【AI・海賊版対策】作品を無断スキャンから保護する隠し印刷パターン
本稿は「生成AIによる無断学習をどんどん禁止する Advent Calendar 2025」への寄稿です。
商業誌でも同人誌でも、「犯罪者が勝手にスキャンした海賊版をアップロードする」という問題に多大なコストが支払われていることを良く聞きます。
いまはもっと厄介で、スキャンしたものをAI学習するという行為によって、盗まれたのに気づかないままいつのまにか損害が発生している、という状況も頻発しています。
そしてこういった海賊版・無断学習問題に対して、出版社ならまだしも、個人クリエイターの立場では実際のところ何をどうすればいいのか分からないとお悩みの方も多いのではないかと思います。
そこで、今回は入稿データの上にレイヤーとして重ねるだけでスキャンを抑止する目的のパターンを印刷できる特殊なウォーターマーク「ユーリオン」を紹介します。
また、今回紹介するウォーターマークは、A4・A5・B5サイズに対応した透過レイヤーをBoothにて無料配布しています。海賊版・無断学習にお悩みの方はご検討ください。
その他の寸法に対応した、より柔軟な解像度(dpi)に対応するためのツールも現在開発中です。
印刷物向けの代表的な海賊版・無断AI対策
まず初めに、ひとくちに「対策」と言っても、購入されてから悪用されるまでの色々な段階でやれることが変わってきます。図解すると以下のような感じです。
このうちクリエイターが個人でできる手軽なもので、海賊版とAI両方を視野に入れた対策は
原稿に地紋を仕込む
原稿にユーリオンを仕込む
のどちらかになるでしょう。
そこでこれらの手法について紹介し、特にその中で一番有力な「ユーリオンを仕込む」方法について今回詳しく紹介したいと思います。
「地紋印字」とは
ユーリオンの話題に入る前に、スキャンを防止する一般的な手法である「地紋印字」について紹介します。
この技術は、模様をスキャンした際の感度の変化を利用して、スキャン後のデータに特定の文字パターンを浮かび上がらせる手法です。
重要書類をコピーしたときに「複製」「COPY」などの文字が出てきたのを見たことがある人は多いと思います。そう、アレです。
どうやっているのかというと、背景部分はスキャナが読み取れない程度に細かいパターンを埋め込み、「COPY」の部分は読み取りやすいパターンを埋め込むことで、スキャン結果の差を作っています。
このときに人間の目にはどちらも同じくらいの濃さのグレーに見えるようにパターンを調整することで、原本にはCOPYが見えずらいようになっています。
ですが、この地紋印字の重大な欠点として、紙面全体がグレーがかってしまうという問題があります。
また、あくまで地紋印字はコピーしたときに「この文書は複製ですよ~」とアピールするものでしかなく、海賊版対策・無断学習対策としてはイマイチです。
そこで登場するのがユーリオンです。
スキャンそのものを停止させる「ユーリオン」
Wikipediaに5つの丸が書かれた画像があると思いますが、実はこのパターンを配置した紙をスキャンしようとすると、なんとスキャンが強制停止します。
これはもともと紙幣の偽造を防止するためにオムロンによって開発されたものであり、現在も世界中の紙幣にこのユーリオンが埋め込まれています。
もちろん日本の紙幣にもユーリオンがあります。もし手元にお札がある方は目を凝らして見てみてください。黄色のユーリオンがいくつか隠されているのが分かると思います。
そして世界中のスキャナはユーリオンを検出するプログラムが組み込まれているため、このようなパターンが載っている紙をスキャンしようとすると、紙幣の疑いありとして強制停止するのです。
(注:ユーリオンは数ある偽造紙幣対策のひとつであり、お札には他にもいろいろな対策が仕込まれています。たとえばAdobe製品はユーリオンを含んだ書類・画像を問題なく書き出すことができますが、お札の画像は書き出せません。あくまでユーリオンは読み取り時の対策です。)
ということは、このユーリオンを作品に埋め込むことで、スキャンできない同人誌ができるということです!!
ユーリオンレイヤー・作成ツールを無料頒布します
このユーリオンを印刷するときに注意すべきこととして、実際の紙面での寸法が正確に決まっていなければなりません。そのため、例えばWikipediaのユーリオン画像を原稿に貼り付けてそのまま印刷しても、残念ながらスキャン防止効果は見込めません。
しかもユーリオンの具体的な寸法は明らかにされていません。唯一確認できる一次資料はユーリオンを検出する装置の特許ですが、内容は次のようにものすごーーーく曖昧です。
【請求項1】 与えられた画像データ中に存在する所定の同一のマークを検出するとともにその存在位置を記憶し、次いで、検出した前記マークの存在位置データに基づいて、ある図形の外周上に存在するマークの数を求め、そのマークの総数から前記画像データ中に検出対象物を特定する特定パターンが存在するか否かを判定するようにした画像処理方法。
ですが点の間の距離は定規で測れるので手作業で再現可能です。おそらくWikipediaにあるものも手で測ったものと思われます。
しかし一番面倒なのは、印刷時にちょうどその寸法になるように画像を埋め込まなければならないというところです。これはユーリオンの画像サイズ、原稿のサイズ、そして原稿の解像度(dpi)から計算する必要があるのですが、慣れていないとなかなか難しいのではないかと思います。
そこで、一般的な紙面の寸法に対応した合成用ユーリオンレイヤーを無料で公開しました。
透過PNGになっているので、ご自分の原稿にぴったり合うように拡大縮小し、上から被せるだけで完了です。
また、検出に必要なユーリオンは4~10組あればOKとされているので、紙面全体に散らばってさえいれば、邪魔な部分を消してしまっても問題ありません。
対応している寸法はA4/A5/B5です。解像度が350dpiであれば拡大縮小の必要はありません。
【重要】ユーリオンを使うときの注意点
⚠️⚠️絶対にコンビニなど公共のスキャナーで試さないでください!⚠️⚠️
スキャンの強制停止はかなり強力なセキュリティ機構なので、紙幣偽造を疑われるなどの大きなトラブルに巻き込まれる可能性があります。絶対に自宅のスキャナーを利用してください。
また、事故を避けるために、ユーリオンを含む文書には「スキャン禁止」の旨を分かりやすく表示しておいた方が良いでしょう。
まとめ
今回は偽造紙幣対策に由来する、スキャナーを強制停止させるユーリオンの技術について紹介しました。この技術は、いままで個人の力では対策が難しかった海賊版や無断学習に一矢報いることができるのではないでしょうか。クリエイター活動をされている方たちにこの記事がお役に立てれば幸いです。



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