シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
いつも通り解釈違いに気をつけてください、しばらくモモちゃんの出番は基本ないから今回だいぶ調子に乗ってるよ。
マッサージ描写あります。何もやましいことはありませんが一応ね? 私は自己顕示欲が強いのでね、赤いタグを増やしたくないのです。
まさか
「ではまた別のどこかのサウナで会おう、戦友」
「バイバーイ。……ワイちゃん高校出たら熱波師になろうと思う」
「そうか、気の迷いだからさっさと忘れろ」
女湯まで届くほど大きな事件性のある悲鳴を響かせていたこいつは、ほんの二時間で新しい友人を一人作って出てきた。……並んで漫画を読んでいるだけで周りの女性客が色めきだっているのを見かけて頭を抱えたものだ。
「…………おー」
「……怒らないから、私の姿に思う所があれば言ってみろ」
「妊婦さんみたい。……ぐえー」
人が気にしていることを率直に口にするアホの頬をつねる。怒らないからと言って手は出さないとは言ってないぞ?
胸があるせいで館内着も全体で見るとブカブカなサイズを着る必要があり、そのためどうしても着膨れして見えるというのがちょっとした悩みだった。
「ほら行くぞ、本を元の場所に戻してこい。……シリーズ物を全巻まとめて持ってくるな、迷惑だろう」
「十巻ならええかなって……というかマジで岩盤浴行くん? お風呂とサウナに続けて……?」
「身体が暖まっている今がベストなんだ」
この施設の館内着は休憩スペースでくつろぐためのもの、岩盤浴スペース利用目的のものとそれぞれ別に一着ずつ用意されている。今私達が着用しているのは後者であり、直ぐに岩盤浴に移れるようあらかじめ着て出てくるように言っておいたのだ。
「ワイちゃんとしては何か食べたいんやけど」
「……たしかに空きっ腹のままなのも良くないな、軽食を挟むとしよう」
「イェア!!!!!」
朝食はすっかり消化されたのか、コロコロとお腹が鳴っていた。
岩盤浴に限らず温浴直前後の食事は消化不良を起こしやすいため避けた方がいいのだが、かと言って空腹でも低血糖を起こす可能性がある。
「……? 食堂あっちよ?」
「いいから、今そこに入ると軽くで済まなくなるだろうお前」
ウキウキで館内レストランに駆け込もうとする駄虎の首根っこを掴み、あらかじめ目星をつけていた場所へと向かう。
多種多様な自動販売機が設置されたコーナーだ。
「えっ、温泉に来てまでカップ麺を……? こ、こんなことが許されていいのか!?」
「軽食だと言っただろうがあーっ! ……そうは言うがな、今この瞬間はカップ麺がベストなんだ。四の五の言わずに選べ、うどんかソバのようなお出汁系がオススメだ」
「あい……」
どうせすぐ手のひらを返すくせに疑いから入るな、前置きという名の手間を挟むな、面倒くさい。
私は普段あまり見かけない関西だしのうどんを、ヒロトはそれよりも早く出来上がるソバをそれぞれ選択した。
「っ!!!! 汁が身体に沁みるっ、うまっ……!」
「そうだろう、そうだろう。汗をかいたあとはこれが良いんだ……」
あらかじめ予想していたが即落ちが過ぎる。
ふっ、だが無理もない……ただでさえ早い、安い、美味いの三拍子が揃ったカップ麺はシチュエーション次第でさらに美味くなる。登山を経て山頂の景色と共に食すというのはその最たる例だろう、山登りなぞしないから実際どうなのか体感したことは無いが。
「……うん、シンプル足らん」
「遅くはなるが後でレストランにも行こう、後でな」
一日は長いんだ、ゆっくりと良さを知ってもらおう。私の好きなものを、彼にも好きになって欲しい。
◇ ◇ ◇
「ほんでなー……ジークヴルムの巣にひっそりと咲いてたその『月牙美人』ってアイテムを聖女ちゃんに
「そうかー……後でまた詳細を聞かせてくれ……」
『装備中PKしていない期間に応じてMP・スタミナ消費最大30%軽減、呪いをレジスト(極弱〜強)、装備解除でリセット』とかいうふざけた性能をした指輪の話を、小石大の岩塩が敷き詰められた熱い岩盤に仰向けで蒸されながら聞かされた。
お前本当にそういうとこだぞ、何の気なしに有益な情報を雑談交じりに……それも身体の芯までポカポカして気持ちよくぼんやりしてきたタイミングで出さないで欲しい。
あと
いや……下手に手にしたら今度はこっちが標的にされかねないか、聖女イリステラの目が無ければジョゼットは間違いなくやるだろう。聖女産のユニークアクセサリーが手に入って小躍りしている姿が目に浮かぶようだ。
それはそうと……広いというのはそれだけで良いものだな。
基本的に手狭となる女性専用スペースとはまるで違う、広々とした共用岩盤浴スペースの壁際にロングタオルを敷き並んで横になっている。
そしてあまりの快適さに私は感動していた……無遠慮な視線を向ける輩もバターのように溶けている隣のヒロトの姿を見ればすぐさま目を逸らし、私を目当てに近づいてくる悪漢は一人として居なかった。
ついでに、くつろぎスペースで謎の美青年と並んで漫画を読んでいたヒロトの姿を見ていたと思しき女性客も、隣の私を見るや否や肩を落として去っていく。
だが……
「キミ、かわいいね……大学生かな? イイ身体してるけど、どこのジムに通ってるの? てかシャンフロやってる?」
「あの、困ります……連れと一緒なので……」
「誰だお前! あっちへ行けっ、シッ、シッ!」
……ヒロトの方に絡んでくる
今追い返した変態がその一人かは知らないがこいつは格闘技ファンからすれば時の人である。特にボクシング界では中学アマボクシングで集めてきた注目と人気が若干16歳にして爆発しており、圧倒的な強さとショーマンシップからなるスター性でブームを起こした風雲児扱いだ。
実はそのブームの起こりに私は間接的にであるが関わっていたりする。
ヒロトはリアルの私に対する
諸事情あって傾きかけていたスポーツ部署はそれを好機と判断し、思い切りを通り越した
するとどうだ。それぞれのファンが相互に動線を確立し、両方の界隈が盛り上がり社会現象にまで至った。*1……そのバックナンバーは今でも売れているんだ、部数が高まるんだ。
それによってスポーツ部門の収益がV字回復しただけではなく、弊社の苦手分野であった男性の
会社の本気度たるや、格闘技にわか顔ファン女性へのメッセージが
(本人からしたら髪と眉を整えただけですっかり客寄せパンダだものな、嫌になる気持ちは分からんでもない)
「ところでモモさんさ、今度の昇進ってワイちゃんのおかげってマジ?」
「……ああそうだよ、ほぼお前の
「照れる」
仕事のことだけが上手くいく。
トワとの繋がりから否応なく利益を上げたことから入社一年を満たずに主任に昇進し、余暇時間を減らしたくない一心で業務を効率化させたことからわずか一年で係長に昇進した。
その次はエイトという新進気鋭のアイドルをどこよりも早く売り出したことで部長代理への昇進が検討され……そして直近で、一部署を建て直した
……なお
元の部長が寿退社した穴埋めで異動してきた人だったのだが、スポーツ部署全体を個人の方針に偏らせ顧客ニーズを無視した内容を売り出しガタガタにした張本人だった。
取材記者としては非常に優秀だったらしいが、残念ながら管理者としての適性は低かったらしい。
私が立場を奪ったというよりは、空けた椅子に有望株を据える人事というのが順当だろう。
良くも悪くも巡り合わせの結果だった。
(だが大卒三年目から部長ってなんだ……? 24歳の若輩者にここまでの重荷を背負わせる上層部もそれを容認する株主もおかしくないか……!?)
望む望まないに関わらず、仕事のことだけが怖いくらいに上手くいく。
「不労所得で
「……仮に仕事辞めたとして、余った時間で何するん?」
「ふぅ……シャンフロに決まっているだろう」
(専業主婦とかやらせたらアカンタイプやな、ニートまっしぐらやん)「……やれるだけやってみたらええやん、疲れたらワイちゃんいくらでも付き合うから」
「言ったな? いつか私が限界を迎えたら責任取るんだぞ??」
「ごめんやっぱナシ「こら」ぐえー」
頬を引っ張るとサラサラの汗がやや遅れてにじみ出てきた。……持ち込んでいたミネラルウォーターもお互い空になっているな。
ああ……話していると、うっかり長く入ってしまった。身体を伝う遠赤外線と一人で向き合うよりも遥かに清々しい時間だった。
◇ ◇ ◇
岩盤浴スペースを出たあとは冷気室で身体を冷やし、汗を流し館内着を着替えレストランでお腹を満たしてから休憩スペースに移動してきた。
「ふぅ……存外イけるものだな」
「……炭酸2リットルとかよー飲めたの。あの、なんだっけ……シリ……
「メスシリンダーな?? 変なところで詰まるな……!」
「そうそれ」
ラガーとエールで1リットルずつのタワービールをおつまみと共に干した私とカツカレーを大盛りで平らげたヒロトは、お篭もりスペースでビーズソファに身体を沈めてダラけている。
たっぷり汗をかいて水分を失い
普段一人だと防犯の観点からやれないこともあり、ポカポカとしたほろ酔い*2状態が気持ちよかった。
「盛り合わせのおつまみよりも、トンカツ一切れが一番美味しかったな」
「よりにもよって真ん中の一切れを横取りしやがった時は品性を疑ったよ?」
「とはいえ、確かに2リットルは多かったかもしれない……お腹がたぽたぽ言っている」
「スルーしよった……」
周りからすると私達は肉食
「んーっ、あ〜……少しはかるくなった」
「肩こり? あ──ーぁ…………大変そうやね。ちょお触ってええ?」
「ん」
胸のせいだと言う言葉を飲み込んだことは褒めてやろう。
肩にかかった髪を前に流して背を向けると、蒸しタオルのように熱を持った手が両肩に被さる。
……想像よりふた回りくらい大きく硬い男の手に一瞬声が出かかったが根性で抑えた。我ながら情けないことだが、年上らしい余裕を保つことが理性の最後の砦だった。
「ほ、おっ……えっ、何だその丁寧な手つき!? 痛みが全くなくて逆に困惑したぞ……!?」
砦、
「手で触れればどう揉んだらええかイメージが浮かぶんよ。……というか仕事中に肩回しとる? ウチのおばあちゃんより硬いんやけど……」
「言い方! ちょっ、そこ……んあっ」
手のひらでじんわりと、凝り固まった筋繊維を傷つけない力加減で疲労物質だけを押し出す丁寧な手つきに熱が籠った声が否応なく漏れる。
人体の破壊に特化した格闘家の手からこんな快感がもたらされていいのか……!?
「ふ、ぅ……っ! ンンッ……」
「ふふっ」
気づけばビーズソファにうつ伏せにされており、私はたまらずハンドタオルを口周りに押し付けて声が漏れるのを抑えていた。
ゴッドハンドというものなのか、それとも本人の察しの良さから来る技能なのか……私自身知りもしなかった肩周りのツボが実際に続々と暴かれていた。
肩甲骨の周りを掌底部分で押し伸ばされ、僅かなくすぐったさとそれを上回る甘やかな電流が首伝いに後頭部まで走る。
人差し指から小指までの四本の太く長い指全体で肩の付け根周りの筋肉を撫でるようにほぐされると、淀んでいた疲れが血液に溶けて身体を巡るような錯覚がした。
波打つような手つきで首筋を揉まれると、どうだ……首周りで滞っていた血流を手動でポンプしたように、脳に酸素が回って思考が拓くようだ。
「ふぅぅぅ……おま、な、なんでこんなに上手いんだ……ッ!?」
「通っとる整体の真似しとるだけやけど……?」
(っ、〜〜〜ッ! 私の反応を楽しんでいるな……っ!?)
肩周りの緊張が緩んだのか呼吸が深くなった気がする……だがそんなことよりも、彼のそのニヒッという笑みに垣間見えた加虐性に身体がブルりと震えた。
その大きな手からは真心が伝わってくる一方で、子供が新しいおもちゃを手にした時のような喜悦が同居しているように思えた。
「肩回すから横寝して腕上げて」
「…………んっ」
心身が征服されるような感覚に対し不思議なまでに恐れはなく、むしろ期待と共に身を委ねていた。
自分が何を求めているのか、分かっているようで言語化できない。
だがそれはきっと私がこれまで忌避してきたものだと思う。
それを彼にだけ暴かれることを望んでいた。
……とはいえ、だ。
私達はシャンフロにおいてはお互い最高レベルであるが、リアルではあまりに若く経験値が足りていなかった。
「こんな風に身体を脚で固定して肩全体を…………んッッッ!?」
(うん? ……!? 〜〜〜〜ッッ……!)
ムニッ、と。
彼が肩に跨り私のウエストよりも太いその両脚が身体を挟み込んだ段階で、お互いの余裕が完全に消え失せたのを直感する。
熱い、硬い、大きい。
脂肪が薄いのに太くて、強い。
種で見れば同じ生き物であるはずなのに、その雄々しい丸太のような太ももが自分にもある
「え、なにを……っ」
ヒロトが触れている脚を放そうとしたのを感じて、私は無意識に自由な方の手で引き寄せ震える声で続きを促していた。
「…………続けて、くれないのか?」
「ミ゜ッ!? ……じゃ、ゆっくり肩を回すから、痛かったらゆっ、言って……言うてな……?」
自分の行動に思考が追いつかない。
先程まで鷹揚にしていた頼り甲斐のある男がドギマギとしているのもあって意識の行方が分からなくなりそうだ。
「おっ……ほ……」
(声ヤバ……うわっ、しっかり回らん……何年ものの肩こりなんやろこれ)
ごーり、ごーり、ガコ、ガコッ。
肩甲骨を中心に肩全体を動かされゴリゴリと鳴っている。おそらくは筋膜を剥がされているのだろう。もっとボキボキ鳴らされると思っていたため若干肩透かしだったが、まるで巨大なすり鉢で丁寧にゴマでも潰すように両腕両脚で右肩全体を回される。
……なんだろう、レベル高くないか?
そのせいか冷静になったぞ……お小遣いを強請られたら5000円札に指が伸びるレベル99な体系的技術が、ただのもの真似でしかないのが恐ろしい。
「あー……反対もやる、よね?」
「ん……して」
(寝返りうっただけで『タポッ……』って!?)
(こいつ本当に好きだな? 少しくらい手を伸ばせばいいものを……)
左肩を回されながら思う、こいつの分別と良識、そして短〜中期間のハイパーストイックな減量生活を強行できる精神力と自制心……理性と呼ばれるそれらが恨めしいと。
ヒロトは断じて無欲な男では無いし、むしろ体格相応に三大欲求が旺盛だ。にも拘らず今こうして圧倒的優位に立ち、私を手篭めにしようと思えば出来る状態にあってまるで獣性を匂わせない。……目先のことに集中しているだけかもしれないが。
「なんかろくでもないこと考えとらん……?」
「……いいや? だいぶ真剣なことを考えている」
……本当に不思議なことに、こいつは他者の機微にここまで鋭いのに女心にはひどく疎い。特に異性からのアプローチについては
よほど嫌な思いをしてきたのか、異性への偏見が強いのだ。
御父君のストーカー被害の事は聞いているがおそらくそれだけが原因では無いのだろう。シャンフロでもリアルでも、他者の人格を無視して自分の都合を押し付ける……本人が言うところの『クソ女』への冷酷さが顕著だった。
(私と大差ない程度には気難しいな……?)
さて、それらを踏まえた上で彼は私に対し、異性として明確に好意を抱いている。
真奈さんは『そのメロン揉ませて迫れば即ファイト一発でしょ』と言うが、八歳下の高校生を相手にそんな不埒な真似が出来てたまるか……! あと、間髪入れずに…………というのは、流石に怖い……。
私からすればぼんやりしていた間に距離が縮まって……いや詰められていて、コーナーに追い込まれ退路を失った事実に手遅れになってから気付き今現在パニックに陥っているのだ。落ち着き払った大人のフリで誤魔化すのがせいぜいだった。
(心中を詳らかにされればきっと死ぬ、悶死する……!)
(表情コロコロ変わっておもろ)
24年と1ヶ月もの間で異性とは言葉よりも竹刀を交わした回数の方が遥かに多い私にとって、家族を除けばこいつ一人との会話量がダントツという有様だ。もしかしたらそのうち家族以上に────家族以上に!? さ、流石に飛躍し過ぎではないか!?
…………うん、まあ、押すのが
「ん、こんなもんかの……じゃ、仰向けになって」
「あ、ああ……」
「タオルで顔隠されるとなんか本職みたいやな。……ちょお痛いかも知らんけど、力抜いて頭下ろしてな?」
「おごっ……!? ひ、響く……!」
無意識に息が漏れてる、蓄積した疲労の核心に触れられたようだった。
首と頭の境目辺りのツボを親指の先で、頭部の自重を利用し串刺しじみて指圧されると、ビリッと反対側の眼球まで電気が走った。
眼精疲労に効いているのが既にわかる……ギュンッと頭の血流が加速するような感覚があった。
「ほぉ、ぉぉぉ……」
「はい、おしまい。……完走した感想ですが、ちゃんと整体にかかった方がええと思う」
「ヒロト先生、明日のお昼は空いているか」
「今日で閉店ヤンケ」
こいつめ、そろそろ一年の付き合いになるというのに私のことをよく分かっていないな? お前が
私は一途でしつこいぞ。
誰よりもお前がよく知っているだろうに。
……まあその辺は追々として、肩がかつてないほどに軽くなった。頭部も羽毛のように軽く、視界も広く明るくなった気さえする。
澱んでいた疲労物質により妨げられていた酸素の運搬が健全化したのか、脳がスッキリとして本来のパフォーマンスを取り戻したようだった。
「大したものだ……ほんの三十分程度でここまで変わるものか」
「後は普段から肩を回さんとね。こう、肩の力を抜いて指先で鎖骨辺りにチョンと触れてやね、肩甲骨を意識しながら肘で大きな円を描くように回すのがええよ」
言われた通りにやってみると、普段回してもうんともすんとも言わなかった肩から『パチ、ペキ、コキ』と小さな音が返ってきた。
「なるほど、これは確かに肩全体が────」
ブッ。
肩を数回まわして勝手を理解し少し大きく回してみたタイミングだった。過去数回聞き覚えがある音がして、それに少し遅れて館内着の裾から桃色の
……下着の留め具が折れた音だった。
「ん? モモさん、なんかさっきより服がシュっとして「ちょっと汗を流してくるッッッ!!!!」へ、へい……」
胸元を押さえ急ぎ足で脱衣所に駆け込む。
(……まさかとは思うが、肩周りの緊張が緩んで!?)
荷物を入れているロッカーを解錠し手を奥に突っ込み、取り出した着替えの下着を当ててみると…………少し、キツかった。
見られてもいい顔になるまで、それから十分もかかった。
◇ ◇ ◇
「……んあ」
「おー。起きた?」
「水……」
「ほい」
頭を冷やしてから戻り、少し駄弁っていたのだが……こいつの声を聞いているうちに熟睡していたらしい。乾いた喉を潤すと共にヒロトの左手を引いてスマートウォッチのデジタル時計を見ると、二時間と少し経過していた。
「夕飯どないする? ここで食べて帰る?」
「いや、20時に
「あーっ! アリ金策の! すっかり忘れとった、なんか半年くらい前の話だった気がする」
「今月頭の話だったろう……? *3」
こいつは定期的におかしな事を言う。今は春先だのにもうすぐ夏みたいなことを言う時があるし。
それはそうと、公共の場で熟睡するのは初めての体験だった。ヒロトは雑談の最中から読んでいたシリーズ物の格闘漫画数冊をそのまま横に積んで携帯端末をいじっており、おそらく私が眠っているのを見てその場を離れなかったのだろう。
「……ずっとそばに居てくれたのか?」
「当たり前や、そのために連れて来たんやろ」
「確かにそうだが……どうしてそんなに良くしてくれるんだ」
「あー? それ聞く? 気を引きたい以外になんかあるん?」
「お、お前なぁ……! そういうことを聞きたいんじゃあないっ」
軽く拳を握って胸板を叩くとぽすっぽすっと、硬いのに柔らかい壁のような筋肉に衝撃が吸収される。
……年下に手のひらで転がされているというのに、その羞恥が心地いいとどこかで感じていた。
「へへっ、わぁーった。……ぶっちゃけた話な、ワイちゃんが良くするのはそれが『ええこと』だから」
「……何が違うんだ」
「一日一善的なあれよ。ええことしとると気持ちがいい、日々堂々と胸を張れる。そして負い目の無さが迷いを無くして強さになる……ええことをすれば強くなる、ということにしとるわけ。つまるところ
「何でもそこに繋げるんだな?」
「おー。せやから、なんも気にせんとワイちゃんの影で安心してくつろいでええんやで? 男のホンカイってやつや。……それに、モモさんと一緒やったら、こっちはそれだけで気分ええから」
ニィっと、口の端を大きく上げたその笑みは夜空のような青黒い瞳も相まって極星のようだった。鮮烈な輝きが脳に突き刺さり、
「キュウ……」
「……うせやろ? いや、乙女ゲー意識したセリフやったけどこんな……男慣れして無さすぎでは?」
なんで……なんでこいつは、こんなに歯が浮くような言葉をポンポンと……ッ! というか真奈さんの影響か! 時々オススメをプレイさせてると言ってたものな……ロクな入れ知恵しないなあの人ッ!?
視界が定まらず、顔を伏せて見られないようにする。都合よく意識がなくなったりはしなかった。
勝手なことを言って……こんなの、私の真っさらな交際歴は関係ないじゃないか……。
お願いだから一思いに殺してくれ。
◇ ◇ ◇
「厚切り牛タンと極冷ハイボール……神……」
モモちゃんとエイトちゃんを飲みに誘ったけど、それぞれ先約と翌日の遠方営業を理由に断られたワタクシ天音永遠ちゃんは個室で独り寂しく七輪の熱気と向き合っていた。
噛む度に溢れる肉汁に身体が喜んでいるのを感じる。皮がカリカリになった丸腸ホルモンをタレに沈めて口に含み、脂を強炭酸で流し込む歓喜に体がブルブルと震えている。
(親衛隊とファンクラブへの根回しは済んだ……仕事も一段落したし、後は本人への対策を固めないとね。悔しいけど今のまま対面したら10割負けちゃうし)
サバイバアルくんは
あの子は当日確実に来るだろうけど連絡は無い。……報連相は基本でしょうがッ! 不確定要素が強くて計略に組み込めないじゃないの……!
(結局最後に頼れるのは自分かぁ……出番までにどこまで削れるものか)
要らぬ借りを作ることになったのは痛いけど、やはりあの二人が一番の頼りだった。
(────ん? モモちゃん?)
ドアの覗き窓からチラッと、私の誘いを袖にした親友の勝気な顔が見えた。見間違えということは無い、世界広しと言えどあのレベルの美女が私を含め県下に何人も居たらたまらない。
(へぇ〜〜〜〜? こんな偶然あるものだねぇ?)
出不精のシャンフロ廃人な彼女がいったいどんな約束で出てきているのかは知らないけど、無二の親友たる私に寂しい思いをさせておきながら姿を現したのは
トップモデル天音永遠サマ、オンステージ! ドアを開けて通路へと躍り出る。今夜の主役は私d
「────あ?」
ピシャッ!!!!!
……個室に隠れ、ドアを閉めしゃがみ込む。振り返ったその若い男の圧に、私は本能的な脅威を感じていた。
(な、なにアレ!? 格闘家……? というか…………男!? えっ……ハァ!?!?)
背後に虎を幻視した尋常ならざる益荒男……
「どうした?」
「なんか
人類の感知能力を逸脱している……野生の勘かな?
三食カップ麺生活で女子力皆無のセルフネグレクト……銭湯で湯船に浸かる時には中年みたいな声を上げる上にサウナに12分くらい篭った後水風呂まで入り、普段着がジャージとサンダルな男嫌いの恋愛オンチで変なTシャツ野郎……!
そ、そんな異性交友と対極に立っているようなモモちゃんに、
「う、うそでしょ……こ、こんなことが許されていいの!?」
桃園でエイトちゃんを含めた三人で生涯独身義姉妹の契りを交わした*4モモちゃんが……ッ! 肉食系男子というか肉食の雄にメス顔晒しているゥ〜〜〜!?
(結婚したのか? 私以外のやつと……色を知る歳かッッッ)
「……あぁん?」
(ヒエッ……)
席に着いた頃を見計らって覗こうとしたら、かけている眼鏡で威圧感を抑えきれていないその何某に再び勘づかれたため慌てて撤退する。
……ただでさえイカレ人間性能の半裸レスラーをどうにかするのに苦心している時に、なんでこんなことに直面するかなぁ!?
サイガー100の体力が100回復した、やる気が5上がった、バストサイズが1ランク上がった、『肩こり』が回復した、『眼精疲労』が回復した、虎人の好感度が5上がった、外出先に『スーパー銭湯』が追加された。
アーサー・ペンシルゴンは『不眠症』になった。
鉛筆が忙しい中でも虎退治のためにシャンフロで東奔西走している間に乳くりあってたんですよ彼ら。
虎斗くんの嫌いなタイプ:他人の意思を無視する人
小さい頃の虎斗くんは女の子と間違えられるレベルの美少年だったが、そのせいで見ず知らずの女性達からも顔や身体をベタベタと触られてきた経験がありリアル女性がうっすら嫌い。
他責思考で身勝手だったり、人格を無視し擦り寄ってきたり、そしてなにより弱さを理由に何をやっても許されると思っている人が大嫌い。法が許すならボコボコにしたいとすら思っており、ゲーム上では実行済。
・『虎斗くんは理性的』というルールは撤回されたらどうなる
そうなった場合は彼のパートナーとなる存在のありとあらゆる願望が上手く行きます。
なぜ本文で描写せずこっちに書いたのかはご想像にお任せします。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも