めっちゃ密な遊び場「人狼ルーム」はどうやってコロナ禍を乗り越えた?
渋谷に、人狼ルームという店がある。「人狼やりたいけど友達いねえー」という私のような人間でも、みんなで仲良くガチ対面人狼ゲームができるありがたい店である。
かつて通い詰めた私も、出産を機にすっかり足が遠のいた。ところがその間にコロナウイルスが来襲。部屋に閉じこもって子育てをしながら、私は心の片隅でずっと人狼ルームを心配していた。だって人狼って
こんな感じの密室で車座になって、14人くらいでわいわいがやがや話し合うんですよ。
今やもう誰も言わないけど、あの頃はこういう状態を「三密」と呼んでそりゃあ忌避していたじゃないですか。人狼ルーム、大丈夫?
そう思って久しぶりに人狼ルームの公式サイトを見てみたら、おお、コロナ前と同じくらいたくさんの人狼イベントが開催されている。店舗も渋谷に3、秋葉原・巣鴨に各1と健在だ。スタッフはふたりも増えている!
同業他店の閉店や休業が相次ぐ中、「人と相対して喋る」ということが禁忌扱いされていたあの時代を、一体どうやって人狼ルームは乗り越えたのだろう。
ダメもとで取材を申し込んでみたところ、人狼ルーム代表の児玉健さんにお話を伺うことができました。
児玉健さんインタビュー
児玉健(こだまたけし)さんは、TBS「ジンロリアン」や舞台「人狼 ザ・ライブプレイングシアター」、ニコニコ生放送の大人気番組「アルティメット人狼」等に携わってきた、日本における人狼ブームの火付け役。
けん玉パフォーマンスコンビ「ず~まだんけ」としても活躍中で、紅白歌合戦に9年連続出演。三山ひろしの隣でけん玉していたのはこの方です。
画面越しでもいいから、話をしよう
───2020年の4月に初めての緊急事態宣言が出て、人狼ルームも約1ヶ月臨時休業となりましたが、その頃の想いはいかがでしたか。
児玉 3月ごろから「これはそろそろやばいな」とは思っていました。貸切予約のキャンセルがどんどん増えていった。それでこの頃からオンライン人狼のテストプレイを始めて、なるべく対面人狼と同じように遊べないかと模索していました。
そして最悪の事態に備えて、クラウドファンディングの準備も始めました。いろいろな経営者の方に話を聞いて、方針を決めて、とにかく早く、早く動かなければと思っていた。
児玉 この頃は「遊びに行きたいけど、大丈夫だろうか?」とお客さんたちがすごく悩んでいて、こんなにお客さんに葛藤させちゃうくらいなら、いったんうちから「閉めます」って言わないとだめだなと思って、緊急事態宣言が出たタイミングで臨時休業を決めました。
うちは飲食店じゃないので、休業しても補償はない。エンタメ業界って一番なんの補償もなかったんですよね。国からは一銭ももらっていません。
でも何よりも一番怖かったのは、何年も通い続けてくださってるお客さん達とのつながりが、店を閉めることによっていったん断たれてしまうことでした。
───4月10日にはクラウドファンディングを開始しましたね。
児玉 クラファンをやったのも、お金が欲しかったというよりは、お客さんとの接点をなくしたくなかったというのが大きいです。支援してもらう、感謝する、感謝される、というつながりを持ちたかった。
クラファンの募集期間はすごく短くて、10日間だけだったんです。本当はこんなのだめなんですよ、1か月くらいやったほうが支援が集まるんですけど…でも、早くリターンを渡したかったから、10日間だけ! って決めちゃいました。募集期間が終わらないと、リターンを渡せないので。
リターンの中には「僕たちスタッフとオンラインで話そう」というものもありました。ゲームはできなくても、画面越しにしか会えなくても、とにかく一緒に話そう! って。お客さんたちとしばらく会えなくなることは、もうわかっていたから。
絶対に、全員で生き残る
───クラファン募集のメッセージに「我々は全員で生き残るため」という一文がありました。全員で生き残るというのは平たく言うと「人員整理はしない」ということでしょうか?
児玉 人員整理はできません。うちの店はスタッフが全てなので。
うちの専属GM(ゲームマスター)はただゲームを回すだけではなくて、接客と、みんなを楽しませることのスペシャリスト。お客さんもただゲームがしたいからではなくて「あの人に会いたいから」と来てくれているので、替えがきかない存在なんです。
だから、自分を犠牲にしてでも絶対に全員を守ると決めていました。
児玉 店舗のほうも、普通の経営者なら、秋葉原と巣鴨は閉めて渋谷だけに集約して、オンライン中心でやっていくという判断をするのかもしれませんね。家賃は流れ続ける血のようなもので、毎月出て行って止められない。
でも、手放したくなかったんです。お客さんたちが戻ってくるという前提でクラファンをやっているし、物件は一度手放すと戻ってこないから。「あそこ、コロナでなくなっちゃったね」という風にはしたくなくて、なんとか店舗を残そう、残そうと…そこはもう、意地ですね。経営者としては失格かもしれないけど。
スタッフの心を守るための「遊び場」
児玉 クラファンには、スタッフのメンタル面のケアのためという狙いもありました。
僕らはお客さんと遊ぶのが仕事だから、スタッフたちは1ヶ月もお客さんに会えないと腐っちゃうし、もしこのままお客さんが戻ってこなかったら、もうやってられない。
僕は考えることがいっぱいあって忙しいけど、スタッフのみんなは店が開いてないと本当に何もやることがなくなってしまう。それはとても辛いです。だからオンライン上でもなんでも、お客さんとつながり続けようと思いました。
今だから言えるんですが、実は休業中もずっと僕とスタッフたちは一緒に遊んでいたんです(笑)。僕は用もないのに店に出勤して、「俺、朝10時から夕方の6時までここにいるからさ、一緒にボドゲしようよ、映画観ようよ」ってスタッフを誘っていました。
ずっとひとりで、家でNetflix観たりして過ごしていると、病んじゃうというか、崩れてきちゃう。ひとりでいることの危険性ってあると思うので…だから、遊んでました。
あの当時はおおっぴらに「みんなで集まってます!」なんて言える状況ではなかったし、マスクはしながらでしたけどね。
涙のクラウドファンディング
児玉 経営者として考えたのは、まず半年売上がなくてもなんとかなるのか、ちゃんとみんなに給料を渡せるのかということ。
クラファンをやることで、ツイキャスで支援を呼びかけたりと、スタッフのやる仕事ができました。リターンもモノではなく、なるべく労働が伴うものにしたんです。スタッフによる人狼ゲームのプレイ動画を撮ったのもこの時が初めてです。
児玉 僕としては自分はどうなってもいいから、みんなに仕事をしてもらって給料を渡して、安心させたかった。クラファンでそのための資金をお客さんから前借りする形になりましたが…、ここまで集まるとは、思っていなかったですね。
───最終的には、わずか10日間で800万円以上。目標の413%の支援が集まりました。
児玉 期間中は毎日ツイキャスやZoomで生配信をしていました。最後の数時間はもう、みんなで実況中継。お客さんと一緒になって「今300%行きました!」「400%行った!!」って、もうお祭り騒ぎ。金額が増えていくたびに、感謝が溢れてしまって、みんなで泣きました。
あの経験があったから、スタッフたちも「やってやるぞ」「潰れても潰れねえぞ」と思えたんじゃないかな。「お客さんに頼って、お金を出してもらうなんて恥ずかしい」と言う人もいるかもしれないけど、ちゃんとお願いをして、やりきったからこそ今があると思っています。
画面の前で目を閉じる理由
児玉 営業再開後は8割がオンライン人狼、2割が店舗での対面人狼という形でやっていました。
店舗では手洗いうがい、マスク、消毒、換気を徹底して、やれることはやった上で楽しもうと。
「コロナなんて関係ねえぜ!」と言いたいわけでは全然ないけど、ずっと怖がっているわけにもいかない。「これが正解」というものはないので、そこは僕の判断において開催していました。
児玉 再開後も、売り上げはいつもの半分以下。でも、営業できるということが嬉しかった。
───お客さんが店舗に戻ってきたと感じられたのはいつ頃でしたか?いわゆるコロナが5類になったタイミングとか…
児玉 いや、以前と同じくらい店舗に来てもらえるようになったのはつい最近です。今(2025年3月)から半年前くらいじゃないかな。コロナの影響は、本当に長かったですね。
───現在でも、オンライン人狼のイベントを続けられていますが、対面人狼とオンラインの違いはどんなところですか?
児玉 ゲーム的な違いはいろいろありますが、やってみて意外と一番大きかったのは、オンラインだと、ゲームが終わって退出した瞬間に完全にひとりになること。
店舗であれば、終了後に代金をいただいたりスタンプカードを押すときに、僕らは必ずお客さんと話すんです。「今日めっちゃ良かったですね!」とか「今日のあれ一番笑いましたよ」というやりとりが絶対にある。
僕らがスタンプカードをアプリにしないのはそれが理由です。スタンプを押す、という接点を持ちたいから。
児玉 僕らと話した後に店を出て、宮益坂を下って駅に向かう帰り道、ひとりで今日のゲームのことをあれこれ考えたり、あるいは他のお客さんと「今日はああだった、こうだった」と話しながら帰って、そこで仲良くなったり。そこも意外と人狼の楽しいところだったんですよね。
オンラインにはそれがない。ぷつんと途切れてしまう、あんなに楽しかったのに、終わって周りを見たらもう誰もいなくなってる。
僕らはオンライン人狼もなるべく対面の楽しさに近づけたいので、夜時間も画面の前でみんな一緒に目をつぶってるんです(笑)。
普通はZoomでもDiscordでも、役職確認や夜時間はチャットでやりとりするので、目をつぶる必要なんてないんです。でも僕らはみんなで目を閉じて、「人狼の方、人狼の方、目を開けてください」というGMの呼びかけで人狼だけが目を開けて、画面上で目くばせする、というのをやってる。
バカバカしいかもしれないけど、「みんなで一緒に目をつぶってる」という感覚が、意外と大事だと思っているんです。
エンタメよ、その手を離すな
───コロナ前と現在で、人狼ルームはどのように変化しましたか?
児玉 なんだろう? あまりコロナ前のことを覚えてないですね。コロナでいったん記憶と時が全部入れかわった感じがある。コロナ前はよかったとも思わないし…今がすべてというか。
以前はオンラインなんてなかったじゃないですか? オンライン前とオンライン後を比べても仕方がない。オンラインと対面のハイブリッドでやっていけるから、今が一番いいかもしれない。
ただ、コロナ禍を経て、地方で対面人狼をやるのが難しくなったことは確かです。本当に人が集まらない。岡山にあった姉妹店「スイーツ人狼ルーム」も閉店しました。毎日いつでも対面人狼ができるというのは、もう首都圏だけの特権になりつつあります。
地方在住のお客さんとも遊ぶために、今後もオンラインのイベントは続けていきます。
───振り返ってみて、人狼ルームがコロナ禍を乗り越えられた理由はなんだと思いますか? いち早くオンラインを導入したからなのか、それとも…
児玉 お客さんの手を離さなかったからです。お客さんとの接点を持ち続けたから。
いろんなエンタメは今、手を離してると思います。映画館に行く人が減ったのは、映画館にお客さんとの接点がないから。そりゃ、配信でいいかってなりますよね。
───最後の質問です。YouTubeの人狼ルームチャンネルで、児玉さんから視聴者へ「ひとりでいくらでも遊べる時代だからこそ、みんなと遊べる場所を持とう」と言われていましたね。このメッセージに込めた想いを教えてください。
児玉 僕らがなぜ人狼ルームをやっているかというと、大人が「人と遊ぶ」ことが難しい時代がそのうち来ると思うからなんです。
10年前と今で、遊び方って全然違うじゃないですか? 昔はひとりで遊んでいたらオタクと言われていたけど、今はみんなオタク。
好きなものも、YouTubeの視聴履歴もひとりひとり違うし、どんどんスマホが自分の好きなものだけを見せてくれるから、すごく楽しいんですよね。僕ですら「YouTubeおもしれー」「今日休みだし、ずっとこれ見ちゃおうかな」と思います(笑)。
でもそれだけだと何も残らないし、人と一緒にいることでしか生まれない感情ってあるから。ずっとひとりだけで遊んでいると、そこにのみこまれて、帰ってこられなくなる。
大人が14人集まって本気で遊ぶ場所って、他にはなかなかないですよね。人狼ルームに一度でも来たお客さんは、みんなで遊ぶ楽しさを知っちゃうんですよ。だからもしうちに来なくなったとしても、別の似たなにかを探しに行くと思うんです。その感覚を持っていてほしい。
この時代だからこそ「人と遊ぶのって楽しいぜ」っていう感覚を提供できる場でありたいという使命感は、どんどん強くなっています。だから、ぜひ一度遊びに来てほしいですね。
人狼マニアの多くは児玉さんのことを、ゲーム中の強弁なスタイルから「怖い人」と思っているかもしれない。私もちょっとそう思っていた。
しかし、実際にお会いしてお話を聞いてみたら、児玉さんはものすごくでっかい愛と優しさの人だった。
あの先の見えない日々を、何よりもお客さんとスタッフのことを考えて走り続けた児玉さん。密かに集まって遊んだことも、みんなで嬉し涙を流したことも。大切な思い出を話してくださり、ありがとうございました。
コロナ禍という「人に会えない時代」を過ぎて、今はなんとなく「会わなくてもべつに困らない時代」になりつつありそうだ。
そんな変化を児玉さんは決して否定はせず、「コロナ前に戻りたいとは思わない」「今が一番」と軽やかだ。ひとりの時間をたのしみつつも「オプションとして」みんなと遊べる場所も持つといい、ということを教えてくれた。
帰り道、児玉さんのお話で頭の中がいっぱいで、ふわふわしながら宮益坂を下る。この感じ、かつて人狼ルームでゲームをした帰り道と同じだ。
スタンプを押してもらうときに「けのびさん強くなりましたね」と声をかけられて舞い上がったときの嬉しさが、鮮烈によみがえってきた。
今度は人狼ゲームをしに、また来ます。
取材協力 人狼ルーム
公式サイト


コメント
2ありがとうございます😊いいインタビュー記事でした!
ありがとうございます!