シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
ざまぁ系などと呼ばれる創作ジャンルがある。
その手の作品には疎いから言語化に苦しむけど……主として、作中や読者視点で嫌悪感を抱かれる人物やマナー違反者といった悪役が、最終的に主人公に敗北して制裁を受けたりする筋書きの作品群を指すらしい。
いきなり何を……というのも、シャンフロにおいて貴族社会を背景にしたシナリオが発生することは珍しくなく、私ことサイガー0は例のごとく虎人さんが引き寄せたものに便乗する形でサーティード某所のとある貴族の迎賓館に来ていた。今回は個人ではなく
通常シナリオの場合は襲撃してきた賊を撃退する程度で終わるけど、今回半強制的に道連れにされたこれはそうではなく、ほぼ間違いなく何かしら…………つまりそういう内容のイベントが発生するユニークシナリオだった。
またこのユニークシナリオはかなり特殊で、シナリオ受注者と攻略メンバーが別となっている。
『なんか貴族のパーチーにすげー人がお忍び訪問するから、アルちゃんが良いクラン紹介してって』
……というのが、しばらく前に
姉さんと雷牙さんとキョージュさんの3人がかりで
…………あの人、どうしてNPCにそこまで信頼されてるの? 理由がどうとかじゃなくて、単にその事実に困惑していた。
話がそれました。ゲーム的にこのユニークシナリオはアルブレヒトから協力要請を受けた虎人さんが擬似的なシナリオ発注者として任意のクランを推薦し、そのクランに所属するメンバーのみで編成されたパーティで攻略するという現状で類のない形式で進行する。
ユニークシナリオの名称は『王国第一騎士団代理人事』
累計で何回行われているかは知らないけど、リョーザン・パークとの提携クランの内で黒狼に
『あ、あの……私、ファンなんですよ。握手してもらってもいいですか』
「しょうがねぇな、プライベートでごはん食べとるのに……」
『あざーす(ガシッ』
「なにっ」
『しゃあっ』
『『「おおっ」』』
なにが「おおっ」なのか。
視線の先では普段のものより高級感がある被り物とマントを身につけた
彼を囲む貴族たちも、ついさきほどまで派閥に分かれ政界の裏を覗かせるやりとりを交わしていた陰のある顔はどこへやら……所属も世代も超えひと塊ではしゃいでいる姿は学校に通う男子と同じものだった。
ちなみに虎人さんはアルブレヒトにクランを推薦した時点でお役御免であり、今回この場に来ているのも別件なのだとか。
『デーラ、俺はお前との婚約を破棄する!』
突如として若い男性のやや興奮した声が響き渡り、会場内が静まり返る。
…………ようやく始まったようだった。
「サン、貴様……自分が何を言ってるか分かっているのか?」
『当たり前だ! 俺はっ、ハランとの真実の愛を望む!』
『サン……!』
『ハラン……!』
「…………ハァァァァ」
(……早く終わらないかなぁ)
NPCらによる
……極力無心でいたつもりだけど、私の頭は視覚と聴覚からの情報を分類し目の前で行われているそれがどういった内容であるかを否応なく整理してしまう。
(なんだっけ……悪役令嬢もの?)
伯爵家長男”サン・ジータ”が公爵家のご令嬢たる”デーラ・エーナオン”との婚約を破棄し、小柄で温和な癒し系といったの子爵家のご令嬢”ハラン・バンジョー”を抱き寄せ『結ばれよう』などと
ヒロイックな自分達に酔っているのか、公衆の面前で浮気告白していながら正義は我がものとばかりの態度があまりにも度し難い。ちゃんと因果が巡るというお約束の結末を迎えることが分かっているものの、最高峰フルダイブゲームの没入感でそれを披露されと理屈だけでは到底処理しきれなくなる。
長々と言葉を飾ったけど要するに……浮気なんて最低で、エンタメだとしても私には消化しきれないということだ。
「わー、
「しーっ……本人達に聞こえたらどうするの? つまらなくなるでしょ」
「えー……」
「虎人さんと、雷牙さん? いつの間に」
「ごきげんよう、サイガさん。イベント始まってウチらも
高身長で桃色のロングヘアーが特徴のデーラから努めて目を逸らしていたところで、プレイヤーとしては不自然なまでにその場に馴染んでいるドレス姿の雷牙さんが、骨付き肉が山のように盛られた皿を手に呑気している虎1頭を引いて傍に来ていた。
梁山泊のクランリーダーである雷牙さん……
……とはいえ、Vライバー・紫電ライガの中の人でもあると知った時は驚きのあまり天を仰いだけど。
「それ美味しい?」
「うーん……スーパーのクソ安い牛肉を蒸して薄味のタレ塗った感じ。貴族のご馳走やから期待しとったけど……」
「デバイスのせいでしょ、型落ちでシャンフロやるとか色々損してるから買い替えなー?」
「緩いのは財布のヒモだけにしとけや業務用ユーザー。こちとら
「誰の何が緩いのか詳しく言ってみー……? それはそうとウチも味見……って、あれ!? え……こ、こんな常識的な量だったっけ……?」
(目の錯覚……いや不具合!?)
「というか姐さんも毎度飽きんな? 欠かさず見物に来とるらしいやん」
「アドレナリンって中毒になるんだよ、知ってた?」
ファンタジー大好きだからなぁ、ライカさん。
「────────」
『お、俺は本気だ! そんな目をしても心は変わらないからな……!』
サンはデーラに睨まれたと捉えたようだけど、それは違う。
(お願いだからヤケはやめてよ……)
頭が痛いことに今行われているのはシナリオのリード部分、起承転結の起であり折り返しにすら立っていない。
「次回、悪役令嬢Lv
「私の声真似で世迷言とかやめてもらえます……?」
「ちぇっ」
わざとらしく高いトーン以外は私の声そのままで、驚きを通り越してそういう生態のモンスターかと思えた。
だが、正直雷牙さんの悪ふざけはまだかわいいものだ。問題は────
「悪役令嬢があれとか流石にハランがかわいそグェッ!?」
「────ほんの少しでも私達のことを思うなら黙っていてください」
「虎への圧強すぎでは……? いたいよぉ……」
……この人は悪意も考えも無しにこういうことを言う! ああっ……ほら、見てる! デーラがすごい顔でこっち見てる……!
「おーよしよし、どこが痛いの?」
「”心”じゃ……」
「ツバでもつけといてもろて」
「〜~〜~〜~〜~ッッッ!!!!」
(耐えて姉さん……最初からやり直しとか本当に無理だから……!)
デーラ、もとい…………その替え玉であるサイガー100の殺意と焦燥を秘めた視線は明らかにこちら────正確には雷牙さんとじゃれつく虎人さんへ向いていた。
◇ ◇ ◇
あの茶番が終わった後、蛇の林檎にて。
↓ティーアスヘッド
︵ 私
╓───╖
║スゴイ║
║ツクエ║姉
╙───╜
虎
(ついに堂々と席に着いてる……)
「…………?」
私の右隣に腰掛けている幼女ちゃんが本人の胴回りより大きいジョッキに盛られたパフェを食べ進めている姿を見ていると、きょとんとした印象の無表情でこちらを見上げてくる。なんでもないとわかるとすぐに視線をテーブルに戻し、スープ用の大きいスプーンを用いて甘味の山を崩しはじめたけど。
「それで”師匠”、味はどうでしたか……?」
「……………………また連れて行って」
「そのレベルだったかぁ~~~~~ッッッ」
「美食家の道は険しい」
(し、師匠……??)
(
そんな師匠の言いつけにより仕方なくマスクを外し
虎人さんの”別件”というのはてっきり雷牙さんの付き添いだと思いこんでいたものの……実際は幼女ちゃんにパーティの料理を味見させることだったらしい。
角度によってはほぼ裸な際どいパーティドレス……もしかしなくとも着せ替え隊謹製のそれに着
閑話休題。
虎人さんに*1他ゲーのアドバイスを貰おうと個室を取ってもらったところ……何を思ったのかわからないけど、姉さんがついてきたため込み入った話が出来なくなった。
「……レイ、雷牙はヒロトと何を?」
「姉さんが思っているようなことは無いよ」
「そうか…………ちなみにレイは「無いって」……ところでお前とハラン似て「無いから」そうか……」
出来ることなら実姉のこんなみっともない姿を見たくはなかった……睨みを利かせるくらいなら早く付き合っちゃえばいいのに。
「個室やからと本名出すのはやめて欲しいと虎は思っています」
「……事情は聞かない」
「こういうことになるから」
「すまない……」
虎人さんが注文した『比較的ちゃんとしたお肉の味がする』と一部のプレイヤーから評判のミートパイを横取りしようと、幼女ちゃんがテーブルの上に身を乗り出している。
小さな魔の手からパイを防衛しつつ片手間に諌める虎人さんに対し、姉さんの態度はいじらしい。
姉さんが可愛子ぶっているというのも無くはないけど、傍から見た虎人さんのその雰囲気は仙姉さんに近いものがあり、彼が百姉さんの諭し方を理解しているという方が正しいと思える。
とはいえ姉さんも慣れたものなようで、すぐに調子を取り戻していた。
「……ところで、お前はハランという女をどう見る?」
「え、なんか難しい話……? そんな名探偵的なの期待されてもワイちゃん困る……あーゆーすぐ泣きそうな女好かんなーとしか思わんかったよ? いつも通り浮気ヤローをボコって終わりでええやん」
「聞いてみただけだ。だが参考になった……フフ、フフフ」
この人すごいなぁ、多分なぁーんにも分かっていないのに姉さんが望んでた
(……考えてみればこういう所はかなり油断できないはずだよね。悪用しないから誰も気にしないだけで)
虎人さんが普段から考え無しのノンデリ雑頭なのは確かではある。
けどこの人、バカだけど阿呆ではない。
つい先程パーティ会場での一幕で思い知らされたばかりだというのに、忘れかけていた。
それはお忍び訪問していた王族────”アーフィリア第一王女”*2の登場によって、一触即発の場面が収められるというお約束展開でシナリオの序章が締めくくられるタイミングでのこと。
『覇者が、アーフィリア様に
『第一王女、やはり傑物』
『…………そのようだ』
王女の声が響いてなお騒めくその場を少し遅れて完全に静まらせたのは、無言で片膝をつき顔を伏せる虎人さんの姿だった。
膝を着いた瞬間はあまりの反応速度と脱力ぶりに失神でもしたのかと思ったものの、声をかけても反応すらせず跪くさまは忠義を信じて疑わせないある種の凄みが顕れていた。
『逆らえば覇者を敵に回す』……第一王女の下、会場が秩序を回復するには十分な事実だった。
(要所ではきちんとロールプレイを挟めるんだって驚いたな)
雷牙さんだけはその光景を見て『こわぁ、台本もなしにこんな脅しかけられるとか同情するわ』とケラケラ笑っていたけど────
なんにせよシナリオの不快な部分を無事に終えられたので、後は半日から数日後に行われるであろうジータ家のお取り潰しと秘密兵器的ユニークモンスターの討伐を終えればユニークシナリオクリアとなる。
(……そういえば陽務くんって小説とか読んでるイメージがあまりないし、ノベルゲームとかもあまりやらなさそうだよね。今回みたいなシナリオに誘って嫌がられたりしないかなぁ……)
陽務くんが未だにシャンフロをプレイしていないという点は将来の課題として……
「あの……虎人さんって、乙女ゲーを結構プレイしてますよね?」
「うん。先に言うとくけど『女々しい』は禁止ワードやからね、戦争も辞さない」
「そんなこと言いませんよ……大した事じゃなくて、男子の目からは乙女ゲーをプレイする女子ってどう映るのかなーって」
「いや、そんなのどうぞご勝手にって感じで…………あっ、待った!
「助かります。先程までのシナリオを見て少し思うところがありまして」
この察しの良さでどうして姉さん相手にだけはすれ違いが生じているのか気になるところではあるものの、流石に二人揃ってるこの状況で確認するのははばかられるのでまたの機会にしよう。
「……おい、私を置いて話しを──ヒュイッ!?」
「あえ? なに?」
「……………………なにも」
虎人さん(虎抜き)に一瞥された姉さんが──中学時代の女子生徒らと同様に──
懐かしいなぁ、周布くんと目が合った微笑まれたと勘違いする女子と、実際にその視線の先に立つのは陽務くんであったのをよく覚えている。……ほんの一時期だけ女子の間で回っていた陽務くんと周布くんの二人が
当時の女子達とは違い姉さんへのそれは存外勘違いではないのだけど、本人にそれを伝えたところで中学生級の情緒と思しき姉さんにはきっと処理しきれないだろう……理屈を抜きに確信があった。
姉の醜態は見なかったことにしつつ虎人さんへ目を向けると、私の意図を瞬時に理解したのか首を捻って言葉を選んでいるようだった。
「んー……せやったら大分話し変わってくるかも! 個人的に男を乙女ゲーに誘ってくる女は割とこわい……ッ! あの人
「……お前はもっと友人を選べ」
「私も同意見です……」
それはそうと
「そもそも自分らだって報酬が美味しくなかったら今回のシナリオ参加しとらんやろ……浮気野郎を見とる時の『反吐が出る』ってオーラが正直怖かったワイちゃんです。詰まるところ趣味やって」
「フィクションとは思えども目の前でやられるとな……」
「否定はしません。しかしオーラだなんてそんな……姉さんはともかく私のこの重装備で感情が表に出るわけが無いじゃないですか、からかわないでください」
「は? レ、サイガー0……?」
「えっ、マジで言っ……いや何でもない」
この2人の息がピッタリなのが何故だかとても腹が立つ……たぶん婚約破棄展開を等速で見せられた後で神経が苛立ってるのだと思う。
そこで生じた僅かな隙を突かれ幼女ちゃんにパイを奪われた虎人さんは、しょんぼりした顔でフォークを置いて話しを続けた。
「……乙女ゲーとかギャルゲーやらは今の時代も比較的マイナージャンルやし、ワイちゃんなら新しい友達作る取っ掛りにせんわ。まずメジャーなとこを話題にしてやね、少しづつ趣味をすり合わせてやね…………あー、それで相手と好きなジャンルが合わんかったら、全肯定も全否定もせんことようにする。お互い無理なく付き合うんが一番よ」
「付き……っ!? そ、あっ、な……まだそんな……」
「……なんでもええけど、自分の趣味を一方的に押し付けるような真似は
……虎人さんって基本ノリで話す人だからなぁ、姉さんが「ふぅん、そういうことか……」とばかりに合点がいった表情を浮かべており、完全に察せられてしまった。そこそこ無理をさせていたことに申し訳ない気持ちもあるけど、出来れば最後まで頑張って欲しかった。
虎人さんは私のことを陽務くんみたいに趣味が奇特なゲーマーだと思ってるんだったな、その辺りの誤解もいつか解かないと。……優に半年を超える期間一緒に遊んでるのにこの人の中で私と陽務くんの情報が結びつかない辺り、陽務くんが私のことを知らない裏付けになっている気がして時々しんどい。
ところで真奈さんといいこの人といい、恋愛強者が口にする『自然体で』とかそれに類する言葉が私は苦手だ。万人が万人、そんな所業を容易くこなせるとは思わないで欲しい。
「……なあ、お前たち二人の時はいつもこんな話を?」
「妹さんは頑張っているのです、突っ込んではいけない」
(コソコソ話を建前にパーソナルスペース詰めてる……)
強かなのか情けないのか判断に苦しむ姉のやり口だけど、今後役に立つかもしれないから一応覚えておくことにする。
「にしてもギャルゲーとかクソゲーとか……サイガー100、漬けマグロとか食べたくない?」
「いいな、酢飯の丼で食べたい。…………いやなんで???? 頭の中でどんな化学反応を!? 『脈絡』、どこへ!!」
たぶん『ラブ・クロック』*3を連想したのだと思うけど、マグロがどこから来たのかは実際にプレイした私にも分からなかった。明日真奈さんに聞いてみよう。
「あ、ところでワイちゃん2人に聞きたいことあったんよ。聞いてもええ? イーヨー!」
「別に構わんが……」
「なんですかその裏声……」
「アリガトー。いやね、最近我が家にコーシンジョ? の人が張り付いとったらしくて」
「興信所……!?」
なんでも無さそうにとんでもない話題を切り出してきた……そういうとこですよ。
「密偵じゃないか……それで?」
「うん。ほんでウチのお母さん達がとっ捕まえて詳しくお話聞いたら、どこぞの名家からの身辺調査依頼だったらしくての。……しゃあけどみんなワイちゃんにだけ『気にすんな』の一点張りで詳しく聞かせてくれんくて」
「あぁ……なるほど」
たぶん虎人さんが対象だなぁ……余計なことをされないようご家族があえて情報を伏せてる感じかな。
というかさらっとプロの探偵を捕まえて依頼主の情報まで吐かせてるお母さんって、もしかして逮捕権とかお持ちだったり……?
「それで、オジョーサマな2人なら具体的に
「まあ多少はわかるが……それを聞いてお前はどうする気だ?」
「いやなんもせんけど。壊し屋とか殺し屋と比べたら今さらなぁ……単に分からんことスッキリさせたいだけ」
「何と何が何!?」
「ジョークですよね? またからかってるだけですよね!?」
「んー、誰の差し金かは今もわからんのやけど最初は「まて! よせ! 別の機会に聞く……!」えー、抜き手で塀ぶち抜いた沖縄古武術のおじさんと焼き鳥食べた話したいんやけど「また今度! ね!?」はーい……」
身辺調査云々を爆速で忘れてこの人は本当にもう……!
同じ法治国家のご近所住まいとはとても思えないエピソードをウキウキで話そうとする虎人さんをどうにか黙らせ、その後姉さんが軽く咳払いをしてから話し始めた。
「その依頼主を私たちの実家だと仮定した話にはなるが……真っ先に思い当たるのは外部から雇ったり招き入れる人間の家族構成の確認の他、借金の有無といった素行調査等だろう」
「はい。直近では仙ね……上の姉がお見合い相手のお婿さんを迎えるにあたって半年近く人を雇っていました」
「は、半年!? たかが結婚にそこまで……?」
「その結婚ひとつが
「言ってしまえば先程の貴族達と同じでな、古い家同士の婚姻ともなると否応なく本人らの気持ちよりも家のあれこれが重視される。……よって相手方に問題が無いか調べるのに興信所を用いる程度は当たり前で、よほどのことがない限り調べられる側もそれを承知で『やましい事はございません』と毅然としているものだ」
「すげー、世界が
姉さんはどうか知らないけどこんな話をするのは初めてだなぁ、わざわざ自分から周りにひけらかして得する内容でもないし。
「……ん? あの、家督を継ぐって? いや、なんとなくは分かるけど……家制度的なアレよな? 現代社会で習ったやつ……100年以上前に廃止されたんやないの?」
……と、納得した様子だった虎人さんが今度は別の所に食いつき、授業中によく質問するタイプだったことを思い出した。
「相続の話か?」
「うん、ワイちゃん最近
「……虎人さんって意外と勤勉ですよね」
「おい、気持ちはわかるが意外とはなんだ」
「ケンカか? サイガ家さんの相続人を【規制ワードです】…………運営さん、ワイちゃん規制されるほど怒っとらんよ??」
シャンフロのボイスチャットってセンシティブワードへの規制は運営の怨念を感じるくらい強いけど、恫喝に関してはワードチョイスよりも威圧の強弱で判断されるようで大抵のプレイヤーが『殺す』等と叫んだ程度では即時規制が入ることはほとんどない。
正直緩いと言っても過言では無いのだけど、この人の場合は頻繁に規制されているためシステムによほど脅威的と判断されているのだろう。
「話を戻しましょう。実際のところ私も詳しくはありませんが……歴史ある家系だと資産が多岐に渡りすぎているのと親族が多いこともあって、法律通りに等分しようとすればどうしても揉め事になるんです」
「権利関係が複雑になりすぎているわけだ。そこで長女、あるいは長男が一旦全て相続した上で協議し分配する形式が現代でも残っている。我が家の場合はほぼ全ての動産・不動産はセン姉さんが相続して、私やレイは相応の現金と一部動産を受け取る流れになるだろうな」
「……。はえー、というか2人ともガチガチもガチの名家ってこと? こわ……」
「聞いておいてこいつ……ッ! ……なんにせよ、私は長女ではないから今こうして家を出てゲーム生活を謳歌出来ているわけだ。姉さんには感謝している、大いに感謝しているとも……」
「家がかけてたコストもプレッシャーも私達の比ではなかったからね。もし私が長女だったらと思うと……うぅ」
「わぁ……あぁ……」
「震え上がるレベル!? ……一番上のお姉さんが滅茶苦茶すごい人なのはよーわかった。お嬢様も大変なんやなぁ」
「わかって貰えて何よりです……」
周りの誰も彼もが私たちのことをよく知りもせず、憧憬や羨望あるいは嫉妬と言った感情を向けてくる中にあっても弱みはなかなか見せられないものだ。
真実の愛がどうのとハランになびいたサンも、もしかしたらこんな心情だったのかもしれない。だからといって浮気が最低な行為であることは変わらないため容赦なくお屋敷を襲撃するけど。
◇ ◇ ◇
(うーん……ワイちゃんってば名士エアプすぎた?)
ログアウトした後のストレッチ中なワイちゃんだよ。久しぶりの虎視点だよ。
……さて、実の所あともう一つサイガ姉妹に聞きたいことがあったのだが、これ以上はメンタルの限界に届きそうだったためやめておいた。タイガー・深謀遠慮。
というかわざわざ聞かなくともサイガ家に対する二人の意識、長女さんに対する畏敬と引け目、それから大きい家の長たる人物を取り巻く環境を聞き『後継者が出奔したらどうなるのか』大方の察しはついた。
(昔お母さんがお父さんと駆け落ちしたことは聞いとったけど……二人のあの狼狽えようを見るに、ミヅキ叔母さんも相当苦労したやろな)
ワイの母・周布虎珀の旧姓は”
お母さんはその盈月家の長女で技術の全てを継承する立場にあったらしいが、『お父さんと出会って全てを捨てたの』と小さい頃から飽きるほど聞かされたものだった。お母さんの妹である叔母は今でも勝手をやらかした本人を許していないようだが。
しかし今回サイガ姉妹の話しを聞き改めて考えたところ、叔母さんの対応が優しすぎることに気付いて恐ろしくなってきた。怒りをお母さん以外に向けない上にワイちゃんとお父さんに対してはダダ甘で、さらにワイちゃん誕生を機に絶縁を解いたというのだからやりすぎに思える。
もし叔母さんが感情を優先して動くなら怒りに任せて徹底的に攻撃する、あるいは完全に絶縁して距離を置くのが自然だと思う。
だがもし、感情ではなくワイちゃんには疎い名家の合理でそうしているなら…………考えてもわからなかった。慣れないことを聞いて考えたせいか頭痛がしてきたのでそこで考えを打ち切る。
とりあえず今度京都に行く時のお土産を増やすのと、従弟のカヅキくんへの小学校進学祝いをどうするか考えることにしたワイちゃんだった。
(にしても二人の姉が
それこそ昨日興信所の女性調査員である杉原さんにサモエドカフェで良い
随分な女傑であるようなので一度会ってみたい気持ちが生じているものの……過去にかなり尊敬していたモモさんの実態はいい歳して男慣れしてない異常麺愛者であったし、妹も優等生っぽいのに異性へのアプローチは赤点な辺りに彼女らが見てきた背中にも問題があると睨んでいる。
とはいえ健全な虎は嘘を吐かない生き物であるからして、モモさんにああ言ったワイちゃんは何もしない。モヤモヤしていた部分がスッキリして安眠できるなら満足よ。
ちなみに不健全な虎というのは山月記の李徴とか。小役人がどういう理屈で虎になれたんやろ。*6
かつて各方面にご迷惑をおかけした
そんなことよりもマグロだ、ふと思い出した漬けマグロに対する欲求が半端ない。とりあえず切り身はスーパーの安物にするか、あるいは商店街の魚屋さんで買い物ついでにお話を聞くのもいい……ところで虎斗くん、君ってちらし寿司ならこどもの日に作ったことがあるけどシンプル酢飯は────
(────うん? なんか、唐突に謎の不安感が…………あっ、これ美味しそう)
考えても何も分からないのに何かを見落としている感覚だけがあったが、盛られた本ワサビの緑がよく映える漬けマグロ丼の画像を見て吹き飛んだ。
先程本題を話せなかったらしいサイガー0から何やらメッセージが来たので、遅い時間だけど画像を共有してあげた。後日実際に出来上がった物を撮影し再度お見せするから楽しみにしておいて欲しい。
……考えてもパッとしないことなら大したことでは無いよね!
「姉妹は一蓮托生ですよ、百、玲」
虎の存在の有無に関係なく”悪役令嬢Lv100”に可能性を感じたのが俺なんだよね……
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも