「コミケは、誰かの権利を侵害しているものを利用しての作品の参加は認めないことにすればいい」 という意見を見ましたが、私はそれに明確に反対です

 「コミケは、誰かの権利を侵害しているものを利用しての作品の参加は認めないことにすればいい」 という意見を見ましたが、私はそれに明確に反対です。

 そもそも「誰の権利も一切侵害しない(その可能性も存在しない)表現」というのはありません。「誰一人として傷つけない表現」が存在しないのと同じ程度に。あるとすれば「誰にも公表しない表現」くらいでしょう。
 どんな表現であれ公表されるならば大なり小なり誰かの権利を侵害しうるし、誰かを傷つけうる。それが大前提です。
 だからこそ権利侵害には「受忍の限度」という概念が存在します。

 バスの車内で(つまり容易に逃げられない状況で)宣伝広告を聞かされるのはプライバシーの侵害だ、と訴えた裁判がありました。最終的に最高裁まで行き、「他者から自己の欲しない刺戟によつて心の静穏を害されない利益は、人格的利益として現代社会において重要なものであり、これを包括的な人権としての幸福追求権(憲法一三条)に含まれると解することもできないものではない」としながらも「これを精神的自由権の一つとして憲法上優越的地位を有するものとすることは適当ではないと考える。それは、社会に存在する他の利益との調整が図られなければならず、個人の人格にかかわる被侵害利益としての重要性を勘案しつつも、侵害行為の態様との相関関係において違法な侵害であるかどうかを判断しなければならず、プライバシーの利益の側からみるときには、対立する利益(そこには経済的自由権も当然含まれる。)との較量にたつて、その侵害を受忍しなければならないこともありうるからである」と棄却しました。

 表現という行為によって生じる問題は「(一方的な)権利の侵害」ではなく、「(相互的な)権利の衝突」と解するものです。
 いわゆる二次創作(ここでは二次創作を「ある著作物に依拠し、その旨を明記している著作物」と定義します)が原作者等の権利を侵害しうるものであることは否定しませんが、大半の二次創作においてその侵害の度合は一般的な受忍の限度内と思われます。
 もちろん中には受忍の限度を超え、権利者から訴えられ敗訴するものもあるかもしれません。だからといって全ての二次創作を受忍の限度を超える侵害と勝手に断定し、表現の場から追放するのは検閲です。
 コミケは単に表現の場を提供するものであり、そこで表現されるものの違法性を判断する立場ではありません。 二次創作でなくても誰かの権利を侵害しうる表現はあるし、毎回数万点あるそれらすべてをコミケが一つ一つ判断して頒布の可否を決めることなどありえません。

 「流通の場が公表の是非を判断する」という構図をハックされたのが近年の「クレカ検閲」です。「(違法ではなくとも)非倫理的な表現を垂れ流しにさせるのはプラットフォームの責任だ!」と騒ぎ立てることで一部の表現を流通から締め出すことができてしまう。
 これはコミケの理念からすれば最も遠いところにある状況でしょう。
 すでに違法もしくは受忍の限度を超える権利侵害と確定したもの(要するに司法によって頒布等の禁止を命じられたもの)を取り下げさせるのならまだしも、まだ確定していないものを締め出すことはコミケにはできないし、後に裁判で違法性等が確定したとしても、遡ってコミケに責任を求めるべきではありません。
 何か問題があるとすればそれは当人同士で争うものものであって、「場」に責任を求めたらクレカ検閲へ一直線です。表現を潰したい側からすれば、一人ひとりを潰すのは面倒で、「場」を潰せる方が手っ取り早いのですから、「場」に責任を求めるのは表現規制に与するものと私は思います。
(本当は性表現の修正だってコミケからしたら不本意でしょうが、過去に色々あってやむを得ずやっているに過ぎないものと見ています)

 「誰の権利も一切侵害しない表現」「誰も傷つけない表現」というのは、耳障りはいいかもしれませんが、それを強制した先にあるのはつまるところディストピアです。
 私はそれを望みません。「コミケは、誰かの権利を侵害しているものを利用しての作品の参加は認めないことにすればいい」 という意見に対して、【その権利侵害の有無、程度をコミケに判断させるというのであれば、】私は明確に反対です 。

※2025/11/13:【】内加筆

続き


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