ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか?   作:捻くれたハグルマ

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 ゴブリンにも分かる現代魔法

 白い表紙に 目を引く装丁が施された本

 題名こそふざけているが その中身は紛れもない魔導書である

 ある女神が言った 英雄には力が必要だと

 主役に手をつける彼女のやり方は 時に多くの役を巻き込むだろう


第十七話 不穏な影

 

 リヴェリアが黄昏の館の敷地内に入っていくのを見届けたアルは、ベルの恋路の行方を思いながら帰路についていた。

 アルにとって恋とは縁のないものだ。

 騎士はただ人を守り使命を果たすために存在するのだから、自分には必要ではないと思っている。

 しかし、だからといって恋物語に興味がないわけではない。

 聖女を守ったカリムの騎士の話などを聞いた時は、素敵な話に胸が高鳴らずにはいられなかった。

 つまり、アルはベルの恋の成就に多大なる興味があったのだ。

 

 ホームに帰ってきたアルは、今か今かとベルの帰りを待った。

 数時間は経ったころ、もしかしすると話が長引いて帰りは遅くなるかもしれないな、などと思っているとバタンと戸が開けられた。

 ベルは扉を開けてそのまま毛布に飛び込んで、頭からそれをかぶった。

 

 「僕の馬鹿、僕の馬鹿、僕の馬鹿っ!」

 

 「一体どうしたのだベル。なぜそんなに慌てて……。」

 

 「どうしたもこうしたも、なんで僕アイズ・ヴァレンシュタインさんに膝枕されてたの?!」

 

 「リヴェリア……さんの頼みでな。その、色々意図があるそうだ。」

 

 「わかんないよ、それじゃぁ……。

 どうして逃げ出しちゃったんだろう……。うぅ。」

 

 「そういうことか……。」

 

 アルはベルに心の底で謝った。

 まだベルにとってアイズとのコンタクトは刺激的過ぎたということを失念していたのだ。

 もっとも、たとえ気が付いていたしてもアイズとリヴェリアの頼みを無下には出来なかっただろう。

 アルは、とにかくベルに心の中で謝り続けた。

 

 しかし兎にも角にもベルがずっと悶えるばかりでどうにもならないので、アルは傍で毛布をひっかぶった。

 正直限界だったのだ。

 先日はロキの酒盛りに付き合ったせいで全く眠れていなかったし、実際ダンジョン探索に不調をきたすほどであったのだ。

 そのうえベルの帰りを待ったので、とてもじゃないが死ぬほど眠かったのだ。

 アルはすぐに眠りに落ちた。

 

 一、二時間も経たぬころ、朝日が昇ってきていたときに、アルはまた目覚めた。

 起きてみると、未だにベルが泣きわめいている。

 アルはベルが本当に後悔しているのだなぁ、と自分も悲しくなってしまった。

 そうしているとヘスティアもベルの泣いている声に気が付いたのか、もそもそと起きてきた。

 

 「おはよう、アルくん……。

 しっかしベルくんはどうしてこんなに泣いているんだい?

 昨日読んだ本の内容がよくなかったのかな?」

 

 「いえそういうわけではないのですが……。」

 

 ヘスティアが本を疑って机から取り上げて眺め始めたところで、アルが答えた。

 しかしヘスティアはなおも本を眺め続けている。

 パラパラとめくった後、ヘスティアはアルにそれを向けた。

 

 「ボクの見間違いでなければ、白紙だと思うんだけど……。」

 

 「えぇ、見事に真っ白ですね。製本の不手際でしょうか?」

 

 「いや、これの正体が分かったよ……。

 ベルくーん、起きてボクの話を聞いてくれ!」

 

 ぽんぽんと身もだえているベルの頭をヘスティアが叩くと、ようやくベルは落ち着きを取り戻した。

 ベルが毛布から顔を出し、ヘスティアの顔を覗き込む。

 

 「話……ですか?」

 

 「うん、アルくんもよく聞いておくように!」

 

 「かしこまりました。」

 

 ソファに三人で並んで座ると、ヘスティアが本を片手に話し始めた。

 

 「いいかい?これは魔導書(グリモア)だ。」

 

 「魔導書(グリモア)……。

 確か本屋の店主も同じ言葉を仰っていたような……。」

 

 「読むだけで資質に応じた魔法を発現させる本。まさに魔法の本、だね。」

 

 ほほぉ、とベルとアルは感嘆した。

 世の中にはそんな不思議なものもあるのだと知れば、凄いと思っても無理はない。

 ちょっと能天気な二人をよそに、ヘスティアが続けた。

 

 「それで、こんなものどこで手に入れてきたんだい?」

 

 「酒場で借りたんです。誰かの忘れものだから読んでみればって……。」

 

 「誰かの忘れ物ぉ?!アルくんはさっき見たと思うけど、この通り!

 魔導書(グリモア)は誰かが一回読んじゃったらその効力を失うんだよ。」

 

 ヘスティアが本を横に広げると重力に任せてページが開いていく。

 どのページも白紙ばかりで、せいぜい日記帳か家計簿にしか使えないだろう。

 ベルもアルもそんな魔法の力を持つ本がガラクタになってしまったことに顔を青くした。

 ベルは大慌てで外に出ようとする。

 

 「どこに行くつもりだい、ベルくん!

 アルくんも謝罪の品を見繕うとするんじゃない!」

 

 アルは底なしの木箱をがっさがっさと漁っていた。

 もちろん本当の持ち主に何かしらの形で弁償するためである。

 

 「とにかく謝って弁償しま」

 

 「無理だ。

 並大抵のものじゃ弁償なんてできやしまいから、アルくんもそこまでにしなよ。

 いいかい?魔導書(グリモア)はヘファイストス・ファミリアの一級品の武具と同等かそれ以上の値段で取引されてるんだ。」

 

 ベルは頭が真っ白になり、アルは手が止まった。

 ヘスティアが食い気味に否定した理由が簡単に理解できてしまったのだ。

 特にアルは、目の前で椿の新作の鎧が1億ヴァリスと値をつけられていたのを知っている。

 そう、魔導書(グリモア)とは最低でも1億ヴァリスはする代物なのだ。

 今も廃墟同然の教会をホームとしているヘスティア・ファミリアでは到底支払う事は敵わないだろう。

 

 「いいかい、ベルくん、アルくん。この本は誰も読んでいない。

 そういうことにするんだ。あとはボクが何とかする。任せておきたまえ。」

 

 ぽんとベルの肩に手を置きながら、ヘスティアはサムズアップをした。

 そして何食わぬ顔でベルの横を通り過ぎて外へと向かおうとするヘスティアをベルもアルも引き留めた。

 

 「ダメですってばカミサマ!」

 

 「いくら払えないとはいえ謝罪をしないのは不味いのではないのですか?!」

 

 「止めるな二人とも!下界には綺麗事ですまないことが沢山あるんだ!

 世界は神より気まぐれなんだぞ!」

 

 「こんな時に名言生まないでください!」

 

 朝からヘスティア・ファミリアは大騒ぎであった。

 しかし、なにもヘスティア・ファミリアだけが騒ぎになっていたわけではない。

 ロキ・ファミリアだってひと悶着あったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ベルが魔導書のことで驚いている頃、黄昏の館に帰還したアイズは、困惑していた。

 ベルが二度目の逃亡をしてしまったからだ。

 リヴェリアの言う通りに膝枕はしたし、アルに許可も取った。

 だというのに、逃げられた。それだけで心がもやもやする。

 

 「帰ったか。どうだ、ちゃんと話せたのか?」

 

 「……ちゃった。」

 

 「なに?」

 

 「また、逃げられちゃった……。」

 

 アイズを出迎えたリヴェリアは、思わず笑ってしまった。

 ぷくっと拗ねて、困っている表情が子供らしく、可愛らしいものだったからだ。

 彼女の思惑は予想以上によい方向に働いたようだ。

 

 「ぷふっ……。」

 

 「あっ……!ふむー!」

 

 しかしリヴェリアに笑われたアイズは納得がいかない。

 言われた通りに立派に膝枕をした、頭だって撫でてやったのだ。

 いや、頭を撫でたのはベルの髪がもふもふしていて撫でてみたかったからという私欲が入り混じってはいたのだが、それでもちゃんと世話をしたのだ。

 だというのに、逃げられたのは自分ではなくリヴェリアのせいなのではないか?

 

 そんな納得がいかないという感情を、頬を膨らませぽこぽことリヴェリアを叩くことでしか表現できなかったアイズは、ある仕返しを思いついた。

 そう、つい先日リヴェリアが初めて見せた動揺を引き出してやろうというものであった。

 アイズは、親代わりの意外な一面を引き出せたときに無意識的に快楽を見出し、その方法を覚えていたのだ。

 自分も揶揄われたのだ、やり返したっていいはずだろう、アイズはそう思った。

 

 「……みんなに、言うから。」

 

 「何をだ?」

 

 「……背の大きい子と、一緒に歩いてたって。

 リヴェリア、あの子と楽しそうにしてたって、言うから。」

 

 「そっ、それはだな。彼が私の意図を汲み取ってくれただけなのだ。

 別に、大したことはないぞ?」

 

 「……気持ちを分かってもらえるぐらい、仲がいいんだね。」

 

 リヴェリアの長い耳が赤く染まっていく。

 アイズは初めてリヴェリアを単独でやり込めることが出来た。

 なんだか達成感すら感じていた。

 しかし、子供が親をからかう時、大抵の家庭では手痛いしっぺ返しと説教が返ってくるのが当たり前だろう。

 ロキ・ファミリアという家庭においても、それは変わらない。

 

 「アイズ……!説教が必要なようだな……!」

 

 「……おあいこ。」

 

 「そんなわけがあるかっ!そこになおれっ!」

 

 このとき、ロキ・ファミリアのもとに一人の客人が訪れていた。

 いくら見知った中とはいえ、客人がいるにもかかわらず怒鳴り散らしたリヴェリアは、やはり非常に動揺していたのだ。

 リヴェリアの怒号を聞いたその客人、エイナ・チュールは思わず震えあがったという。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 エイナは、ロキ、リヴェリアそしてアイズと同じ部屋で、静かに話を聞いていた。

 

 「まっ、よーするにソーマんとこの眷属(こども)たちはソーマのために働いとるんやない。酒がすべてなんや。」

 

 「なるほど……。」

 

 エイナがロキのもとを訪れた理由。

 それは、ソーマ・ファミリアの実態の調査である。

 ベルとアルのためというのもそうだが、ギルドとしてもソーマ・ファミリアの金への妄執は懸念事案であった。

 霧が立ち込めるほどの早朝、エイナは偶然にもアイテムを補充しに来たリヴェリアとロキにある商店で出会った。

 エイナはその機会に飛びつき、ロキから話を聞こうとしたというわけだ。 

 

 ロキ曰く、ソーマ・ファミリアは情も愛もない、酒と金のつながりだけのファミリアだ。

 ソーマ・ファミリアが市場に流す酒は、すべて失敗作。

 真の完成品は、ファミリア内で秘蔵される。

 神にすら危険と言わしめるほどの中毒性を持つその完成品は、ファミリアの冒険者を魅了して離さない。

 神ソーマは酒造りに必要な金銭を、稼ぎのいい冒険者を中毒患者にすることで上手く稼ぐ。

 冒険者は仲間を蹴落としてでも死にもの狂いで稼いで、一滴の美酒に酔う。

 

 上手なやり方、といえば聞こえはいいがやっていることは阿漕な商売、違法薬物を販売するような闇派閥(イヴィルス)と同レベルだ。

 エイナは、これはいつか必ずベルとアルに伝えなくてはいけないな、と気を引き締めた。

 

 「いや~エイナたんの役に立てて嬉しいわ~!」

 

 「はい、本当にありがとうございました。」

 

 「ほなウチはアイズたんのステイタス更新してくるから!

 いこ、アイズたん?そんなむくれた顔せぇへんと、な?」

 

 ロキ達と同じ部屋の扉の前で立っていたアイズは、頭にたんこぶを作っていた。

 ママの説教を食らったのと、まだベルに逃げられたことが尾を引いていて、ずっとむくれていたのだ。

 

 「柔肌蹂躙したるで~!」

 

 「変なことをしたら、切ります。」

 

 下世話なロキを冷たくあしらいながらアイズが部屋から出ていくと、エイナとリヴェリアだけが残った。

 リヴェリアは紅茶を少し口にして、エイナに話しかけた。

 

 「しかし、何故ソーマ・ファミリアのことを?」

 

 「えぇ、ギルドとしては彼らが何故お金に異様に拘るのか知る必要がありましたし……。私が担当している冒険者のコンビが、ソーマ・ファミリアのサポーターを雇い始めたので、気になったんです。」

 

 「お前がそこまで入れ込むとは、いったいどんな冒険者なんだ?」

 

 リヴェリアは、エイナとは古い付き合いだ。

 なにせ、エイナの母はリヴェリアの付き人であり、共に森を飛び出した仲間でもある。

 そんな縁の深いエイナが、いくら親切とはいえこうまでして調べものをしてあげる冒険者がいったい誰なのか気になったのだ。

 

 「あの、ベル・クラネルとアルトリウスという二人の新人なんです。以前リヴェリア様とアイズ・ヴァレンシュタイン氏に助けていただいたとかで、一時お礼を言う機会を作ってほしいと頼まれたのですが、もう必要がないと言われまして……。どうしたのかな、二人とも……。」

 

 「そ、そうか……。あの子達なのか……。」

 

 「やっぱりもうお知り合いだったんですね!」

 

 「まぁ色々とな……。」

 

 リヴェリアは、まさかエイナからアルやベルに繋がるとは思ってもみなかった。

 しかし、これはある意味チャンスだ。

 エイナからみて、ベルの人柄がどうか聞ければアイズにとって接触に値する人間かどうか値踏みできる。

 アルのことを聞いて知れば、少しは心の中のざわめきも落ち着かせられるかもしれない。

 

 「その、どうなんだ。そのコンビは。」

 

 「ちょっと言うこと聞かない時もありますが、聞き分けが良くていい子たちです。

 短い付き合いですけど、二人とも底抜けの善人ですよ。

 ギルドの職員に対しても丁寧に接してくれますし。」

 

 「そうか。お前の見立てならばそういうことなのだろうな……。」

 

 リヴェリアはエイナの評価に納得した。

 アルのことは最近知ったばかりだが、生粋の騎士道精神を持つ紳士であると確信している。

 そのアルがベルのことを高く評価していることや、ベルが酒場でベートにそしられたにもかかわらず感謝を述べてきたことから、ベルもいい人間であるだろうとは思っていたのだ。

 エイナの言葉で、それが決定的になった。それだけのことだ。

 

 むしろこれからがリヴェリアの本題といえよう。

 どうにも気になるアルの私生活やあの悪癖のことを聞こうというのだ。

 しかし、いざ聞こうと思うと、リヴェリアは落ち着かなくなってしまう。

 膝の上で両手を組んで、指同士を弄びながらおずおずと聞き始めた。

 

 「実はだな、そのアルトリウスという冒険者とは少しだけ付き合いがあるのだ。」

 

 「そうなんですか?!アルくんそんなこと言ってなかったな……。」

 

 「そ、それでだぞ?あいつは女を矢鱈に口説いたり、歯が浮くような言葉をべらべらと喋ったりするのか?」

 

 「えっ?アルくんはむしろ寡黙というか、恋人とか恋愛といったものには無縁に見えます。少なくとも、女性を口説いているところは想像できません。」

 

 「ほ、本当か?」

 

 「えぇ。けど、どうしてリヴェリア様がアルくんのことを気にしているのですか?」

 

 「い、いや、それはだな。山よりも高い事情があるのだ。」 

 

 エイナがリヴェリアのことを訝しむのも当然と言える。

 どう考えても不自然だ。

 どうして【九魔姫(ナインヘル)】と名高いリヴェリアが、新人のアルトリウスの女性関係を気にすることがあるだろうか。

 あるはずがない、あるわけがない。

 しかし、エイナの目の前に座るリヴェリアはどこか嬉しそうな顔をしているではないか。

 

 そう、リヴェリアは理由は分からないが、アルが女性関係とは無縁と聞いて嬉しくなっていたのだ。

 甘く優しい言葉を投げかけてくれるのも、ただの一人の淑女らしく扱ってくれるのも、名前を呼ぶことに四苦八苦してくれるのも、すべて自分に対してだけだ。

 アルにとって自身が特別である、そう思うと心の臓が僅かに早く動く。

 大抵の人間は、ここで恋や愛だと決定するだろう。

 しかし、そこは筋金入りの恋愛素人。

 百と数十年の間貞操を護り続けてきた鉄の処女は、そう簡単に愛だの恋だのとはいかない。

 ちょっと誠実で可愛い存在が、自分にとってより大切になっただけのことと決めつけている。

 

 もしそんなリヴェリアの考えをロキが知っていたら、甘酸っぱさに吐き気を催し、ママがアルの手でどんどん乙女になっていくことに血涙を流していたことだろう。

 しかし、ロキはその時とんでもないビッグニュースに興奮していた。

 

 「アイズたん、レベル6きた~!!!」

 

 興奮して叫んだロキの言葉によって、エイナは手を付けていた紅茶を豪快に噴き出した。

 この日オラリオに、新たなレベル6が誕生した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そんなビッグニュースが黄昏の館で響き渡る少し前、アルとベルは豊穣の女主人で頭を下げていた。

 

 「すみませんすみませんすみません!」

 

 「いかなる沙汰もお受けいたします。大変申し訳ないことをいたしました。」

 

 「それは大変なことをしてしまいましたね、ベルさん……。」

 

 シルが演技がかった動きでよよ、と涙を流す。

 その様子を見たベルは大慌てで指摘した。

 

 「え、っちょ、なにさも無関係みたいに言ってるんですか?!」

 

 「やっぱりダメ、ですか?」

 

 「すっごく可愛いけど、ダメです。」

 

 「てへ!」

 

 アルは頭を下げながら、やはりシルは末恐ろしいなぁと感嘆した。

 こうもベルが上手く手玉に取られていると、感心せざるを得ないだろう。

 そんなやり取りのなかで、パラパラと魔導書(グリモア)をめくっていたミアは、どさっとゴミ箱にそれを放り込んだ。

 突然の行動に、アルは驚いた。

 

 「み、ミア殿……?」

 

 「忘れな。」

 

 「いや、しかし……。」

 

 「こんなもの、忘れて行ったやつが悪いんだよ。」

 

 「いや、けど僕が読んじゃったのは事実ですし……。」

 

 うだうだとどうにもならない事に納得がいっていない二人を、ミアはすごく怖い顔でにらみつけた。

 その様子を見たベルとアルは震えあがった。

 

 「だ、ダンジョン行ってきます!」

 

 「失礼いたしました!!」

 

 二人は一目散にミアから逃げて、リリとの待ち合わせの場所に走った。

 いつもならリリはすでに来ている頃だと気が付き、最初は逃走目的であったが、しだいにリリとの合流目的で走っていた。

 しかし到着しても、予想に反してリリの姿はなかった。

 

 「はぁっ、はぁっ……。リリ、いない、みたいだね……!」

 

 「ぜぇ、ぜぇ……。そのようだな……。珍しい……。」

 

 「ん?あれ、リリじゃない……?リリっ!」

 

 息を切らしながらリリを探していたベルは、植え込みの陰で誰かに絡まれているリリを見つけた。

 ベルが思わずそこに駆け出そうとすると、そこに割って入る人物がいた。

 アルもベルもその人物の顔は鮮明に覚えている。

 

 「あなたは、あの時の……!」

 

 「お前ら、あの餓鬼とつるんでんのか。

 つぅことは何も知らないってわけじゃなさそうだ。」

 

 「貴公とかわす言葉などない、行くぞベル。」

 

 アルはベルをつれてその人物、すなわちパルゥムの少女を町中で剣を振りかざしながら追いかけていた冒険者から離れようとする。

 しかし、その男はアルの腰鎧をぐいと掴んで引き留める。

 

 「待てよ、そんなに独り占めしたいのか?

 人数は多い方がいい、俺に協力しろ。一緒にあいつをハメるぞ。」

 

 「な、なにを言ってるんですか……!」

 

 「そんなリアクションするなよ。

 お前らだってあいつの溜め込んでる金、狙ってんだろ。

 協力して荷物持ちの役立たずからふんだくろうぜ……な?」

 

 にやついた冒険者に向かって、ベルは怒りをあらわにして言い放った。

 

 「絶対に嫌だ!断る!」

 

 それに、アルも同調する。

 

 「あぁ、お断りだとも、外道。一人で誰かを蹴落とすことも出来ぬ貴公には、ハイエナという言葉すらふさわしくない。早く去れ、もしもう一度顔を見せてみろ。その耳を切り落として暗月の神に捧げてやろう。」

 

 二人は猛烈に怒っていた。

 アルもベルも、自分の大切な人のためなら、他人のためならどこまでも優しく、どこまでも暖かく、そしてどこまでも怒ることが出来る。

 二人にとってリリは決して役立たずでも金づるでもない。

 大切なパーティーのメンバーであり、経験豊富なサポーターという立派な役割を担っているのだ。

 侮辱されて黙っていられるはずはなかった。

 

 二人の苛烈な態度を見て、話が通じないと思った男は、舌打ちをして去っていった。

 その背中を二人はじっと睨みつけた。

 絶対にリリを傷つけさせないように、その姿を忘れないために。

 

 「お二人とも、あの冒険者様と何を話してらしたんですか?」

 

 「あぁ、いやなんでもないよ!世間話みたいなものだよ!ね、アル!」

 

 「そ、そうだとも!今日も良い日柄だからな!

 太陽の導きがあるようにと互いの幸運を祈っただけの事!わっはっは!」

 

 いつの間にか後ろにいたリリに声をかけられて、二人は慌てた。

 リリを不安にさせるわけにはいかない。

 二人はオーバーアクションのせいであからさますぎる嘘を懸命についた。

 そして、リリが絡まれていた場面を見ていたベルはリリの無事を気にした。

 

 「そういえばリリ、絡まれていたみたいだけど、大丈夫?」

 

 「おぉ、おぉ、そうだ。怪我などはしていないか?」

 

 「大丈夫ですよ。さっさと行きましょう。」

 

 心配する二人の横をリリはつかつかと通り過ぎていく。

 そんな様子を、ベルは不思議に思った。 

 いつものように笑って、気にしないでください、と返してくれると思っていたからだ。

 

 二人よりも前を歩くリリは、誰にも聞こえないほど小さい声で呟いた。

 

 「……もう潮時かぁ。」

 

 その声はどこまでも細く、悲しげであった。

 何事にも始まりと終わりがある。

 変化があって、その中にはいいものも悪いものもある。

 三人は今までのままではいられなくなりつつあった。





 ソーマ・ファミリアの失敗作

 ソーマ・ファミリアが 市場に流す美酒

 その味は どんな酒よりも美味いと謳われる

 しかし本物に囚われた 囚人たちは語る

 偽物では 本物には勝つことは出来ないと
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