シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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携帯の機種変しただけでハメ太郎にログイン出来なくなってたのが俺なんだよね……頂いてるコメントには近日中に目を通すので見捨てないでクレメンス。

弊ユニバースは猿世界なので原作よりもキャラクターの治安が悪いです。

要するに原作キャラ崩壊と解釈違いにご注意ください。


クソボケがーーーーーーーーーーっ!

 斎賀玲です。今朝は地元を離れた陽務くんが幼なじみの女の子と狭いアパートで二人暮しをしているという夢で跳ね起きました。

 

 おそらく昨日寝る前に何度もリピート再生していたポケモンショートアニメ『明日もサーナイトと』という短編アニメの影響だと思う……主人公の男性を見守るサーナイトの姿が素晴らしい作品なので皆さんも是非ご視聴・高評価をお願いします。*1

 

 それはさておき、今日は虎人さんと異性観について会話が弾んでいる。

 

「友達付き合いすらない相手に誘われてもなー、シンプル困らん?」

「わかります……角が立たないようお断りするのもひと手間ですし」

「それなー? なんか、こう、フレンド欄の取り込み中表示みたく『先約あり、悪しからず』とか周りに示す機能が現実にも欲しくない?」

「とてもわかります! それだけで観察(しゅみ)に回せる時間がどれだけ増えることか……!」

「ねー。……まあ実際デートの予定とかなんもなかった当時のワイちゃんは、同じくソロのクソゲーマーとレトロゲー祭りやったんやけどなブヘh(ワシッッッ)えっ」

「クワシク……ワタシ、ジョシ……ダンシノ、ユウジョウ、シリタイ────!」

「うえ──っ、こ……怖いよ──っ」

 

 筋力・耐久ステータスの合計値は私の方が遥かに高い以上、肩と腕を固定してしまえば振りほどくこと能わない────逃がしませんよ? 

 

 数十分前……シャンフロではなくリアルの女性(わたし)との交流目当てという魂胆が見え透いた男性プレイヤーにしつこく絡まれていた所、覇者ガチファンを自称する推定撮れ高目当ての女性ライブ配信者から付きまとわれていた虎人さんが運良く通りかかったため……急遽結託し、心得が無い方には多少苦しい程度の圧力をかけることで迷惑プレイヤーをPKせずに追い払うことができた。

 

 文字通り虎の威を借りた後、やりたい事があったが時間が足りなくなったという虎人さんの嘆きを皮切りに愚痴合戦と相成ったのだった。

 

 実は私と虎人さんは武芸を収めていることや日頃の悩みに共通点があったり、あと思春期特有のアレで存外話が合うため姉さんや陽務くんのことを抜きにしても良好な関係を築いている……と、思う。

 

「いやなぁ、そのクソゲーマーもなー、ワイちゃんほどでは無いにしても女子にモテるタイプなんよ」

「モっ!?」

「いつも変なとこ食いつくよね。……しゃあけどそいつの悪食ぶりは知れ渡っとったもんでな? ゲームを取っ掛りに誘われたりはせんかったのよ」

(よぉぉぉぉしッッッ!!)

 

 虎人さんへの拘束を解きつつ心中でガッツポーズをとる。……ええまあ、友情にやや自信がないのは、ひとえに私の浅ましさ故だ。

 

 元々私が虎人さんと積極的に交流するようになったのは間接的に陽務くんのことを知ることが出来るという打算に基づいてのことで、そもそもの時点で身勝手に利用している自覚があるため後ろめたい気持ちが強い。

 

 …………だがそれはそれとして彼が恋慕している相手が肉親であり、あまつさえ私が数年間夢にまで見ているシチュエーションを現実のものとしていて……さらにはっ! 家にいた頃は男勝りでかっこいいとさえ思う時もあった姉が“女”になっている場面を乙女ゲーム愛好家くらいしか喜ばない特等席で頻繁に見せられる気分たるや……! その都度、ドロついた黒い炎のような感情が胸の内で燃え滾るのだ。

 

 恩と引け目、妬みと憎しみ……その他様々な感情が混ざり合い、ついでに私自身が何かと上手く行動できないことへの八つ当たりも一つまみした結果ノイズとなっていた。

 

「それで、そこからどうしてレトロゲームに繋がるんですか?」

「おー。アリバイ作りに付き合って貰ってたんよ」

「アリバイって、あぁ……もしかしてお誘いを断るにあたっての?」

「そうそう。……そもそもワイちゃんがモテモテな理由って、タッパがデカいイケメンで、ついでにスポーツで結果出しとるからなわけで、つまり…………寄ってくるのは大体、そーいうのが好きな女子ってワケ」

「……お察しします」

 

 リアルの容姿を知らない人が聞けば『ハイハイ、イケてるイケてる』と笑って流される口ぶりで、実のところ本人も定番ネタとして用いウケを狙っているが……それら一切が事実ではあると同時に控えめな表現であるのと、この人が他の女子達から“ハイブランド品”として羨望の目を向けられていた事実を知る私としては笑えない話だった。

 

 中学の時の修学旅行直前に私が男子生徒からのお誘いを断るのに辟易していた際、友人から『男子から見たアンタは女子から見たアレなんだよ』と言われて押し黙るしかなかったことをよく覚えており……ついでに修学旅行当日はずっと陽務くんと一緒だったのと、現地に着いて早々にレア物ゲームの購入にお小遣いの大半を費やした陽務くんから買い食いの品をたかられていた様子も鮮明に。

 

 あの人の外見が異性に与える印象は男子だけの集合写真全体に清涼感が溢れるほどであり……陽務くんと二人で写ったスナップを展示販売で見つけた時は原因不明の過呼吸に陥り立っていられなかった。*2

 

 この人はそんな自らの容姿について両親からの贈り物(ギフト)だとはばかることなく自賛する一方で、見知らぬ異性から性欲を向けられる事には嫌悪感を覚えるという繊細な……ある種女性的とも言える感性をしているのだ。

 

 真奈さんと話した上での推測にはなるが、きっと以前からそうだったのだろう。『擦り寄ってくる数多の女に飽き飽きしていたところへ他とは違う主人公が……王道ね。ところで彼ってあんなナリして童t』などと人前で妄言を垂れ流し始める人でも、地域のご愛顧を受ける立派なお店を構えられるのだと将来を楽観視したものだ。

 

 ……それらの前提を踏まえた上で、身内と認めた相手には対照的にとても無防備で対応が甘い。特に戦闘時以外は何かとゆるい、というか基本的にぽわぽわしているため『この(ひと)ホントに野生(フィールド)で生存できてるの?』と時々心配になるほどだ。

 

 つい昨日もサードレマの路地裏で珍品か使い道が無いアイテムばかりを扱う行商人NPC(お気に入りらしい)を相手におしゃべりしていた所を姉さん率いる“黒狼(ヴォルフ・シュバルツ)”メンバーらに捕縛され、上位スクロール作成用の素材集めに連れ回されていた。

 

(´・ω・`)周回よー

(=^・ω・^= )そんなー

 

 とばかりに引きずられていったもので、しかも……その二日前にも同じ場所、同じNPCを相手に変なネットミームを吹き込んでいたところを私と姉さんとマッシブダイナマイトさんに捕まっていた上での始末であり、今となってはザルを通り越して焼き網のような警戒心という印象が強い。

 

「てかさ、クラスも違くて名前すら知らん人とか来られるとなぁ……」

「学年まで違ってくると、苦しくないですか……?」

「わかる……始末に困るわ」

「「…………はぁ」」

 

 重苦しいため息が意図せず重なったあと私は俯き、虎人さんは天を仰いだ……こんな頭痛がする出来事を共有して友情を確信したくはなかった。

 

 中学時代が異常な状態だったのではとさえ思い始めていた矢先にこの反応であり、本人に大きな心境の変化はない事を理屈を抜きに心で察せられた。

 

 シャンフロだとレスラー体型で半裸にマントの虎マスクという女性受けする要素がまるでないアバターが功を奏しストレスフリーなだけなのかもしれない。あえて男性アバターを選択した私と違って結果的にそうなっただけだろうけど。

 

「ほんでなー……ワイちゃんってば中学ン時にイロイロあって女子の相手するんが心底嫌になった時期があっての、そこで遠距離恋愛の相手が()()って事にしたの。……それを承知で粉かけてくる連中もおったけど、最初(ハナ)からクソ女確定な分だいぶやりやすかったわ」

「と、虎人さんに情報工作を行う知性が……!?」

「よし嬢ちゃん、ケンカしよケンカ」

 

 言われてみれば当時そんな噂が女子間で流れていたのを思い出した。陽務くんとの同性愛疑惑ばかりが気になって聞き流していたんだよね……。

 

「とはいえ実際には予定も相手も居らんわけで、考え無しに下手打つとバレる……で、そうならんよう友達とゲームしまくったり、そいつの妹ちゃんのバイトのヘルプに出たりと何かと協力して貰ってたんよ。ただそのせいでなー、あの家で模様替えとか昆虫災害(インセクト・ハザード)がある度に駆り出され……あ、ごめん、お口チャック」

 

 は、災害(ハザード)……? 陽務くんのお家のことはあまり知らないけど、低くはない発生率を思わせる口ぶりだった。

 

「まーワイちゃんはそんなやけど、そっちはクリスマスとかお正月とかはd「“アポカr「【迸る雷律(スタンビート)】ォ!」グッ!?」

 

 ────大剣の持ち手を制される。

 スキルは不発に終わった。

 

 魔法により発生した極々一瞬の硬直を突いた、それこそ脳から四肢に伝達される電気信号ほどの時間差も無しに実行された絶技であった。

 

「…………え? ナンデ?? なんでワイちゃん今殺されかけたん!?!?」

「私が“おひとり様(ソロプレイヤー)”なことを熟知した上でそんなこと聞いてくるのはッ、つまりそういう行為(あおり)ですよね……!?」

「ワイちゃんのことをなんだと思ってらっしゃる!? ンな阿修羅会のクソ女どもみたいな真似せんわクソボケが……ッ! 普通に友達と遊んだりしとるもんかと思っただけやて……」

「す、すみませんでした……」

「許してしんぜよう。……で、どうなん? 女子同士が季節のイベントで何しとるのか聞いてみたいワイちゃんだよ」

「…………イブは自宅道場で弓、年末年始は京都で剣のお稽古でしたよ。フ……フフフ……」

「なんかごめんね」

 

 そうだよね……普通は恋人が居なくても友達と予定を組んだりするものだよね、()()()()ね……。

 

 陽務くんがいない私の青春って、かつての姉さん達と同じだったりするのかな……? 

 

「これ以上は危険だ、話題を変えるぞ。……サイガ-0もお困りなら真似したら? モモさんに話し通してくれるならワイちゃんいくらでも協力するし」

「どうやらお忘れのようですが…………気になる人と同じ学校なんですよ、私っ!」

「あー、カレシ持ちの噂はシンプルにアカンかったわ。ならさっさと付き合っちゃうのがベストなわけで……男で協力してくれそうな友達とかおらんの? それ次第で大分話変わってくるやろ」

「いたら今こうしてこんな話はしていません。……そもそも異性間の友情なんてものは都市伝説の類ですからね?」

「そこまで言う……?」

 

 男女の友情が成立する条件は『恋愛感情の不存在』とはよく言ったものだと思う。私にとっては約17年間生きてきて目の前のこの人以外に例が無いという幻に等しい概念だった。

 

 しかし虎人さんの反応が今一つ弱いのは、彼も同士だと考えていただけに少し意外だ。

 

「……まさかとは思いますが、居るんですか?」

「ほんの数人やけどね。一人は、ほら、阿修羅会のあの京極。……あんま他人には言わんけど月1ペースで顔合わせとるよ。外見以外はだいぶ()()な子やけど」

「アレって……えっ、遠距離恋愛がどうこうの相手ってもしかして!?」

「それはない、百億パーない。アレに弱み握られたくないし、なにより上のお兄さ……話しすぎたわ、ゴメンけど忘れて」

「アッハイ」

 

 深堀する気は無いけど龍宮院の人達とだいぶ親しいなこの人……年末年始は竹刀で撃ち合っていました、とは言わないでおこう。

 

 まあ、京極ちゃんは富嶽お爺様一筋だし分からないでもない……かなぁ? 

 

「実際に()()をして貰ったんは二つ下のイトコで、京極ちゃんとは比較するのも失礼なくらい滅茶苦茶ええ子なんよ」

「京極ちゃ、さんに対する当たり強いなぁ……というか、ご親戚とはいえよく頼めますね」

「いや頼んだというか……愚痴をこぼしたら『いい事思いついた!』てな具合で提案してくれたんよ」

「ああ、確かに離れた場所にお住いなら()さんが相手でもバレませんからね」

 

 今この瞬間、私はあえて予想を外した言葉を返した。いつだかのお正月に、姉さんと一緒に餅つきをしている様子を撮影するため*3我が家まで来た天音さんが口にしていた『カニンガムの法則』というものだ。

 

 

 ……………………提案、()()()? 

 

 

 いや、まさかぁ。いくら虎人さんが考え無しの雑頭でもそこまで……

 

 

「ん? 女の子よ、その子」

 

 

 はいっ、クソボケ確定。尋問します。*4

 

 

 わざわざこんな小細工をせずとも話したかもしれないけど……カニンガムの法則というのは心理学の一種で、間違いを修正しようとする人間の心理的特性を利用してより正しい情報を引き出す方法らしい。探偵が聞き取りをする際に用いるとかで、姉の悪友たる人物がロクな使い方をしていないことは聞くまでも無かった。

 

「えっ、女の子なんですか? 二歳下なら中学生ですよね……普通はそういうの抵抗があると思うんですけど(すっとぼけ)」

「ワイちゃんも思ったし実際聞いたよ、『()じゃない?』……って! でもさ、その子神的にいい子やからさ、ワイちゃんの為ならってイロイロと考えてくれたんよ!」

「ヘー、ヤサシイコデスネ」

 

 おぉ、誇らしげ……他の人の話をする時その人に対する印象がわかりやすい人っているよね。善し悪しは別としてこの人は特にそうであり、陽務くんや姉さんをはじめとし他に私の知る限りでは麗華(ライカ)さんやカローシスUQさんの話をする時は非常に嬉々としている。どうも努力家や苦労人を好きになる傾向があるらしい。

 

『本人がいない場所における誉め言葉にウソはない』という言説を脊髄トークのこの人が逆手に取るとも考えにくく、この様子を見る限り虎人さんはリアルでその子に対して高い好感をもって接している見込みが高い。

 

 つまり、そうされた側の女の子の恋愛観がよほど奇特でない限りは…………ええ、確かに虎人さんを思っての行動ではあるでしょう、そうでしょうけど────滅私奉公なわけないでしょッ!! 

 

 正直なところ時々思っていた。この人って自分がモテることに心底価値を感じてなくて、無関心で……だから波長が合うんだなって……!! 

 

「……今後の参考にしたいので詳しく聞かせてもらえませんか?」

「ええよー。いやね、ぶっちゃけワイちゃんは口裏合わせてもらうだけのつもりやったけど、それだけだと秒でバレるから写真もいっぱい撮ろうってことになったんよ。……いや、ホンマ女子を相手取るんなら女子の意見が必須(マスト)やと思い知ったわ。いくら言っても聞かんかった連中も写真見せるだけで引き下がったし……水戸黄門のインローみたいだったんよね、すごくない?」

 

 当然だ。虎人さんがお粗末であることを抜きにしても、男女ではそういった機微への解像度に雲泥の差があるため雑な嘘はすぐに悟られる。男性側が欺こうとするならその差を埋めうるだけの、嘘では無いと確信させる説得力が必要になる。

 

 つまりこの人が紋所として用いたであろう写真は、()()ツーショットスナップのように偽りを感じさせない無い代物であったということだろう。

 

「……それはすごいですね! どんな写真だったんですか?」

「いろいろよ。最初はオシャンなカフェーでSNS映え的なの撮ってぇ、部活の応援に行ったり来たりしてぇ……夏には川釣り勝負でドヤ顔キメられてぇ、冬には初詣行ったり福袋買ったり、的なことをこの前の夏まで。それがだいたい、2年は…………はっ!? 

 あ……じゃあ、つまり…………あんないい子の、に、2年半を……!?」

(う、嘘でしょ……? 本気で……!?)

 

 自己嫌悪のあまりか、万力のように握りしめた手と食いしばった口元から自傷によるダメージエフェクトが生じている。……再現しようと軽い気持ちで試みたけど、私のHPは1ポイントとして減る気配がない。

 

 つまり本気でこんなたわけたことを……? 

 

(嘘じゃ! ないんですよ! 少なくともその子にとっては……っ!!)

「……中二の三学期って、カレシ作り始めるタイミングとしては六回裏とか七回表くらい?」

「九回表、“従軍刑”案件です*5

「ヒッ!? “カリントウ・ブートキャンプ”は嫌ぁぁぁぁ……!!」

 

 身の毛もよだつ”あの三日間”はさしもの虎人さんも相当堪えたのだろう、涙目で縮こまってしまった。

 

『紫電ライガ親衛隊』が『リョーザン・パーク』に改名してからある程度たった頃のこと。よりにもよってクランリーダーの雷牙さんとその側近数人に丸め込まれた虎人さんは新発見ユニークシナリオ攻略の様子を他のメンバーに断りなく生配信するという事態があり、それに対し当事者以外のクラン主要メンバーらの総意によって決行されたのが『徹夜騎士従軍刑』……大人気配信者・徹夜騎士カリントウさん全面協力のもと行われた(悪)夢の耐久コラボ配信だ。

 

 クラン内PvPランキングにおいてチャンピオンに次ぐ1位でありプレイヤー唯一の”神槍”ジョブ所有者、そしてふらっと居なくなりがちな虎人さんが必ず一声かける“鬼の副官”として広く知られる獅子十六さんが主導したそれは、同クラン内における

 

『ライブ感で国盗りしやがった承認欲求モンスター』

()法に触れていないだけの狂信者(カルト)集団』

『そしてアスリートのように振舞っているだけの鎌倉武者(やばんじん)ども』

 

 ……などと称される暴走(おまつり)好きメンバーらへの『一線(ライン)超えたやつぁ立場に関わらず“こう”だぎゃ』という御成敗式目(みせしめ)でもあり、シャンフロ非公式wikiの『クラン運営の心得・モラル』ページにも顛末が記載されている。

 

(虎人さんはともかく、お目付け役の獅子十六さんも不眠不死(ノーデス)で3日間水晶巣崖を駆け回ってたんだよね……)

 

 マラソン大会で陸上部やサッカー部を差し置いて一位入賞しただけでは飽き足らず、陽務くんの所まで逆走してきて私が声をかけるタイミングを潰したフィジカルモンスターが完走したことに驚きは無かった……だけど、黒いロングの美髪が目を引く美女アバターのお爺さんはそうもいかない。

 

 声のしわがれ具合からおそらく斎賀家(わがや)のお爺様以上のご高齢であることが伺える方が、終始泣き言を漏らしながらも戦い続ける虎人さんに最後まで随伴し軍隊色の強い罵声を浴びせ続けていた配信映像はシャンフロというジャンルを飛び越え全世界を驚愕させており、あの全米一位のシルヴィア選手が残した『こわ(Scary)……』というコメントと合わせ語り草となっている。

 

 なお断っておくとカリントウさんとこの2人が異常なだけでそれ以外の雷牙さん周りの人達はバイタル不全で何度も強制ログアウトしており、徹夜騎士団*6の皆さんの大多数も仮眠と休憩を挟みつつも悲鳴を上げていた。

 

 余談だけど、カリントウさんが得た血と汗と涙の結晶(トータルリワード)を知った姉さん(クランリーダー)が『(アレ)連れて黒狼(ウチ)もやろう』と定例会で提案した時は正気を疑ったし、派閥間で対立しがちな意見が一つになっていた光景はあれきり目にしたことはない……配信に映っていた範囲だけでも死屍累々だったことから否決に持っていけて本当に良かった。

 

 少し長くなったけど話を戻して……現時点でこの人に情状酌量の余地は認められないがもう少し気になる点を聞いておこう。

 

「……ところで今話している従妹の子と、以前少し話していたシャンフロを買う約束をしている子は同一人物ですか?」

「うん。あ、それと前会った時に写真はもう大丈夫って────うえっ!?!?」

 

 神魔の大剣(アンチノミー)を顕現させつつの刺突モーション……サイガ-0(わたし)に可能な最短最小動作の攻撃をもって本気で不意を突いたのだけど、篭手を装備した左手で軌道を逸らされる。

 

 ────すごく仲良いじゃないですか……ッ! 年に数回会うだけの人と写真なんて撮りませんよ、普通は! 

 

「なん……わーっ!? 持っていかれる……ッ!!」

「潔く死んでください……ッ!」

 

 左篭手同士を打ち付け装備効果で後退を封じ、力任せに引き寄せながら大剣を振り下ろ……せない。

 

「あー、うん…………お約束ならワイちゃん死んどくべきなんやろけど……」

 

 困ったような声が左のすぐ後ろから聞こえる。

 

 私が引き寄せようとした力に逆らわず、むしろ勢いを合わせた前方宙返りで背後に回られた。……次いで腕をたたむようにその場で仰向けに倒される。

 

 アクロバットなモーションにより実行されたそれは型稽古とは技の過程がかけ離れていたため一瞬飲み込めなかったけど……結果だけ見れば斎賀流護身術『流転』、あるいは合気道の『四方投げ』に近い投げ落としだった。

 

 左篭手を掴み返され、右肘を左膝で押さえられ動かせなくされる。私が状況を把握するまでの数瞬で完全に組み伏せられた。

 

「その……降参(ギブアップ)とかは……?」

「『雑な攻め罪』で死んどけクソボケ」

 

 虎人さんの身体に遮られよく見えないが、エフェクト的に風魔法だろうか……腹部に添えられた右手を起点に、鎧の内側だけをミキサーにかけられているような感覚と共に致命的な継続ダメージが発生している。こと戦闘行動に関しては一切の慈悲がない。

 

 …………なんでこんな罪の意識がない女(たら)しがここまで強いんだろう。

 

 そしてサイガ-0は絶命した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 なんか今朝変な夢を見た。

 配達員として汗水垂らして働いてる俺が土砂崩れに巻き込まれた所をポケモンに助けられるという夢だ。……最近等身大ドオークッションを買って貰った脳筋と違って別にポケモンファンでもなんでもねぇんだけど俺。

 

「……そんな夢の話しを聞かせて俺に何を期待してるのさ」

「えも言われぬ苦しみを分かち合っておくれよ」

「どうして病院に行かずこんな“便P(ばしょ)”に来たの?」

 

 “ベルセルク・オンライン・パッション”にログインし他愛のない話をしている俺とモドルカッツォだが、今日はある新規プレイヤーからお願いされたことでわざわざ来たのだ。やるゲームがなくなって暇してる俺はともかく、なんか忙しいらしい合間を縫ってまでカッツォが来たのはそいつの人徳が成せる業だった。

 

 このゲームにおいて絶滅危惧種なご新規であったそのプレイヤーとは最近知り合って意気投合したんだが、その少し後にカッツォと二人で鉛筆を扱いていた時に偶然顔を合わせ……なにを思ったのか、尋常でない熱意で参加を希望してきた。

 

 もちろん俺たちはより好感が持てる後輩を優先しようとしたが螺旋を極めてバネみたいになった性根の方が反発、その場は可愛い方が遠慮し“格”の違いを見せた。そして膝をつき打ち震える鉛筆を傍目に日程を合わせ今日に至る。

 

「サンラクさん! カッツォさん! お待たせしました!」

「いや、別に待ってねえよ」

「約束の時間前だし気にしないでよ」

「ありがとうございます! それと改めて……今日はよろしくお願いします!」

「あ、頭を上げてくれ! 俺たちをどうしようってんだ……!?」

「鉛筆との差で失明しそう……」

「?」

 

 どっかの傲岸不遜にして不羈奔放、『一度でも私に頭を下げさせた奴の首は地の果てまでも追い立てて絶対に落とす』石川啄木じみたメンタルの暴君とは程遠い……爪の垢を煎じて飲ませたくなる礼儀正しさを前に脳がパニックを起こしかけているのを感じる。人間ってどうしてここまで個体差が生じるんだろうな。

 

 プレイヤーネーム:ドラゴンフライ

 

 正直こんな過疎ゲーをやらせていてはいけない類の圧倒的光属性キャラなVRゲー初級者だ。なんでも親戚に買ってもらったらしいVRゲー福袋の中に幸か不幸か便Pの未開封パッケージ版が含まれていたらしく、『激レアじゃん……それ開けたの? マジで?』と中古パケを手に入れるのにそこそこの金と手間をかけたカッツォを戦慄させる程のリアルラックを誇っている。

 

 そもそも俺たちはウォームアップがてら2先*7しようとしてただけで、今は約束の15分前だ。多分リアルでは体育会系だな、同じ習慣が身についてる似たようなのが近くにいる。

 

「それはそうと引き受けといてアレなんだけどさ……なんで特訓したいの? それも()()()ゲームで……プロ目指すとかなら他ゲーやった方がいいよ?」

「いえ! 部活もありますし、プロゲーマーとかは考えていません! どうしても強くなりたくて、是非お二人からご指導頂きたいんです!」

「うおっ……ちょっと浄化される」

「直視できないのが俺なんだよね……」

「??」

 

 ドラゴンフライ……すげえ。鉛筆とは違って疑いようのない誠意が伝わってくる……鉛筆とは違って。

 

「まあ力になれるならいいんだ……ただしスパルタでいくから覚悟しとけよ?」

「はいっ、俺たちにかかれば強くなれますよ! (ニコニコ)」

「わかりました! ビシバシお願いします!!」

「とはいえ何を目指しているのかは知りたいかな。具体的には、ストーリーモードのラスボスを倒したいとか、あるいはランクマのポイント盛りたいとか」

「そこは肝だな、大分方針が変わってくるし」

「えっと……そのどちらかなら“ラスボス”攻略の方が近いです! CPUじゃなくて、他のゲームのプレイヤーですけど」

 

 個対か。わざわざ人に教えを乞うって事は結構な格上相手なんだろうな。

 

「他のゲーム……タイトル聞いても大丈夫?」

「シャンフロです! でもまだソフト持ってなくて……予約してるので春休みになったら買ってもらうんです!」

「あー、売れすぎでプレイヤー絞ってるらしいからね。最近はマシになってきたらしいけど、仕事の知り合いが予約抽選落ち続けてなかなか手に入らなかったとか前にボヤいてたよ」

「贅沢なゲームだな」

「クソ舌は安上がりでいいよね」

「情報おいちいねぇ、ぼくぅ」

「「あ゛??」」

「すごいですよね! 私のイトコも夢ちゅ、う────」

 

 …………ん? 

 

 な、なんか急に胸の内側がヒュンとしたような……デバイスの不具合か? 新しめなのに勘弁してくれよ……

 

「あれ……なんか寒気が」

 

 あ、違うわ。プロユーザーも同じ悪寒を感じ取ってるわこれ。疑ってごめんな相棒。

 

 

「フーッ…………フーッ…………」

 

 

 ……ふと、カッツォと目が合い、互いに無言でその方向を指さす。

 

 溢れんばかりの怒りを理性で無理やり鎮めている、ケダモノのような息遣いの主はドラゴンフライだった。

 

 俺達はドラゴンフライと付き合いが長い訳ではないが……共に新(バグ)の発見やその研究で短いながらも濃い時間を過ごしたことで多少なりともその人となりを知っているつもりでいた。今のその様子があまりに()()()()だと感じる程度には

 

 なんか既視感があると思ったら、アレだ…………フリではなくマジでキレてて、手が出る限界ギリギリの時の虎斗の(いか)り方だ。

 

 

 

「ええ……はい────ボッコボコにしたい人が、シャンフロにいるんです」

 

 

 

「えっ」「なにっ」

 

 腹の底まで凍てつくような、不自然なまでに落ち着いたトーン……絞り出されたその低い声を俺たちは初めて耳にし、そして金輪際聞く機会は無かった。

 

 …………どこのバカだよ、こんな陽の者を闇堕ちさせた奴は。

 

 

 

*1
灘神影流ステルス・マーケティング

*2
しっかり購入して二つ折りにしてますよこの女

*3
天音永遠オフィシャルSNSで零した外道を誤魔化すための悪あがきの末、毎年モモちゃんを巻き込んでお餅をつくようになったらしいよ。

*4
◇言葉で火がつく──

*5
延長戦中のサイガ-0並感

*6
カリントウのフォロワーたちのこと

*7
先に2回マッチを制したプレイヤーが勝ちという格ゲーにおいて一般的な取り決め





誰かを選ぶというのは、誰かを選ばないということだとオトンが言うてたわ。秋津茜学会追放も辞さない覚悟です。

獅子十六さん:元自衛官な“生き残り”。3日間不眠で行軍する訓練とか何度もやっており最終階級は『陸将補』。虎は良い子だけどおバカなガキで、リーダーの雷牙ちゃんは優等生だけどライブ感でやらかすタイプであるためこの人がクランに規律を敷いた。

Q:なんで虎は変なとこでクソボケなんやあーっ
A:虎は身内からの害意には鈍感どころか『ない』という前提で無警戒です。ラインを超えられた後でも余裕を持って対処出来ることもあり、一種の悪癖というかHP3割削られてから攻撃パターンが変化する感じのボススタンス。
なので百ちゃんに毎度あっさり捕まるし、玲ちゃんの八つ当たりを未然に防ぐことは出来ないし、真奈さんに丸め込まれて乙女ゲーマーに仕立てあげられたりします。そして異性からの好意や性欲も言ってしまえば害意の一種であるため……。
 ついでに虎はとても強いので、ごく一部を除いて大半の相手を驚異として認識していません。斎賀姉妹ですら『期待』止まりです。


(茜ちゃん周りの設定を確認して)
ワシ「茜ちゃんのお礼参りルートええやんけ! しゃあけどサンラクとは先輩後輩の尊い関係であってほしいのん……」
オリ・キャラ「そのために俺らがいるんだろっ」
ワシ「お礼参り決定ェ」

でもね、オレ女が失恋でメソメソするのって嫌いなんだよね、男視点でご都合だし可哀想でしょう?
自分を選ばなかった野郎には助走つけてドロップキックかますくらいの心意気が欲しいよねパパ……

虎には先んじてドオーちゃんクッションをプレゼントしておいたので合意の上です。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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