闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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お気に入り件数が3000を超えていたんですけど、夢じゃないですよね!?
皆さん、ありがとうございます!(感謝の土下座)


第58話

「話には聞いていたけど……実物を前にすると、もう驚くしかないわね」

 

 右眼の眼帯を指でかきながら、ヘファイストス様は中庭を見て呟く。

 目線の先では、ウィーネが春姫さんと極東の遊戯の一つ『あやとり』に興じているところだった。

 

「人を襲わないうえ、意思疎通が可能なモンスター。それをガネーシャは、『異端児《ゼノス》』と呼称していた……」

「そのようなモンスターが火の時代には存在し、中には薪の王となった者までいたと……」

 

 春姫さんとウィーネを見守るように中庭を見ながら、タケミカヅチ様達は難しい顔を作る。どうやら、本当に心当たりは無いようだ。

 

「ガネーシャはどんな経緯で喋るモンスター、『異端児(ゼノス)』に遭ったのかしら?」

調教(テイム)するために捕獲したモンスターの中に、偶々喋るモンスターがいた。と考えるのが妥当だろうな」

「というか、僕としてはそうであって欲しいな。これ以上他の【ファミリア】に探りを入れて、事を大きくしたくない」

「問題は、それをどうやって隠し通しているのか、だ。自分達でどうにかして隠しているのか、それとも協力者がいるのか……」

「「「「う~ん……」」」」

 

 続いて、グレイさんがガネーシャ様から得た情報について各々考え、知恵を搾り出すように首を捻る。

 

『はわあああっ!?』

『うわあああっ!?』

「「「「「っ!?」」」」」

 

 すわ敵襲か。春姫さんとウィーネの悲鳴を聞き、僕とタケミカヅチ様が駆け出す。遅れて、グレイさん達も武器を手に飛び出してきた。

 

「こんにちは、お嬢さん」

「驚かせてごめんなさいね」

 

 ウィーネを守るように両腕を広げる春姫さんと、防衛本能が働いたのか、爪が一気に伸びた状態で春姫の背後に隠れるウィーネ。彼女達の正面には……。

 

「「「「なんだ、シャラゴアとアルヴィナか」」」」

 

 白と焦げ茶色の毛並みに水色の瞳の猫と、銀の毛並みに金色の瞳の大きな猫が香箱座りしていた。……おかしいな?

 

「あの、グレイさん?猫が喋ったような気がするんですが……」

 

 そう。聞き間違いでなければ、二匹の猫が喋った。鳴き声が喋っているように聞こえるのではなく、はっきりと。それこそ、ウィーネのように喋ったような……。

 

「こうして会うのは初めてかしら?坊や」

『シャベッタアアアアアアア!?』

 

 聞き間違いなんかじゃなかった。僕の方を向いて、水色の瞳の猫が顔を洗いながら話しかけてきた。……以前までの僕だったらここで気絶とかしていたかもしれないけど、ちょっと驚く程度に止まっている。

 

「ベル。その猫はシャラゴアで、隣の大きな猫はアルヴィナ。俺の火の時代からの知り合いで、当時から人語を操る猫だ」

 

 猫。……猫?僕の知る限り、猫の寿命は10年かそこらの筈。そこまで長生きだと、モンスターの領域に片脚を突っ込んでいると言ってもいいのでは無いのだろうか?

 

「……で、その猫が俺達になんの用だ?」

 

 グレイさんの知り合いということで深く考えることを止めたのか、ヴェルフが問いかける。命さんは依然として警戒しているのか、春姫さんとウィーネを守るように、二人の傍で身構える。

 

「何かと話題になっている坊やが面白い事をしていると聞いたから、つい気になって来たのよ」

「聞いた……?」

 

 アルヴィナのその一言を聞き、皆が険しい顔つきになる。もしかして、どこかから情報が漏れた?それとも、誰かに視られている?憶測が頭の中で次々と浮かび、靄になって頭の中に広がる。

 

「安心なさい。その内分かるわ」

 

 僕達の思考を見透かしたように、シャラゴアは口角を吊り上げて目を細めた。

 

 

 

 

「ベル君、ヴェルフ君、グレイ君。急で悪いけど、三人でダンジョンに潜ってくれ」

 

 シャラゴアが来訪して暫く経ち、僕達三人に神様からの指令がでた。

 

「地上で得られる情報もそろそろ限界が近い。それに、ガネーシャはいつまで経っても来ない。こうなったら、ウィーネ君に遭遇した階層に手がかりが無いか探ってくれ」

「はい」

 

 ウィーネを保護して、今日で六日目。神様が言う通り、地上で情報を集め続けたけど、成果は芳しくない。肝心のガネーシャ様も、あれ以来音沙汰なし。なので、現状を打開するためにダンジョン探索を解禁すると神様はおっしゃった。

 

「ベル……」

「大丈夫。すぐに帰ってくるから」

 

 不安げに僕の顔を見上げるウィーネを安心させるように、笑顔で彼女の頭を撫でる。

 

 

 

 

「ふっ!」

 

 男三人で上層を難なく突破し、現在は『中層』14階層。当初は後衛を務めていたグレイさんだけど、今は先頭に立っている。右手のモーニングスターか、左手の石碑にグリップを付けただけの粗雑な作りの盾──ゲルムの大盾で片っ端からモンスターを挽き肉(ミンチ)にしている。

 当初は前から順にヴェルフ、僕、グレイさんの立ち位置だったのが、どうして入れ替わったのか。それは──。

 

「……くっ!」

『ギャッ!?』

 

 現れたアルミラージを両断する寸前、ヴェルフの大刀の刃先が一瞬だけブレた。グレイさんから聞いた話と、ウィーネに影響を受けているみたいだ。『もしかしたら、同業者(スミス)かもしれない』と考えているのだろう。それでも大刀を振り下ろせるということは、ヴェルフなりに割り切っているのだろう。

 

『キィッ!』

「ぐぅ!?」

「ベル!?」

 

 それに比べて僕はどうだ。体勢を崩したアルミラージに反撃しようと刃を振るった瞬間、モンスターの赤い瞳と視線が合い、躊躇ってしまった。その隙をつかれ、アルミラージの体当たりを受けて背中から倒れた。

 

「(……駄目だ。どうしても考えてしまう)」

 

 遭遇するモンスター達もウィーネと同じように、喋り出すのではないか。

 僕達と変わらない知性と理性を有しているのではないか。

 そう思うと手が竦み、刃を突き立てる事を躊躇ってしまう。

 

『ギィエ!?』

 

 四方から僕に飛び掛かったアルミラージの胴体。魔石がある辺りに、グレイさんの投げたダガーが突き刺さる。

 

「……大丈夫か?」

「……体の方は、大丈夫です」

 

 差し伸べられたグレイさんの手を取り、立ち上がる。

 僕らと違って、グレイさんはいつも通り(・・・・・)だ。躊躇う素振りは微塵もなく、襲い来るモンスターを迎撃している。そして倒したモンスターの魔石やドロップアイテムを黙々と集め、投げたダガーの再使用の可不可を判別までしている。

 

「……ヴェルフも、大丈夫か?」

「なんとか、な」

 

 そう言っていつものように大刀を担ぐヴェルフだけど、言葉はどこか弱々しい。

 

「……そうか。なら、行くぞ」

「はい」

「ああ」

 

 先頭を立って歩くグレイさんと、その後ろをついて行く僕とヴェルフ。

 

「(……やっぱり、僕らとグレイさんは違う(・・))」

 

 僕達とグレイさんが潜った修羅場の量と質の違い。そしてそれによって形成された、お互いの価値観の相違が、大きく分厚い見えない壁となって立ちはだかっているのを改めて実感する。……それでも僕達は、脚を進めなければならない。

 ウィーネと僕が出会った19階層、『大樹の迷宮』に。

 

 

 

 

 そして到着した、19階層。『大樹の迷宮』。

 

「この辺か?」

「……はい。ウィーネと会ったのは、この辺りで間違いありません」

 

 簡易地図とあの日の記憶を頼りに、周囲を見渡すと、幅広の樹道に到着した。天井は遥か高く、視界の奥には木の根に覆われた巨大な下り坂が見える。恐らく、足を痛めたウィーネはあそこから転げ落ちたのだろう。

 

「ここまで来る途中、手がかりの一つでも見つかれば良かったんだが……」

 

 周囲と足元を見渡すヴェルフが呟く通り、今のところ収穫は無し。注意深く観察しながら更に前進すると、立木と無数の葉々が生い茂る物陰に着いた。

 ……ここに、負傷したウィーネは身を隠していたんだ。

 

(そう都合良く手がかりなんて見つからない、か)

 

 となれば、次に探すべきは坂を上った先。階層の奥深くか。

 

「誰か来る」

 

 足を踏み出そうとしたところで、グレイさんが口にした一言。続いて、横穴の一つから人影が現れた。

 長い外套(フーデッドローブ)を被った長身の人物。布地の下には鎧を身に着けているのか、下半身と比べて上半身がやや膨れている。身長はヴェルフと同じくらい。顔も種族も分からないけれど、何となく女性の印象を受ける。

 外套(フーデッドローブ)の人物は何か探し物をしているかのように顔を振り、周囲へ視線を配っていた。

 僕らは咄嗟に目配せをし、道具(アイテム)の原料を採取している風を装う。

 このまますれ違い、頃合いを見て引き返そう。

 

「──同胞ノ臭いがすル」

 

 そう思った瞬間だった。

 すれ違った外套(フーデッドローブ)の人物がぐるりと僕らの方を振り向き、底冷えする声を放つ。

 

「「「っ!」」」

 

 即座に反転して距離を取り、構える。ヴェルフは大刀の柄を掴み、グレイさんはメイスを握り、僕はナイフを逆手に握って相対する。

 耳朶を撫でた、どことなくぎこちない言葉遣い。

 もしかして、あの人影は……。

 

「同胞ヲ攫っているノハ、貴方達カ?」

 

 フードの奥から除く顔の輪郭は、線が細く女性的。

 こちらを見据える瞳は海か空を思わせる青い瞳だけど……その瞳孔が縦に割れている。

 

「……いや、違ウ。白い人ト赤い人カラハ血の臭いガしなイ」

 

 相手……いや、彼女は高い鼻梁をすんと微動させて呟く。白い人というのは、恐らく髪が白い僕。赤い人は、髪が赤いヴェルフのことだろう。

 

「ですガ鎧ノ人、貴方はとても血の臭イが強イ。人の、モンスターの、そして……同胞ノ……!」

 

 彼女は眉間に皺を寄せ、怒気と殺意が混じった眼差しをグレイさんに向ける。

 

「「っ!」」

 

 咄嗟に、グレイさんの肩に手を伸ばして掴む。この程度で止まるとは微塵も思っちゃいないけど、何もしないよりはましだ。対話で解決したいと、行動で伝えなきゃ。

 

「何故、同胞ヲ殺しタ?」

 

 そう言いながら、姿勢を低くして上半身を膨らませて構えている。グレイさんの返答によっては、こちらに飛び掛かってくるだろう。

 

「向こうが殺すつもりで襲ってきたから、生き残るために殺した。人もモンスターも平等にそうしてきた。ただそれだけだ」

「……」

 

 グレイさんの返答を聞いて、彼女は暫く黙った。

 

「……貴方ハ、とても冷たい人なのですね。ですが、その冷たさがとても心地よイ」

 

 殺意が収まると同時に膨らんでいた上半身も萎み、彼女の姿勢も戻った。

 

「良いんですか?だって、グレイさんは……」

「はい。お互いノ生死を賭けタ戦イに、善も悪モ在りませんカラ」

 

 僕とヴェルフはほっとしたように胸を撫でおろす。とりあえず、流血沙汰は避けられたようで安心した。

 

「……血ノ臭いを感じたせいで忘れていましたガ、もしや、貴方達ガ、フェルズの言っていタ方々ですか?同胞を保護し、匿っていル冒険者達というのハ」

 

 フェルズ?聞いた事も無い名前に、困惑する。ヴェルフとグレイさんに心当たりがあるか視線で訊ねるけど、二人とも首を横に振る。

 

「地上ノ人。私達ハ、共生できるト思いますか?手を取り合イ、分かり合うことはできると思いますか?」

 

 ヴェルフでもグレイさんでもなく、僕の目を見て問いかけてくる。恐らく、フェルズなる人から僕達がウィーネを保護するに至った経緯を聞いていたのだろう。

 

「……それは、非常に難しいと思います。大昔からダンジョン(ここ)で、地上で、誰かがモンスターを殺して、モンスターが誰かを殺しています。僕達と貴方達が共生するには、お互いの溝が深すぎます。それに、理知を備えたモンスターの存在を人々が知り、それによってモンスターとの戦いの中で迷い、躊躇ったせいでモンスターに殺される冒険者が増えないとも限りません。今日は仲間がいたからどうにかなったけど、僕一人だったら命を落としかねない場面が何回かありましたから」

「そう、デスか……」

 

 彼女は悲しそうに眼を細め、顔を伏せる。

 

「でも、不可能ではありません。かつてカタリナの騎士ジークバルトと、薪の王の一人にしてモンスターであるヨームが友人になれたんです。だから、僕達と貴方達が共生できる日は来ます」

「っ……!」

 

 僕の本心からの言葉を聞いた彼女は、外套(フーデッドローブ)の中で体をモゾモゾと動かす。

 

「えっ!?」

 

 そして何を思ったのか、膝を曲げて大きく跳躍し、僕達の頭上を旋回。少し離れた場所で滞空する。……必然的に露になる、外套(フーデッドローブ)の下の彼女の体。

 ウィーネと同じくその容姿は見目麗しい。くすんだ金の長髪は全ての毛先に青みがかっている。両腕に当たる前肢は美しい金翼で、同色の羽毛に覆われる下半身は長い両足の先端に鳥の爪を有している。

 膨らみのある胸の上には女戦士(アマゾネス)が好むような戦闘衣(バトル・クロス)を纏っており、臍を始めとした羽に覆われていない素肌が露出している。

 そう……彼女は歌人鳥(セイレーン)だった。

 

「それハ、お近づきの印です」

 

 彼女が口を開いたと同時に、頭の上に何かが乗る感触が。落とさないように手を伸ばして掴んだそれは、金色の羽だった。

 

「まタ会いましょう、地上の人。その時ハ、お互いノ仲間も一緒に」

 

 それだけ言うと彼女は坂を飛び越え、姿を消した。

 

 

 

 

 衝撃的な遭遇を経た後、僕達は情報と『お近づきの印』を持ち帰るべく地上へと向かっていた。

 モンスターの襲撃を迎撃しつつ、階層脱出のために正規ルートを逆戻りして。

 

「(あの人達は……)」

 

 18階層への連絡路が見えてくる頃。

 五人組の冒険者パーティーが正面からやってくる。目を引いたのは奇妙な赤い槍を携えた男性冒険者だけど、他四名の亜人(デミヒューマン)を見て思い出した。彼等はウィーネを追って、僕が何とかやり過ごした男女の冒険者達だった。

 猛烈に感じた嫌な予感に従い、相手の顔を見ないようにする。側にいたグレイさんは何かを察してくれたのか、自然な動きで体を滑り込ませ、壁となって冒険者達の視線から僕を隠す。

 そして、すれ違う間際、眼装(ゴーグル)の男性がこちらを見たような気がした。

 

「……」

 

 顔を僅かに動かし、背後を一瞥すると、冒険者達は僕達を見つめていた。

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