シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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こちらをご覧になる前に3/17更新分のシャンフロ劇場、その第33話をご覧になることを強く推奨いたします。
というか拙作を見る暇があるならそっちを見てくださいお願いします、姉が病気なんです。

また、ペンシルゴンとサイガー100のキャラ崩壊や解釈違いにご注意ください。苦手な方はブラウザバック推奨です。



8 VS超越速、ティーアス 了『日頃の行いって大事って話』

 NPCから開拓者(プレイヤー)向けに発注される小〜中規模の護衛系クエストがある。

 数人のパーティによる受注を想定した個人の護送から、フルパーティ一つ以上の参加を想定した商隊・要人護衛まで。街から街への移動にプレイヤーが随伴するという内容のそれらは、手間に対し報酬が高いことで知られている。

 

 特にNPCから一定以上の評判を得ているクランには、ユニーク装備の素材などが特別報酬として含まれるクエストが直接発注されることがある。

 それはクランの規模を拡大することの特に分かりやすいメリットの一つであると同時に、大半が少数のトップクランに流れることから時に物議を醸す点でもあった。*1

 

 ……さて、それらは相対的に善良なクランへ向けたものであるのだが、護衛と来ればもちろん襲撃が付き物だ。敵対者は道中のモンスターと環境だけには留まらない。

 

 この世界(シャンフロ)においてもお約束に漏れず、狼藉者は存在している。

 

「……なあ。連中このままだと平原まで出ちまうぞ。本当にこのまま何もしないでいいのか?」

「『賑やかになったら一斉にかかれ』……なんて言ってたけど、具体的に何を待てば良いのか教えてくれなかったしなぁ」

 

 闘技場と歓楽の街フォルティアン・未開放の新大陸へ向けた港町フィフティシア間のフィールドである閃霆万里の坂道、そのフィフティシア側の終端に位置する峡谷にてクラン:阿修羅会のメンバーは潜伏し、遠巻きに襲撃対象の商隊を見据えていた。

 

 高カルマ値のプレイヤーが多数在籍している等によりNPCからの評判が低い、いわゆる反社会的(DQN)クランには護衛系クエストが発注されることは無い。

 故に彼らは護衛系クエストで得られる特別報酬を、襲撃によって得ようとする。

 

 しかし容易にはいかない。

 なぜなら襲撃側が基本プレイヤーのみであるのに対し、護衛側にはプレイヤーだけでなく護衛対象の重要度に比例する強さのMobもついてくるからだ。

 特に国王クラスのネームドNPCは顕著で、やたらと強い……一対一で頑張ってギリギリいけるかどうかという強さの無名Mobがパーティ単位で配置される。あまりの戦力にプレイヤーが護衛されていると言われる始末であった。

 

 今回の対象である商隊はそれより数段ランクが落ちるとはいえ、十五人あるいはそれに準ずる数のプレイヤーパーティとMobフルパーティが一つ……合計約三十人。

 一方で襲撃側はこの場に居る欠員三名のフルパーティ十二人、別地点に同規模のパーティが三つ潜んでおり合計五十人。順当に行けば成功が見込める。

 

「ん、あれっ? ……他のルートからも、別な護衛隊が来たぞ?」

「フィフティシア側からも来てるぞ……!」

「おいおいおい……! 袋叩き(フクロ)にするんじゃなかったのか!?」

 

 その数、実に約100名。有利と思われていた形勢が、気づけば裏返っていた。

 ……ここで視点を護衛側に移す。

 

 まずフォルティアン側から閃霆万里の坂道の、敵の数は多いが平均レベルは低い『下道ルート』を通って商隊と行軍してきたネカマ率8割の女剣士クラン:シンデレラ・ブレイド。

 パーティを率いるのは剣客ジョブの”伽羅(きゃら)”。可愛い剣士系アバターに囲まれたいという欲求を満たすためにクランを大きくした、サイガー100およびライガ推しをはばからない女性プレイヤーで、京極を見つけ撮影するのがマイブームとなっている。刀の柄を刃渡りと同程度まで長くし未実装の長巻風にしたプレイヤーメイド武器を装備した彼女は、奇襲に適したポイントを全て通過しクエストの終わりが見えてきたことに息をつきフィフティシアでのサイガー100出待ち計画を立て始めている。

 

 次に同エリアにおける一般的な突破難易度である、エリアの推奨レベルと同程度の強さのMOBと敵対NPC盗賊団が配置された『山道コース』を踏破し、テンパートの役人NPC護衛小隊に随伴している工芸クラン:マスターピース。

 属性魔法の掛け合わせによる広範囲攻撃に定評がある賢者で、リアルで画材商を営む男性プレイヤー”サンゲン”をリーダーとするパーティは、最近リョーザン・パークが『断崖コース』に遊びで潜り持ち帰ってきた素材を自分たちで調達出来ないかと情報収集の段取りを立てている。

 

 最後にフィフティシア側からは、フォルティアンとの往復にあたっての商団護衛が最も多く発注される大手クラン:黒狼。最近クラン内の居心地の悪さから十時軍か梁山泊への移籍を検討している”キティさん(6)”は、フォルティアンのカジノへ向かうのがサイガー100にバレてリーダーを任された。

 戦闘職に偏り生産職の層が薄い黒狼において彼女はゲーム全体でも希少な錬金術師であり、その第一人者でもある。ライブラリや魔女の教会(ウィッチャーズ)がその知見を求めているが、日頃のストレスからかそれを発散できる苛烈なフィールドを欲する彼女の希望には応えられていない。

 

 以上の三勢力、いずれもトップ帯プレイヤーをリーダーに据えた、後半エリアを危なげなく歩けるパーティである。

 

 

 ————まぁ、まともな状況なら、だけどね。

 

 

「あらぁ、ご機嫌ようキティさん。お互い護衛だなんて奇遇ですわね」

「どうも……リーダーは、いないわ、よ……」

「おっと、山と海を背に画になるお二人だ」

「まぁ、マスターピースの皆様まで? これだけ多いと馬車が一度に往来できませんわ」

「メンテナンスが挟まった影響か、滞っていた依頼が一度に発注されたのかな?」

 

 やむを得ず行軍が止まり、リーダーの三人が代表して合流した。

 この三人を除く大半のプレイヤーとNPCは、現在の状況が珍しい偶然であると疑っていなかった。

 

 ……だが初期勢であり、まだPKが盛んであった時代を知る三人だけは違った。

 

「僕たちは山道から来たのだけどね、襲撃がいつもより多くて参ったよ。馬車を強行突破させようとしたらNPCの身体が乗り上げて『メデューズ号の筏』みたいになる始末でね。……ウチのメンバーは平均レベルが低くて、僕だけちょっと働きすぎたもんでMPポーションが無くなっちゃった」

「わたくしとシンデレラ達は下道から。モンスターの数もNPCの襲撃頻度も変わらなかったのですが、明らかに配置の質が違っていましたわ。恥ずかしながら皆メイン武器の耐久値が心もとない状況ですの」

「……PKerのモンスタートレイン、二回……罠多数、脱落者数名。『賢者の石』まで使わされて……不甲斐ないわぁ」

 

 彼らが攻略エリアと街道の狭間、そして広大なフィールドにおける数少ない狭所にて立往生しているのは、果たして偶然だろうか。

 ……否、これは仕向けられたものである。

 

「……してやられた。『廃人狩り(ジャイアントキリング)』ね……黒狼、戦闘準備」

「敵もさるものですわ。……シンデレラ達ならびに皆様方、総員抜刀ッ!」

「皆、残念ながらお客さんだよ。すまないが僕はMPがなくてね、あまり戦力になれないから『救難信号』役になるよ。……今日はイキの良い人たちが揃っているからね、少しでも良い画が見れるまでみんなで頑張ろう」

 

 ()()()はまず、彼らが通過してこなかった断崖側からやってきた。

 

「落石だなんて原始的な!? 軍隊クラスの人手で準備する手段ですわよ……!」

「まったくシンプルだ、手間だが元手が安く済むのが実に良い」

 

 採掘の副産物(ハズレ)としてプレイヤーの誰もが知る石ころと、近場から削り出されたのであろう岩を中心としたそれらは、どこまでも現実のそれに等しい物理法則(エンジン)によって質量兵器として転がり、および飛来してくる。

 

 高レベルの、かつ装備を固めたプレイヤーから見れば、一つ一つは大したことはない。だが食らい続ければ無視できないダメージとなり、またステータスが高くないPCや護衛対象にとっては十二分に驚異となる。

 

「マスターピースさん……()()で防壁、張れるかしら……?」

「仕向けられているがやむを得ないね……生きて帰れたら返すよ。【加重詠唱(アッド・スペル)】【ワイド・プロテクション】!」

 

 キティさん(6)から手渡されたMP回復ポーションを飲み干したサンゲンはすぐさま規模の大きい半透明の円形防壁を展開する。

 

()()のことだ、最後に一つデカいのが来るはずだ。魔法職はなるべく威力のあるやつを準備しておいてね! ……あまり言いたくは無いけど、黒狼とシンデレラ(きみたち)は近接に偏りすぎじゃないかい? 極彩色ばかりで絵にまとまりを持たせるのは大変だよ」

「……黒狼(ウチ)は、エゴイストの巣窟だから……」

「遠距離も戦えるシンデレラ達が不在だっただけですわ」

 

 山道側から大岩が転がってくる。サンゲンはかなり昔に見た冒険映画のことを思い出し、『あの手の遺跡のトラップって1回で使い切りなのかな』などと考えながら所属が様々な魔法職を指揮……結果として危なげなく破壊に成功した。

 ……頭を掻き苦い顔をしながら、しわがれた温和な声で呟いた。

 

「……いつも楽しそうだよね、彼女」

 

 迎撃態勢を整える伽羅、支援体制を整えるキティさん(6)、索敵を間に合わせようとしているサンゲンの三人は既に理解していた。

 何もかもが遅かったと。

 

 

「————さあ野郎ども、濡れ手に粟だよ。盗ったもん勝ちバーゲンセールのはじまりだぁぁぁぁ!!」

 

 

 快活で扇動が堂に入った女性の声が響くと共に、日本の10代(ティーン)の憧れにしてファッションリーダーたる人気モデルと瓜二つなアバターの女性プレイヤー――アーサー・ペンシルゴンが、敵対NPCの一団を断崖から引き連れてすぐそこまで来ていた。

 それに呼応して、下道とフィフティシア側に潜伏していた阿修羅会メンバーたちも躍り出る。

 

 ……護衛系クエストは、度重なるPK対策のアップデートからNPC部隊の守りが厚くなったため、PK側から見れば襲撃は『割に合わない』と敬遠されがちである。

 その背景から、定石を熟知しているリーダーがパーティを率いていれば、()()()にはクリア出来るとされている。

 

 定石というのは護衛側も襲撃側も、乱戦になる前にどれだけ相手の数を減らすかと言うもの。特に護衛側は味方の損害が大きくなるほど報酬が減算されるのと、同士討ちの危険から出来れば接敵よりも先に戦闘を終わらせたい心理が働く。

 

「他所様の護衛対象(あしでまとい)が近くにいるとやりづらい? 良い子は苦労が多いね」

「こ、この外道ォ……!」

「悪い子のみんなは一人一殺ね! その後は馬車の確保を優先するように」

「「「ウス! 姉御!!」」」

「うーわ、むさ苦し」

 

 一方の襲撃側は、奇襲の混乱に乗じて乱戦に持ち込み、短時間でどれだけ被害を出せるかに成否がかかっている。

 

 事前に盗賊NPC達の首領をそれぞれ買収・懐柔・殺害するなどして指揮下に加えていたペンシルゴンは、およそ最高の成果を既に出していた。

 

「……これはダメだね。クエスト失敗だ、各自生き残ることを考えよう」

 

 三つの集団の行軍速度を調整しつつ適度に()()()()ことで気を緩ませ、出会い頭させることで三方向にNPCを散らし、落石に対応させることでほぼ被害を出さずに乱戦に持ち込む。

 

 約60人の悪漢は優れた旗手によって高い統率を発揮し……一方でそこまで足並みが揃っていたはずの三つの武装団は、およそ百人の烏合の衆に成り果てた。

 最初の一合で数の差は0となり、その後は襲撃側優位が決定的となった。

 

「盗るもの取ったらさっさと退散! 帰るまでが襲撃だよ」

「でもペンシルゴンさん! この勢いなら全員キルしてドロップ回収できますよ!?」

「……あっそ。勝手にすれば? でもこれ以上残るなら自己責任でよろしく」

 

 すっかり調子づいている阿修羅会メンバーに一瞬冷ややかな目を向け、アーサー・ペンシルゴンは最低限の、それでいて最高品質の成果を確保しその場を足早に去って行った。

 ――後に彼女は嘯いた。明確な目標を持ち、達成したら執着せず離脱するのが名将と言うものであると。

 

「……やあ、お二人さん。生き残っているようで何よりだ。僕のところは生産職が多くてね、8人脱落したよ」

「何もよろしくありませんわ! わたくしの可愛いシンデレラ達が5人も刺し違えられてしまいました!! 遺品()は意地でも回収しましたが……ッ!」

「かくいう君は一人で6人はキルしてるよね……? うん、流石は『武闘会の女王』だ」

「……黒狼(ウチ)は口だけの新参が、全員……あと3人だけよぉ」

「15と少し……相手はざっくり30人かな? ちょっとキツイけど——おや、どうやら間に合っ……よりにもよって色物二人か」

 

 ジリジリと阿修羅会メンバーらによる包囲が狭まる中、『救難信号』に対する【朋友救助(フレンドワープ)】の反応があった。

 数は二つ……大手工芸クランのリーダーということから数多のクランと提携し、尚且つ高齢プレイヤーとしての交流もあるサンゲンの呼び掛けに応えたのは――

 

「チッ! これ以上増える前にまとめてやっちま――――あえ?」

「おー、すまんなぁ(わけ)ぇの。隙まるけ(だらけ)だ」

「まあまあ、十六さん。いきなりお元気ですね」

「ウチの坊ちゃんがやらかした後から血が騒いで仕方がにゃーでよ」

 

 その二人は、トップ帯の中でも特に有名なプレイヤーだった。実力と、ネタによって。

 

 一人は、山岳という形容が似合う体格と彫りの深い顔の、さながら神話の大英雄のような巨漢。

 もう一人は、今しがた黒い長髪をなびかせ目にも止まらぬ槍術で二つの命を奪った、細腰で豊満な身体付きの美女。

 

「マッシブダイナマイトと獅子十六だ……!」

「アイツらアバター取り替えろよっ! 声がバラバラで脳がバグるじゃギャアッ」

「年甲斐もなくやんちゃしてるだぎゃ、老い先短きゃー年寄りの楽しみに水さしてくれるな」

「せっかく出来ないことが出来るのですからね」

 

 巨漢の側が深みのある女性の声、美女の側が落ち着きと色気を感じさせる男性の声。

 呼吸に合わせて迫り来るPKを代わる代わるキルする二人は、共にリアルが老齢のトッププレイヤーであった。

 

「……ところで十六さん? ここであったのも何かの縁ですし、少し若輩者の頼みを聞いてくださいな」

「お互い60とか70だろうに、若輩もなにもにゃーで。ちゃっと(ささっと)な」

「最近ウチのリーダーのご機嫌がよろしくなくて……一週間くらい虎人くんを貸して下さらない?」

「……まあ、本人に話はしておいていいがにゃ、ウチの(リーダー)が騒いだらそっちで何とかしてくれよ?」

「まあそこはそれ、虎人くんの甲斐性に期待しますわ。……あら? もう居なくなったのかしら」

「”貫通投射(バリスタ)”……ああ、あれで最後だ」

 

 辺りを見渡すと死体の残滓(データ)とドロップ品の数々が散らばり、二人の眼前に立っている者は残っていなかった。

 

「地獄絵図だねぇ……二人とも、来てくれてありがとうね」

「サンゲン、久しぶりだぎゃ。おみゃーの描いた絵、迎賓館に飾ってあるがでら(かなり)評判いいぞ」

「それは描き手冥利に尽きるね」

 

「キティさんちゃん大変でしたね」

「マダム……私は、キルされたってリーダーに伝えてくれるぅ……?」

「ええ、構いません。……代わりに、帰るときは虎人くんを黒狼館に引っ張ってきてくださいね?」

「やったぁ……!」

 

「もし、マダム……サイガー100ちゃんはただいまログインされていますの?」

「あら残念、二日酔いと言ってついさっきログアウトしてたわ」

 

 

 


 

 

 

 ……さて。クエストに失敗した彼女らのそんなやり取りを遠巻きに見下ろしているのがこの私、悪名高いPKクラン阿修羅サブリーダーのアーサー・ペンシルゴンってわけ。

 

「思う通りに事が運ぶって気分いいねぇ、アッハッハッハッ!」

 

 やってみたかった奇襲作戦が成功し、フォルティアン発の商隊からしか現状手に入らない希少素材を獲得し、ついでに自分より弱い連中にしかイキれない身内の弱兵(ヘタレ)どもを欺いて痛い目に合わせた。

 

 三方良しの結果につい高らかな笑い声が出る。

 

 今回の襲撃、ハッキリ言って味方(コマ)の損失をより抑えて成功させることは出来た。妨害工作で行軍を遅らせつつ、時間差をつけて各個撃破する方が手間はかかるがより確実な方法だった。

 

 わかっていてなぜそうしなかったのか、それは単純に()()()()()()から。どこぞの喧嘩バカがサーバーメンテナンスと引き換えに達成した偉業を動画サイトで見た後から、何となく出来そうな気分になったからやった。

 

 一網打尽って……いいねっ!

 

 ボウリングでターキー*2を達成したような気分だった。

 もともと温めていた内容ではあったのだが、実働の手間が減るというメリットを除くと各個撃破策に成功率で劣ると認めざるを得なかったため実行に移したことは無かった。

 

 手や腕を斬り落とされながらも勝利を収めた彼の勇姿に感銘を受けたのだ。根性ファイトはスマートじゃあないから趣味ではないけど、それはそうと犠牲を恐れていては大金星は掴めないのだと。

 バ火力ネナベおばあちゃんと神槍ネカマおじいちゃんにより蹂躙された彼らは間違いなく必要な犠牲だった。私が言うんだからそうだよ?

 

「身を切る思いだよ、まったく。およよ……」

 

 まあそんなことより、阿修羅会を筆頭としたPKに腑抜けが増えてるのは今さらだけど、それに準じて護衛メンバーの質も落ちているものだから、襲う側としても正直拍子抜けだった。

 

『あの日』のアップデート以前……特に虎人くんが黒狼にいた頃の襲撃は毎回スリリングだった。虎人くん本人が神槍おじいちゃんと不愉快なシンパ達を率いたニアイコール愚連隊を相手に、善玉面した巨悪に一歩も引かず立ち向かうオール・オア・ナッシング強盗団の遠き日々よ。

 

 そんなPKKガチ勢達の活動も大人しくなって久しい。

 

 身近の捻くれたバカ二人と違って、虎人くんは素直なバカだ。楽しい闘いが出来るなら積極的に罠にかかる狂人である京極(善)な彼が、今回のような場に現れなくなったのも既に彼からすれば()()()()だからだろう。

 関心すら示さなくなった彼のそんな態度がある意味最も残酷だ。

 

 本人は口にしないし思ってもいないだろうが、PK側から見れば『相手にする価値がない』と判断されているようなものだ。

 

「……ま、もう構わないんだけどね。もしかしたら今回で引退かもだし」

 

 墓守のウェザエモン討伐のため、これ以上にない最強の味方がもうすぐ手に入る。

 景気づけも済んだことだし、拠点に戻ったら一旦ログアウトしてランチにでも行くとしようかな。今日はたまの休みな上にチートデイでもある。こんなに何もかもがうまく重なるなんて、神様はきっと日頃の行いを見てくれているんだねぇ。

 

 ……ところでまったく関係ないけど、今朝モモちゃんにビデオ通話をかけたらがっつり二日酔いしていた。昨夜何があったのか……というかどんな飲み方してたのかな?

 定期的に一緒に飲んでるけど、ザルを超えたザルの彼女が酔っぱらうどころか顔色変えてるとこすら見たことないんだけど……?

 

 

 


 

 

 

 

 私はアーサー・ペンシルゴン

 このDMを見ている君は選ばれし者

 ユニークシナリオに挑むチャンスを与えられた強き者

 単刀直入に言おう、私とともにとあるボスを倒してほしい

 もちろんめちゃくちゃ強い

 

 例の幼女ちゃんとの配信アーカイブで見たよ、頭おかしいんじゃない?(賞賛)

 君がやらかしたせいで最悪土曜日合流できない可能性あるから、日曜日の夜八時にサードレマの蛇の林檎に集合ね。

 

P.S. 君のコネで賞金狩人をパーティに参加させられないか確認しておいてくれるとうれしいな。

 

 

「キャプテンマッスル構文や……女の人も読んでるとかやっぱすごいっスね、TOUGH(タフ)は」*3

 

 現在は夕方。約束の時間にはまだ少し早いものの、現地に到着していないことからエリア移動のためシャンフロにログインした。

 

 2012年にシリーズ累計1000万部を突破して以降も数字を伸ばし続けたことでお馴染みの、日本が世界に誇る大ヒット格闘漫画の語録が織り交ぜられたDMを見ながら移動する。

 いくつか届いていたDMの、最後の一通だ。

 

 昨日はシャンフロにログインしなかった。

 緊急サーバーメンテナンスは朝方まで続いたためロードワークの前後にはログインできず、それ以外の時間帯はジムでの練習とアタリカッツォの大会前調整に付き合い、夜はモモさんと焼き鳥屋さんに行った。

 

「来春昇進内定なのはおめでたいんやけどな……。ところで係長の一つ上って何?」

 

 モモさんはアルコールが回った状態でないと他人に甘えられない難儀な性格をしている。

 愚痴を吐くなり頼りにされる対象として選ばれている事実はうれしいし、そういうところに可愛げを感じてはいる……だが心配のほうが遥かに勝る。心と体、両方の健康について。

 

 まず酒の量が多く、度数が強い。

 最初の一杯目のビールを水のように飲み乾してからまず熱燗にお湯割り、続いて電気ネズミみたいな名前の中国のお酒で手羽先のピリ辛焼きを流し込んでいた。

 

 ……そのほっそいお腹のどこに入るのか、勢いそのままにジンとウィスキーをロック、果てにコニャックにバーボンをストレート……一族全員下戸なワイちゃんの酒に関する知識は、『漫画でわかるシリーズ』のお酒編を小学生の頃に読んだ程度でしかないためどれがどんなお酒なのかは知らないが、ビール以外はだいたい度数が高いことくらいは知っている。

 

 仕事とシャンフロのクラン運営でえらくストレスが溜まっているようで、酔いが回ってから時々コンプラに触れそうな話をしそうになる時は黙らせて軌道修正するのに苦労した。個室ではあるがどこでだれが聞いているかわかったものではないためハラハラだった。

 

 さらに酩酊してからはシンプルめんどくさい。過去に周りのウケが良かった話なのだとは思うが、同じ話を一定の組み合わせで何度もする。最初は良かったが何度もループしていると流石にうんざりする……かといってちゃんとリアクションしてやらないと拗ね始めるのだ。

 

 普段からコンスタントに消化している方だと思っていたが、どうやらそうもいかないレベルの話や鬱憤を溜め込んでいるらしい。……23とか4という若さで高い役職に就けることは素直に尊敬するが、無理して鬱病とかになって欲しくないと切実に思う。

 ワイちゃん自身はまったく問題ないと思っている練習量に対し、周りがオーバーワークの心配をしていた時の気持ちもきっとそんな感じだったのだろう。

 

「社会人やりながらボクシング続ける自信ないかもわからん……大人になんの怖い」

 

 結局モモさんが満足するか限界を迎える前に、未成年保護の条例によるタイムリミットが先にきた。……お酒を持って来るとき毎回ワイちゃんの方に置いてくるし、お店の人は一ミリも未成年だとはみなしていなかったが。

 過去にお気に入りのジャケットをゲロまみれにされた挙句、翌日風邪を引いた哀しい経験を活かして慎重に自宅マンションへ送り、溜まった洗濯物と簡単な部屋の掃除をしてなんとか日付が変わる前には帰宅した。

 

 モモさんの自宅は汚部屋とまではいかないし足の踏み場が無いということもないのだが、空のペットボトルが幾つも転がっていたりと常識の範疇で散らかっている。……何か拾い食いとかしそうでペットを上げる気にならないレベルであり、ワイちゃん自身が耐えられないため勝手に掃除している。

 

 洗濯もすっかり慣れたもので、アホみたいにでかいブラジャーとそれに対しちっさいショーツを手にしてもなんとも思わなくなった。なんなら『ネットに入れておけ』というウチのおばあちゃんの気持ちが理屈ではなく()で理解できる領域に至ったため、お金を貯めてなるべく高性能なドラム式洗濯乾燥機を我が家に設置することを検討している。

 

「……こういうメンタルの時に人はアルコールをたよるんだなぁ、とらを」

 

 段々とモモさんへの意識が異性というより手のかかる家族くらいになってきている今日この頃。そうこうしているうちに、ペンシルゴンとの待ち合わせ場所であるサードレマが見えてきた。

 

 装備を対単体ボス想定の構成から、対複数プレイヤー想定に切り替える。

 

 残念ながら、ユニークシナリオなんて話はなかったらしい。

 

「よう、オルスロット。元気しとん?」

「おう、おかげさまで最高の気分だよ」

「姉の方は?」

「いねぇよ」

 

 今回は黒幕気取りか……虎人の好感度が5下がった。

 四駆八駆の沼荒野を超えて少し歩いた先で、出迎えるように立っていたのは最大手PKクラン:阿修羅会のリーダーであるオルスロット。

 彼に先導させ、並んで歩く。

 

「先に聞いとく、今回は何が欲しいん?」

「”超越速”の情報の出所」

「ほな、倒してもらわなあかんな」

 

 掲示板などで何かとバカにされがちなオルスロットだが、実のところワイちゃんは嫌いではない。人物的には姉の方が好みだが、能力的には弟の方が好ましいとさえ思う。

 それは優劣ではなく種類の問題で、ワイちゃんはペンシルゴンの真似はできてもおそらくオルスロットの真似は出来ないと考えており、ある種のリスペクトをしている。

 

 元々阿修羅会という組織は弟が立ち上げたものを姉が派手に躍進させ、その後弟が地道に大きくしたクランである。本人のやりたいことや好み、ついでに善悪好悪は別として、手堅く普通の選択ができるからこそすごい男だ。生き方そのものが花火みたいなペンシルゴンとは、およそ方針が合わないのは想像に難くない。

 

 大抵の連中はオルスロットが全盛期の阿修羅会を現在に至るまで腐らせたと言っている。否定はしないが、ワイに言わせれば腐るまで大きくするのだって能力と根気が必要だ。そこを無視されるのは正直気に入らない。

 

 ……まあそれはそれとして、今のヘボな阿修羅会は嫌いだが。ペンシルゴンが居なくなるか、あるいは何か理由があれば壊滅させたいと考えていた。

 

 ワイちゃんはどうも個人の弱さは許容できても、それが一箇所にかたまると不快感を覚えるらしい。我ながら勝手だ、自覚がないだけで人間嫌いなのかもしれない。

 

「ここら辺でええ?」

「ああ。すぐ集まる」

 

 ワイちゃんは()()()()善き人でありたいと思うし、そうあろうと努めている。

 だがあいにく自分自身が理路整然な人物だとは思わないし、そうありたいとも思わない。

 己の最果てを求めるにあたって、それは明確に邪魔だからだ。

 

 見渡す限りのPK、ざっと50~60人。

 

 戦闘を回避することだってできる、だがしない。覇者(チャンピオン)は挑戦を拒まない。

 もし向こうが勝てたら望みを叶えるつもりだ。だが……

 

「ちょうどええ大義名分や」

 

 順番を守らず挑んできた以上、示しをつける必要がある。

 

 

 


 

 

 

「なにあれ」

 

 一面に広がる夕焼け空のごく一部にだけ、貼り付けたように青黒い星空が広がっている。

 

 サードレマの西門が見えてきたあたりで、その真反対の東側に初めてみる光景が広がっていた。私だけでなく周囲の、いやサードレマ近辺のあらゆる全てのプレイヤーがそれを見上げていた。

 

 ついで、一斉に驚きの声が上がった。

 

「はぁ!? 流星群~!?」

 

 目の錯覚では断じてない、誰もがそれを認識している。

 メテオだ。

 空から、いやその不自然な星空からだけ隕石が落下し、サードレマ東門前辺りに墜落している。

 

 何かのユニークシナリオだろうか。

 

「約束までまだまだだし、ちょっと行ってみるかな」

 

 皆考えることは同じなようで、各々様々な速度で東へとかけていく。

 街中も同様で、その場を離れられない者を除いてあらゆるPC・NPCが一律に移動し人の激流が生じている。

 

……そして東門が見えてきた辺りで、見知ったエンブレムを装備にペーストした連中が、流れに逆らい、明らかに逃れていた。

 

「ちょっとあんた達、雁首揃えてなにやってんの」

 

 阿修羅会の弱兵たちを呼び止めるが完全に無視される。……いや、聞こえていないようだった。狂乱状態と言ってもいい。

 猛烈に胸騒ぎがしてきた。出版社の都合で特集記事のページを減らされる時のような、明確な不利益の予感だ。

 

 東門前には既に人だかりが出来ており、それをかき分けて最前に躍り出る。

 最初に見えたのは、クレーターだらけで元の面影すら無くなったサードレマ東門前。

 

 次いで目に入ったのは、十人から二十人のプレイヤーがPKされたのであろうドロップ品の数々。

 

 そして最後に見えたのは、己の持つ剣で首を深く切られている愚弟の姿だった。

 

「虎人くん……?」

 

 惨状の中心に立っていたのは男くさい趣味丸出しな虎の覆面レスラー風アバター、昨日の今日で話題沸騰中の彼だった。

 

 彼は周りをぐるっと見渡した後で、足元に転がっている剣だけを拾ってこちらの方に歩いてきた。

 

 目が合ったところで、近づいてくる。

 

「今更来たん? しょーもな」

「……会って早々なに?」

「サイガー100と十六さんから話は聞いとるんや、予行演習までしといてとぼけんな」

「は……?」

 

 明らかに会話をする気がない。……基本的に話しができるタイプの彼が、それを拒否している。

 間違いなく愚弟が、いや恐らくは阿修羅会が彼の逆鱗に触れてしまっているようだった。

 

「……まあ、ちょうどええ。オルスロットの根性に免じて、これだけ返したるわ」

 

 言動に溢れんばかりの感情が乗っている普段とはまるで違う、どこまでもつまらなそうな平坦な声でそう言いながら手渡してきたのは三つの武器。全て見覚えがあった。

 愚弟のメイン武器、京極ちゃんのサブ武器、そして私の槍サブ武器だ。

 

「……阿修羅会(おまえたち)を潰す理由ができた」

 

 義理は果たしたとばかりに、そう言い捨てて去っていく。呼び止めても止まらない。

 

 それは明確な死刑宣告だった。

 

 

*1
オリジナル設定。シャンフロってこういうとこあるよね。

*2
ストライクを三回連続とること

*3
このユニバースでは、猿渡哲也という概念が世界トップランクのコンテンツとして親しまれています。





ペンシルゴンがシャンフロにおいてセッちゃん関連以外日頃の行いが良いとか、筆者は1ミリも考えていません。

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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