※本文中、LGBT当事者に向けた、過酷な発言などを取り上げています。閲覧の際には、くれぐれもご注意願います。

 烏丸百九さんが、「改めての謝罪と、LGBTQアライとしての再出発について」と題した、noteの記事を発表しました。



 ここでは、その問題点について、指摘します。

 Vtuberである烏丸百九氏さんは、2024年9月6日、自らのYouTubeチャンネル、「烏丸百九の烏丸レポート」において、「烏丸ニュース第8回」の配信を行いました。
 その中で、取り上げられたのが、李琴峰さんをめぐる「問題」でした。

 当該配信では、複数のトピックを扱っており、李さんについてのパートは、「李琴峰氏、トランス女性を中傷」というタイトルでした。
 しかも、その批判は、「かんぴんたん」なる人物から、一方的に暴露された、TwitterのDM(ダイレクトメッセージ)に基づくものだったのです。

 DMの内容を、注意深く読めば、李琴峰さんが、自身はトランスジェンダーであると仄めかしていることが理解できます。

 また、暴露された文章には、相手方からの「あなたはシスではないのですか?」という問いかけも含まれていました。



 このような詰問は、李琴峰さんの性別に、フォーカスを当てることになります。

 何より、烏丸さんが読まずに批判した、李琴峰さんの著書、『言霊の幸う国で』を読めば、彼女がトランスジェンダーであること、それによって攻撃を受けていること、そして自らの性別について詮索もされたくないということが、推察できたはずです。

 しかし、彼は不確かなネット情報をもとに、李さんに対して、「差別に加えて、誹謗中傷でしょう」「二次加害」といった言葉を、投げかけました。 

 また、この配信の中において、読んでいない李琴峰さんの著書を取り上げるに当たって、「っていうか、これ、笙野頼子と、やってること同じじゃねーかという感じがしますね」と評価しています。
 あろうことか、差別する側と、される側を、一緒くたにして非難したのです。

 この配信では、チャット欄において、以下のようなコメントがありました。
 zmi『ある意味JKR越え』
 ツバキ『そんなJKローリングみたいなことせんでも……』
 mao『やり口がJKローリングなんよねほんま』
 mao『仲岡弁護士などと同じなのが、「実務上見分ける必要が」みたいなところで、リアリストという名の冷笑主義差別主義になっている』
 視聴者も、烏丸さんと同じく、李さんを差別者として扱っています。
 烏丸百九さんは、自らの配信によって、李琴峰さんへの誹謗中傷を拡散する場を提供することになったことについて、責任を感じているのでしょうか?

 さらには、李琴峰さんが、小説家51人の連帯で、「LGBTQ+差別に反対する小説家の声明」を出した際には、「ええかっこしい」「開き直ったハラッサー」と、悪罵を投げつけました。

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 その数時間後、李琴峰さんは、自身がトランスジェンダー当事者であることを、カミングアウトしました。




 性別に関する詮索や暴露を続けるヘイターと、彼女が「トランス差別」したと批判する人たちからの挟み撃ちに遭い、李琴峰さんはカミングアウトに追いやられたと考えます。

 事ここに至っても、烏丸百九さんは、李琴峰さん自身よりも、「カミングアウトの影響」を心配しているようでした。

 


 その後、烏丸百九さんは、2024年11月27日に、「李琴峰さんに対する差別行為に関するお詫びと、今後の方針について」と題したnoteの記事を公表します。



つまり、過去、YouTubeの配信「立憲民主党小沢一郎が野田を推薦 「反自民党政治」とは何か?【烏丸ニュース第8回】」(非公開化済み)や、SNS上の各種書き込みにおいて、李琴峰さんを「シスジェンダー女性」と勝手に決めつけた上、彼女が「トランスジェンダー女性に嫌がらせを働いたのでは?」という疑惑について批判していた(詳細は同氏のnoteを参照)ことにより、私(烏丸百九)が、同氏に対する差別行為、かつアウティングの二次加害とも言える行為を働いてしまっていたことが、事後的に明らかとなりました。
また、YouTube配信において、よりによってトランスジェンダー差別主義者である笙野頼子の名前を出し、李琴峰さんへの非難に援用しておりました。

 ここでは、①李琴峰さんを「シスジェンダー女性」と勝手に決めつけた、②李琴峰さんが「トランスジェンダー女性に嫌がらせを働いたのでは?」という疑惑について批判していた、③李琴峰さんに対する差別行為、かつアウティングの二次加害とも言える行為を働いた、④トランスジェンダー差別主義者である笙野頼子の名前を出し、李琴峰さんへの非難に援用した、ということについて言及されています。

 この文章に不足している点を、指摘します。

 まず、「李琴峰氏、トランス女性を中傷」と題して配信したことについては、伏せられています。

 烏丸さんは、李琴峰さんが、トランス女性を中傷し、差別し、誹謗中傷や二次加害を行っていると、非難していました。
 それらが、「嫌がらせ」という言葉に、すり替えられています。

 また、自らの配信や、SNSの投稿で、どのような主張を行い、それがどのように誤っていたのか、具体的な言及がありません。

 たとえば、「李琴峰さんが、トランス女性を中傷、差別した」と認識し、批判したことについては、直接的に触れられていないし、謝罪の言葉もありません。

 つまり、自分が、李琴峰さんを差別したかもしれない、というところまでは、受け入れる。
 しかし、李琴峰さんが、トランス差別したのだ、という誤った主張は、取り下げられていません。
 配信をしたこと自体が、間違いだったとも言っていません。

 また、「開き直ったハラッサー」発言については、コーラ大好きさんの投稿を貼り付けて、済ませています。
 自分自身の言葉で、自らの過ちについて、説明していない。

 「ええかっこしい」発言に至っては、無かったことになっています。

 また、李琴峰さん自身よりも、「カミングアウトできない当事者への影響」を心配してみせた投稿を拡散したことについては、直接的にスクリーンショットを添付しているコーラ大好きさんの投稿ではなく、よりぼやかされた、りせすけさんの投稿を選んで、記事に貼り付けています。

 
 この烏丸百九さんの文章に含まれる四要素のうち、①李琴峰さんを「シスジェンダー女性」と勝手に決めつけた、②李琴峰さんが「トランスジェンダー女性に嫌がらせを働いたのでは?」という疑惑について批判していた、④トランスジェンダー差別主義者である笙野頼子の名前を出し、李琴峰さんへの非難に援用した、という点については、それが指し示す内容が明らかです。

 しかし、③李琴峰さんに対する差別行為、かつアウティングの二次加害とも言える行為を働いた、に関しては、どこの部分までを含むのか。
 烏丸百九さんが、李琴峰さんについて言及した、一部なのか、全部なのか。

 何より、ここが曖昧になっているせいで、烏丸百九さんが何をしてしまったのか、事後的に検証することが、不可能にされています。

 そのことによって、事情を知らない人からすれば、「自らの誤りを認め、お詫びできる、誠実な烏丸百九さん」という印象を持つことすら、ありえます。

 また、「烏丸ニュース第8回」の配信において、烏丸さんは、李琴峰さんに対して、「ちょっと取り返しの付かない領域に行ってしまったかなあという感想を抱きます」「彼女を責めてもね、たぶん、考えを翻してくれるわけではないから。やっぱり、こちらとしては、もうアライとして取り上げないっていうような感じで抵抗していくしかないのかなという気はします」とまで言い切っています。

 さらには、李さんの主張を、「典型的な、もう差別の論理」と評価しています。
 これらについては、認識を改めたのか?

 彼は、あくまで、「貴方のアイデンティティを勝手にシスジェンダーと決めつけた上での批判を行ったことを、改めて深くお詫び申し上げます」と表明しています。
 李琴峰さんの性別やアイデンティティを決めつけ、批判したことへの反省に過ぎません。
 李琴峰さん自身が「トランス差別」したのだ、という主張は、撤回されていません。

 私は、烏丸百九さんの、差別に関する認識が、間違っているのではないか、と指摘したい。
 李琴峰さんの、DMという私的なやり取りにおける発言を、差別だと誤認しなければ、こんなことにはならなかった。

 本質的な問題が解消されない限り、残念ながら、今後も同様の事象が、繰り返されることになってしまうでしょう。 

 何より、「差別行為、かつアウティングの二次加害とも言える行為」という表現が、引っ掛かります。
 これは、直球の差別、アウティングの二次加害ではなく、それに類似する行為、という意味なのでしょうか。
 そのように解釈し得る行為、ということならば、自らの言動について、正しく認識できていません。

 この「お詫び」において、「李琴峰さんに対する二次加害を、深く深くお詫び申し上げたく存じます」と表明した烏丸百九さんでしたが、その2日後の11月29日には、「李琴峰さんへの再度の謝罪と、連帯の「拒否」について」と題したYouTube動画を公開しました。

 この動画内で、彼は、次のような発言を行いました。一部を抜粋します。

李琴峰さん、改めて大変申し訳ございませんでした。

李琴峰さんが(かんぴんたんから)提訴された場合、勝てるんでしょうか?

トランスジェンダーの当事者の方々の人権のためにですね、必死で、自分なりにですけど、本当に小さな力ですけれども、声を上げてきたつもりです。しかし、その仕打ちが、これですか?

わたしは、そうすけとも、李琴峰さんとも、大変申し訳ないですし、迷惑かけたことは謝罪しますけれども、大変申し訳ないですけど、連帯できないです。連帯したくないです。無理です。

もう、私はあなたちに連帯したくないんです。勘弁してください。
 誰も、烏丸百九さんに連帯を求めていないのに、なぜか彼は、それを強要されている気持ちになり、一方的に連帯の拒否を表明しました。

 これが、アライの振る舞いなのでしょうか?

 誤った認識により、「差別」を糾弾し、強い言葉で非難し、挙句の果てには、連帯を拒否する。
 「お詫び」の2日後に、です。

 李琴峰さんをめぐる問題を含めて、意見が対立し、関係が破綻したため、そうすけ(私)の名前も、持ち出されています。

 「お詫び」した舌の根も乾かぬうちに、「もう、私はあなたちに連帯したくないんです」と言い放つ。

 当初の「お詫び」文は、次のように締めくくられていました。

今後はますます差別に対する勉強を重ね、二度と同じことを繰り返さぬよう、知識と理解力を高めて参りたく存じます。本当に申し訳ございませんでした。

 二度と同じことを繰り返さないどころか、より悪化した。

 この動画で、烏丸百九さんは、次のようにも発言しています。
裁判所に『言霊の幸う国で』を提出して、かんぴんたんが、『わたしはこの本にこのように書かれて、誹謗中傷を受けました』と被害を訴えて、それが裁判所に絶対受け入れられないと。単なる加害者であって、ストーカーであるから、わたしがね、こういって小説の中でそういう風に描写したことには絶対に問題がないということで、言い切れるんでしょうか?
私は、言い切れないんじゃないかと思います。
もし訴えてきた場合、あるいは、こうしたそうすけの書いたnoteをもとに、精神的苦痛を覚え、ま、最悪の事態に陥ったりして、ご遺族の方が、李琴峰さんやそうすけを訴えた場合、そうした場合でも勝てますか?
100%勝てると断言できますか?
できないんじゃないですか?
 あろうことか、「かんぴんたん」が死んだら、お前ら責任を取れるのか、と脅してきたのです。

 彼は、この動画の中で、このようなことも発言しました。
李琴峰さんに連帯するということは、そういった差別主義者の連中は、まあともかくとして、かんぴんたんさんもそうだし、いろんな人から、訴訟を起こされ、そして敗訴する可能性があるんじゃないですか?
そんな危うい状況であるのに、なぜ、安易に「私たちに連帯して欲しい」って言えるんですか?
迷惑かけたことは謝罪しますけれども、大変申し訳ないですけど、連帯できないです。
連帯したくないです。無理です。
 ーー李琴峰さんと連帯すれば、裁判に訴えられて、負けるかもしれない。だから、連帯できない。

 この時点で、アライとしての烏丸百九さんは、完全に終了しました。

 差別に晒され、差別と闘っているLGBT当事者を、散々攻撃し、一方的に連帯を拒否したのです。
 これが、アライのやることでしょうか?
 連帯するのが、アライなのではありませんか?

 これは、烏丸百九さんが、どれだけ言葉を費やしたとしても、取り返しのつかない事件だと考えます。

 烏丸さんがやったのは、気に入らないLGBT当事者を、叩いたということでしかありません。
 
 もちろん、彼には彼なりの理屈があるのでしょう。差別に反対しただけなのだと。

 しかし、烏丸さんが、差別でないものを差別だと誤認し、声高に糾弾したことから、すべての問題は始まっているのです。
 彼が、誤った見解に執着し続け、自らの「正しさ」を検証しないのならば、同じ構造の問題が、何度でも繰り返されます。

 土に問題が生じている時に、その上に茂っている雑草を刈り取って、綺麗になったとアピールしても、何にもなりません。
 またすぐ、雑草が生えてきます。

 自分と意見が異なるだけのLGBT当事者を叩く人を、アライとは呼びません。

 動画配信から5日後の12月2日、烏丸さんは再び、「謝罪」を表明しました。



 ここでは、自身の振るまいに対して、「差別行為」ではなく、「マイクロアグレッション」という言葉を使ったことが、非常に不適切であったと詫びています。

 李琴峰さんが差別したと決めつけたこと、李琴峰さんに向けて、酷い言葉を用いて、事実誤認の配信をしたこと、一方的に連帯を拒絶したことなどについては、一言も触れられていません。
 つまりは、謝罪の際、言葉選びを間違えた、ということしか言っていません。

 これらの問題点は、今に至るまで、全く改善されていません。改善する気が無いか、改善できないのでしょう。

 なにより、李琴峰さん本人は、烏丸百九さん自身が、『言霊の幸う国』を読み、誤りの精査、説明、謝罪することを求めていました。
図1
 しかし、彼は、書籍の購入報告をしたのみです。

 烏丸百九さんは、被害者から求められた説明責任を、果たさなかったということです。
 今となっては、すべて手遅れです。

 当初の「お詫び」文には、「李さんにかかる全てのSNS書き込みを削除し」と書かれています。
 しかし、これは事実ではありません。

 実際、次のような投稿は、そのままになっています。


 「お詫び」文を出した後の投稿だから、そのままにしておいても良いということなのでしょうか?

 烏丸百九さんは、ここで、驚くべきことを言っています。
 何と、李琴峰さん本人だけでなく、彼女と連帯する人たちとすらも、連帯しないと言っているのです。

 つまり彼は、差別の被害者と、その支援者たちへの、連帯を拒絶した。
 そうやって、当事者の孤立化をはかり、自らの正当性を証明しようとしたのです。

 ここまで言い切っておいて、今ごろになって、支援しています、寄付しています、というアピールをし始めるとは、一体何を考えているのでしょうか?

 今の烏丸さんは、過去の烏丸さん基準からしたら、「連帯」の対象外ということになりますが、いつの間に立場を変えたのでしょうか?

 何より、「李琴峰さんのご活動への言及や、論評の永久的な禁止」とまで言い切っていたのに、いつまで李琴峰さんの件に関わるつもりですか?

 烏丸百九さんに必要なのは、謝罪でも弁明でも寄付アピールでもなく、誠実な沈黙です。

(続く)