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放射線をエネルギーに変えるチェルノブイリの真菌、宇宙利用へ向けての実験

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(著)

公開: (更新: )

放射線をエネルギーに変える黒カビ「Cladosporium sphaerospermum」この画像を大きなサイズで見る
放射線を吸収しエネルギーに変える真菌 Image credit:Melanized C. sphaerospermum.
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 チェルノブイリの立ち入り禁止区域で発見された「黒い真菌(カビ)」は、放射線を吸収してエネルギーに変える能力を持っており、宇宙放射線から宇宙飛行士を守ってくれるかもしれない、と期待されていたことは以前お伝えしたとおりだ。

 その後、この真菌は地球を飛び出し、実際に宇宙という極限環境でその能力を試されることとなった。

 国際宇宙ステーション(ISS)で行われた実験の結果、この真菌は宇宙空間でも放射線を利用して繁殖できることが確認された。

 さらに、真菌の層が放射線を物理的に遮る効果も確認され、将来的に危険な宇宙線から人間を守る「遮蔽材(シールド)」になり得る可能性が示されたのだ。

チェルノブイリの廃墟で繁栄する「黒い真菌」

  1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故から数年後、人間が立ち入ることのできない高レベルの放射線汚染区域、特に爆発した4号炉の内部で、科学者たちは奇妙な現象を発見した。

 真っ黒な真菌が、壁一面にびっしりと張り付いていたのだ。

 調査の結果、これらの真菌は、放射線に耐性があるどころか、放射線源に向かって成長していく様子が確認された。

 真菌の名は「クラドスポリウム・スファエロスペルマム(Cladosporium sphaerospermum)」で、一般的な家屋の水回りなどにも発生する「クロカビ」の一種だ。

 1882年に記載された種で、未知の新種というわけではないが、チェルノブイリで見つかったものは様子が違っていた。

 この真菌はメラニン色素(紫外線などから体を守る黒い色素)を大量に含んでおり、それがガンマ線などの「電離放射線」を吸収して化学エネルギーに変換する「放射線合成(radiosynthesis)」を行っているのではないかと推測された。

 これは植物が「光」をエネルギーに変えて光合成を行うのと似ている。光合成をする植物も水や二酸化炭素といった物質が必要なように、この真菌も放射線だけで体が作られるわけではない。

 周囲の有機物などの栄養源を取り込みつつ、放射線のエネルギーを使って代謝を活性化させているのだ。

 ここで誤解してはならないのは、この真菌が「放射性物質そのもの」を分解して消滅させるわけではないということだ。

 あくまで、そこから放出される「放射線エネルギー」を利用しているに過ぎない。

 生物の代謝で、放射性物質を変化させて放射線を出さなくすることはできない。もし環境中の放射性物質を取り込んだとしても、それは体内に蓄積(濃縮)される。

 したがって、今回の宇宙利用のポイントは、放射性物質の「掃除」ではなく、あくまで飛び交う放射線を物理的に受け止める「遮蔽(シールド:盾)」にある。

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ポルトガルのコインブラ大学病院センターで培養されたクラドスポリウム・スファエロスペルマムImage credit:Melanized C. sphaerospermum.

 宇宙へ行った真菌、驚異の成長記録

人類がいずれ進出を目指す宇宙空間は、強力な宇宙放射線が飛び交う過酷な世界だ。

 「地球上で放射線エネルギーを利用しているのなら、放射線だらけの宇宙空間では、さらに効率よく育つのではないか? そして、その体で放射線を遮ってくれるのではないか?」

 そう予測した科学者たちは、この真菌を実際に宇宙へ連れて行き、放射線合成を行うかどうかを確認することにした。

 アメリカ・スタンフォード大学のエンジニア、ニルス・アヴェレシュ氏らの研究チームが、2022年の研究論文で報告した実験では、クラドスポリウム・スファエロスペルマムが国際宇宙ステーション(ISS)に送られ、強力な宇宙線(宇宙空間を飛び交う高エネルギー放射線)が飛び交う環境にさらされた。

 その結果は、研究者たちの予想を裏付けるものだった。

 地上の対照群(同じ栄養条件)と比較して、宇宙空間の真菌はなんと1.21倍の速度で成長したのだ。強烈な宇宙線はこの生物にとってストレスではなく、成長をブーストさせるエネルギー源として機能していたようだ。

 さらに重要なのは、それらが「放射線の遮蔽材」としての可能性を見せたことだ。

 真菌を入れたペトリ皿の下に設置されたセンサーは、菌の層を通過した放射線量が減少していることを記録した。

 実験では、厚さわずか1.7mmの薄い真菌の層が、通過する放射線量を約2.17%減少させたことが確認された。

 「たった2%?」と思うかもしれないが、これはわずか1.7mmの厚さでの結果である。

 科学者たちの試算によれば、この層を厚さ21cmほどにすれば、火星表面での年間被ばく量を大幅に低減できる可能性があるという。

 この真菌は放射線を吸収して自らの成長エネルギーに変えることで、結果的に背後への放射線到達量を減らし、物理的に遮断していたのである。

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顕微鏡で見たクラドスポリウム・スファエロスペルマム Image credit:Rui Tomé/Atlas of Mycology

真菌の生きた壁を使った宇宙建築

 この結果を受けて、NASAの宇宙生物学者リン・J・ロスチャイルド博士らは、ある壮大な構想を練っている。それが「菌類建築(マイコ・アーキテクチャ)」だ。

 月や火星への有人探査において、最大の障壁の一つが「被ばく」である。宇宙船や居住区を放射線から守るには、厚い鉛や水の壁が必要だが、それらを地球から運ぶには莫大なコストと燃料がかかる。

 だが、この真菌ならどうだろう? わずかなサンプルと培地を宇宙へ持っていき、現地で培養すればいい。

 現地の放射線をエネルギーとして利用しながら増殖し、分厚い「生きた壁」を作り上げるのだ。

 この壁は、放射線を吸収・遮断して中の人間を守るだけでなく、傷ついても自己再生することができる。

 繰り返しになるが、彼らは環境中の放射性物質を食べてクリーンにする掃除屋ではない。彼らはあくまで降り注ぐ「放射線」を受け止め、遮蔽材となってくれる存在なのである。

 かつてチェルノブイリという死の世界で生き抜くために進化した能力が、今度は人類が火星という新たな世界へ進出するための「遮蔽材」として役立つかもしれないのだ。

それでも残る科学的な謎

 と、ここまで聞くと夢のような話だが、科学的な課題も残っている。

 実は、この真菌が「放射線を利用している」ことは成長速度の違いなどの状況証拠から明らかであるものの、体内でどのようなエネルギー変換が行われているのか、分子レベルでの完全な証明はまだなされていないのだ。

 アヴェレシュ氏らの研究チームが指摘するように、電離放射線を使ってどうやって炭素を固定しているのか、その代謝経路の決定的な証拠はまだ見つかっていない。

 また、放射線下で成長が促進されるのはこの菌特有の現象であり、メラニンを持つ他のすべての菌類が同じ能力を持つわけではないこともわかっている。

 これが、他の生物を殺すような強力なエネルギーを利用するための高度な適応なのか、それとも極限状態での火事場の馬鹿力のようなストレス反応なのか、現時点では断定できないという。

 だが、わかっていることが一つある。このビロードのような黒い真菌は、人間には到底住めない場所で生き残り、さらには宇宙空間でも繁栄する術を知っているということだ。

 生命は、どんな場所であっても、生き延びるための道を見つけ出すのである。

追記(2025/12/10)本文中の記述において、放射線利用のメカニズムや用語の定義に一部誤解を招く表現がありました。読者の皆様からのご指摘を受け、科学的事実に基づき、より正確な表現に修正・加筆いたしました。

References: Chernobyl’s black fungus turns nuclear radiation into energy, may aid space travel / The mysterious black fungus from Chernobyl that may eat radiation / Chernobyl Fungus Appears to Have Evolved an Incredible Ability / Frontiersin / Blogspot.com

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この記事へのコメント 23件

コメントを書く

  1. 水虫菌と合成して人体移殖
    真っ黒なたむしに覆われた滞在者が
    これからの宇宙開発を支えるのだ

    • +6
  2. 放射線環境に耐性があるどころか成長促進するとか放射線事故の現場で人類が再定住できるようになるころには手に負えないくらいカビだらけになってそう

    • +5
    1. それでも放射能まみれよりははるかにマシでは

      • +4
    2. じゃあそのカビを食べるゴキブリを一緒に放とうぜ!

      • +2
      1. どんどん手に負えなくなるフラグやめろ

        • +4
    3. 消毒用のエタノールでも撒けばいいのでは?

      • +1
    1.  同じこと思いました。 ガミラス人の肌が青っぽいのもそういう理由か?ともw

      • +1
  3. 抗核エネルギーバクテリアが実在したとか胸熱

    • +10
  4. 夢が広がる新素材だね
    テラフォーミングに使えそうとか、放射線発電とかできたらいいなとか妄想した。

    • +3
  5. 後のアストロファージである

    • 評価
  6. ロバート・L・フォワードの『竜の卵』やグレッグ・イーガンの『白熱光』じゃ放射線をエネルギー源にする生物が仮想されてたが、地球上の真菌(炭素系の生物)で、まさかいるとは、ね…。なんてSFチックなんだ……

    • +5
  7. パニック系のSFなら宇宙で進化した菌に人類が滅ぼされちゃう展開だ

    • +1
  8. 放射線が怖いのは遺伝情報を破壊して正常な細胞分裂を阻害することでもあるので放射線をエネルギーに変換するだけでなく、放射線からDNAを保護する能力が必須のはずだけどもどうやっているのだろうか。

    • +3
  9. 本来は毒なはずの酸素を取り込むようになったんだし
    放射線もそうなることもあるか

    • +2
  10. 宇宙利用も良いけど放射性廃棄物への活用法があるのかの方が気になる

    • +2
  11. ゴジラvsビオランテでは人の手で作られていた抗核エネルギーバクテリアが
    まさか野生で誕生するとはな

    • +2
  12. 俺より先に宇宙に行ったのが細菌とか泣ける😭

    • 評価
  13. SFなどでたまに出てくる「宇宙生物」も表皮にこういった放射線を遮蔽する何らかの生命体が共生していると考えると、
    リアル宇宙でもそこそこ大型の「宇宙生物」の可能性がありそうで面白い

    • +2
  14. この子を宇宙に打ち出しておけば、地球型生命体が地球で絶滅しても、いつかどこかの星で地球型生命体が復活できるのだろうか?

    • 評価
  15. 菌類とか微生物がやっぱり最強なんかな?

    • +1
  16. 真菌・イン・ザ・レイン

    • 評価
  17. 光速エスパーに「原子炉のカビ」という話があったのを思い出した(あ、歳がバレるw

    • 評価

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