隆くんとのデートの最中、トイレに立ち寄れば下ろしたパンツには真っ赤な血が。しかも今日の為に買ったワンピースにも鮮血が薄らと染み込んでいた。
「え……な、なんでもう来てるの……」
予定日より約一週間も早く訪れた生理。当然ナプキンなんて持ってる訳もなく、途方に暮れる。せめてもの応急処置として、ティッシュを何重にもしてパンツに敷く事にしたが、そんなのたかがしれている。既に血みどろになったパンツを穿いて歩くのはかなりの不快感だし、ワンピースへのシミも大きくなるんじゃ……と不安で仕方なかった。
この後、どうするべきだろう。隆くんに言うべき?それとも内緒でナプキンと下着を買いに行くべき?トイレの個室で私はひたすら悩んだ。でもいくら考えても答えは出ない。それどころか今夜楽しみにしていたディナーの時間に刻一刻と近付くだけだった。
そして重い足取りでトイレから出て隆くんの元へと戻ると、長い間待たせてしまったと言うのに嫌な顔一つ見せず。それどころか、私の顔を見るや否や心配そうに声をかけてきた。
「どした?具合悪い?」
「…………」
顔色が悪いのは私の股下の惨状のせいだと思ったが、そういえば生理になったと判明してから頭痛と腹痛がしているような気がする。よくある、自覚したら痛みが発生すると言うやつだろう。
今日は仕事が忙しい彼と久しぶりのデートなのに、パンツを血まみれにさせて服を汚して、おまけに体調まで悪くしている。なんてダメな彼女だ。私は激しい自己嫌悪に襲われた後、感情が爆発して人通りの多い駅の構内で泣き始めた。
「はっ!?……え、〇〇?マジでどうした?」
「うぅ~……ごめんねぇ……どうしよう~」
いい歳した女が急に号泣すれば、いつも余裕たっぷりの隆くんも流石に焦るらしい。途端に慌て出した。
恐らく周りの行き交う人々は、痴話喧嘩か別れ話をしていると思っているんだろうな。チラチラと興味本位な視線が向けられる。けれど今の私にはそんなのどうでもいい。私は泣きながら血まみれ事件を口にした。
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事の真相を隆くんに教えた結果、夜の予定は大幅に変更した。まず隆くんはすぐさまお店に連絡して、予約のキャンセル。幸いにも席の予約だけだから、キャンセル料はかからなかったらしい。
そしてメソメソする私の手を引いて向かった先は、一人暮らしをしている私のマンション。到着するや否や私は着替え、血だらけになったパンツを手洗いする。その間の私の気持ちは無、そのものだった。本来ならお店で美味しいご飯を食べていたのに。
ちなみにその間の隆くんと言えば、シミが付いてしまったワンピースをお洗濯してくれていた。流石家事力カンストの男だこと。
「今日はごめんね」
「いきなり泣いた時はマジで驚いたわ」
ひと段落した私達はソファに座り、温かい飲み物を口にしながら会話を交わす。その際、当然話題は私の血まみれ事件になり、自然とテンションが下がっていく。
だってディナーをダメにしちゃったし、いきなり泣いちゃったし、隆くんに迷惑かけちゃったし。これも全部生理のせいだ。だからこんなにネガティブな気分になるんだ。懲りずに再びベソベソと泣いてしまうが、隣にいる隆くんはおかしそうに笑った。
「〇〇って生理になると、よく泣き虫になるよな」
「面倒くさいでしょ」
「全然。基本しっかりしてんのに、生理ん時にポンコツになるの可愛いなって思うくらいかな」
「……絶対嘘だね。私、しっかりなんてしてないもん」
照れ隠しのつもりで悪態をつくが、それすらお見通しのこの男。私の涙を指先で拭い、ちゅっとイタズラみたいな可愛い口付けをしてきた。
「男のオレは生理痛とか、気分の浮き沈みとか……そういうの代わってやれねぇからさ。だからその分、素直に甘えれば良いんじゃないですかね?」
なんでこの男はどこまでも優しくてカッコいいんだろうか。そんな事言われたら、甘えたくなるではないか。しかも「甘えたい事は?なんでも言って良いぜ」と子供のようにあどけない笑顔で言ってくるからタチが悪い。
けど望む所だ。そっちがそのつもりなら、生理中で情緒不安定な私が遠慮なく甘えてやろうじゃないか。
「お腹空いた。今日食べる筈だったディナーよりも、美味しいご飯が食べたいから作って」
「おい、いきなりハードル高ぇな」
甘えろと言うから遠慮なく無理難題を突きつけてやった。でも隆くんは口調こそ困った風だけど、嬉しそうに笑う。それどころか「で、他には?もうねぇの?」と言ってきた。悔しいが、伊達に可愛い妹二人のお兄ちゃんなだけある。
しかしウンウンと悩み、絞り出した他のワガママは至って単純なモノばかり。お腹が痛い時はあっためて。頭が痛い時は撫で撫でして。泣きたくなったら愛の言葉を囁いて抱きしめて。
最後のワガママは冗談のつもりだったが、隆くんはこれらのゲロ甘なお願いをケロッと飲み込み、全てさも当たり前のように実現させた。
そして腕を振いまくった彼のスペシャルディナーがテーブルの上に並べられ、最悪な気分から一転、最高な幸せな夜を過ごす事となったのだった。