シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
御町内の皆様ごきげんよう、あなたの町のゲームショップ・ロックロール店主の岩巻真奈でございます。もうすぐ新年度ですがいかがお過ごしでしょうか。……もう真夏?
店外の暗くなった空を傍目に、私は発注済みの新作ゲームと売り切れ続出のシャンフロが入荷した際の店内レイアウトを考えつつ、携帯のチャットアプリで悩める乙女を導いていた。
『これを水着と宣うメーカーの品性を疑います』
『胸の部分がモニターとパッドになってて実際にレトロゲームが出来るらしいよ、すごくない? 水には入れないから完全にプレイ用だけどね、二重の意味で』
『もはや水着では無いじゃないですか……!?』
『「私で楽しんで♡」とご自慢のクソ
暗い青春を送ってきたと思しきもうすぐ社会人三年目の知り合いが、まさか常連の一人である少年にゲーム経由で懸想したのを知った時はさしもの私も接客スマイルを保てなかったものだ。社会人同士ならともかく、七歳差のリアル高校生相手は普通に色々と考えさせられるよ……ロマン重点で応援しちゃうんだけどねブヘヘヘヘ。
とりあえず彼女に改めて釘を刺すように一言……『彼が成人する頃、貴女は何歳になりますか?』と。既読は付いたものの返信は無かった。
妹ちゃんと同じで
その血の
妹ちゃんの方は相手の男の趣味趣向がアレなものだから多少
そこで賢い
レジ裏の棚をチラリと一瞥する。
そこには本日発売の新作乙女ゲーム『晩鐘のピルグリム』の予約分が彼の物を含め数本並んでいる。これをガッツリプレイするために明日は棚卸し準備の名目で店を閉めることになっている期待作だ。
今どきの若い子にしては珍しく男らしさにこだわる時代錯誤な彼を舌先三寸で乙女ゲー漬けにするのに当初は苦労したものだよ。
『
『ま……まあ、あんた程の
あの奇特な偏食ゲーマーの趣味にも付き合えるレベルのいい子だから最初の一歩を越えれば後はヌルゲーだったんだけどね。今では食わず嫌いを悔い改めて立派な乙女ゲー
扱い易いおバkヴッヴン……律儀で雑食な彼に私は『教材』と称し数々の乙女ゲーをオススメしお買い上げいただいた。目的はこのままだとオボコ……もとい、清純のままアラサーにリーチをかけるあの子の恋愛感情をグチャグチャにして酒のさかn────一重に幸せを願ってのお節介であった。
自分の外見を数世代前のジャンプ漫画のような男前*1だと思い込んでいる節があるホヨ・バース系イケメン*2な歳下に攻略対象ムーブかまされるとか、私が当人なら脳汁で股を濡らすね。
乙女ゲー仲間は増える、売上が上がって懐は潤う、それに加えて若い子が悶える様に白米が進む……
(めちゃくちゃ勘がいいからあまり調子に乗ると寿命が縮まる思いをさせられるけど)
だがそれも退屈な日常に対するちょっとしたスパイス*3だと思えばいい刺激というものだった。メンチを切られるだけで『あっ♡ ちょっと死ぬ♡』って思わされるんだよね、怖くない?
「いらっしゃいませー」
「こ、こんばんは真奈さん」
うんともすんとも言わない携帯をポケットにしまいこんだところで、少し前に連絡を入れておいたもう一人の恋に迷える少女が来店してきた。
────さて、ようやく今回の本題に入れる。
今日は何のお稽古帰りなのか、地域で名高い斎賀家のご令嬢こと玲ちゃんは、彼女が入店しただけで色めき立つ男性客は眼中に無いとばかりの目つきで店内を見渡すと……安心と落胆が同居した深い息を吐きながらレジに位置取る私の前まで歩み寄ってきた。
「あの、その……『例の物』を」
「はい、これね。”ファイアーワークス・アセンション”」
「……
「毎度ありがとうございます」
福沢諭吉*4を受け取り、お釣りと共に新品ソフトを差し出す。
予約棚に一本だけ取り置いていたそれは、花火職人であるプレイヤー達が江戸の町を舞台に花火を撃ち合うという、数日前に発売された新作FPSシューティングゲームだ。
しかし目の前の少女がそれを購入するのはシューティングが好きだからとかゲームデザインに魅かれたからではまるでなく、偏食な方の彼が買って帰ったという一点を以て彼女の*5革財布を開いていた。
なんだったかな……やれ町並みがテクスチャごと燃えて無くなりデッドゾーンになる『破界消火』とか、仕様にないはずの異空間的なものが発生して最悪ゲーム進行不可に陥る『大穢土』とか、プレイヤーやNPCがバキバキと別キャラに変容する『我が名は尊鷹』etc……続々と重大なバグが報告され枚挙にいとまが無いにも関わらず公式が沈黙を保っていることから、今最も
そして私はデキる女店主、岩巻真奈。
たとえ一本だろうと売れる
「……それで? もうすぐ春休みだけど、ソレで陽務くんと遊ぶ算段とかはついてるわけ?」
「……………………ないです」
「うん、わかってて聞いた。だから
「もう少し温情をください……厳しいのは周布くんだけでたくさんです……!」
「あー……シャンフロで彼にもいろいろ言われたわけね。今度それとなく叱っといてあげるから何を言われたか聞かせてもらえる?」
「はい……実はかくかくしかじかで」
「真摯に受け止めなさい」
「騙しましたね!?」
彼の言い方はともかくとして……良識に則った交友をせよという、生まれる時代を間違えた乱暴者のそれとは思えない至極真っ当な助言をスパルタ扱いするんじゃありません。
というか陽務くんがいざシャンフロを始めた場合、そんなやり口で繋がろうとしていた事を今聞けて本当に良かったわ……。
「……周布くんの二番煎じにはなるけど、他人のイメージは第一印象で八割決まるんだからね? 失敗して恥をかくのが怖いのはわかるわ、でも私としてはリアルで晒した恥をゲームで挽回するくらいの方が取り返しがつかなくなるよりずっといいと思うの。……そもそも彼なら誘われたくらいで悪いようにしないはずだから、春休みに入る前に一回くらい当たって砕けなさいって」
「そ……そんなこと言われましても……」
(はぁ、またこれだよ……)
姉妹揃ってよほど機会を逸して頓死*6したいと見える。
思えばもう半年以上前になるけどかつて私は目の前の少女に対し、意中の人物の悪食に合わせるよりもまずは名作ゲームで基礎を固めるべきだと言った。そしてタイミングよく入荷直後だったシャンフロを確かに勧めた。
(今じゃトッププレイヤー二人からお墨付きが出るレベルなんだからさっさと誘いなさいって、つーかはよ告れよ)
ちょうどお姉さんから誘われていたこともあってプレイし始めた彼女は、百ちゃんから『今ではクランに欠かせない最前線攻略メンバーです』と、戦闘のイロハを叩き込んだらしい周布くんからは『そろそろ一回くらいガチンコでやり合いたい』と評されるまでに至っていた。
私の場合は旦那がアレな関係でシャンフロをプレイするには色々と面倒があり、実際にプレイはしていないため空気感まではわからない。……が、この子の関係者二人はPNで検索をかけるだけで結構な件数がヒットする有名プレイヤーで、そんな二人に認められている以上は胸を張らないと逆に失礼にあたるのではないか。
「思うに、玲ちゃんには危機感が足りてないわ」
「……危機感」
「そう、普段から陽務くんのことをスト……よく見てて、それで彼とイイ仲な子が居ないからと安心しきっているもんだから眠たいことばかり言ってられるのよ」
「そ、そんなことは……」
「いいえ、そんなことあるわ。というか若いうちは時間が有限だってことに気付けないの、若いから! 貴女のお姉さんをご覧なさい……24歳で今度部長になるのかしら? 立派だわ、ええ。その上気になるイケてるボーイから身の回りのお世話までされて……言ってて殺意が湧いてくるわね?」
「何かの罪に問えないものかと思います」
周布くんの口癖じゃないけど、クソボケ罪とか適用されないのかしら。……なんにせよ日本が法治国家で良かったわね百ちゃん、そうでなければ今頃メロン収穫祭が行われていたことでしょう。
「これ以上は危険ね、話題を戻すわ。……で、そんな恵まれまくってるドスケベグラマーな百ちゃんでも恥に怯えて消極姿勢のままなものだから……何も無いのよ? ……気力と精力に満ち満ちた、携帯に保存された画像の八割が二次元スケベピクチャな彼と
「ヒェッ……な、なぜ携帯の中身を!?」
「”光陰矢の如し”よ玲ちゃん、日進月歩と言えば聞こえはいいけど、このまま牛歩でいれば貴女もそうなるわ。……いい歳して気になる相手にアプローチもかけられないまま女としての全盛期を逸して、今の貴女くらいの若い子に目当ての彼を────ッ!!」
「ヒィィィィィッッッ!?!?」
「……今言ったこと、百ちゃんにはオフレコでお願いね?」
時間が有限なのはそうだけど若さの消費期限はそれよりもずっと短いのよね……別に後悔とかはないけど、それでも当時にそれをわかっていれば思う時が無くもない。
……脅しが効いたのは良いとして、実際問題陽務くんの周りに女の陰が無さすぎてそのうち元の調子に戻りそう。せめて当て馬に出来るような子が現れてくれれば良いんだけど────
「岩巻さんこんちゃーっス」
「ラッシャーセー」
「ピッ!?」
「あん? ……もしかしてワイちゃん、お客さん逃がしちゃった? てか、なんか見覚えあったような」
「そんなことよりほらこれ、早期購入特典もちゃんとあるわよ。しょうがないわねぇ、プライベートで話してる時に……」
「あざーす(ガシッ」
「なにっ」
「しゃあっ」
と、おそらくボクシングジム上がりに来店してきた周布くんの意識を語録による条件反射で引いた隙に、風のごとく退避した玲ちゃんの様子を確認する。
「(ガタガタガタガタ……)」
(すっかり青ざめちゃってまぁ……)
「なー店長、今度入荷する分のシャンフロの取り置きとかお願いできません? ほら、正月明けに連れてきた従妹が春休みにまた来るもんで……」
「あー、あの明るい子ね。部活でいい成績出したご褒美だっけ」
「そうそれ。……それと別に誕生日プレゼントも用意せなあかんくて悩んどるとこなんですけど、ついでになんかオススメとかありません?」
「だったら今最も話題になっているコレはいかが?」
「それラクが買ったこと知っとるんよ? 騙されんぞ。……じゃ、早く”バンジョーとピルグリム”やりたいから帰りますわ」
「今度感想会しようねー」
名作レトロゲームみたいな言い間違えをしつつも彼は少し離れた場所の女性客二人組のヒソヒソ話を聞き取ったようで、若干顔をしかめた後そそくさと退店して行った。……申し訳ない気持ちはあるけど、彼のおかげで乙女ゲーの売れ行きが少し良くなったのよね。
……大きな彼の姿が完全に見えなくなったところで、陽務くんの姿を見つけた時とは対照的なまでに血の気が引いていた玲ちゃんが再びレジ前に寄ってくる。
「周布くんとはシャンフロでフレンドなのよね……毎度ながら何で彼からも身を隠すの?」
「あの人のことだから、リアバレしたらそのまま陽務くんを呼んだりしそうで心の準備が……そのうち顔合わせはしておきたいのですが、せめて姉さんと一緒の時が良いなって……」
「…………そうね、会うとしてもお姉さん同伴が良いわね、うん」
普段の自分の行いが彼からしたら地雷ムーブだということを知らないのか、あるいは自覚が無いのか……ちょっと希望的観測が過ぎると思うわ。状況次第で全てが終わりかねないというのは私の考えすぎかしら……?
というかお願いだからオフ会するならウチ以外でやって欲しい……切実な話、事に及んだ場合は色々関わりすぎている私もタダでは済まされないだろう。この子の普段の行いに関しても定期的に睨まれてるし……。
・弊ユニバースの人々の猿浸食度目安
異常猿愛者>>>格闘技ファン=漫画オタク>格闘家>=格ゲーマー>インターネット上のオタク>クソゲーマー>一般ゲーマー>>一般人>>ゲーム歴が浅いお嬢様とか
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも