闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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やっと四人の公王に勝てました。


第55話

「いいかい、皆?恋愛をするなとは言わないが、風紀を乱すのは駄目だ」

 

ある朝。1階の居室(リビング)でヘスティアがそんなことを言う。

ヘスティアが急にこんなことを言った理由は、わからない。というか、聞かなくとも察せる。ベルと春姫だろう。少し前に誰か、というか春姫に怒鳴っていたような声が聞こえた。そして自分のせいでこうなったと責任を感じているらしい本人は、端のほうに座って縮こまっている。

 

「というわけで、ボクの【ファミリア】で男女の接触は禁止だ。手を繋ぐのも駄目」

「そんなの横暴です!それを言うなら、ヘスティア様もベル様にヴェルフ様、グレイ様に一切触れてはいけませんよ!?」

「それじゃあ【ステイタス】の更新が出来なくなるじゃないか!」

「でしたら!最初から変な規律(ルール)を作らないでください!」

 

リリが椅子から立ち上がり、身を乗り出してヘスティアと言い争う。

そんな1人と1柱を見てベルと命は汗を流し、ヴェルフとネロは軽く嘆息をした。

 

「わかったわかった。じゃあ、過度な触れ合いは駄目だ!他派閥の子との恋愛なんて絶対に許さない!」

「えっ!?」

 

ヘスティアの言葉に、特に後半の言葉にベルが反応する。

 

「なんだいベル君、当然だろう?まさか、他派閥にお近づきになりたい、お付き合いしたい子がいるとか言わないよね?」

「い、いや。その、そういうわけでは……」

 

やけに刺々しいヘスティアの言葉に、ベルは言い返せないでいた。ふと見れば、あれだけヘスティアと言い争っていたリリは目を瞑って澄まし顔で黙っていた。まあ、こればかりはしょうがないな。懇意でもない他派閥の人間との交流を続け、更には恋に発展しようものなら両【ファミリア】に弊害をもたらす。

 

「あの、今回の決まり事は神様相手にも……その、思慕を抱いてはいけないのでしょうか?」

 

そこで、目を右往左往させながら命が手を挙げる。

 

「ああ、そうか。命君は、タケのことが……」

「い、いえっ、タケミカヅチ様に限った話ではなく、じ、自分はっ……!?」

「そーいうことなら、僕は邪魔しないぜ!むしろ好ましく思っているよ!相手がタケみたいな神格者(いいやつ)だったら、ボクは全力で応援するよ!」

 

ヘスティアは満面の笑みで、命にサムズアップを向ける。

そして身を乗り出し、ベルに顔を近づける。

 

「まるで(ボク)達が降臨する前に流行った、『精霊』と子供の恋歌(ラブロマンス)みたいじゃないか!夢があって良いと思わないかい、ベル君!?」

「えっ、ええっと……」

 

狼狽えるベルを見てリリがはっとしたように立ち上がってベルの肩を揺さぶる。

 

「いけませんよベル様!年齢不詳の神様を相手に恋愛なんて!きっと重く、そして粘着質な愛で一生取り付かれるに決まってます!」

「こらー!ボクを何だと思ってるんだー!?」

 

神々との恋愛など言語道断だと否定するリリに怒鳴った後、ヘスティアがヴェルフの方を向く。

 

「ヴェルフ君はどう思う!?」

「俺はヘスティア様の意見に賛成だ。禁断の愛だの何だのと断じる必要はない。寵愛を受けて可愛がられる奴なんていくらでもいるんだ、神々が望むなら対等な関係になってもおかしい話じゃない。少なくとも、俺はそうなりたい」

 

ヴェルフの返答にリリが叫喚の声を上げ、ベルも驚いた顔を浮かべた。

 

「えっ、ヴェルフって、女神様のことが……」

「俺はヘファイストス様一筋だ」

「良いよヴェルフ君!君みたいに真っ直ぐな子は今頃いないよ!」

 

ヘスティアが立ち上がり、ヴェルフに称賛の拍手を送る。

 

「グレイ君は女絡みで良い話を聞かないから飛ばして、ネロ君。君の意見を聞こう!」

 

否定できないのが辛い。そしてリリからの同情の目線が痛い。

 

「相手次第とだけ言っておきましょう。神タケミカヅチのような神格者(じんかくしゃ)であれば応援し、神ヘルメスのような胡散臭く、信用できない神でしたら全力で止めます。それこそ殺してでも」

 

ネロがさも当然のように口にした手段が物騒で、殺害対象がどちらになるのか誰も聞くことはできなかった。もちろん、俺も。

ただ、ネロが自分の味方だと判断したのだろう。ヘスティアが、ネロの手を取って固い握手を交わす。そしてヘスティアは鼻息荒くベルに詰め寄り、意見を問う。

 

「もしボクが別の派閥の主神だったら……いやいやいや!もし、もし他の女神から求愛されたとしたら……君はどうする?」

「え、ええっと……」

 

ベルは指をもじもじと動かし、思考する。そして口にした回答は。

 

「……や、やっぱり、断ります。女神様からの求愛は嬉しいですけど……。滅相もないですよ。恐れ多いですよ」

 

ベルの回答に全員が口を閉ざす。勿論、俺もその中の1人だ。自分の回答のどこがまずかったのか分からなかったのか、ベルが不安そうに顔をキョロキョロさせる。

 

「……ベル君の……」

 

沈黙を破ったのが、俯いて肩を震わせるヘスティアだった。そして顔をがばっと上げると、目に涙を浮かべて立ち上がり。

 

「ベル君の馬鹿ぁああああああああ!」

 

叫び声を上げながら館の正面玄関の扉を開け放ち、何処かへと駆け出していった。

ベルの頑なな態度についてヴェルフとリリが訊ねる中、命が俺に小声で訊ねてきた。

 

「グレイ殿。ベル殿とヘスティア様、どちらに非があると思われますか?」

「……非情かもしれないが、両方悪いな」

 

俺は少し思案した後、そう判断した。

ベルは何かを怖がるように拒み、ヘスティアは素直に伝えようとしない。どちらも相手を思いやっているからこそ、このような結果になってしまったのだろう。実に面倒くさい。

 

「……神様、探してくる」

 

ベルはそう言って立ち上がり、居室(リビング)を後にする。

 

「……リリスケ、良いのか?」

「ヘスティア様はリリ達の主神ですから、何時までもヘソを曲げていられては困ります。それに、あの方には何時も余計なお節介をされているので」

 

リリのその様子を見て、命達女性陣は苦笑する。

ヴェルフの提案で今日の迷宮探索は中止にし、ベルとヘスティアが仲直りして帰ってくるのを待つ事になった。

 

「ヘスティアが攫われた!」

 

本拠地(ホーム)に駆け込んだミアハの報せで、騒然とするまでは。

ミアハ曰く、やむを得ない事情でヘスティアがギルドの検閲を抜けて都市を出たところ、都市への入門待ちをする列の中に紛れ込んでいたアレスに捕まってしまったらしい。それを聞いたヴェルフは自責の念から拳を握りしめ、静かに激怒した。動揺する命と春姫をネロが宥め、リリがベルの所在をミアハに訊ねる。

 

「ベルはヘスティアを救い出すべく、【剣姫】と共に都市を発った。【万能者(ペルセウス)】もそれに同行した」

 

ミアハがそう言うと、皆はひとまず安堵する。ベルと【剣姫】の足なら、救出は迅速に行われるだろう。【万能者(ペルセウス)】がいるなら尚良い。

──しかし、外の荒れ始めた空模様のせいで、一抹の不安を抱いてしまった。

 

「親父殿。ロキが手を貸してくれだってさ」

 

そして、それはヘルメスの来訪という形で現実のものになった。

 

「何があった」

「簡潔に言うと、ラキアと交戦になってヘスティア達を見失った。今、アスフィが持ち帰った情報を元に会議中だよ」

「俺の手を借りるほどの状況なのか?」

「いやー、どっちかと言うと、ヘスティアとアレスの動向にロキがかなり頭にきてるみたいだったよ」

 

怒りを鎮めるためにも手を貸してください、とヘルメスが頭を下げる。

 

「……すまない。少し出てくる」

「お気をつけて」

 

俺がヘルメスについて行くと、そこでは地図を見ながら意見交換を行っている冒険者達の姿が。

アスフィに現状を訊ねたところ、ラキア本隊とアレスの捕縛を行い、その後でヘスティア達の探索に向かうということになっているらしい。ヘスティア達を先に見つけたところで横槍を入れられるのを防ぐためとか。

 

「グレイさん。神アレスを【万能者(ペルセウス)】と一緒に探していただけますか。本隊のほうはこちらで捜索し、捕縛します」

「わかった」

「ちょい待ち」

 

早速出発しようと席を立とうとした瞬間、ロキに待ったをかけられた。

 

「おとん。どうやってアレスのアホを探すつもりや」

「飛竜を呼んで空から」

「それは駄目や。あれを呼んだらここいらが大騒ぎになって捜索どころやなくなってまう」

 

それ以外の方法がないなら本拠地(ホーム)で大人しくしていろと言われてしまった。飛竜を呼んで探せば楽なのに。

 

「じゃあ、大鴉は良いか?」

「……まあ、それくらいならええで」

 

ロキの許可を得たため、オラリオの門を出る。そして巨大な鐘を地面に置き、一定のリズムで10回ほど叩く。叩き終えて待っていると──。

 

「ガアッ!!ガアッ!!」

 

それは、空から飛来してきた。

 

『ゑ?』

 

後ろで見ていた冒険者達が、呆然とする。

地面から頭頂部までの高さは俺の2倍近く。夜の闇に溶け込むような漆黒の羽毛に、円らな瞳。人を1人掴める大きさの足の持ち主は……とても大きな鴉。俺が北の不死院からロードランへ移動するのにお世話になった、巨大な鴉だ。

 

「こいつの背中に乗ってくれ」

「わ、わかりました」

 

おっかなびっくり鴉の背中に乗ったアスフィに、落下しないようにしっかり掴まっておくように伝える。

 

「それじゃあ、先導は任せた」

「は、はい。あの、グレイさんは乗らないんですか?」

「ああ。だが、ちゃんと同行するから安心してくれ」

 

俺は鴉に飛ぶよう指示を出すと、鴉は鳴き声で返事をして離陸する。そして俺を足でがっちりと掴み。

 

「じゃあ、行ってくる」

「気い付けてな~」

「ガアッ!」

 

大空へと飛び去って行った。

 

「……グレイさん。伝承では北の不死院を出た不死人はロードランに向かうとありましたが、その方法というのはまさかこれですか?」

「そうだ」

「……火の時代って、色々と凄いんですね」

 

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

森の中を走る。何かから逃げるように全力で、無我夢中で、ただ只管に走る。

 

「アレス様!アレス様!」

「止まってくださいアレス様!」

「そちらは本陣のある方角ではございません!」

 

後ろから部下達の声がするが、それどころじゃない。

 

『今に見ていろ!!神々(ボクら)の父さんがすぐに追いかけてくるぞ!!』

 

あの時ヘスティアが口にした言葉が、今も耳に響いている。

普通なら冗談の類と笑い飛ばすところだった。それだけあの作戦には自信があった。しかし直後に問いただした時、ヘスティアが見せた狼狽ぶりがそれを確信に変えた。その後にやってきたのは【剣姫】と、白髪の少年冒険者だった。だが賢明な私はこう考えた。

 

『後ろに親父殿が控えていたらどうしよう』

 

そこからは早かった。馬に乗った私は無理矢理馬を走らせ、逃亡を選択した。その時の勢いでヘスティアが投げ出され、あとを追うように追手の冒険者達が崖から飛び降りて行ったのを覚えている。

そして今、全力疾走による疲労から馬が動きを止めた。

 

「やっと止まった!」

「アレス様!我々は本陣とは真逆の方向に逃げております!引き返しましょう!」

「何でそれを早く言わんのだ!」

 

吠える私に、部下達は息も絶え絶えに『何度も言ったが聞く耳を持ってもらえなかった』と言われた。何という正論。返す言葉が見つからん。

 

「ならば引き返すぞ!急がねば──」

「アレス」

 

私達が声のした方向を振り向くと、灰色の空に大きな黒い影が映っていた。先程見た影とは真逆の配色のソレに、部下達は首を傾げていた。

反対に、私の動悸は激しくなっていった。歯はカチカチと鳴り、滝のような冷や汗で全身が冷えてきた。

そして、声の主は空から降ってきた。

髑髏を思わせる兜の後頭部には、異形の王冠。

擦り切れてボロボロになった赤いサーコートに、煤けて歪んだ鋼の全身鎧。

腰に1振りの剣を帯びた、身の丈2Mほどの人物は私を捉えると、懐かしい声でこう言った。

 

「久しぶりだな、アレス」

 

私は、そこで意識を失った。

 

 

 

 

『ベオル山地』に遭難してから5日目の早朝に、僕達はオラリオを目指していた。

村の年長者が時折街へ買い出しに行くという抜け道を教えてもらい、森を抜け、絶壁の隙間を下り、穏やかになった川の流れを見下ろしながら、朝日に濡れる山間を下山していった。

 

「いい村だったなぁ……」

「また、遊びに行きたいですね」

 

僕達が今朝まで滞在していた『エダスの村』。

かつてオラリオから北へと飛び去って行った、暴虐の怪物『黒竜』。

あの集落には『黒竜』が落としていった鱗があり、そしてそれを石碑のように村の周辺に設置されていた。

モンスターの住処に囲まれていながら、あの村がモンスターの襲撃に遭うことはなかった。鱗だけとはいえ、モンスター達は『黒竜』の存在に恐れをなし、あの村に決して寄り付かない。

そして村の住人は『黒竜』の存在(ちから)を畏れ、祀り、祈りを捧げているのだ。火の時代に存在したという、その身に猛毒を宿す竜を畏れ、祀り、祈った人々のように。竜の血を欲する騎士団(きょうしんしゃ)によって滅ぼされた聖壁の都、サルヴァがそうであったように。

 

「うん」

「あ、こらっ、何を勝手に約束しているんだヴァレン何某君!?行くなら自分の【ファミリア】と一緒に行けばいいだろう!」

 

横を並んで声を交わすアイズさんと神様。

 

『あれは神なんかじゃない』

 

あの黒竜の鱗を見て、その所以を村の人から聞いたアイズさんの言葉が、僕の耳にまだ響いている。

僕に背中を向けたまま放たれたあの言葉には、強い否定と憎悪が籠っていた。恐らく、表情も憤怒に歪んでいたのかもしれない。

今まで何度も見てきたけど、彼女があそこまで感情を剝き出しにしたのは初めて見た。それだけに、僕は非常に気になっていた。彼女の過去に、彼女と『黒竜』の間に何があったのか。あの時は村の祭りがあったため聞けなかった。そして、今も聞けずにいる。

多分、僕は恐れているのかもしれない。彼女の過去を知ることで、僕の中のアイズさんのイメージが変わってしまうことを。

だけど、何時の日か。僕は訊ねようと思っている。彼女の過去を。彼女が『黒竜』を憎悪する理由を。

 

「──ここにいたのか」

「「はっ!?」」

「ああ。グレイ君!」

 

何かが羽ばたく音と、ダンッ、と上空より正面に着地した全身鎧(プレートメイル)の人影に、僕とアイズさんは驚きの声を上げた。より正確には、グレイさんの背後に立つ巨大な鴉に。

神様はと言うと、グレイさんが上空から来たことに然程驚いていなかった。

 

「今日までずっと探していたのかい?」

「いや、昨夜からだ。【剣姫】とベルがいるなら生き残っているだろうから、王国(ラキア)との後始末を優先した」

「いえいえ神様。それよりも聞くことがあるじゃないですか。あの大きな鴉の事とか」

 

僕が巨大な鴉を指さすと、アイズさんもうんうんと頷く。

そしてグレイさん曰く、あの鴉は北の不死院からロードランに不死人を送る役割を持っていたらしい。流石火の時代、僕達(げんだいじん)の常識を硝子のように粉砕していく。そこにシビれるけど、あこがれない。

鴉の方に視線を送ってみれば、鴉の背中に乗るアスフィさんの顔が見えた。

 

「背中に2人乗せて、足で1人掴めば都市まで飛べるが、乗るか?」

「んー……この際だ、せっかくだから歩いて行くよ。自分の足で帰りたい気分なんだ」

 

グレイさんの提案に神様が答える。僕とアイズさんも同じ思いだった。

 

「わかった。それじゃあ、俺達は一足先に都市(オラリオ)に戻って朗報を伝えておく。沢山の人が心配しているからな」

 

それじゃあ、と手を振ったグレイさんを鴉が足で鷲掴みにして飛翔した。

……やっぱりグレイさんの提案にのっとけばよかった。

小さくなっていく影を見ながら、僕の頭の中でそんな小さな後悔がよぎった。

 

 

 

 

同時刻。オラリオの地下深く。

 

「……ここ……どこ……?」

 

後に騒乱の火種となるとも知らずに、新たな命が産み落とされていた。

 

 

 

 

そして、その更に地下深く。

 

「……て……」

 

その声の主は呼んでいた。

 

「……して……」

 

その声の主は懇願していた。

 

「……私を…………殺して……」




次回ですが、シリアスばっかり書くのは精神的にキツいので、このすば優先で進める予定です。なので、暫くダンまちの方はお休みです。
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