无名
无名

「ただい、ま…?」


恐る恐る玄関を開けたが、廊下は暗く誰もいない。

第一関門はクリアか。

後は部屋までまっすぐ抜けられれば…


「おかえりなさい」


思った矢先、廊下のリビングの扉が開きママが顔を出す。

…当然だがそんなにうまくいくはずがない。


「た、ただいま…」

「言うことはそれだけ?」

「……ごめんなさい」


ママは間違いなく怒っている。

そんなの顔を見なくてもわかる。

だからこっそり部屋までたどり着きたかったが、

見つかってしまったものは仕方がない。


「こっちにいらっしゃい」

「……はい」


リビングに引っ込んだママに続いて扉をくぐる。

ソファーに腰掛けるママ。

その前で立ったままの私。


「いつも何時までに帰ってきなさいって言ってたっけ?」

「7時…」

「今は何時?」

「11時…25分…」


外は真っ暗だ。

どう考えても中学生が出歩く時間ではない。


「…ごめんなさい」

「それは何に対して?」

「門限に、遅れたこと」

「ほかには?」

「ええと…」


私が思いつかずにうつむいていると、

ママがスマホを取り出し、何やら操作している。


「あ。連絡、しなかった」

「そうね。それだけじゃなくて返信もなし」

「うぅ…」


私のスマホの画面はママからのメッセと電話の通知で埋まっている。


「なんでかしら?」

「怒られると思ったから…」


あと、帰って来いって言われると思ったから…

母からの連絡は当然7時過ぎにはきていた。

でも遊ぶのが楽しくて、無視してしまった。


「それで無視したわけね」

「…ごめんなさい」


はぁ、とため息をつくママ。

スマホをしまうと私を真っ直ぐ見つめてくる。

私はどうしていいかわからず立ち尽くしている。


「こっちにいらっしゃい」

「…?」


手招きされて、なんだろう?

と思いながら近づくと、腕を掴まれて引っ張られる。

その瞬間に何が起こるのか察した。


「ちょ、ちょっと、ママ!?」

「なに? こんな時間まで遊び歩いて、お説教だけで済むと思ったの?」

「で、でも私もう中二だよ!?」

「悪い子に年齢はかんけいありません」

「でもでも、葉菜ちゃんも理恵子ちゃんも門限ないって言ってたし!」

「よその子は関係ありません。それにその子たちも今頃同じようにお仕置きされてるわよ」

「えっ?」

「明日学校で聞いてみなさい。そんなことより今は自分のことを考えなさい」

「やだやだ!」


必死に抵抗するが、数秒も持たなかった。

中学生になって部活に入ってちょっと力が付いたと思っていたけど、ママに簡単に膝の上に押さえつけられてしまった。


「やだやだやだ!」

「暴れないの」


最後にお仕置きされたのは小学5年生の時だから実に3年ぶりだ。

もうお仕置きされることはないだろうと思っていた私は、恥ずかしさやらなにやらで手足をばたつかせて暴れる。

そんな私をものともせず、ママはスカートをまくり上げ下着をおろした。


「お尻出すの!?」

「当たり前でしょ」

「やだー!」


さらに暴れると、びっくりするほどの大きな音を伴い、ママが平手を振り下ろす。


パアァン!


「いったぁ!」

「ほら、数えないと終わらないよ」


我が家のルールでは、お仕置きは私が数をちゃんと数えないと終わらない。

何回で終わるかは悪さの程度で違っていて、それが何回なのか私にはわからない。


「やだってばぁ!」

「そんなことをしても終わらないよ」


お尻を手で庇おうとしたが、それもあっさり背中側に押さえつけられてしまう。


パアァン! パアァン!


「いたいってばぁ!」

「まったく、小学生の頃のほうが素直だったわね」


パアァン!


「いやぁ!」

「ほら、数えないと痛いだけだぞ」

「うぅ…」


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

でもそれ以上に、お仕置きの痛さも身にしみてわかっている。

母の膝の上でお尻を丸出しにされて、叩かれて数を数えるのなんて絶対嫌だ。

そう思っていたはずなのに、私の絶対なんて気持ちは数回の平手打ちで消しとんだ。


「……いち」

「声が小さくて聞こえない」


パァン!


「っ…いちぃっ!」

「よろしい」

「うぅ…」


パァン!パァン!


「にぃ! さん!」


私が素直に数を数え出してから、お仕置きは淡々と進んでいく。

実際、私が大人しくママの決めた回数きっちりお仕置きを受ければそれで終わるのだ。

それが出来たことはほとんどないけど…


パァン!パァン!


「じゅうごっ! じゅうろくぅ」


回数が進むにつれて、あることに気がつく。


(あれ? 意外と痛くない??)


昔の記憶ほど痛くない気がする。

小学生の頃は、始まってすぐに半泣きで数を数えていたような気がするのだが。

中学生になって痛みに強くなったのか。

何はともあれ、思ったほどは痛くない。

問題は何回で終わるかだが…


パァン! パァン!

「よんじゅうきゅっ! ごじゅう!!」


お、おわり…?

少しの間。

ちょっと期待したが…


パァン!

「っ!…ごじゅういち」


やっぱり100叩きか…。

でも、この調子なら耐えられる。

小学生の頃だったら今頃泣き出している。


パァン! パァン!

「ろくじゅうさん…ろくじゅうしっ!」


ママは無言で淡々とお尻を叩き、私が数を数える。


パァン! パァン!

「はちじゅうごっ! はちじゅうろく…」


終わりがだんだんと近づいてくる。

お尻は痛いし、腫れているのも感じる。

でも、あと少しだと思うと頑張れた。


パァン! パァン!

「きゅうじゅうはちっ! きゅうじゅうきゅ!」


パアァン!

「ひっ……ひゃくぅ!」


ひときわ痛い一発にびっくりして数え忘れるところだった。

な、なに? こんな強く叩けるの??

今の強さで叩かれ続けたらと思うとぞっとする。

…でも、今回は終わりだ。

終わったと思ったら、今度は恥ずかしさがこみあげてきた。

早いとこ膝から降ろしてもらってパンツを履きたい。

そう思ったのだが…


「? ママ?」


体を起こそうとしたら上から押さえつけられてしまった。

どうして、と思ったのも束の間。


パアァン!

「いだっ!! え、ママ、ちょっと!?」


さっきの、100回目と同じくらいの痛み。

あまりの痛みに体が跳ねる。


「どうしたの? 数えなさい」

「いや、もう終わり…」


パアァン!


「いやぁ!!」

「終わりかどうかは美羽が決めることじゃないの」

「でもぉ! もうひゃっかいもたたいたじゃ…」


パアァン!


「いたぁあい!」

「100回で終わりなんて言ってないでしょ?」

「でもぉ!でもぉ…」

「さあ、数を数えなさい」


パアァン!


「ああっ!!」


いたいいたいいたい!

1回だけでもびっくりしたのに、同じ強さで何回もお尻を叩かれて涙があふれてくる。


「うぅ…ぐずっ」

「美羽?」

「もうやだぁ!」


ママに腕も身体も押さえつけれた状態でバタバタと抵抗する。

もちろん、それでどうにもならないのは分かりきったいるのだが。


「門限破っただけじゃん!もうやめてよぉ!」

「まったく反省できてないみたいね」


パアァン!


「うわあん! もうやめて! はなして!」

「まったく反省できてないなら、最初からやり直しね」

「…えっ?」

「1から数えなおしなさい」

「い、いちから…?」


いちから?

頭の中が真っ白になる。

直後、お尻を叩かれた痛みでパニックになる。


「む、むり! いやだ! ごめんなさい!! ゆるしてぇ!!」

「許してほしければ数を数えなさい」

「むりだってぇ! しんじゃう!!」

「じゃあずっと終わらないわよ」

「うわぁああああん!!」


それから何回叩かれたか。

今までのどんなお仕置きより厳しいお尻叩き。

私はただ泣きじゃくるだけで、数を数えることなんて到底できなかった。


「美羽? みーうー」

「う、うぅ、ぐずっ」


気が付くとお尻叩きは止まっていた。

だが依然と私はママの膝の上。

お仕置きはまだ終わっていないのだろう。


「美羽は何でこんなにお尻を叩かれてるのかわかる?」

「……もんげんを…やぶったから…」

「そうね。ママからの連絡も無視するし、本当に悪い子ね」

「……ごめんなさい」

「それに、門限破りをたいしたことじゃないと思ってる」

「……」

「ママはとっても心配したし。パパも美羽を探しに行ったのよ」

「……ぱぱ」

「今も美羽のお仕置きが終わるまで帰ってこれないで、かわいそうにね」

「……ごめんなさい」

「反省した?」

「……うん」

「遅くなるならちゃんと連絡しなさいよ。無視するなんてもってのほか」

「……わかった」

「じゃあ、残りのお仕置きもちゃんと受けられるね?」

「……おわりじゃないのぉ?」

「おわりじゃないの。ママは厳しいの」

「……うぅ」

「……」

「……がんばる」

「頑張っていい子になりなさい。美羽」


それからのお尻叩きは最初くらいの強さだった。


パァン!

「いっ…いち!」


パァン!

「にぃ!」


でも別にいたくないというわけではない。


パァン!

「さぁん!」


パァン!

「…よん!」


100回ならギリギリ泣かずにいられるかも、という強さのものだ。


パァン!

「…ごぉ」


パァン!

「ろくぅ…ぐすっ」


散々叩かれて腫れあがった私のお尻にはとてもつらいものだ。


パァン!

「うぅ…ななぁ…」


パァン!

「……はちぃ」


それでもがんばるといえたのは。


パァン!

「あぅ!…いたぁ…」

「9」

「…きゅぅ!」


パァン!

「じゅう!!」


心配かけてしまったパパと、厳しくて優しいママにちゃんと謝りたかったからだ。


「はい、おわりよ。美羽、頑張ったね」


おわり?

100回を覚悟してた私は拍子抜けして呆然としてしまう。

そんな私をママは膝から起こして優しく抱きしめてくれる。


「どうしたの? そんなビックリした顔して」

「うっ…うう…」


ママが優しく頭をなでてくれて、やっとお仕置きが終わったことを理解した。

もう散々泣いたはずなのに涙があとから溢れてくる。

私はママを力いっぱい抱きしめる。


「こわかったぁ…あとなんかい、たたかれるのか…」

「ママも同じくらい怖かったのよ。美羽がこのまま帰ってこなかったらどうしようって」

「……ごめんなさい。まま、ごめんなさい」

「わかってくれたならいいの」

「……」

「美羽?」

「…………」

「寝ちゃった。こういうところは変わってないのね」


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朝。

いつもより早くママに叩き起こされた私は、シャワーを浴びて出てきたところだ。

あのまま寝てしまった私の顔はひどいものだった。

あと、お尻も。


「あ」

「おう、おはよう」

「…おはよう」


リビングに行くとパパが朝食をとっている。

昨日のことなんてなかったかのようにいつも通りだ。


「……パパ、昨日はごめんなさい」

「夜遊びは程々にしろよ。ママが心配するから」

「ちょっと、程々になんて言わないでよ! 次やったら倍はお尻叩くからね」

「マ、ママ! パパの前でその話は…」

「なにを今更恥ずかしがってるのよ」

「そうだぞ。いまさらだ」

「うぅ…」


顔を真っ赤にして椅子に腰かけた私は、顔よりも真っ赤に腫れあがったお尻の痛みに顔をしかめるのだった。


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「おはよう。葉菜ちゃん、理恵子ちゃん」

「あ、美羽おはー」

「おはよ」


学校につくと、昨日一緒に遊んだ葉菜ちゃんと理恵子ちゃんが私の席のとこで立って話していた。

私も荷物を置くと立ったまま話すことにした。

お尻が痛いから。


「…2人は昨日帰った後、どうだった?」

「そ、それは…」

「みみ、美羽ちゃんはどうだったの?」


なんかあからさまに動揺している葉菜ちゃんと理恵子ちゃん。

まあ私のほうは昨日2人にも言った通りになったのでそのまま報告する。


「やっぱりママに怒られちゃった」

「やっぱり?」

「お母さんたち、私ら3人で遊んでたの知ってたっぽいね」

「そうなの?」

「みたいねー。うちの親も知ってたわ」


そういえば、昨日ママもそんなこと言っていたような。

私と仲のいい2人も帰ってないから3人で遊んでるのがバレたのだろう。


「てことは2人も怒られたんだ」

「…そうだねー」

「…門限は特になかったけどあの時間はね」


あはは、と苦笑いする2人。

心なしか顔が赤いような。

2人もこっぴどく叱られたのだろうか。

どんなふうに叱られたか聞きたい気もするが、

自分のは恥ずかしくてとてもじゃないけど話せないので聞くことはできなかった。

それから朝のHRまで3人は立って話をした。


そして、その日の体育の時間。

3人はそれぞれが家でどんなお仕置きを受けたか、なんとなく察するのだった。