東京都立呪術高等専門学校二年転校生早川那由多   作:同じ顔の別人

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天使②

 

 

 

【side:天使の呪霊】

 

 

 

 

 はねが ふる

 

 ひかりが ふる

 

 

 

 

 

「――Domain Expansion

 

 ■■■, ■■■, lema sabachthani

 Amen」

 

 

 

 

 

 懐かしい砂浜で、僕は再び目を開ける。

 

 

「……こんな景色だったんだ」

 

 

 使ったのは、生まれて初めてだった。今の僕が生まれる前を勘定に入れても、初めてかもしれない。

 ベースは生得領域なのだ。どういう世界かは知っていたけれど、こうして物理的な形を伴って現れると、改めて寂しい気持ちになった。だが思い出に浸っている時間はない。

 

 背後で白髪の彼がバランスを崩しよろける。倒れまいと踏ん張る足で砂が擦れる音がした。

 きっと一度に寿命を奪われ過ぎたからだ。自分で選んだ行為の結果なのに、息が詰まるような思いがする。

 

 ■■■, ■■■, lema sabachthani

 呪力により具現化された領域は、必殺の術式を()()必殺の術式へ昇華する。彼は僕に触られないようにするバリアのような力を持っていたけれど、ここにいる限りは意味をなさないのだ。

 人間は僕に数十秒手を触れられただけで数ヶ月の時間を失う。そして今の彼は全身を抱きしめられているようなものだ。

 

 

「ごめんね……」

 

 

 本当は、君たちの命を少したりとも奪いたくない。

 けれど、僕はどんなに頑張っても自分自身の術式をオフにすることができなかった。

 人の世で時たま生まれる稀有な縛り。花御は、呪霊でこれを持つ者を見たのは初めてですと前おきをした上で、どういうものなのかを教えてくれた。

 

 ――天与呪縛。

 自らが自らに課す通常の縛りとは異なる、生まれながらに肉体に強制された縛り。

 

 たとえば呪力の代わりに凄まじい身体能力を。

 たとえば肉体の自由の代わりに莫大な呪力量を。

 そして、自らの意思で術式をオフにできない代わりに、寿命から寿命武器への圧倒的な変換効率を。

 

 五年で二級呪具、十年で一級呪具、百年で特級呪具相当。

 ただの非術師の命からよくこれほどのものをと、漏瑚が珍しくはしゃいでいたのを思い出す。彼には呪物を集める趣味があった。勘弁してほしい。ほんと、いい迷惑だ。

 

 僕は、自分の力が嫌いだった。

 誰かと抱きしめ合うことも躊躇われる身体。そして、どうなるか知っていてなお迷わず抱きしめてくれる人間がこの世には存在するのだという確信。

 己の手の中にある寿命武器は、そんな人たちの命に一方的に身勝手に値段をつけてしまう。

 

 領域内に存在する僕以外の命は四つ。そのうち一つにのみ狙いを定めて、術式の出力を最大にする。ゼロにすることは出来なくても、上げることならいくらでも出来るのだ。

 

 

(死んでいるのに死んでいない。吸い上げてもどこかのタイミングで、ぐるぐると同じ場所を繰り返してる……?)

 

 

 他の三人を領域の外に弾き飛ばすこともできた。だが領域は閉じ込めることに特化した術。内からの攻撃に強くすればするほど、外からの攻撃に弱くなる。

 彼らは、侵入してくるだろう。きっとそういう人たちだ。だから巻き込まざるを得ない。

 それでも、どんどん吸い上げられていく命の時間を見ていることに耐えられず、寿命武器をもう一つ生み出す覚悟を決めた。

 

 

 ……できるだけ、早く片付けてみせる。

 だから、もう少しだけ待っていて。全部終わったら、僕をどうしたって構わない。

 

 

 いつもは天使の輪から生み出される僕の武器が、遠く離れた場所に現れる。そのまま■■■(支配の呪霊)の肉体に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

【side:夏油傑】

 

 

 天使の呪霊の領域は、命の終わりを告げる。

 五条悟、夏油傑、家入硝子、早川那由多の四人は、この世に存在できる限界時間――寿命が削られていく感覚を知った。

 

 凪いだ海。白い砂浜。そして、穏やかな世界に付与された殺意に塗れた術式。

 皿の上に載せられた料理の気分だ。今自分が生きていられるのは、あのクソ呪霊の眼中に入っていないからにすぎない。那由多に仕掛けられた寿命を奪い取る術式の余波だけで、傑の指先は震えていた。

 さらに面倒なのが――

 

 

「――、――!」

(何も聞こえない……!)

 

 

 今までにこの呪霊が吸い上げた寿命が可視化されたのだろうか。領域に点在する無数の式神が歌う聞き覚えのある賛美歌に邪魔されて、仲間の声が届かない。連携が、取れない。

 

 

(どうする……?)

 

 

 他人に声を張り付けることができる呪霊はそこまで珍しいものではない。だが今の夏油の手持ちには不在だ。この間の特級呪霊との戦闘での損害は大きすぎた。

 

 死なない程度に手加減した攻撃を繰り返し歌を歌う式神たち。まずはあれを片付けなければ話にならない。

 傑は指先に傷をつける。最良の手段とは思えない。だがそれ以外の方法が思いつかなかった。迷う時間すら惜しい。ここ最近のあらゆる悩みの原因たるそいつを呼び出した。

 

 

(呪霊操術──()()()()!)

【ん〜〜嫌じゃ】

(牛の血をやっただろうが!)

【そんなのワシは飲んでない。そうじゃのお……生きた呪術師の血を、丸ごと一人分飲み干したいのぉ!】

(……っ! 次までに用意してやる! だから命令を聞けッ!)

 

 

 夏油傑の呪霊操術は、取り込んだ呪霊を問答無用で制御下に置く――はずだった。だが血の呪霊は支配に極めて強い耐性を持っていた。特級呪霊だからではない。こいつだけが持つ性質。いや、これを耐性と呼んでいいのかは分からないが。

 縛りを結んでも、結んだ端から記憶を歪めて無効化していく。「そんな約束してない」――こいつは一切の罪悪感なく自身の虚偽こそが真実であると確信するのだ。どういう性格の歪み方をしているんだ。魂の根底から捏造された主張は、呪術の在り方そのものを冒涜する。

 

 ――無知は首輪に? 力は柵に? 罪責と敬愛と恋慕は都合良く動かすための手綱になる?

 

 本当にそうだったらどれだけ楽か。旅行前に那由多が語った戯言を傑は鼻で笑う。支配の呪霊でも、こいつの支配は苦労するに違いない。

 

 天使の呪霊の血液を直接操作できれば手っ取り早いのだ。だが、こいつの使役は常に呪力量で捩じ伏せる直接勝負(綱引き)。下手に力を与えすぎると、叛逆を起こされとんでもないことになる。

 故に鬼札。夏油傑の呪術師としての力量が、ダイレクトに反映される最低最悪の計測器。慎重に見極めて、血の呪霊にその力を振るわせる。

 

 

【イエーーーーイ!!!! ガハハハハハ! 無力な人間が惨めに足掻く様は見ていて飽きんのお!】

(黙って働け!)

 

 

 硝子が地上から手を振り合図しているのが見える。

 傑の血が重力に逆らい、浮かび上がる。意思疎通のために空中に言葉を刻んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:五条悟】

 

 

 温度の感覚が薄れていく。肉体が軋む。頭が痛い。激しい眠気と、なのに眠れないという苦痛。

 何より悟に動揺を与えたのは、目が霞んだことだった。

 五条悟はうん百年ぶりの無下限術式と六眼の抱き合わせ。精密な操作が求められる無下限術式の圧倒的性能は、呪力の流れを捉えるこの瞳があってこそ。凡夫がいくら望んでも手に入らない天賦の才能。――それが、バグっている。

 

 ゲームで例えるなら、デバフ効果。寿命の急激な減少が、肉体に想定外の負荷をかけていた。

 

 悟を無視して移動する呪霊も、周囲を取り巻く式神も、全てが鬱陶しい。だが六眼の補助が不十分な状態で下手に無下限を振るうとどうなるか、少し予想がつかなかった。

 

 

(さて、どうすっかな……ん?)

 

 

 砂浜に赤い血で文字が刻まれる。ようやく、音がまるで聞こえなくなっていることに気づく。この領域の副次効果だろうか。その対策に使う呪霊がこれとは少々贅沢すぎだ。

 

 

『クズども こっちに来い by 硝子』

 

 

 あくまで術者は傑である。アフレコをしている姿を想像して笑った。

 上空から当人が呪霊に乗ってやってくる。悟を拾い、そのまま硝子の方へ連れて行った。

 

 

 

 

 

 那由多の腹に呪具が刺さっている。それを一度引き抜いて追撃を仕掛けようとする呪霊に後ろから蹴りかかった。

 天使の呪霊は前につんのめって吹き飛んだが、大したダメージは入っていない。領域展開にはそもそもバフ効果がある。さっきまでは効果があった攻撃も、今の状態ではかなり軽減されるだろう。

 

 背後の硝子が悟に手を伸ばしてきた。彼女を無下限の指定から外しそのまま触らせると、じわりと正の力が流れ込む。反転術式だ。

 

 

(いいね、かなり楽になった)

 

 

 ただ一人、反転術式の使い手たる家入硝子だけが急激な寿命減少の副作用から逃れていた。術式反転『赫』に成功した悟だが、細かな治療となると流石に硝子に一日の長がある。硝子が悟と那由多と傑の肌に触れ、まとめて反転術式の影響下に置いた。四人同時に治すなど無茶なマネをする。だが無理矢理に不調を誤魔化しているだけで、寿命そのものが奪われていないわけではない。対症療法に過ぎないのだ。

 

 出来るだけ早く倒さなければならない。

 

 

「――! ――――、――!」

【――! …………! ガハハハハハハ!!!!!】

「おお、絶景だな」

 

 

 傑の呪霊が解き放たれ式神を喰らっていく。そして、()()()()()()がその隙間を縫って確実に数を削っていく。

 赤血操術『苅祓』――そのもどき。

 血の呪霊の力と悟の提供した情報をもとに再現された大技だ。やや荒いが形にはなっていた。傑の性格を考えるに、本当はもう少し練度を上げてから披露するつもりだったのだろう。こいつは結構見栄っ張りだ。

 操術系の弱点である術師本体の無防備さを、肉弾戦以外の方法で解決できるという意味でも面白い戦術だった。

 

 雑魚が一掃され、道ができる。仕掛けるなら今だ。

 

 

「術式反転『赫』」

 

 

 最高のタイミングで打ち出された術式は、そのまま正面から切り払われた。

 

 

「……やっぱ『赫』ももう警戒されてるか」

「今更だが、あの呪具はどういう効果なんだ?」

「単純に呪力の流れを切って逸らしてる」

「想像以上に脳筋の対処法」

 

 

 術式の起点を対象の近くに指定しなければならない『蒼』と違い、ただ吹っ飛ばすだけの『赫』ならば、不意をつけばあの呪霊にぶつけることはできるだろう。だが、一度大ダメージを与えたせいかかなり警戒されていた。何度か攻撃を仕掛けるが全て弾かれる。 

 出力を上げることは難しい。硝子がそばで治療をしなければ、悟は繊細な操作が求められる無下限術式を最大効率で回せない。硝子がそばで治療をしていると、巻き込む危険性があるので最大効率で回せない。

 ジレンマだった。

 

 

 領域展開。

 呪術の到達点。

 その領域では、無下限の防御さえ突破し、術者の術式は必ず必中(あた)る。

 

 対処法は、相手の呪力切れを狙うか領域から脱出するか。どれもあまり現実的ではない。

 

 

「悟、領域展開出来るようにならない?」

「…………10分」

「あったら出来るんだ?」

「今にも死にそう…ッ! ってこのストレスが、呪力の流れの核心を掴む後押しをしてくれる予感がする……!」

「問題はあれを前に10分も稼ぐ余裕は無いってことかな」

「それな」

 

 

 それでは呪力切れ狙いと対して変わらないと軽口を叩いている間に、また那由多が死んだ。天使の呪霊が生み出す武器が、那由多に必中(あた)った。

 必中効果は、寿命を奪うだけでなく呪具生成にも及んでいる。それを那由多にしか向けない天使の呪霊はいまだに悟たちを舐めている。ムカついた。あれだけボコられたくせに学習しねー奴。もう一度真正面から潰してやりたいところだが、それをするには近くに人が多すぎた。

 

 ……後者の対処法を成しうる五条悟の奥の手。『赫』よりも確実で、周囲を巻き込む破壊。最悪のケースを想定して、その使用を視野に入れる。

 

 

「ねえどうして」

「あぁ!? なんだって!?」

「どうして助けてくれるの?」

「はぁ〜? この状況で聞くことか?」

 

 

 那由多が死ぬ。生き返る。もはや見慣れた光景だが、生首が喋るとなると少し驚く。那由多と命を共有しているチェンソーマンだったかは、ようやく蘇生を始めたようだ。だから死と復活の間でこんな奇妙な光景が生まれている。

 那由多は質問を繰り返す。あの呪霊の狙いは私だけなのに、どうしてとほざく。今更すぎるだろ。

 

 

「友達を助けるのに理由がいるか?」

「迷惑だとか考えているなら、舐めた考えをしたことを謝罪してくれ。私たちは最強なんだ」

「このクズどもと同意見なのは嫌だけど、私も貴女のこと嫌いじゃないのよ」

 

 

 だから、見捨てるなんて選択肢はない。

 

 青いセリフだ。言ってて小っ恥ずかしくなってきた。けれど紛れもない本心だ。

 少しでも照れれば可愛げがあるものを。那由多はいつもの無表情のまま立ち上がり、下腹部を手で抑えて深呼吸をした。

 

 ……首が、繋がっている。

 天使の呪霊が強く警戒して、身構えた。

 

 

「そっか」

「おい、那由多?」

「ちょっと、離れたら反転術式が……」

 

 

 焦る傑と硝子を悟が無言で制止する。

 急速に練り上げられる呪力。全くを同じものを俺たちはついさっき目撃したばかりだ。

 

 

「なら『ナユタ』も友達のために頑張りたい」

 

 

 目の前の天使は特級呪霊。早川那由多も特級呪霊。

 ……冷静に考えれば、こいつにできない道理はないのだ。

 

 

 

「──領域展開」

 

 

 鎖が擦れる音がする。

 

 

 

 

 

   ■■■■ ■■■■■(マキマ)

 

 

 

 

 

 

「――マジかよ」

 

 

 本日二度目の驚愕。ちょっと、安売りしすぎじゃないの?

 

 無数の貌の無い人影が現れる。不完全で不恰好。天使の悪魔には遠く及ばない未熟な練度。

 だが天使の領域の必中効果を打ち消すには十分だ。

 

 そしてそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()という手札を手に入れたということ。

 

 

【なんて……ことを……】

 

 

 特級呪霊は、溢れ出る人影を呆然と眺めている。

 

 

(……なんだ?)

【よくも……ッ!】

 

 

 様子がおかしい。血涙を流す。領域展開のカウンターに驚いているのとはまた違う反応な気がする。

 遠くからじっとこちらを見つめる影。支配の呪霊の生得領域に住まう者たちの一人。

 黒い髪。変形した両腕と頭部。スーツ姿の若い男。天使の呪霊は/俺たちはその正体を知っている──

 

 

「──■■■(マキマ)ァ!」

 

 

 天使の呪霊が今までとは比べものにならないほどの呪力を練り上げた。

 対する悟も、二つの術式を使用する。

 

 

 

1()0()0()()使()()!」

 

 

「三人とも、下がってろ」

 

 

 

 

 収束/吸い込む力──『蒼』

 発散/押し出す力──『赫』

 

 これは五条家の中でもごく一部の人間しか知らない秘技。それぞれの無限を衝突させることで生成する仮想質量。

 失敗は無い。なにせ無から有を生み出す術は、目の前のこいつが何度も手本を見せてくれた。

 呪術なんてのは所詮はズルとズルのぶつけ合いだ。より身勝手な方が勝つのである。

 

 

 

「俺、天才だからやれば大体なんでも出来ちゃうんだよね」

 

 

 

 

 

 虚式――『茈』

 最大出力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:天使の呪霊】

 

 

 ■■■(支配の呪霊)の領域展開から溢れ出た人影。全く知らない人。見覚えのある人。見間違えようのない人。ささやかな祈りが、願いが、どうしようもなく踏み躙られたのだと気づき、頭が真っ白になった。

 

 激しい怒りに飲まれてもなお、たった百年しか使えなかった。

 

 本来ならば。領域内に引き込んだ時点で天使の呪霊は勝っていた。たかが人間の寿命程度、一瞬で全て奪い取れるだけの力が彼にはあった。

 

 東京の人混みで領域を展開すれば、天使に敵う者はいないだろう。

 百と言わず、千や万の命を使えば史上最悪の武器が生み出せるだろう。

 ……僕が僕である限り、決してあり得ないことだ。

 

 ■■■(支配の呪霊)以外の人間に振るうことができなかった。

 

 だって。だって! そんなことをすれば死んでしまう。

 彼の命も、彼女の時間も、物言わぬ無機物に成り果てる。

 彼らが、彼女が、残酷な人ならよかったのに。仲間思いで、優しい姿ばかりを見せられて、どうして踏み躙れようか。

 

 判断が遅い。迷いが多い。

 天使の呪霊は優しすぎる。だからいつも手遅れになる。

 

 ……今度こそ後悔しないと決めたはずなのに。

 

 

 白髪の彼の、信じられない威力の一撃が、領域を内側から突き破る。

 

 墓石が見える。

 早川家と刻まれた塊。

 あの領域に存在した影ではない、本物の早川アキが眠る場所。

 

 

「あ    ぁ   」

 

 

 あとほんの少し軌道がズレていたら、きっと壊れてしまっていただろう。

 

 巻き込まなくてよかった。

 

 

 

「ア………キ………」

 

 

 

 

 ごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:夏油傑】

 

 

 特級呪霊の領域が解けていく。

 私たちの勝利だ。

 

 

 死の危険からは解放されようやく息をつく。何事もなかったかのように首が繋がった那由多に、悟は文句をつけていた。

 

 

「お前、領域展開が出来るのになんで血の呪霊との戦いの時に使わなかったんだよ」

「そもそも出来るかどうか分からなかったし……血の呪霊は……支配が難しい。あの時たとえ私の支配が必中になったとしても、状況はあまり変わらなかっただろうね」

「それは……そうだね」

 

 

 那由多の言い分に傑が同意する。血の呪霊を制御するのは難易度が高すぎる。とっさの事とはいえ厄介な縛りを結ばされた。早くどうにかしなければならないが、今はただ休みたい。

 

 

「──さて」

 

 

 夏油傑は天使の呪霊を取り込んだ。

 みんな五体満足で生き残ることができた。しかし目に見えないダメージが大きすぎる。この呪霊に反転術式を覚えさせ、寿命を取り戻さなければならない。

 そんなことできるのか? そもそも、寿命とは可逆性のあるエネルギーなのか? 不安材料は山積みだ。

 ……やれるかどうかではない。やるしかないのだ。

 

 

「結局、何年ぐらい取られたんだ?」

「呪力によるガードの精度差もあるけど……1分間で2〜3年くらいのペースで削られてたな」

「私たち、何分くらい領域に閉じ込められてた?」

「「「「……………」」」」

 

 

 心底計算したくない。

 

 

「傑……今回は……マジで……頼むわ……」

「今日から毎日昼ごはん奢るから……」

「私は死んでも生き返れるから別に」

「ウゼエーーーーーーー!!! 元はと言えばお前のせいだろうが!!!!!!」

 

 命令をろくに効かない血の呪霊に、レベリング必須の天使の呪霊。夏油傑が特級に昇格するのはもう少しかかりそうだ。

 

 

 

 

 全員が全員ボロボロだった。旅館に帰るにしてもこんな血みどろでは何を言われるか。この後の処理を考えると少々憂鬱だ。

 傑は大型の呪霊を呼び出した。徒歩よりはマシだろう。流石に寒いと文句は言わせない。女子二人を乗せたところで、ふと気づく。悟がその場から一歩も動いていない。

 

 

「……あのさ」

「…………おい、悟」

「あとは……よろしく……」

 

 

 悟の身体が崩れ落ちる。眼球が完全に裏返り、目と鼻と口と、耳からも血が吹き溢れる。

 顔面から地面に突っ込むころには完全に意識を失っていた。

 

 

 術式順転『蒼』 28回 (内4回出力最大)

 術式反転『赫』 3回

 虚式『茈』 1回

 

 

 アドレナリンが切れ、負荷が一気に押し寄せた。

 合計35回の術式連続使用が、五条悟の脳味噌を焼ききっていた。

 

 

「「「悟ーーーーーー!?」」」

 

 

 ──いわゆる、オーバーフローである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらっ! 那由多! 馬鹿の頭を叩くな!」

「落ち着け! テレビじゃないんだ」

 

 

 

 

 




虚式は爆速マスターしたけどオートリジェネ反転術式は使いこなせなかった暫定最強(瀕死)



天使の呪霊
性別:男性型(呪霊)
年齢:10年
好きなもの:休憩
嫌いなもの:人が死ぬこと
出典:チェンソーマン
 直接触れた相手の寿命を吸い取り呪具に変換できる。後に夏油傑らにより『天命操術』と命名される。反転術式で寿命を与得られるようになってくれという切実な願いが込められている。実際にできるかどうかは定かではない。
 能力はチートだが肝心の本人が使うのを嫌がっているため特級呪霊分類の中ではかなり弱い。
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