国立大学病院の経営状況が悪化している。医薬品費や人件費などが上がっているためだ。現場では、古くなった機器を更新できないなどの支障が出ており「高度な医療を提供するという国立大学病院の使命が果たせなくなる」との悲鳴が聞かれる。赤字の問題にどう向き合うべきか。(中川紘希)
◆筑波大付属病院では2024年度60億円超の赤字
「こちら特報部」は11月下旬、茨城県つくば市の筑波大付属病院を訪れた。エックス線撮影室では、放射線技師らが患者の胸部や手の検査をしていた。撮影画像を表示するために使うエックス線の読み取り装置に目を向けると、四つある読み取り口のうち二つには「使用不可」と書かれた紙が張られていた。
診療放射線技師長の平野雄二さんは「経営悪化の影響で新しい設備に更新できていない。メーカーの保証期限を過ぎていて修理もできない」と明かす。残った読み取り口を使ってやり過ごしているが、多数の画像を一気に表示できず作業効率が悪いという。
同院の直近20年間の経常損益は、新棟建設時を除き黒字が続いていた。だが近年は、多額の開発費が投じられた高額な新薬が登場し医薬品費が上昇。働き方改革の対応で時間外手当を厳密に支給することとなり、2024年度は過去最大の63億7300万円の赤字となった。平松祐司病院長は取材に「医療崩壊の前夜だ。現場の努力で必死に食い止めている」と話す。
◆「赤字」でも医療はやる ソファの傷や壁の穴の補修は後回しに
院内の設備の修繕も行き届かなくなっている。開院した1976年からある外来診療棟の外壁も一部がはがれ始め、ネットで覆って人の上に落ちないようにしている。病院のソファにも傷が目立ち、職員だけが使うバックヤードの壁の穴もそのままになっている。
国立大学病院は、高度医療の提供を重視している。ただ国の定める診療報酬は低く、利益につながりにくい背景もあるという。例えば、手術支援ロボット「ダビンチ」。胃のがんの手術で使うと、1回当たり74万円の収入がある一方で消耗品代や人件費などで支出は89万円を見込み、15万円の赤字が出ると試算される。平松氏は「先進的な医療機器は、患者の体の負担軽減につながり、先端医療を学びたい若手医師の教育にもなる。だが使えば使うほど損だ」と嘆く。
◆「利益を度外視しないと助けられない患者もいる」
研究資金の捻出も難しく、医師らには研究への意欲が醸成されにくいとも指摘。「支出が収入を上回っているのだからもうかるはずがない。国のシステム障害が起きている」と強調。診療報酬を巡っては、2026年度の改定に向けて厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)などが議論しており、大幅な引き上げを求めた。
国立大学病院は医学部生や医療従事者を教育する場ともなっている。若手医師は国立大学病院の存在をどう考えているのか。
研修医の内藤修平さん(28)は「ここには多くの先生がいてさまざまな症例が集まる。医師として経験を積み、お世話になったこの地域に恩返しができれば」と話す。「市中病院は経営に重きを置く一方で、利益を度外視しないと助けられない患者もいる。国立大学病院はそんな患者の受け皿になっている」と話した。
◆「このままでは国立大学病院の機能が果たせない」
全国の国立大学病院の病院長で構成する一般社団法人「国立大学病院長会議」は10月下旬に日本記者クラブで会見し、存続の危機を訴えた。
同会議は、国立大学病院の使命を四つ挙げる。医療従事者らの教育、新しい治療法の研究開発、臓器移植などの高度医療、各地の医療機関への医師派遣による地域貢献だ。一方で44ある国立大学病院の経常収支は、医薬品や材料費、人件費の高騰により、2023、2024年度と赤字に。2025年度の赤字は400億円を超える可能性があるとい...
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