シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
オリ設定、オリスキル、オリ魔法、オリ忍術、オリ野蛮人組織、オリ展開、オリ悲しい過去、上院議員、ニンジャにもご注意ください。
「随分なメンツが集まってるねぇ」
大規模な弱い者いじめを企むその
先日
「これだけのクランが合同で臨めばしらみつぶしでも拠点を特定できると考えられる」
「いやちょっと待てよ。あまり派手に探れば連中もヤサを移すだろ」
「阿修羅会メンバーを見かけた端から狩ればいい。忌憚のない意見ってやつっス」
「う────っ殺らせろ、アニキおかしくなりそうだ」
黒狼とin虎団を中心とした過激派から愛とか平和とは無縁な意見が多数を占め、多少の手間をかけてでも確実に壊滅させるべきとする午後十字軍を中心とした慎重派がどうにか抑える状態が続いている。
会議が大いに踊ったせいで進行にも支障をきたした始末で、基本的に喧嘩上等な梁山泊が「なんでもいいですよ」と中立派に立っているんだよね、すごくない? とはいえ阿修羅会を潰すことは既定路線だった。
後は梁山泊がどちら側につくかで決まるタイミングであり……それまで約十数分、天井裏で息を潜めていた。
……私が今こうしてこの場に潜入出来ているのは、参加者の内の一人から手引きがあったからだ。直近で梁山泊のリーダーであるライガちゃんから、この会議の日時等のメッセージがあった。
────もし首の皮を繋げられたなら、二人だけで話しをしましょう。
その時点での狙いは大雑把にしか分からなかった。
大方、阿修羅会を粛々と壊滅させるよりは見世物に仕立て上げたい、だけどこの連中を前に無理を通すほどの労力を割くほどでは無いから頑張れ、と言ったところだろう。
何が恐ろしいって、この会場の中心に座っていながら私との繋がりをおくびにも出してないんだよね。
……こんな腹芸ができる子の下に虎人くんが渡る未来が分かっていれば、かなり本気で黒狼から離脱しないように動いたんだけどなぁ。
◇ ◇ ◇
「
(マタタキアラタメ?)
印を結ぶだけで発動できる忍術を、あえて口にしていた。狙いはまだわからない。
間合いが開き仕切り直しとなったタイミングで、明後日の方向を向いている左手の小指・薬指を切り落とした。自傷ダメージは軽微だ。
ゲームだから見た目とダメージ量が一致しないんだよね。腕が無くなるような攻撃を受けても30とか40ダメージくらいなんてざらにあるし。
僕が邪魔な部位の切除した一方で、ヒロくんは忍術による
それこそ岩のような重さとなり移動もままならなくなるため各種スキルで行動を補うか、あるいは開き直って移動や回避行動を捨て固定砲台となる戦法において採用されている。
一定時間移動行動をしないことでHP
……しかし彼の見た目はなにも変わっておらず、散歩でもするような歩みからは重量が増しているようにも思えなかった。
「”シリアルキラー”、”エンチャント・ヴォーパル”」
「”デッドヒート・インファイト”」
互いにバフを二つ掛けた状態で、刀の間合いの3歩前まで距離を詰める。
右手を柄頭側に、小指と薬指を切除した三本指の左手を鍔下に、正眼に構える。……これで斬り結ぶのに支障はない。
2歩。左手を前に突き出した前刃の構えで、すり足に切り替えてきた。
1歩半。この距離で魔法だけというのはない、斬る方が、殴る方が速い。こちらも距離を詰める。
半歩。やはり
今
「シッ」
「【ファイア」
丹田へ向けた刺突を受けさせる。左の回し受けで刀の軌道がずらされる、逆らわない。
迫り来る右ストレートを、右足を大きく踏み込み深く屈んで躱す。ギリギリだと髪や装備を掴まれ、高い筋力に任せて大きく体勢を崩されることを忘れない。
踏み込みの勢いを殺さず、前に出ている左脚を狙い避けさせる。左半身を引かせた。
そして返す刃で右腕を斬りつけ——硬質な岩が削れる感触。
遅れてガッ、という音が耳に届いた。
剣速がトップスピードに乗る前に裸の右腕で迎撃された。
まあ、だろうと思ったよ……!
刀を《掴もう》とする右手から刀を引きつつ、こちらへ向けられつつある左手を見据える。
「ボール】」
「”マジックパリィ”!」
魔法触媒としての機能を有する左の
同時にバックステップし、刀の射程のギリギリまで離れる。単に回避だけで対応しなかったのは、この後を考えてのことだ。
魔法で後退を妨げつつ至近距離での戦闘に持ち込む魔法拳士の常套手段……その最高峰たる彼は火と風の掛け合わせを多用する。
魔法やスキルは組み合わせ次第で威力が増減する。
例えば火と水を掛け合わせれば打ち消し合い、火と風を掛け合わせれば当然にその威力と規模が高まる。
”ファイアボール”と”ウィンドカッター”。基本となるその二つの魔法が大半の魔法職プレイヤーにとって、属性魔法の最初の教材となる。威力が低い魔法どうしの掛け合わせであるあるため高レベル帯であれば通常『貰ってもいい』程度のけん制止まりであるが、彼を相手にする場合は話が変わる。
火力特化ビルドの魔修羅は自身がそうであるように敵対者に耐久を許さない。
間違えた方が死ぬ、事故れば死ぬ、事故らせて殺す。そういう闘いを強制するのだ。
「あらゆる衝撃に対して、一瞬で硬化する土竜鱗派生忍術っ! 便利なものだろうジャック!」
「誰だよジャックって」
「……」
おそらくはレトロゲームかレトロコミックのネタなのだろうがピンとこなかった。ネットミーム(?)が万人に通じると思うなよ。
……やや傷心した雰囲気のまま、左手で胴から右腕にかけてゆっくりなぞって部分的・瞬間的に岩のような鱗に変じる様を見せつけてくる。
聞いてもいない手の内をわざわざ明かすのは、
確かに剣士を相手にするならこの上なく便利な忍術だね……だからこそ引っかかる。
(そんな防御手段を、どうして
未修得だった可能性を除外し、使わなかった、あるいは使えなかった理由を考えようとし
「【セルフバーニング】! ”ゼロ・マックス”ッ!」
「チィ……!」
身体に赤炎を纏い、瞬間加速スキルも合わせ、両腕をクロスさせた構えで突撃してくる。
プロレスラーじみたアバターに似合ったダイナミックな
向こうの炎が僅かに腕を焦がしたがこちらもダメージは無い、だが深く踏み込まれたら危ういだろう。
「……なるほど、岩になった分はちゃんと重くなってるね?」
「しゃあからこんなことにも使えるんや……【ヘヴィロック】ッ!」
「いっ!?」
各種重装ビルドで採用されている、アバターの重量が重いほど威力と衝撃に補正がかかる魔法。岩を切り出したようなハンマーによる叩きつけで大きな衝撃波を伴うそれを、軽装ビルドの彼が撃つことを想定していなかったために一瞬面食らってしまう。
直撃すれば確実に死ぬと仮定し回避行動を取り、ダメージを軽微に抑える。……少し重くなったとは言え元が軽いためか、本職のそれより破壊の規模は小さかった。
だが向こうの……魔法の間合いになった。
「【追う者たち】」
MPに加えて『HP66以下』を発動条件とする呪術系ビルドの近接殺し、他ならぬ彼がトーナメントで悪名を成さしめた全ステータスデバフ効果を持つ魂魄の小群体が辺りに散らされる。……その直後に両手で印を、本職の忍者よりは数段もたついた速度で結んでいく。
「……【エンチャント・レプリープス】」
武器に魔法ダメージを付与し、辺りの魂魄を散らす手段とする。威力だけ見ればほんのおまけ程度にしかならないこの魔法は、対人を想定しない攻略においては『ないよりはマシ』でしかない……だがPvPのフィールドにおいては、これが無いと詰む相手や状況が結構ある。
そして今がその一つだ。
ポンポンッという気の抜ける音と共に、手のひらサイズの火の玉が無数に、時間差をつけて飛来してくる。忍術の印が成立したらしい。
【
斬る、斬る、斬る。
順番を間違えずに、牛歩ながら斬り進む。魔法でも拳でも無い、刀の間合いに持ち込みそれを維持しなければ勝ち目は無い。
「【古き竜狩りの落雷】」
専用の装備とアクセサリーを合わせて装備している際に使用可能な竜狩りシリーズ魔法。落下地点を指定し遅れて落雷を落とすそれは、対象地点へのマーキングという形で前兆が可視化されている。
前進を阻む位置にマーキング──三本指の右手で腰に刺さった鞘を抜き、上空に放り投げて地面に落ちるより先に雷へ当て、前へ。
「ほー、やるやん……!」
「”トライ・エッジ”……!」
いずれもセオリー通り、彼の魔法職としての技量は上の下程度である。……いいや、元々は魔法職の分野においても彼は最強とされていた時期があった。
強いが故に研究・対策・模倣された結果として上の下程度の評価に落ち着き……元々独自の組み立てだった魔法構成が環境を席巻し、いつしかセオリーの一つとなった。
非公式攻略wikiのビルド参考ページにも記載されている技術の原典。他でもないクラン:リョーザン・パークと、彼自身による功罪だった。
再び刀の間合い。
スキルによる補正を受けた上・中・下段への斬撃3連。
(さあどう出る!?)
上段への斬撃を左で受けられ、中段は同じく左でかち上げるようにさばかれる。
そして下段は
(……っ!?)
一瞬の内に体勢が崩れ次いで戸惑い、直後耳に届いた金属音から何をされたのか直感した。
剣道における打ち落とし技。
それは突き技や面技に対し斜め下方向に竹刀を叩き落とすことで隙を生じさせる、特に珍しくもない技だ。
腰より下を狙った横方向の斬撃に対し、左のローキックによる打ち落とし。およそ
現実ではもちろん、ゲーム上でも初めて体験する絶技の類だった。
「ッらぁ!」
「ぐっ……!」
打ち落としに用いた左足を軸にした右後ろ回し蹴り。
蹴りの方向へ前受け身をするように跳ぶが、攻撃モーションの方が速い。
身体の芯を捉えた蹴りと炎の延焼により、残りHPがレッドラインに達する……だが。
(
【土竜鱗、瞬改】によって瞬間的に硬化できる面積には限りがある、そして……!
「……【
フィールドに火が残留する制圧魔法。
普段なら接近してくるだろう間合いとタイミングで、むしろ接近させないように使用してきた。
そうだろう、普段と違ってそう出来ないから、左足が重く硬化しているから、だから魔法を選択する。
「硬化は任意で解除出来ない……!」
「君シャンフロ上手いねぇ……!」
その脆弱性を突かれることを恐れて、幼女ちゃんには使えなかったんだ。
ちょうど足元に転がっていた鞘を回収し、炎の壁を斬り払って前へ出る。
存外使い勝手は良くないらしい忍術……その活用方法が、再び示された。
(低い……!)
腰をかがめた低い構え。レスラーの基本姿勢だった。
非常にやりにくい。
通常なら突き出た上半身を斬り放題だが、肌を硬化する忍術によってむしろ腰から下が狙いにくく上半身で受けられやすい……剣客プレイヤーの悪夢の体現と言ってもいい、堅牢な構えと化している。
これならどうする? そう言外に問われていた。
……これを突破する方法はいくつかある。中でも僕が実行可能で最も確実で楽な方法は、打撃属性の武器に持ち変えることだ。
(ヒロくんは
それを僕は断じて実行しない。
他でもない僕自身の矜恃を曲げることになるからだ。
どんなに斬り難い相手でも刀一本で打倒する、それこそが
(僕と彼は、
知っているぞ、君は戦術において『暴かせる情報』を盛り込みつつ核心的な急所や狙いを控えておく。
相手が勝手に気を緩めた所を容赦なく潰すんだ。
「……らしくもなくごちゃごちゃ考えとるな? せやったらこうしよ。……次、真っ直ぐに突っ込んで自慢の剣を真っ向から打倒したる。魔法はナシや、組むなり殴るなりして殺す」
ブラフではない、決めに来る。下がりながら魔法を撃ち続ける方が遥かに安全に勝てるだろうに、あえてそんな
ギャラリーの前でショーマンシップに則った勝ち方を考える彼が、そのための布石を既に起き終えた証左だった。ペンシルゴンと梁山泊のお膳立てがなければより確実に
斬ることだけを考えろ……まだ何か、幼女ちゃんに使えなかった理由があるはずだ。
◇ ◇ ◇
「バカだろこいつ、今日び上院議員なんてマニア以外知るわけねぇに決まってるだろうが」
『バカだよ。メタルギアとか古のネットミームすぎて草超えて庭』
「ん〜? ネットミーム〜? カッツォくんその口ぶり……もしかして原作未履修でいらっしゃる?」
『あ? そりゃそうでしょ、著作権やらなんやらでアーカイブすらされてないんだから』
「えぇ!? プロゲーマーなのに未プレイ……! 俺は実機プレイ済ですけど?」
『…………は? ハァッ!? おまっ、まん、なんっ────タイガーだな!? え、実物持ってんのアイツ……!?』
「頭が高い、控えおろ三下インターネット・オタク」
『何がキミ達のツボにハマったのか知らないけど静かにしてもらえる?』
ライオットブラッドをチビチビ口にしながら試合の行く末を見守る。流石はシャンフロ、神ゲーと断言されるだけあって凡百のタイトルと比較して明らかにモーションの自由度が高いな。
スタミナに限りがあるからか現実よりも滅茶苦茶な動きはしないものの、的確にメタスキルと置き型スペルを押し付ける虎人。
一方の京ティメットも、追い込まれてはいるがなかなかどうして馬鹿にできない。
「読み感と当て感が良いな京ティメ。行動の引き算が上手い感じだ」
『シャンフロのセオリーはほとんど知らないけど、その辺しっかり抑えてる感じの手堅い動きだね。格ゲーとかやってたりするのかな』
『剣に関するゲームは結構やってるみたいだよ。というかそれ以外は全然な剣術バカ気質だね』
「幕末やってたりする?」
『『それはない』』
言ってみただけだよ、俺の目から見てもこの京ティメットは明らかに幕末未経験だ。幕末特有の
吉田松陰の言葉の一つに「諸君、狂いたまえ」というものがある。
幕末のゲーム性がそれを意識して製作されたとは全く思わないが、非公式攻略Wikiのトップページにはこの言葉がデカデカと記載されている。
なんでかって? 尋常な精神のままではマッポーな幕末ワールドを生き抜けないからだろう。
京ティメ個人のことはろくに知らないが、こうして実戦を見る限り虎人を相手取るには
『君たちってさ、このバーニングメタル・タイガーの格ゲー友達なんだよね。……参考までに聞きたいんだけど、彼がアホほど強い理由とか、そういうのなんか無いわけ?
「え、言った方がいいか……? 流石に心が痛むなぁ……」
『あー……確かに。鉛筆じゃどう足掻いても真似出来ないからね……』
『……とりあえず聞かせてもらおうか』
「しかたねぇな、せーので言うぞカッツォ」
『OK、せーの』
あまりにも残酷な事実を突きつけることになるが、本人が希望するのであれば仕方がない。
「優しいヤツだから」『共感性が高いから』
『キミ達が私のことをどう思っているのかよぉく分かったよ、表に出ろ』
「ボクたち平和主義なのでお断りします」
『暴力は良くないよ、人として』
闘いの強さとは関係しなさそうな、むしろ足枷となりうる要素に思えるが実際はそうなっていない。
アイツは目の前の人がされて嫌がること、逆にされて喜ぶことを瞬時に察する能力がある。行く先ざきで勝手に警戒される悲しい過去の経験から培われた涙ぐましいそれは普段は人徳でしかないが、ひとたび戦闘状態に入ると殺る気スイッチ的なものがONになるのか戦闘技術としておぞましく転用される。
少し話は変わるが、虎人の幕末におけるプレイスキルはランカークラスと比較すると一回り下にあたる。理由は単純にプレイ時間に差がありすぎるためシステムアシストの挙動に関し理解度で劣るためだ。
……にも関わらず『レイドボス』を相手に
それは一重にアイツが
相手の嫌がる行動を決して見逃さず、狙いを全て受けきる。
対戦相手の心理を掌握して戦闘を組み立て、その上で適切なタイミングで適切な技を使う外見に似合わぬ理詰め型の極地。
俺の見立てではプロゲーマー・魚臣慧の上位互換だな。……カッツォのやつはどう考えてるか知らないが。
他者への慈しみを保ったまま無慈悲に殺しを実行する自己矛盾を成立させている様はすごい数の狂人がフィールドを練り歩いている幕末においても「素で人として狂っている」「狂人を超えた狂人」「お前変な薬とかやってないのか……」と畏れられ『狂骨』の二つ名が付けられている。
なお本人はその二つ名を大いに嫌がっており、面と向かって呼んだ相手は一割増しの殺意と怒りバフを乗せて天誅される(2敗)
別に甘いやつでは無いってのが肝なんだろうな、怒る時は普通に怒るし。あと煽りは精神への
『優しさを用いて人を傷つける哀しきモンスターなんだよね、怖くない?』
「人の心が無い鉛筆と、人の心を殺しに特化させた虎人……どっちが幸せなんだろうな」
『安い喧嘩だね、大人買いしてあげるよ』
◇ ◇ ◇
数か所斬りつけてそれ以上硬化出来なくなった箇所を斬る、これがわかりやすく提示された攻略方法だ。
だがこれを実行すれば、きっと裏を
彼は真っ向から受けた上で返すというプロレス趣味故か完封勝利よりも一先一退の攻防を好み、相手の狙いを読み切ったうえでそれに乗り実力を押し通して勝利を掴むことを至上としている面がある。
一期一会の立ち合いの中で可能な限り相手を知ろうとするんだ。たとえどんなに格上が相手であっても全てを受けきるし、逆に自分よりも遥かに格下を相手にしたとしても全力以上を出させる。
勝利こそすべてな勝負の領域において、ただ勝つだけでは足りないとするエゴイズム。およそ何よりも傲慢な姿勢だ。そしてそれを押し通しながら勝ち続けている事実こそが何よりも恐ろしく……そして嬉しい。
(僕が斬るんだ。ペンシルゴンなんかよりも先に)
そんなスタイルだからなのか、彼は対戦相手の
現実の剣道においても彼との手合わせはその数を重ねる内に気分が高揚し、世界を認識する各種感覚が研ぎ澄まされていく。……するとどうだ、自分の内にあるはずの未知の領域に手が届いてしまうんだ。
何らかのハイ状態に至っているのだろう、脳の血管全てが大きく開くあの感覚は……まるで死の淵の砂に生きたまま触れるような甘美だ。
それを知るのは僕に限らないため、
それでいて門下生としては不良寄りだ。
武器としては繊細である刀による戦闘の最高効率を追求する龍宮院流を学んでその技術を身につけておきながら、それとはまるで異なる
(だから、斬る)
お爺様は『儂のようにはなるな』と言い残したが、その真意は今も分からない。
それからヒロくんに関しても
それは何となく分かる。放っておくと彼はきっとお爺様と同じになる……いつか
独りぼっちにしないためにも、僕は強くなければいけない。
だけど、ああ……君を斬りたい衝動は、お爺様の遺志だけじゃない。
(斬る)
他ならぬ僕自身の意思でもある。
君を斬ればきっと僕は剣士としての壁を一つ越えられる、龍の背に登ることが出来る。
「ぶん殴るッ!!」
来た。
結局、突破の算段は付かなかった。
だが、だからこそ開き直れた。
彼が言う通り、らしくなかった。
「──斬るぞ!」
左脇構え、左足を引いて身体を左斜めに構える。
刀を左脇に持って切っ先を下げることで攻撃姿勢と刀身を隠し、間合いを測らせにくくする。防御寄りの、剣道の試合では滅多に使われない構えだ。
剣道ではなく剣
「……!」
低く構えドスドスと近づく巨体の軸が、唐突に進行方向へ大きく倒れた。
転倒では無い。地面からの反発を流しながら歩を重ねる滑らかな急加速により、十歩の間合いが一息で一歩になった。
縮地法。シャンフロ内の”縮地”スキルとは異なる、古流剣術あるいは古武術の接近技法だ。
まだ遠い、死の到達を待ち構える。
必要なのは斬ること。最小の動作を以って竹刀を最短で撃つ剣道の動作ではない。
刹那を極限まで刻む。斬ることが出来るその瞬間まで、限りなく零に近づける。
「────チェァッ!」
今の今まで決定的にズレていた何かが、カチリと音を立てハマった感覚があった。
腹の内からの裂帛が自分自身の耳に届いた時点で、零の瞬間が来ていたことを悟った。
一閃は既に放たれているが、岩の感触も、ましてや肉と骨の感触も手に返って来ない。
「────ッ!?」
斬った。
ヌッ、と。
スプーンでプリンをすくうような感触があった。
硬化が間に合わなかった訳では無い、刀をガードし硬化した右腕を斬った。そしてそれは想定外の結果だったのだろう、驚愕で目を見開いている。
ただ斬ることを思い具現化した横一閃、かつてなく美しい太刀筋だった。
「ここからもっと面白くなるのに……」
だが彼はより体勢を低くし、斬られている最中の右腕で刀を上に逸らして被害を右腕だけに留めたのだ。
後はガラ空きになった僕の胴体に左のボディブローが突き刺さり、幸運食いしばりで残ったHPも炎の延焼によって削られて、自らに訪れた確変状態をそれ以上活かせずに呆気なく
「ちくしょォォォォ……ッ!」
敗北者の呻き声を聞く者はいない。
前腕部の中ほどから先を喪った右腕を挙げ勝利を宣言するその背中を、アバターが消えるその瞬間まで睨み続けた。
◇ ◇ ◇
斬られた右腕を、むしろ誇るように掲げて喝采を浴びる。
これが出来る強者と闘い、そして勝利した事実を見せつける。
(しゃあけど……どうやった?)
ワイちゃんは【土竜鱗、瞬改】に関して事前に検証を重ねその仕様を把握し、クランメンバーとの組手を複数回経てから実戦投入した。付け焼き刃は信用しない、新しい技は身につくまでひたすら繰り返し試行する。
それはスキルや魔法の熟練度とは別問題の流儀であり、同時に対戦相手と観客に対する最低限の礼儀であると考えている。チャンピオンが自分の戦法に振り回されて負けるなど、あらゆる関係者への愚弄に等しい。
それこそラクのようなテンションファイターの真似はよほど追い込まれない限りはしないだろう。それは本来するべきではない曲芸に過ぎないのだから。
「……」
斬られた右腕をジッと見る。
なぜ斬られたのか不思議でならない。
【土竜鱗、瞬改】の脆弱性は京極にあえて見せた二点の他にもう一つある。それは一定以上の速度の攻撃に対しては硬化が間に合わないことだ。これによりティーアスちゃんやルティアさんクラスを相手にする際は使えない。
試合開始前の挑発で京極に先手取らせたのは演出がメインだったが、それとは別に攻撃の推定最高速度を測る狙いで実行した。
そうして京極のステータスでは覇者スキルのようなイカれ倍率のバフがかかるか、スキルによって速度補正された攻撃以外は問題なく受けられる程度であると判断しそれは正しかった。
(物の”目”とか”隙間”を切る、的なやつ?)
鹿や猪の解体を手伝った経験から分からないでもないが、これがそうだとは断定出来なかった。ジークヴルムの爪に準ずる硬度を肉切り包丁で斬り落とせるものか、と。
しかし速度ではなく達人の技術と勘によって斬られたとすれば納得出来ないこともない。きっと、龍宮院のジーサマなら同じことが出来るから。
「敵わんなぁ……」
対象がただの岩ならワンチャン真似出来るかもしれないが、『竜という生物』の『岩のような鱗に覆われた体組織』という、ただ硬いだけでなく剛性を併せ持つ物質を斬るとなると勝手が違いすぎてとても再現出来そうにない。
剣においては初めて出会ったあの日から変わらず、今なお彼女の背を追う立場にあることを改めて思い知らされた。
(決めたわ。メインイベントがこれより盛り上がらんかったら、阿修羅会の息の根止めたろ)
……と、周囲のギャラリーの歓声に応えていてスッカリ見落としていたが、足元に転がっていた京極の遺品をインベントリに収めた。
中でも目を引くのは先程の戦闘で使われていたメイン武器だ。ロストしたら向こう1ヶ月はへこみそうな額のマーニと素材が費やされていると思われる一線級の品だが、どうせ
下手に失くすと逆恨みでリア凸されかねないし、適当なタイミングで早めに返してあげよう。……でも一回くらい使ってみたいなぁ。
「さぁて時間も押しとることやし、ちゃっちゃか行こか。次はどいつが相手なん? サバちゃんか、それともヤシロちゃん?」
一番手が元阿修羅会の辻斬り女だった以上、元阿修羅会メンバーそろい踏みという可能性もあるだろう。せっかくいい気分なんだ、盛大にやろう。
「違うよぉ。次は徒歩でフォルティアンの会場に向かってもらうだけだよぉ」
「あ? 肩透かしヤバ……」
「……ライガちゃんのメッセージをそのまま伝えるね? 『そう言うと思いまして、楽しいイベントをもちろんご用意してあります!』」
「えぇ〜? なんなんかなぁ〜?」
企画配信特有のご褒美コーナーかな? ワイちゃん他人の金でご馳走食べられる感じのやつがいい。
はやくはやくと続きを促し……絶句した。
そしてもし、フォルティアンに到達出来なかった場合…………この状況を差配したであろう約二名を、恥も外聞も立場も捨ててリスキルしてやることを固く決意した。
「つ、続いては……『二大虎人アンチクラン総勢100人大集合! フォルティアン到達を阻止しろ! タイガー・ラッシュだ!!』です!?」
「えっ、ひゃ……ひゃく…………ごめん、何人って?」
今の今までどこに潜んでいたのやら。
ワイちゃんの存在そのものが気に食わないというアンチが多数在籍する変態クランの面々が、ゾロゾロと姿を現し剣呑な雰囲気にとは裏腹に秩序を以て整列していく。
一つはクラン:聖女ちゃん親衛隊、言わずと知れた聖女ちゃんことイリステラにたかるウジムシ共。……クランリーダーであるジョゼットの姿が見えないのは不幸中の幸いだった。
そしてもう一つは女性プレイヤーが大半を占めるクラン:
そして何より頭を抱えたくなるような不幸を超えた不幸……その愛とか平和とは無縁な顔をした連中の先頭に立っているのが、有名なプレイヤーだった。
「ドーモ、虎人=サン。クラニアです。私は貴様とマネモブの存在を許さん」
「ど、ドーモ、クラニア=サン……虎人です」
アルブレヒト創作界隈において他の追随を許さぬ支持を得ている女性プロイラストレーター、兼夢系小説作家、兼オリジナルテーマソング作詞作曲歌唱者、兼
ついでに現在の【
お前みたいなバケモノがいるからモモさんが睡眠時間削ってシャンフロやろうとするんや、頼むからもっとイン率下げろください。
『数は力なんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ』
「『人の心とかないんか?』」
いつもコメント、誤字報告、評価登録やしおり登録等ありがとうございます。承認欲求でノリノリです。
今回は筆が乗った際に一気に半分以上書いたので、後日追記等するかもしれません。しないかもしれません。
虎人くんはある汎用忍術が欲しくて忍者分野を開拓していた時期があり、今回出た忍術は全てついでの副産物でしかありません。またジョブに忍者関連を設定していないため奥義等は使えないものとします。
もし虎人くんが目当てにしていた忍術を当てられれば、先着一名様にヒイラギちゃんとの夢小説をプレゼント致します。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
-
あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも