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40歳でスタートアップに挑戦して爆死した

40歳になるタイミングで、外資系ITベンダーからスタートアップの世界に飛び込み、この5年間で3社を経験しました。
そして今は、また外資系ITベンダーに戻っています。

この5年をひと言でまとめると「爆死した」です。
ただ、単純な愚痴でも武勇伝でもなくて、「40代でスタートアップに行く」ときに知っておきたかった現実を、備忘録として残しておこうと思います。



1. MVVという概念に、静かにすり潰される

ここ数年、「MVV(Mission / Vision / Value)」を見ない日はありません。

  • 主体性を持て!自責!

  • オーナーシップを発揮しろ

  • 仲間をリスペクトせよ

どれも正しいし、反論の余地はない。
ただ問題は、「あるべき社員像としてのMVVと、自分のキャリアや性格が少しずつズレていく」感覚でした。

40代までにそれなりに成果を出してきて、自分なりの仕事のやり方や価値観もある。でも組織が掲げるValueは、ある種の「理想的な社員像」で語られることが多くて、

「その行動、うちのValueに合ってる?」

と言われるたびに、「え…そこ?」とモヤモヤする。
やることはやっているし結果も出しているのに、「Value偏差値」で査定されているような、妙な息苦しさがありました。

MVVが悪いわけではなく、「MVVに自分を合わせ続けること」に疲弊していった、というのが正直なところです。


2. 自分より若い経営者と、会話がかみ合わない

スタートアップでは経営陣の多くが自分より若い、というのが当たり前です。

年齢は本質ではない、と頭ではわかっているのですが、
・時間軸
・リスク許容度
・キャリア観

このあたりが、想像以上にズレます。

自分は「長期で事業を伸ばす」「組織としての再現性をつくる」という発想で話をするのですが、相手は「次のラウンド」「次の決算」「当会計四半期」というスパンで話をしている。または逆に短期の話をすると、永遠のN-2、N-1なんていう夢物語だけ話す人もいます。

どちらが正しいという話ではないけれど、前提となる時間軸が違うと、同じ日本語でも会話がかみ合わないんですよね。


3. 経験やナレッジを還元しようとしても、理解されない

外資系ITベンダーで学んできたこと、いろいろな組織での成功・失敗パターン、そういうものを「こうした方がうまくいくと思います」と還元しようとしても、

「それ、ウチのフェーズじゃないです」
「スタートアップっぽくないですね」

と軽くいなされてしまうことも多かったです。

もちろん、スタートアップにはスタートアップの文脈があります。
ただ、「今までの知見を総動員して貢献したい」と思っても、それが“余計な御託”扱いされる虚しさは、なかなか堪えます。


4. 権限はないのに、実績だけは求められる

40代中堅〜シニアのキャリアでスタートアップに入ると、たいていこう言われます。

「裁量あります」「どんどん提案してほしいです」

でもフタを開けてみると、意思決定権はほぼ経営陣に集中していて、
現場サイドは「責任だけあるプレイヤー」になっていることも少なくありません。

  • 予算は自分では動かせない

  • プロダクトのロードマップにも口を出せない

  • 営業戦略やLTVの伸ばし方に口を出せない

でも数字だけはしっかり求められる。
要は、「権限なきプロフェッショナルが、一番しんどいポジションに置かれがち」なんですよね。

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正直に言うと、僕のようなキャリアの人材をマネジメントするのは、経営陣にとっても相当難しいと思いました。その結果、給与が高くなってしまった人を一人採用するより、自分の言う事を聞いてがむしゃらに働く若い人を2、3人採用したほうがよいなと自分でも思うようになります。


5. 仕組みを作っても、自分がいなくなるとすぐ形骸化する

スタートアップに入ると、オペレーションや仕組みづくりを任されることが多いです。

  • Sales / Marketingのプロセス設計

  • インサイドセールスのオペレーション

  • 各種トラッカーやダッシュボード

気合いを入れて作り込み、ドキュメントも残し、教育もして…とやるのですが、自分がいなくなると、驚くほどあっという間に形骸化していきます。

  • 更新されなくなる

  • 誰も見なくなる

  • 別のツールに変えようと言い出す

「仕組み」より「その場のノリ」や「経営陣の気分」が優先されることも多く、“リセットボタンが押され続ける環境”に中長期の仕組みを入れること自体がナンセンスだったのかもしれません。


6. 「スタートアップは意思決定が速い」という幻想

よく言われるフレーズに、

「大企業は遅いけど、スタートアップは意思決定が速い」

というものがあります。
僕の体感で言うと、これは半分以上、幻想でした。

  • VCや株主の顔色をうかがう

  • 経営陣同士での足並み調整が必要

  • プロダクト・営業・ファイナンスなど、利害調整が複雑

結果として、「やる!」というまでに相当な時間が必要で、「やります!」と言ってから実行されるまでに、大企業と同じか、それ以上に時間がかかることも普通にあります。

むしろ大企業の方が、「決まれば実行フェーズのリソースが潤沢」という意味では速いことさえあります。


7. VCドリブンになると、創業時の気持ちは駆逐される

スタートアップの初期は、創業メンバーの「社会課題を解決したい」という気持ちが前面に出ています。

しかし、ラウンドが進み、VCが増えていくにつれて、

  • 次のラウンドのためのストーリー

  • IPOに耐えうる指標づくり

  • バリュエーションを落とさないための一手

  • Runwayの過ごし方

こうしたものが意思決定の最上位に来がちです。もはや顧客なんてどうでも良いのです。気づいたら、

「創業の想い」<「VCの期待値」<「上場のための数字作り」

になっていて、プロダクトも組織も「VCドリブンの装置」に変わっていく
本人たちはもちろん否定しますが、私にはそう見えました。現場にいる身としては、その変化を肌で感じるたびに、少しずつ気持ちが削られていきました。


8. 承認欲求人材の壁

経営陣の一部には「承認欲求の塊」のような人も一定数います。

  • 自分が決めないと納得しない

  • 周りにはYESマンを置きたがる

  • 自分の話は長いのに、人の話は最後まで聞かない

  • 自分の周りを固めて、隅においやるムーブを発動させる

  • 権限移譲という幻想

そうなると、スタートアップなのに政治ムーブが横行していく
「大企業のしがらみから抜け出したくて来たはずなのに、別タイプのしがらみに巻き込まれている」感覚がありました。


9. 日本のVCに感じた違和感

これは完全に個人の感想ですが、日本のVCにはかなり絶望しました。
私は直接会話したことがありませんが、役員会議で決まったことを共有される場所では、どこでも口を揃えて

  • 自分たちが出資しているのに、「ターゲットリストください」とスタートアップ側に求めてくる(本来、一番マーケットを見ているのはVCのはず)

  • T2D3だ!と未だに会話している

  • 顧客解像度が皆無

  • 数字数字数字!

その結果、創業したときの気持ちはどんどん駆逐されていき、組織はVCドリブンの方向に流されるのかなと想像します。
現場から見ると、「この人たちは本当にこの事業が好きなんだろうか?」という疑問が残り続けました。


10. それでも、40歳で挑戦したことを後悔しているか?

ここまで割とボロクソに書きましたが(笑)、
じゃあ「40歳でスタートアップに行ったことを後悔しているか?」と聞かれると、正直そこまで単純でもありません。

  • MVVという概念の功罪を、自分の肌で理解できた

  • 若い経営陣やメンバーと働く中で、自分のアップデートも求められた

  • 「外資系ITベンダー」と「日本のスタートアップ」、両方の現実を体験できた

そして何より、「自分はどういう環境なら力を発揮できて、どういう環境だとメンタルが削れるのか」をかなりクリアに言語化できたのは、大きな収穫でした。そして人間という生き物に対して期待・絶望を繰り返し、自分の精神レベルがかなり上がったと思います。

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11. 結論:40代でスタートアップに挑戦するなら、「決める権限」を持て

最後に、これから40代でスタートアップに挑戦しようとしている人に、
自分なりの結論を書いておきます。

40代でスタートアップに挑戦するのであれば、「何かを決めて、それを実行する権限」を持たないと、毎日日フラストレーションが蓄積していくだけ。

もう少し具体的に言うと、

  • 役職や肩書きではなく、「自分の意思でYes/Noを言える範囲」がどこまであるか確認する

  • 採用・予算・プロダクトなど、自分が責任を持つ領域で「本当に裁量があるか」を聞き切る

  • 経営陣と時間軸や価値観が致命的にズレていないか、面談のときに遠慮なく確かめる(見破れないですけどね。。。)

  • 「VCドリブンになったとき、この人たちはどう振る舞うか?」を想像しながら話を聞く

これくらいは、最初にやり切った方がいいと思います。

40代でスタートアップに行くのは、正直かなりハイリスクです。
でも、自分の人生の残り時間をどう使うかを考えたときに、
一度「爆死」してみないと見えない景色があるのも事実でした。

この文章が、これからスタートアップに挑戦しようとしている誰かの「事前シミュレーション」になれば幸いです。

追伸:
大前提、スタートアップには感謝しかありません。人生で1番悩み、そして自分をUpdateできました。(経営者の悩みに比べたらゴミみたいなモノですが) そして一緒に働いてくれた同僚の方、素晴らしい才能を持った若い方達に会い、もっともっとグローバルな人材になってほしいと願っています。

そして何より大きな結果を残せなかった事、中長期的なキャリア思考でどんな事があっても最後まで進める事ができなかった自分に反省しております。

そんな自分にマーケティングやインサイドセールスなど、重要な組織の立ち上げなどやらせて頂いた経営陣の方々に感謝を申し上げます。スタートアップでのチャレンジは大企業や外資系企業へのチャレンジと同じくらいとても有意義なものでした。

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コメント

1
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金田まり

VCドリブンの結果のくだり、とても共感します。支援先が町工場のために頑張ってたのに、気づけば大企業のみに注力。フェーズや資金などいろんな問題があって仕方ないのかもしれませんが、少し寂しかったですね〜 素晴らしい体験を読ませていただき、ありがとうございました!

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じゅんはや いいね
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40歳でスタートアップに挑戦して爆死した|じゅんはや
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