闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第57話

「皆、今日から暫くダンジョン探索は行かずに情報収集にあたってくれ」

 

 一夜明けた【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)

 居室(リビング)で朝食を済ませた後、ヘスティア様が口を開いた。

 

「情報収集というと、やはりウィーネに関してですか?」

 

 僕の質問に、神様は首を縦に振る。

 ウィーネ。僕が子供の頃に好きだった異種婚姻譚(メリュジーネ)竜女(ヴィーヴル)を合わせてウィリュジーネ……では長かったから、縮めて付けたこの娘の名前。

 当の本人(?)は命さんの朝食に満足したのか、感謝の意を示すように命さんの腕に抱きついている。

 

「グレイ君とネロ君以外にウィーネ君のような存在を知っている者はいるのか、この娘を保護するならその位の情報は持っておきたい」

 

 但し露見しない程度に。と、神様は厳命する。ウィーネのように喋るモンスターがいることはもとより、調教(テイム)されていないモンスターが都市にいると発覚すれば混乱を招くのは言うまでもない。怪物祭(モンスターフィリア)でモンスターが逃げ出した時の騒ぎが、その最たる例だ。

 

「グレイ君は、ガネーシャへの交渉を任せたい。万が一があった時は、ガネーシャに後ろ盾になってもらいたいからね」

「分かった」

「ヴェルフ君、サポーター君はボクと同じように情報収集をしてくれ」

「「はい」」

「ネロ君は、タケとミアハに相談に行ってくれ。但し、眷属(こども)達が席を外した状態でね」

「かしこまりました」

「残りのベル君、命君、春姫君は本拠地(ホーム)に残ってウィーネ君と一緒にいてくれ……くれぐれも、信用できる人物以外との接触は避けるように」

「「「はい……」」」

 

 嘘が下手、というよりも隠し事が苦手な僕達は揃って体を縮める。

 

「けどその前に……ヴェルフ君」

 

 神様が、ビシッとヴェルフを指さす。

 

「ウィーネ君を保護するなら、あの娘の爪を何とかしないといけない」

 

 皆の視線がウィーネに、正確には、ウィーネの手に集中する。向けられたウィーネは、何事かとキョロキョロしている。

 

「あのままにして、誰かが痛い目を見るのは防ぎたいからね」

 

 確かに、ウィーネからすれば自然な状態かもしれないけど、爪を伸ばしたままにしておくのは危ない。僕達が定期的に爪を切ることで相手を傷つけてしまうのを防ぐように、ウィーネも爪を切っておいた方が良いと思う。

 

「お、俺がですか?旦那じゃなくて?」

「頼むよー。ヘファイストスとくっついた時の練習だと思ってさ♪」

 

 満面の笑みを浮かべる神様。髪と同じくらい耳まで顔を真っ赤にするヴェルフ。そっと顔を伏せる命さんと春姫さんも、耳まで赤くなっている。残るグレイさん達は、『早く』と目で訴えている。

 

「……分かりました」

 

 ヴェルフが立ち上がると、ウィーネは不安そうな眼差しで命さんとヴェルフを交互に見る。

 

「大丈夫ですよ。自分達が、ウィーネ殿の傍にいますから」

 

 命さんが、僕と春姫さんに目配せをする。命さんが言った『自分達』の中には、僕と春姫さんを含んでいるらしい。

 だから、僕と春姫は頷いた。

 

「……うん」

 

 命さんが立ち上がるのに合わせて僕と春姫も立ち上がり、ウィーネは命さんの手をそっと掴んでついて来た。

 

 

 

 

 『バベル』四階、【ヘファイストス・ファミリア】店舗(テナント)

 その奥にある、商談室。

 

「知ってるかい、ヘファイストス。父さんが持ってる武器の幾つかは、モンスターが鍛冶師みたいに鍛え上げた物があるんだってさ」

「モンスターが父さんの武器を?そんな事あるわけが……」

「……」

「詳しく、聞かせなさい。今、私は冷静さを欠こうとしているわ」

 

 

 

 

 北西と西の大通りに挟まれた第七区画にある、『青の薬舗』。

 眷属達が出払った【ミアハ・ファミリア】本拠地(ホーム)の客室。

 

「命達の様子がおかしかったのは、そういうことだったのか……」

 

 合点が言っというように腕を組み、頷く神タケミカヅチ。

 

「神ミアハ。眷属から、そのような話をお聞きしたことはありますか?」

「……無い。喋るモンスターが存在するなど、初耳だ」

 

 首を横に振り、否定の意を示す神ミアハ。

 

「ネロ。お前は、それで良いのか?先祖(ユリア)の記憶を受け継いでいるとは言え、喋るモンスターを保護することに」

「はい。彼女が人類(わたしたち)の敵になるか味方になるかは、彼女を取り巻く環境次第です。人の子も同じです。親が悪人だからといって、必ずしも子供が悪人になるわけではありません」

 

 神タケミカヅチの問いに答えると、お二方が眉をひそめる。

 

「そなた、本当に16歳か?その年でその回答をサラッと出せるのは少々不気味だぞ?」

 

 

 

 

 ギルド本部ロビー。

 

「……おい、聞いたか。例の装備品をかっぱらってくモンスターの話」

「ああ、とうとう『中層』にも出るようになったらしいな」

「やけに興奮して、(リヴィラ)の連中が酷い目に遭ったって聞いたぜ」

 

 不意に聞こえてくる冒険者達の呟きと、掲示板に貼られている一枚の羊皮紙。

 

「(……まさか、な)」

 

 剣と鎧を纏うモンスターの絵が、冒険者達の情報の信憑性を高める。

 

 

 

 

 北西のメインストリート、『冒険者通り』。

 大通り沿いに武器屋や道具屋に紛れて建つ、一軒の薄汚い酒場。その裏口からしか入れない地下の(フロア)前の階段。

 

「(またここに来る事になるとは思いませんでした……)」

 

 これから行く酒場は、盗賊時代に事あるごとに利用していた酒場。ギルドとは異なり脛に傷持つ者が多く出入りし、信憑性に欠けるものや曰く付きの情報がごろごろ転がっている。間違ってもベル様が踏み入れて良い場所ではありません。

 

「(でも、何かあるかもしれません)」

 

 油断すれば手持ちの手札(カード)を全て持っていかれる魔境に、私は一歩足を踏み入れた。

 

 

 

 

 南西のメインストリート沿いにある商店街。

 

「小豆、良し。砂糖、良し。もち米、良し」

 

 道中で購入した、ガネーシャへの交渉の席に出す菓子の材料の買い忘れが無いかメモと籠を交互に見て確認。

 

「後は茶葉だな……」

 

 籠を背負い、目的の店まで足を進めた。

 

 

 

 

 そして時間は進み、夜。沈んだ太陽と入れ替わるように月が顔を出し、星々が夜闇の中で輝く頃。

 【ヘスティア・ファミリア】が以前本拠地(ホーム)にしていた廃教会があった区画。その片隅で。

 

「親父殿。この『夜船』という極東の菓子、美味いな。程よい甘味が堪らん」

「口に合ったようで良かった」

 

 ここは『茶室』という極東の建物の一つで、極東の床材である畳を三枚しか使っていないため、こじんまりしている。俺が持っている道具の中に【竃火の館】で使うにはミスマッチな物があり、それを使うためだけに【ゴヴニュ・ファミリア】に依頼をしたいと、ヘスティア、リリ、そしてベルから許可を貰って建てたという経緯がある。

 

「……」

 

 ガネーシャの隣で、同じく正座して菓子を口にしているシャクティ・ヴァルマ。しかし緊張しているのか、所作がどこかぎこちない。

 

「(さて……)」

 

 二人の夜船の残りが四分の一ほどになったところで、茶入に手を伸ばす。

 茶杓で掬った抹茶を茶碗に入れ、釜で沸かした湯を柄杓で注ぐ。そして茶筅を使い、点てる。体が覚えていたのか、長いブランクがあるにも関わらずすんなりと点てることができた。

 

「どうぞ」

 

 まずはガネーシャ。漆黒の、少々形が歪な茶碗。

 

「お先に。お点前、頂戴します」

 

 ガネーシャは仮面を外して脇に置くと、シャクティに一礼して茶碗を手に取る。そして茶碗を三回回した後、ゆっくりと抹茶を飲む。

 

「結構なお点前で」

 

 空になった茶碗を置き、一礼。団員に極東出身の者がいるのか、それともタケミカヅチあたりから聞いていたのか、中々様になっている。

 

「どうぞ」

 

 次にシャクティ。彼女に出した茶碗の色は、本人の髪と同じ藍色。形はガネーシャと違い、流水を思わせる曲線を描いている。

 

「お点前、頂戴します」

 

 ガネーシャに倣って彼女も茶碗を手に取り、三回回してゆっくりと飲む。

 

「……結構な、お点前で」

 

 空になった茶碗を置き、一礼する彼女の表情はどこか柔らかくなっているように感じた。どうやら、緊張が少しは解れたようだ。

 ……大きな声では言えないが、俺が持っている茶道具は『幻の名物』なんて今の極東では呼ばれていると春姫は言っていた。なんでも、名物の持ち主──俺が極東にいた頃に仕えていた、魔王と畏怖されたお方が没すると同時に行方不明になったこともあってか、競売に出せば少なくとも億単位の値がつくと春姫は熱く語っていた。

 まあ、行方不明になったのは名物を譲渡された俺が、争いの種になりそうだからと誰にも何も言わず極東を去ったからなのだが。

 

「そろそろ、本題に入ってもいいか?それとも、お茶のおかわりを出すか?」

「シャクティの緊張も解れたようだから、本題に入ってくれ。親父殿がわざわざ人気のない所で話をしたいと言うのだ。話題も、それ相応の秘匿性があるのだろう?」

「左に同じく」

 

 ガネーシャは襟を正すように手を胸元に当て、背筋を気持ち伸ばして真剣な表情で俺を見つめる。シャクティの方も、表情がキュッと引き締まる。

 

「分かった」

 

 一呼吸置いて、口を開く。

 

「先日、久しぶりに喋るモンスターに遭遇した」

「なんだと!?」

 

 ガネーシャは驚きのあまり、跳ねるように立ち上がる。まあ、無理もないか。モンスターが喋るなんて、非常識な──。

 

「『異端児(ゼノス)』に遭ったのか!?」

 

 ──思っていたのと違う言葉が返ってきた。

 『異端児(ゼノス)』。初めて聞く単語なのもそうだが、それ以上にガネーシャが喋るモンスターについて認知している事も驚いた。

 

「……ガネーシャ」

「……はっ!?」

 

 呆れたようにため息を吐くシャクティと、言ってはいけない事を口にしてしまったように口を手で塞ぐガネーシャ。

 

「……」

 

 力が抜けたように座り込んだガネーシャは、何か悩むようにうんうんと唸り声をあげ、腕を組んで俯く。代わりに、シャクティが口を開いた。

 

「……貴方が遭遇した『異端児(ゼノス)』は、今何処に?」

「【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)で保護している」

「そうですか……」

 

 その一言が決め手になったのか、ガネーシャは意を決したように顔を上げて俺を見る。

 

「親父殿。俺達は喋るモンスターの事を、『異端児(ゼノス)』と呼んでいる。その『異端児(ゼノス)』は、保護すべき存在か?それとも、他のモンスター同様、排除すべき存在か?」

「……人もモンスターも(・・・・・・・・)平等に生かし、平等に殺す(・・・・・・・・・・・・)。俺はこれまでそうしてきた、それはこれからも変わらない。対話と共存を望むのなら、手を取り、共に生きよう。だが牙を向き、脅威となるのなら、容赦はしない」

「……そうか……」

 

 俺の見解を述べると、ガネーシャは納得したように頷く。

 

「詳しい話は、場所と日を改めてさせてくれ。少々、情報の整理がしたい」

「ああ。ヘスティア達にも伝えておく」

 

 ガネーシャが後ろ盾になる以上の成果を得たことを知ったら、ヘスティアは大層驚くだろう。ベルなんかは兎のように飛び跳ねてしまうかもしれない。

 帰った後の事を考えながら、俺達は茶室を後にした。




交渉の席に出したお菓子ですが、あれは牡丹餅のことです。wikipediaによれば、春は牡丹餅、夏は夜船、秋は御萩、冬は北窓と季節によって呼称が変わるそうなので、選びました。
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