻撃を搔い潜って相手の懐に飛び込む。出迎えるガトリングガンの弾幕も、ワイルドキャットの移動速度に四脚ロボットの旋回速度が追い付いていない。直後に跳躍、まだ生き残って散発的に攻撃していた歩兵をマルチロックしたミサイルが纏めて吹き飛ばす。着地はせずにふわふわと飛んで上を取り、返す刀でアサルトライフルとガトリングキャノンでのトップアタック、再装填の済んだミサイル四発で追い打ち。

 

破壊……

 

 直後、列車が炎に包まれた。スクラップになった列車を背にして、他の三人も観戦に加わる――この程度なら彼女達なら朝飯前だ。それにやや遅れて、姿勢制御システムが負荷限界(スタッガー)に達したらしい四脚ロボットがガクンと姿勢を崩した。ワイルドキャットはすかさず接近し、左前腕の機械を横向きに構える。カバーが開き、青白い光が鉤爪状に収束した刹那、

 

「“レーザーブレード……!?”」

 

 円弧を描いて振るわれた巨大な光の刃が、四脚ロボットの装甲を易々と切り裂いた。残心、爆発。黒煙を上げて沈黙する敵機を、ワイルドキャットの緑のカメラアイが無機質に見つめ、次いでアル達の方に振り向いた。

 手薄だったとはいえ補給基地の防衛戦力を赤子の手を捻るが如く捩じ伏せ、自身は大したダメージも負っていない。この襲撃計画も、依頼が受理されなければ単独でやり遂げていたかもしれない。列車の破壊という点では仕事は終わったが、これだけの戦闘能力を持ちながらシャーレに助けを求めなければいけない依頼主に、先生は猛烈な危機感を覚えていた。それは依頼主の状態と――

 

俺を……してくれ……!

 

 連れて来た生徒達の安全。

 

「“避けて!!”」

 

 四方に逃げるアル達のいた場所に、ミサイルが着弾した。

 

「なあっ!? 何よ、こっちは味方でしょ?!」

「大丈夫ですかアル様?!」

「あっれー、おじさんフラグ立ててた?」

「騙して悪いが、ってこと……?!」

「あっはは、私達とも遊びたくなっちゃったんでしょ!」

 

 これではっきりした。依頼主は死に場所を求めている。自分を殺させて苦しみから解放される為に、他者を殺すことを厭わない、ある種の拡大自殺だ。銃で多少撃たれた程度では死なないキヴォトス人を戦闘行為で殺害するとなれば、相当な苦痛の伴う死となるだろう。つまりは依頼主の受けてきた‘手術’が、それを遥かに上回る苦痛に満ちていたであろうことは想像に難くなかった。

 

「“――だとしても、私は生徒に未来を諦めて欲しくない”」

 

 まずは生かすも殺すも、依頼主を止めないことには始まらない。先生は先の戦闘で見せた動きから、()()()()()()()()()倒す方法を模索し始めた。

 

 

 

 

 

 ジャンプを織り交ぜたブースト移動、圧をかけ続ける為に垂れ流されるアサルトライフル。FCS(火器管制システム)の虚を突く為の常套手段は、この場に於いては有効ではなかった。ワンパターンな動きはすぐにスナイパーライフルに狙い打たれ、緩急を付けた機動で攻撃を躱される。

 ロックオンシステムをマニュアルエイムに切り替え、クイックブーストの使用回数を増やす。処理すべき情報量の増えた脳が焼け付くような痛みを訴え、Gの断続的負荷が内臓を揺さぶる。それでも尚、届かない。

 ハンドガン持ちと盾持ち以外の四人にミサイル。歩哨のオートマタの残骸を遮蔽に防がれる。

 盾持ちに急接近、レーザーブレード。防ぐでもなくしゃがんで避けられ、脚部に散弾を食らう。

 後方にクイックブースト。移動先に爆弾。

 爆弾持ちにガトリング。背を向けた瞬間他の全員から斉射される。

 ACS(姿勢制御システム)負荷限界。コアエネルギー解放、パルス爆発(アサルトアーマー)。命中ゼロ。

 AP(装甲の耐久力を示す値)はみるみるうちに減っていくのに、こちらは相手に一度たりとも痛打を与えることができない。一人一人の練度もそうだが、後方でタブレット片手に指示を出す大人の存在が大きかった。試しに向けたアサルトライフルは瞬時に蹴り上げられ、狙いなど付けようもない。

 

「……これは……」

 

 AP残り十パーセント。ACS負荷限界。

 彼女は敗北を確信した。ショットガンの一撃が、機体を大きく後方に吹き飛ばす。

 射出機構のオミットされたコアブロックが、耳障りな音を立てて無理やり開かれた。

 

「これで……解放……される……」

 

 結局これが自分の最期だ。先生に任せてよかった。

 

 

 

 

 

 ホシノの手で抉じ開けられたコックピットの中を見て、全員が言葉を失った。

 

「な……」

「そんな……」

「嘘……」

「こんな……こんなことって……」

「……酷い」

 

 外から見た時点で違和感はあった。胴体の大きさからして、人が乗るスペースが小さ過ぎるのではないかと。そこには確かに依頼主なのであろう少女が乗っていた――否、()()()()()()()

 

「“……!!”」

 

 彼女には手足がなかった。元々手足のあった部位には接続ソケットが設けられ、何本もの太いケーブルが周囲の機器に向けて伸びていた。首の後ろには座席と天井からのケーブルが突き刺さっていた。背中から生えたボロボロの翼は拘束具で固定され、左右対称になるように電極を貼り付けられていた。胃瘻と思われるチューブが、粗悪なバンパーに差されて何かを送り込んでいた。そしてその腹部は、まるで妊婦のように膨れ上がっていた。

 これが‘手術’の結果だと? 先生の中に、久しく感じていなかった激しい怒りが湧き上がった。「人間でなくなってしまった」というのはこのことだったのだ。耐え難い苦痛の末に人間を兵器の部品に変えてしまう、人を人とも思わない鬼畜の所業。

 

「これで……解放……される……」

 

 初めて聞いた依頼主の肉声は、掠れてこそいたが、決して不気味などではなかった。しかしその声は、絶望の中に救いという名の終わりを見つけたような、聞くに堪えない安らかさを帯びていた。

 違うのだ。そんなことに救いを見出すべきではない。生きることを、幸せを諦めるな。その励ましと説諭の言葉が、どうしても出てこなかった。今の彼女に大人の自分が何を言っても、何の慰めにもならないだろうことを痛感してしまったからだ。先生は無力感に打ちひしがれ、直視に堪えぬ生徒の惨状を前に顔さえ上げられなかった。

 

「……よし」

 

 その時、先生のすぐ隣に立っていたアルが、深呼吸の末に一歩歩み出た。彼女はコックピットに据え付けられた少女を数秒見つめると、素早く得物をリロードして前方に構える。

 

「“?! アル、待っ――”」

 

 制止も聞かず、五発連射。弾は全て座面を貫通したに過ぎなかった。

 

「……今のであなたは死んだわ。昨日までのあなたはね」

 

 先生はやっとアルの意図を理解し、己を恥じた。ここは彼女に任せるべきだろう。最終的な責任は、大人である自分が取ればいい。

 

「いいこと? あなたは私達の課した試験に合格した。今日からあなたは便利屋68の社員よ。私は社長として、全力で社員を守る義務がある。あなたの過去に、未来に何があろうとも。その代わりに、社長としての権限で貴女に命令するわ」

 

 アルは少女の肩にそっと手を置いて、力強く告げた。

 

「――生き抜きなさい。あなたは、ここで終わるような女じゃないわ」

「あ、ああ……ああああ……!!」

 

 少女の目が見開かれ、幾つもの大粒の涙が溢れ出た。

 先生もまた一粒涙を零すと、すぐにそれを拭ってミレニアムはエンジニア部に電話をかけた。




いらないわよねえ人の心なんか。それで書けるっていうんならさあ!!

やっぱりブルアカアニメくらいは見るべきかな?
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