VRChatは「一般人が体験できていない最高峰のエンタメ」なのか──イマーシブ系エンタメの「先端・主流・フリンジ」という視点から
「私たちは最先端技術を駆使して一般人が体験できていない最高峰のエンタメを楽しんでいる。」
VRChat界隈で、こんなフレーズを見かけた。
言いたいことの方向性はわかる。冷笑されたくない、
自分たちの遊びを誇りたい──その気持ち自体は理解できる。
ただ、技術やエンタメ産業の構造を見ている立場からすると、
この一文はかなり現実とズレている。
特に「最先端」と呼ぶべきものが、
すでにもっと別のところ──リアル側のイマーシブコンテンツ──にある、という点で。
この記事では、メンタル論はいったん脇に置いて、
このフレーズが「技術的に」「構造的に」どこでおかしくなっているのかだけを整理したい。
ここで言う「フリンジ」という言葉について、先に前提をそろえておく。
ここで言う「フリンジ」は、
マフラーの端に付いている房(フリンジ)をイメージしてほしい。
布の本体が「主流(メインストリーム)」だとしたら、
その端から伸びて揺れている房が「フリンジ」だ。
本体からは外側にぶら下がっているけれど、
完全に別物ではなく、同じ糸からできていて、織り目の延長線上にある。
研究やカルチャーの世界でも、よく
・先端(フロンティア)……まだ形が固まっていない最前線
・主流(メインストリーム)……お金と人が一番流れている本線
・非主流(フリンジ)……その外側で、少人数が好きに実験している周縁
という三つに分けて語られる。
この記事で使う「フリンジ」も、
この「主流の布地の端で揺れている房」のような、周縁の実験領域という意味だ。
VRChatの話は、この「先端・主流・フリンジ」というレイヤーにいったん置き直したほうが見えやすくなる。
問題のフレーズに含まれている前提
あらためて、問題の一文を見ておく。
「私たちは最先端技術を駆使して一般人が体験できていない最高峰のエンタメを楽しんでいる」
この文章には、ざっくり次の二つの前提が入っている。
VRChatまわりで使っている技術は「最先端」である
その結果として、「一般人がまだ体験できていない最高峰のエンタメ」になっている
本当にそう言い切れるのか。
いまのイマーシブ系エンタメ全体の中で、VRChatがどこにいるのかを確認してみる。
「最先端」と「最高峰」っぽいものはどこにあるか
まず、「最先端技術」「最高峰のエンタメ」と聞いて、いま真っ先に思い浮かぶのはどこだろう。
一つは、ソニー・ミュージックのVTuberプロジェクト「VEE」がやっているプラネタリウムイベントだと思う。
プラネタリウムのドーム全面に3DのVR世界を投影し、多チャンネルの立体音響システムで包み込む。
観客はスペースシップの乗客として、
タレントが歌う各「惑星」を巡る──という構成の、リアル空間側の没入体験になっている。
さらにその先には、
ソニーミュージックが自前で立てた全天周ドーム型シアターのような設備がある。
巨大なドーム構造と専用の映像・音響設備を用意して、
VRゴーグルなしで360度映像と立体音響を体験させる、
という箱そのものを都心に持ち込んでいる。
バンダイナムコ側を見れば、
「MUSIC & PLAYLOUNGE ASOBINOTES」のような取り組みがある。
歌舞伎町タワーのラウンジ空間で、
音楽・映像・ゲーム・キャラクターを組み合わせた没入型の体験を提供しつつ、
オンラインフェスやクラブイベントも含めて、音楽エンタメ全体を設計している。
こうした現場に共通しているのは、
プラネタリウムやドーム、テーマパーク、ラウンジといった専用の空間と設備
多チャンネル音響、プロジェクション、照明、時にはAI制御も含む物理的な仕掛け
コンテンツ制作チーム、演出家、エンジニア、現場スタッフといった大人数のプロ
を前提に、「現実の空間ごと」作り込んでいることだ。
チケット単価も設備投資も、人員規模も、それなりの桁で動いている。
このあたりが、いまの日本で「没入型エンタメの先端〜主流」に一番近いゾーンだと言っていいと思う。
その中でVRChatはどこにいるか
では、VRChatはこの中でどこに位置づけられるか。
VRChatのワールド制作には、確かに3Dモデリング、ライティング、ポストエフェクト、インタラクションなど、
多様な技術が使われている。Unityの機能やアセットを駆使して、個人や少人数チームが空間を作っているのは、本当にすごいことだ。
ただ、先ほど挙げたような
プラネタリウムや全天周ドーム
テーマパーク内の大型アトラクション
複合エンタメ施設のラウンジや体験型コンテンツ
と比較したとき、VRChatのコンテンツの多くは
個人〜インディ規模のDIYである
家庭用のHMDとPCという汎用デバイス前提である
建物や音響・照明設備そのものまでは握っていない
という条件にある。
先端・主流・フリンジの三層で言えば、
・プラネタリウムや特設ドーム、ASOBINOTESのような「箱+興行」のライン
→ 先端〜主流を担っている側
・VRChatのワールド制作やVR空間でのライブ、個人イベント
→ その周縁にあるフリンジな実験領域
という整理になる。
フリンジだから価値が低い、という話ではない。
むしろ、フリンジだからこそ、主流では回せない実験や、ニッチな表現ができる。
ただ、「どこに投資と人が集まっているか」「どこが業界の本線か」という観点で見れば、
VRChatはやはり、イマーシブ系全体の中ではフリンジ(マフラーの房側)に属する、というのが現実に近いと思う。
「一般人が体験できていない最高峰」でもない
次に、「一般人が体験できていない最高峰のエンタメ」という部分を見てみる。
この言い方の中には、
VRChat勢……「一般人が知らない上の世界」を知っている側
一般人……そこに届いていない側
という、暗黙の上下関係が含まれている。
しかし現実には、
プラネタリウムや特設ドームのライブは、チケットを買えば誰でも入れる
テーマパークの体験型アトラクションも、行列に並べば体験できる
歌舞伎町タワーのラウンジやイマーシブ展示も、わざわざクローズドな会員制ではない
つまり、「一般人が体験できていない」のではなく、
「行くかどうかの選択をしていない」だけ、というケースが大半だ。
一方で、VRChatは
対応するPCとHMDさえあれば、自宅から出ずに参加できる
チケット代ではなく、機材投資と電気代・時間で支払うタイプのエンタメ
になっている。
アクセス構造が違うだけであって、
「一般人には届いていない絶対的な頂点」
という意味での「最高峰」とまでは、さすがに言い過ぎだろう。
ここまでを踏まえると、
「私たちは最先端技術を駆使して一般人が体験できていない最高峰のエンタメを楽しんでいる」
というフレーズは、先端/主流/フリンジの構造を無視して、
VRChatだけを過剰に持ち上げすぎている、と言わざるを得ない。
それでもなおVRChatが好きで、そこに誇りを持ちたいなら、
こんな言い方のほうが、まだ現実に近いと思う。
「私たちは、フリンジなVR空間で、
個人制作のワールドやライブパフォーマンスを通じて、ニッチだけれれど他では味わいづらい体験を楽しんでいる。
それが自分たちにとっては、いま一番ちょうどいいエンタメだ。」
最先端の成果と設備を丸ごと自分たちの手柄にしない
「一般人」と上下関係をつくらない
そのうえで「このフリンジが自分には一番おもしろい」と言う
このくらいの距離感で語ったほうが、
VRChatという場の実際の立ち位置にも、そこにいる自分たちの楽しさにも、両方にフェアだと思う。
おわりに
VRやVRChatを語るとき、
つい「最先端」「最高峰」という言葉をかぶせたくなる気持ちはわかる。
けれど、本当に専用の箱を建て、設備を組み、リアルな動員で勝負しているのは、
プラネタリウムのVTuberライブや特設ドーム、ASOBINOTESのようなリアル側のプレイヤーたちだ。
彼らが作っているのが、
イマーシブ系エンタメの先端〜主流の布地だとすれば、
VRChatはその端で揺れている房、フリンジの一本だ。
その構造をいったん認めたうえで、
「でも、そのフリンジで遊んでいる時間が、自分にはいちばん楽しいんだよね」
と笑っていられるほうが、
変に「一般人より上の最高峰」を名乗るより、ずっと健全だとわたしは思う。



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