闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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エルデンリングたーのしー!(意:皆さま、大変長らくお待たせいたしました)


第56話

 ラキア侵攻と、それの事後処理が終わって暫く経ったある晩。

 日課の【ステイタス】更新を終えたボクが目を通しているのは、ベル君が洗濯バサミで纏めた数枚の羊皮紙。一枚目に書かれているのはタイトルで、『【ヘスティア・ファミリア】人材確保及び育成案』。

 ボクの借金と、グレイ君の全裸でダンジョン突入のせいで、今だ【ヘスティア・ファミリア】への入団希望者はゼロ。ならばそれを覆すような実績に加え、他には無い『個性』を持った【ファミリア】にしようという事になり、ベル君達は合間を見て話し合いを進めていたらしい。

 

「(探索しない探索系【ファミリア】……?)」

 

 捲って早々目に飛び込んだ、矛盾の塊なワード。そして脳裏に浮かぶ、ハーフエルフのアドバイザー君の姿。大なり小なり彼女の影響はあるとして、どういうことなのか。首を傾げた僕はページを捲って読み進めていく。

 

「(ふんふん……ああ、そういうことか)」

 

 内容は、ベル君自身の体験談を交えて始まった。

 今後、入団希望者の中に碌な装備と戦う術を持たない素人が現れないとも限らない。それこそ、【ファミリア】結成当初のベル君のように。そのため、入団して最初の一年はダンジョンに潜らず、地上で体づくりと座学を行って、ダンジョンデビューさせるというもの。体づくりの内容はシンプルな筋トレと、希望する武器種に合わせた模擬戦。そして座学では、回復する手段が無くなった時の応急手当を始めとした、生き残るための知識を蓄積させる。期間中は不定期で、教官を務める上級冒険者が相手を殺してしまわない程度に本気で叩きのめし、上には上がいることを体に教える。これはグレイ君が世界中を旅していた頃、とある武術家に師事していた時に受けたもので、『弟子が慢心してしまわないように』と不定期で本気の師匠と戦った経験が由来になっている。そして、訓練を乗り越えた団員は装備を受け取り、漸くダンジョンに潜ることが出来る。公平性を考慮して、改宗(コンバーション)してきた団員にも同じ鍛錬と座学を受けて貰うらしい。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 目線を移せば、正座したベル君がボクの事をじっと見つめている。

 

「悪くはないと思うよ。ただ……問題がある」

「……ごくり」

 

 羊皮紙から目を外し、ベル君をじっと見つめ返す。若干前のめりになったベル君が生唾を飲み、ボクの指摘を待つ。

 

「後衛職。それも魔法使いの育成は、どうするつもりなんだい?」

「……実は、そこで僕達も困っているんです。弓やクロスボウなら本拠地(ホーム)を改装すればどうにでもなりますけど、魔法が特に悩みどころなんです」

 

 頭を抱えるベル君だけど、その苦悩は良く分かる。

 まずボクの【ファミリア】は、団員の殆どが前衛若しくは中衛職。後衛職はサポーター君と春姫君のみと人員が凄まじく偏っている。加えて、使える魔法が特殊な上に修行らしい修行をした者は皆無で、ほぼ実戦で鍛え上げたと言っても過言ではない。事実、試しに買った魔術師向けの書籍を呼んでみた所、皆口を揃えて『ちょっと何言ってるか分からない』と言っていた。それに、魔法使いの装備はどんなものを用意すれば良いのか、そういう根本的な知識や伝手がボクの【ファミリア】には無い。ベル君といいグレイ君といい、どうしてこう、ボクの【ファミリア】は特殊(イレギュラー)な人員ばかりが集まるのか。

 

「「う~ん……」」

 

 腕を組んで頭を捻り、状況を改善するための知恵を搾り出そうと呻くボクとベル君。しかし悲しいかな、絞っても絞っても知恵が出てこない。……なので。

 

「とりあえず、この話は一旦おしまい。続きはまた今度にしようか」

「はい……」

 

 満場一致で一旦保留することになった。ヘファイストスからすれば、ただの後回しかもしれないけど、仕方ない。無いものは無いんだから。そう、ロキの胸のように!開き直ったボクに対して、ベル君は知恵を出せない自分が情けないのかがっくりと項垂れている。

 

「では神様、おやすみなさい」

「うん。おやすみ、ベル君」

 

 上着を着たベル君は、一礼すると部屋を出る。ベル君の背中を暫し見送った後、扉を閉めて寝間着に着替える。

 

「ふわぁ~……」

 

 あくびをして体を伸ばし、部屋の灯りを消してベッドと夢の世界へと潜り込んだ。

 

 

 

 

 ……まさか、あんな事が起きるとは知らずに(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!」

 

 同時刻。【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)

 

「誰かウチの噂しとるな……」

 

 誰がどんな噂をしとるか、そないな事はどうでもええ。重要な事やない。それよりも……。

 

《スキル》

【終わりなき巡礼】

・■に■■を■■■■スキル

・成就する日が来るまで、■■は残り続ける

 

 【ステイタス】を更新した、とある団員に新たに発現したらしいスキル……なのはええけど、文字化けが酷い。どうにか読めるようにしてもこの始末や。

 

「本人も心当たりは無い言うとったしな~……」

 

 首を捻って知恵と記憶を搾り出そうとしたけど、何も分からんかった眷属()の姿を見たのは数分程前の話。

 

「しゃあない。文字数から推理してみるか」

 

 一行目の内容から、このスキルは何らかの変化を持ち主に与えることは分かる。せやけど、それがどんな効果をもたらすのかは不明。頭の天辺から爪の先まで見て、軽く体を動かしてもらっても変化が起きた様子は無かったということは、もしかしたら条件があるのかもしれん。

 

「やっぱり、二行目が鍵やな。『成就する』ってことは、何か目的があるんやろうけど……」

 

 成就の二文字を見て、思い浮かべるのは神々(ウチら)が下界に降りてくる前の話。仕事をしとる間に遭遇した、とある『ソウル』とのやり取り。

 

「いやいやまさか、そないな事──」

 

 有り得ん。口にしかけたその一言を、生唾と共に飲み込む。あれは存在そのものが異常(イレギュラー)。そしてそれ故に、密かに神々(ウチら)の賭けの対象になっとった。

 

「もしそうやとしたら……」

 

 ウチとあの子の関係に大きな変化が生じる。そして、今下界に来とる神々もその変化に巻き込まれることになる。

 

「……『その時』が来るまで、フィン達には内緒やな」

 

 脳内に浮かんだ可愛い眷属(こども)達に頭を下げ、箪笥の奥に羊皮紙を隠す。『その時』にはウチの心の準備が出来ているように。と、密かに願いを込めて。

 

 

 

 

 ……まさか、『その時』が近いうちに来るとも知らずに。

 

 

 

 

 18階層東部。(リヴィラ)から遠く離れた、水晶と木々の大森林の奥。

 

「「……」」

「グレイ様、ネロ様。暫しお待ちください」

「どういうことだ、ベル」

 

 強烈な殺気を放つグレイさんとネロさんを制止するように両腕を広げるリリと、背の大刀の柄に手を伸ばすヴェルフ。

 

「春姫殿、こちらへ」

「っ!は、はい」

 

 命さんの背後に、硬直していた春姫さんはぎこちない動作で隠れる。

 

「っ!?」

 

 僕の背後、火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)に包まれた少女が恐怖に体を震わせる。

 

「ま、待って、皆、この娘は……」

「離れてくださいベル様!自分が一体何をしたか、分かっているのですか!?」

 

 僕の弁明を、リリの声が遮る。

 

「綺麗な顔をしているからって、連れてきたっていうんですか!?それでは『怪物趣味』と疑われても仕方ありません!」

 

 『怪物趣味』

 文字通り、女面鳥体(ハーピィ)半人半蛇(ラミア)などの人型モンスターに欲情してしまう性癖、若しくは人間を指す、下界における最大級の蔑称。

 そして、僕の後ろにいる少女は一見華奢な女体をしているが、青白い肌と額の紅石が彼女がどのような存在であるか物語っている。

 ……彼女は、モンスター『ヴィーヴル』。一角獣(ユニコーン)と並んで、ダンジョンの中でも群を抜いて絶対数が少ない最上位の稀少種(レアモンスター)だ。

 

調教(テイム)ならまだしも、変な情を移すなど言語道断です!それは私達の──人類の敵なんです!」

「……ベル。そこをどけ」

「ベル殿。お願いします」

 

 リリの訴えかけを後押しするように、ヴェルフと命さんが一歩近づく。

 ここで僕が首を横に振れば、ヴェルフと命さんが僕を押さえ込んでいる間に、リリの許可を得たグレイさんかネロさんが竜女(ヴィーヴル)の少女を殺すだろう。だけど、僕の首は固定したように動かず、少女を庇うように立っていることしかできずにいる。かと言って、僕がこの娘を保護しようと思った切欠……人の言葉を介したと口にしたところで、正気を疑われるのが関の山だ。だからといって逃走するのは更に良くない。僕が動いたその瞬間、グレイさんかネロさんが少女の首を刎ねる光景(ビジョン)が脳内に浮かび上がる。

 万策尽きた。……そう思った次の瞬間。

 

「……ベル?」

「「「「っ!?」」」」

 

 唇を開き、彼女が言葉を発した瞬間、リリ達は絶句した。

 

「ほう……」

「なるほど……」

「ちょ、ちょっとお二人とも!?」

 

 何事も無かったかのように殺気を霧散させたグレイさんとネロさんが、僕のほうに近づく。二人の手首を掴もうとしたリリの手が、虚しく空を切る。

 

「ベル。そちらのお嬢さんの名前は?」

 

 それどころか、この娘の名前まで確認してきた。まるで、僕が迷子でも保護してきたような口調で。

 

「ゑ!?えっと……というか、二人は驚かないんですか?だって、モンスターが……」

 

 『喋ったんですよ?』と、口にしようとすると、被せるようにとんでもない言葉が飛び出した。

 

「そうだな、久しぶりに(・・・・・)喋るモンスターに会った」

「私も目にしたことはありませんが、知識として知っていますので、さほど驚いていません」

「「「「「……ゑ?」」」」」

 

 リリを含め、僕達は呆然と呟いた。久しぶりに会った?知識として知っている?どういうことなのか。と、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

 

「ベル、ベル」

「っ!?う、うん。僕はベル」

 

 吹っ飛びかけた意識を、少女の言葉が引き戻した。

 

「……」

 

 信じがたい情報を脳内で無理矢理整理しているのか、リリが眉間に皺を寄せて黙考している。

 

「……地上に帰還するのは、人目が少ない夜にしましょう。そして、ヘスティア様に判断を仰ぎましょう」

 

 異論はありませんね?と、リリが僕達に目で訴える。グレイさんとネロさんは首を縦に振り、ヴェルフ達は首がさび付いた様にぎこちなく頷く。

 

「ベル様?よろしいですか?」

「う、うん。ごめんね、リリ」

 

 ジト目で僕を見上げる、若干圧のある口調で話しかけるリリに、首を縦に振って了承の意を示した。

 

 

 

 

 場所は変わって。【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)、【竃火の館】の居室(リビング)

 

「……いかがですか、ヘスティア様」

 

 僕達が竜女(ヴィーヴル)の少女を保護して地上に連れてきた経緯を話し終えたリリが、神様の返答を待つ。

 

「……グレイ君とネロ君が言う通りだ。喋るモンスターは実在する(・・・・・・・・・・・・)

「「「「「っ!?」」」」」

 

 神様が口にした事実に、僕達は絶句する。

 

「グレイ様。その、ヘスティア様のお言葉を疑うわけではないのですが……本当に、喋るモンスターにお会いになられたことが……?」

「ある」

 

 きっぱりと、春姫さんの言葉をグレイさんが肯定する。今の春姫さんの質問を、誰も咎める人はいない。僕達は神様に対して嘘をつくことは出来ない。それは、グレイさんとて例外ではない。……だからこそ信じられないのか、春姫さんはああ言ったんだと思う。

 

「まず、俺と同じ薪の王であるヨームは巨人だ」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 

 それを皮切りに出てくる、喋るモンスターの数々。アノールロンドには鍛冶師の巨人がいて、【奇跡】を扱う巨人の騎士が玉座に通じる大広間で立ちはだかった。グウィン王に仕える騎士の一人にして巨人、鷹の目ゴーからグレイさんは大弓を授かり、カラミット討伐に際しては力をお借りしたという。地下墓地を拠点にしていた骸骨(スケルトン)の鍛冶師、バモス。同じ鍛冶師のオルニフェクスは、鴉の頭部と翼を持った鴉人。蠍に人間の上半身を組み合わせた、蠍のタークとナジカ。霊廟の守り人エリザベスに至っては、喋るキノコ人。

 

「マジか……」

 

 両目を手で覆い、天井を仰ぐヴェルフ。

 

「かの王、ヨームが……巨人……?称号などではなく、文字通りの……?」

「春姫殿!どうか、どうかお気を確かに!」

 

 意識を失いかけている春姫さんと、肩を揺さぶって声をかける命さん。

 

「「……」」

 

 火の時代の異常ぶりに、頭を抱えてテーブルに突っ伏す神様とリリ。

 

「ベル?」

 

 僕にしがみついておろおろしているヴィーヴルの少女を、じっと見る。もしかしたら、僕達が知らないだけで、この娘のように喋るモンスターは今もどこかにいるんじゃないだろうか。そんな考えが、僕の脳内に浮かんでいた。

 

「……グレイ様の方は理解しました。ではネロ様は、何処でその知識を得られたのですか?」

 

 顔を上げたリリは、そのまま視線と質問をネロさんに向ける。僕も訊こうと思っていたのだけど、先手を取られた。

 

「私の祖ユリアは、最古の物語(オールドテイル)の著者の一人です。ですので、時代を経ると共に内容の受け取り方が変化することなく、最古の物語(オールドテイル)を受け継いできました」

 

 本来なら飛び上がるくらい驚く情報のはずなのに、誰もそこまでのリアクションを起こさず、納得したように頷くばかり。というか、喋るモンスターという情報に比べると余りにもインパクトに欠けている。

 

「……取り敢えず、もう夜遅くだから今日は寝よう。何か行動を起こすのは、明日からだ」

 

 異論は無いね?と、神様が僕達に訊ねてくる。僕達は、首を縦に振って了承の意を示す。グレイさんとネロさん以外は、色々なことがあり過ぎて心身ともに疲れているのか、動きが少々緩慢だった。

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