東京都立呪術高等専門学校二年転校生早川那由多   作:同じ顔の別人

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早川那由多②

 

 

 

【side:夏油傑】

 

 

 『早川那由多』は国家から正式に除霊対象から外された唯一の討伐対象特別除外指定済人型特級呪霊だ。

 詳細不明、経歴不明、能力不明。面倒を見るのに流石にそれはないだろう。だが、16歳児たちの圧倒的駄々と、五条家の天才のワガママをもってしても、夜蛾は頑なに早川那由多について最低限の情報開示しかしなかった。

 

 

「あの外見脳筋バカ教師は権力に負けるタイプじゃない。となると那由多の情報を必要以上に知らせてこないのは、夜蛾先生自身の意思ということになる」

「必要最低限の情報すらよこしてきてねえだろ」

「それもそうだが」

 

 

 東京都立呪術高等専門学校、運動場。

 夏油傑と早川那由多は訓練という名目で対峙していた。

 

 

「となると私たちで探るしかないね」

「よろしく」

 

 

 早川那由多は協力的だった。

 平均身長、平均体重。身体能力もごく普通の女子高生並。

 特筆すべき点は無い。もし早川那由多が本当にただの女子高生だったのなら、自分は彼女を歯牙にも掛けなかったろう。

 だが、こいつは()()()()だ。

 

 

「ところでなんでブレザー? 昨日はセーラー服だったろ」

「悟君のせいで、血で汚れたから…」

「じゃあ明日の着替えも用意しとくんだな」

 

 

 傑が手頃な呪霊を呼び出したのは、悟の助言とほぼ同時だった。

 

 さて、何を仕掛けてくるか。

 棒立ちの早川那由多は隙だらけで、逆に不穏だ。

 

 

(何もしないなら、私から攻撃するまでだ)

 

 

 召喚した呪霊のうちの一匹に突撃指示を出す。低級だが、牙に込められた呪力はそれなりだ。当たれば強いの典型だった。

 

 

「あ……」

 

 

 早川那由多は当然回避する。予想通りの動きだ。

 正面から仕掛けられた大ぶりな攻撃を回避したところを、背後からもう一匹の気配を消した呪霊が噛みちぎった。

 

 結果として、早川那由多は何も仕掛けてこなかった。

 傑は華奢な右腕に下級呪霊が牙を突き立てるのを冷静に観察していた。あまりに手応えがなさすぎる。もう二、三ほど策を残していたというのに、最初のフェイントで致命傷をおわせてしまった。

 

 早川那由他の負傷していない方の手が傑の操る呪霊にそっと添えられた。

 

 

「ワダッ」

 

 

 ……何かがおかしい。

 この瞬間、傑は初めて目の前の特級呪霊を心底から警戒した。この呪霊は、攻撃を避けられなかったのではなく、最初からこうして受けるつもりだったのだ。

 呪霊が、呪霊操術の制御下から外れる感覚がする。

 

 

「ワダジバッ、ナユダザマにぃ〜〜〜! 全デを捧ゲマズゥ〜〜〜〜!」

 

 

「──ッ!?」

 

 

 早川那由多に攻撃を仕掛けていたはずの呪霊が奇声をあげる。そもそもあれに言語を解するほどの知性はなかったはずなのに。制御権を完全に奪われ、傑に反旗を翻した。馬鹿な。そう考える間もなく、下級呪霊は自身の存在そのものと引き換えに凄まじい自爆特攻を繰りだした。

 

 爆発と同時に中庭が煙で包まれる。

 凄まじい呪力。得体の知れない現象。

 

 

(だが、所詮それだけだ)

「──へぶっ」

 

 

 渾身の蹴り技が無防備な本体の腹部に直撃する。間抜けな悲鳴と共に那由多は意識を失った。

 

 

 

 

「予想通りの勝敗すぎてつまんねぇ〜〜」

「私もだよ」

 

 

 ひっくり返って気絶している早川那由多は硝子の治療を受けている。呪霊に反転術式が効くかは不明だったが、この様子だと問題ないようだ。

 

 

「………」

 

 

 文句の付けようもない、夏油傑の完全勝利だ。だが無邪気に喜ぶ気にはなれなかった。

 

 呪霊操術が破られた。

 

 負けたわけではない。だが、己の術式に対する絶対の自信が覆されたというのは、夏油傑に決して小さくない動揺を与えた。 

 己の使役する呪霊の支配権を奪われることなど、今まで一度もなかった。今までの早川那由多の言動と悟の発言から、あれの術式は『洗脳』か『呪言』あたりだろうと予想をしていたのだ。だが今回の現象はどちらの術式でも起こせない。圧倒的な呪力差があるわけでも、三者全員の同意があるわけでもないというのに。

 ならば何故。

 

 妙なことはまだある。

 

 

「早川さん、乱暴にしてすまなかったね。腕の調子は大丈夫かな?」

 

 

 食いちぎられたはずの腕が元通りになっている。硝子が治療したわけではない。呪霊らしく呪力で再生したわけでもない。()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()

「あっそう」

 

 

 んなわけあるか。

 

 何故。どうして。どういうカラクリだ。今すぐに問い正したくて仕方がない。だが恥も外聞もなく振る舞うには、隣にいる親友の存在は大きすぎた。

 

 

「最後本気だったろ」

「いいや」

「ふーん?」

 

 

 悟はニヤニヤとこちらを見ている。こいつは六眼で那由多の術の本質を見抜いているはずだ。私と早川那由多の相性が悪いことに気づいた上でけしかけたのだろう。我が親友ながら本当に性格の悪いやつだ。

 

 

 

 

 

 手合わせは一時中断し、各自の能力の開示時間となった。こちら側の情報開示は、早川那由多に対する威力向上の縛りの意味もある。

 悟は無下限術式を発動させながら指示を出した。

 

 

「おい、ちょっと攻撃してみろ」

「うん」

 

 

 股間にめがけて振り上げられた早川那由多の足は、徐々にスピードを失い、ぶつかる前に完全に停止した。

 普通ノータイムで股間を狙うか? 

 

 

「……ここまで躊躇なく金的してきた奴はお前が初めてだよ」

「デンジが、男と喧嘩するならタマ以外狙うなって」

「誰だよデンジ」

 

 

 美女が美男の下腹部に触れるか触れないかの位置に生足を寄せている。実際は呪術師と特級呪霊とはいえ、絵面の酷さに傑は爆笑し硝子はゴミを見る目で舌打ちをした。

 

 

「いい加減その状態を解いたらどうだい」

「やだよ、そしたら蹴られるだろ」

「こかっ、股間がっ……ふふふ……」

「ウケすぎだろ」

 

 

 お株を奪うんじゃないと不満げだ。しっこ、うんこ、爆発で笑う小学生男児的感性は五条悟の専売特許だった。

 

 

「ともかく。俺の無下限術式は無限を現実に持ってくることができる。アキレスと亀って知ってる? お前の手は俺のところまで永遠に収束しない」

「それって数学的に証明できる筈だけど」

「うわぁ〜〜〜出たよマジレスする奴! 十人に一人ぐらいいる奴! 大体隠キャオタクくんなんだよねえ! 凡人にも分かりやすく例えてあげてるだけってどうして察せないかなぁ!」

 

 

 五条家には意味不明術式と名高い無下限を何も知らない人にもふわっとニュアンスで伝えるための表現マニュアルまであるらしい。初耳だぞそれ。歴史が長いと本当に何でもあるな。

 

 

「お前の術式が俺に効かないのは無限で命令が完結しない状態を作ってるからだ」

「やはり、私の呪霊から支配権を奪ったのは那由多の術式か」

「支配権。いいねその呼び方。仮称『支配術式』─それがこいつの生得術式だ。発動条件は()()()()()()()()。呪霊操術や冥さんの黒鳥操術あたりと拮抗した際、明らかな下級相手への干渉だと、那由多のが支配権の奪い合いでは有利みたいだな。もしくはすでに誰かに使役されてるシチュエーション自体が那由多の術式の出力を後押ししてる」

「素手で触れるかどうかも条件に含まれているのか?」

「いいや、それは出力を上げる縛りだな。俺に何回も仕掛けてる指差しもだ。本来はやらなくてもいいはず」

「あたり」

「イエーイ」

 

 

 なるほど。しかし……それは、少しズルくないか?

 上級呪霊を使役できる私はともかく、冥さんの黒鳥操術は下級の存在の大量使役が前提だ。それをほぼ無条件で奪い取れるというのは、なんでもありすぎる。多数を使役している相手から一匹分の支配権を奪い取るのが得意なのか? 他にも条件があるのだろうか? もう少し何かありそうな気がする。

 

 

「傑、考え込むことはねーよ。こいつの本質は『操術』じゃないの。多分根本の価値観──見えてる世界が違う」

「それはどういう……?」

「これからそいつを見せてもらうんだよ」

 

 

 悟は二年生に与えられた午後からの任務の概要書類を、那由多に突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:早川ナユタ】

 

 

「俺たちなら5分もあれば全員叩き潰せるが、今回はやめだ。お前一人でやれ。特級呪霊の実力、見せてみろよ」

「いいよ」

 

 

 我らが高専二年生たちは、神奈川県元町にやってきていた。

 任務──宗教団体『天使の輪』を隠れ蓑に潜伏中の呪詛師集団の殲滅。

 難易度的にはいつもどおりの、ありふれた内容らしい。

 

 五条悟からの無茶振りはいつも唐突だ。

 今日だってナユタだけが任務の内容を知らされないまま現場に訪れていた。私は盗み聞きが得意だから事前に知っていたが、そうじゃなければただのいじめだ。もっとも彼はナユタの術式がどういうものかを理解していて、あえて知らせてこないだけかもしれないけど。

 どちらにしろ、全力を尽くすだけだ。だって早川ナユタには東京都立呪術高等専門学校に通わなくてはならない理由があるのだから。

 意気揚々と『天使の輪』が保有するビルに向かった。

 

 

「いいのかい? さっきの手合わせを見るに、直接戦闘は苦手なタイプだろう?」

「お前こそいいのかよ。那由多が死ぬかもしれないと思ってるのに、そのまま行かせて」

「その時はその時だ。監視命令を受けてるのは悟だし──たかが呪霊だろ」

 

 

 ひどい。なんて薄情なお友達なのだろう。聞こえていないとでも思っているのだろうか。デンジが恋しい。大大大好きな、無条件に那由多を抱きしめてくれる、この世で唯一尊敬できるお兄ちゃん。

 

 ──お腹すいた。たくさんご飯を食べてたくさん寝て、早くゆっくり休みたい。

 

 さっさと済ませてしまおう。ナユタは入り口に立っていた青年に声をかけた。

 

 

「君、案内してくれる?」

「えっ? 何? 迷子?」

「平和的に、話し合いに来ました」

「え……ああ! ああ入信希望の方ですね。ええ、ええお話しをいたしましょう。ようこそ我が家へ! 我々は罪なき繋がりを愛し絆を育む『天使の輪』の一員──」

「教祖に会わせていただけますか?」

「え、いやそれは……世を捨て、円環の一部となり初めて叶う儀式で、入信前の俗人が謁見できるようなお方では──」

 

 

 ──ああなんて、つまらない人間なのだろう。

 

 

 依存体質。何も考えずルールに従う家畜。社会の上位者から搾取され続けるちっぽけなネズミ。

 私はこの男がこうして管理されているのを見ると、とても安心する。

 心が冷えていくのを感じた。深い深い場所で、目の前の相手を強く見下す自分がいる。普段は無視するその情動を、術式を使用するために直視した。

 

 男の頬に手を添えて、早川ナユタは少しだけ口角をあげ微笑んだ。

 

 

【大丈夫。信じて?】

「ぁ………は……はい………」

 

 

 

 

 にこやかな顔の青年に案内され、ナユタは建物の6階までエレベーターで登っていた。

 

「こんにちは」

「っ、何者だガキ! どうしてここに連れて……いや、その制服は高専生か?」

 身の丈二メートルはありそうな筋肉質な男。呪力の流れを見ればわかる。呪詛師だ。

「残念だったなぁ! 一人で探索中か? よりにもよってこの俺と遭遇しちまうなんてな!」

 男は目の前の子供の()()に気づかないまま臨戦体制に入る。相手を格下だと確信したまま、舌なめずりをして。

 

 

 ──ああ、私が何なのかも分からないんだ……

 

 

 実力に見合わぬ過剰な振る舞いも、社会に対し害しかなさない在り方も。どれもがナユタの軽蔑の対象だった。

 

 

 ──デンジなら、こういう時どうするんだろう

 

 

 いつもなら叱って導いてくれる大切な家族はここにはいない。私を高専に送り出す際、デンジは自立を学ばなければいけないと言った。何が正しくて何が良くないことなのか、その判断を一人でするというのは私にはとても難しいことだ。

 

 だからとりあえず今は、自身の感性に従うことにした。

 警戒する相手の意識の隙間を縫って指をさす。

 

 

【わんわん】

 

「ーーーーーーッ!?」

 

 

 がくんと、呪詛師の身体が崩れ落ちる。四肢を動かすことも呼吸さえもままならない様子でうずくまっていた。

「ガキ、何を……!?」

【伏せ】

「ーーーぁ」

 

 

 四つん這いの大柄な男の背に、ちょこんと腰を下ろす。異質で、どこか倒錯した絵面だった。

 

 

【私に】

 

 

 いつもと全く同じなのに、どこか違和感がある声が響く。

 

 

【私に全てを捧げると言いなさい】

「──ナユタ、さまに、私の全てを、捧げます」

 

 

 静かに笑うブレザー姿の少女は、誰から見ても可愛らしかった。恐ろしいくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:五条悟】

 

 

「お手」

ワン!

「おすわり」

ワン!

「伏せ」

ワン!ワン!

「ちんちん」

ワン!ワン!ワン!

 

 

 那由多が呪詛師が占拠するビルを制圧するのに三分もかからなかった。これには那由多の術式の本領を知らなかった傑と硝子はもちろん、手際の良さに悟も少し驚いた。

 

 

「……これが特級呪霊か。当たり前のように悟が支配を弾くものだから危険性を見誤っていたよ」

 

 

 目の前で、人間が犬のように吠えている。キモい。それ以上どんな感想を抱けと。

 

 

「呪言師とも違うんだ?」

「全然違えよ」

 

 

 ──『支配術式』。それが特級呪霊早川那由多の術式だ。

 対象は呪霊、犬猫ネズミ鳥その他色々、そして()()。一対一での命令が基礎となる洗脳や呪言、操術等とは根本から異なり、術師を中心に一対多数の支配体系を築く。『社会』や『組織』の制圧に特化した術式。操術と拮抗したとき、術者ではなく術を向けられた対象が弱者であるかどうかに依存して支配力が変動するのもこの辺りの影響だ。

 発動条件は()()()()()()()()。さらには本来他人に強制されると著しく効果が下がる縛りを、問答無用で結ぶことも可能だという。まさに特級。

 

 同日、15時過ぎ。

 早川那由多に支配された呪詛師たちがペラペラと情報を喋ってくれたおかげで、全ての拠点は制圧済み。想像の3倍早く仕事は片付いた。「はい」か「ワン」しか喋らなくなった呪詛師たちも、一人を除いて全て補助監督に引き渡された。補助監督ドン引きしてたけど。かわいそうに。

 

 そして引き渡されなかった呪詛師がどうなったかというと──

 

 

「ばいばい」

「うん、元気でねナユタちゃん! 季節の変わり目だけど風邪ひかないようにね! これ少ないけどお小遣いあげる。お友達と食べておいでよ」

「うん」

 

 

 などと。親しげに話しかけてくるものだからドン引きを通り越して恐怖すら覚えた。那由多は平然と金銭を受け取り三人の元に戻ってくる。

 

 

「時間まだあるよね。ご飯、行こっか」

「焼肉」

「お〜夏油、ガッツリ系提案するじゃん」

 

 

 まあそんな恐喝を止めるメンツではないのだが。

 

 

「クラスメートの援交で食う肉はなんでも美味い」

「うーん、このクズども最低だな」

「最低なのはこのクソ呪霊の力の方だろ」

 

 

 もう悪いことはしないよ、と宣言した呪詛師未遂の男。前科がなかったのでそのまま解放された。その言葉に嘘はなく、社会にとって良い人であり続けることだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 射程距離など知ったものかというふざけた術式だ。

 早川那由多は、今はまだ五条悟には力及ばない。だが射程距離の制限がほぼ無視できるとなると、時間と共にどんどん悪質さを増していくというわけで──

 

 

(ま、どうにでもなるか。俺たち最強だし)

 

 

 食べ盛りの男子高校生にとってはそんなものより焼肉の方が重要だ。五条悟は思考を早々に打ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

From:お兄ちゃん

To:ナユタ

件名:

——————

晩飯何食べたい?

 

 

 

From:ナユタ

To:お兄ちゃん

件名:Re;

——————

寿司

 

 

 

From:お兄ちゃん

To:ナユタ

件名:Re;Re;

——————

家で作れるものにしろよ

出前は取らねえぞ

 

 

 

From:ナユタ

To:お兄ちゃん

件名:Re;Re;Re;

——————

今日はスーパーに本鮪のサクが入荷してる

 

 

 

From:お兄ちゃん

To:ナユタ

件名:Re;Re;Re;Re;

——————

握れってか

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:家入硝子】

 

 

 早川那由多は特級呪霊だ。特級呪霊は特級呪術師が対処しなければならない。故に女子トイレ使用時などの例外を除いて、基本的に五条悟が監視任務についていた。

 五条が那由多の監視任務から唯一解放されるのは月末のみ。彼女が実家に帰る時だ。

 

 

「一緒に写真撮ってくれない?」

 

 

 那由多が転校してきてから初めて実家(呪霊にもあるんだ…)に帰る日の放課後。写真撮影機能付きスライド式携帯(契約出来るんだ……それも画素数多い結構いい機種を……)を突き出して、那由多は三人に話を切り出した。

 

 

「嫌で〜す。このGLGを捕まえてタダで写真撮ってもらおうなんてお高く止まりすぎなんじゃねえの? 俺にかけられてる懸賞金がいくらかご存知?」

「いくつなの?」

「………さあ」

 

 

 反射で拒絶した五条はさておき、唐突な提案なのは確かだった。

 あれから何度も共に授業を受け、いくつも任務もこなした。出会った当初よりは打ち解けたとはいえ、相手は特級呪霊。気がおけない関係とはいかなかった。

 特に彼女の『支配術式』は一度発動すれば致命的。警戒しすぎるということはないのである。

 

 

「デンジと約束した。友達100人作ってこいって」

「この学校、全学年合わせて生徒20人もいないけど」

「うん。だから値下げ交渉もしなきゃ。でもとりあえずは友達が出来たって報告をする」

 

 

 だから写真を一緒に撮って。やだよ誰が友達だ。違うの? そういう同調圧力、キモ〜! やんややんや。

 そうこう騒いでいるうちに、あっという間に迎えの時間が来た。

 

 東京都立呪術高等専門学校名物の長い長い階段。その一番下に黒い車が止まっていた。

 

 

「うわっ、岸辺だ」

「岸辺って例の?」

 

 

 クズどもが那由多の送迎を担当するらしい男について何やら盛り上がっている間に、硝子は那由多に声をかけた。

 

 

「那由多、最初に会った時に悟に支配の術式を使ったよね。ずっと一緒に過ごしてきたけど、あれだけが『早川那由多』の言動のイメージにそぐわない。どうして?」

「パフォーマンス」

 

 

 即答だった。

 

 

「五条悟に私の支配の力が効かないなら、呪術師の偉い人たちは、安心して監視を任せられると思うでしょ」

「……貴女」

 

 

 ふてぶてしい表情で、那由多はピースサインを掲げた。

 

 

「私は支配の呪霊だから。こういうことは得意なの」

「そうまでして、何が目的?」

「私は」

 

 

 那由多はひらりと学ランのスカートを翻す。

 

 

「私は学校に通いたい。今の生活は楽しいよ」

 

 

 彼女の語る動機は平凡すぎた。能力の悪質さからも特級呪霊という肩書きからも浮いている。

 

 

「また来月ね」

 

 

 どこまでが嘘かどこまでが本当なのか。怪しい雰囲気の中で。那由多は心底楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいこら待て。何いい感じに終わらせようとしてんだ」

「私たちも着いていくよ。ホラ、家庭訪問さ」

 

「「──えっ?」」

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