ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか? 作:捻くれたハグルマ
アモールの広場
オラリオの南西に位置する 噴水広場
デートスポットとして 幅広い層に知られている
そこでは種族どころか 神と人の身分をも超えて
熱い恋愛模様を 見ることが出来るだろう
「うげぇ~……。頭痛い……。」
「あれだけ酔って帰られればそうもなりましょう……。」
「カミサマ、いったいどうしてそんなに飲んじゃったんですか?」
アルとベルは、二日酔いのヘスティアを介抱していた。
昨晩おびただしい酒のにおいを纏ってヘスティアが帰ってきたときには何事かと二人は心配したものだ。
もっとも、その原因が二人にあるとは、二人は知りようがなかった。
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「聞いてくれよミアハぁ!ベルくんが浮気してたんだぁ!
アルくんも全然止めようとしてなかったぁ!
くそぉ!そもそもなんなんだあの子はぁ!ベルくんもアルくんもボクのなんだぞぉ!」
バンバンと机をたたきながら、何杯も酒を飲み続けるヘスティアを、ミアハが優しくたしなめる。
「これこれ、二人とも誰のものでもないぞ。」
「ふんっ、言ってみただけさ!けどアルくんもアルくんさ!
こないだはロキのところのリヴェリアなんとかって子と遊んだっていうじゃないか!
それにヘファイストスのところの椿って子とも仲がいいみたいだし!
二人ともボクの知らないところで女の子と遊びすぎなんだよ全く!」
そう、ヘスティアは二人の無自覚の女たらしっぷりを嘆いてやけ酒をしていたのだ。
最初の原因は、ベルがリリと手をつなぎながら歩いていたところを見たからであった。
しかし、酒が進んでいくとどんどんと気に食わないところを思い出していく。
ベルはヘスティアではなくアイズ・ヴァレンシュタインに気があるばかりか、エイナ・チュールやリリルカ・アーデと一緒にいるところも目撃されている。
ヘスティアが知らないところでは、シル・フローヴァやフレイヤなんかもベルを狙っているような節がある。
ベルだけでもヘスティアの悩みの種であるのに、アルが最近ベルを追い上げてきた。
アルは顔が見えない兜をしているから、きっと大丈夫だという慢心があった。
しかし、普段の誠実な態度と
まず、アルは食材を調達したり、日用品を用立てたりと街の女性たちと関わることが多い。
大抵の冒険者は荒くれものでろくに品位もありはしない。
しかし、アルはどんな人間にも丁寧に接する。
まるでお姫様になった気分を味わえるということで地味に人気があるのだ。
強さなどでは比べ物にならないが、モテ方はフィンに通ずるものがある。
そして、
ベルの場合は女神を守って戦ったということもあって、二人セットで一つのお話になっているが、アルは単独で話題になる。
市民のために戦った英雄に女性の影なしともなれば女性からの人気が上がるのも頷けるというものだ。
バイトでよく人と話すヘスティアは、アルの人気が高まっていることに当然気が付いていた。
そこに、リヴェリアとのデート話や、椿との鎧談義などがアル本人から伝えられれば、それはもうヘスティアは心がざわめいて仕方がない。
こうして酒を飲んで発散しているだけ健全なのかもしれないのだ。
「あぁ~!ベルくーん、アルくーん、どこにもいかないでおくれ~!愛しているよ~!」
ヘスティアの愛の告白が、夜の通りに響き渡る。
付き合わされているミアハは、やれやれといった顔でヘスティアをなだめるのであった。
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とまぁこんな訳で、ヘスティアは心の悩みを吹き飛ばす代わりに頭痛に苦しむことになったわけだ。
「あの、カミサマ。こんな時になんですが次のバイトのお休みっていつですか?」
「休み?なんでだい?」
「実はここ最近の稼ぎが向上いたしまして、このようであればヘスティア様に御恩を返せるのではないか、と。」
「そうなんです。だから、みんなでちょっといいご飯でも食べに行きたいなって。」
ヘスティアは頭痛がぶっ飛ぶほど嬉しくなった。
ベルとアルがわざわざ自身のために時間を作って出かけようと提案してくれているのだ。
神としても女としても嬉しくないはずがない。
ヘスティアの脳内ではこれは実質デートだな、と結論が出た。
「デートだね!今日行こう!」
「いや、しかし……。」
「今日行きたい!」
「え、でも……。」
「今日行くんだ!」
ヘスティアは二人を強引な三段活用でねじ伏せた。
自分の欲に忠実ということもあるが、この二人はすぐに女をひっかける。
早いに越したことはないという、計略も含んでいるのだ。
「しかしお体の方はよいのですか?」
「もーう治ったぁ!」
ぴょんぴょんとベッドから飛び降りて、ヘスティアは外出用の服を出そうとクローゼットを開ける。
しかし、気づいてしまった。
自分のにおいは可憐な女神のにおいではない、酒飲みのにおいであるということに。
これではデートが台無しである。
百年の恋も一瞬で冷めてしまうというものだ。
「ベルくん、アルくん!6時に南西のメインストリート、アモールの広場で集合だ!」
びしぃっと親指を立てたヘスティアは、意気揚々と神御用達の神殿浴場へと赴くのであった。
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「デートっ、デートっ、ふったりっとデート!」
足をパタパタと動かし水音を立てながら、ヘスティアは入浴を楽しんでいた。
デートの準備とあっては入浴にも気合が入る。
しっかりと湯につかっていると、ヘスティアに声をかける女神が現れた。
「あら、ヘスティア?」
「やぁ、デメテル。久しぶり。」
デメテルはヘスティアと同郷の豊穣を司る女神だ。
ウェーブのかかった美しい山吹色の髪もさることながら、豊穣の女神ということもあって、その胸はとても豊満であった。
「相変わらず大きいわねぇ。」
「君にだって立派なものがあるだろう。」
デメテルが、彼女より小さいとはいえそれでも十二分に豊満なヘスティアの胸を触ろうとするのを、その手を払うことで、ヘスティアは回避する。
こうした冗談が通用するのも、彼女たちがとても近い間柄であるからだ。
デメテルはそのままヘスティアの隣で湯につかる。
「でも驚いたわ。あなたがこの神殿浴場を訪れるなんて初めてじゃない?」
「へへん、実はこの後約束があってね。気合いを入れようかと。」
「まさか、お相手は殿方なの?」
「だったらなんだっていうのさ。」
「あらあらまぁまぁ、ヘスティアが!ねぇみんなぁ!」
デメテルが大きな声を上げると、ぞろぞろと女神たちが集まってくる。
「あのヘスティアが?!」
「天界じゃこれっぽっちも男っ気がなかったヘスティアが?!」
女性が、いや人や神が恋や愛の話に夢中になるのはよくあることだ。
しかし、それがヘスティアのこととなるとその興味は一般のそれを凌駕する。
天界の中でも鉄壁のガードを誇っていた処女神の一角が、男と会う約束をするだなんて、ビッグニュース以外の何物でもない。
「「相手は誰?さぁ吐け!」」
当然、ヘスティアの相手にも興味が向く。
ヘスティアは恥ずかしそうに答える。
「相手はボクのファミリアの子たちだよ。二人ともヒューマンだ。」
「なんだ、デートじゃないの?」
「デートはデートさ!さて、ボクもう行かないと!」
湯から上がっていくヘスティアに、デメテルが最後に聞いた。
「ねぇ、ヘスティア。その子たちのどこが好きなの?」
「全部だよ!」
ヘスティアのその発言にアルの境遇などを含めてすべてを受け入れられるという慈愛と覚悟があったということは、女神たちには伝わるはずもなかった。
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ヘスティアがあれこれと身支度を整えているころ、アルとベルは街をぶらついていた。
アルは珍しく武器を持っていないばかりか鎧すら着ていない。
シンプルなシャツにズボンというフォーマルにもカジュアルにも見えるいでたちであった。
ちなみに手作りである。
アルほどのサイズとなると、オーダーメイドか手作りするしかない。
手を血まみれにしながら泣く泣く裁縫を習得したのはアルの良い思い出といえる。
「やっぱりアルはかっこいいよ。似合ってる。」
「いや、やはり鎧を着ていないと落ち着かんよ。それに貴公の方が男前だと思うぞ?」
「そうかなぁ……?
ところでさ、こうして二人で街を落ち着いて歩くのなんて初めてじゃない?」
「そうだな。普段はもっぱらダンジョンに赴いているし、
感慨にふけりながら色々みながら歩いていると、ふとある露店の前でアルの足が止まる。
そこにはそれなりにいい値段のする女もののアクセサリーが置かれていた。
「おや、その背丈。
もしかして
「えぇ、そうですが……。」
「そりゃ良かった!あんたのおかげでうちのカミさんが無事に帰ってきたんだよ。
ありがとうなぁ。」
「アルもすっかり有名人だ!」
「むむっ、そこのあんたはシルバーバックを倒したっていう坊主だな?
そんな白い髪をした奴なんてそうそういない。そうなんだろう?」
「ふふ、ベルも有名なようだな。」
二人はクスクスと笑いあった。
お互い、オラリオの市民から有名になっているとは知らなかったのだ。
自分たちの行いが街に広まっていることは、正直鼻が高かった。
「そうだ、二人にならカミさんも許してくれるだろう。
一人一個アクセサリーをプレゼントするよ。街の大きい騎士と小さい英雄への礼さ。」
「それはいけませんよ。一つ一つ丁寧な造りで手間もかかっていることが一目でわかる。
値段もかなり抑えているのでしょう?お気持ちだけで十分です。」
「そうですよ、アルはまだしも僕なんて全然ダメダメで……。」
「そう言いなさんなって。二人が有名になってくれりゃうちも名前が売れる。
どうか受け取ってくれやしないか?」
二人は一旦相談することにした。
「どうする?おじさんの厚意に甘えたとして、送り先なんてないよね?」
「……いや、あるぞ。」
「えっ?」
「まずは我らが主神ヘスティア様への贈り物。次に我らの命を救ってくれたリヴェリア……さんとアイズ殿だ。」
「アイズさんに……。」
二人は悩んだ。
店の主人に損をして貰えば、ベルは恋慕する対象のアイズか、主神であるヘスティアにプレゼントが出来る。
アルは迷惑をかけてばかりいる尊敬すべきリヴェリアにお礼を述べることか、バケモノである自分を受け入れてくれるヘスティアに恩返しすることが出来る。
かなりうまい話だ。
しかし、二人で一つずつもらうだけでは三人の対象にプレゼントは入手できないし、店主が損をしっぱなしということになる。
というわけで、ヘスティアへの贈り物は自分たちで稼いだ金で折半して買うことにし、ロキ・ファミリアの二人の贈り物は店主に甘えることにしようかということになった。
その旨を店主に伝えると、店主はにっこりと笑った。
「うちのカミさんの作品が神様につけてもらえるってんなら光栄なことだ。
わざわざ金を使ってくれてありがとうな。」
そういうわけで、ベルとアルはまずヘスティアのアクセサリーを吟味することにした。
露店に並ぶアクセサリーはすべて精巧な銀細工であった。
アンクレットやブレスレット、ネックレスにヘアアクセサリー、多種多様な銀細工のなかで、ベルはこれだというものを見つけた。
それはブレスレットであった。
シンプルなリングに、炎のような美しい文様が刻まれていて、小さく赤い宝石が埋め込まれている。
ヘスティアが付けていたとしても全く違和感のないものだろうという確信がベルにはあった。
「これ、どうかな?」
「いいんじゃないか?ヘスティア様の白い手袋に合うだろう。店主、おいくらですか?」
「5千ヴァリスでいいよ。カミさんの口癖でね。男が女にアクセサリーを選んでるときは安くしてやれってさ。そうすりゃ気軽にプレゼントが出来て男も女もハッピーだろうっていうんだ。
自分の作ったもので誰かが笑顔になってくれるんならそれが一番うれしいんだとさ。いい考え方をするだろう?」
「素敵な奥さんですね!」
「あぁ、とてもよい奥様なのでしょうね。」
「照れるねぇ。」
嬉しそうに頭を掻く店主を見ながら、アルもベルも微笑ましい気持ちになった。
互いに理解しあう幸せな夫婦の姿というものが、とても暖かく羨ましいものだと思えた。
そうして5千ヴァリスを店主に渡して、ヘスティアへの贈り物を受け取ると、今度は個人的な贈り物の吟味に入った。
アルは、感謝を伝える品として喜ばれるように、リヴェリアが使いそうなものを考えた。
まずはその姿をイメージする。
すらりとした立ち姿、凛とした表情や笑った時の表情、あらゆる角度からリヴェリアをイメージすると、最後に髪が思い浮かんだ。
長くて美しい萌黄色の髪を、リヴェリアは髪飾りで結わえているのを思いだした。
そうだ髪飾りだ、髪飾りなら使ってもらえるであろうと思って、アルはそれを探し始めた。
いろいろと探して、アルはようやく納得のいくものを見つけた。
群青の宝石がささやかに主張するヘアカフスだ。
彫刻もかなり丁寧で品がよく、リヴェリアが付けていても全く違和感のないものだとアルは頭の中のリヴェリアに着けてもらうことで確認した。
「店主、こちらをいただきたいのですが、よろしいですか?」
「あの、これ頂きたいんですけど……。」
どうやらベルもアルと同時に決断したらしい。
ベルがそっと手に持っているのはネックレスだ。
白い宝石の入ったチャームが揺れていて可愛らしいデザインのものだった。
「二人ともお目が高い!両方ともカミさんが上手くできたっていってたものの一つさ。
それに、今更だが最初に選んでたブレスレットだってカミさんの傑作だったんだぜ?
全くいい買い物するよ、二人とも。」
「恐縮です。」
「ありがとうございます!」
「そうだ、さっきのブレスレットも貸してくれ。
一つずついい具合に包装してやるよ。俺は包装は大得意なんだ。」
店主に言われるがままにブレスレット、ヘアカフス、ネックレスを渡すと手際よく黒い箱に入れてリボンを巻いていく。
赤いリボンで巻かれた箱、青いリボンで巻かれた箱、白いリボンで巻かれた箱が二人の前に現れる。
「ほら、できた。どうだい?中々いい手際だったろ?」
「凄いです。こんなにきれいに一本のリボンで装飾を作れるなんて!」
「リボンの位置も箱を見比べてみてもほとんどずれていない。お見事です。」
「へへ、毎度。またいい取引をしよう。」
紙の袋に三つの箱を入れて、店主が二人に手渡した。
快い店主に丁寧に礼をして、アルとベルはアモールの広場へと向かうのであった。
その道すがら、ベルはぽつりと語った。
「僕、アイズさんとちゃんと話せるようになって、立派になったらこれを渡すよ。」
「そうか、ベルがそうするというなら私もそうしよう。
しかし立派になったという基準はどうする?」
「でっかいホームが手に入ったらでどうかな?」
「決まりだな。ロキ・ファミリアに劣らぬ大きなホームを手に入れた暁には、このアクセサリーを送ることにしよう。」
二人は、また約束を交わした。
早く強くなりたいという思いを胸に抱きながら、待ち合わせ場所へと急ぐのであった。
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しかし、二人の力強い意思は広場の雰囲気に打ち砕かれることになる。
あからさまにいちゃついている男女のカップルが多すぎるのだ。
なんだか落ち着かないし、むず痒さを感じずにはいられないスポットだった。
「これは……落ち着かんな。」
「そうだね……。」
「ベルくん、アルくん。お待たせ。待たせちゃったかい?」
そこにはいつもとは違った様相のヘスティアがいた。
髪を下ろし、服もいつも来ているものとは別物で、何より象徴的なひもがない。
「いえ、全然!僕らも今来たところですから!」
「たとえ待たされることとなったとしても、貴方を待つのであれば一瞬でございますよ。」
「ふふっ、本当に二人はいい子だねぇ。よし、じゃあ……。」
そっとヘスティアが二人に手を伸ばそうとすると、がさがさっと音を立てて幾人かの女神たちが現れた。
「おぉあれが噂の!」
「ヘスティアの男ね!」
そう言って、ドーンとヘスティアを突き飛ばし、ベルとアルを囲って、争奪戦をおっぱじめた。
「こっちの可愛い子ゲットぉ!」
「やだ、あなた男前ね!ヘスティアよりも私とデートしましょ?」
「あぁ、離してくださいっ!うわぁっ!」
「くっ、お戯れをっ!あぁ、おやめくださいっ!」
二人がもみくちゃにされているのを輪の外から呆然と眺めることしかできないヘスティアのそばにまたもやデメテルが現れた。
「ごめんなさいね、ヘスティア。気になってついてきちゃったの。」
こうなっては最早どうしようもない。ベルは上からぐいぐいと押しつぶされてしまって身動きが取れない。
アルは下手に動いてケガをさせてしまってはいけないと遠慮してしまっている。
しかし、ヘスティアとの外出の約束は果たさなければならない。
アルは、自分が囮になることにした。
女神たちを撒くにはアルの巨体は邪魔以外の何物でもない。
アルは、押しつぶされているベルの襟首をつかみとって、ヘスティアの方に投げた。
「ベルッ、行けっ!眷属としての使命を託す!私の代わりにヘスティア様を頼んだぞ!」
「アルくん……!アルくんの犠牲は無駄にはしないっ!許してくれアルくん!ごちそうをテイクアウトして持って帰るからぁ!」
「ごめんよ、アルぅぅぅっ!!」
アルの意図を汲み取って、ヘスティアとベルは涙を流しながらアモールの広場から逃げ出す。
女神たちは、とっさの判断に遅れるが、すぐに持ち直して二人を追いかけようとする。
「ヘスティアが逃げたぞー!」
アルはその体を壁のようにして女神たちの行く手を阻むが、幾人かの女神たちの目の色が変わる。
その様子にアルは背筋がぞっとした。
それが捕食者の目だということに気が付いたのは、アルが冒険者として熟練してきたからなのだろうか。
「私はあなたみたいなクール系が好みだし……!」
「わらわも話題の騎士ともなれば、抱いてみたいのぉ!」
「くっ、退散っ!」
アルは女神の掴みをすんでのところで回避し、ヘスティアたちが向かった方角とは別の方角へと全力で駆けだした。
時には建物の陰に隠れ、時には屋根の上を借り、なんとか逃げ続けるも、女神たちは執拗に追いかけてくる。
アルは女神たちの獰猛さに恐怖を抱きながら、次の逃走経路を考えていると、路地裏の影からちょいちょいと自分を招いている手を見つけた。
近づいてくる女神たちの声に気が付いたアルは、その一縷の希望にすがった。
「よっ、なんや困っとるらしいやん自分。助けてやってもええで?」
そこには酒瓶片手に、にやにやと笑うロキが立っていた。
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「おねえちゃん!ウチのワインは?」
「こちらでございます。どうぞごゆっくり。」
ロキはあの後、口八丁手八丁で女神たちを欺き、見事にとんちんかんな方向へ誘導していた。
天界のトリックスターとうたわれた彼女の片鱗に、アルは感嘆せずにはいられなかった。
しかし、アルはなぜ今酒場のテラス席でロキと共に座っているかわからなかった。
「あの、神ロキ。私はどうしてこのようなところに……?」
「そりゃあ決まっとるやろ。リヴェリアたんをたぶらかした間男をとっちめるためや!」
「誑かすなど、私は卑小な人間にございます。あの御方にとって私は大した存在ではありませんよ。四騎士のように立派な騎士であれば話は別でしょうが……。」
「くっ、この馬鹿真面目っぷりが刺さったっちゅうんか……!まぁさっきのは冗談や。自分、魔法出たらしいやん?教えてもらおか、どんな魔法なんか。それと、あのドチビが何を考え何を感じてお前を家に置いてんのか。どうせその日に聞いたんやろ?聞かせて欲しいなぁ。」
ロキは、
アルに魔法が発現したのも、リヴェリアがアルを気にかけていたことも事実だと確認したロキは色々と悩んだ。
アルについては危険度の更新と監視の強化を急ぐ必要がある。
リヴェリアについては、本当にクロなのか見極めがいる段階だと判断し、いったん保留にすることした。
とにもかくにも取りあえずはアルに会ってみようということになったのだ。
アルはこのロキの思惑を見抜き、気を引き締めた。
下手に受け答えをすればまたトラブルになる。
アルはゆっくりと口を開いた。
「まず、ヘスティア様のことからお話ししましょう。
そうすれば魔法の説明も幾分か楽になります。
貴方の推測通り、ヘスティア様は私に恐怖を感じていたそうです。そして、恐怖を感じたうえでそれでも私を受け入れてくださると仰ってくださいました。」
「ほ~ん、ドチビもつくづく甘い奴やなぁ。それで、恐怖を感じたんは深淵が原因なんか?」
「いえ、私の存在自体が異質だそうです。
私の中には数え切れないほどの
「なるほどなぁ……。あの色ボケの表現も納得や……。」
ロキは意外にも、すんなり受け入れられた。
それは、フレイヤがロキに伝えたアルの魂の色の表現を覚えていたからだ。
色をぐちゃぐちゃに混ぜたような魂、様々なものを見せてくる魂、そういった表現がどうして出てきたのか、あの時のロキにはわからなかった。
しかし今なら分かる。要は単純な話だ。
沢山な魂を同時に見れば、色は混じるし、様々な様相を見せることになる。
「そして、私の魔法はいわばその魂から力を借りるもの。その魂が誰かに教えてきたものを、私にも教えてくれるものなのだと思います。」
「つまり自分の中にヤバい魂があったらその力も使えるようになるっちゅうことか?
やっぱお前危ないな。」
「いえ、そう簡単にはいかないようです。この魔法を使っていると、少しだけ魂とつながっているような気がしますが、すべてを教えてくれるわけではないのです。なにやら私が未熟だからということらしいです。」
「魂に意思があるっちゅうんか?!」
「恐らくは、そうなのでしょう。」
アルは、深淵を発露させて以来、自身の中のソウルが蠢いているのをわずかだが感じ取っていた。
それが魔法を使えばより顕著になる。
まるで誰かと話しているかのような気分になるのだ。
「本で読んでも、意思のある魂を取り込める存在のことなど書いていませんでした。
ただ私はたった一つ、魂を取り込み力にする存在を知っている。」
「神であるウチですら魂をたくさん持つ奴なんて聞いたことない。なんなんや、そいつは。」
「不死人、あるいは灰。ただ一人を除いて、使命という因果から死んでも逃れられなかった者たちです。」
「字面からして死なない、死ねない存在ってことみたいやけど……。その一人ってのはどうして因果から逃れられたんや?」
「因果の世界を終わらせたから、と聞いております。」
全部嘘ではない、全部本気で語っているとロキには分かった。
とすれば、また神のコネクションをふんだんに利用して調べ尽くさねばならない。
ただでさえ深淵というものがなんであるか理解が進んでいないのに、不死性を持ちながら世界を終わらせた存在なんてものを調べるとなると更なる苦行になるだろう。
アル以外の気がかりな事件も調べなくてはいけない時にこんな新情報は死刑宣告と同義だ。
というか、神たちが生まれた時に世界というものが始まって、今のオラリオに繋がっているのだ。
もし世界が終わっているというのなら、自分たちが生まれる前ということになる。
自分たちが生まれる前のことなど、いくら全知である神とはいえ知りようがない。
ロキは思いきり酒をあおった。
やけ酒に走って今は考えないようにする、というのがロキの出した結論であった。
どのみちただ一人知っていそうな神を締めあげるだけだと考えたのだ。
「もうお前の事調べるのやめたいわ……。」
「ははは、けれど貴方は知ろうとするのでしょう?」
「ウチの子供のためやからな……。あっ、リヴェリアたんにはウチのことよく言うといて!
子供思いの神様におっぱいの一つや二つもませてあげるべきですって言うんや!」
「丁重に断らせていただきます。貴方の優しさは皆様に伝わっているでしょうが、下世話な発言が評価をおとしていますよ。」
「けっ、ウチは絶対お前より先にリヴェリアのおっぱいもんだるからな!おねぇちゃんビール持ってきてや、ビール!」
「ははは、あの方に触れるなんて恐れ多いことを……。そうだ、お酌は致しますよ。」
アルは、ベルとヘスティアとの合流を諦め、助けてもらった感謝の気持ちを込めて、ロキの酒盛りと諸々の愚痴に延々と付き合った。
アルが解放されたのは、空が白み始めた頃であった。
ちなみに、酒代はすべてアル持ちだった。
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ロキは酒をしこたま飲んだ直後、すぐにギルドに赴いていた。
「すまんなぁ、ウラノス。また来てもうたわ。」
「今度は何の用だ。」
ギルドの最奥の玉座で静かに座る神ウラノスは表情を一つも変えることなく、突然来訪してきたロキを見つめた。
天空の神ウラノス、彼は世界のために祈祷を行いダンジョンとモンスターを鎮める役を担っている。
そしてその役目故に、他の神よりもはるかに立場が高く、下界においての神の力の解放の許可を出すこともできる。
ロキは、彼ならば世界の始まる前を知っているのではないかと狙いをつけたのだ。
「深淵、不死人、灰……。聞き覚えは?」
「ある。」
ロキは驚きを隠せなかった。
ウラノスには秘密主義的な一面があると思っていたからだ。
たとえ何かを知っていたとしても、それを隠すと思っていたのにこうも素直に答えられてしまったら、困惑しない方が無理がある。
「ほぉ……。何を知ってるんか教えてもらうことはできるか?」
「それは駄目だ。我らはすでに彼らの、それらの、いや彼の逆鱗に触れた。」
「どういうことや。何で彼らでそれらで彼なんや。何を隠してる!」
「我らがダンジョンを封じたことで、彼の思惑を阻害した。ただそれだけのこと。
ロキよ。王の長子に手を出すな。あれは、彼が我らに残した最大限の譲歩の形なのだ。」
ロキはウラノスをにらみつけた。
ウラノスはそれでもなお悠然と座っていた。
ロキは、その態度を見てこれ以上の情報は引き出せないと思い、無言で立ち去った。
「王よ、神をも殺す者よ。お前の長子はお前の意志を、使命を果たせるか……?」
ウラノスが呟いた言葉が、暗い部屋に小さく響いた。
ヘスティアのブレスレット
ヘスティアに 二人の眷属たちから贈られたブレスレット
一人の眷属が代表し 星空のもとでそれを贈ったという
女神は二人の眷属の 真心に涙した
それ以来彼女の手首から 銀に輝く装身具が外れたことはほとんどない