シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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替え玉できるタイプのとんこつラーメンが好きです。


2 サンラク、熱々のラーメンは美味いやろ

「オラっ! 当店自慢の『極味味噌(きわみみそ) -芳-(かんばし)』を喰らえ!」

「味噌でスコア280超えやと!? ならばこっちは『塩 -純恋(すみれ)-』! スコア304や!」

「かかったなヴァカメ! 俺はここで『店主のこだわり手打ち麺』を発動だ!」

「このタイミングでプラス150円!? 正気か!?」

「チャーシュー無しのこだわり路線が裏目に出たようだな?」

「……ここで切らされるのは予想外だったが、ワイはここで『地産の柚子』を発動や!」

「ちっ……やっぱり握ってたか。だが問題ない、これで勝負だ!!」

「「カウンター席へどうぞぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

 ラウンドが開始されマネキンみたいな顔をしたコンパチモブの客達(カモども)が俺と対戦相手の(フィールド)に殺到する。

『らうめん 陽楽(サンラク)』自慢のラーメンを心ゆくまで堪能してもらおうか……!

 

「やれんのかラクぅ! ワイちゃんの『純恋』はスコア320で980円! お前のラーメンはスコア315で1100円……『1000円の壁』まで超えるお前に勝ち目は無い! このラウンドは貰いや!」

「それはどうかな?」

「なんだと……はぁ!? 馬鹿な!? こ、これは一体……」

 

 開店当初の豚骨スープを戦力(スコア)のため完全に捨て塩専門に方向転換した『虎亭ラーメン』の店主(プレイヤー)・虎人が煽ってくるが、自らの敗北が既に決していることに気付いていないとは滑稽でしかない。

 

 言われて気づいてももう遅い、店に集まるマネキンモブの数は俺の店の方がずっと多いのだよ……!

 

「あ、ありえへん……スコアも値段もワイちゃんの方が勝っているのに……何をやったサンラク!?」

「ククク……俺は既に『店主のこだわり七か条』を発動していた。これにより値段の高さは客を敬遠させるのではなく期待を高めるパラメータに転じたということだ! ……大衆がラーメンではなく情報を食べているという大前提を忘れていたようだな?」

「そ、そこまでの小癪が許されていいのか!? ち、チクショおおおおおおおおお!!!!!」

「ご来店ありがとうございましたああああああ!!!!!」

 

 対戦終了(へいてん)と同時に輝かしい『YouWin』の文字が天高く浮かび上がる。まだまだ小癪さ……否、ラーメンへの『美意識』が足りていなかったんだよお前はな。

 

 

 

 

「……んで、完走した感想ですが、このゲームの存在が大多数のラーメン屋に対する愚弄やと思う。なんで育成の結論が小癪系ラーメンやねん」

「操作性悪いって話だったが最低限遊べる範疇だったしネットのクソゲー評価に最初は首を傾げたが、ストーリー進めるにつれて一生『うぜぇ』しか言えなくなって精神衛生ズタボロだわ……」

「途中何度か小癪通り越してシンプル癪やったし、これで保健所動かんのはアカンて」

 

『ザ・キング・オブ・ラーメンズ ~魂の1杯~』

 通称『雑菌』と呼ばれるこのゲームはVRMMOラーメンシミュレーション戦略対戦ゲームという全く新しいジャンルで発売され、一般的にはクソゲーと評価されている。

 

 プレイヤーはそれぞれが店主兼職人としてラーメン店を経営し47都道府県でシェア1位を目指すというのがメインストーリーで、ラーメン制作スキルや材料の品質等を高めて自作ラーメンのグレードを上げライバル店を倒すというのがおおよその流れである。

 

 さて、そんな雑菌がなぜクソゲーの評価を受けているのかと言うと操作性の悪さやグラフィックのクオリティも確かにあるが……ゲーム内でラーメンの評価(せんりょく)を高める方法というのがラーメン本体のみならず付けられた名前や売り方などを含めトータルで()()としての意識をいかに高めるかにかかっており、いわゆる『意識高い系』あるいは『小癪系』ラーメン店を追求することを強いられる点が数少ないプレイヤー達のヘイトを買っていた。

 

「トラちゃん的にどのラーメンが1番小癪だったよ? 俺は大阪ボスの『極味醤油 サリエル』……ラーメンに天使の名前付けてんじゃねぇよ」

「あー、辛口ラーメンの『ディアブロ』が普通に思えてきたタイミングにあれはキツかったわ。ワイちゃんはつけ麺チャレンジボスの『Your Story』が最高にムカついた。トッピング全部別皿に添えただけでいい気になりおってからに……」

 

 俺こと陽務(ひづとめ) 楽郎(らくろう)と、トラちゃんこと周布虎斗は二人でクソゲープレイ後恒例の『やなとこ探し』を行う。

 共にクソゲーを乗り越えた同士だからこそ語り明かせるものがある、ネットでプレイもせずにこき下ろしている連中はゲーマーの風上にも置けないと思う。

 

「……そもそもなんでワイちゃんはたまの土曜日を()()()クソゲーの付き添いプレイに費やしとるん?」

「『便秘』の勝敗トトカルチョで俺が勝ち越したから」

「せやった。あの鉛筆拳士とかいう新規プレイヤーがいい線いくどころか作戦勝ちしたのは全く予想外やったわぁ……」

「まあ俺とカッツォで揉んでやったからな」

「初耳だが??」

 

 友達とは苦しみを分かち合ってなんぼだろう、普段クソゲーを避け今は神ゲーにお熱な友人の苦しむ姿からしか得られない栄養がある。

 誘われたからってクリアまで付き合うあたり間違いなくクソゲーハンターの適性が高いのだが、本人は厳として認めようとしないのは惜しいところだ。

 

「そいやカッツォのやつ『調整付き合って欲しいのになかなか捕まらない』ってボヤいてたけど、お前今なんかやってんの? ボクシングはこの前試合やってたし、シャンフロの方か?」

「せやな、ちょうど明日やるゲーム内イベントの準備しててん。この後も打ち合わせや」

「明日かぁ……雑菌クリアしてやること無くなったからお邪魔したかったんだけどな」

 

 トラちゃんの自宅にはVRゲーム黎明期以前のディスプレイタイプのレトロゲームが大量にある。

 小学生の頃から何かとお世話になっているお祖父さんが気合いの入ったゲーマーで、比較的最近のものから無印ファミコンといった博物館クラスの()レトロなゲームまで置いてあるゲーマー垂涎の専用部屋を2世帯住宅の中に2つも設けているのだ。

 

「明日? えらく急やな、いつもならロック()ロールで新しいクソゲー漁るんになんでまた」

「ロックロールな、岩巻さんの前で間違えるなよ? いやさ、中学の頃同じクラスだった『どうぶつの村』ガチ勢の瀬戸口さんと昨日ちょっと学校で話してさ」

「ああ……まさか、ついにクソゲー沼から脱したんか!? やったな! シャンフロやらいでか!」

「いやそれはない」

「シンプルキレそう」

 

 ことある事にシャンフロに引きずり込もうとしてくるトラちゃんだが、今のところ本当に食指が向かないんだよ。

 

「『どう村』は今なお続くビッグタイトルの一つなのはあまりにも有名だが、あるナンバリングの最初期ロットだけマスクデータがめちゃくちゃなクソゲー状態だったって話を聞いてさ、トラちゃんのお祖父さんならワンチャン持ってるんじゃないかと思ってさ」

 

 ネットで軽く調べた情報だが、ゲームを進めるのに敵でもなんでもない友好的な住民たちをアミとか釣竿でシバき回す必要があるとかで『どう()つの』とネットで話題にもなったらしい。

 DL版との交換やソフト自体の無料交換対応もあったのだが、お祖父さんは相当な数寄者(マニア)だから初期版を持っている可能性があるのだ。

 

「あー……たぶんあるで、同じタイトルが2本あったんが気になって聞いた事ある」

「マジ!? ネットで調べたらバカみたいにプレミアついてて半分諦めてたんだよ、明日行って良い!?」

「お土産次第やな」

「父さんが釣ってきたブリの切り身」

「心の友よ、おじいちゃんには話しておくぜ」

 

 昔から食い物に釣られる話の早(チョロ)さが変わらなくてとても安心する。

 

 ボクサーのくせに食い意地張ってて良いのかと過去に思うことがあったが、こいつは練習のしすぎで栄養失調になることがしょっちゅうなんだよな。きっとこのくらいでちょうどいいんだろう。

 将来は胃袋掴まれて結婚とかしそう。

 

 

 

 

 

 

 小癪系潤塩(誤字にあらず)の虎亭ラーメンを畳んでシャンフロにログインしたワイだが、今日も今日とて出待ちされていた。ただし今回は黒狼一同による夜襲ではなくサイガー0ただ一人で。

 サイガー100といい今回といい、本格的にリスポーン地点の変更を検討しているワイちゃんなのだった。

 

「……わざわざ回りくどいことせんでもなぁ、男子高校生なぞよっぽど他に好きな人でもおらん限り好意的に感じとる女子が寄ってきたら簡単にオチるんよ、断言したる。せやからまず告ってやね、落としてやね、そっからシャンフロに誘導してメロメロにしたればええと思うんよ」

「無茶を言わないでください……! そ、そんないきなりお付き合いだなんて……まずはお友達から……」

「勝てる試合捨てんなって言うとるんやけど? ……ちょお待て、まだ友達ですらないんか!?」

 

 ログインして早々部屋の前で五体投地している彼女の姿を見た時点でもう面倒くさかったが、『知恵を貸してください……このままじゃ、このままじゃ……!』と泣きじゃくりながら脚にすがりついてきたので仕方なくリスポーンポイント兼プライベートスペースな自室に上げることになった。

 

 さて、サイガー0ちゃんの今回のお悩みはズバリ『アプローチの方法』

 なんでも(くだん)の彼が別のクラスの女子と親しげに話していたのを見て危機感を覚えたらしく、9回裏ビハインドのピンチに四番バッターがバント練習をはじめたくらいの衝撃を受けた。

 

 そこでワイちゃんが提案した逆転ホームラン級の作戦というのが、男子高校生の性欲を利用し自分の方へ()き寄せつつシャンフロでより確固たる関係にするという内容だ。モモさんの妹なんやからどうせアホほど外見ええんやからきっと上手くいく……そう見込んでいたのだが、どうやらワイはこの恋愛クソザコナメクジを甘く見ていたようだった。

 

「確認させてもらいたいんやけど……サイガー0()()はその気になる彼と、まずは友達になるためにシャンフロをやっとるという認識でええか……? 友人関係から恋人にステップアップ、ではなく?」

「はい……」

「ゲーム開始当初から……9ヶ月ちょいずっと変わって、ない……?」

「…………はい

「うせやろ……」

 

 これまでずっと恋愛レースのスタートラインから一歩踏み出せない臆病な子だとばかり勝手に考えていたが、スタートラインに立ってさえいない……下手をすればエントリーもしていないスカポンタンである可能性が浮上してきて思わず絶句する。

 

 しかしゲーマーであり一人の男として乗り掛かった船から安易に飛び降りるのは女々しい、それが例え穴の空いた泥舟だとしても。

 ゲーマーとしての師であるおじいちゃんが言っていた、『ピンチはチャンス』と。これを乗り越えてこそ男としての格が上がるというものや。

 

「……その彼とは、たしかクラスメイトなんよな? 全く接点のない赤の他人のストーカーとかではなく、ここは信じていいんよな……?」

「す、ストーカーじゃありませんっ! 席も私から見て右斜め前ですし……毎朝挨拶もしようとしています……!」

(いや出来とらんの!? 小学生以下やんけ!)

 

 自信満々と言った様子でのたまうサイガー0に対し口に出す寸前でなんとか思いとどまった自分自身を褒めてやりたい、たぶんこれを言ったら彼女の心は折れていたと思う。女心なぞ1ミリも分からんが、これが致命の一撃になることだけは人間の心が瞬時に理解したようだった。

 

 ……もう既に頭がグニャグニャしてきた、こんな経験は小学生の頃ボクシングでスリップしてコーナーに頭をぶつけた時以来や。

 

(落ち着け周布虎斗……お前は『覇者』や、これまでどんな強敵や外道が相手でもトーナメントを制してきた歴戦のファイターや……導き出せ、勝利への道筋を……!)

 

 サイガー0はコミュ力という面で言えば実の所あまり問題は無い。むしろ恋愛が絡まない普段の話し方や立ち居振る舞いは堂々たるもので、そしてそれが自然体なのか無理をして疲弊している様子もほとんど見られない。それはきっと先天的なものではなく、恐らくは質の高い教育を受けて骨見に染みているのだろう。

 

(その辺はモモさんと共通しとるし、古風な家柄なんやろか? 古風な…………せや!)

 

 瞬間思い浮かんだのは、少し前に古文の授業中に先生が話していた恋愛アプローチの変遷についてだった。

 曰く、男が女に和歌を送って云々カンヌン……しかし重要なのはそこではなく、余談として語られた先生の学生時代の流行についてだ。

 

「なあサイガー0、直接話しかけるのがキツイなら文通はどないや?」

「文通、ですか? 確かに話しかけるよりは……け、けど、お返事貰うには差し出し人が私だと分からないといけませんよね……!? 卑しい女と思われでもしたら……!」

「貞操観念平安貴族か?」

 

 本当に元華族の良家出身とかなのではと思えてきた。

 

「いやワイもそこまでガチなのやらそうとは思っとらんわ……小耳に挟んだ話なんやけど、ワイらが生まれるよりも前に『匿名文通』なんていうSNSが流行ったことがあるらしいんや」

「あ、それ父から聞いたことがあります。詳しくはありませんが」

「ワイもそう。せやけどその辺詳しく聞けそうな心強い人達に心当たりがある。……これからアポとるさかい、明日以降最短の夜に約束でええな?」

「は、はいっ! ぜひお願いします!」

「ほな決まったら連絡するさかい……今日はもう帰ってもろてええか? ワイちゃん明日の昼から『興行』でエキシビジョンマッチやるんよ、これから梁山泊のみんなと打ち合わせやから。……あー、そうだ、観戦したいんなら男女ペアチケお安くしとくで?」

「ペア観戦するほどのフレンドは居ないの、で……………………あの、もしかして結構怒ってますか?」

「デイリーやる時間潰されたから割と」

スミマセンデシタ……」

「よかろう」

 

 実の所その辺はあまり気にしていないのだが、そう言って調子に乗られると困るので少し脅かしておく。奥手極まってる点は正直激おこだがワイちゃん優しいから言わないでおく。

 

 それはさておき、明日の試合(マッチ)は普段のエキシビジョンとは訳が違う、ワイと対戦相手の個人間で賭けをしているため相手のモチベーションが段違いなのだ。可能な限り万全の体制で臨みたい。

 

 

 試合相手は『廃人狩り(ジャイアントキリング)』アーサー・ペンシルゴン。

 ワイが勝った暁にはあの女を阿修羅会から引き抜く。奴さんがおらんなら今の阿修羅会なぞ、レベルと頭数くらいしか褒められないヘボの寄り合いに成り果てる。

 

 アーサー・ペンシルゴンが何に固執しているのかは知らないが、阿修羅会結成初期の愉快な強者達の悪名を底の底まで落としたリスキルと格下狩りしか脳のない現メンバー達(クズども)の命脈を絶ってやる。




・虎人くん:策略と謀に弱いがハメられたと気付けば関係者全員ボコボコにするタイプ。可愛くないカービィみたいな暴力装置

・サンラクくん:後日トトカルチョが仕込みであったことがバレてボコボコにされた

・鉛筆拳士さん:アーサー・ペンシルゴン(『便秘』の姿)
 意外にも不正とは無関係

・瀬戸口さん:サイガー0ちゃんとは別クラスの女子、学校外で陽務くんと交流は無いから安心していいよ。定期的にゲームメディアにスクショが掲載される

・サイガー0さん:穴の空いた泥舟。学校での席は窓際の最後列

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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