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自閉スペクトラム症(ASD)は「男性4:女性1」と教科書に書かれてきました。 しかし最近の研究では、実際の比率はもっと「差が小さい」可能性が高いことが示されています(Loomes et al., 2017)。 その背景として重要なのが、カモフラージュ(camouflaging / masking)と呼ばれる振る舞いです。 【ASDの人に見られるカモフラージュの例】 •本当は目を見るのがつらいのに、相手の眉間や鼻すじを見ることで「目を合わせているように見せる」 ・会話が不安で、会う前から話題やセリフをシミュレーションしてから人と会う •集団の場で、表情や相づちを細かく調整して「その場になじんでいるように振る舞う」 •周囲からは「しっかりしている」「困っているように見えない」と言われる一方で、家では強い疲労感で動けなくなる 研究では、こうした行動パターンが、「自閉特性を周囲に気づかれにくくするための、意識的・半意識的な社会的調整」として整理され、camouflaging(カモフラージュ)と定義されています(Cook et al., 2021)。 【なぜ特に女の子・女性で見えにくくなるのか】 女性に多いASDのあらわれ方(Female Autism Phenotype)をまとめたレビューでは、次のような点が指摘されています(Hull et al., 2020)。 •女の子は「空気を読む」「周りに合わせる」ことを早くから期待されやすい •興味の偏りも、「鉄道だけ」など目立つ形ではなく、周囲と同じアイドル・ファッションに強くのめり込む形で現れることがある その結果、 •学校や職場では「成績が良い」「おとなしい」「問題行動が少ない」 •しかし本人は、対人場面のたびに大きな疲労や不安を抱えている というギャップが生じやすくなります。 実証研究でも、ASDの女性はASDの男性よりカモフラージュ得点が高いことが報告され、「女性のASDは診断基準や典型像に引っかかりにくく、見逃されやすい」と整理されています(Hull et al., 2020)。 【有病率の男女差はどう変わりつつあるか】 メタ分析では、「質の高い研究だけ」に絞ると、ASDの男:女比はおよそ3:1に近づくことが示されています(Loomes et al., 2017)。この論文では、女児・女性側で「診断からこぼれ落ちるバイアス」が存在する可能性も明言されています。 つまり、「男性の方が多い」という傾向は残りつつも、従来の「4:1」という数字は、女性のASDが十分に拾われていなかった時代の値であり、実際には 2〜3:1 程度に近い可能性が高い、という見方が強まりつつあります。 その「見えにくさ」の一因として、カモフラージュと女性特有のASDのあらわれ方が重視されています(Cook et al., 2021; Hull et al., 2020)。 【カモフラージュがもたらす負担】 カモフラージュは、短期的には「いじめや排除を避ける」「その場にとどまる」ための有効な対処でもあります。 一方で、研究では、 •カモフラージュが強い人ほど、不安・うつ・社会不安が強いこと(Hull et al., 2021) •複数研究をまとめたメタ分析でも、カモフラージュと不安・うつ・社会不安のあいだに中程度の関連、主観的ウェルビーイングとのあいだに負の関連があること、が報告されています(Khudiakova et al., 2024)。 外からは「適応しているように見える」人が、ある時点で急に心身の不調をきたす背景には、長期間のカモフラージュによる負荷の蓄積がある可能性があります。 【周囲にできること】 もし身近に、 •学業や仕事はこなしている •行動面のトラブルは少ない •しかし、対人や集団のあとに極端に疲れている、予定変更に強い負担を訴える といった人がいる場合、その人は日常的に強いカモフラージュを行っているかもしれません。 そのとき、周囲にできるのは、 •「できているから大丈夫」と片付けず、 → 「どこなら、無理を減らせるか」を一緒に考えること •打ち明けてくれたしんどさに対して、 「そうは見えない」ではなく「見えないところで大きな努力を続けてきたのだろう」と受け止めること •必要に応じて、発達外来や臨床心理士など、相談できる専門家につなぐこと だと考えられます。 ASDは、「女性に見えにくい形で存在している」こと。そして、その見えにくさの背景に、カモフラージュという概念があることを知っておくことが、支援への第一歩になると思います。 #ASD #自閉スペクトラム #カモフラージュ #女性ASD #有病率 #発達特性