柔軟剤の香りで救急搬送・一時は危険な状態に、小5で発症した「化学物質過敏症」…コロナ対策の消毒原因か?絶たれた学校生活と今抱く夢
「どこにも安心して行けない。友達にも会えない」。小学校の卒業式は、屋外で卒業証書を受け取った。周囲から「学校は行った方がいいよ」「将来はどうするの」と、何げなくかけられる言葉にも傷ついた。
中学進学を機に、和歌山県高野町の山間にある富貴地区に引っ越した。「自然の中で暮らせば良くなる」と期待したが、夏に除草剤の影響で発作が出た。結局、登校できない日が多く、「なんで私だけ、こんな思いをするんだろう」と落ち込んだ。
そんな中でも、徐々に日常生活で楽しみを見つけることができた。学校に行けなくなったのを機に洋菓子作りに夢中になり、小学6年から直売市などに出店。海外の貧しい子どもたちに食事を提供する社会活動家のトーク会に参加し、中学1年時には会で自身の経験を伝えた。インスタグラムでも、香害の苦しみや日常の楽しみを発信している。
食べ物に気を使い、規則正しい生活を心がけ、香りを感じそうな時はマスクを着けるなどの工夫をし、時々は外出できることも分かってきた。
昨年、中学生が日頃の考えや思いを訴える「少年メッセージ2024」に出場。「みんなが知れば必ず変わる」とのタイトルで、「この病気を理解してもらうだけで変わることもある。どんな社会問題でも一人では解決できません。だからこそ、発信し続けたい」と、原稿用紙4枚半に思いをつづった。応募された8962作品の中から予選会を経て、夏の和歌山県大会で壇上から力強く訴え、最優秀賞に選ばれた。
11月21日に開かれた五條小での講演は、同小の教員が3月に笑子さんの話を聞き、子どもたちに聞かせたいと思い依頼した。笑子さんは、子どもたちをまっすぐ見つめて、こう締めくくった。「発症してつらいことがたくさんあったけど、なってなかったら、今日みなさんに会うこともなかった。今の私が伝えられることを、これからも全力で伝え続けます」
中学を卒業した今年春から高校には通っていないが、お菓子の販売は封印して、高卒認定試験の受験勉強に励んでいる。「医者になる」という新たな夢ができたからだ。今後も体調に合わせながら、講演や発信を続けていくつもりだ。
◆化学物質過敏症=空気中の微量な化学物質に反応して、皮膚炎、頭痛、疲労感、めまい、吐き気など様々な症状が表れる。人工的な香料による「香害」のほか、塗料や殺虫剤、排ガスなどに含まれる化学物質が原因だが、発症のメカニズムは未解明で、治療法は確立されていない。一見して病気と分からないケースも多く、周囲の理解を得にくいという。