シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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京極ちゃんが愚息たるオリ・ヌシに惚れるような展開は今後ありえないことを、父たるタマネギ神に誓ってここに宣言します。

サンラクくんへの矢印とかは知りません、当人らの自由ですので。
ついでにペンシルゴンやカッツォ、秋津茜ちゃんやルスト、全米一位ちゃんやディープスローター等についても以下同文です。


10 VS廃人狩り、アーサー・ペンシルゴン 始

「おおっ」

「流石は先生」

「まったく鮮やかだ」

 

 竹林の一角で歓声が起こり、頬が緩む。

 今しがた門弟らにお爺様が披露したのは真剣による孟宗竹斬り。しかも生えた状態で濡れ藁を何重にも巻いて、人の胴に似せたそれを一刀両断して見せた。

 それは決して容易い所業ではない。少なくとも、その場にいる者らは正しく理解していた。

 

 真剣の試し切りには主に竹を芯に藁を巻いたものが用いられるが、その理由は厚く巻かれた藁は肉、竹は骨の固さに近いとされているからだ。斬る対象なんていくらでもあろうに、これが何世紀も続き現代でも変わらないのは形式故ではなく、人体に近く最も安価であるという合理性からだろう。

 遥か昔には人の死体を重ねて用いていた歴史があったように、もしかしたら変わるときが来るかもしれないが、それは今日ではない。

 

 斜めの切り口に沿ってストンと滑り落ち、倒れてくる竹にお爺様はそっと手を添えてゆっくりと横に倒す。

 周りに怒られないよう安全を見計らった上で、弟弟子(おとうとでし)の手を引いてお爺様のそばに歩み寄った。

 

「おじいさま、やいばを見てもよろしいですか!?」

「お〜っ! ……うむ、よいぞ。危ないからな、触れぬよう気を付けるのだぞ」

 

 ボクの呼びかけに一瞬破顔したお爺様に対し、周囲からわずかに笑いがこぼれた。

 それらを無視し大きく皴まみれな手に握られた、平肉が豊かで曲がりに強い——巻藁斬りよりも実戦に向いた(つよ)い刀の()を確認する。

 

 当然のように、(こぼ)れてはいなかった。

 

 固物斬りにおいて美しくない斬り方をした後、その事実は振るった刀に顕れる。

 竹は硬質故に「まがり」「ひけ」、「まくれ」や「刃こぼれ」が生じやすい。真剣自体振るうことを許されていないボクは未だ経験はないが、父をはじめとした居合もやる師範や師範代らがそれらの問題に遭遇し泣きを見た話をよく聞かされたものだ。

 

 ボクが憧れ、目標としている人はこんなにすごいんだ。

 

「キミもちゃんと見た方がいいよ、見なよわたしのおじいさまを」

「え、刀やなくて……?」

「口答えしない、デカいのは身体だけでジューブンだよ」

 

 斬られた巻藁と竹に目を奪われている、図体だけは立派な()の視線を改めてやる。ちょっと前まで()()()()小さかったはずなのに、今では越されてしまった。順当に成長すればその差はもっと大きくなるのだろう。

 彼はたまにしか京都(こっち)に来ないため、再開のたびに世界の理不尽を感じさせられる。全く不公平だ、その伸びしろの半分くらい寄こせと言いたい。

 

 ……と、言ったそばからまた目を逸らす。ヒロくんのくせに生意気な、斎賀家三姉妹の上二人のようにデカければそんなに偉いのか。竹なの? あぁん? 

 

「……なぁ、ジーサマ、俺もやってみたい」

「はぁ!? たまにしかケイコに来ないキミが真剣なんてにぎれるわけないだろ! 百年はやいっ」

「おねえちゃん、うるさい。……いや、カタナは使わんし。竹を()()()みたいだけや」

「ふむ……よかろう。あれなぞ丁度いいか」

 

 身体に合わせて態度までデカくなった気がする、こういう時に『グテイ』と呼ぶべきなのだろう。

 

 お爺様が指し示した竹の前に立つと、微笑ましそうにしている門弟に差し出された木剣を受けと————らずに、腰を落とし構えた。

 

 足幅は肩幅程度に開き膝を軽く曲げ、左手を前に突き出し右手を脇まで引く……あまり詳しくはないが、空手の構えだった。

 

「ちょっ、コラ——」

 

 バカバカしいことをやろうとしていることは瞬時に理解できたため、ボクと周りの——お爺様以外の大人たちが止めようとした。しかし、直後

 

 

パァンッッッ!!!!! 

 

 

 何かが弾ける音。

 それは普段から聞きなれた竹刀がぶつかる音よりも大きく、暴力的だった。

 

「っ……~~~ッッッ!? (いた)ぁ!!」

「言わんことか……ほれ(ボン)、見せてみろ」

「もっとやわいと思ったのに……」

 

 右こぶしの皮が破れ出血している。若くなく固い竹を素手で殴りつけたのだ、皮膚が柔らかい少年なら当然のことだ。

 ……叱られるべき愚行だ、にもかかわらず周りの大人たちは声を失い何も言わない。普段偉ぶるくせして、呆れるばかりだった。

 

「このおバカっ!! 何のマンガ? それともアニメ!? マネっこでこんなことを…………は?」

 

 姉弟子として正してやるべきだ、当然すべきことだと考え歩み寄ると……弟の身体に遮られて見えなかった、その成果が見えた。

 大人たちが黙っていた理由を、少し遅れて目の当たりにした。

 

 ちょうどボクのあごの高さだろうか、ボクの太ももよりも太い竹が割れて……いいや、内側で爆発でも起きたように繊維が弾けていた。

 

 より観察してみると、おそらくは打たれた箇所の竹の繊維が内側へと食い込み、その反対側から扇状に地面が濡れている。溜まっていた竹水(ちくすい)が飛び散ったのだろう……()れたのではなく、勢いをもって。

 

「——やるではないか、坊」

「へへん、ジーサマみて、できそうだってなった」

 

 ボクと年齢が変わらない男子の筋力なんてたかが知れている。

 それは(チカラ)に依らない技術と精度により、(ただ)しく打たれた結果なのだと理解した。

 

 ……この空間でただ二人、弟とお爺様だけが朗らかに笑っていて、不気味な雰囲気だ。

 

 ただ褒められて喜んでいるだけのヒロくんとは対照的に、お爺様の笑みはどこか恐ろしいものを感じる。

 怖いと思った、だが何故か羨ましいとも思った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 ペンシルゴンとの試合当日。

 愛犬の朝散歩中に偶然合流した楽郎をゲーム部屋その一に押し込んだ少し後……早めの昼食を済ませてからシャンフロにログインした。

 ……家に上げる際、庭で鹿肉を解体しているお母さんの鼻歌にラクがガチビビりしていたのは鯖癌のトラウマらしいが、ワイちゃん自身はオンライン終了までに一度しかプレイ出来なかったから共感してやれなかった。*1

 

 それはさておき、本日13時に梁山泊の興行が開会され、その最初のエキシビジョンマッチである覇者闘技(チャンピオン・バトル)がワイちゃんの出番だ。

 

 インしたのが11時。本来であれば修理やらなんやらに出していた装備の数々をフォルティアンで受け取り最終調整をする予定だったのだが……任せていたメンバーがフィフティシアから移動できていないとライガの姐さんから知らされた。

 

 預けておいた武器には夜杖・残身も含まれており、今回観客のほとんどはSNS上でも一時盛り上がった『流星群』を見たがっている以上それ抜きで戦う選択肢はなかった。

 

 そのため受け取った後すぐに【座標移動(テレポート)】で戻れるよう、リスポーンポイントがフォルティアン内に設定されていることを確認してフィフティシアまでやってきた。そこまでは良いのだが……

 

「なあ京極(キョウ・アルティメット)……ワイちゃん今日は興行なんやけど?」

「ちょっと話す時間くらいあるでしょ、売れっ子気取りとかヒロくんのくせに生意気だよ」

「わざわざ長いPNで呼んどるんやから筋通して貰える??」

 

 もともと今日の午前にクエストに誘われていたが午後からの予定を理由に断っていた、姉を自称する不審者(プレイヤーキラー)に捕まってしまい、レッドネームでも隔てなく利用出来る裏路地の……善良なプレイヤーはわざわざ出入りする意味が無いはずなのに常連となりつつあるカフェチェーン『蛇の林檎』に連れ込まれた。

 向こうの勝手で引っ張っておきながら、人のマーニでメシを食えるこの僕っ娘の図々しさは何なのだろうか。

 

 断っておくと、虎斗(ヒロ)くんとこのPKerアバター京極(キョウ・アルティメット)を操作する龍宮院(りゅうぐういん) 京極(きょうごく)との間に血縁はなく、親戚ですらない。だが姉貴分であることは確かだ。姉弟子という意味で。

 

 向こうの実年齢は知らないが、当初からの弟扱いが定着したためワイちゃんも彼女を姉として扱っている。末っ子で弟妹に憧れていたらしい本人が嬉しそうだったからそれで良かったのだ。

 たまに来訪したりされたりする際の晩御飯リクエストにおいて、当然のようにワイちゃんの投票権を我がものとして行使し自分の好物にありつく真似を毎回するのでとても姉らしくは無いが。……おかげというかせいというか、同じ苦労をしたのだろう二人のお兄さんとの仲も良好である。

 

 

 

 そんな彼女との出会いは小学校入学直後までさかのぼる。

 京都にある母方の実家に連れられた時のこと。具体的に何の用だったのかは今でも知らないが、とにかく大人の話ばかりで退屈だったことしか記憶にない集まりだった。

 

 普段の住まいとは広さも造りも何もかもが違う広い建物の探検をやりつくし、こっそりお屋敷の外にまで足を伸ばしてみたら、乾いた音が絶えず響く場所に興味を引かれた。

 難しい漢字の看板が掛けられたそのお屋敷は、世に名高いらしい龍宮院流剣術の総本家だった。……実は今でもどのくらいすごいのか具体的にはわからない。

 

 当時ボクシングの他に総合体育館で空手も習っていたワイちゃんは、そこまで近づけば剣道の道場であることはわかり、帰るよりは楽しそうとだけ考え足を踏み入れていた。

 

 音を頼りに進んで行くと、稽古の様子を覗いていた先客の女の子と目が合った。高い位置からワイちゃんを見下ろす、背の高い彼女こそ京極その人だった。

 

 具体的に何をどう言っていたかは覚えていないが、大人達の稽古に混ざろうとしていた彼女に手を引かれダシに使われたことは確かだ。

 

 ……その前後は大まかなことも覚えていない。

 ただはっきりと、それまで……これまでも他に見たことが無いような、強いおじいさんのことだけが鮮明に焼き付いた。

 

 その後はただひたすらに、あらゆる全てが楽しかった。

 稽古を見学するのも、戯れに竹刀を振らせてもらったのも、やたら弟弟子扱いしてくる京極()()()()()に色々教わったのも、全てが。

 

 結構な剣幕で迎えに来た両親に帰りたくないと駄々をこねたこともつい昨日のことのようで、色々あってその後も稽古に混ぜて貰えることになったのだ。

 

 彼女との出会いは、間違いなく人生観を変えるきっかけだった。

 

 

 

 ……店内にプレイヤーが居ないことを確認し、京極の呼び方を整理する。

 

 ワイちゃんは彼女のことを、本人と二人だけの場合は『お姉ちゃん』、本人と第三者の前では京極(キョウ・アルティメット)と呼ぶ。……そうしないとうるさいからだ。

 本人は第三者の前でも姉として敬って欲しがるが、あれを身内以外の他人の前で姉扱いするのは恥ずかしいから断固拒否している。呼び方はともかく、京極の弟と認識されるのが嫌。

 

 また本人がその場に居ない場合や脳内ではペンシルゴンやサイガ姉妹が呼ぶのと同様に、短く言いやすい京極(きょうごく)である。

 

「なに? 僕の顔……頭に何か付いてる?」

「いや、昔は背が高かったのになぁって」

「そっちが無駄にデカくなっただけだろデクのっぽッ!? それを言ったら殺されても文句は言えないよっ!!」

「やめてよね、本気でケンカしたらお姉ちゃんがワイに勝てるわけないやろ」

 

 刀を抜かれないように柄を抑える。こんな所で暴れたらお店とNPCに迷惑でしょうが。

 

 リアルで最後に会ったのは冬休みが終わる直前で、その際の身長は目の前のアバターよりも一回り低かった気がする。

 体格に恵まれているとは言い難いが、それでも夏の学年別個人戦で全国優勝しているのだから大したものだと思う。動画で見ただけだが、決勝の決まり手である面打ちを捌いた直後のコンパクトな逆胴打ちには惚れ惚れした。

 

 仮に筋肉がない骨だけの身体でも同じことが出来るのではないか、そう思わせるほどに無駄がなく、終わってみれば当然と言えるほどの技量を見せつけた結果だった。

 

「……ところでさ、今日ペンシルゴンと喧嘩(PvP)するんだよね。なんでまた?」

「あ? 阿修羅会なのに聞いとらんの?」

「あんなとこ、とっくの昔に抜けたよ。連中の近くに居たら僕まで腑抜けになっちゃうからね」

「……知らんかった。エンブレムとか元から付けとらんかったし……あと行動が今も昔も変わらなさすぎやろ」

「あんなダサいの付けないでしょ常識的に考えて。というかムーブ云々はヒロくんもだろ? サイガの(あね)が可愛そうになるレベルで何も変わらなかったじゃないか」

 

 言われてみれば確かに、所属が変わった程度で人間が変わるわけでもないのだと納得した。

 京極は今も昔も『やーやー我こそは狂犬抜刀斎、今から君をぶち〇すぞ』で、ワイちゃんもワイちゃんで『拙者PvP未経験ユーザー大好き侍、義はないけど招待致す』だからな。

 

 しかしエンブレムに関してワイちゃんは嫌いではないけどなぁ、ドクロに剣とかTHE・悪役(ヒール)感全開なのが良い。その辺りの感性は例外こそあれやはり男と女で明確に壁があるのだろう。

 

「で、どうなの?」

「まー、ぶっちゃけただの『ケジメ』や。挑戦剣ナシに覇者闘技に臨む相手には地獄を見せるっていう、クランの決まりに阿修羅会が反したからな」

 

 元々、大多数のプレイヤーやクランにおいて阿修羅会はチャンスがあれば壊滅させるべき害悪クランというのが共通認識ではある。そんな中にあってリョーザン・パークというクランは消極派……擁護する理由は無いがわざわざ手間をかけ壊滅させる価値も無いとする立場を明らかにしている。

 ゆえに大きな理由がなければコロシアムとPvPコンテンツの発展に注力すべきというのが方針だったのだが……約一か月前に阿修羅会が組織的に、かつ月に数度開催している『挑戦剣オークション』という正規の手続きと順番を守らず”覇者”を襲ったため、理由が出来てしまったのだ。要は『舐められたから潰す』というだけのこと。

 

 悪者だから、嫌われ者だからということはない。

 極論ではあるが、そもそもPKはPvPの結果でしかない。秩序(モラル)を重んじるか否か、奪い奪われるのがアイテムか勝利(ホシ)かの違いがあるだけで、阿修羅会も梁山泊も近しい暴力集団であることは変わらないのだ。

 

 ……かと言って外野から一緒にされるのはイヤだけど。

 これでも日夜PvPの研鑽を積んでいるクランとしての自負がある。ならず者どもと同列に扱う輩を見かけたら、漏れなく肩を掴んで威を示すことはメンバー各位に推奨している。……やっぱりならず者集団かも。

 

「ホンマは根城突き止めて壊滅ルートやったけど……その前にペンシルゴンがやってきて口挟んで来たんよ」

「へぇ、小指(エンコ)詰めた?」

「あれが殊勝になって頭下げるタイプと本気で思っとる?」

「ぜんぜん。むしろそんな真似してきたら不安で生かしておけないよ」

「なんかの時間稼ぎとしか思えんわな」

 

 ペンシルゴンが現れたタイミングは、サイガー100から『もう阿修羅会潰そうぜ』とワイちゃん話が来たためリーダーに丸投げ……もとい判断を仰いだ後、いくつかのクランと会合していた時だった。

 まさか平身低頭して謝るとは思っていなかったし、実際そうはならなかった。……何を考えていたのかわからない姐さんと、少ないながらも損害を被ってキレてたサイガー100を前に、そんなことやるだけ無駄と判断しただけかもしれないが。

 

 ただ、元々阿修羅会をどう潰すかという話し合いだったのが、阿修羅会を潰すかどうかの話にすり替えられていたことに恐れ入った。

 

 ちなみにワイちゃんがそれに気づいたのは、途中の話を聞いていなかったからだ。……長い話し合いに飽きて、こっそり何度か掲示板(BBS)で管を巻いていた。

 ライガの姐さんは気付いていたようなので、怒られないよう堂々と黙っていただけだ。

 

「アレな、ケンカを倍プッシュしてきたんよ。向こうが勝ったらユニークシナリオ攻略に全面的な協力を求められたのに対し、逆に負けたら阿修羅会本拠地の位置情報+ペンシルゴンの身柄提供という条件で」

「舌先三寸で急場をしのいだ姿が目に浮かぶなぁ。……『22人殺し』のことは聞いてるけど、あれペンシルゴン無関係だよね? 何かとお粗末だし、オルスロットの差配だったでしょ」

「知らん。抱えとるユニークがよほど大事なんやろけど、庇ってきたから相手するだけや」

 

 個人的には潰す相手が一人増えるか否かでしかないからどちらでもいい。

 3月1日実施分の挑戦剣を確保した上での打診であるのと、興行の最高責任者であるライガの姐さんを納得させたのなら正規の挑戦だ。ワイちゃんはそれに応えるだけである。

 

「……MMOってこういうとこ面倒やね、たかがゲームでなんで政治の真似事せなアカンの。もっと雑にぶん殴って解決したい……」

「わかる。……もうさ、今から関係者全員殺っちゃおうよ? 僕手伝うよ、世界の全てが敵に回ってもお姉ちゃんは味方だからね」

「最終的に二人で殺し合うやつやんけ、やだよ。もっとタッパと胸盛って出直してきて?」

「デカいのがそんなに偉いのか? あ?」

 

 少なくともワイちゃんの中では超(エ〇)い、大上段からの椅子の振り下ろしを制しながらそう思う。地雷ジャンルだからってすぐ暴力に及ぶのはやめてくださる? 

 

 というかこの流れで共感を得られる辺り、本当に血のつながりが無いのかと疑わしくなる。普段周りの大半は呆れたり嗜めたり、あるいは本音と建前を分けている人が少数いるだけで……こういった反応が返ってくるのは正直気分が良かったりする。

 お母さんの血筋が近縁だったりしないか聞いたことがあり、実際のところそんなことはまるでない見事な他人である事実に逆に驚いたものだ。

 

 血脈でないのなら、ワイちゃんも彼女も同じ人に似たのだと適当な時期に結論付けた。

 龍宮院富嶽。二人して手本としていたあのジーサマの影響と考えるのが自然であると。

 

 ……それはそうと、取り留めのない会話にもいい加減飽きてきた。

 

「……なあ、殺り合うんやったら()よしてもらえる? 何の時間稼ぎか知らんけど、これ以上はもうフォルティアンに戻るで」

「へぇー、驚いた。……何時からわかってたの?」

最初(ハナ)からや。昔さんざんやられたからの、まったく懐かしいわ」

 

 トーナメントの対戦相手を不戦敗に追い込む手段として試合開始時刻に間に合わせないというのは基本中の基本である。

 出禁になって以降は目の当たりにしなくなったが、優勝系ジョブの転職条件達成のためにライバルとなるプレイヤーをクラン単位でリスキルし続けるという光景は、特に転職条件緩和前によく見られた。サービス初期などは街中PKのデメリットが薄かったこともあり、阿修羅会をはじめとしたPKerクランがのさばり放題だったことから、その手の話題に関心が薄いワイちゃんですらネットでの炎上騒動を複数回目撃していたほどだ。

 

 そんなワイに対する阿修羅会の妨害工作は、やや様式美じみている。

 まず個人的な交流があるプレイヤーに呼び出させ、会話等で可能な限り時間を潰させる。そしていざ会場へ移動するというタイミングで馬脚を露し集団で襲い掛かるのだ。

 あまりにもお粗末な方法だが、ワイちゃんは気分次第ではあるものの基本逃げずに付き合うため定番化した流れだった。

 

 ついでにもう一つ。ワイちゃんは無法者ども以外の比較的善良なプレイヤー達からも、『お前もう飽きるほど優勝しただろうがよえーっ』と度重なる声援を頂いていたことから、『虎人くんはPKされた当日に限り、以降のPvPを全て棄権します(半ギレ)』と公示するに至った。そしてそれは、今も生きている。

 

 ……しかし出禁にされていることを抜きにしても、フォルティアンのコロシアムを所有しその施設内にリスポーンポイントを設け、かつ【座標移動(テレポート)】によるリスポーンポイントへの即時帰還が可能となった現在では、もはや有名無実な決まりでしかない。

 今のところそうなったことはないが、いざ追い詰められたとなれば全力で逃げ帰る。個人的な勝敗を優先しクランのイベントをひと枠潰すほど、ワイちゃんも身勝手ではない。

 

「時間はまだあるからの、今すぐやるんやったら付き()うたる。……ペンシルゴンのやつ、装備の耐久削りが狙いか?」

「人から頼まれたのは確かだけど……ペンシルゴンからじゃないんだなぁこれが」

「……あ?」

「とりあえず、外に出てごらんよ」

 

 ……言われるがまま店の外に出てみると、まばらではあるが人が集まっていた。普段NPCは滅多に通行せず、プレイヤーも近寄る意味があまりない場所にだ。

 

 軽く見渡すとほとんどがNPCのようで、端の方に見覚えのあるプレイヤー二人組を見つけた。リョーザン・パークでPvPの撮影や配信を担当してくれている、ライガ親衛隊時代からのメンバーだ。

 

「卑怯侍ちゃん、刺貫武羅茨(しかんぶらし)ちゃん。なんで、いや…………なぜ、()()()場所に?」

「虎人くん、お疲れ様! もちろん撮影だよ。新しい試みだったから少し準備に手間取ったけどね」

「話は全部聞いてるよ~。前哨戦の~打ち合わせはバッチリだから~、いつでもいけるよ~?」

 

 いつもと変わらない様子の二人と、見た目(アバター)だけは大和撫子な京極のにやけ面。それらを見てようやく悟った……身内に嵌められたという事実を。

 

 ……誰が、どこまでが敵だ? クランメンバーの多くが不審な行動をしていればワイちゃんにも事前にどこかで話が来たはず、内通者は少数だろう。

 

 だがワイちゃんに事前に悟らせず、こんな人気のない場所にNPCの観客を誘導をするにはある程度の人員を動かす必要があるだろう。

 興業のスケジュールにも関わる以上は、当日よりも一定期間前から運営に携わる必要がある。つまりそれをできる権限と責任をもったクランメンバーが——

 

「——まさか」

 

 本来であれば、今日フィフティシアに来る予定は無かった。にも関わらず、京極と出くわしたのは偶然ではなかった。

 

 そもそも阿修羅会が襲ってきたのは1ヶ月前でオークション及びペンシルゴンの打診がその少し後。

 時間を与えれば与えるほどロクな事をしない事が明らかなペンシルゴンに1ヶ月弱もの時間を与えるような日程をワイちゃんが許したのは何故だ。

 

 今更勘づいたところでもう遅いが、疑うこともしなかったからだ。

 

「ライガの姐さん……!」

「正・解! 君のとこのリーダーから直々にオファーされたんだよ、僕。……知らなかったよねぇ?」

「「??」」

 

 日頃から頭脳面で頼りにし、時に決定を一任している、『ヒヨクにしてレンリ』と言うらしい関係の彼女であれば可能である。

 

 

 ────最高責任者、抱きこまれやがった……! 

 

 

 ……京極が耳元に口を寄せ、周りに聞こえないよう耳打ちしてくる。

 

「ヒロくんさぁ、ひどいよ……僕を差し置いてペンシルゴンと()ろうなんてさ」

「おねっ——京極(キョウゴク)……! まさか最初から!?」

「うん。かなり早い段階で、裏話以外ぜぇ~んぶ知ってた。……あとキョウ・アルティメットね?」

 

 ヒトのことは本名で呼ぶくせに身勝手の極みかこいつ!? 

 

 周りのNPC達は呼びこまれた観客(ギャラリー)だ。観客を配置した状況で試合を行うことで、覇者としてのワイちゃんを逃がさないことが狙いだろう。

 どうせ深く考えたところで正解はわからない。一旦自分にとって都合が悪い点はなんなのかを考え、そういうことにする。

 

 チャ、キ。チャ、キ。チャ、キ。チャ、キ。

 

 親指で刀の(つば)を押し上げ鯉口を切り、戻し、そしてまた鯉口を切り、戻す……貧乏ゆすりのような繰り返し動作から生じる、鍔鳴りの音から鮮明な意思が伝わってくる。

 

「やるなら、僕とやれ」

 

 向き合え、斬り合え、殺し合え。

 

 全く困った姉貴分だ。

 濡鴉のような髪色の可憐と呼んで然るべきなのだろうアバター……それに似合わぬ左右非対称な笑みを浮かべる京極に、果たして自分はどんな表情(カオ)をしているのだろうか。

 

「普段からちょいちょい遊んどるやろ、なんでまたこんな時に」

「うん、いつもの君は()()だろ? 技術交流かじゃれてるだけ……たとえこっちが殺す気でもだ。かといって真剣勝負で本気(マジ)の君を相手にする機会なんて、殿堂入りした今となっては無くなってさ……姉に寂しい思いさせるなんて許されると思う?」

「弟らしくして欲しいんやったら、もう少し愛情とか真心とかプリーズ」

「これが龍宮院(わがや)の愛だよ」

 

 それ京極とジーサマだけのやつやろ、他のご家族に聞いたから知っとるんやぞ。

 

 全容は見えないが、とりあえずワイちゃんとガチで()りたくて便乗してきたということは理解した。

 

 ……どいつもこいつも、面倒だ。

 順番にぶん殴ってやる。

 

「やっと良い(かお)してきたね?」

「あ? マスク越しで分かるん?」

「分かるよ、すごく分かりやすい」

 

 サイガー100も、ライガの姐さんも、十六さんも、キョージュも……みんなそう言う。自分で鏡を見ても分からないのに不思議なものだ。

 

京極(キョウ・アルティメット)ならいい前座だ。人選に関して言えば、姐さんの見立てはバッチリやな」

「何言ってるの? 僕と君の闘い──この死合こそが、今日のメインイベントだよ」

「それは無いわ、メインはペンシルゴンや」

 

 頭が回るか、想像が及ぶか、疑えるか。

 あるいは、そう出来ていれば今回のような状況にはならなかっただろう。

 

 シャンフロ内外の何人かの顔やプレイヤーネームが脳裏に浮かぶ。

 だが今回は彼らのように至らなかったために、否応なく覇者(チャンピオン)としてのフィールドに立たされ、逃走という選択肢をまんまと奪われた。

 

 分からない物事が他人より多いと常々思っている。きっと自分自身のことですらその有様だから、今回のようにあっさり誘導されて罠にかかるのだろう。

 

 ワイが人より多く、より深く知っていると思えることは二つしかない。

 闘うこと、勝つこと。ならば開き直ってそれだけを考えることにする。

 

 その二つだけは、負けない自信がある。

 

 

 

 間もなく正午を迎える。

 開会まで、あと一時間。

*1
彼はお母さんにソフトを借りパクされていたぞ!





「猛獣を仕留めるなら頭を使わないとね」



京極ちゃん:虎人くんには異性としてどうこうすることはないし意識もしていない(超重要) ただ自分よりも先に恋人を作ったりした場合は弟のくせにと理不尽に怒る。またリアルでもゲームでも、彼のことを周りへの優越感やマウントを取るのに利用したりする。虎の威を借りる狐(将来)

ペンシルゴン:もともとあっさり虎人くんに処刑される予定だったものの、『一か月もあって何もしないわけないだろうがあーっ』と筆者の内なるRPAが造反し今回のようになった。京極ちゃん以外にも色々使います。



虎人:裏話になりますが設定を考え始めた初期は虎子ちゃんで、恋愛クソつよ関西弁ゲーマーであり楽浪くんの幼馴染その1だった明るい世界戦があります。しかし落雷による停電から2回文書ファイルが破損するという、背筋が凍った経験をきっかけに方向転換し現在の設定になりました。反省を活かし、現在はクラウド上でファイルを管理しています。

ライガ:虎子ちゃんの実姉で、幼馴染その2だった世界線があった人。楽郎くんの傍で動かしていた時期もありましたが、目茶苦茶疲れたので没に。

京極ちゃんの二人称が脳内で君だったりキミだったりするので、どなたか真偽を明らかにして欲しいです。コメントもしくは誤字報告お願いします。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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