「台湾有事」を起こさないために 知るべき中国と台湾の複雑な経緯
高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる発言が議論を呼んでいます。そもそも中国と台湾をめぐる現代史には、米国などの関わり方を含め非常に複雑な経緯があり、台湾統一を目指す中国の立場表明にも変化がみられます。中台関係を研究してきた福田円さんに、これまでの流れを解説してもらいました。
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第2次大戦終結時、日本は連合国に従い、日清戦争後に統治した台湾について、中国に返すことを受け入れました。その中国は間もなく内戦を経て、中華民国と中華人民共和国に分かれ、対日講和では台湾の帰属が決まらなかった。西側諸国は台湾に移った中華民国を承認しました。
1970年代になると、中華人民共和国を承認する国が増えますが、台湾が中国の一部かどうかは多くの国が一定程度認めつつも、立場を留保しました。
その後、前提が変わります。一つは国際環境。中国はソ連に対抗して日米などに接近し、立場の違いに目をつぶった。これは冷戦が終わるとなくなります。
もう一つは台湾。かつては国民党の一党体制で、自身が正統中国だと主張し、中国と同じ土俵にいた。だが台湾は民主化し、自分たちは中国ではなく台湾だと主張し始めました。
三つ目は中国自身です。台湾問題は交渉で解決すると言っていた。国力がつくと、その平和統一政策を維持するかどうかがわからなくなっています。
中国は、自身が唯一の合法政府で台湾は自国の一部だと言い続けていますが、「一つの中国」原則を守れという言い方は1980年代末からです。その後、中国は二つの白書を出し、日本も米国も原則を認めていると主張しました。
ところが、国力をつけた中国が台湾を威圧し始めると、日米などは「台湾海峡の平和と安定」や台湾の国際機関への参加を主張するようになります。一方、2022年の白書で中国は「一つの中国」原則が国連で守られていると強調します。常任理事国である国連で台湾は中国の一省と扱われていると。国際社会の認知を変えたいのでしょう。
今の中国が実際にできることは限られているのではないでしょうか。台湾侵攻のハードルは高く、台湾企業を引きつける経済の魅力も低下した。国際社会から厳しい目で見られているとの認識もあるでしょう。
日本にとって重要なのは戦争が起きないようにすることです。中国を追い込むのも、日本が何もしないと発信するのもよくない。
中国には思い込みがあるように思います。高市首相は親台湾派で頼清徳(ライチントー)政権とつながっていると。台湾社会では台湾を守るため自衛隊が出ることへの期待もあり、それが中国を刺激している面もある。誤解を解き、時間をかけて関係を修復するしかないでしょう。
福田円さん
ふくだ・まどか 1980年生まれ。専門は東アジア国際政治、中台関係史。主な著書に「中国外交と台湾―『一つの中国』原則の起源」など。
1972年 日中共同声明(台湾に関する記述部分)
中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
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