ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか?   作:捻くれたハグルマ

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 土下座
 
 土下座とは、遠い東の国に伝わるという 最上級の謝罪を表す姿勢だ

 その這いつくばる姿は 見る者に 上下関係をわからせる

 しかし恐れたまえ とある禿げ頭の男は この姿勢を取ってなお

 反省することはなかったという

 後ろに 気を付けたまえ 気を許して蹴落とされたくなければ


第六話 鍛冶

 

 ダンジョンからの帰り道で、ベルとアルはヘファイストス・ファミリアのショーウィンドウにべったりと張り付いていた。

 

 「ねぇ、アル。僕ってどんな武器がいいんだろう?

 こっちのロングソードは60万ヴァリス、けどこのナイフは20万ヴァリス……。

 武器によって価格も違うしなぁ……。」

 

 「価格なぞ、後で考えることだぞベル。命を懸ける武器に金をかけずにどうするというのだ。

 まあ、ベルはナイフやショートソード、後は短い槍なんかも合うやも知れぬ。

 それに、貴公は力より速さと技で切るタイプだからな。当てるだけでスパリと切れるような切れ味のいい武器が望ましいだろう。」

 

 「やっぱりそうだよねぇ……。あぁ、かっこいいなぁ……。」

 

 ピカピカの武器を羨ましそうに眺めているベルと、それに付き合うアルに後ろから声をかける髪の長い男が現れた。

 

 「ベルとアルではないか。今日もダンジョン帰りか?」

 

 「おぉ、ミアハ様。そうです、今帰ったところです。」

 

 「すいませんミアハ様、買えもしないのに張り付いたら迷惑ですよね。」

 

 「謝ることは無かろう。」

 

 その手に紙袋を掲げて、優し気に話すその男は神である。

 名はミアハ、薬剤を製造して販売している商業系ファミリアの主神だ。

 ミアハ・ファミリアはヘスティア・ファミリアと同様に貧乏ファミリアで、ベルやアルがよく通うファミリアでもある。

 

 「ミアハ様は、神様の宴に参加なさらないんですか?」

 

 「うん、お誘いはあったのだがな。弱小ファミリア故、商品の調合に明け暮れていてな。

 そうだ、ほれ、これをやろう。」

 

 ミアハがポケットから取り出したのは二本の回復薬(ポーション)であった。

 綺麗な水色をした液体が小さな試験管の中で揺れている。

 

 「頂けませんよ、そんな!」

 

 「なに、良き隣人へのゴマすりだ。今後ともよろしく頼む。」

 

 ミアハのその様子を見ていたアルは、あまり気分がよくなかった。

 

 「ミアハ様、もしや無料で配り歩いているのですか、ナァーザ殿が丹精込めて作ったポーションを。」

 

 「うむ、全てではないが、いくつかな。」

 

 ナァーザというのはミアハの眷属の犬人(シアンスロープ)の女薬師の事だ。

 アルは、彼女が自身の主神の行き過ぎた慈愛を小さな声でぼやいていたのを覚えていたのだった。

 

 「ミアハ様、恐れながら申し上げます。ミアハ様がかように慈悲を振りまいていてはナァーザ殿の苦労が浮かばれませぬ。

 それに、多くの冒険者は貴方様の慈悲のことなど忘れて、二度と店には来ないでしょう。それではナァーザ殿がタダ働きになってしまう。」

 

 「ふむ、一理あるな。しかし、宣伝は必要だろう?」

 

 「ですから、話を聞いて店に来てくれたものだけが、恩恵を受けられるようにすればよいのです。

 割引券なるものを配ってみたり、新規の客を連れてきた顧客を優遇したりするのですよ。

 あと、今いる顧客を大切にするなら、特別な会員ということにして、客に対するサービスを少し格上げすればよいでしょう。」

 

 アルは騎士を目指す身ではあったが、それ以前は農業をやったり、魚を釣ったりし、必要な食糧を超えたものは売るなどして生計を立てていた。

 もとより彼の母は世間知らずで、金勘定とは無縁なのだ。

 彼がそうせざるを得なかった事情があったために、商業系の知識は少したくわえがあったのだ。

 

 「すごいや、アル!名案ですよ、ミアハ様!」

 

 「あぁ、ありがとう。これでナァーザに怒られなくて済む。では、このポーションはアイデア料ということにしておこう。」

 

 「それならば、頂けます。神に具申するなど、おこがましいことをしました。」

 

 「よいよい。ではな、二人とも。」

 

 心優しい神とのふれあいに、二人は自分たちの慈悲深い主神を思い起こされていた。

 

 「アル、今ヘスティア様の事考えてたでしょ?」

 

 「おぉ、貴公もか。ふふ、気が合うな。」

 

 二人は星空を見上げて、主神の身を案じるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そのヘスティアは、ヘファイストスに手を引っ張られて連れてこられた彼女の部屋で這いつくばっていた。

 

 「で、ヘスティア。私の部屋についてそうそう何してるの?」

 

 「土下座!タケから聞いた、お願いと謝罪をするときの最終奥義!」

 

 「はぁ、またあんたは変なこと吹き込まれて……。」

 

 友神の教えたことを何の疑いもなく実行するヘスティアに溜息をつきながら、ヘファイストスは自身の執務用の椅子から立ち上がった。

 

 「あんたに武器を作ってほしいって言われて、金を貯めてこいだとか、駆け出しに作る武器はない、とか言おうと思ってたわ。

 けど、私の質問に答えてくれるなら少しくらいは協力してあげないこともないわよ。」

 

 「本当かい?!」

 

 ヘスティアはガバリと顔を上げた。

 嬉しくて嬉しくてたまらない、神友の君がそういってくれて嬉しいと言っているようなヘスティアの笑顔に、ヘファイストスは絆されそうになる。

 しかし、何が何でも聞かねばならないことがあるヘファイストスは毅然とした態度を維持した。

 

 「ヘスティア、あんたが見せてくれた石板、もう一度見せてくれるかしら。」

 

 「これかい?いいよ!『楔石の原盤』っていうらしいんだけど、ヘファイストスなら原産地とか知ってるんじゃないかと思ってさ。

 ボクの眷属のお母さんの出身地の鍛冶素材らしいんだけど、見覚えあるかい?」

 

 楔石の原盤をヘスティアから受け取り、あらゆる角度から観察したヘファイストスは、震えていた。

 彼女は自身の考えが間違っていてほしいと祈った。

 こんなことがあっていいものか、それよりも、目の前にいるダメで小さいけれど大切な友神が得体のしれないものを抱え込んでいるのではないかと思っていた。

 

 「落ち着いて聞いてね。私はこんなもの見たことがない。打ったこともない。鍛冶の神としての私の腕に誓って、嘘は言ってないわ。」

 

 その言葉にヘスティアは、普段の穏やかで、どこかお気楽な思考から冷静なものへと瞬時に切り替えた。

 鍛冶の神が、それも最高峰の腕を持つヘファイストスが、その腕にかけて見たことがないと言い切った。

 それはつまり、楔石の原盤なるものは「天界にすら存在しないもの」ということかもしれないからだ。

 

 「一応聞いておくけど、その石板が鍛冶素材にもならないようなガラクタってことではないんだろう?」

 

 「むしろ、私が見た中で最高の素材『だろう』、と思うわ。使ってみないとわからないけれどね。

 アダマンタイト、ミスリル、ヒヒイロカネ、オリハルコン。どれも使ったことがある私からしても、これに比べたら全部石くずね。」

 

 ヘファイストスが例に挙げた金属はすべて最上級の金属で、神の武器にすら使われることもある。 

 それを石屑にしてしまうようなものを、アルは「数枚渡された」と言っていたことに、ヘスティアは目がくらくらしていた。

 

 「この石は、ただの金属の原石じゃない。この刻まれた文字、神聖文字ではないけれど、なんとなくわかるわ。

 強い呪文のようなことが書いてある。いえ、むしろ神話に近いのかしら。

 どんな武具でも神話の存在にしてしまうような、そんな素材だと思う。」

 

 「アルくんも言ってた。アルくんのお母さんが、丹念に鍛えた武器ならば数打ちのものでも神のものになるって教えてくれたって……。」

 

 二人の間に緊張が走っていた。

 とんでもないものを持ってきてしまった、持ってこられてしまった。

 自分の想像していた以上にとんでもない眷属がいることに気づいた、神友の住まいにバケモノか、その親類がいることに気づいた。

 

 「そのアルって子、あんたは信じれる?」

 

 「うん。ちょっとビックリしたけど、アルくんはボクの大事な子供なんだ。」

 

 真剣なヘスティアの表情に、これは梃でも動かないな、とヘファイストスはあきらめた。

 本来なら、ギルドに突き出せだとか、縁を切ったほうがいいとか言おうとしていたのだが、無理だと感じさせられた。

 だから、次の質問に移ることにした。

 

 「じゃあ、次。なんであんたは『今』、ヘファイストスの武器を欲しがるの?」

 

 「ベルくんとアルくんが『今』変わろうとしてるから。

 彼らは英雄になろうとしている。高く険しく危険な道だ、絶対に力が必要になる。

 アルくんは自分の信じる聖剣を持っているけれど、ベルくんにはないんだ。

 英雄を英雄たらしめるベルくんだけの武器が!運命を切り開く刃が!

 ボクはベルくんの力になりたいんだ!」

 

 拳を握りしめて、ヘファイストスに思いを伝えていく。

 ヘスティアが絶対に眷属には伝えられない思いを。

 

 「ボクは二人にずっと助けられてきた。ひたすら養ってもらってばっかりで、与えられるものがない駄女神さ。

 ボクだって、ボクだって、何もできないのはもう嫌なんだよ……。」

 

 泣きそうなほどに悔しげな顔は、心優しき鍛冶の女神を納得させた。

 

 「分かったわ。武器、作ってあげる。あんたの子にね!」

 

 「ありがとう、ヘファイストス!」

 

 「ただし、びた一文だってまけないわ。それと、アルって子に会わせてくれる?」

 

 「勿論だよ!」

 

 二人は抱き合って、契約した。

 ここからは、鍛冶の女神の本領が発揮される時だ。

 ヘファイストスは、壁にかけられたいくつもの槌の中で「最高の素材」を扱うに値するものを選んだ。

 

 「ヘファイストスが打ってくれるんだね!」

 

 「あんたとのプライベートに子供を巻き込めるわけないでしょう?

 それに、あんたのもってるその石板、私くらいじゃないと満足に扱いきれないわ。」

 

 「これを使ってくれるのかい?!」

 

 「むしろ使わせてくれなかったら、今度は私が土下座してたわよ。

 今の私は神の力も使えないただの鍛冶師。鍛冶師が最高の素材を目にして使わないってことはあり得ないわ。」

 

 「天界でも神匠と謳われた君がそこまでしてくれるなんてね!こんなに嬉しいことはないよ!やったー!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるヘスティアを尻目に、ヘファイストスは久しく忘れていた情熱の炎を燃え上らせていた。

 ただの一鍛冶師として成熟しすぎている彼女がまた「挑戦」できることに、喜びを感じないはずがない。

 神はただでさえ不老不死で、暇を持て余しているのだ。

 これほどまでに胸躍るものに飛びつかないわけはなかった。

 

 「そういえば、ベルって子の得物は?」

 

 「ナイフだよ!けど、少し長めに作ってあげてほしいんだ。」

 

 「どうして?」

 

 「英雄の武器が小さいナイフじゃ寂しいじゃないか。」

 

 「なるほどねぇ。」

 

 ヘファイストスが、本棚の仕掛けをいじると、本棚が横へ動いていき、秘密の工房が現れた。

 その炉には火がともり、煌々と燃え上っている。

 

 「正直、私だけではきつい仕事になると思うわ。だから、炉の女神としてしっかり助手として働くように!」

 

 「わかったよ!」

 

 「さて、最高の素材を使いながら駆け出しから英雄を目指す子に与える武器を作る、か。」

 

 ヘファイストスはうっすらと笑みを浮かべた。

 職人にとって仕事は難しければ難しいほど良い。

 さぁ仕事の始まりだ。

 

 槌の音が響き始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 あれから日も経ち、【怪物祭(モンスターフィリア)】なるギルド主催の町を挙げての祭りの日になっても、ヘスティアは帰ってきていなかった。

 

 「うーむ、昨夜もお帰りにならなかったか……。」

 

 「本当に今何してるんだろうね……。」

 

 流石に探しに行った方がいいのかな、と心配しながら祭りの日だというのにダンジョンへと向かう眷属二人は、一人の猫人に引き留められた。

 

 「お~い!待つニャ、白髪頭に鎧巨人!あ、おはようございますニャ。」

 

 「おはようございます……。」

 

 「ご丁寧に、どうも。今日もいい日ですな。して、何用で?」

 

 彼らを引き留めたのは、二人が何かと世話になっている『豊穣の女主人』の店員の一人、アーニャ・フローメルであった。

 アーニャはポケットから紫色の小さながま口財布をベルの手の上にポンと置いた。

 

 「ニャから、おミャーはおっちょこちょいのシルにこの財布を渡してくるのニャ!」

 

 「ごめんなさい、話が全然読めないんですけど……。」

 

 「ふむ、よくわからんがお使いのクエスト、ということになるのかな?」

 

 「アルトリウスさんは、鋭いですね。アーニャの今の説明では、普通ならクラネルさんのように困ってしまう。」

 

 二人を丁寧にフルネームや名字で呼ぶエルフが、洗濯物をもって店の脇から出てきた。

 この女エルフも、『豊穣の女主人』の店員であり、名をリュー・リオンという。

 

 「おぉ、リオン殿。今日も良い太陽ですな。」

 

 「えぇ、おはようございます。アーニャ、もう少しわかりやすく説明をしてあげてください」

 

 「ん?リューはアホニャ!お仕事さぼって【怪物祭】見に行ったシルに忘れた財布を届けて欲しいニャンて、いちいち言わなくてもわかる事ニャ?」

 

 「と、言うわけです。お二人とも。」

 

 このリューが上手にアーニャを御していることから、店員同士の仲の良さが見て取れる。

 アルは、リューは案外人を操るのが上手な人なのだな、と感服したのであった。

 

 「なるほど、そういうことだったんですね、リューさん!」

 

 「クラネルさん、シルはもちろん休暇を取っての祭り見物です。今頃は財布がなくて困っているでしょう。お願いします、お二人とも。」

 

 「しますニャ!」

 

 どうやら二人にはダンジョンよりも優先すべきことが出来たらしい。

 

 「分かりました!」

 

 「必ず、お届けいたしましょう。」

 

 「それで……、【怪物祭】ってなんですか?」

 

 これは、アルにとっても聞きたい事柄であった。

 その名前は聞いたことがあるものの、内容まではよくわかっていなかったからだ。

 二人は未だ、オラリオに来て半月も経っていないから当然ともいえる。

 

 「ガネーシャ・ファミリアが主催する年に一度のどでかいお祭りなのニャ!」

 

 「闘技場を一日丸々占有し、ダンジョンから連れてきたモンスターを観客の前で調教するのです。」

 

 「ま、要するに、えらくハードニャ、見世物ってわけニャ!」

 

 二人の好奇心はえらく刺激されてしまったようだ。

 お届け物の後はちょっと観光でもしようか、と二人は以心伝心で決定した。

 

 「じゃあ、シルさん探してきますね!」

 

 「行ってまいります。」

 

 二人の、オラリオ中の市民が集まる祭の中でたった一人の少女を探し出すという超難関クエストが幕を開けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 所変わって、オラリオの小さな喫茶店。

 祭のおかげで閑古鳥が鳴いているその店で、一人の人間と二柱の神による会合が始まろうとしていた。

 

 「いやぁ~、遅れてスマンなぁ!」

 

 ロキ・ファミリアの主神、ロキが自分のお気に入りであるアイズ・ヴァレンシュタインを連れ歩いて、今から会おうとしている女神は、ローブに身を包んでいる。

 アイズが、そのローブに包まれた尊顔を拝した時、思わず驚かずにはいられなかった。

 

 「フレイヤ……?」

 

 フレイヤは、アイズを覗き返してうっすらとほほ笑んだ。

 ここに、二大ファミリアの主神同士の会合が、始まった。

 

 「さぁ、教えてもらおか?今度は何企んどる。まーたどこぞのファミリアの子供を気に入ってちょっかいかけよう言うんか?

 ホンマに諍いの種ばっかり蒔きおって、この色ボケ女神が。」

 

 どっかりと席に座り込んで、その糸目からフレイヤをじっと見つめるロキは、少々真剣であった。

 このフレイヤのちょっかいというのは、余り小規模で済まないことが常であるからだ。

 

 「あら、分別はあるつもりよ?」

 

 「抜かせ!責任は取れるんやろうな?」

 

 ロキが机にグラスを叩き付けて、フレイヤを威圧する。

 今の彼女は天界のトリックスターではなく、子供を愛する神なのだ。

 自分の子供に火の粉が降りかかるようならば払う、それが彼女の行動原理の一つとなっている。

 

 「当然よ?もしかしたら、少し付き合ってもらうことになるかもしれないけど。」

 

 「けっ、相変わらずやなぁ。で、どんな奴や、今狙っとるっちゅう子供は。」

 

 「二人よ。」

 

 「はぁ?」

 

 「一人じゃなくて、二人。一緒に欲しくなっちゃったの。」

 

 ロキは頭痛がしてきて頭を抱えた。

 一緒に欲しくなった、そのワードだけである程度予想がつく。

 一つのファミリアから二人同時に引き抜こうというのだ、この美の女神は。

 一人ならまだ何とかなるかもしれないが、二人となるとかなり大きな禍根を残すことになるだろう。

 

 「二人とも強くはないわ。見つけたのも、目印みたいに大きい子だったから運よく見つけられたってだけ……。

 それでね、私が傍にいて欲しいと思ったのは、とても頼りなくてすぐ泣いちゃうような、そんな子。

 でも、とっても綺麗だった。透き通っていた。私が今まで見たことのない色をしていた……。」

 

 恍惚とした表情と、情欲の色を帯びた声で、子供のことをしゃべるフレイヤのその姿は百年も恋をし続けた女のようであった。

 

 「もう一人はね、その子にとって必要な子だわ。それにオッタルと並べたら、いいバランスになってくれそうなの。

 そうね、あの子の色はとっても暗いわ。下手な画家がぐちゃぐちゃに色を混ぜたみたい。あの子がそばにいなかったら、きっと見るのをやめていたわ。

 けれどね、その子の魂は時折ちらちらと火が見えて、すると今度は結晶が見えて、雷が見えて、飽きないの。

 じーっと見つめていたとき、あの子の中の何かが私を覗き返したときは、ちょっとぞくぞくしちゃったわぁ……。」

 

 ロキは、この二人に少々心当たりがあった。

 最近オラリオに来た大男、豊穣の女主人で目の前で啖呵を切った男のことをよく覚えていた。

 まだそうと決まったわけではない。

 だが、ロキは同情せずにはいられなかった。

 この様子では、「飽きる」なんてことはなさそうだったからだ。

 それは即ち、トラブルに巻き込まれ続けるという苦労を被るということに他ならない。

 

 「ごめんなさい、急用ができたわ。」

 

 「はぁ?!一方的にしゃべって、おい!待てや!」

 

 いきなり立ち上がって店を出ていくフレイヤの背中を呆然と見ていたロキは、店に残された挙句、あることにも気づいてしまった。

 

 「あっ、勘定もこっち持ちかいな!」

 

 ドリンク二杯分の代金が、フレイヤの置き土産のようだ。

 ロキは内心でうだうだと言いながら、さっさと思考を切り替えて、お気に入りのアイズと祭り見物を楽しむことにした。

 

 そして、あの色ボケ女神は今日、大きなトラブルを引き起こすことになる。

 たった一つの理由、愛ゆえに。





 ヘファイストスの槌

 鍛冶の神 ヘファイストスが持つ 鉄を打つための槌

 その槌に打たれた金属は どんなものでも 名剣名刀になったという

 鍛冶は 神聖なる儀式に通じ 東の国では神にささげるものだ

 神の鍛冶は いかなる儀式よりも 尊い業なのだ

 
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