医師派遣の謝礼に「30万円を渡した」 福岡の病院元事務長が証言、過疎地医療の「営業活動」実態
大学病院の医師派遣に頼らなければ地方の医療は成り立たない-。福岡県糸田町立緑ヶ丘病院の事例は医師が都市部に偏在し、過疎地の病院が医師確保のための「営業活動」(医療関係者)に腐心する実態を浮き彫りにした。ただ、大学では若手医師の「医局離れ」が顕在化。過疎地へ送り込むパイプは細りつつある。(中原岳、斉藤幸奈) ■福岡県糸田町の緑ヶ丘病院【写真】 「派遣を受ける大学の医局には年に最低1回は行く。文書や電話では済まされない」。同県田川市立病院(313床)の市病院事業管理者、鴻江(こうのえ)俊治氏は話した。菓子折りなどの手土産も必ず携える。
旧産炭地で過疎が進む田川市。同病院は今年7月時点で94人の医師が在籍するが、半数超の48人は大学の派遣などの非常勤だ。24ある診療科目のうち、呼吸器内科など八つは非常勤しかいない。 地域医療を巡っては2004年以降、国の制度改正で医師の研修先を自由に選ぶ動きが進んだ。若手が医療設備や待遇の良い都会の病院に集中し、偏在が加速。医局に所属する必要性は薄れ、地方に送る機能も低下した。都市部が選ばれやすい構図に拍車がかかる。
■ ■ 九州の複数の公立病院で04年、医師を派遣する複数の大学の教授や医局に商品券などを贈っていたことが発覚した。同様の事態はその後も全国で相次ぎ、北海道の旭川医科大では19年、教授が派遣先から多額の報酬を受け取ったとして懲戒処分を受けた。 「話しにくいことだよね」。九州のある大学の医学部教授は「派遣の謝礼を受け取ったり、受領を見聞きしたことはあるか」との問いに言葉を濁した。「2万円ならお歳暮程度だ」と問題視しない考えを強調。「しゃくし定規に規制したら地域医療は成り立たなくなる」と付け加えた。
「地方の病院から外来だけでも来てほしいと言われるが、依頼がたくさんありすぎて受けられない」。別の教授も厳しい実態を語った。「若手は派遣に行きたがらず、割のいい医師のアルバイトを求人サイトで見つけてくる」。依頼を断り切れず、教授が自ら地方の病院に行くこともある。 「大学の医局に30万円を渡したことがある」と話すのは福岡県内の民間病院の元事務長。外科医を派遣してもらっていた。病院は都市部にあるが「派遣がなければ診察が回らなかった」と振り返った。
■ ■ 偏在解消に向けた取り組みも進む。福岡県は、医学部がある県内4大学に寄付講座を設置。県の基金や派遣先病院の負担金を原資に25~27年度は六つの病院に22人を派遣する。ただ、要望の全てには応えられず、派遣から外れた医療機関からは不満が漏れる。 田川市立病院の鴻江氏は「診療のしがいがある強く大きな病院にすべきだ。そのためにも医療の集約化や再編が求められている」。過疎地でも医師に選ばれる病院をつくる必要性を提言した。
西日本新聞