シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
2025/02/23 あとがきと注釈追記しました
番外編1 チャリオットチョコレート工場と、仁義なき聖女ちゃん杯
「なあラク、
『バレンタイン特集ガレージに並んでた』
「ああそう……ところでゲームジャンルをもう一度聞いてもええかな?」
『甘く蕩ける恋愛アクションゲーム』
「よな? パケにそう書いとったよな!?」
軍馬に轢かれ踏み荒らされ、真っ赤なクランベリーソース(比喩)をまき散らす味方兵士だったものを横目に無線機へ叫ぶ。
三頭引きの
『三界=火宅=ショコラティエ』
通称:チャリオットチョコレート工場、あるいはチャリ
スイーツの国の独裁者たる様々な特色を持つ
「途中からアクションゲーム作りたい派閥が蜂起したやろ」
『不穏なタイトルとアドベンチャーじゃない時点で察するべきだったのかもな』
……ではなく、乙女ゲーであるはずだった。
いや実際、プレイ開始から早送り気味で約一時間くらいは異邦の見習いパティシエたるプレイヤーがイケメンの有望パティシエール達とキャッキャウフフしている内容のノベルゲームだったのだが……途中からディストピア色が強くなり、気づけばプレイヤーはレジスタンスの実働部隊長としてマルチバースの
闘争は恋愛に近しいってか? シバくぞ。
あらすじだけ挙げれば突拍子もないがシナリオは良い……岩巻さんが絶賛していたのも頷ける内容である。
だからこそ、今のこの状況には一層腸が煮えくり返っている。
シナリオがクソであったなら早々に見切りもつけられたのだから。
「……なんでキラーに勝たな先進めないんやッ!! ふざけんな!! ワイのアルスくんをあんなイカれ性能にしやがって……!」
『オフラインだと味方NPCのAIがクソすぎて進めない……オンラインだとクリア済みのプレイヤーが蹂躙してきて進めない……!』
「クソがッ! アバズレ女ァ!!」
別世界の自分自身への怨嗟が収まらない。
突撃してくるチャリオットにタイミングを合わせて跳躍し、悪女の顔面にキャンディスティックをフルスイングするがリスクに対してダメージが少なすぎる。
「サンラクぅ! こっちもうワイちゃんと野良さんしか居らん……NPCはマップ端散歩しとる、兵隊ミリも役に立たん!」
『あと1、いや2分粘れ! キャラメル爆弾設置が終わってねぇ!』
主戦場を離れている『
このゲームの勝敗はMoba*1のそれに近く、試合時間終了時にチョコゲージが多い陣営が勝利するというものだ。
前提としてキラーもレジスタンスも撃破されるとゲージが奪われ時間を置いて復活する……が、レジスタンスの命が砂糖細工よりも容易く砕かれるのに対し、キラー側が倒されることは一試合に一回あれば多い方だった。
戦場各地のチョコレートの泉からチョコを採掘するか、キラーが支配するチョコレートダムを直接攻略するなどしてゲージ差を付けるか全て奪うのがレジスタンス側の主な勝ち筋。
キラー側は配下の兵士を哨戒させてレジスタンスを索敵、そして圧倒的な性能の兵器で蹂躙しゲージ差を作るか削りきるのが主な勝ち筋だと、度重なる敗走を乗り越え理解した。
「野良さん! ワイちゃんが前に立つから何とか戦車転ばせて!!」
「……!(コクコク)」
ワイの言葉にプレイヤー女の人っぽい”―名称未設定―”の野良さんが頷き返してくる。
本来『
加えてレジスタンス側最大のアドバンテージである全域マップを利用するには『
「火力も機動力も違いすぎる……せめてまともな武器よこせや……ッ!」
……このゲームで最も問題なのはキラーに対してレジスタンスが段違いに弱すぎることだ。
比喩ではなく
なにより弱いものイジメをやっている体制派は過去に同じ地獄を乗り越えたであろう表シナリオクリア済みで、裏シナリオ攻略中のプレイヤーなのだ。
革命とは容易く成せるものではないのだと要らぬリアリティを持たせた開発者への怒りが滾る。
また発売からしばらく経っているためかキラー側は爆速でマッチした一方で、レジスタンス側は受付時間終了まで粘ってワイちゃん・サンラク・野良さんの計三人しかプレイヤーは来ずNPC一人を含む編成で臨むこととなった。
シャイなのか口数が少ない野良さんと共に、絶望的な戦力差を前に必死に立ち回る。
喋らないというのに合わせやすく、向こうもワイちゃんに合わせるのが上手いため不思議な一体感があった。具体的には半年くらい一緒にMMOプレイしてるくらいの。
「何回でもシバいたらァよォ!! こちとらタコの聖杯百回はぶん殴っとるんじゃァ!!」
『……あれ? なんか戦車こっち向かってきてねぇか!?』
「ゲーッ!? NPCが外周グルっと回ってそっちに向かっとる……それが哨戒網にかかったんや!」
『いねぇ方がマシじゃねえか!! 今俺死んだら詰みだぞ!?』
「くっ……ワイちゃんは武器がもうアカン。……野良さん! 防衛は一人で何とかするからサンラクを助けたってくれ!!」
『頼む!! 俺の命は野良さん次第だ!!』
「ッ! 〜〜〜〜っっっ……ひゃいっ! わたしがサンラクしゃんをたすけましゅッ!!」
(あれ? どこかで聞き覚えがあるような……)
(なんかサイガー0っぽい声やけど……せやったらワイちゃんに気付かんわけがなし、流石に気のせいか)
女の声はよほど特徴的でない限り似たように聞こえて困る。外でラクとメシ食ってる時とか時々モモさんの声が空耳するし、惚れた弱みにしても限度があると我ながら思う。
というかこのゲーム一応乙女ゲーやし、むしろ野郎二人が揃ってプレイしているほうがおかしいか。そら口数も減るわな。
「かかってこいや豆どもォ!!」
そんなことより、ワンチャン敵が釣れることを祈ってナッツの兵士にちょっかいをかけつつチョコの泉採掘を開始した。
『しゃオラァ!! ダム決壊じゃあ!!』
『……!(フンス!フンス!)』
「ヨッシャァァァァァァ!!」
革命は成った……!
ここからはワイちゃん達も暴虐と圧政の限りを尽くすのだと思うと涙が出てくる。
……えー、というかワイちゃんもチャリ乗らんと裏シナリオ進められんのかぁ、やだなぁ。
『長く苦しい戦いだった……いやー、すいませんね野良さん。内輪ノリで話しづらかったですよね?』
「ほんまそれ。改めてありがとうございました……」
『……!(ブンブンブン!!)』
おそらく野良さんが首を激しく横に振っているのであろう音が無線機ごしに聞こえてくる、人の良さが伺えるようだ。
なにはともあれこれで存分にアルスくんのシナリオを楽しめる……。
『じゃあそろそろ解散ってことで……あ、そいやトラちゃん、チョコのおすそ分けって期待してていいよな?』
『ッ!?!?』
「おー、今年も頼むで。甘いもんは
『へへっ、やりぃ』
今日はバレンタインデーの翌日。ワイちゃんは残念ながら食べられないお菓子の処分についてラクが話してくる。
ワイちゃんはモテる。本命は無いが既製品の詰め合わせなTHE・義理的なものをファンやミーハーな人達からそこそこ貰えた程度にはモテるのだ。男からも届いているのは本当に些細な問題だ。
しかし、ワイちゃんはボクサーなのでチョコを存分に喰らい尽くすことは許されない……その辺りが考慮されたプロテインバーとかはともかくとして、それでも捨てるなどという人の思いを踏みにじる行為は論外だ。
なので少しだけでも全員分を口にし、その上で大半をラクに回す。申し訳ないとは思えども中学から定番となった流れだった。
嫉妬の一つや二つしてくれても良いのだが、良くも悪くも慣れてしまっており、もはやタダでお菓子が食えるシーズンだとドライに捉えられているのはつまらないが。
「というかサンラク、お前の方はどうなんや? ワイちゃん程では無いにしても二人か三人くらいはくれた子おったやろ」
『(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…)』
『いるわけねぇだろ、帰宅部だぜ俺。瑠美のやつは最近また服買ってたし、今年は母さんとお前のおばあさんの二個でフィニッシュだな』
『……!(グッ)』
「クソゲーに割いとるリソースをちっとは女子を口説くのに回そうと思わんの……?」
『~~~!!(フルフルフル) フーッ……!!*2』
『てめーも大概だろうがケンカバカ異世界』
「誰が世界越えのバカや!! ……あ、野良さん申し訳ない、身内の話に巻き込んで」
『オキニナサラズ』
『裏声……今度こそ解散だな、付き合ってくれてサンキュな』
「気にすんな、今日学校休みやったし。じゃあの」
工場長就任はまた後日にするとして、ワイちゃんはログアウトした。
スイーツ革命を成功させた少し後。
ほとぼりが冷めるまでプレイを見合わせたかったシャンフロに、サイガー0から呼び出しを受けて急遽ログインしていた。
「奴は今またログインしたと知らせが来た!!」
「奴がこの街に居ることは間違いない、見つけ出し、殺せ」
「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」
「虎人を殺せェッ!!!!」
「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」
「ほんで。今年もチョコあげられなかったと……話とか出来んくても、渡すだけで『チョコくれた女子』って印象付けられる出し得ムーブや思うケドなぁ」
「…………あの。時間を割いて貰ったのはありがたいのですが、今度は何をやったんですか虎人さ「シッ! 下手に名前を出すな、感づかれるっ」
フォルティアンのひとつ前、大陸で最南端の街にあたるテンバート。
路地裏に隠れるようひっそりと営業している蛇の林檎、その2階の角部屋の個室を取ってサイガー0と密会していた。
何時でも窓から逃げ出せるよう位置取り、また万が一には迷惑をかける旨はマスターにもあらかじめ
服装もアイデンティティを完全に捨て、フェスタ・メジェ・なんとかという白布オバケみたいな装備で全身を覆い隠す徹底ぶりだ。
奴らに見つかったとしても捕捉まで数秒は稼げるだろう。
「いやな、ワイちゃん今日学校が創立記念日やったから昼間にシャンフロしてたんよ」
「ああ、休みだと言っていましたね」
あれ、サイガー0には話してたっけ? まあどっかで話したんやろ。
「ほんで今はえらく遠くに感じるマイホームタウンのフォルティアンをうろついとったら、なんか『親衛隊』の連中が結構規模の大きいフリートーナメントの開催準備しとってな」
「あ、ハイ、勝ったんですね」
「なんでもお見通しやん」
どうも高校生のワイちゃんが参加出来ない平日の昼間に、かつバレンタインデー当日を避けて開催していたようだったが残念だったな。
その間の悪さには同情したものの、闘技場の街において”覇者”を爪弾きにしようと言うのは失笑ものだった。
既に参加枠は埋まっていたがマーニに物を言わせ適当に譲ってもらい、主催者による参加拒否は国家権力により否認された。
どこまで
何はともあれ雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ、逆シードやメタ装備にも負けず、矛盾対決は矛が勝つことをジョゼットにわからせて優勝した。どんだけ硬かろうが死ぬまで殴ればいい、ワイちゃんは一撃火力ではなく
「まあ実を言うと優勝したまでは良かったんよ。問題はそのトーナメントの賞品が、聖女ちゃん謹製のチョコレートだったことで」
「あ〜〜〜〜…………続けてください」
「観衆と、聖餐品とか言って10億の値をつけてきたジョゼットらの前でむしゃむしゃしてやった」
「バカなんですか?」
「今は
食べるだけでステータスポイントが増えたことには流石に驚いた、どうにかして量産して貰えないものか。
というかサイガー0ってやっぱりワイちゃんに対しては結構言うよね。
それにつけても今日は少し攻撃的というか、遠慮というよりは容赦がない感じ。直近で何か恨みを買ったのだろうか。
「いやでもさ、聖女ちゃんの気持ちがこもった手作りをカネで売り渡すのは違くない? NPCとはいえ人の想いはプライスレスやぞ。……もしサイガー0が丹精とか愛憎込めて作ったチョコをな、仮に今回キチンと手渡せていたとする。だがそのチョコが十万円で転売とかされたらどう思う?」
「全面的にジョゼットさんが悪いですね、失礼しました」
「わかって貰えてなによりや」
恐ろしく速い手のひら返し助かる。
彼女の好意を一身に受ける見知らぬ誰かのことがちょっと心配になるレベルで鮮やかだった。
そんなことからワイちゃんは聖女ちゃんの好感度を上げた代償に、今現在『親衛隊』から総力を挙げて追われる身となっていた。
追手がフォルティアンの外まで及ぶことは想定していたものの、連中の怒りを甘く見ていたようで思っていたより大掛かりな捜索に正直弱っている。
他のエリアへの分岐が三つあるフィフティシア側へ逃れるのが理想だったのだが、そこは流石の手腕と言うべきか迅速に封鎖されていたため、やむなくテンバースに逃れリスポーンポイントを更新したのだった。またフォルティアンではジョゼットが待ち伏せの指揮を取っているというのだから流石に戻れない。
こういう時に梁山泊やフォルティアンの住民達は力になってくれない。普段好き勝手していることへのお灸とばかりに、コンテンツの一環として遠巻きに消費される。
住民達の目から見て娯楽の範疇に収まる限りはいつもこうだ、多分今頃は賭け事の対象にされているだろう。
ワイちゃんに背かない云々はなんだったのか。*4
「ワイちゃんとしてはケンカ売る気とか1ミリも無いんやけどなぁ」
「じゃあどうして煽るような真似したんですか……?」
「……ショーマンシップ?」
「宣戦布告と言うんですよ」
『聖女ちゃん親衛隊』という変態
理由は単純、ワイちゃんが連中のアイドルである聖女ちゃんことイリステラから顔パスで謁見が許されている、お気に入りの
ワイちゃんは聖女ちゃんと
レベル30くらいの頃にジークヴルムに唾を付けられたのがシンプル邪魔だったため、早々に解呪を目指しただけだったのだが、以後も何かと聖女ちゃんと交流する機会に恵まれた末『お友達』認定を受けた。
『貴方が強く、人類の味方であるだけで、夢見ることが恐ろしくない』的なことを言っていたからおそらく『めっちゃ強く』『低カルマ値』であることから何らかのフラグが立ったらしい。
……だがそんなことよりも、当時『親衛隊』という集合体になったばかりの彼ら彼女らに、ゆく先々でガン飛ばされるようになったことの方が印象深かった。
『いつか亡き者にしてやりたい』
『そんな眠たい事言わず今やろう』
と、今では
別段聖女ちゃんを悪用したこともないし、なんなら定期的に寄付だってしているのだが……彼女からしたら、気に入らない
他人の性癖をとやかく言う気は無いが、どうも同性愛者の気があり男嫌いが言動に滲んでいる彼女は、ワイにとって苦手な部類だった。
長らく付き合い続けてすっかり愛着したアバターの男らしくマッシブな見た目を全否定されている感が特にキツイ。
「聖女ちゃんと話しとる時の圧がキツイんよなぁ、ジョゼット」
「私も正直苦手なんですよねぇ……初めて会った時も『どうして可愛い声に似合わないそんなアバターを?』とか言ってきましたし」
「え、シンプルキショい」
同性とかゲームとか関係なしにハラスメント案件ではないのだろうか。出会い厨オーラ*5なんてものを実装できるのだから何らかの形で対策して欲しい。
「……親衛隊の話はもうやめよ。で、そもそも何の話やったっけか……?」
「バレンタインの話ですね……虎人さんは、姉さんからチョコを貰ったりしましたか?」
「お、本命チョコご馳走になった話聞きた「詳しく」ヒェッ…」
ジョゼットに負けないどころかバッチリ勝っている圧に血の気が引くのを感じた。やっぱり底が知れないわこの子。
「いやごめん調子のええ事言っただけで、全然そーいう浮ついたやつではないんよ……この前メシ行った時にデザートにチョコケーキ食べさせてもらっただけ」
「え!? そ、それだけですか……? 他に何か貰ったりは?」
「特に無いな。『本命やー!』ってはしゃいで見せても軽くあしらわれてなぁ、大人の余裕ってやつを見せつけられて終わりや」
(ダメだったかぁ……)
サイガー0こと斎賀玲は知っている。彼女の姉である斎賀百が寒空の下わざわざ実家に戻ってきて、キッチンで業務用低糖質チョコレートと格闘していたことを。
形にこだわること数時間、最終的に原材料と同じ一口大の立方体型に再整形するというほぼ自分の二の舞まで目撃していたが……その後どうなったかまでは把握していなかった。
昨日の自分がそうであったように、鞄の中の作品と共に家路につく姉の姿が目に浮かぶようだった。
「……一度聞いてみたかったのですが、虎人さんは姉さんのことをどうお考えなのですか? 不躾な話、リアルの姉の見た目って好みですよね?」
「なんや今日はえらく聞きたがりやんけ。というか今、暗にスケベ扱いされた?」
「脱がせ隊、スクショ」
「ぐう。……そこまで言ってわざわざ聞く? 惚れとるに決まっとるやろ。あんなええ
「うわ、直球……!」
ワイちゃんの好みのタイプはタッパと胸とケツがデカい女、小麦肌や褐色肌ならなお良い。少し前にファイトマネーでビーナスファイト*6のラーちゃんの4分の1スケールフィギュアを買った、控えめに言って最高だった。
リアルの女性をそれと同類の視点に当てはめるのは失礼だと思うが、モモさんの外見は完全に好みだと断言出来る。
ワイちゃんより少し低い程度の高身長、本人は嫌がるが男女問わず目を引く豊満な胸、 筋肉の上に程よく脂肪が乗った健康的な足腰。
……何より人物の芯の強さが表に出ている伸びた背筋と面構えも含め、理想像と言っていい。アテナのような戦女神と呼ばれる存在は、きっと彼女のような佇まいをしていたのだろうとさえ思う。
リアバレ当初はストーカーと勘違いしてビビり散らかしていたため、そんな目で見る余裕は無かったが、しばらくして落ち着いた頃にトラペディアの『絶世の美女』項目*7に追記された。
「わ、わぁ……ベタ褒めじゃないですかっ! それでそれで!?」
「もしかして全部口に出てた感じ……?」
サイガー0は口走った本人よりも恥ずかしそうな様子で、それでいて椅子をワイちゃんの真横に引いてきて続きを促してくる。楽しそうね、巨漢アバターのせいで圧がすごいけど。
この様子だと全てぶっちゃけるまで解放して貰えないだろう。
小っ恥ずかしくて全身がゾワゾワするが、せっかくだから自分の中の
「ほんで礼節はバッチシやし? 目標にひたむき、泥臭い努力だろうと惜しまない根性まで備えとる……せめて中身くらい悪くしてバランス取れって思うわ」
(意外と人の内面まで見てるんだよなぁこの人、普段なにかと雑だけど)
「強いて粗探しするならコントロール願望? 的なのがあるくらいしか浮かばんのもヤバい、育ちか仕事柄なんかは知らんけど」
「すごく分かります!! 姉さんってそういう所ありますよね!!」
え、そんなに強く肯定する? サイガー0も苦労しているのか。
ワイちゃん一人っ子だから分からないが、姉がいるというのは大変なのだろう。
一方で妹がいるというのもそれはそれで苦労があるのだろうとも思う。
陽務家に遊びに行く度に瑠美ちゃんの視線が痛くて身だしなみに気を使うようになったのだが、基本ジャージな楽郎が普段どんな扱いを受けているのかはあまり考えないようにしている。
「……あ、それとワイちゃんのことインターンとかめちゃくちゃ言って在宅ワーク手伝わせるのはアカンと思う。あと部屋の掃除が足らんし、ワイちゃんより美味いメシ作れるのに作り置きさせてくるのもアレ」
「…………は? 部屋? 作り置き??」
話してみると意外とあったな、アラ不思議。
その場に居ない他人の話をそのまた他人にするのは正直好きでは無かったのだが、なかなかどうして気分よく話せる。単なる食わず嫌いだったのかもしれない。
「とはいえ、そんな事が些細に思えるくらい人として強ぇとこが特に好みやな。……ワイちゃんな、公式戦出禁にされたんは今でも許せんけど、最後の相手がサイガー100で良かったとも思ってん。社会人としていつも大変なはずやのに、ゲーム初心者の状態からワイに比肩する強者にまで成り上がった……それもたった半年で、すごない? そんなすげぇことワイちゃんには出来ん、ホンマ尊敬する」
(あー……『はよ告れ』ってこういう感じだったんだ。ごめんなさい真奈さん、本当の意味で理解しました……でももう少し時間をください)
考えてみればモモさんのことを他人に話す機会なんて無かった、今こうしていて段々スッキリしてきた気がする。
吐き出すってのは大事やなぁ。
新しく息を吸うにはまず吐くこと、小さい頃の水泳教室で息継ぎのやり方として習ってからずっと付き合い続けている身体を動かす初歩の初歩。
それが精神面にも当てはまるという学びを今回得られたため、サイガー0には感謝しかなかった。
「まーそれだけになー……ワイちゃんの中のリアル女性観がモモさんとかいう論外クラスが基準になってもうただけになぁ、彼女作る踏ん切りがなかなかつかないんよなー」
格ゲーで例えると、ゲーム開始当初から見た目もCVも性能もあらゆる全てが好みの1キャラで一心不乱にランクマ極めたあとになって、改めて他のキャラを選ぶ時の不安感が近い。
大丈夫なのか、やっていけるのか、と。
「…………あれ? 話変わりました?」
「いやぜんぜん? モモさんがええ女って話のまま。……薄々わかってはいたんや、いっつも大人の対応で、異性としては相手にされとらんと」
(いやいやいや!? 女性がなんとも思っていない男の人を部屋に上げるわけないじゃないですか!)
ふと、中学時代に他のクラスのとある女子が学校中の男子からもてはやされていたことを思い出した。告白してきた男子の数は百人を超え、その全てにNOを突き付けたという噂の、ある意味では”覇者”虎人と同じ無敗のチャンピオン。知らんけど。
当時はビーナスファイト……通称:
そのため、その子のことは名前すら知らないが、彼女もまたモモさんや女神達と同じ論外の存在だったのかもしれない。
余暇時間の大半を推し活に費やしていた事に後悔は無いが、顔すら拝まなかったのは流石に勿体なかったとワイちゃん反省。
そう言えばもうすぐ大女神祭のシーズンだ。今回はどのデカパイ女神のランキングを押し上げて、メインデザイナーの『
「あの人は自分というものを確かに持っとる強ぇ
(その花はあなたを見上げて咲いていますよ……?)
「……初恋の八割実らないなんて言うしの」
「八割っ!?!? そんな不安になることは言わないでくださいッッッ!!!!」
「ごめんなさい!? と、とりあえずワイちゃんが得た教訓はな……男は女に敵わん、以上! 女からは攻め得や攻め得! せやからサイガー0はなんとかなるっ」
ワイちゃんがシャンフロ内外でモモさんの頼みを何かと聞いてまうのも言ってしまえば惚れた弱みだ。あー! 恥ずかしかった!
「ま、おかげさまと言うのもなんやけど、目標も出来たんや。惚れ甲斐がある強ぇ女を振り向かせられるようなデケェ男になるっちゅう目標がの」
ーーさて、そんな虎人の言葉を聞いて、サイガー0はこう思った。
(圧倒的な好感度がアダになってる!? は、『はよ告れ』ってこういう事だったんだ……!)
「恥を忍んで洗いざらい話したんや……例の彼をシャンフロ内で紹介出来んなんて承知せぇへんからな?」
「は、はぁ……あの、姉について深い誤解があるようなので話を「おっ、頼んどった料理が出来たみたいや。どうぞー」んんんんんん!!!!」
ノックされた扉を開けると、グラサンスキンヘッドの厳ついマスターが料理を持って入室してきた。
……と、その後ろに、少し前に遊んだばかりの幼児体型の女性NPCが追従していた。
賞金狩人のティーアス。服装は白のスクール水着のままだった。
「え、ティーアスちゃん? なんで?」
「……トラトに忠告しに来た。何をしたのかは知らないけど、あなたの命を狙う輩がここを包囲しつつある」
「えっと
「逃げるなら早い方がいい」
半径約30メートルの地形やNPC、そして
路地裏の中でも特に人の出入りが少ない蛇の林檎周辺に、組織的統率を保った集団が近づきつつある。
一体どうやってここを突き止めたのか?
窓から外を伺いながら虎人は勘繰るが、彼ら……『親衛隊』はさして特別なことはしていなかった。
街の外に出ていない状況を確定させた上でしらみつぶしに捜索し、『ここ以外には無い』という段階まで行き着いただけのこと。
人、それを『執念』と呼ぶ。
「ーーーー二階だ、居たぞォ!!」
「アカン見つかった……! ほなサイガー0、ワイちゃん連中振り切ってからログアウトするわ……もしかしたらしばらくインせんかもしれんからよろしゅうな!!」
「ああっ!? ちょっと待っ……行っちゃった」
サイガー0の制止を無視して、虎人は開け放った窓から建物の屋根に上り、怨嗟と怒号を背に去っていった。
「姉さんも大変だなぁ……」
「もぐもぐもぐもぐ」
(あ、こうなると見越して入ってきたんだ、
「…………それ、食べていい?」
「……どうぞ」
ティーアスのその小さい身体に見合わぬ見事な食べっぷりを見ながら、その場に残されたサイガー0は途方に暮れていた。
そしてその数分後。
「キィーッ!」
「あれ、虎人さんからDM? 逃げながらなのに余裕あるなぁ…………ヒュッ」
その内容を見て、サイガー0は心臓が止まるような、時間が止まるような錯覚を覚えた。
『今回は相談に乗るはずだったのが、逆に助けられました。色々話して気持ちの整理が出来たおかげで次に進めそうです。本当にありがとう』
(もしかして、やっちゃった……?)
黙ってリュカオーン討伐を成功させてしまったような心持ちだった。
これでも私は慎重派でね、斎賀家の呪いに関してはしっかりリサーチしておいたんだ。
・蛮奉天 虎子:律儀なので友人から貰ったゲームはとりあえずプレイしちゃう。プレイ前の間食に無糖ココアを入れたプロテインを飲んでいた。
・サンラク・ド・ノエル:今回のクソゲーは行きつけの店で安売りしていたので友人の分も購入した。先日、友人のおばあさんからご馳走になったケーキが美味しかった。
・野良さん:行きつけの店で店長のお薦め品を購入したところ思わぬサプライズに遭遇、言語を喪失する。
・聖女イリステラ:過激派オタクどもの偶像、虎人のファンで闘技場お忍び観戦が趣味。色々あって原作よりもよく笑うしよく出歩く、やや悪戯なところがある等身大の女の子に近くなっている。現時点で世界の敵ルート消失済み。しかし代わりに虎人くんは……?
・過激派オタクどもの首領:実は虎人がこのユニバースに生じたことで、聖女ちゃんにスクショを見せながらのおしゃべりをせがまれたり、お忍びの護衛を命じられるくらい仲良くなっている。虎人くんには密かに感謝もしているが、それはそれとして嫌い。闇堕ちルートは消失しているが、虎人という宿敵の存在から原作設定とは別方向の鯖癌適正が生じた。聖女ちゃん以外の何人も彼女と親衛隊を止められないが、当のイリステラは困ったような顔を浮かべつつも止めない。どうせ虎人くんは大丈夫だから。
・絶世の美女:後にボクシング4階級世界王者となる少年の心を射止めた罪な女性。それはそうと正月に姉や妹に恋愛面でマウントを取ったのがバチに当たったのかもしれない。
・虎斗くんの好みのタイプ:『強く、信念がある人』。ただしあまり条件に合致し過ぎると好敵手認定を受け、恋愛的な攻略が非常に困難になる(サイガー100、サンラク、カッツォが該当)
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも