シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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ジョゼットの口調がフワついているのが、俺なんだっ


14 前哨戦第三幕始 VS親衛隊 『いいや、お前たちが死ぬことになっている』

 それは世界に存在するありとあらゆる技能と魔法を行使し、未来を知覚することが出来る。

 

 それは開拓者と同じ形をした、似て非なる存在である。

 

 それは確かに人々を愛した、慈悲深き者である。

 

 (そら)に虫食いの星を頂く彼方の『まほろば』でたたずむ()()をただ一人知る男は、その全てを暴こうとしている。

 

 ただ、より強きを求めて。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『いやぁ、やられてしまいましたぞ』などと呑気な様子でクラニアちゃんが死に戻ってきたのを合図に、私を筆頭とした()()()()一人を袋叩きにすることを目的に訓練を経て編成された我ら聖女ちゃん親衛隊が誇る精鋭パーティ────聖盾エクソシスターズ*1の女子15名はフォルティアン西門前に布陣した。

 

 他の街とは違ってフォルティアンの住人達は()()の足手まといになる行動を熟知しており、巻き添えにならないよう遠巻きに……城壁の上に設けられた特別観覧席で、今か今かとあの虎マスクの到来を待ち望んでいる。

 音楽ヒットチャートの常連で人気バーチャルライバーな紫電ライガちゃんは、雷牙ちゃんとしてシャンフロでも商売上手であるらしい。

 

(身内に謀られて売り物にされるなんて、まったくイイ気味ね)

 

 兎にも角にも、この街の周辺に限っては観衆としてNPCを戦闘領域に巻き込んで大規模スペルの使用を牽制することは出来ないため、フィフティシアで行われたのと同様の包囲はおよそ確実に無駄に終わる。

 

 状況が許せばユニーク産の最上級魔法(CT24h以上のスペル)複数種を矢継ぎ早に連発してくるアレははっきり言ってプレイヤーの形をしたユニークモンスターだ。

 

 アレの相手をするというのはドラゴン討伐に近い。ドラゴン系モンスターは『敵対者がより大規模な集団になるほど空を飛ぶ頻度が増え、手出しができなくなる上に一方的にブレスを吐かれ壊滅させられる』という設定があり、また実際の戦闘における行動パターン(AI)もパーティメンバーが増えるほど危険行動の頻度が増すため、個々の戦力と連携が十分であるのなら挑戦人数は最大の15人よりも10人以下に絞るのがベターとされている。

 

 ゲーム的には王国正規軍の行軍に先んじた斥候に開拓者が同行するといった筋書きで多様な討伐クエストが不定期に発注されるのだけど、そのタイミングを聖女ちゃんが『どうか人々の心を安んじてください』と教えてくれるため割の良い資金源となっていた。

 

 ……つまりアレはそういう存在だ。自分が不利で苦境に立たされ、そして追い詰められるほどに()()()手段を執るようになる。最低でも希少(レア)種ドラゴン、暴かれていない隠し球への警戒も含めると対ジークヴルム(最強種)想定の動きを取れるパーティで挑むのが良いだろう。

 

 攻略掲示板の議論では、観客という邪魔な存在に囲まれたコロシアムでの一対一(タイマン)が最も生温いとされている。……けどそれで無敗を誇っているというオチで〆られるのがすっかりお約束(テンプレ)となっているのだが。

 

 阿修羅会の辻斬り(きょうごく)ちゃんが正面切った結果が未知の魔法(てふだ)一つと右腕、クラニアちゃんが閉所で大人数をけしかけて隠し球二つと武器・ユニーク魔法一つずつで終わった以上は、せめて連携の質を最大限高められる人数とメンバーで臨むのが現実的というのが私の出した結論だった。

 

 ……ところでアレがクラニアちゃん相手に使い捨てた武器って、聖女ちゃんから直々に付与された特殊聖属性──祝福派生*2のメイスを鍛えたものじゃなかったっけ? 

 

 半年くらい前に私がいくら札束を積んでも手放さず、せめて要らなくなったら流して欲しいと再三言い含めておいた*3代物をよくも……もう、殺すしかなくなったわ。

 

(他に言われてるのは『せめて身内を抱き込む』と『そもそも土俵に上げんなバカタレ』……だったかしら。引いて見ると”廃人狩り(ジャイアントキリング)”ちゃんは良くやってると言って良いわね)

 

 それはそうと、アレのゲーム内における人気は認めざるを得ない。

 

 今回も特別観覧席には普段なかなかお目にかかれない各街の重役のご令嬢であったり、王妃クラスのレアで造形に制作チームのこだわりが伺える女性NPC達までわざわざ観戦に来ている。半分は雷牙ちゃんのマーケティング能力によるものだろうけど、もう半分はアレのNPC人気の高さの賜物だった。

 

 ……それにしても第一王女まで来ているのは流石に度肝を抜かれた。スクショではない実際の姿を見るのは初めてだったが、深い青の瞳に泣き黒子(ボクロ)……そしていかにも非力な姫君で御座いますな庇護欲を掻き立てられるタヌキ顔は結構そそる。

 

(……あら?)

 

 ふと、彼女は優雅な所作と共に真後ろへと振り向いた。誰かがあそこへ────

 

 

 

「────ッッッッッッッ!?!?!? マ゜ッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 聖女ちゃん! 聖女ちゃん! 聖女ちゃん!! 聖女ちゃんんんんんんんんんん!!!! 

 

 眩しいっ眩しすぎて目が灼けるぅぅぅぅぅぅううううあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ”!!!!!! 

 

 あぁああああ……あっあっー! あぁああああああ!! 聖女ちゃんんんんんわぁああああ!!! 

 

 ぐあああああああああああ!!!! ゲームなんて現実じゃない!!!! いや現実なんてゲームじゃない???? 

 

 にゃあああああああ?! うにゃあああああああああ!! はぁあああああああああああああああ!!! 

 

 この! ちきしょお! やめてやる現実なんてやめてやる!!! 聖女ちゃんが見てな……見、見て、る? 聖女ちゃんが! 聖女ちゃんがみてる!!!!!! 

 

 

聖女ちゃんが私に笑顔で手を振ってる〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!! 

 

 

 うおおおおおおおおおおおおお!!!! 世の中まだまだ捨てたもんじゃないぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!! イェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!! 

 

 

「ッッッ〜〜〜〜……ふぅ。…………イリステラ様、貴女に勝利を」

 

 …………私に代わり聖女ちゃんの護衛として帯同するクラニアちゃんが『()()以上は実際ヤバいですぞ!!!!』と口パクで警告しているのに気付き、すんでのところで内なる私をさらけ出さずに済んだ。

 

 嘆かわしい、いや本当に嘆かわしいことに聖女ちゃんは”あの男”とコロシアムの大ファンである。

 

 雷牙ちゃんから特別に手配された城門の真上に位置する、現実(リアル)における競馬場の有料個室のような……見晴らしがよく快適な最上級観覧室の窓際にゴキゲンな様子で立っているその御姿を、私達は騎士としてそして親衛隊としての体面を崩さぬよう細心の注意を払いつつ撮影(スクショ)する。

 

 事前にこうなると把握はしていたものの、聖女ちゃんと第一王女が並ぶというレアを超えたレアシチュエーションなど今後二度と実現するかわかったものではない。

 

(……実際のところ、親衛隊としても個人としてもアレには感謝すべきなのでしょうけど)

 

 そもそもの話、本来なら聖女ちゃんは今のようにおいそれと出歩ける気安い存在では断じてない。立場も当然あるがそれ以上に三神教という組織の”聖女”への扱いから彼女……あるいは彼女にまつわる何かは相当以上の厄ネタであることが推測できた。

 

 もしかしたら七つの最強種じみて世界を滅ぼし得る存在なのかもしれないが……それが聖女ちゃんの喜びなら世界は光栄に思うべきだし、世界が聖女ちゃんを容れることが出来ず彼女を悲しませた結果として滅びるなら潔く滅びるべきだとも思う。

 

 だが聖女ちゃんはプレイヤーもNPCも世界の一切合切を愛し慈しむ”慈愛の聖女”という肩書きを体現するサイコーを超えたサイコーの存在なのだ。()()()フォルティアンまで出歩きに来るような真似は誰かに勧められても固辞してきた、そんな彼女だから世界をあまねく照らすことが出来るのだと私達は確信している。

 

 システムだとかの現実的都合(ロマンがない話)では無いと仮定して、なにか取り返しがつかなくなることを恐れて()()と言っていい。

 

(『聖女ちゃん昏倒騒動』……あの後から聖女ちゃんは変わった。よく出歩くようになったし、ちょっとしたワガママも言う……等身大の女の子に近くなった)

 

 脳裏をよぎる聖女ちゃんとの甘い日々の思い出に心拍数が急上昇し、VRデバイスシステムがアラートを発したため根性で精神を落ち着かせる。すっかり慣れたものだった。

 

 アレが男臭くてムサい悪趣味なレスラー体型のゴリマッチョアバターに付けられた刻傷について相談しに来た際、あらゆる呪いを解くことが出来る聖女ちゃんがそれに触れる直前におぞましい”ナニか”によって拒絶され意識を喪失した。

 

 当然私達は総力を上げてヤツを血祭りに上げようとしたが力及ばず、それでもメンバーの誰一人として挫けることはなく征伐を繰り返し、その規模が拡大し当時の黒狼をも巻き込みいよいよ第四次征伐という所まで来た段階で……グフ…………聖女ちゃんの『めっ!』が出たことから和解と相成ったのだった。

 

「団長、クチ」

「忠誠心が漏れてるよ」

「あら、失礼」

 

 と、第二・第三隊長をそれぞれ担当する二人から指摘され身だしなみを整える。

 

 栗毛の三つ編みが目を惹く第二隊長”ウパシチリ”ちゃん、黒髪ミドルに純白の肌がよく映える第三隊長の”もよち”ちゃん……実力もさることながら見た目も声も優れている。

 

 この場の15人パーティは正確には5人の小隊を3つ集めたもので、総指揮と第一隊長を兼任する私以外の指揮者がこの2人だ。

 

「それはそうと見えたよ、ほら」

「右手、欠損。左手、詫び杖」

 

 手渡された『望遠鏡(上級品)』を覗くと、配信担当と思しき男性PC2人を伴ったあの男が確認できた。部位欠損を回復する手段が無いわけでもないでしょうに……いいや、そもそもアレは

 

「……もしかしてアタイら、舐められてる?」

「でしょうね」

「心外、激おこ」

 

 観客へ向けた乞うご期待(アピール)だろう、それが最もしっくりくる。過去三回にわたって集団として敗れている親衛隊(われわれ)なぞ、恐るるに足りぬと示しているのだ。

 

 両隣の二人はその傲慢な様に憤りを顕にしているが、私は少し異なる。

 

 アレの存在が聖女ちゃんの心を自由にしている事実により、嫉妬と感謝が同居している。……それだけならまだ許せ……はしないけど、だけど少しはマシに思えただろう。

 

(しかし、アレは……!)

 

 ……私は個人として、アレを容認出来ない。その全てを否定しなければならない。

 

「うん? ねぇジョゼットさん、彼この距離でもう何か詠唱を始めてるよ」

「……まだ1km以上あるでしょ?」

 

 戦闘準備にしてもまだ遠い、遠距離攻撃の射程に到達する頃には大概の強化(バフ)は効果を終えているだろう。走れるなら話が変わってくるが、アレのSTM(スタミナ)でそれは有り得ない。

 

 アレの構成は回避やダッシュの連続や重量武器の取り扱いといったスタミナ消費の大きい行動を前提としておらず、必要以上には動()ない。……既知の情報通りであれば、と但し書きが付くが。

 

 又聞きにはなるもののアレのSTMステータスはレベル99で神秘(アルカナム)を手にするまでは現在の倍以上の数値であったらしい。

 

 アレが手にしたアルカナム”戦車(チャリオット)”は『AGI(敏捷)STR(筋力)が2倍になり、スタミナ消費量とスタミナが尽きた際のペナルティが倍増する』というピーキーな性能で、大抵のプレイヤーはそれをサブジョブに用いる場合は何らかのスタミナ消費軽減手段を用意する、あるいはSTMステータスに大きくポイントを振り分けるなどの工夫や対策に苦心することになる。

 

 ……なのだが、アレは『スタミナを浪費しない』というシンプルな机上論を見出し、戦闘における行動(アクション)の無駄を徹底して洗い出し削減する方針で舵を切ったらしい。

 

 その話がどこまで事実なのかは知らないが、STMが低いこと、そして戦闘に際してスタミナ管理を誤ることが無いという2点は紛れもない事実だった。……非戦闘時には時々スタミナ切れを起こし地形や物理エンジンによって自死することがあるようだが、戦闘中に隙を突かれたという話はおろか噂すら聞いたことが無い。

 

「詠唱、長い。最上位スペル、魔導書なし」

「……あの頭が良いとは思えない男が()()で詠唱を? だとしてもこんなに離れていたら────」

 

 ふと、私の脳裏に浮かんだのは『サードレマ22人殺し』の顛末だった。

 阿修羅会メンバーおよそ60人がただ一人を包囲したものの、サードレマ東におびただしい数の隕石が降り注ぎ有象無象の大半が四分五裂で逃げ去ったという。

 

 シャンフロ史上初めて観測されたその流星群の正体は、詳細は明かされていないもののアレのユニーク魔法(スペル)であるとライブラリが非公式wikiに記載していた。

 そしてその項目の余談に記載された『既知のあらゆる魔法と比較して効力が及ぶ距離と規模が桁外れであり、マナというリソースだけで成立させているとは考えにくい。追加の情報があれば考察クラン:ライブラリまで何とぞ』というキョージュさんのコメント。

 

 ……そこまで思い出した段階で私は空を見上げ、認識を改める。

 

 アレはプレイヤーの形をした厄災の類であると。

 

「────聖盾エクソシスターズ、総員抜剣!」

「……っ!! もしかしなくとも()()って攻撃!? 冗談キツいよ……!」

不実在(ありえな)い……チート……!」

 

 太陽を頂く青と白の空の一部に、藍で深く染めた絹を貼り付けたように不自然な青黒い星空が浮かんでいる。

 

 そこから零れ落ちた小石のようなものを視認できたのは注意深さ故ではなく、それが徐々に赤を纏い、空の薄雲を引き裂きながら大きくなっているからだった。

 

「各隊密集し対空防御用意!! 威力をジークヴルムのブレス相当と仮定……!!」

「散開じゃないの!? いやっ、というか退避しようよ!! あんなものをバカ正直に受け止める意味無いよね!?」

「……! 不可っ、配信領域……!」

「そう! 『戦闘領域は挑戦者が指定してよい。ただし指定領域外へ故意に逃れたプレイヤーは失格とする』というのが雷牙ちゃんとの取り決めなの!」

「よーいドンした後の取り決めなんかお構い無しの奇襲(アンブッシュ)してきたのは向こうじゃない! ……いやわかるけど! 私達が退避した隙を彼が見逃さないなんて、少し考えればわかるけど!!」

「そんなことより……何、より、もッ!! ────すぐそこで今この瞬間もイリステラ様がご覧になっていることを忘れないで!!」

 

 私達を囲むよう三方に配置された配信カメラ担当者らが『ボクらも漏れなく巻き込まれそうなのは倫理(ルール)で禁止スよね?』とばかりに戦慄している様子からアレ独自の判断であることが察することが出来た。

 

 ()()()()()()()

 

 その冒涜的質量に立ち向かわなければならない。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

ハン・ギョジン:ヴォエッ! 

 

スラッシュハーケン:ヴォエッ! 

 

PayaGal_Ch:ヴォエッ! 

 

猿セン聖:フェアクソ経験者たちに哀しい過去……

 

怒首領蜂:ガルもよー見とる

 

レモン・ラッシュ:俺が当事者ならションベンで股を濡らすね

 

対抗棒:カエル顔のお姫様的NPCが写りこんだだけでリスナーの何人かがコメントしなくなったんだよね、怖くない? 

 

ちゃむらい:おそらくアナフィラキシー・ショックだと考えられる

 

( ˙灬˙ ) :どうしてコメントが減ったのか教えてくれよ

 

PayaGal_Ch:知らない方がいい事もある、忌憚のない意見ってやつっス

 

ファーガソン:その話はやめろーっ

 

( ˙灬˙ ) :また情報の抱え込み……やっぱクソっスね、MMOは

 

ムチムチの木:あの……メテオガッツリ落ちたんスけど……いいんスかこのコメ欄? 

 

ハン・ギョジン:はーっ! フェアカスよ! 死ねっ

 

剛力羅:いや、それ(NPCキル)はダメだろ

 

 

(フェアクソってそんなにやべぇのか、ビッグウェーブを見過ごしていたとは一生の不覚だぜ……)

 

 明らかに戦況とは無関係な理由で配信コメントの流れが目で追える程度に緩やかになり、名前だけは聞いたことがあるクソゲーのタイトルを検索し……止めた。ネタバレニンにはクソゲニウムの働きを抑える解熱鎮痛作用があるからな。

 

『へー、シャンフロってこんな人類滅亡しそうな攻撃手段あるんだ。ちょっと食わず嫌いしてたかなぁ』

「『地球に直径400kmの隕石が』とか、そんなの近接じゃどうしようもねぇだろ」

『爆発オチなんてサイテーだよね』

『「お前が言うな」』

 

 直径50メートルはありそうな巨大隕石が着弾した後の配信映像を眺めつつ、鉛筆の話をきいてやる。

 

 というかあの野郎とんでもねぇな……こうしてやりたい放題な所を見た上で考えると、過去再三俺を誘って来た背景も目に浮かぶようだ。

 

 どうせ遊び相手が足りなくて退屈してるんだろ。

 

『……まあそんなことより一応言っとくケド、()()()()は例外中の例外だから。シャンフロにはユニークシナリオっていう……超がつくほどレアなクエストがあってね? 一つ持ってるだけでダサい代名詞(あだな)にされることもあるくらい強力な激レア武器とか魔法が報酬で貰えたりするの。……で、他と明確な差がつく要素を仲良しこよしでシェア出来るほど世界は平和じゃないわけで』

『あー……VRMMO(この手のゲーム)で情報の抱え込みなんて珍しくもないけど、それにつけてもシャンフロは酷いって聞くね』

『それで彼ね、そんな奥の手(とっておき)すぎて抱え落ちすることの方が多い壊れ性能の魔法を連発したり、挙句の果てに牽制で使い捨てたりするんだよね……ひどくない?』

『ウム……クソゲーなのん』

「オラ、ワクワクしてきたぞ」

 

 立ち込める砂煙のせいで詳しい状況は分からないが、少なくとも今の今まで女性アバター統一パーティを周りから写していた中継担当のプレイヤー達は一人残らず地面のシミになったらしい。元々4カメあった中継の内、タイガーマスクお付きのプレイヤー視点だけが現在の配信画面に表示されており……もしかしたら跡形も残ってないかもな。

 

『彼がシャンフロで最強だとかもてはやされてるのは結果を残してきたからって言うのがメインではあるけど、最も多くのユニークをクリアしてきた個人だからという側面もあるの』

『ふーん……ところで一つ確認なんだけどさ、シャンフロの魔法職って前衛よりずっと強かったりするの?』

「あー、言われてみればあの素手喧嘩(ステゴロ)バカが魔法選んでる理由聞いてなかったわ。その辺どうなんだ?」

 

 俺の知る限りで虎斗は盾を持てば盾で殴り、弓を持てば矢で斬りかかり、傘を持てば牙突ゼロスタイルな石器時代(おせおせ)メンタルであり、そもそも味方を肉壁(たて)にする後衛職をやっている姿が性格的にまるでピンと来ない。

 

 格ゲーでも射撃キャラを使い込むことが無い筋金入りの格闘主義者が、わざわざ魔法を選ぶほどの理由があるのか。

 

『魔法優遇とかは全然そんなことないね。短期決戦ならいい火力出すけどトータルで見れば近接のがDPS高いよねって感じ。そもそもシャンフロはスキルゲー呼ばわりされるくらいにはスキルの方が何かと潰しが効くしね……当の本人は例外だけど』

「ならジョブがスタイルに合ってるだけって感じか」

『んー……タイガーのことだから大した理由はなくて「たまには1キャラ目から魔法やってみるかー」くらいのノリで初めたのがハマっただけだったりして』

『あ、カッツォくん正解』

『……は?』

『うん、モモちゃ……彼と共通の友達に聞いたマジ話。さらに言うと「MPが切れるまで魔法を撃って、切れたら前に出て殴る」なんてスタイルを開始当初から今まで貫いてるっぽい』

『魔法職が前出るなよっ、あー!』

「スぺクリ*4未プレイか? 魔法は物理だぞ」

『タイガー丸め込んでプレイさせたってやつだろそれ』

『……あ、思い出した。「まともなゲームで魔法やってみたかった」とか言ってたっけ…………だとすると、彼がこのゲームで暴れてる遠因キミじゃんサンラクくん!?』

「あのゲームの相方の名前はトラロックなんで……シャンフロの虎人くんと私めとは関係ございません」

 

 反乱軍の”聖祈魔TWO(セイキマトゥー)”としてブイブイ言わせていた時期もあったが、質の悪い大魔神(アンチ)に粘着された末に萎え(キショ)落ちして他ゲーに流れたんだよなーアイツ。元々民度がクソすぎるのが合わなくてモチベいまいちだったらしいし、見切りつけた時も驚きとか無かったけどな。

 

 わめき始めた鉛筆の個別音量を下げ、部屋のドアに耳を押し当てて外の気配を確認する。……この家のどこかに上がりこんでいるであろう邪教徒(いもうと)に感づかれ──もとい、耳づかれていないかと気が気でなかった。

 

『……私達がどんだけ頭を抱えたか分かる? こっちは優勝系ジョブ取るのに構成(ビルド)対策(メタ)と日夜頭を悩ませ……その上で談合(きょうりょく)闇討(そうだん)とあらゆる手を尽くした上でなお……! あんな雑頭の気まぐれ一つに何度台無しにされたことか……ッ!!』

「いや知らんが……怒らないでくださいね? 脳筋一人に集合知で敵わないとかバカみたいじゃないですか」

『というかシャンフロプレイヤー達のPS(プレイヤースキル)に懐疑的なのが俺なんだよね……ゲーム自体はじめてな初心者ゲーマーが多いのは喜ばしいけど、それを加味してもレベル低くない? PvPの動画なんかもタイガーの身内が投稿してるやつ以外はちょっと見ただけで底が知れるし』

『くくく、ひどい言われようだね……キミたちは未プレイだから好き放題言えるけど、梁山泊が薩摩とかスパルタ並の狂人集団(イカレ・クラン)なだけで普通は————待って、画面見て』

「あ?」

 

 言われるがまま視点を配信画面へと移すと、視界が晴れつつあるすり鉢状の大穴に近づいて下を覗き込もうとする右腕を欠いた巨漢の背が映っており、その視線の先にはかすかに影があり

 

 

 直後、巻きあがるような炎の奔流が画面を覆いつくした。 

 

 

(……いや、流れじゃねぇ)

 

 不相応な形容だった。

 それは避ける隙間の無い押し寄せる壁のようであり、一部分を切り取ることも能わない果てまで続く”景色”に近い。

 

 直前で鉛筆がその名を口にしたからかは知らないが、壁の向こう側で大円盾(ラウンドシールド)持ちの戦士達(スパルタン)を象った陽炎が溶けていくように見えた。

 

『カウンター、かな?』

「……おい、ほうけてないで解説しろ既プレイ」

『それが出来るならそもそもキミたちを呼んでないんだよなぁ……』

 

 コメント欄が『なにっ』で埋め尽くされているあたり、鉛筆がものを知らないだけというわけでは無いらしい。

 

 だが……紅蓮の暴威に晒されてなお、映像は途切れていない。

 

 

『なんで……なんでどっちも生きてんの!?』

 

 

 形勢今だ崩れず。

 

 15対1の第3試合は、クレーターを駆け下りる覇者(チャンピオン)の歓喜に満ちた高笑いを合図に開始された。

 

*1
草野球かな? 

*2
オリジナル設定。アンデッド系モンスターが整列して道を開けるレベルのチョー強いエンチャント、もちろんメチャクチャ希少。

*3
レア過ぎて手放すつもりは無かった虎はもちろん忘れているぞ! 

*4
スペル・クリエイション・オンラインの略。下ネタ大魔神を始めとしたクソみたいなプレイヤーらによってシステムを悪用され滅びた哀しい過去を持つクソゲー





各種アルカナムの凝ったフレーバーテキストについて、原作キャラ達の大まかな行動理念を示すベースとしてタマネギ先生設定してるのではないかと解釈しています。
実際はどうか分かりませんが、弊作ではそのようなものとして扱っていきますのでどうぞよ。

”戦車”:汝、あらゆる苦難を踏み越える者。
万象の苦難を踏み越える車輪、走り続ける意思がその身をより高みへと鍛え上げる。戦車の神秘は汝を突き進む猛者たらんと背を押す。しかして汝、己が身をも顧みぬ疾走は己が身を削り、その果てに全てが尽き止まる。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

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