シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
真白い月と辺りを囲むかがり火により照らされたファステイアの一角。
人混みの中でも一際目立つ、鬼神じみた巨漢の鎧武者の姿を見つけたのは、『顔はやめろよ? 絶対にやめろよ!?』というサバイバアルの言葉を聞き流していた時だった。
「おーサイガ-
「あの、虎人さん……今に始まった話じゃありませんが、今度は何をやっているんですか?」
「ワイちゃんこれから
「
いつのまにやら集まった
「というか、わざわざファステイアまで応援に来てくれたん? 完全にファンやん、うれしいわぁ」
「……クエストで滞在しているだけです、着せ替え隊の皆さんがにぎやかになる前から居ました」
「そうなん? 声かけてくれたらよかったのに」
「周りにフレンドだと思われたくなかったので……」
「結構言うやん自分。まあええわ……失礼ついでに試合の立ち合い頼んでええ? 対戦相手がティーアスちゃんな以上、
前回、試合前の演出をすませて
『10分で行く、ウチが着く前にくれぐれも始めないでね? 始めてたら蹴るよ!?』
『2戦目の相手が決まったな』
1分で来て飛び蹴りをかましてきた。
なんでも別ゲー配信中のコメントに『お宅のタイガーマスク
最近手に入ったけど貴重すぎて自分では使い道を見い出せず『そのうち誰か使うやろ』くらいの感覚でクラン倉庫にぶち込んでおいた【
シデンライガという
ちなみにワイがキャラメイクに費やしたのはたぶん五分くらい。初期アバターから筋肉量と髪型を変えて顔の年齢を+10歳くらいにしただけ。
『こっちのほうが絶対数字になる……! なんでウチに一声かけてくれなかったの!?』
着せ替え隊と遊ぶ旨は三日前に伝えて『ふぅん、あぁそう……』って一瞬で興味なくしてたのは向こうだったはずなのに、まったく理不尽な言い分だった。
とは言え、急な撮れ高に三人のカメラ役という最低限のメンバーをほんのわずかな時間で手配したのは、流石はライブ配信でご飯を食べているプロと言ったところだった。
「ところでサイガ-0、紹介するわ。結構な有名人やから知っとるかもやけど、こちら着せ替え隊リーダーのサバイバアルや。ついでに言うと元阿修羅会の最上位メンバー、強いでぇ」
「あ、どもッス」
「アッハイ、サイガ-0です、よろしくお願いします……一応、
「近接での駆け引きは非常に参考になるからの、後で勉強させてもらうとええ。サバちゃん、このサイガ-0はそのうちサイガ-
「……善意がズレてんぞ虎人、誰もが俺やお前みてェな
(ホントですよ……)
思ったよりイマイチな反応だった。ワイちゃんだったら
「まあそれならそれでええわ。……たぶんやけど、自分ら二人がトップギルドの代表メンバー扱いで雷牙の姐さんの『実況』に巻き込まれると思う。謝礼は出すから覚悟だけはしといてや」
「あ゛ー、そういうことか……だったら俺にはティーアスたん垂涎の
「ええよ。……あとついでにこれやるわ、『しょっぱいものも食べたい』言うてたし」
「アザーーーーーーーーースッッッ!!!!」
チョコレートのついでに『”ぽんぽこサド太郎”の高級練り物セット*2』を持たせてやるやいなや、観衆による円状リングの対角線上……着せ替え隊によるティーアスちゃん餌やり体験会場と化している辺りへダッシュしていった。
「サイガ-0もなんか欲しいもんあれば言うてくれや。ワイちゃんに可能な限りなんでもええで」
「……今、
「え、なに? こわ……」
この子ナニ要求するつもりなん……? そう身構えていると、変態の声が聞こえてきた。
「アッッッッッッ!! ティーアスたんが俺のちくわでこんなに悦んで!?!? ハァァァァァァァンンンン……」
「くれてやる物のチョイスミスったなぁ……とりあえずサイガ-0、何かいうてみ?」
「……では、私は考察クラン『ライブラリ』との個人として
「あん? そんなんでええんか、その程度なら姉に頼めばええやん」
「それだとあくまでのクランの一員としての繋がりになるのが不安でして。……それに目的はあくまでも個人的な、シャンフロの世界観について今のうちに詳しく勉強しておきたいというものなので」
……あぁ、
全てを理解したワイちゃんはライブラリのリーダーであるキョージュへDMを飛ばした。
ワイは普段からライブラリにはボスの攻略情報やユニーク装備のフレーバーテキスト、ギルド内で秘匿する必要が無いと幹部会で全会一致となったクエストや情報アイテム等々を積極的にライブラリに開示している。
なぜそうしているのかという理由は、シンプルに連中が知りたがっているからというのと、彼らに情報を与えることは大多数のプレイヤーの成長に寄与するためだ。
……嘆かわしいことに、シャンフロにおいては秘密主義が蔓延しているきらいがある。
シャンフロにおける情報の価値は非常に高く、特に限定の報酬が手に入るユニークシナリオを個人やクランで独占することができたなら明確に他プレイヤーより優位に立てる。
そのために一部の上位プレイヤーがユニークを独占している状況が確かに生じており、初心者をはじめとする大多数のプレイヤーはエンドコンテンツに挑むことすらもままならず成長の機会をも奪われている。
現・阿修羅会を代表とするDQNギルドのように、一プレイヤーが発見したユニークの情報をリスキルして奪うような連中が
サービス開始から1年と経っていない中でこれだ、今後もそれらの開きは大きくなっていくだろう。
そんな不健全な環境では、楽しく戦える新しい強者が台頭しにくくなる……そう考えた末に、ワイは雷牙の姐さんと一緒になって”PvP配信・研究、初心者支援クラン”であるリョーザン・パークを打ち立てた。
……ごめんちょっと見栄張った。
もともとは単なる初心者育成目的の情報共有ギルドだったのが、姐さんとワイ自身の影響力を侮っていてモチベーションの高いプレイヤーが想像よりも集まり、その結果として今の大所帯になったのだ。
集団の活動となる以上どうしても自己利益の追求は必須なため、ワイの意向が全て汲まれる訳ではない点は割り切りが必要だが、個人で気に入らない奴らを殴って回るよりは遥かにゲームの健全化に貢献出来ているだろう。
綺麗事を並べたが……要は頭のおよろしい連中のくだらない小競り合いによって、ワイの楽しみが奪われている事実が我慢ならなかったのだ。
「とりまライブラリのリーダーに、『ワイへの借りを黒狼所属のサイガ-0個人へ返すように』と言っといたで。明日以降にでも連中の拠点に行ってみ」
「そ、そこまでしてもらって良いんですか!?」
「かまへん、元から見返りも期待しとらんかったしの」
とまあ長くなったが、ワイにはワイの目的があると常々言い聞かせながらライブラリには情報提供をしている。
……のだが、連中からすれば
そんなに怖いかな? まあ怖いか……ワイと梁山泊は最強やし。なんなら仁義破るような輩が居ればこれ幸いとばかりに殴りこむメンバーも多いわ。
ちなみにワイは良い子だからちゃんと許可貰ってからやる。
あと初心者云々言っておいてなんだが、闘技場PvPのボーダーリスト上位を梁山泊メンバーで埋めたことが何度かあり、あの光景はなかなか気分がよかった。
とにもかくにも、時々謎解きなどで知恵を借りる機会はあれど、貸しは増える一方であったためサイガ-0の希望は渡りに舟と言える内容だった。
サイガ-100、雷牙の姐さん、サイガ-0。
三人も代わりが居れば、ライブラリの面々も多少はワイちゃんの顔色を伺わずに話せるようになるだろう。
「ありがとうございます!!」
感極まっちゃって、ホンマにええ子やなぁ。
……とはいえ、蘇生アイテムくらいは包むつもりでいたため、正直拍子抜けだった。
ここまで一途に懸想されるなんて、どこの誰かは知らんがきっとええ男なんやろうな。将来的にシャンフロプレイし始めた時は是非フレンドになりたいものや。
……さて。そろそろ配信準備も終わりそうや。
地面から胸元程度の長さで飾り気がない隕鉄製の魔法触媒『夜杖・残身』を左手に持ち、
「ほふぁふぁへ」
「いやゆっくりお食べよ、待たせてるのは
プレイヤーメイドの高級笹カマボコを咥えた白スク幼女にお茶を出しながら、胡坐をかいて待つという意思を示す。
結構な量の食べ物を口にしたというのに行動に支障が出ている様子がないのはゲーム的な都合か、それとも彼女にそういったスキルがあるのか。
「……もう少し時間がありそうやな。ところで、賞金狩人的にこんな観衆に囲まれて闘うのって大丈夫なん? 情報とかそういうの」
「ごくんっ……ふーっ。問題ない、手の内がバレても私は勝つ」
「そら、あんな超スピードならそうか」
ティーアスちゃんは最速のNPCと名高い存在だ。
特に彼女の代名詞たる”
単純に速度が25倍になるというのならワンチャン迎撃できなくもないが、こちらの速度まで下げられてはカウンターもかいくぐられること必至だ。速度差が同じでもそれらは体感的な部分で大きく違うのだ。
おまけに彼女が速度に振り回されている様子が報告されたことはないため、スキルの付随効果か素のスペックなのかは不明だが超スピードでもしっかりと目が追いついているとみていい。
何人も彼女に追いつくことは
言うて、今回ワイちゃんはその”超越速”を攻略するつもりでおるけど。
”覇者”の勝利とは、ただ勝ちを拾うだけであってはならないのだ。
「あと、
「実際ティーアスちゃんも負けとらんで?」
というか着せ替え隊のことはしっかりキモいと認識しとるんか、シャンフロのAIすごいなぁ。サバちゃん、もう少し身の振り方を考えたほうが良いと思う。
「……ところで、その杖が”覇者の証”? よく見せて」
「あー、そうやな。どいつもこいつも『出禁杖』呼ばわりしてくるけど」
「デキン……?」
「いいや何でもない、はい」
「ありがとう」
ざっくり二か月と少し前。大月輪を二連覇した少し後、シャンフロ運営から公式トーナメント
「……頭領が言ってた、これは『彼方の星の意思』だって」
「対戦前に新情報お出しするのはルールで禁止スよね?」
素材のフレーバーテキストにも『”彼方のまほろば”からの貴方への贈り物。母なる星、その無念。』とかなんとか書いてあったが、どんな性能の装備が出来上がるのかそればかりが気になってテキストに込められた意味とか一ミリも考えなかった記憶しかない。
確かなことは、この杖を手にした瞬間に『覇者』の
称号は見た目も含め気に入っており、プロフィール欄に設定している。星のカービィみたいな感じが実にいい。
『超越速、ティーアス』VS『星を掴む者、虎人』
……ええやん。今回のアーカイブのタイトルは決まったな。メモを取っておいて後で姐さんに提案しよ。
「どれほどなのか、私が見極める……
「あーん? なに、もう勝った気で——」
『虎人くん、お待たせ!! こっちの準備OK!!』
【拡声魔法】を通して音量が大きくなった雷牙の姐さんの、真冬に春の訪れを錯覚させるほどにハツラツとした声が
「ティーアス、リングはこの観衆程度の広さで問題は無いか」
「……問題ない。口調、どうしたの?」
「気にするな、キャラ付けというやつだ」
語るも涙、聞くも涙なのっぴきならない事情がある。
NPC受けを意識した覇者ムーブのために
何者へ向けた恨みか? 運営。*3
「……いいぞ、リングを展開しろっ!」
この
内外の干渉が基本的に不可能となった状況下で、【霊体化】を施し『
『配信画面でお待ちの皆様、そしてこの場にお集まりの皆様……大変長らくお待たせいたしました。これより、
オオッ!!
闘技場での興行ほどでは無いが、その場に集まったPCとNPC達の歓声がファステイアの一角で響き渡った。
よほど慣れない状況なのか若干の戸惑いを見せているティーアスに、視界の外のサバイバアル達が大きく息を漏らしている。
『改めまして、今回実況を担当致しますのはクラン:リョーザン・パークのリーダーの
雷牙はカメラを意識操作すると、『え、えっ!?』と状況に追いつけないでいるサイガー0の姿を配信に映す。
『まずは今回の審判役を引き受けて頂きました、クラン:黒狼所属のサイガー0さんです! よろしくお願いします!!』
『よろしくお願いしま、あ、する。……ところで、審判といっても、なにをすれば?』
『はい! 今回のルールは梁山泊独自の対NPCレギュレーション……ぶっちゃけ闘技者のどちらか一方が無力化されるまで闘うというのと、覇者側がNPCをキルした場合は反則負けという以外に大したルールはありませんので、試合開始の合図と試合終了の合図を貴女の判断でお願いします! あ、カメラの位置とかは気にしなくても大丈夫だよ。4カメまであるから』
「私は危なくなったら——賞金狩人の撤退基準まで追い込まれたらリタイアする約束……ありえないけど」
説明が足りていないぞとばかりに私と雷牙へ交互に恨めしげな視線を向けてくるサイガー0を無視し、雷牙はバトルフィールドの外に待機しているサバイバアルの傍にかけていく。
『続きまして、今回主に解説をお願いするキモいロリコン……もとい、クラン:ティーアスちゃんを着せ替え隊のリーダーであり、元・阿修羅会の最上位PKの一人であったサバイバアルさんです!』
『何がキモいだゴラァ!!』
『主にロリコン部分を否定しないところですかねぇ。不本意ながらよろしくお願いします! まあそんなことはさておき、急遽始まった覇者VSティーアス……今回の試合についていかにお考えですか?』
『いや、いかがもなにもねェよ。虎人のやつがティーアスたん相手にどこまでやれるかに尽きるだろ』
そうだろう。今回集まっている観客たちは皆、人間がどうにかできる性能をしていないNPCを相手に、シャンフロにおける
……つまり大半がこの私の勝利を期待していないのだ。
『なるほど、反応を見る限りは皆様も同様にお考えのようですね。……それではサイガー0さん! 貴女は今回の試合をどう見ますか!?』
『……私もおおむね同意見で——だ。そもそもティーアスは人間が勝てるように設定されているとも思えない。だが……』
『だが、なんでしょうか!?』
『……今この場にいないサイガー100はそうだとは思っていないようで。「手持ちのマーニを全て虎人の勝利に賭けておけ」と、DMで指示が飛ばされてきました』
『なんと大胆……! 黒狼のリーダーは覇者の勝利を確信しているようです!』
「フッ……これは、負けたら大目玉だな」
元からそのつもりは微塵もないが。
きっと配信を見ているのであろう一番弟子、そして最大の好敵手たる彼女に無様な姿は見せられない。
たんと稼がせてやる代わりに、週末には
『では最後に、闘技者のお二人から意気込みを頂戴しましょう! ティーアス選手、なにか一言、お願いします!』
と、今はおそらくカップ麺でもすすっていると思われる友人のことを考えていると、いつのまにか雷牙がそばまで来ており、中腰になり【拡声魔法】の魔法陣的なものをマイクのようにティーアスの口元に近づけている。
『ん。私は強い、だから勝つ。いつもと一緒』
『ありがとうございます! 当然のように勝利宣言だぁぁぁ!』
……あぁ、そういえばさっき一方的に言われたままであったことを思い出した。
『それでは覇者! 今回の意気込みをお願いしますっ!』
『意気込み、という程でもないが……一つ、ティーアス
「……思い違い?」
ティーアスを正面に見据えるように身体の向きを変え、ゆうに五十センチは身長差がある彼女をあえて
『——勘違いするな。私が君に試されるのではない、君が私に
「そう……
『おおおおおおおっ!! 両者すでに白熱しております!! 一体どのような試合になるのか、期待に胸が高鳴ります!! ……それではボクは実況席へと戻りますので、サイガ-0さん、試合開始のコールをお願いします!!』
「えっと、では……両者離れて!」
サイガ-0に促され5メートルほどの距離を取り、互いを遮るサイガ-0の腕越しに睨み合う。
「二人とも構えて……準備はいいですか!?」
「愚問だな」
「早くはじめて」
私は左手に持った杖を立て右手を小指から添えるように迎撃の構えを取り、ティーアスは両手に短剣を持ち……腰を落とし腕をダラリと下げ、機動戦の構えをとった。
「——始め!」
「【
「”
「【追いすがる者たち】」
試合開始とほぼ同時に呪術師系の追尾魔法を自身を包囲するように展開すると、その直後に眼前からティーアスの姿が消えた。
『き、消えたぁ! ティーアス選手の姿が消えてしまいました!』
『いいや、虎人の周りを高速で移動している。ティーアスたんが使っている三つのスキルの一つの”超速”……早すぎて人間の目じゃ追えねェ』
『その名の表す通り音速……! どう対処する覇者!?』
ああ、これは見えない。
ティーアスがすぐにでも飛び込んでこないのは、私の魔法が遮蔽になっているから……と、思わせようとしている感じがあるが、まあいいだろう。
賞金狩人による
であれば、これまでの賞金狩人達が『足が止まったタイミングを捉えられ、例外なく一撃で、かつ低ランクで威力も低い
『ティーアス選手切り込まない……いや、覇者の魔法が邪魔で切り込めない!』
『いつ見ても吐き気がしてくる魔法だァ……一体どれだけの近接プレイヤーをこれを起点に殺してきたんだろォな? Boo!! Boo!!』
『観客の一部からもブーイングだぁ!! Boo!! Boo!!』
生者特攻を持ち微小の全ステータスデバフ効果がある、ゆっくりと敵を追うハンドボール大のさまよう
気を付けていればよほど鈍重でない限りは歩きモーションで回避できる程度のスピードだが、その真価は何かに命中するまでは三分以上自然消滅しない高い拘束力にある。
メインジョブ:魔修羅の仕様により
だがここまで威力を上げれば三つか四つも当たれば大抵のPC・NPCには痛手となり、立て続けに六つも当たればデバフ量も馬鹿にならず基本死ぬ。
特に魂魄の処理手段がなかったり、スピード特化で紙装甲の
ティーアスのステータスの詳細は不明だが、まさか防御面まで高いということは考えにくい。
確かトゥール、だったか? この【追いすがる者たち】始動の戦法はダブルシールドのマッチョな彼に使用済だ。
だからこの情報も
ギィィィィィィンッッッッ!!!!
「…………ッ、見えていた? いや違う……」
急襲してきたティーアスの初撃を、杖だけを背に回して受け止める。
まあ、そうだろう。
賞金狩人達の中でも絶対的なスキルを持ち、その能力あるいは実績に自負があり……そして最も
ちゃんと情報の共有がされているようでやりやすかった。
「……ーー!」
続く二撃目も防ぐが、杖が視界の外の何処か——右後方へと弾き飛ばされた。
『マ、ジ、か、野郎……!?』
『速すぎて見えない!? お、おそらくは浮遊する弾幕を潜り抜け、みごと背後から仕掛けたティーアス選手の初撃……しかし覇者は防いだァ!!』
『だが杖が手から離れた、背中ガラ空きだ……!』
続く三撃目が背に突き刺さる……
「”
「……!」
刃が届くよりも先に、
小さく軽い、ティーアスの未成熟な身体が宙を舞う。
……他の賞金狩人達には見せていなかったが、私の本職は
『初撃を制したのは覇者だああああああああああ!!』
『本当に人類なのかあの野郎!?』
失礼な、同じようなことが出来そうな人類は私の知る限りでも数人はいるぞ。ラストサムライおじいさんとか。
それよりティーアス、いま自分から飛んだのか? ……いや、それにしても妙な感触だった。
「【杖よ、我が手に】」
魔法の効果で飛来してきた杖をキャッチしながら、後方へと飛んで行ったティーアスの方へ向き直る。
身体が魂魄に触れた痕跡はない、短剣が両手から離れている……投擲したのか、ならば次は防げまい。
知っているぞ? ”超速”使用後は疲労硬直状態になることを。
「【火牛のアカンアカンアカンッ!! フ、【ファイアーボール】ッ!」
対プレイヤー戦の癖で確実に仕留められる広範囲高火力の魔法を打ちかけ、あやうく
そして、その判断の遅れにより最初の勝機をとりこぼした。
『ティーアス選手、ギリギリのところでスペルの効果範囲外への回避に成功ッ!! ちなみに梁山泊は対NPCの試合において、いつでも蘇生アイテムが使用できるようメンバーがスタンバイしております。……ただ備えをした上でも万が一の事態はありますので、覇者がNPCをキルした場合は問答無用で敗北とするルールを設けております』
『その
なんにせよ仕切り直しだ。
……しかし、先ほどの蹴りの感触はやはり妙だ。
ティーアスの体重を30キロ前後と仮定して、伝わってきた重さは同程度。少し前に
しかし足に伝わってきた感触が肉を打った時のそれではなく、身体との間にサンドバックを二つ挟んだように鈍く、衝撃の通りが悪すぎた。
魔修羅のメインジョブ効果により、物理攻撃も
バフ無し+敏捷特化ビルドPCを相手にした場合を仮定して、HPの八割弱は削れているはずの蹴りだった……にも関わらず、ティーアスは大したダメージを負っていない。
さらに言えば、そのことに彼女の方も困惑しているようだった。
「……本当に試合前と同じ人? 威圧感が別人みたい」
「よく言われるよ。ところで想定よりも疲労硬直が短かったが……何かのスキルか?」
「……私が特別なだけ。それよりさっきの蹴り、タイミングは良かった……なのに全然効かなかった、なんで?」
「いや、なんでって……」
お互いに構えは崩さず、しかし不可解な事態に手が止まっていた。
そしてその答えは、解説席から飛んできた。
『それにしても、覇者の反撃の威力は申し分なかったと思うのですが、ティーアス選手に効いている様子がありませんね。……なにか理由があるのでしょうか?』
『ああ、それはティーアスたんが着ている
『ロクでもなさそうですね、解説をお願いします!』
実況と解説の会話に気を引かれ、まるで照らし合わせたかのように闘技者二人が武器を下ろす。
私はティーアスに向かって両手でタイムの『T』の字を作ると、それに対しティーアスもまた小さな顔を縦に振って返してくる。
『おう。……あの胴装備は魔法使用が実質不可能になるのと、物理攻撃と水以外のーー無属性魔法も含む各種攻撃に対する被ダメージが大きく増加する。その代わりに、物理および水属性に対し絶対的な防御性能を発揮するんだよ』
『えぇ……あんなネタ装備にどうしてベストをーーあ、たった今製作者のゴンブトリオンさん本人からコメントが届きました。「金虎さんを信じてティーアスたんの名を刻みました。濡れると透けます!!」……
「……もしかしなくとも【追いすがる者たち】の時点で命にリーチかかってた?」
「…………蹴り飛ばされた時、かなり危なかった」
「「————」」
瞬間、闘技者二人の心が一つになった。
完全に戦闘態勢を解除した
「おうサイガ-0、試合一時中断や。あと、そこ退いてくれや」
「もっと離れて、巻き込まれる」
「え? はい……」
『あれ? 中断……? ちょっと虎人くん! 今配信ちゅ「【火牛の計】ィ!!」爆破テロ!?』
タイマンフィールドを爆発が伴うスペルで派手に消し飛ばす。
フィールドによって周囲に被害は及ばないが、煙が目くらましとなり——
「サバイバアルてめぇこの野郎ォッ!!!!」
「~~~~ッッッ!!」
『な、なんだァっ』
試合前に新情報お出しするなとは言ったが……NPCの命にかかわる大事な話は試合前にしろやクソボケェ!!!!!
「やれッ」
「しゃあっ」
『はうっ!』
ワイが殴ると数発で終わるからの、推しの手によりなるべく長く苦しめたるから泣いて喜べや……!
『ティーアスたんが捕まるとは一ミリも思わなかった』などと供述していたが慈悲は無い。
無表情の怒れるティーアスちゃん(E:夜杖・残身)によるバットスイング殴打が、彼女の溜飲が下がるまで続いた。
サバイバアルは惨たらしく死んだ。
そして幼女ちゃんになぶられ喘ぐその無様は、向こう数ヶ月間ネットのおもちゃにされるのだった。
次回にはペンシルゴンとの前日譚がまとまる……といいなぁ。
【霊体化】:アバターが擬似的に霊体化する本作オリジナル魔法。【闘儀結界】のようなフィールドを素通りしたり、【追いすがる者たち】のような生物を追尾する魔法などの対象外になるなど影響さまざま。
【追いすがる者たち】:本作オリジナル魔法。本来はデバフがメインという性能で威力はオマケ程度。完全詠唱で使用した場合は玉一つにつき対PCでは10%、1部を除く対Mobには5%全ステータスが低下する。PvPにおいてはその鬱陶しさもさることながら、「装備の要求ステ満たせなくなっちゃったね? かわいそ」ということも発生する。
”瞬きの一閃”:本作オリジナルスキル。「たぶん抜刀術なんかと合わせて使うデザインなんやろなぁ」と思っているが、虎人くんは実戦で刀を使う予定は無い。行動の加速やキャンセルなど用途が非常に広く、使い所を見極められるなら有用なスキル。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも