シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

33 / 36
参考文献:マンガ サ道 ~マンガで読むサウナ道

モモちゃんとオリ主のスパ銭回の投稿是非
(136) あ、いっすよ(快諾)
(6) 頭湧いてるんですか?
(13) そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも

アンケートありがとうございました、せっかく書いた物をボツにしなくて済んで嬉しい……(メンヘラ)
元々は虎斗くんの原案である女の子オリ主が楽郎くんを温泉デートお話だったものを改変したものです。
しかしユートニウム博士が余計なものを入れちゃった。

玲楽二度目の温泉デートに改変しても良かったけど、そっちは本家でタマネギ先生がやってくれると信じてボツにしました。





シャン風呂劇場 前編 『アウフグースチーム・留備魂』

 

 

 

「モモちゃんさー、近場で女性限定の広いスパとか知らない?」

「桃源郷でも探しているのか? 知っていたらお前には教えないぞ」

「同伴拒否とかひどくない?」

 

 男性専用の施設はそこそこあるが、女性専用となると少なくとも私の記憶の内には存在していない。おそらく採算がとれないのだろう、悔しいだろうが仕方ないんだ。

 

 この手の話題は今回初めてのものでは無く、私と永遠(トワ)とこの場に居ない八花(エイト)の三人間で間隔をあけて不定期に擦られる内容だったりする。

 苛立たしい事に私達は不用意に外出すれば行く先々で興味もない男に絡まれ、都度煩わしく不快な思いをさせられる。女だけで居るとこちらの都合などはお構い無しに声をかけてくる軽薄な連中が多すぎてまったく嫌になる……。

 

 私は仕事以外では人と約束していないとほとんど出歩かないためまだマシだが、他の二人は変装に加えて移動ルートを厳選し、場合によっては最低でも四人以上の集団を形成する等の対策を講じる必要があった。

 

 店選び一つとっても居酒屋は個室以外はNGであるし、スパや健康ランドは女性専用エリアが無い場合は候補から外すことになる。……同僚から話を聞いて気になったスーパー銭湯をホームページで詳しく確認し、泣く泣く断念したのがごく最近のことだ。

 

 というかそう言った問題を差し引いたとしても、当の本人がその場に居るだけで祭りの会場になるような有名人である以上、不特定多数の客が来るような場所に安息を求めるのはおこがましい話だ。

 

「大人しく個室系の施設に行け」

「ヤダ! 広いところでのびのびしながら雑誌とか読みたい! 気が向いたタイミングで肉とか魚でアルコール飲んでほろ酔い状態でグダグダしたい! あとデカいパフェとか食べたい……ッ!」

 

 ……出来ることなら私だって今すぐそうしたいさ。

 

 小型会議室で普段より砂糖多めのコーヒーを流し込みながら、空腹紛れにガムを噛みつつテーブルに突っ伏しているトワを見下ろしつつそう思う。

 

 最近は海外コレクションの取材と校了作業が立て込んでいて残業と休日出勤続きだったせいで心身共に疲労困憊だった。不健康な生活をしていると苦言を呈してくる奴が何も言わずに世話を焼いて来た程度には、無自覚の内に表にも滲んでいたらしい。

 不甲斐ないことだが今もこうして疲れた顔を周りに見せないよう打ち合わせにかこつけて個室を確保し、こっそりとチルタイムをとる程度に私も疲労のピークを感じている。

 

「……クッキーいるか?」

「超ほしいけどいらない。……今は中途半端に自分を許したくないんだよね」

 

 ……そして私がそうであるということは、半ば自動的にトワにもそれが当てはまる。タフネスで私に劣るこいつは、周りの視線が無くなった瞬間にスイッチがオフになってしまった。

 この時期にコイツが体調不良で休養しようものなら我が社だけでなく業界全体が軋みかねない、頼むから身体を壊してくれるなよ。

 

 スケジュールが詰まっているせいで週一のチートデイ*1贅沢メシもすっかりご無沙汰らしく、肉体以上に精神がすっかり参っているようだ。

 気持ち長めに設定しておいたスケジュールの中で打ち合わせ自体は早々に片付け、休憩の時間を確保したというのが実際のところだった。

 

 だが嬉しい事に直近で山場を超えお互いようやく落ち着きの兆しが見えたためか、気が早くも週末のリフレッシュ計画を私たちは立て始めていた。……今日がまだ火曜日であることを棚に上げて。

 

「何度でも言うがお前と一緒に過ごす気は無いからな」

「ええー!? イイじゃん一緒に行こうよ! おひとり様同士のシスターフッド見せつけていこ?」

「お前がいると余計に疲れかねんから断る……!」

 

 ココ最近は仕事でほぼ毎日顔を合わせてると言うのに、何が悲しくて休日まで合わなきゃあならないのか。

 

 せっかく鬱陶しいナンパを気にしなくてもいい施設が無いものかと調べても、お前が一緒だと同性からの視線や声掛けのせいで気持ち良く羽を伸ばせなくなるだろう。

 

「トップモデルの自覚を持って会員制の高級施設でも探せ」

「そういうのじゃなくってさぁ、広い空間でビーズクッションに埋もれながら人としてダメになりたいんじゃん」

「自分が人として外道(ダメ)な自覚が無いのか?」

怠惰(ダメ)人間のモモちゃんにだけは言われたくないんですけどぉ!?」

「そうまで言うなら私ではなく弟さんでも連れて────ふむ」

「……ちょっと? ナニ一人で頭の上に電球浮かべてるのカナ? ねえ、こら」

 

 ふと最近の身の回りの出来事を思い、ちょうど借りを返すという名目で誘いやすくその上男避けとしてそれ以上にない存在が身近にいたことに気が付いた。

 

 今週末で急にはなるが……まあ付き合ってくれることだろう。……ふふっ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 そして週末の昼前。

 私は今回の目当てであるスーパー銭湯へ、駅から出ているシャトルバスに揺られつつ向かっていた。

 

 昨夜の慰労会のアルコールは残っていないが、肩こりのせいか頭がややぼうっとしている……広い湯船と容赦なく熱いサウナ、そして多様な岩盤浴が既に待ち遠しかった。

 

「おおお……! バスでお風呂行くなんて初めてや……!」

「そこまでテンション上がるようなことか……?」

「普段は自転車か車くらいでバスとか乗らんし、というか()()()()ってなんかこう、特別感がすごい……!」

 

 直近の誕生日*2プレゼントで与えた縁が厚めの伊達(ファッション)メガネをかけ、その厳つい雰囲気をわずかに軽減させた少年が声を抑えながらはしゃいでいる。

 

 夏でも冬でもそして春先となった今も変わらず焦げ茶色のエクレアじみたマスコットがプリントされたジャージを愛用している、外見年齢が私と同程度にしか見えない虎斗(ヒロト)の感受性は一周まわって感心を覚えるほどだった。高校生にもなって乗り物ひとつで高揚するものなのだな。

 

「というか美人も大変やね。温泉に行くのも一苦労やもん」

「んんっ!? …………そうだな。だから今日は頼むぞ」

「ベストな人選やで、グハハ!」

 

 緑茶が気道に入りかけた。

 

 ……本当に今更ながら、疲労MAXだった平日(かこ)の私はとんでもない誘いをした……というか頭が湧いていたものだと思う。

 女が防犯目的に男連れするというのは一般的な手段だが、友人とはいえ一回り年下の少年をそのように立てるのはどうなのだろう……。

 

()()()があると思われて当然なシチュエーションだが、まだ高校生であることが悩みどころだった。時々こいつが十八歳未満である事実に人知の及ばぬ上位存在の作為を感じることさえある。

 

 こいつがせめて大学生ならと、本当にそう思う時がある。*3

 

「それはそうとモモさん、仕事の方はいい加減落ち着きそうなん?」

「ああ……平日に多少残業はするだろうが、休日返上はもう無い」

「そりゃ良かった……いやホンマにお疲れ様」

 

 労いの言葉が胸に沁みるのは、きっとそれが心からのものだからだろう。……僅かに触れる肩の熱と合わせてむず痒く感じる。

 

「なぁ、ヒロト…………ありがとう」

「ええて。代わりに今日はたっぷり奢って貰うからの?」

 

 ニヒ、と。

 人好きな笑みを浮かべながら、たったそれだけのことでチャラにするとまで言ってきて目頭が熱く、そして自分の都合に付き合わせていることに胸が痛くなった。

 

(……これではトワと大差ないな)

 

 ヒロトにはここしばらく要らぬ心配をかけリアルでもシャンフロでも大いに世話を焼かせてしまった。私がここ一ヶ月弱の繁忙期(デスマーチ)を健康を害さずパフォーマンスを維持できたのは間違いなく彼の存在があったからだ。

 

 私生活においては普段の作り置きだけでなく昼食にカップ麺と合わせることを前提としたオカズのみの弁当まで冷蔵庫に備えられ、洗濯も普段は洗って干すまでなのが畳むところまでされており不便を感じたことが一日としてなかった。

 ……寝具周りが常に清潔だとそれだけで睡眠の質が高まることを実感させられたことも抜きに出来ない。

 

 シャンフロにおいても『役目以外は自分が楽しめることだけやれ』と言って、(レイ)やマッシブダイナマイトさんらと連携してクラン運営に支障が出ないよう私の穴を埋めるよう立ち回っていた。

 午後十時軍のカローシスUQにも同じようなことをしていると聞かされた時は、ほんの少しだけ寂しかったが……おそらくはその辺りの繋がりなのだろう元黒狼メンバーの何人かを伴い、生産分野を充実させてくれた点が身に染みた。

 

 外様の人員が幅をきかせる真似をしたことにより、それこそ我が強いメンバーの割合が高い弊クランにおいて諍いは避けられなかった……だがそれは最初だけで、全体で見ればむしろ普段以上に雰囲気が良かったな。

 

 本人(最強)のネームバリューで反発する層を黙らせた上で、平時ではメンバーの希望に満足に応えられていない補助的領域を満たす事で『得が出来る』と知らしめたのだ。

 現状の黒狼の急所を手に取るような、そのつもりが本人にあればきっと組織を壊滅させられていたほどの名采配だった。

 

(……私とて分かってはいたが、クランの中枢にいながら実際にはどうにも出来ないでいた。それこそ外野から机上で終わらせず実行出来るのはこいつと天首領(ドン)くらいだろうな)

 

 久々に会ったキティさん(6)が去り際に伝えてきた『裏方メンバーの比率、今の倍にしないとダメねぇ……』という言葉も耳が痛く、合わせて今後の明確な課題だった。

 それこそ出血が伴う外科手術的手段も視野に入れなければならない。

 

 ……私では手が及ばない領域を補ってくれるヒロトには毎度ながら頭が上がらなかった。いつも善くしてくれる彼に、私は何を返せるのだろうか。

 

「ヒロト、お前何か欲しいものとか、して欲しいこととか何か無いか」

「あ? お礼のつもり? せやったら最低週一で部屋に掃除機かけるようにして」

「……他には無いか?」

「じゃあせめて睡眠を平均八時間とって?」

「…………新しいランニングシューズとか欲しくないか?」

「いらんわクソボケ……ッ! てか意欲だけでも見せてくれんかな……?」

 

 ……子供の頃にインフルエンザにかかった前後のことを思い出した。当時の家人達の対応も、治る前と後でこのくらい落差があったものだと。

 仕事を休めともシャンフロのプレイ時間を減らせとも言わず静かに支えてくれた彼は、多忙な日々と共に居なくなったらしかった。

 

 こいつに対し私は何を返せるのか、自問自答する日々が続きそうだな……。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「おおっ、ワイちゃん館内着とか初めて」

「普段こういう施設は使わないのか?」

「友達が泊まりに来た夜に風呂入りに行ったりはするけど一日のんびりとかは無いわ」

 

 施設に到着しチェックインした直後。

 会計バンドを使ってみたかったらしく意味もなく牛乳を買おうとしたバカの腕を引き、開放感あふれる”くつろぎエリア”に移動し設置されたソファに一旦腰を下ろした。

 ……言われてみれば、高校生だしそういうものだろうな。時々自然体で社会人の視点を当てはめてしまうあたり、間違いなく外見が悪い。老けているというよりは学生特有の幼さが抜けており、何をどれだけやって自分を追い込めばこの若さでそうなるのだろうか。

 

 そもそも私とて実家に居た頃はこういった場所に足を伸ばすことはまったく無かったし、大学の寮生活の中で近場にスーパー銭湯が開業するまでその素晴らしさを知らなかった。

 ……というか斎賀家(わがや)の内風呂、広い上に男女別という例外枠だったからな。

 

 それはさておき。

 おそらく薬湯のものと思われる漢方の甘く、それでいていやらしくない匂いが鼻腔をくすぐる。これから広い風呂に入るのだという気持ちが高まるのを感じていた。

 

「じゃあとりあえず二時間後にまたこの辺り合流しよう」

「に、二時間……!? えらく長風呂やね……まー、先に出てこの辺でマンガ読んで待っとくわ」

 

 そんなに長いか? 全ての湯を回ってサウナを数セットもすれば、いつも二時間弱ほどになるのだが……。

 

「参考までに聞きたいのだが、お前はどのくらいの時間入るつもりなんだ?」

「多分三十分くらい……? どんなに長くても一時間いかんとおもう」

「いや短いな!? まさかとは思うが……湯船だけでサウナは入らないタイプか……!?」

「熱いの苦手やし、サウナ自体……え、なんその顔、目の前でモンスター狩られた動物園(SF-ZOO)の連中みたいな」

 

 信じられない……。

 まさかこんなところにサウナの(よろこ)びを知らない奴が居たなんて……。

 

「ならば今日ここで生まれ変わるちょうどいい機会だろう」

「生まれ変わり……? たかが蒸し風呂でそんな「ああ?」っス……」

「いいか、今からサウナを楽しむオーソドックスな手順を説明する。一例でしかないが、今回はそれに従ってサウナの良さを体感して来て欲しい」

「うへぇ……」

 

 サウナへの偏見が凝り固まった典型的なニュービーの反応だった。だが二時間後にこいつは掌を返していることだろう……なぜならこの施設は、これまで通う機会を作れなかったことが悔しいほどに充実したサウナ施設であるのだから……! 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ……モモさんの手前強くは言わなかったが、ワイちゃんはサウナが()()だ。残念ながらその良さは分からない。

 単純に熱いのが嫌というのもあるがそれ以上にサウナ()苦痛とイメージが直結しているのだ。

 

 ボクシングの試合前に水抜きのためサウナを使うことが過去数回あったのだが……熱いし息苦しいし、肌は痛いし、喉は渇くしでキツくて。なるべく入らなくて済むように半身浴とか、摂水制限等での調整を厳格化したほどだ。

 

 怒らないでくださいね? たかが蒸し風呂で最終決戦直前みたいな顔するなんて馬鹿みたいじゃないですか。

 

「かと言って入らんかったら何故かバレるんやろなぁ……そしたら拗ねてめんどくなるわなぁ」

 

 とりあえずステップ1『洗体を済ませ身体を暖める、特に脚は重点的にな』を実行したところだった。

 湯船に浸かりながら抱いていたサウナの必要性への疑問を渋々ながら忘れて、サウナ室の前で身体を拭いている。

 

『高温サウナ』『瞑想サウナ』『薬草スチームサウナ』と、三種類もある中からとりあえず入ったのは高温サウナ。シンプル近かったからという理由だ。

 

(なんや、軍人さんじみた雰囲気の人達……)

 

 薄いビート板みたいなマットを片手に天井が低く横に広い室内に入ると、まばらながら異様な一体感を纏った入浴客達が十数人座っている。まるで、何かを待っているようだった。

 顔に突き刺さるような熱を感じつつ、適当な場所に腰掛ける。ちょうどTVの正面だったが……画面を見た瞬間にイヤな気分になった。

 

(チャンネルこのワイドショーか……司会の人嫌い)

 

 トークに他の共演者に対するリスペクトが感じられないため、見かけたらチャンネルを変える程度に嫌いな芸能人の顔を見てさらに気が滅入った。

 

 ゲストの天音永遠さん、ニッコニコやけど内心ガチギレしとるな。

 瑠美ちゃんの狂信ぶりを見てきたせいで若干嫌い寄りのニュートラルだったのが、少し好きに傾いたかもしれない。

 

 それはそうと……ステップ2『8分から12分を目安にサウナ室に入る。とは言え無理はしない』だ。

 ……まあ、()()()()入るのと比べれば気が楽であると考えるようにする。

 

(……天音永遠さんのこの声、なーんか聞き覚えがある気がする)

 

 他人の空似かもしれないが。

 

 ワイちゃんは人の特徴を捉えて覚えるのがそこそこ得意だ。顔でも名前でも性格でも能力でも何でもいい、一際目立つ……出来れば好ましい箇所を見つけて、そこに他の情報をぶら下げるような感覚で記憶する。

 

(リアルではないな、多分シャンフロ。見た目(アバター)だけ寄せたプレイヤーは結構おるけど、声は──)

「ようこそお客様(ビジター)。本日は温泉カフェ・コーラルにお越しいただきありがとうございます……このような郊外まで来ていただけるとは、感激だ……」

 

 とにかく考え事をして気を紛らわせていると、ふと服を着た施設のスタッフと思われる人が二台の機械……落ち葉の掃除とかに使うでかいドライヤーみたいなヤツを手に入室し、なにやら話し始めた。

 

 入浴客の意識が一斉に集まる……どうやらこの清潔感があるのに胡散臭さを感じる顔つきの人を皆して待っていたらしい。

 

「本日この時間皆様のおもてなしを担当致します、アウフグースチーム・留備魂(ルビコン)所属の熱波師(アウフギーサー)……オーネスト青歯です。すぐにでもロウリュサービスを始めたいところですが……この中に、ロウリュサービスが初めてという方はいらっしゃいますか?」

「えっ、アーフギース? ロール……?」

「いらっしゃるようですね、素敵だ……では、新しいご友人(サウナー)のために説明を」

 

 熱気で頭の回転が鈍くなっているのか、思った言葉を呼吸を置かず率直に口にしていた。……室内の十五人が全員、この瞬間から敵に回った危機感はきっと間違いではないだろう。

 

 ほぼ忘れていたステップEX(エクストラ)……『一時間ごとに行われるロウリュタイムをぜひ体験してほしい』が始まろうとしていた。

 

「まずはロウリュについて……ロウリュとはこのように、熱した焼け石(サウナストーン)にアロマ水をかけて蒸気を発生させることを指します。そしてその蒸気によって室内の温度と湿度を一気に上げ発汗を促す、サウナの本場であるフィンランドのスタイルです。素敵だぁ……」

「あっつッ!?!?」

 

 蒸気がやばい……!? さっきまでの時点で既に熱かったのが一瞬で一段階上の熱さに……! 

 

 既に肌からは汗が滲んでいた中で、さらに毛穴が開きブワッと汗が噴き出すのを感じた……空気よりも水蒸気の方が熱伝導率が高いって理屈!? 人間を石窯パンみたいに熱するイカレた真似を……! 

 

「あ、あの石が満杯のトロッコみたいなのって水かける用……!? 知らんかった……」

「……新しいご友人、もしやこれまで乾式サウナ……ストーブやヒーターが熱源のサウナしか体験して来なかったのですか?」

「たぶん……」

「不憫だ……だからこそ、もてなしたい……」

 

 なんか勝手に憐れまれた……! というかどいつもこいつも、さっきのモモさんと似たような表情浮かべてて腹立つんやけど。

 

 ────ッ!? まて、まてまてまて!! 

 

「ロウリュを行った後、立ち昇った蒸気をタオルやうちわ等で仰ぎご友人方にぶつける……それがアウフグースです。……が、私はこの送風機(ブロワー)を使っておもてなしをしています」

「あの、その機械……うせや「さあ! 共に楽しみましょう!!」ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」

 

 室内の熱された空気が、スイッチがオンになったブロワーから生じる暴力的な風に煽られて身体にぶつけられる。

 

「青歯流ブロワー・アウフグースです、楽しい時を過ごしましょう!」

「熱い痛い熱いヤバいッ!! 乳首……! 乳首焼ける……ッ!!」

 

 両手で胸をガードしギリギリのところで乳首を安堵する。あ、汗が物凄い勢いで溢れてくる……! 

 

「シンプル拷問……! 文化にカッコつけた傷害やろ……──っ!?」

「新しいご友人のその反応……本当に心が踊ります」

「いつの間に背後を──〜〜〜ッッッッ!?!?!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 背中があぶられてる……!! 背を打ち付けて流れた熱波が今度は耳を焼いてる……!! 

 

「友人ならば、もてなしたい……悦んで頂けたなら、最高だ……」

 

 目ん玉飾りか(フシアナ・アイズ)!? 

 

 これ以上は危険だ、退出するぞ……そう決めて立ち上がろうとした瞬間、両隣りの見知らぬ客によってを押さえられ動き出来なくされた。

 

「面白いのはこれからだろ……耐えろよ」

「私と共にロウリュサービスを受けられることを光栄に思いなさい」

「い や あ あ あ あ あ あ」

 

 様子のおかしい人達に四方を包囲され、ワイちゃんは推定十二分間クソ熱い室内に軟禁され続けた……*4

 

 ・

 ・

 ・

 

「スロー、スロー……クイック、クイック、スロー……素敵な千鳥足(ステップ)です、ご友人……!」

 

 ……殺人未遂現場から解放され、オーネスト青歯に手を引かれている。

 新しいご友人(サウナー)にサウナ文化をより良く知って欲しいとかで、水風呂に連行されている最中だった。

 

(み、みず……)

 

 何でもいい、一刻も早くこの身体を冷却しなければ死ぬ……! 

 

 自分が真っ直ぐ歩けているのか、向かう先にオアシスがあるのか自信が持てないまま……どうにかたどり着いた。

 

 ステップ3の『水風呂に三十秒から一分程度浸かる』……しかし、ワイちゃんへの試練は続くらしかった。

 

(…………ん? ”⑨”?)

 

 ふと目に映った数字が気になった。青いLEDランプの、デジタル数字だ。ついでにジャグジー付きで、ブクブクと泡が発生している。

 

「……9℃!? 19でなく!? ちょ、ちょお待って!? 百℃前後からこれに入ったら死……死ん……!」

「さあ、楽しみましょう!」

「う あ あ あ あ あ あ あ」

 

 蹴り落としやがっ────っ!? 

 

「〜〜〜〜ッッッッ!?!?!?」

 

 あまりの温度差からか、冷たさだけでなく肌の痛みや指先に痒みを感じる。……たぶん錯覚だろう。

 

 しかし身体がしっかり冷えたおかげか、思考が少しまとまりつつある。……それにより、一つ気付いたことがある。

 

 ここって確か水風呂も三種類あったはずなのだが、オーネスト青歯の野郎……もしかしなくとも一番冷たいやつに放り込みやがった……ッ!! *5

 

 ・

 ・

 ・

 

 たまらず極低温水風呂から這い出た時には、あの野郎は既に姿を消していた。下手すると手をあげていたかもしれないから居なくて良かったよ……。

 

 ステップ4……『外気浴をしよう。気化熱は想像の数倍身体の熱を奪うから、身体はしっかり拭くように』

 

 なおも律儀に手順を守っているのではなく、身体がキンッキンに冷えた今の状態で湯船に飛び込むのは心臓に悪そうだと判断した結果だった。

 

 頭がガンガンする……心臓と血管を痛めつけて、遠回りな自殺としか思えないアクティビティなんやけど……

 

「やあ、サウナデビューでオーネストに目をつけられるとは大変だったな。だが、これも巡り合わせだ……共に”壁越え”と行こうじゃないか」

「”壁越え”……?」

「何も考えず横になっていればわかる、深い呼吸を意識するのが個人的なオススメだ」

 

 エラくセクシーな少し年上の人に声をかけられ、不思議と信頼を寄せてしまいそうなその声色に促されるように隣のリクライニングチェアに腰掛けた。

 

高価(たか)そう……)

 

 プラスチック製でシンプルなデザインの既知の椅子とは違い、木目編みのそれは温かみがあって寝心地も優れていた。

 

 日差しが暖かく、風が涼しい。肉体の外側が冷たくて、内側が熱い。

 熱さと寒さと暖かさと涼しさが混ざりあう初めての感覚がどこか心地いい。

 

 ゆっくり深呼吸すると、身体が新鮮な空気に喜んでいるようにスーッとする。身体の中の淀んだ空気と入れ替わって循環しているようだ。

 

 ……空、青いなぁ。思えば最近は現実よりもゲームの空を見上げることの方が多くなった気がする……シャンフロでのリアリティに感動を覚えてたけど、そもそもこれがリアルなんよなぁ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 …………ん!? なんか気分がフワフワしてたっ! というか頭が空っぽになって……もしかして気絶してた? 

 

「”壁越え”、成ったようだな……見事な()()()()だったぞ、戦友」

「ととのい……?」

「所説あるが温冷交代浴による急激な温度の変化により、脳が快感物質を分泌することによりととのいの境地に達しているのではないかと言われている」

「ぜったい身体に悪いやつやん」

「見た目のわりに細かいことを気にするんだな? 心配で少し見守っていたが、君は五分以上放心状態だったぞ」

「それはご心配をおかけして……ウソ!? 体感数十秒やったよ!?」

 

 時間、どこへ!? 

 

 水風呂とか露天の椅子の存在意義が今日までわからんかったけど、こういう用途やったんか。

 

「サウナ、水風呂、外気浴。これらを1セットとして3回繰り返すのがスタンダードなサウナ―スタイルだ。もちろん合間に湯船に浸かるもよし、真冬の寒い時期には水風呂ではなくシャワーで済ませるもよし、また無理に3回繰り返すこともない……サウナ―としての背景を、焦らず見つけるといい」

「戦友……」

 

 サウナ、すげぇっ。

 とりあえず言われた通りに実行しただけで身体が軽く、頭の疲労がすっかり抜けたような気分だった。この上自分に合ったスタイルを追求する楽しみにすっかり心が踊っている。

 

 モモさんを含む社会人がハマるのも納得の快感だ、むしろこれが必要になるレベルの社会怖くない? 

 

「……で、お話しでワイちゃん足止めしとるよね?」

「気付いていたのか、流石だな。だが……丁度来たようだ」

「ご友人! サプライズをさせてくれないのですか!?」

「ッ!? オーネスト……ッ! てめぇさっきはよくアバーッ!?」

 

 バケツを提げてぬけぬけと現れたクソ野郎の首を掴んでやろうとしたら、推定9℃の水をぶっかけられ……ワイちゃんは戦意を喪失した。

 

 サウナの勝利であった。

 

 

 

*1
ダイエット等で食事制限を続けていると身体が飢餓状態を感知し省エネ状態になるため、身体を『騙す』ため一時期的に食事制限を解除する日のこと。おそらくは鉛筆の公式設定

*2
虎斗くんの誕生日は3月15日、寅の日

*3
ダメです。

*4
虎斗くんは二次オリ主に相応しい人智を超えた奇跡の肉体を有しています、閲覧者諸兄におかれましては決して真似せずに限界を感じたら速やかに退室してください。最悪死ぬか深刻な後遺症が残ります。

*5
ライブ感重視の描写です。閲覧者諸兄におかれましてはモラルを弁え、水風呂に入る前に必ず掛水で汗を流してから入浴しましょう。





弊ユニバースは猿治安なのでこの程度のことでは通報とかもされません。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。