シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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番外編3 虎斗君から見た天音永遠、邪教徒を添えて

「うーわ、こらチェーン交換せなあかんわ。あとブレーキのワイヤーもだいぶ伸びとるしパッドもすり減って……ホイールもちょお怪しくない? 消耗部品ほぼ全部やんけ……諸々で結構かかりそうやね」

「そこをなんとか……!」

「ならんわ! 大人しく修理に出しなさい」

「はい……」

 

 春休み前のある日、ワイちゃんは陽務楽郎の妹こと瑠美ちゃんに自転車が壊れたと泣きつかれて急遽やってきていた。中学に上がったタイミングで親戚のお姉さんが乗らなくなったのを貰ったとかで、バイトへの通勤であったり写真館に通うなどでほぼ毎日乗り回した結果だった。

 春休み期間はほぼ毎日バイト漬けの予定であるらしく、書き入れ時のハプニングに切羽詰まった様子で昨夜連絡がきたのだ。

 

 ……一応この子は別に自分で自転車の故障を見れない訳ではなく、むしろ多種多様なバイト経験からか女の子にしては珍しくの工業製品の扱いは手慣れたものだった。ブレーキワイヤーの調整跡や、タイヤのパンク修理跡等が数か所見られるが、それらは全て彼女自身の手によるものだという。

 

 この子本当になんでもやってるんよね。天音永遠ボクササイズ体験の記事が出た翌日には周布拳闘会(ウチのジム)の門戸を叩いてバイトとして採用され雑用やチケットの営業……最近では試合のセコンドに付く始末だった。

 天音永遠は現在出張パーソナル利用のためジムで会える可能性はほぼ無いが、彼女と同じボディメイクメニューを格安で受けられるのとサイン入りジムTシャツを貰った恩からしばらく辞める気はないらしい。……ワイちゃんはタイミングが悪くてジムで収録が行われた時に実物と対面できなかったけど、トップモデルってそんなにすごいのだろうか? 

 

 閑話休題。今回なぜワイちゃんが召喚されたのかというと、理由は二つ。

 まず一つ、この子は趣味のファッションにかける軍資金(おこづかい)を減らしたくない……というか少し前に服を買ったことで今はまとまった金額が手元に無く、すぐには修理に出せないためにワイちゃんに最後の望みを託してきたのだ。

 

 小学生になる前から自転車に乗っていたとは言え同じ素人に何をと思ったが、そんな素人目から見ても工夫でどうにかなる範疇では無かった。さながら末期患者を前にした医療ドラマのドクターの気分だった……どうしてこんな状態になるまで放っておいたんだ! 

 

「とりまワイちゃんのチャリのサドル下げといたけど、どう? 体格差ありすぎて不安なんやけど」

「うん、ちょっと高さはあるけど問題なさそう。だけどロードバイク……だっけ? この形の自転車は初めてだからちょっと怖いかも」

「慣らし運転はマストやね。結構スピード出るし、ブレーキもディスクブレーキで瑠美ちゃんのやつと効き方がちゃうから気ぃ付けや?」

「ホンッッットにありがと……! おかげで春休みはバッチリ稼げる!! ……でも春休み明けまで借りて大丈夫なの?」

「少し前から部活の朝練は休みなのと、長期休み中も朝早くなくて余裕あるからええよ。あとワイちゃん免許あるし、遠くに出かけるなら家族のクルマ乗ってもええから」

「自動車免許いいなぁ。私も高校受験終わったら教習所通いたいけど、高いからなぁ……」*1

「毎月買う服一つ減らすだけで余裕で貯まると思うんやけど……」

 

 現実的な進言は完全に無視された。

 ……この子まだ中学生なのに金銭感覚だいぶアレなのでは? 

 

 まあそれはさておき、瑠美ちゃんの自転車がどうしようもないとなった場合にワイちゃんのを貸し与えることがもう一つの理由だった。……高校進学祝いにお父さんとお母さんから買って貰ったやつだから事故らないで欲しい、いやほんと、切実に。

 

「というかチャリの修理代なんて親に頼んで出してもらうモンだとワイちゃん思うわけだけど、お父さんかお母さんに相談とかしたん?」

「……実は前にパンクした時なんかはちゃんとお金貰ってたんだけど、自分で安く直してお小遣いに回してたのがバレちゃったんだよね。それで今回お母さん激おこで『自分でなんとかしなさい』って……」

「命に関わるモンを安く済ませたとかそら怒るわ。……ワイちゃん貸そうか?」

「……お金の貸し借りは流石にダメだから止めとく」

「————本音は?」

「春物の次は夏物の新作が……ね? 借りちゃったらすぐには返せなくなるかもで……だからお金入ったらちゃんと修理出すって決めてるの」

「己の弱さを理解(わか)っててえらい。……ところでそんな良い子だったり悪い子だったりする瑠美ちゃんに今日はプレゼントを持って来とるんよ」

「え、急になに? チケットとかは間に合ってるからね」

「まー、とりあえず見てみてちょーよ」

 

 ワイちゃんはバックパックに突き刺して持ってきた、卒業証書を入れる筒のデカい版とでも言うようなポスターケースを取り出す。

 

「ポスター? いったい何の…………待って、えっ、それ……ま、待って待って待って」

 

 それが具体的にどんなタイミングで世に出たのかは知らないが、中身は新作のスポーツウェアで全身を固めた「————待てェッ!!」ウワーッ!? 

 

「そ、その針葉樹を背景に躍動するMIKEのショートパンツと()()()()は……ッ!! 先月のヴィーナスフィットネスの巻頭見開きページ……まさかそのポスター!?!?」

「ほんの一部しか見えとらんのになんで特定出来るん……? いやそうなのかは知らんけど、こわっ……こえーよ」

「そんな美術品を日差しがある屋外で取り出すなんて神経疑うんだけど! もっと蝶や花よりも丁重に扱って……ッ!」

 

 それはつい最近雑誌の取材でモモさんの出版社に行ったときにご厚意で貰った天音永遠のポスター……なのだが、残念ながらワイちゃんは性的コンテンツにおいて一部を除いて二次元以外の女性を受け付けないのだ。たとえ写真や映像であっても人格が伴っている感覚がどうしても受け入れられない。

 ぶっちゃけワイちゃんは実在女性よりも二次元の方が好きな 異 常 者 男 性 である。そのためサイガー0に定期的に語り聞かせている『男の女性観』も主に周りのバカのそれをまとめた一般論に過ぎない。……ついでにエロゲとかは苦手であるようなので、サバイバアルとしているような性癖(ナマ)の話はしない。ワイちゃんもその程度の配慮は出来る。

 

 そんなわけでタンスの肥やしになる未来しかないポスターを良かれと思って持ってきたのだが、喜ぶどころか地球を一周してキチガイ扱いされてしまった。虎斗くん、絶句。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「知り合いに頼んで本人にサインを入れてもろたんはサービスし過ぎやった……土下座に迷いが無さすぎたんだよね、怖くない?」

「妹のあんな姿を見せられた俺の身にもなれ……? マジで通報しかけたからな!」

「どっちを被疑者として扱う気だったかは聞かんでおくわ」

 

 ところ変わって、ワイちゃんは腹を空かせて自室から出てきた楽郎と共に近場のファミレスまで来ていた。

 

 リビングでポスターを広げたところであら大変、『陽務瑠美ちゃんへ』という文字列を目にした瞬間に感激のあまり腰砕け……挙句の果てに錯乱したまま『あのう……足舐めましょうか』とワイちゃんに手を伸ばしてきた。タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど降りてきたコイツの手を借りて何とか社会的一命を取り止めたのだ。

 その後彼女はラクの財布から数千円を奪うように借りて、早速我が相棒に跨って額縁を買いに行ったのだった。……また叱られるのでは? 

 

「あの子をあそこまで狂わせるトップモデルって、なんなんやろね」

「邪教の権化だろ」

「酷い言いようやな……まー、普段からあんな狂信ぶりを見せつけられるとそうも言いたくなるわな。むしろ天音永遠も可哀想な気がしてきた……」

「いや本人はむしろノリノリじゃねえかな……?」

「……そいやこれまで突っ込んで聞いたことなかったけど、ラクってば天音永遠とネフレ*2なんだっけか。ちょお気になるからどんな感じなのか聞かせて?」

「良いけど、瑠美には言うなよ。……どう転んでもろくな事にならん」

 

 これまで一度も興味を持ったことがなかったカリスマモデルのゲーム上での姿について、今日に限っては自分でも不思議な程に関心を抱いていた。今回火の粉が降りかかったものだから火元を改めようとしているのだと思う。

 

「俺が()()と初めて出会ったのは世紀末円卓(ユナイト・ラウンズ)だって話はしたよな?」

「あの道徳も良心もないクソゲーな、『王座簒奪しようぜ!』とか言って誘ってきたけどシンプル断ったヤツ。最終的に城ごと爆発オチだったことしかもう覚えとらんケド」

「十分だよ。……アイツな、人が爆発する姿を見て嬉々として掛け声を出せるタイプなんだよ。『た〜まや〜! か〜ぎや〜!』ってな具合にな」

ド狂人(おイカレ)でいらっしゃる……?」

「ド畜生(ぐされ)でいらっしゃる。NPCキルなんかも躊躇いなくやるしで、控えめに言って人の心案件」

 

 解像度(イメージ)が雑誌の表紙以下でしかないワイちゃんは肯定も否定も出来なかった。出版社の担当者さん経由とはいえポスターにサインをしてくれた人がと思う一方で、モモさんが時々こぼす仕事の愚痴の内容が関連してどこか腑に落ちるものを感じている。

 

 十代女子(ティーン)の……というよりは瑠美ちゃんの憧れを一身に受ける存在は善き人であってほしいという、勝手な願望が目を曇らせていることを何となくではあるが理解していた。

 

 なによりも、目の前の親友が嘘を吐いていないことがワイちゃんにはわかる。

 

 ホラ吹きモードに入っている場合のコイツのトークは無駄に情報量が増えるせいで具体的に何が嘘なのかは分かりにくくなるが『コイツ今嘘ついてる』というのが明確になる。……誰の受け売りなのかは知らないが、技術(ワザ)が身に付いていないため悪目立ちするのだ。

 

 そしてつまりそうでない時の内容は基本事実ということになる。

 

「円卓では鉛筆戦士ってPNでな、基本的に他人のことは駒扱いだし三度の飯よりプレイヤーを手玉に取ることが大好きで、腹も幕も真っ黒な刹那的快楽主義で人間的にはクズの部類に入る。……でもなぁ、天音永遠まんまのキャラメイクしてるくせに最低限身バレ対策してたり、やってる事チグハグなとこがあんだよ。要領はいいのにチラホラ破滅願望でもあんのかって真似するし」

「あー……わからん。よーわからんけど、聞いてる限りでは好きになれんわ。……というか、なんでその鉛筆戦士さん=天音永遠ってなったん?」

「本人があっさり自爆したんだよ。『天音永遠に似てない?』って言ったら『だって本人だもん。…………あっ』ってな具合で」

「なんやそら」

 

 と、そのタイミングで注文していた肉と米が現代の世界の猫型お運びさんロボットによって運ばれてきた。……人類の技術の発展は目覚ましいが、流石にドラえもんや鉄腕アトムは無理だった。

 

「んー……なあ? 食い始める前に聞きたいんやけども、美人とお近づきになったら普通の男なら()()()()()狙うもんやとワイちゃん思うわけだけど、ラクは────」

 

 パリンッッッ!!  と。

 

 少し離れた席からコップか何かが割れる音が響き渡り、一瞬だけワイとラクはギョッとした。

 

「申し訳ありません……」

(あー……?)

(どっかで聞き覚えが……?)

 

 食器を割ってしまったらしい女性客の声が一瞬気になったが、しかしすぐに会話に戻る。

 

「……ワイちゃんにはイマイチわからんけど、天音永遠を女として見たりはせんの?」

「勘弁しろ……ッ! いくら顔が良くても捕まってないだけの犯罪者予備軍に手を出すわけねぇだろ! 俺は普通のゲーマー女子と普通の恋愛をするのが将来的な目標ですッ」

「まあ、わかる。ワイちゃんとしてもお近付きになりたくない。……ところで最近な『普通の女』って実はかなり珍しい存在なのではと思い始めたんやけど、どうよ」

「はぁ? いや、それはお前の女運が……………………そうだな、普通って尊いものだよな、うん」

「否定して欲しかったんやけど」

「これ以上は危険だ、話題を変えるぞ」

 

 三次元女の話なぞ滅多にするものでは無いと言うのが今日の学びだった。

 

 それはそうと鉛筆戦士という名前、ラクの口から語られた所業の数々、そして天音永遠の見た目まんまのキャラメイクを行うという点に引っ掛かりを覚えたものの……煮詰まったデミグラスソースとサーロインステーキの脂の香りの前ではあまりにも些事でありすぐさま忘れ去ったワイちゃんです。

 

「天音さんはナシ、普通のゲーマー女子と普通の恋愛を……よしっ」

 

 耳馴染みのある声がした気もするが、厚切りでミディアムレアな肉の美味さの方が勝り一瞬でどうでもよくなった。

 

*1
弊シャンフロ・ユニバースでは義務教育修了後から自動運転車種限定の自動車免許を取得できるぞ! 

*2
ネットフレンドの略。エッチな単語では無い。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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