シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
幼女ちゃんに十億マーニ分飲み食いされたという経緯から、虎人さんは”蛇の林檎”の上得意様待遇として個室利用料金が永年無料になったらしい。
失った額に対してまるで割に合わない特典ではあるが、どうせあるなら使わなければ損とばかりに積極的に利用しているようだった。
とはいえ大した使い方はしておらず、フォルティアン以外の出先の街で私や姉さんのようなフレンドとのプライベートな会話を行うスペースを確保するのが大半で、それ以外では着せ替え隊をはじめとした活動内容がいかがわしい
何はともあれ、最近入手したこの白い大鎧は非常に目立つため、人目を気にせずに会話が出来るのはありがたいことだった。
「この前モモさんが焼き魚の食い方忘れた的な話したやん? 今日クロダイを出してみたら、最初は苦戦しとったけど最終的にめちゃくちゃ綺麗に完食しよったよ。なんだかんだワイちゃんよりしっかりしてて悔しかった」
「みたいですね、ありがとうございます。ログインする前に姉さんから報告用の写真が来てました、美味しそうな香草焼きとちり鍋の写真が。さて…………夜中にこういう話題を選ぶのはやはりそういう趣味なんですか? 私は今冷静さを欠こうとしています」
「うふふ」
「(無言のビンタ)」
「(無言の回避)」
「(無言の唐竹割り)」
「【
「降りてきてくれませんか? 命までは取りませんので……」
「いやどす。*1……待って、話し合おぐえっ、ぐふっ……ギャ」
攻撃をなんとなしに回避したのは見事ですが自分から退路を断つとは愚かですね?
個室の天井と壁に手足を突っ張って器用に張り付く覆面レスラーに椅子を投げつけて撃墜する。先日のあれも故意犯だと判明した今、一切の情けを捨てて踏みつけることが出来た。
「それにしても、よくもまあ見返りもなく姉さんの面倒を見れますよね」
「グフッ……ペット飼っとるからかなぁ、基本的に世話焼きなんよワイちゃグエッ…………あの、次死んじゃいます」
「もう少し表現を選んでください……」
実の姉が同学年の男子に愛玩動物と同列視されている事実に呆れる一方で、若干の羨望を抱いている自分自身に驚いてるのが私なんですよね。
そうされたいとまでは思わないけど、週末に彼氏の手料理をというシチュエーションには憧れる。
……い、いや、私と陽務君がそういう関係というのはまだ早いとは思うけど……っ! 陽務くんが釣ってきた魚介類でオシャレなランチをとか……す、すごくいい。お魚捌くの上手らしいし、陽務くんが捌いたものを私が……よ、横に二人並んで────
「……あれっ、ラグ? サイガー0、聞こえとる? 大丈夫?」
「────大丈夫です。続けてください」
「あぁ、うん……とりあえず喜んでもらえてよかったわ、友達のお父さんにお願いして早朝から釣りに行った甲斐があった」
「(ビクゥッ)」」
「どしたん?」
「ナンデモアリマセン」
「そう? いやまあワイちゃんはボウズやったけど、持ってきたおにぎりと味噌汁おすそ分けしたおじいさんからお礼ってわけてもらえたんよ、お魚」
この人私の思考とか読んでワザとやってない? だったら容赦なく最後の一発をお見舞いできるのに。
ユニークアイテム『殺人許可証』を持っている虎人さんをキルしてもレッドネームにならないとは言うが、かと言ってテーブルの上の料理に下から小さなおててを伸ばしているバウンティハンターが実際どんな行動を取るのかわかったものではない。
ちなみに彼女は街中で虎人さんの空腹度が低くなるとどこからともなく現れるようになったらしい。完全に味を占められている……。
……万が一の場合に生じる不利益があまりにも大きすぎるので一旦虎人さんを解放する。それはそうと、その魚を分けたおじいさんって、まさか
「そのおじいさんが友達のお父さんと意気投合しとってな、暖かくなったら一緒に船釣り行く相談までしとった。……趣味で漁船持っとるんやて、すごくない?」
世間は狭いなぁ。
「まーそれはそれとして、そもそもワイちゃん的には世話焼きを口実にモモさんの部屋に入り浸っとるとこあるし」
「またそんな明け透けな……!
これ以上ノロケたらトドメを刺しますからね!?」
「サイガー0もほんのちょびっとでええからワイちゃん見習おう? 気になる男子と一年同じクラスで知り合い未満とか…………言葉が過ぎました、泣き入るレベルとは思いませんでした。ごめん、ごめんて……」
「うううううう……ッ!!」
姉さんが
最近じゃ真奈さんも『周布くん……すげえ。プレイさせた乙女ゲー知識で百ちゃんの情緒ぶち壊しまくってる……歩く夢小説なんだよね、すごくない? これはもう【規制ワード】以上の快楽だッ』なんて世迷言をベロベロに酔っ払って通話してくる始末だし……姉妹なのに不公平だよね!?
というか!? なんで!? シャンフロで仲良くなってからリアルで当然のように会ってるの!? ロックロールで偶然とか都合よすぎるでしょ……!!
そもそも周布くんって異性が一歩寄ってきたら一歩引くタイプ……有り体に言って私と同類だよね? それがなんで姉さんに限っては一歩離れられたら二歩詰めるような荒業ができるの!?
「私だって……私だってお話とかしたいのにぃぃぃ……!!」
「……そもそも、その男子がシャンフロ始めるのを待つって方針自体気が遠くなる話しよな。あと彼がシャンフロ始めたとしてどうやってコンタクトとるつもりなん?」
「…………プレイ開始した日にファステイアの出口付近を見張っておけば見つけられるはずです」
「あァ? シンプル
「うっ!? ……で、でも虎人さんだって初心者だった頃の私や火酒夏さん達をキャリーしてフレンドになりましたよね!?」
「特定個人を狙った
「だったら、だったら私はどうしたらいいんですか……っ!?」
「しゃあからリアルで友達になれと言うとるでしょうがあーっ。……いやマジで、不審者認定されようもんなら恋愛はおろか友達付き合いすらぜってぇ遠回りになるから出待ちはやめなさいって」
…………言われてみれば、姉さんもリアルで顔合わせした周布くんの警戒を解くのに結構な期間を要したと真奈さんが言ってたし、第一印象が大事なのは明確なんだよね。
だけどそれが出来たら……それが出来たら苦労はしてないんですよ……ッ!
そうして具体的な代案を提示できないでいる私に対し、目の前の戦闘狂覆面レスラーはシャンフロにおける非現実的なプレイスタイルとは裏腹に至極現実的な背景を感じさせる言葉を投げかけてきた。
「サイガー0も春から高2よな? 受験のこととか考えるとリアルイベント満喫するなら現実的に今年が高校生活におけるラストチャンスとワイちゃん思うわけやけど────何を言わんとしとるか当ててみよ」
「い、いきなり言われても何の事か分かりません……」
「目ぇ背けんな、夏だよ! 海とか山とかお祭りとか…………スイカ割りとかバーベキューとか、出店とか? 高校生の男女が思いを馳せる熱いイベントがあ、あるや、ろ?」
「せめて断言してもらえませんか!?」
「うるせぇ!! 今のままやと水着とか浴衣で青春を謳歌できんぞ!? ええんか? 踏ん切りつかずに夏休み明けまで友達にもなれないような
「そんなことを言ったら殺されても文句は言えませんよっ」
各種イベントよりもそれに付随する食べ物のことばかりが頭に浮かぶような人に言われて私の堪忍袋の緒は遂に限界を迎え、腰掛けていた椅子を手に大きく振りかぶる。
自分からグイグイ押せて一緒にお出かけしたりお部屋でくつろいだりと……そんな真似を当たり前に出来る強靭な
はーっ! 虎人さんよ! 死ねっ。
◇ ◇ ◇
…………ところ変わってフィフティシアの一角に構えられたギルド拠点:黒狼館、その内部に設けられたリスポーンポイントにて。
「────うん? レ……サイガー0、死に戻りなんて珍しいな。何かあったのか?」
「虎人さんにキルされました……」
「何があった……?」
「……浴衣でお祭り、いいなぁ」
「何があった……!?」
完全に後がないと思われるHP1の後衛職に、同レベル帯の
「あ、確認したいことが出来たから今日は落ちるね。おやすみ姉さん」
「その前に浴衣がどうとか、サイ────待てレイッ!!!!」
リアルプロボクサーを相手に閉所で格闘戦を挑んだことが間違いだったと半ば無理やり結論付け、何やら騒がしい姉さんに軽く挨拶してからログアウトした。
毎年恒例の夏祭り花火大会に関して斎賀家は世話役を取り仕切っていたはず……今年はどうするのかとりあえず話を聞いてみたい。聞いてどうするかは……追々考えよう。
真奈さんは玲ちゃんと百ちゃんを取り巻くリアルの状況をほぼ全部把握しています。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも