400年ぶりに再発見されたルーベンス「絶頂期の傑作」が5億円超で落札。パリの私邸売却準備中に発見
バロック期の巨匠ルーベンスが手がけ、400年以上所在不明だった絵画がフランスのオークションで5億円超で落札された。105.5×72.5センチのこの作品は、個人コレクターのために制作されたものと考えられている。
11月30日、フランス・ヴェルサイユで行われたオークションに、バロック期のフランドルの巨匠、ピーテル・パウル・ルーベンスの絵画が出品された。落札額は294万ユーロ(約5億3000万円)で、予想価格100万~200万ユーロ(約1億8000万~3億6000万円)の上限の1.5倍近くの結果となっている。
ルーベンスは十字架上のイエス・キリストを主題とした作品をいくつも残している。1613年に制作されたこの絵もその1つだが、つい最近まで所在が分からなくなっていた。それを発見したのは、パリ6区にある私邸の売却準備中だったオークション会社の代表、ジャン=ピエール・オゼナだ。
オゼナの販売用資料によると、作品の制作経緯や絵が見つかった私邸に至るまでの所有者数などはほとんど分かっていなかった。その存在が美術史家に知られていたのは、ルーベンスと同時代の作家による版画を通してだったという。オセナはオークション前にAFP通信の取材に対し、これはルーベンスが「才能の絶頂期に描いた傑作」だと述べている。
再発見後、ドイツの美術史家でルーベンス研究の第一人者、ニルス・ビュットナーが鑑定を行い、真作と認定された。また、公表された来歴では、この絵画は19世紀フランスのアカデミズム絵画を代表する画家、ウィリアム=アドルフ・ブーグローによって購入され、その後ブーグローの子孫へ代々受け継がれてきたとされている。
ルーベンスは、聖書を主題とした数多くの壮麗な作品を残したことで知られている。ビュットナーは英ガーディアン紙に対し、ルーベンスは磔刑の場面を頻繁に描いたが、その多くはキリストの受難という宗教的テーマに焦点を当てたもので、「十字架に架けられて息絶えた死体としてのキリスト」のような描写は稀だとしている。一方、オゼナは再発見された絵画の真贋はX線画像診断と顔料分析によって判断されたと述べ、次のように付け加えた。
「バロック絵画はまさにここから始まったと言ってもいい作品です。暗く不気味な空を背景に、周囲から隔絶し、輝きを放って浮かび上がる十字架上のキリストが鮮烈に描かれています」(翻訳:石井佳子)
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