シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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忍殺重点な。


13 前哨戦第二幕 VS約100人の厄介オタクども 『~メナス・オブ・レディ~』

「ヤツはブザマな敗北を喫することになる、なぜなら我々が殺すからですぞ」

「時が来た、ただそれだけよ」

(……こーわ。二人とも目がイッてる……瞳孔が左右非対称に開いてるじゃん)

 

 ゲーム上のアバターとは言え、平和な現代のリアル女性がしてはならない殺意に充ち満ちた貌だった。

 

 過日のこと。”親衛隊”と”ファンクラブ”のリーダーに雷牙ちゃんから橋渡ししてもらい協力を打診したところ、その翌日に快諾された。

 

 三月末の覇者闘技(チャンピオンズ・バトル)における虎人くん攻略にあたって、私は真っ先にその2クランを味方に引き込んだ。戦力において阿修羅会の有象無象どもと比べるのもおこがましい質の高さを誇っている上に、崇拝対象(推しNPC)と仲良しな彼に対して強い反感を抱いているという非常に都合が良い集団だからだね。

 

 慈愛の聖女イリステラと、王認勇士アルブレヒト……現状報告されているNPCの中でツートップの人気2キャラと、1プレイヤーである虎人くんが早期に深い友好関係を築いていたのは有名な話だ。真偽の程はさておき、先述した2クランが結成されるきっかけとなる情報をプレイヤー達にもたらしたのも彼だと言う。

 

 虎人くんはMMOゲームにおいてありがちな情報の抱え込み等を基本的にしないどころか『こんなクエストがあったんだよね、すごくない?』『すごいマブいNPCが駐屯しているっ』『あの、このジョブの条件キツイんスけど……良いんスか、これ』などと、一部を除いたヤバめの情報でも周りに止められなければ軽率に広めるタチだ。

 

 初期はそれを良かれと実行していた節があったけど、都度プレイヤー達が大挙し混乱を招いている事実を遅れて知ったという経緯があり、現在は多少落ち着いている。

 責任でも感じたのかは知らないけどまず考えてから……考えてないかもしれないけど、とりあえず一拍置くようにはなったのだ。

 

 そうするようになった時期は記憶が正しければ黒狼に人が集まりだした頃だったはずで、おそらくモモちゃんに『どうしよう?』と確認してたんだろうね。……だが当時の頭脳(ブレーン)が私か雷牙ちゃんであったなら、その2キャラの情報の扱いは慎重に慎重を重ねていたはずだ。

 

 モモちゃんってば頭は良いんだけど如何せん興味のないことや無関心な分野をおざなりにしがちなんだよね。リュカオーンとそれにかかわる事柄……主にクランの戦力増強に繋がる情報の扱いは厳重だけど、それ以外の例えばNPCの好感度に関する情報については穴の空いたザルみたいにガバガバだった。

 

 ……さて、小難しいことを考えたがらない脳筋が、効かないブレーキに『好きにしろ』とでも言われた結果どうなったのか。

 

「許せなかった……聖女ちゃン"ン”ッ! ……イリステラ様があんなゴリマッチョレスラーのファンになったなんて……!」

「奴を殺しますぞ! あの虎をキンタロ・スライスめいて! アルブレヒト様の友人枠があんな半裸オメーンの変態であるなど……!」

 

 タイガー・フィルターを通した情報の拡散は、この二人をはじめとした数多の狂信者(ファン)を歓喜させたものの……鯖缶に含まれる水銀かなにかのように微小ながら、嫉妬という重毒を蓄積させていった。

 つまる所この二人は虎人くんがもたらした恩恵に最もあやかったが為に、その毒に心も身体も蝕まれ哀しき化け物(モンスター)に成り果てたわけだね。

 

 ついでに彼は結構な写真(スクショ)魔だから、何も考えずに撮影しては投稿しそして自慢してそこから燃えることがある。着せ替え隊や動物園など好意的な集団がある一方で、彼女らのように怨嗟の炎を巻き上げるアンチも出来上がって当然だよ。

 身から出た錆と言えば、彼も大概だよね。

 

「アレに勝てば、せ、聖女ちゃんがな、なんで、なんでも…………んほおおおおおおおおッッッ!!!!」

「ジュルリ……デュフフ……アルブレヒト様から直々にご褒美を頂けますぞ……! アタシいま体温何度あるのかなーッ!?」

 

 ……このゴキ百合と限界夢女、昨日話を持ち帰った後に何があったの? いや大体想像はつくけど、この二人の心中を理解したくない……今回の人選に関しては、機会があったら流石に謝ろうかな……。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 アイサツを交わしてから僅か0コンマ3秒、戦闘態勢に入る事すら許さぬカラテ突進で虎人のボックス・カラテ*1パンチがクラニアに迫る。

 

「「アバーッ!」」

「覚悟決まりすぎやろ……」

 

 最短最速で現場指揮官たる彼女──ジッサイ短躯でバストが豊満な王家騎士ビルドのクラニアの無力化を狙った初手は、聖騎士装備と王家騎士装備のプレイヤー二人に阻まれた。

 それぞれ3発と4発のカラテによりアバターが爆発四散するも、その集団における最も重要度が高い存在を守りおおせた。センキンに値するボディガードであった。

 

 さて、シャングリラ・フロンティアというゲームを深く知る聡明な読書諸兄はいくつかの疑問を抱いたことだろう。

 

『街中でプレイヤーをキルした場合、賞金狩人が現れるのではないか』

『虎人はプレイヤーをキルした場合、インベントリ内のアイテムを全て獲得出来るのか』

『ユニークアイテム”殺人許可証(マーダーライセンス)”を持つプレイヤーが、実際に他のプレイヤーをキルした場合はどうなるのかと』

 

 1ヶ月前に阿修羅回のメンバーを、直前に京極というレッドネームの面々をキルした際はインベントリ内のアイテムとマーニに加えてある()()()がついてきた。

 また街中でPKをしても、街の近場で22人もの大量PKをしても賞金狩人は姿を見せなかった。

 

 では、レッドネーム以外をキルした場合はどうなる? 

 

 わざわざ検証する気が起きなかった虎人本人を含め誰も知りえなかった情報が、今まさに明らかにされる! 

 

(……システムがぜぇぇんぶ(ちゃ)うわ)

 

 通常PK(プレイヤーキル)をした際の挙動は相手の装備品を含むインベントリのアイテムやマーニの占有権を獲得し、状況や相手のカルマ値に応じて自身のカルマ値が変動するのだがそうはならなかった。

 

 京極をキルした際には無かった現象として、虎人の目にはキルした二人のプレイヤーのインベントリが開示されると共に『任意のアイテム』・『マーニ』・『レベル』の選択肢から好きなだけ選び相手のカルマ値に応じた量を()()する、あるいは『なにもしない』という選択肢が表示されていた。その他にアイテムドロップやカルマ値の変化はない。

 

(レッドネームを殺った時には通常PKした場合のドロップに加えてレベルドレイン、レッドネーム以外の場合は選んで没収……賞金狩人(モドキ)に与えられた、罰の裁量って感じ?)

 

 虎人自身のレベルが最大であるため意味はなかったが、京極をキルした際は3レベル分の経験値を奪った表示がされていた。

 

(……シンプルいらーん)

 

 後腐れがあると面倒だと考えた虎人はなにもしないことを選ぼうと────した寸前に考え直し、ファンクラブ所属で熱心な虎人アンチとして記憶していた女性プレイヤーからレベルを没収する。

 

「ワッザ!?」

「れ、レベルロスト!?」

「ちゃんと見えとるようやな、手間が省けるわ」

「アイエエ……」

 

 レベルが1消失したその表記は、この場の全てのプレイヤーに見えていた。

 

 このゲームにおいてレベルダウンとレベルロストは別物である。前者はレベルという数値だけが下がり割り振ったステータスポイント等が据え置かれるため『レベルダウンビルド』等に利用され、その一方で後者は下がったレベル分だけ割り振り済みの各種ポイントも低下するという明確な喪失(ロスト)である。

 

 高レベルのプレイヤーから見たそれはサブ武器をロストするのに準ずる……具体的には1週間分の経験値マラソンを要する時間的損失となる。*2

 

 ……普段から隣人に(シャンフロ内比で)心優しい虎人だったが、敵味方から欺かれた挙句に推定100人の多勢の相手を強いられているというブッダも怒る現況から多少の見せしめが必要だという状況判断だった。敵対者から見ればスゴイコワイ案件である。

 

 ……尋常であるならば。

 

「虎野郎死すべし、慈悲は無い!」

「「「ガンバルゾー! アルブレヒト様バンザーイ!!」」」

「皆様方のレベルを推しに捧げるのですぞ!」

「「「ヨロコンデー! 聖女ちゃんサイコー!!」」」

(こいつら変な脳内麻薬(クスリ)でもやっているのか!?)

 

 コワイ! その場にいるプレイヤーの誰もが億することなく、その豊満なバストに対しロリータめいた体躯のグラマー騎士が飛ばす激に応じて士気を高めたではないか! 

 

 推しのためならあらゆる全てを捧げることをいとわない彼らは、レベルロストごときで気後れするような生ぬるい集団(クラン)ではない。心胆を寒からしめる狙いだった虎人であったが、むしろ急性HRS(ヘンタイリアリティショック)を発症し精神的ショックを受けることとなった。

 

(……ジョゼットはおらんな。不幸中の幸いやね)

 

 しかし虎人もまた歴戦の勇士であると同時に一端の変態(オトコ)である。直ちにメンタルを立て直すと共にこの場に最もいて欲しくない二人のうちの一人が居ないことを確認した。

 

(コロシアムで聖女ちゃんの警護をしとるか、あるいはどこかで待ち伏せか……アレは聖女ちゃんから離れることはしないやろし、せいぜいフォルティアン周辺か?)

 

 聖女イリステラは虎人のファンであると同時にコロシアムの常連である。定期的にジョゼットを帯同しサツバツとしたトーナメントの観戦に来ては、貴賓席から来場者に笑顔を振りまくことは広く知られていた。

 彼女が本拠地を離れる場合、ジョゼットも近くで侍っている……これは虎人の希望的観測ではなく()()である。

 

 なんにせよ、今この場に居ないことは彼にとって棚からボタモチであった。当然アンブッシュの可能性をニューロンから排除することはしない。

 

 虎人の実力は一対一のイクサであればジョゼットを相手に90パーセント以上の確率で勝利することが出来る。

 ……しかし恥も外聞も無しに囲んで棒で叩こうとしてくる集団の中に彼女が居る場合はそうもいかない。

 

 ジョゼットのタンク職としてのワザマエがあれば、虎人のヘイトを誘導し作った隙を物量で押しつぶすことが出来ただろう。さしもの覇者であっても集団を相手に片手でベイビーサブミッションできるほど彼女は弱くない上に、パーティ単位でダメージを肩代わりするスキルを持っている彼女を相手にするのは骨折って儲けわずかである。

 

「イヤーッ!」

「しゃあっ」

 

 それぞれのクランが特有のチャントを叫び終えたタイミングで、クラニアが軽大剣(レディソード)で斬りかかる! 

 大剣カテゴリーでありながらも軽く細長いそれは、低筋力(STR)でも片手剣のように扱うことができる。

 

 彼女のメインジョブである王認騎士の性能は、率直にかのアルブレヒトの専用ジョブたる王認勇士の劣化版である。攻撃性能と防御性能の両面に大きく補正がかかるため、構成(ビルド)次第ではあるが特化アタッカー並の火力で準タンク並の耐久を備えることや、特化タンク並の耐久でありながら一定の火力を出すことが可能であった。

 

 そして【最大火力】である彼女の構成はまちろん火力特化

 

(ジョゼットよかマシとは言え硬い……!)

 

 ……ではない。

 

 虎人はクラニアの大上段からの斬撃を剣の横を左手の甲で叩くように難なく逸らし、右の前蹴りを叩き込んだが手応えが薄い。

 

 彼女は防御性能に特化させた構成(ビルド)で、直接耐久関連に関連する体力(HP)耐久力(VIT)、そして幸運(LUK)に多くのステータスポイントを割り振っている。

 

 であれば何故、彼女は【最大火力】の称号を冠することが出来ているのか? 

 

「イヤーッ!」

 

 クラニアの軽大剣による切り上げを虎人は事も無げにいなしつつカウンターの回し蹴りをクリーンヒットさせる。先程の前蹴りと合わせて大抵のプレイヤーならデスあるいは瀕死のダメージであるのだが、クラニアが後退する様子はなかった。

 ならばと流れのまま追撃しようとした……が、虎人は視界にポップアップした警告メッセージを見て距離を取った。

 

(うせやろ!? 耐久がゴッソリ持ってかれた……!)

 

 今しがたのニ撃を虎人はまともに受けておらず、HPも一切削れていない。しかし、そのニ撃うち後者が()()()()()クリティカル判定が認められた。

 

 クラニアは特化タンクであると同時に、クリティカルアタッカーである。

 

 クリティカル判定時以外の火力減・消費スタミナ増加・武器耐久値減少量増加などの各種特大デメリットと引き換えに、クリティカル判定時に特大の補正がかかる特殊効果を各種装備で重ねがけし……さらに物理攻撃の参照ステータスを耐久力(VIT)に変更するパッシブスキルも加えることで彼女が崇拝するアルブレヒトに準ずる程度の超火力超耐久を実現しているのだ。

 

 開拓者(プレイヤー)の中には名実共にアルブレヒトの下位互換と評価される性能の彼女を嘲笑う者もいるが、それらはジッサイ理解の足りないサンシタである。ヤバイ級のプレイヤーであるほど、()()アルブレヒトを比較対象に立てられる性能とそれに見合う本人のプレイスキルを侮ることをしないのである。

 

「……大した火力やの、流石は【最大火力】や」

「実際私としては狙って取った訳ではないのでそのうち塗り替えられるでしょう、参考記録と言うやつですぞ。奥ゆかしさ重点な」

「言うて三ヶ月目やろ今……!」

 

 かく言う虎人もシャンフロサービス開始2ヶ月目……まだ刻傷がなく装備を万全に整えられていた頃に【最大火力】保持者であった時期が数日だけあった。黎明期の当時でさえ記録更新には準備が必要な程度に競争率が高く、サービス開始からもうすぐ一年経とうとしている現在では軽い気持ちの挑戦では及びにつくことさえ出来ないのだ。

 

 そんな中でクラニアはクリティカル威力が上がるバフを重ねがけした上で、タメが必要な一撃特化の大剣スキルを用いたことで【最大火力】の称号を得るに至ったのだという。しかもそれは称号狙いのものではなく自身の性能確認中に、数字が上振れた際のついでの産物であると言う。

 また真偽不確かな噂ではあるが、彼女はそれでオーバードレスゴーレムのギミックを無視し両断せしめたとも言われていた。ゴウランガ! 

 

 余談だが従来の記録を二回り以上塗り替えた彼女に触発された黒狼の貴婦人は現在、【最大火力】獲得のため準備期間を設けている。

 

 さて、現【最大火力】の面目躍如とばかりの火力に虎人は堪らず左手の『最後の竜狩りの篭手』を解除し、最悪ロストしても問題ない型落ちの棍棒兼魔法触媒『リリカルマジカル☆デストロイメイス』を装備した。武器耐久値の6割強を一撃で削られていたためランクの高い武器の選択を断念した。特にメイン武器である左手用の『最期の竜狩りの篭手』は、一ヶ月前に一つロストしたことにより換えは一つしか無く選択肢から最初に除外された。

 

(残機*3の次は装備ね、ほんにコスいわあの女…………というか目の前のコイツといい、ワイちゃんの周りの女ってば狂人(イカレ)ばかりでは? 

 )

 京極によって食いしばりを使わされ、二時間のクールタイムが表示されているユニークアクセサリー『無縁仏の祝福』を適当なものに付け替えつつ、ペンシルゴンの目論見通りに事が運んでいることに虎人は若干の苛立ちを感じていた。

 しかしチャドーの呼吸めいて一瞬でメンタルリセットした虎人は、冷静にこの戦況をどうするかを考えていた。

 

 クラニアのビルドには二つの明確な欠点があり、一つは機動力が低いこと、そしてもう一つがアタッカーとして万全に動けるのは各種強化(バス)スキルや魔法の効果時間中のみであることだ。虎人から見ればアルブレヒト()()()でしかない彼女は一対一ならその二点を突くことで危なげなく勝利することが出来る。

 

「第二陣、前進ですぞー!」

「「「ヨロコンデー!」」」

 

 ただ一人で”第一陣”たるクラニアの指揮に従い、十五人のファンクラブ・親衛隊混成メンバーが隊列を組んで前に出た。

 

 例外はあれイクサの基本は数である。

 

 ファンクラブのリーダーにして王国第三騎士団の長でもあるクラニアは指揮能力もヤバイ級である。同じく指揮能力に長けたサイガー100と比較して個人の能力は甲乙つけ難いが……指揮下にあるメンバーの質あるいは一体感ゆえか、より強固な集団として虎人の目に映っていた。

 

()()だった頃の黒狼よりええやん」

「お褒め頂き恐縮ですぞ……突撃!」

 

 大盾と槍を構えた15×2の小隊(パーティ)が虎人の前後を挟んで互いに足並みを揃え、乱戦に持ち込まれないよう隙間を作らずデス・ウォールめいて押し寄せてくるではないか! 

 

 さらにそれら後ろには前衛が1、後衛火力部隊が1、その他支援部隊が控えている……! 

 

 ニンジャであっても冷や汗をかかずには居られないであろうこの状況を、さて……虎人はどう対処するのか? 

 

 聡明な読者の皆様は既にお分かりだろうが、この場における虎人の最善手は移動能力を活かして逃げ出すことである。

 

 平安時代の哲学者にして剣豪のミヤモト・マサシは、『逃げるは実際役に立つ』という言葉を残した。

 虎人にとっての勝利とは、あくまでもフォルティアンのコロシアムに到達しアーサー・ペンシルゴンとの対決をつつがなく行うことにある。目の前の集団とはそもそも戦う必要性すらないのだ。

 

 であれば、高くそびえる壁のごとく統率の取れた部隊を避けることは当然であろう。

 

 ────尋常であるならば! 

 

 

観客(ギャラリー)の前でそんなヘボい真似せんわ……!)

 

 

 虎人は今ここで、推定100人の精鋭部隊を無慈悲に殺戮(スレイ)し尽くす事を、刃向かってくる者共全てにおぞましい罰を与える事を決定していた。

 最終的に逃げるという選択を取るにしても、先んじて覇者(チャンピオン)として勝利した印象を強く残す必要があった。

 

 この後彼がとる行動を配信等で見届ける視聴者(リスナー)らはそれを愚行と評することだろう。

 

 だがしかし、虎人は己が聡明であるとは思っておらずそうあろうともしない。

 たとえどんなに愚かでも、最後まで己を押し通す意地こそが強さだと信じている。

 

 その意地の名は”ショーマンシップ”

 

 過程はどうあれこの場に立ち会ったファンの為の戦いをすることは大前提なのだ。

 

 シャンフロをプレイヤーと世界に息づく人々(NPC)は知るだろう、人の心を魅了する(ハナ)とは愚かさという泥の上に咲くものなのだと。

 

「【極小詠唱(ミニマム・スペル)】……【神々の滝(ゴーザフォス)】」

 

 大規模魔法の威力を下げ取り回しを良くすることを目的とした簡易化魔法を唱え、本来なら大瀑布を召喚しエリアの一角を押し流す特大規模の激流を生じるユニークスペルを発動した。

 

 通常使用した場合はバフ無しでも自滅を免れない規模の水魔法は、巨大なバケツを空からひっくり返した程度にまで縮小化されて辺りを水浸しにする。

 

 それは足首より少し上の高さまでの増水を一時的にもたらし、戦闘能力を持たないNPCが堪える事でギリギリ立っていられる程度の……対プレイヤーの領域において見せたことがない手段である。

 

「アイエッ!? スゴイスイトン・ジツ……!? 姑息な足止めをッ」

「慌てんなや、これだけで終わらせんわ……【フロストステージ】!」

「ワッザ!? えっ……ホントのホントになんなのですかなそのスペル!?」

 

 魔法において火と風属性をメインウェポンとする虎人が水のユニークスペルを用いたことにクラニアは一瞬困惑するも、辺りを水浸しにしただけで被害が出ていなかった……が、続いて虎人が用いたのは辺りの地面を急冷却し霜を降ろし凍らせる魔法だった。

 直接的なダメージは無く農業分野で畑を一時的に凍らせることに用いられる非戦闘魔法であるため、その場にいる生産職未経験のプレイヤー達が知らないのは無理からぬことであった。

 

 それらの掛け合わせにより、辺りの地面には厚い氷が貼られた。

 

 虎人がこの場において最も懸念しているのはNPCキルによるペナルティである。

 仮に目の前の人数があと十数人……トータルで8パーティ程度の人数が居たのなら、多少の損害はやむを得ない圧倒的劣勢とシステムに判断されるため大規模火力により蹂躙出来たのだが、そこはPK等のペナルティを熟知するペンシルゴンのワザマエマネジメントだった。

 

 故に虎人は隠し球の一つを()()()()ことを理解しつつ、凍った地面から足を引き抜きゆっくりと前進する。

 

「スケートリンクを作っただけでなんだと言うのですかな!? 皆様方っ! 怯まずぜんしアバーッ!?」

「クラニア=サン!? オダイジ──グワーッ!?」

 

 意気を高らかに一歩前に踏み込んだクラニアだったが、お手本のように氷に足を滑らせ転倒し自傷ダメージを負う。さらに彼女の身を案じた周囲のプレイヤーもまた後を追うように倒れ、産まれたてのバンビのごとく立ち上がれなくなったではないか! 

 

 さらに続々と、周りの誰もがただその場に立つことすら出来ずに|フェイク・ダルマめいて動けなくなる。悠然と歩を進める虎人に対し、彼以外の何人も身動きを取れなくなる……ナムアミダブツ! 一体何が起こったのか!? 

 

「シャンフロって昼間の気温はたしか春くらいで固定されとるよな、常識的に考えてそんな気温で屋外アイススケート場なんて維持できるわけないわな? そんでもって氷の上で滑るのは氷そのものやなくて溶けた水で滑るわけで……つまり今の氷のコンディションは最もツルッツルな状態にあるんや」

「で、ではなぜ虎人=サンは立てて居るのです!?」

「あー? 練習したからに決まっとるやろ! 氷のエリアとかなウオッ……無くて、雪すら滅多に降らワワッ……降らんこのゲーム内でただ一人! このワイちゃんだけがこの状況にィィィィ!? …………て、適応出来とるわけや」

「足元プルップル……! こちらが恥ずかしいゆえ体裁は保って貰えませぬかな!?」

 

 自然と物理法則は万人に対し平等であり、術者本人だけ影響を受けないなどという好都合はありえないのであった。

 

 だがしかし度重なる訓練と気合と根性によって最低限の行動が出来るようになった虎人に対し、ゲーム内において初体験の環境に地面を這うか転倒を恐れ動けなくなったオタッシャ重点なその他全員とでは言うまでもなくアドバンテージは天と地ほどの差がある。

 

「とうっ!」

 

 タイガーマスク・レスラーが足元を確かめつつ巨体に見合わぬ身軽さで跳躍する! 

 

 スキル”軽気功”によりアバターの重量を軽減させて飛び上がり、後方支援部隊の内の一人を足蹴に着地する。

 

「唐突やけど、自分ら弾幕STG(シューティング)は好き? ワイちゃんは大好きでな、初見クリアチャレンジとかするくらいや」

「いきなり何を……?」

()()()()()って意味や!!」

「「「アババーッ!?」」」

 

 与ダメージのアベレージがスゴイオオキイ魔修羅の前では後衛職の耐久力など、カラテ・マスターの前のオセンベ以下でしかない。足場にした一人と近場の二人は、せめてもの抵抗と腕の力だけ武器を振るうもしめしやかに粒子となった。

 

 弾幕STG……弾幕系シューティングとは敵弾が非常に多いシューティングゲームを指し、VR全盛の現代においてはマニア向けのジャンルと評価されている。

 世にリリースされているVRゲームの大半はFPS(一人称視点)の3Dゲームが主であるため、俯瞰視点の2Dが主であった前時代と比べてシューティングゲームというジャンル自体の難易度が数段階上がっている。それもそのはずで、視界の外からも容赦なく襲ってくる敵弾に対処すると言うのは多少プレイした程度で容易く行えることではないからだ。

 それゆえ、中でも弾幕系作品は難易度次第では『人間卒業試験』と揶揄されるほどだ。調整が不十分なタイトルも多く、実際クソゲーと評されるものも多数である。

 

 虎人が最も好きなゲームジャンルは格闘ゲームであるがその次に弾幕STGを好んでおり、触れてきたタイトルの数で言えば後者の方が多く初見クリアを特技としている。

 彼の友人に音ゲーを無音(ミュート)でクリアするという奇行を似たように特技とする少年がおり虎人はそれを『シンプルキショい』と評しているが、対する返答は『お前が言うな』であった。

 

「しゃあっ」

「アバーッ!」

 

 一対一から一対多のメンタリティに切り替えた彼の目に、この場は初見の()()()()にしか写っていない。

 

「しゃあっ」

「アバーッ!」

「しゃあっ」

「アバーッ!」

「しゃあっ、オラ!」

「グワーッ! アバーッ!」

 

 他のプレイヤーを足場、あるいは滑り止めにし作業めいてカラテで殺していく。

 

「おのれっ……【レイザー・ロック】! 死ね! 虎人=サン! 死ね!」

「しゃあっ! 忍法・身代わり!」

「アババーッ!?」

「ウォーッ!? キタナイ!」

「肉盾なんてチャンピオンが取る手段としておかしいとは思いませんかあなた!?」

「雁首揃えて多勢に無勢だっして来た癖に何を抜かしとるんやっ、あー!?」

 

 かろうじて体勢を整えることに成功したプレイヤーの遠距離攻撃を、この場でただ一人奪うことを許された殺戮者はなんら支障なく防ぐ。

 自分たちの所業を棚に上げた罵声共々、足元に転がっている盾を繰り返し使い捨て対処しているではないか! ワザマエ! 

 

(やられてしまいましたぞ……乱戦に持ち込まれるどころか、まさかNPCへの被害ゼロで行動不能にまで……っ!)

 

 リアルで雪国住まいらしいプレイヤーの何人かがどうにか体勢を立て直しつつあったが、それを見逃してくれる相手ではなく続々とスレイされている光景を前にクラニアは歯噛みする。

 

 もちろんこの場に揃っているのは技量も覚悟も十分な精鋭達であり死なば諸共とばかりに最後の抵抗を試みるが、そのことごとくが実際無駄に終わっている。

 

「【加算詠唱(アッドスペル)】、【悪神の火】……ハーッ! クソ女ども! 死ねっ」

「アイエッ!?」

 

 クラニアはその()()()()ユニーク・ジツに大きく肩を震わせた。

 

 ユニーク魔法(スペル)【悪神の火】、それはユニークシナリオ『原初の火の探求』にて獲得できる報酬の一種である。それまでのプレイスタイルからクリア時の報酬(リワード)が分岐するクエストで、彼の場合は神代武器『マルミアドワーズ』と共に得た殺戮の力であった。

 ……なおその特大剣は装備要求ステータス自体は満たしていたものの片手ではシステム上装備出来ない重量であったため、当時のクランメンバーであった怪力自慢に泣く泣く譲渡したというのは別のエピソードとなる。備えよう。

 

 虎人の左手に装備されたメイスの先端から生じた終末世界の太陽がごとき赤黒い大火球は、一度日の出のようにゆっくりと浮かび上がってから……彼を包囲していたもう一つの集団の方へと向かっていく。

 

「アツイ! ジッサイアツイ!」

「太陽光めいた熱を感じる……コワイ!」

「しかしこれだけ熱いと氷も溶k」

 

 

ジュッ、と。

 

 

 それは確かに蒸発する音であった。

 ただし彼らの足元ではなく、彼ら自身から生じていた! 

 

「「アイエエエエエエ!?」」

 

 触れた端からアバターが気化すると言うアクマめいた光景をすぐ近くで見た者は続々と絶叫し後を追う。その場の誰も失禁していないのは単に未実装機能だからだ。

 

 ご愛読頂いている読者の皆様の中には、このスペルが第一話にて名前のみ出ていたことを覚えている方もいるだろう。改めてその性能を説明する。

 

 このスペルは任意操作あるいは指定した対象をゆっくりと追尾し一定時間後に小規模爆発を起こす大火球を召喚するもので、クールタイムが一時間(60min)であることからPvPにおいては1トーナメントあたり1〜2回しか使えないものの【追いすがる者たち】と並んで凶悪なまでの拘束力を有している。

 一般的な体型のアバターの早歩き程度の速度であるためプレイヤーが火球そのものに触れる状況はほとんどない。まともに動ければの話だが。

 

 ゆえに多くのプレイヤーがこのスペルを見て警戒するのは爆発による致命傷クラスのダメージで、直接触れた際のダメージを知る者は彼の身内にしかいない。使い手が一人であることもあり『たぶんヤバイ級のダメージ、実際死ぬのでは?』という憶測でしかないのだ。

 

 ……そして今、約60人のプレイヤーがいたはずの場所は、火球が爆発四散した後はマグマめいた地面だけという惨状に生まれ変わった。

『ミニマムサイズの太陽に触ったらそら()()()()よね』という事実が、この日の夜にライガーチャンネルで周知されることとなる。

 

「や……やってること完全にクソボスではございませぬかっ!?!? 動けない相手を確殺とかマッドディグでも一人だけですぞ……!?」

「しゃあからこれまで一度も使わなかったんだろうがよえーっ! こんなんタイマンでやったら観客が一瞬で冷めるわっ」

「オバケめ……」

 

 クラニアは彼のそんな言葉と態度に改めて戦慄を覚えた。

 覇者(チャンピオン)の称号を常に我がものとし、不敗神話が崩れぬまま殿堂入りという名の出禁を受け、BBSの最強プレイヤー議論スレと最強ビルド議論スレにおけるテンプレに『()()のことは考えてはいけない……いいね?』と注意書きされるまでに至った男。

 

 その彼は今こう言ったのだ……観客を楽しませるために手段を選りすぐり、独自レギュレーションで勝ち続けたのだと。

 

 地面の氷が溶けまともに立ち上がれるようになったところでクラニアは辺りを見回し、恐るべきことに残っている……否、()()()()のは自分だけであることを把握した。

 

 NPCが配置されたことによって魔法職としての本領を発揮できない上に片手を失っている相手に、平均85レベルの108人が一撃も有効打を当てられなかった。

 

(全員でなおキョーゴク=サン未満だと言われているようなものですな……)

 

 直近の『22人殺し』において逃げ出した30人強の阿修羅会メンバーは現在もなお他のプレイヤーによって散々に(ディス)られており、クラニアとしても『残念でもないし当然ですぞ』というスタンスでいた。

 しかし今この状況に至り初めて思い知った、彼らは賢明だったのだと。

 

「……ところで一応聞いてもよろしいですかな? なぜ私だけまだ生かしているので?」

「とーぜん今から殺すためや。無礼(なめ)た真似しくさった自分らの鼻っ柱バキバキにするためになぁ、邪魔な連中を片付けたあとで【最大火力】をタイマンでぶちのめす……そこまでやれば言い訳も立たんやろ?」

「アトモスフィアが凶悪すぎますぞぉ……というかこの会話ももしかして……?」

「おー、スキルのクールタイム待ちや。……分かっとるとは思うがそっちのな」

(傍から見たニンジャスレイヤーってこんな感じだったのでしょうな、『よくぞかわした、褒美に死にぞこなったことを後悔させてやろう』とか……サツバツ!)

 

 タイガーに睨まれたラットの心地であった。

 

 愛読書の忍殺(ニンジャスレイヤー)シリーズ本編主人公:フジキド・ケンジの名台詞を想起しつつ……この人がNPCから善玉(ヒーロー)扱いされているのは絶対におかしいとクラニアは思った。

 

「ところで前から質問したかったことがあるんやけど、ええかな? ダメならもう殺すけど」

「生殺与奪を握った上でのそれは尋問(インタビュー)と言うのですぞ……? なんですかな」

「いやな? 面と向かって聞くのもアレやけど……ぶっちゃけ自分、ワイちゃんのこと嫌いなんはどこまで本気(マジ)なんかなって。ジョゼットみたくガチもガチって感じでもないやん?」

「ジョゼット=サンは確かにガチですなぁ……それはそうとよくぞ聞いてくださいました。良い機会なので正直にお話しておくと、個人的には虎人=サンのそのレスラー体型と頭装備が解釈違いなだけで、それ以外は好ましいとさえ思っておりますぞ。むしろ声なんかアルブレヒト様と一緒に作業通話(サギョイプ)して欲しいくらい唆りまくりでしてな……!」

「かいしゃくちがい……? さぎょいぷ……?」

 

 耳慣れない言葉に今日一番の困惑を露わにした虎人に対し、クラニアは鼻息を荒くしつつ一枚の写真(スクショ)を提示した。

 

「あ? マスク無しのワイちゃんやんけ。……こんなんいつ撮影したん?」

「一か月前に幼女ちゃんと対戦した際に外していたではありませぬか、希少な素顔写真として結構出回っておりますぞ? こんなハイクオリティ・デザインのワイルド系イケメンをキャラクリしておいて隠すなんて勿体ない……非公式wikiに設定数値の掲載をしていないことも含め世界の損失ですぞッ!?」

(さっきからすごい早口やなぁ、リアルの顔ですなんて言えんし……え? 出回ってるってなに!? な、なんや……言葉はわかるのに、言ってる意味が、微妙にわからん……!)

 

 ふと虎人は目の前の人物の力説に対し脳がその働きを鈍らせ理解を拒むような感覚に既視感を覚えた。

 

 真っ先に彼の脳裏に浮かんだのは、最近動画配信サイトに飼い犬の動画を投稿したわずか十分後に二十行近い長文コメントを投稿していたAnimalia(アニマリア)……だが、違う。

 

 次に思い浮かんだのは幼女ちゃんことティーアスについていつも通り熱弁した上で、シャンフロサービス開始以前はヴィーナスファイトの銀髪無感動ロリこと”タナトス”に命を救われていた話を定期的にするサバイバアル……が、それも違う。

 

(…………あー、思い出した。中学ん時にラクとの話をアホみたく聞いてきた美術部の女子が、なんかこんな熱量(テンション)やったわ……)

「見てくだされ! この1ヶ月で描いたアル×虎イラストの中で個人的傑作ですぞ!!」

「こういうのってフツー本人には見せな────絵上手(うま)っ!? 透明感というか、なんというか……とにかく描き込みがエグいッ! アルブレヒトの髪とかめちゃくちゃサラサラしてそうだし、眼も宝石みたい! ……イラストの作業量とかよー知らんけど何日費やしたんこれ!? こわっ……!」

「ムフフフフ……照れますぞぉ」

 

 虎人はクラニアと親しいわけでは無いが、彼女がプロイラストレーターでありながらイラスト以外の各種創作活動でも自己表現をするレオナルド・ダ・ヴィンチめいた才能とバイタリティに満ちた存在であることは知っていた。

 

 ファンでもない彼がなぜそんなことを知っているのかというと、リョーザン・パークのリーダーである有名配信者の雷牙と、彼女がリアルで通っている大学のOGであるという新人アイドル・笹原エイトの二人から愚痴を吐かれたためだった。

 彼女ら二人の動画配信サイトにおけるチャンネル登録者数を合わせてもクラニアのそれを上回れないという内容を、偶然居合わせたばかりに興味がないにも関わらず印象に残るまで聞かされたのだ。

 

「……しゃあけど当たり前のようにワイちゃんが素顔で服も着とる上に身体が細いんだよね、酷くない? ほぼリアルん"ん"ッッ顔以外原型ないやん……少しは本人の趣味をリスペクトしてくれや」

「ご存知ないようですな? 解釈違いを起こした相手とはたとえ神や仏や公式であっても断固として戦うのが我々厄介オタクなのですぞ」

「シンプル迷惑……! …………んッ!? いや、そ、そんなしょーもない理由で今回殺しにかかってきた訳では無いですよね……?」

「────()()()()()()と申したか?」

「あ、うん、ごめんなさい。……それはそうと分かった、分かり合えんわ、もう殺すわ」

 

 ”リリカルマジカル☆デストロイメイス”を左手に持ち左半身の姿勢でステップを踏む虎人に対し、レディソード”大人女”の持ち手を右耳まで上げ左足を前に出す……サツマ・イアイド特有のドラゴンフライ・スタンスだ! 

 

「”デッドヒート・インファイト”」

「【オーバードーズ・ブレス】」

 

 至近攻撃バフを選択した虎人に対しクラニアは、効果時間終了後の絶大なデメリットと引き換えに幸運ステータス超絶強化・クリティカル威力倍化・クリティカル判定緩和という王家関連クエスト由来のユニーク・ジツを用いる。騎士とはとても思えない卑劣な人格で有名な元第三騎士団長を弾劾した際に国王から与えられたスクロールで習得したものだった。

 

 ビルドの性質に加えプレイヤースキルに差がありすぎることを理解している彼女がキンボシ・オオキイを掴むには短期決戦以外あり得ないため迷いはなかった。

 耐久力が水を含んだオブラート以下である虎人を相手にクリティカル威力を上げる意味は無いが、幸運ステータスを上げることで得られる利点は大きいもので4つあった。

 

 一つはクリティカル発生率の増加によりかすり傷であっても有効打に成りうること、もう一つが相手の『幸運食いしばり』発生確率が下がることである。幸運がより高いプレイヤーからより低いプレイヤーへ致死ダメージが発生する場合、その差が大きいほど極限で生き残れる可能性が低くなる……これはクラニアのように幸運ステータスに特化したプレイヤーでなければ肌で感じることがないものであった。

 

 そしてなにより重要なのが、()クリティカル確率が低くなることと、パリィ判定が厳しくなること。これにより一度か二度のミスで殺し切られることが無くなるのだ。

 

「イィィィィヤァァァァァァッッッ!!!!」

「シッ!」

 

 あたかも右手で石を投げるように大上段から放たれたクラニアの高速斬撃を、虎人はバタフライのごとくステップ回避しホーネストのごとく鋭くメイスの横薙ぎを叩きこむ! 

 

 大抵のプレイヤーであればそれだけでサンズリバーの列に並んでいたことだろう……しかし、クラニアは怯まない! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

「やられるまえにやるっちゅーことか……その前にワイがお前を殺してやるよっ」

 

 クラニアは退かない! 下がらない! 重戦車めいた耐久を前面に駆け引き無しに突き進むのみである! 故に迷わない! 

 

 対する虎人は避けて、打つ! 避けて、打つ! 十分なMPが残っていないために後退したところでダメージを出せない彼は粛々と繰り返している。

 敏捷に差がありすぎる以上クラニアはこのままではジリー・プアー……徐々に不利ではないか? 

 

(スタミナ)が切れてきましたな!? 死ね! 虎人=サン! 死ね!」

 

 否! このままでは先に限界を迎えるのは虎人の方である! 

 

 クラニアのスタミナは専業タンク級あるいはそれに準ずる高数値であるのに対し、虎人のスタミナはアタッカー基準でやや少ない数値となっている。全プレイヤー最高クラスの平均火力を誇るが故に、スタミナステータスにポイントを多く割り振ったところで無駄になるためだ。

 特にPvPにおいて彼のスタミナが減るということは対戦相手のHPがそれ以上に減ることを意味し、虎人が行動不能に陥るよりも先に相手がネギトロとなる。

 

 そしてそうはならないクラニアというアバターおよびプレイヤーは、現在の虎人にとっておよそ最悪の相手であった。

 

 次第に虎人の回避行動が、よりスタミナ消費が少ない裁きがメインとなり……そして、それこそがクラニアにとっての幸運であった。

 

 今の彼女の攻撃は、触れればそれだけでクリティカル判定となる。

 

「……ッ!?」

「むふふふ、幸運ビルドのプレイヤーは珍しいですからな? こうなるとは知らなかったでしょう……!」

 

 目を見開き無言のまま驚愕を露わにする虎人に対し、クラニアはおどけた調子で言った。

 

 虎人はクラニアの大上段からの斬撃に対し、打ち落としを選択した。

 完全に見切った攻撃でありプレイヤースキルも虎人から見て京極より下、そうするのは容易いことだった。隙を生じさせ、そこを突く算段でいた。

 

 結果、クラニアの武器より発生したクリティカル判定により虎人の武器が弾かれた。

 

 それは通常の物理法則ではないシステムによる作用であり、歴戦の虎人をして初見の現象であった。

 自身のビルドと関連するシステムを熟知しているクラニアはそれを狙ってさえいない、彼女からすれば()()のことであるから、一切余計な思考を挟まず『前に出て、斬る』ただそれだけを実行し続けたのだ。

 

 耐久力に加えて幸運のシステムを前提とした思考放棄のゴリ押し……虎人は彼女の行動を読んでいたが、意味を為さなかったのだ。

 

「サヨナラ虎人=サン! 光となれ!!」

 

 おお! 終わるのか! 覇者の不敗神話が、幸運の前に崩れるのか! 

 

 周囲の観客が、配信視聴者が! 誰もが”大人女”の刃がその身に届くのを、彼の敗北を覚悟した! 

 

 

「【封臓熔融(メルトダウン)】”瞬きの一閃(ブリンク)”」

 

 

 

 

 —————たった二人を除いて。

 

 

 

 

「—————は……? え……? ナンデ? カトン・ジツ、ナンデ……!?」

「いい演技やったろ?」

 

 クラニアは確かに虎人を出し抜いた。

 だが、それで打倒しうる程度の男に不敗神話は築けないのだ。

 

 彼は幾度となく欺かれてきた。

 それでもなお、上回り続けてきたからこそ”最強”の二文字が付いて来たのだ。

 

 ……そのスペルは一定値以上の全MPに加え自身のHP最大値の9割を消費する属性付与(エンチャント)魔法である。その効果は特殊属性である『熔融属性』を消費したMP量に比例した時間装備中の武器に付与し、効果終了時に対象の武器を喪失(ロスト)するというものだ。

 

 そして熔融属性の効果は熔解ダメージの追加に加え、防御・耐性等の()()()()である。

 

 仮に一線級の武器にそれを付与したとして、プレイヤーが相手であればいかなる状態でも……幸運に恵まれない限りは一撃で死に至る。

 

「……身体が真っ二つになってもまだ生きとるんか、やば」

 

 クラニアの身体はスキルの補正を受けた一閃により、さながら熱したナイフでバターを撫で斬ったように斜めに二等分されていた。剣や刀ならばともかく、とても金属製の棍棒によってそう為されたとは受け入れがたい状態である。

 

 一振りした直後に左手のメイスはデータの粒子となり完全に失われた。必要最小限のMPで発動したため、虎人にとって多少の思い出があるその武器はあまりにも儚く散ってしまった。ショッギョ・ムッジョ。

 

「な、ナンデ……? MPは無かったはずでは……? 残っていればスタミナの奪い合いに付き合う意味は無かったでしょう!?」

「おー、確かにMPは《ほぼ》空っぽやったし、ついでに言うとアイテムも配信コメント欄が荒れるから使(つこ)てないで? 理由が知りたかったら今夜、雷牙の姉さんの配信に来て高評価ボタンを押すことや」

「ア、ハイ。……ハイクを詠んでもよろしいですかな?」

「ドーゾ」

「アルブレヒト=サン バンザイ 虎人=サン マスクステテ クレメンス」

「いやどす」

 

 虎人は素手となった左手を振り上げ、クラニアの顔に叩き込んだ。私怨を込めて二発。

 ……さて、クラニアを含めたプレイヤー達への種明かしは後程行われることになるが、読者の皆様にはそうもいかないためご説明しよう。

 

 結論から言って、虎人は与えた物理ダメージに比例した分のMPを回復する効果のパッシブスキルを所有している。

『MPゲイン』という主にソロで活動する魔法職が序盤に習得する一般スキルであり、セカンディル以降の街で無制限に販売されている特に珍しくもないものだ。

 

 しかし物理ダメージを与えるということは近接攻撃をすることとほぼ同義であり、大抵の魔法職は近接攻撃で大したダメージを出せない上に耐久も低いためハイリスクローリターンな行動でしかなく高レベル帯になるほど採用されなくなっていく。

 

 虎人であれは確かに近接においても高DPSを誇るためシナジーがあるように思える……が、そもそも彼の場合は今回のような例外でもない限り一戦闘でMPが枯渇するより先に決着がつく。攻略においてもMPポーションを携帯しておくだけで事足りるため、習得しておけば役に立つが必要と言うほどではないのだ。

 

 にも関わらず彼がそのスキルをなおも手放していないのは、フレンドのサイガー100の存在故だった。彼女のビルドはMP消費が非常に激しいため、攻略等で考えなしにMPポーションを消費しているとマーニの浪費につながる。資金繰りにおいては存外馬鹿に出来ない、低レベルから高レベルまで共通の悩みの種であるのだ。

 

 聖職者系の基本魔法の一つに【(ほどこ)し】というものがあり、その効果は自身のMPを他者に分け与えるという非常に単純なものだ。こちらもより上位の魔法を習得するための下敷き以上の価値はないと広く評価されている。

 

 献身以上の価値はない。

 彼が闘争の頂点に立つ”覇者”であるからこそ、誰も思い至ることは無い。

 ……だからこそ、最後の瞬間に勝利を確信できたのは二人だけであった。

 

「楽しかったで。幸運ビルドおもろいわ」

 

 

 

開会まで、あと40分。

 

*1
ニンジャのボクシングにあたるカラテ流派

*2
徹夜騎士カリントウ基準

*3
『食いしばり』の残り回数を彼はそう表現している。




次回、みんな大好きジョゼット戦。備えよう。



ところでオリキャラであるクラニアちゃんの解像度を少しでも上げるために隠岐紅音ちゃんの夢小説を投稿したりもしてました。読んでも読まなくとも今後に一切関係ありませんので、もし興味があれば私の投稿小説一覧からみてあげてください。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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