謎の商人ロールプレイ 作:誰かさん
タンブラーに安物のペットボトルコーヒーと牛乳、そしてガムシロップを入れたものを口に含む。やはりネットサーフィンは楽しい。
彼は基本的にPCでほとんどの事を完結する男だ。ソシャゲはしないわけではないが、あまりしない。課金などもってのほかだ。というかそもそも、ゲーム自体あまりしない男だった。割と止め時が分からなくなって、最終的に面倒くさくなる。
大抵のものは手が届く範囲に配置し、完結させる。そこからはみ出る量は求めない。それが生活を充足させるコツだと彼は信じている。これで不便を感じるようなら、それはきっと求めすぎているから。
物的な事は大抵何でもできる力というのは、本当に想像しうる限り何でもできる力だった。だから高層建築物の最上階に、超高級ホテルもかくやという部屋を作ってそこに住んでみたのだが、だいたい三日で飽きた。ガウンを着てモーニングホットワインなど飲みながら数百メートル下を見下ろしたところで、こんなものかという程度である。金持ちの才能は無いという事なのだろう。
現在住んでいる場所は、だいたい五階くらいに作ったワンルームアパート。独り身で住むなら、こちらの方が遙かに快適だ。
まあ結局、彼に金持ち仕草というのは性に合わないという事なのだろう。
「仕事がクソっていう感想は変わらないけど、それはそれとして、人が生きるにはルーチンって必要だよなあ」
生活サイクルの維持は、まあまあ重要な事だ。人間、一度崩してしまったサイクルは、そう簡単に戻らない。彼は大学生活で、嫌という程痛感していた。夜型人間は後々地獄を見るのである。
あとは、将来を見据えてと言うのもあった。まだ加齢によるダメージを考えるには早いが、備えはしておくべきだろう。体を壊してからでは遅いのだから。スーパー能力でなんとかなりそうな気もするが。
趣味を中心に生きている自由人だからこそ、そういった事はちゃんと心得ておかなければならない。やりたいことしかしてないからこそ、娯楽が睡眠や食事を浸食するのは一瞬だ。
ともあれ、そんないつもの日常。
だが。
「ん?」
ふと、ある違和感に襲われた。
この建物は、ある意味において彼の体とも言っていい。中で起こった事を詳しくは分からずとも、不測の事態が起これば気づける様には設計しているのだ。
なんだかんだ、人(というか精霊)の出入りが激しい施設である。毎日千人近い精霊が出入りしており、主に下層を中心として好き勝手過ごしている。そのため、まあセキュリティくらいは必要だよね、という半ば思いつきで搭載した機能だったが。
重要かと言えば、別にそんなことはない。精霊こそフリーパスであるが、根本的に物理的な出入り口は存在しないのだ。つまり、精霊以外が内部に存在することはない。
少なくともこの瞬間までは、なかった。
「人? どうやって入ったんだろ……」
感覚が正しければ、いきなり人が出現した。どこから入ってきたというのでもなく、本当に唐突に、それこそ発生したとしか表現しようがない。
それほど気にする事ではない……とは思う。精霊ですら、エネルギー発生装置やら居住区画やら、とにかく彼のプライベートな空間には入れないようにしてある。そもそも入ろうと試した者すらいないし。
かと言って、この現象が気にならないと言えば嘘になる。
精霊が人を招いた、という事はないと思う。理由がないし、あったとして実行可能かはまた別問題だ。
考えはした。が、結局どうでもいいことだと結論づける。どうせ理由など判明しないのだし、最悪、居住区画に入られたとしても、説得すればなんとかなるっしょの精神で行くことにした。
「んー……」
とりあえず、今考えるべきはそこではないと、発生した人間に意識を移し。
「どうしよ」
そんな、ひたすら意味の無い益体がない事を呟いた。
瞼を開いて真っ先に思ったのは、これが神が言うところの天界とやらか、というものだった。
視界いっぱいに広がる草原。外と言うには狭く、しかし建物の中と言うには広い場所。遠方には白亜の壁があり、天井から淡白い光が注いでいる。そこら中で子供やら小動物やらが戯れており、端的に(そして陳腐に)『愛』と『純粋さ』を表現しているように見えた。
「ふむ、私は死んだか。いや、そこは疑念の余地がある部分ではないな」
ただでさえ病に疲弊していた体。そのせいで、本懐を遂げることもできずに無念の中で死んだ。
死の瞬間……というかそこより大分前の時点から記憶が曖昧だ。が、まあ死とはそんなものだろうと割り切った。なにしろ死んだのなど初めての経験である。そこに正解がどうとか考えられるほど無意味なことはない。
「ふーむ……」
雰囲気としてはバベルに似ているな、という感想を持った。
おかしな事ではない。バベルは神々が音頭を取って建設したものであり、つまり彼らにとっての知己。それを地上で再現しようと言うのは、とくに違和感がある話でもない。どちらが似ているかという話なら、それこそバベルが似せて作られたのだろう。
問題は、ここからどうするべきかという事だ。
ここが天界ならどこかに神がいて、魂を管理する者もいる筈だ。自分がこれからどうなるにしろ、まずはそいつと会わなければ話にならない。理屈の上ではそうなのだが。
「見事に誰もおらんな」
いやまあ、いるにはいるのだが。質問してもまともな答えが返ってこなさそうな幼児と小動物ばかり。少なくとも彼女の周囲には、受け答えができそうな相手はいなかった。今も何がおもしろいのか、彼女の周囲を走り回ってきゃっきゃ言っている。
「うーむ……」
再度悩む。
ここが天界の
ざっくり、一定人数の集合もしくは一定時間の経過で迎えが来るという所だろうか。問題は……自分がかなり最初の方で現れてしまったのではないかという点だ。
「どれだけ待たされるのだろうか……」
人手不足だと言うならば、こういった手間こそギリギリまで切り詰めるだろう。
その、何というか。こんな何もない場所で時間を潰せと言われるのは、非常にしんどい。
「思ってみれば、こういった余暇の潰し方は知らなかったな」
生前はかなり忙しなく生きてきたし、実際生き急いでいたとも思う。
ただのんびり過ごすというだけならばともかく、そこに目的もなくだとか、明確な終わりもなくとなれば話は別だ。有り体に言って持て余す。
「あの壁はぶち抜けるか? いや、うーむ、やらんが」
できたとして、大目玉を食らうだろう。天界の神はまさに全知全能だと言うし、許してくれるかも知れない。いや、無理か。深く考えずとも、怒らない理由がない。
「おねーちゃ、どしたのー?」
「げんきない? げんきだして」
「ワフ?」
「ああ大丈夫。少し考え事をしていただけだ」
わらわらと、こちらを心配してやってきた小さい生き物を雑に撫でる。見た目が可愛いだけではなく、初対面の人間を心配できるなんて完璧かよ。思わずうなった。
暫く思うさま愛でた後、ひとまず壁に向かっていく。
遠目からははっきりと分からなかったが、この建物は円形をしているらしい。こんな所までバベルに似ている。
そっと壁に触れてみた。指先から感じられる壁面の感触は、一切の違和感を感じないところが違和感だった。ほんの僅かなざらつき、壁を形成する際の僅かな出っ張りやへこみすらも感じられない。完全な平面。まっさらな高級紙でも、もうちょっと感触があった。
地味ではあるが、こういったところがまさに神の建造物だと感じさせる。人間では、どれだけコンクリートを均してもこうはならない。
ひとしきり満足するまで触れた後、振り返ってみた。気にはなっていたのだ。幼児達は、壁をすり抜けて移動している。
どうもこの壁(本当に壁かは定かではないが)、死者以外は通すらしい。何だったか……こういう子たちを天使と言うのだったか。ちょっと違うかも知れない。どうでもいいか。
幼児達は間違いなく物的に存在しており、それは彼女が触れられた事からも分かる。同じ理屈で、壁も完膚なきまでに物質そのものだ。しかし幼児達と壁は、必ずしもその関係を守っていない。通ろうと思えば通れる。
「これは一体どういう理屈だ?」
幼児達に心配させないよう、あまり深刻になりすぎず悩んだ。
この子達が好きに通過できるのなら、死者だって別に通れてもよさそうなものだが。
自分のような存在を閉じ込めておく理由があると思いたいものの、神の事だから「散られると面倒くさい」程度の可能性もある。
とりあえずと、その場で軽く跳ねてみた。幼児達が真似してほっこりしかけるが、なんとか意識は逸らさずに務める。
分かっていたが、別に飛べる訳ではない。幼児達が当然のように浮いており、しかも天井をすり抜けて上まで行っているものだからもしかして、と考えた。まあ、そこまで上手い話はないだろう。
「ふむ……」
常識の上ではおとなしく待っているべきだろう。しかし、彼女は思った。こんな場所で下手したら数ヶ月、下手したら数年も無為に待たされるなど冗談ではない。
「確か神は、こんなことを言っていたな」
腰を落とし、軽く握った拳を思い切り引き絞りながら。
「一発だけなら誤射かも知れない」
やられた方はたまったものではない、噴飯物の言い訳だ。しかしまあ。こういった状況に直面したなら、口実としては手軽かつ優秀と認めざるを得ない。
だが、その拳が壁に触れることはなかった。放たれる前に、壁が避けていったのだ。
本当にそう表現するしかない。楕円形、人が通れる程度の広さに、ぽっかりと穴が開く。
「なんだ、簡単ではないか」
内部に人が残っていなかった理由はこれかな、と考える。触れるか近づくかして一定時間待つと開く、恐らくそんなところ。
同時に事実は、自分が非常に短気だという事も表していたが、そこからは目をそらした。事実だからと言って、何でもかんでも正面から受け止めなければならない訳ではない。時には見て見ぬ振りをする必要もある。
外に出て行ったが、実のところ、室内からさほど景色が代わり映えした訳ではない。近くには花畑があり、その向こう側には草原、さらに遠方は森だ。
「天界というのも、案外卑近なものなのだな」
現実はこんなものだと思っていても、期待していなかったと言えば嘘になる。まあ、事実が妄想以下だったとしても責められるものではない。落胆を振り払って、気分を入れ替える。
が……その考えが間違いだとすぐに理解した。
彼女に視線が集まる――つまり、外には人が居た。ダークエルフが数人。
やっと気がつく。ここは天界などではなく、未だ現世だと。
「ヒューマン!? なぜここに……い、いや……ヒューマン? 精霊様?」
近くに居たダークエルフの男が、一瞬敵対的な視線を送ってきたが。すぐ瞳の色は困惑に変わる。
わらわらと他のダークエルフも集まってきたが、似たような様子だった。下手にこちらへは寄ってこず、遠巻きに狼狽する。
「ふむ」
彼女は、顎に手を当てて小さく呟いた。
他者から姿も見えている。これで、幽霊としてただ揺蕩っているという可能性もなくなった。安堵すべき要素ではあるのだろうが、また別の疑問が浮かぶ。つまり、なぜ自分は生き返ったのか。
体の調子を試してみても、特におかしな所は感じられない。恩恵がなくなっていたり、病の気配を感じられなかったりは、死んだからだと思っていたが。もしかしたら別の要因があるのだろうか。
ダークエルフは暫く密談をした後、代表らしき一人が近寄ってくる。
「その……あなた様は人間ですか? それとも精霊ですか?」
「自認としては人間なのだがな……いまいち確信が持てない。私は死んだはずだ」
うーんと首をひねると、相手も似たような様子を見せる。お互い、まるで状況が分かっていなかった。
「というか、なぜ私を精霊と間違えた?」
「自覚がないのですか?」
「何がだ?」
「あなた様から強い精霊の気配がします」
「……なんだと?」
「それも、精霊の血を継いでいるという程度のものではありません。あくまで
ますます意味が分からない。死んだ後、半精霊――他に表現のしようがないので仮にこう言うが――として生き返るなどということがあるのだろうか。聞いたことがないし、そんな例があるなら神が語らないはずもない。なにせこんなものは、彼らが求める下界の可能性そのものなのだ。
「私も伺わせていただきたいのですが……」
「あー、待て。とりあえず私は精霊ではない。そんなにかしこまって話されては、むしろ居心地が悪い。普通に接してくれないか」
「……分かった。ではそうする。あなたは、我々の見間違いでなければ『白い牙』から出てきたようだが。それについて説明を貰っていいだろうか」
「まず『白い牙』とやらが何か分からん。まずはそこから説明を頼む」
「それだ」
言いながらダークエルフが指したのは、彼女の背後、バベルもどきだ。
「ああ、私はそこから出てきた。といっても、話せるような事はない。私自身、事情が何も分かっていないのだ。死んだ後、急に目覚めたと思ったら、あの中に居た。最初はあの中が天界かと勘違いしていたくらいでな。どうしたものかと考えていたら急に穴が開いて、後はあなた達の見たとおりだ」
「……なるほど。精霊の神秘としか言い様がない訳か」
なんかもう、世界の理不尽とか不条理とか、そういったものを感じなくもないが。恩恵にあずかっている以上、文句をつけられるものでもない。
ともあれ、この状況はダークエルフにとっても初めての事らしかった。
「そもそも『白い牙』とは何なのだ?」
「……分からない。ある日突然――本当にそうとしか言い様がなく出現した。作られたんじゃあない。本当に、一晩の内に『白い牙』がそびえていた。我々も驚いたよ。こちらの方を見たら、昨日までなかった建物があるんだからな」
「神の仕業か?」
「分からない。そうでもなければ説明できない事ではあるが、何にしろ本当に、誰一人として目撃者がいないのだ。それに……」
言葉は続けられなかったが、言いたいことは分かった。たとえ神が地上で
いかに神が全知全能と言っても、得手不得手は存在する。誰かができて、誰かができないという事は存在するのだ。正直、その時点で全知全能ではないと思うのだが、それはさておき。
一体どんな神ならこんな真似ができるのだろう。それも、地上に居続ける為の禁則を犯して、天界へ強制送還されるリスクを負ってまで。
「神にしかできない、とは思っているが……。正直我々は、『白い牙』は世界が精霊様のために用意したのではないかと思っている」
「世界がか」
それはまたご大層で、理想偏重過ぎる考え方だ。
などと思っていたのは見透かされていたのだろう。ダークエルフは怒りもせずに苦笑して続けた。
「分かってはいるよ。精霊信仰に偏りすぎた考え方だとはな。しかし事実として、『白い牙』の周囲では、精霊様の力は恒久的に増幅され、実体化し続けられる。生き返った――という表現が正しいかは分からないが、あなたみたいにおこぼれに預かる存在がいるとしても、一番利益があるのは依然精霊様だ。神が精霊様の為にここまでするかと考えると……」
「しないだろうな」
そこにははっきりと同意する。
神はいかにも享楽的かつ刹那的。善神と言われる神であってもそれは変わらない。あるのは程度の違いだけ。つまり、もし精霊のために何かしようという神がいたとしても、こんな塔を建てるのは迂遠すぎるのだ。
「つまり、ここはそういった不可侵の場所なんだ。最初、あなたに強く当たってしまったのもそれが理由でね」
彼は苦々しく笑いながら、言いづらそうにして、しかしそれでも続けた。
「何年か前に戦争があった。『白い牙』が精霊様に祝福をもたらし、その力をささやかながら借りられる事が隣国に知れてな。ここを占拠するために軍を挙げて、俺たちと対決する事になった」
「それはまあ、愚かなことをしたものだな。相手に同情するよ」
ダークエルフは、世界でも屈指の戦闘民族だ。歴史的に、「死んでも生き返って殺せ」みたいな奴が揃っている。
どこの馬鹿国家が仕掛けたかは知らないが、終わった後、さぞや顔を青ざめさせただろう。少数民族と侮っていたら、里を空にする勢いで攻め込んできたのだろうから。
「しかしおかしな話だな。そんな戦争、聞いたことがない」
『白い牙』だけであれば、情報の伝達がまだだったという事もあるだろう。しかし戦争となれば話は別だ。
病と戦争の情報は、他の噂と比べて伝達速度が桁違いである。この二つは死亡率が段違いに高い。概ね誰もが求める情報であり――ということは、真っ先に伝わるものでもあった。ましてや重要な情報なら、その精度だって高くなる。
これを知らなかったというのは、違和感しかない。
「少なくともこの辺じゃ有名な話だぞ。どんな僻地に住んでたんだ」
「別にド田舎という訳でもなかったのだがな……」
死んだ場所は適当にぼやかす。死に方など詮索されても困るし、相手も聞いて気分がいい話ではなかろう。後はシンプルに、説明が面倒くさい。
それからも暫く、細々とした雑談を続ける。概ね聞きたいことを聞いた後に分かったのは、これ以上話していても発展性はないという事だった。彼女の身に降りかかっている状況は、あまりにも謎が多すぎる。
ダークエルフは一般的なエルフと違って、大分気がいい連中だった。まあこれに関してはエルフが頭おかしいし、精霊の体になったことも大いに影響しているだろうが。
とりあえず一晩泊めさせてもらい、何日か分の食料を分けて貰って、次の日には立ち去ることにした。元とはいえ人間が長居してもいい気はするまい。居座ったところで、お互いに悪影響だ。
出がけが、まだ太陽が昇りかける頃だった事もあり、見送りは少なかった。その中の一人――昨日話した男が、代表して前に進む。昨日一日で分かったことだが、彼は里の中でもそれなりの立場にいる。
「もう少しゆっくりしていけばいいだろうに」
「急ですまないな。余計な波風は立てるまいと、これでも気を遣ったのだ」
ずいぶんと世話になってしまったという自覚はある。これ以上手を煩わせるのは、さすがに忍びない。
「借りを返せそうになったらまた来る」
「そんなことを考える必要はないのだがな。義理堅いことだ」
彼の苦笑には肩をすくめて。
別段別れを惜しむような仲でもなし、とっとと立ち去ろうとする。
「最後に一つ。あなたの名前を聞いてもいいか?」
「なんだ、そんなことか」
些か拍子抜けな問いに、彼女は軽い調子で答えた。
「アルフィアだ」
完治した体と共に人生のやり直しを突きつけられたアルフィアは、今更オラリオへ戻る気にもなれず、世界を旅してみた。
恩恵なしで世界を見て回るのは辛いかと思ったが、そんなこともなく。健康な体と、精霊の肉体故か強化された魔法は、快適な旅を提供してくれた。
世界をふらつくうちに気付いたのは、どうやら自分が死んで結構な年月が経過しているらしいという事。ダークエルフの里で戦争が起こったのも死後の話であり、知らないのも然もありなんとなる。死から復活まで時間がかかったというのは、少々想定外だった。
そうしているうちに、ある痕跡を見つける。いつの間にか見失っていた神ゼウスの足跡と、妹の忘れ形見。余生を甥っ子と過ごすのもいいか、そう考えて、旅は切り上げて甥の捜索を開始する。
ゼウスは案外簡単に見つかった。へんぴな所に住んでいただけで、痕跡そのものは熱心に消していた訳ではなかったからだろう。
顔を出した時はずいぶんと驚かれたものだ。気持ちはよく分かる。体が精霊として再構築され生き返った事を語ったら、アホみたいな顔で固まっていたのは面白かった。
そして、こちらこそ本題と言える妹の息子、ベル・クラネルについて。世間から隔絶されていた影響もあって、かなり純粋(控えめな表現)な子である。ただ純粋すぎてアホに見える事は多々あった。ハーレムを目指すとか言った時は思わずぶん殴ったし、唆したのがゼウスだと知ったときは、そっちもボコボコにした。
今はまだ無邪気な蕾。英雄という存在に無垢な願望を持てる程に。
止めるのは簡単だ。しかし本気で目指すのならば、せめてその時が来るまで下地を作る。それが、アルフィアがすべき事であり、生きる意味だと思った。
かくして彼女は、近所のお姉さん(決して叔母さんではない)として、ベルを見守ることになった。
なお、これは完全な余談だが。その日から、ベル・クラネルの地獄の日々は始まった。