闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
いやー、楽しみですね。具体的に言うとネタバレになりますが、アレとかコレとかソレとか。アニメでどう描写されるか楽しみです。
「今日はどちらまで?」
「ダイダロス通りを根城にしている、女神ぺニアに会う予定だ……というか、お前までついて来ることはないぞ」
ある日の昼下がり。【ファミリア】の
「貴方が出向かれるのであれば、お供いたします」
「……わかった。いくぞ」
「はっ」
そしてネロを連れて到着した、ダイダロス通り。奇人とまで言われた設計者の手で何度も区画整理が行われ、秩序を放棄した広域住宅街。石造りの建物と階段、路地が縦横関係なく錯綜する重層的な威容は、地上に存在する
「ここにいらっしゃるのですか?」
「ロキが言うには、そうらしい。具体的にこの場所とは言われていないから、隅々まで探すぞ」
俺とネロは1歩足を踏み入れ、目的の
「あれは……グレイさん?」
少し時は遡り。グレイがダイダロス通りに向かう途中の姿を、レフィーヤ・ウィリディスが遠くから目撃していた。
「女の人と一緒……」
彼が他の女性と歩いている。同じファミリアの女性ならば、買い物帰りで荷物持ちをやっているのだと納得し、女神ヘスティアが隣にいれば親子仲が良いなと頬を緩めていた。だが、現在彼のそばにいる女性は知らない顔であった。であるからか、苛立ちのようなものを感じた。そして、何故自分が苛立ちを感じているのか理解できず、余計に苛立ちが加速していた。
「レフィーヤ、こんなところでなにしてるん?」
「ひゃあ!?」
そのせいで、主神であるロキが顔を覗き込むような姿勢になっていたのも気づかなかった。
「ロ、ロキ!?いいい、何時の間に!?」
「そないに驚かんでも……って、あれおとんやん!お~い、おと」
グレイを視認したロキがグレイを大声で呼ぼうとした瞬間、レフィーヤはロキの口を塞ぎ、路地裏に身を潜める。そして極限まで耳を研ぎ澄まし、2人が何事もなく移動するのを確認すると路地裏から顔だけを出し、2人の後ろ姿を目で追う。
「よかった、気づかれなかった」
「良いわけあるかい!いきなり口を塞がれたうちの身にもなってや!死ぬかと思ったわ!」
解放されたロキが怒るが、今の彼女はそれどころではない。
「ちゅーか、レフィーヤ。自分、リヴェリアに言われたこと忘れてないやろな?」
「ちょ、直接の接触は禁じられていますけど、こうして遠くから見てはいけないと言われていません!なので無罪です!訴えられても私が勝つ自信があります!」
顔を赤らめ、必死の弁明を行うレフィーヤ。そんな彼女を、ロキは
「ほんなら、うちに構っててええの?そろそろ姿も人混みに紛れて見えにくくなるで」
「っ!?」
ロキの指摘を受け、レフィーヤはつかず離れず、しかし相手に勘づかれない距離を維持しつつ、移動を始めた。
「(せやけど、誰や?おとんの隣におるあの子は。……確か、フレイヤのとこで前に【ランクアップ】した
「見つからないな……」
ダイダロス通りに入り、ペニアの捜索を始めること数十分。通りが迷路のように入り組んでいることもあり、ペニアを発見できずにいた。
「……む?」
十字路の真ん中で周囲を見渡していると、カチャカチャと金属の擦れる音が微かに聞こえた。
俺は『ささやきの指輪』を装備し、再び耳をすます。
『アイツのところは子供が生まれたらしいから、このくらいが妥当かね。となると……』
「いたぞ。こっちだ」
「はっ」
懐かしい声の聞こえた方向に歩みを進めると、そこは少し開けた広場だった。
広場の真ん中には、何かを詰めたのか膨らんでいる袋の積まれた荷車。その前で1人の老婆を挟むように金貨と空の布袋が置かれていた。
「ペニア」
俺が名前を呼ぶと、老婆は小さく舌打ちをし、金貨を袋に詰めると荷車に載せ、俺のほうを振り返る。
「おやおや。誰かと思えば、親愛なるクソ親父殿じゃないかい。女侍らせて何の用だい。見ての通り、私は今忙しいんだ。用件は手短に、分かり易くしておくれ」
不機嫌そうな顔で悪態をつく姿は天界にいた頃と変わらず。
「『侍らせて』とかいう誤解を招く言い回しをしないでくれ。少し前に、ロキからお前に会ってこいと言われてな。それで来た」
「……そこに座りな」
ペニアは近くにあった空の木箱を指さし、そのうちの1つに座る。俺はペニアと対面するように座り、ネロが俺の後ろに控える。
「ってことは、まだ自分が幸福になることを躊躇ってるってのかい?」
「……ああ。それだけでなく、誰かを助ける度に、『なぜあの時できなかったのだ』という声が響いてな。正直、何か善行を成すたびに水を差すような言葉が響いて止まないんだ」
俺の言葉を聞き、ペニアが大きなため息をつき、続いて怒号が飛んだ。
「馬鹿言ってんじゃないよ!自分が幸福になることを躊躇う?凡百の英雄どもさえ成しえなかった偉業を成し遂げて、人々を救った親父殿には相応の報酬があって然るべきなんだよ!それがなんだい、報酬の受け取りを遠慮するならまだしも、それから背を向けて逃げだして!だから私は親父殿のことが嫌いなんだよ!」
フンと大きく鼻を鳴らし、ペニアがそっぽを向く。
「
そっぽを向いたまま、ペニアがネロのことについて訊ねてくる。質問があるならこっちを向いてほしいのだが。しかしどうしようか、ペニアにロンドールの血と記憶を受け継ぐネロをどう紹介したものか。
「オラリオより遥か北。嘗てロンドールと呼ばれし地より参りました。黒教会の指導者の血統、ネロ・エキリシアと申します」
俺が思案していると、ネロが自分から口を開いた。瞬間、ペニアがこちらを向き、ネロを睨みつける。
「ほう……ロンドールの黒教会。今の世界を創り出す代償に、こんな化け物を生み出した狂信者共の指導者。その末裔が、今更親父殿に何の用だい。まさか、闇の時代とやらの到来でも望んでいるのかい?」
「いえ。我が祖ユリアは、王の意に従い、闇の時代の到来を拒絶致しました。それは私も同じです」
「……そのようだね」
ネロの言葉を聞き、ペニアは荷車のほうを向き、作業を再開した。
「だったら、親父殿共々さっさと帰りな。私の気が変わらない内にね」
しっしと手を払うペニアに従うように、俺はネロを連れてこの場を後にした。本当ならもう少し話したいこともあったが、ペニアの機嫌をこれ以上悪化させたくない。
「やっぱり治ってなかったんか……」
これは困ったと、ロキが天を仰ぎ大きなため息をつく。
グレイが天界にいた頃、数多の医神達が父上の
ディアンケヒトは天界にいた頃はまだ髪も黒の混じったロマンスグレーだったが、ショックのあまり髪が全て真っ白になって燃え尽きてしまった。ミアハはショックでふさぎ込んで引きこもり、髪はボサボサになり、げっそりとやせ細った。
やはり下界の
「どうしたんや?レフィーヤ。そないに考えこんで」
「え?えっと、普段って言うほど交流があるわけでもないんですけど、グレイさんがあんなに抱え込んでいたとわからなくて……」
「せやな~……レフィーヤ、心的外傷後ストレス障害って病気知っとるか?」
知らない、とレフィーヤは首を横に振る。
「分かりやすく言うとな。危うく死ぬか、重症を負うような出来事に遭遇してもうて心に強い衝撃を受けて、それが原因でストレス障害を引き起こしてまう病気のことや」
いつものおちゃらけた雰囲気は消え、真面目な表情のロキを前に、レフィーヤは姿勢を正す。
「うちみたいな探索系【ファミリア】の主神はな、常に危険と隣り合わせのダンジョンから帰還した
だから労えと両腕を広げてにじり寄る
「それとな、発症してもうた
「ええっ!?」
ロキの視線の先に顔を向けると、自分の直ぐ隣まで女神ペニアが接近していた。驚愕したレフィーヤは、不意に立ち上がり姿勢を正す。何故そうしたかは本人もわからないが、自然と体が動いてその姿勢を作り上げた。
「盗み聞きとは、感心しないね。ロキ」
「ちゃうて。あの場に入って空気ぶち壊すわけにもいかんから、ここにおっただけなんや。あと、うちはただついて来ただけやで。主犯はレフィーヤや」
「ななな、何を言っているんですか!?私が主犯だなんてそんな……」
そんなことはない、と言い切る寸前で、自分の行動を思い返す。そして断言できる要素がなかったため、『ないと思います』としか言えなかった。
姿勢を正すレフィーヤの前を通り過ぎた女神ペニアはロキの隣に回り、胡坐をかく。
「ペニア。自分が診たところ、おとんの様子はどうやった?」
「私は医療の神じゃないから断言はできないけど。悪化しちまってるね、アレは。下界の
「
「……そういえば、なんでお前さんは親父殿の尾行なんて真似をしたんだい?」
「な、何故って、その……グレイさんが女の人と歩いているのが気になったから……です、ごめんなさい」
レフィーヤの返答に、ペニアの表情が険しいものになる。それを見たロキは、どうしたとペニアに問いかける。しかし彼女はそれを無視し、レフィーヤに顔を近づける。
「まさかと思うがお前さん。親父殿に懸想しちゃいないだろうね?」
「け、懸想!?そそそ、そんな事は……」
ペニアの言葉にレフィーヤは耳まで赤くなり、指を弄りながらペニアの質問に対する返答を考える。何故かロキが向けてくる期待の眼差しは鬱陶しいので無視した。不満げに口を尖らせるが、そんなことはどうでもいい。
自分の中にあるグレイに対する想いは、ペニアの言う懸想なのだろうか?確かにグレイに好意のようなものを抱いていることは否定しない。しかし、それはどちらかと言えば憧れのようなもの。外見と内面については比較的好みではあるが、異性として意識しているか聞かれれば、恐らくは否の筈だ。
「ない、です」
「……そうかい。でも、気を付けな。あれは、人の皮を被った
そう言って立ち去る女神ペニア。しかし、その背中は父親を蔑んだ一連の言動に反し、哀愁に満ちていた。彼女もまた、父親を愛しているのだろう。ただ、彼女はそれを素直に表に出せない、不器用な性格の持ち主であった。
ある魂の話をしよう。
その魂には、奇妙なシミが付いていた。
何度始まりの火に焚べられ、転生を繰り返しても、そのシミは決して落ちなかった。
奇妙なことに、その魂の持ち主は種族問わず全員が人間で、女性であった。更に、生涯独身でもあった。
ある時、ある神は問いかけた。なぜ、貴女は独身で生涯を終えたのか。あと何回女性に生まれ変わり、生涯独身のままでいるつもりだと。
魂は答えた。かつて自分は、暗闇の底にいた。そんな自分に手を差し伸べ、光を与えてくれた男性がいた。その男性とは様々な事情から離れ離れになった。そして年月が過ぎる中で出会いはあったが、それに心の何処かで空虚さを感じ、独身であり続けた。そして天寿を全うする間際、自分はその男性に恋をしていたと気づいた。
だから、その男性と再会するまで。再会して、この想いを伝えるまで。私は何度でも生まれ変わり続ける。誰よりも強く、優しい、自分の英雄に出会うまで。
魂はそう答え、再び始まりの火に焚べられた。次の自分が、自分の英雄と巡り合えることを願って。
最後に出た魂の今の宿主、作中で既に登場しています。そして魂の最初の宿主は、ダクソシリーズに登場しています。