キャンプで鍋料理
村の西側にある川辺で、クロが地面に浅い穴を掘った。
そして、クロはその穴に炎の魔法を撃ち込む。
その炎が消えたところで、穴を確認。
……
穴がガラス化してた。
簡単な魔法に見えたけど、かなり高温だったんだな。
そして、クロはその穴に向けて水の魔法を使い、水を注ぐ。
水蒸気爆発が起きた。
ガラスになるほど高温だったのに、時間をおかずに大量の水を注いだら、そうなるな。
うん。
冷ましたら、大丈夫なんだ。
もしくは、炎の魔法の温度を下げて、穴を陶器化するレベルで……それも高温か。
やっぱり冷ますのが大事だな。
俺は、クロが一人でダイエット旅行しているときの失敗を確認していた。
なにせ、持って行った味噌は料理に使えず、舐めるだけだったそうだ。
次はないだろうけど、万が一を考えてクロでもできる料理方法を考えておく。
……
地面を掘るから固める必要があるのであって、鍋になりそうな岩の窪みを探すのはどうだ?
ほら、あんな感じの岩。
俺は近くにあった大きな岩に窪みを見つけた。
丁度、大鍋ぐらいの穴だ。
ただ、その穴は岩の横なので、岩を転がして調整する必要があるが……
クロが体当たりで転がしてくれた。
すまないな。
では、ここに水の魔法で水を溜める。
クロが炎の魔法で消毒しなくていいのかと聞いてくる。
賢いぞ。
だが、まずはこの穴が水漏れしないかをチェックしないとな。
うん、水漏れは大丈夫そうだ。
次に、火の魔法で消毒だ。
俺としては、焼いた石を放り込むスタイルでいいと思ったし、クロもそうするだろうと思ったが、問題があった。
焼いた石を運ぶ方法。
俺なら木の箸で掴んだり、スコップで掬ったりして焼いた石を運べるが、クロには無理だ。
口で咥えるわけにはいかない。
なので、先ほど溜めた水を魔法で直接温めて煮沸消毒する。
まあ、それができるなら石を焼く必要はないか。
煮沸消毒はクロに任せ、俺は周囲を見る。
誰もいない。
そんな状況は一瞬で、俺の手が空いたと判断したクロの子供たちが森の中から次々とやってくる。
全部で三十頭。
周辺警戒、ご苦労さま。
よしよし。
大丈夫だったか?
怪我はしていないな?
クロの子供たちの中には、この前、連れ帰ってきた新入りがいた。
仲良くやっているようでなにより。
いじめられたりはしていないようだ。
まあ、あまり俺が気にしすぎると、それがいじめの原因になってしまうかもしれないが……ん?
例の四頭が、大丈夫ですと報告してくる。
仲良くなったのか。
悪いことではない。
悪いことではないが……
俺は小声で困ったことがあればこっそり報告しろと新入りに囁いておいた。
おいおい、涙をみせるな。
村に連れ帰ったのは俺だ。
俺が原因でもあるのだから。
よしよし。
煮沸消毒が終わったようだ。
クロも頭を寄せてきたので、よしよしと撫でる。
さて、それなりの食材や調味料は持ってきているので、俺が普通に作る分には困らない。
しかし、今回のコンセプトはクロたちでできる料理方法の確立なので、普通には作らない。
クロたちが作る。
俺は指示するだけ。
まあ、食材を切ったりはするけどな。
クロたちだけのときは、噛み千切ることになるが、これぐらいは問題はないだろう。
煮沸消毒に使った水は捨て……
クロたちで、どうやって捨てさせればいいんだ?
困ったところで、クロがまた岩に体当たりした。
なるほど。
最初にあったみたいに横にして、また倒すのね。
うん、水は捨てられた。
ワイルドだけど、結果よければ全てよし。
では、穴に新しい水を魔法で注いで……具を入れるから、水の量は加減するんだぞ。
よし、それぐらい。
では、水を魔法で温めてくれ。
ゆっくりでいいぞ。
水が沸騰しだしたら、味噌を放り込む……
と、言いたかったが、さすがに味噌だけでは味が寂しい。
なので、寒天で固めたスープを仕込んだ特別な味噌を用意した。
スープの配分と味噌の味の調整に苦労した特別製だ。
しかも、味噌の形状のままではクロたちでは扱いにくいだろうと、短い棒状に加工してある。
抜かりはない。
これを一本……鍋の水の量と相談して調整だな。
今回は二本、放り込もう。
この棒がお湯で溶ければ、ちゃんとした鍋スープになる。
うん、いい香りがしてきた。
あとは具材を放り込んで、煮えれば完成だ。
そうむずかしくはないだろ?
ただ、短い棒状にした特別製の味噌は、数を用意したんだが、グラッツに欲しがられてな。
次の生産までちょっと待ってくれ。
ああ、作るのにそれなりに手間がかかる。
そのうち、五村の商人たちに委託したいと思うんだが、味の安定を考えると大きいところにしか任せられないだろ?
小さいところのことも考えてやらないと、潰れてしまうから。
そのための携帯食をフローラに研究してもらっているのだが……
いかんいかん。
クロたちになにを聞かせているんだ。
すまなかったな。
……そんなことはない?
そうか。
よしよし。
鍋の具は肉が中心だが、完成。
俺としては食べられる草を入れてほしいが、クロたちにそれが採取できるかという問題がある。
いや、クロたちは賢いから、見せれば覚えて同じ草を確保できるだろう。
ただ、可食部だけをどうやって採取するかだ。
下手に口にすると、可食部ではない場所……毒の場所を口にする可能性がでる。
そんな危険な真似はさせられない。
なので、草は諦めた。
特別製の味噌に、野菜分を多めに仕込むことにしよう。
……
肉も仕込んで、お湯で溶かすだけにしたほうが便利かな?
まあ、この辺りはフローラやアンと相談して、考えよう。
ん?
完成したのだから、食べていいんだぞ?
最初の一杯は俺?
わかった、それじゃあ一杯目をもらおう。
俺はお椀に自分の分を確保し、一口。
うん、美味い。
俺が食べたのを確認してから、クロたちが順番に鍋に口を入れていく。
ちゃんと後の者のことを考えているようで、微笑ましい。
まあ、用途を考えて、数頭で食べるぐらいしか作らなかったからな。
機会があったら、今度は大量に作ろう。
食後。
クロたちと川で少し遊んだあと、俺は屋敷に戻った。
屋敷の中庭で、ザブトンの子供たちが、巧みに糸を操り、鍋料理を作っていた。
どうやら、見られていたようだ。
クロたちの耳があるから、褒めにくいが……
あれ?
肉と野菜のバランスがよさそうなうえ、彩りも完璧?
アンたちが作る鍋と同じレベルに見える。
あ、一杯目をいただけるのね。
ありがとう。
……
美味しかった。
夕食。
アンたちが思いっきり豪華な鍋を用意してきた。
……
ひと言、いいか?
夏だぞ?
いえ、なんでもありません。
いただきます。
一つ前の話の感想が多い。
ありがたいです。
書籍収録に関しては、収録されるタイミングが来た時にもう一回考えます。
そこまで書籍化されるかが問題かな?
さらに頑張ります。
現状では、「小説家になろう」で読める特典SSみたいな感じに捉えてもらえれば幸いです。
これからも、よろしくお願いします。