前原進之介 前原進之介
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「社外取締役の女王」を生み出した ダイヤモンド社の奇怪な無軌道経営

「週刊文春」が特集でカジノ委員会委員に疑義


「週刊ダイヤモンド」や経済書などを発行し、経済ジャーナリズムの一翼を担うダイヤモンド社に在籍した遠藤典子氏は「社外取締役の女王」という異名を持つ。NTTドコモ、NTT(現任)をはじめ阪急阪神ホールディングス(現任)、アインホールディングス(現任)、バルクホールディングス(現任)、テックポイント、ジャパンエレベーターサービスホールディングス(現任)など、錚々そうそうたる企業の社外取締役に就任しているからだ。また、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授、早稲田大学研究院教授であり、政府の委員会の数々の委員も務める。遠藤氏がここまで力を持つに至った過程で、日本経済新聞の記事盗用、実態のない出向、大仏次郎論壇賞を受賞した著書や博士論文のゴースト・オーサーシップなど、いくつかの見逃せない問題を起こしていたことも事実である。

2020年に「週刊文春」が特集を組み、遠藤氏が政府のカジノ管理委員会委員に就任した時期に数々の問題行動を取り上げ、「果たして、遠藤氏にその資質があるのか」と追及している。

彼女のこうした問題は、ダイヤモンド社の経営陣の腐敗の中で醸成されたとも言える。いまや経済界ではガバナンス(企業統治)、コンプライアンス(法令遵守)、社外取締役の強化は常識になっているが、その実態が検証されることは少ない。

以下、遠藤典子氏とダイヤモンド社経営陣に何があったのか、ガバナンスやコンプライアンスなどの驚くべき内実について詳しく掘り下げていく。

権力者、力のある者への忖度が横行

フジテレビは、中居正広氏と元アナウンサーの女性をめぐる問題、組織と人事の構造を検証する番組を7月6日に放送した。フジグループに対して、これまで指摘されてきたことが、当事者の証言で裏付けられたかっこうだ。

長期に渡ってフジテレビ、親会社のフジ・メディア・ホールディングス、フジグループの経営を率いた日枝久ひえだ ひさし氏が人事権を持ち続けたため、ガバナンスが機能せず、コンプライアンス体制が脆弱になり、真っ当な意見が通らない経営体制が生まれたと見られている。

フジグループでは、権力者に「意見を言ったら、飛ばされる」恐怖支配が続いてきた。権力におもねっていれば利益(地位、権限など)を得られることを体験し、権力者に気に入られた役員や中堅幹部が傍若無人に振る舞っても処罰されず、好き勝手、やりたい放題に行動することがまかり通ったようだ。

テレビ局の場合、視聴率を取れるタレントやタレント事務所への忖度そんたくも大きく、かつてジャニーズ事務所などが権勢を振るっていた。テレビ局や出版社などマスコミも、ジャニー喜多川氏の性加害問題に長年、口を閉ざしてきた。

長期政権の体制下では、権力は暴走する

私は経済誌の記者をしていたこともあって、企業のガバナンス問題、コンプライアンス問題、社外取締役の役割、内部通報・内部告発制度、セクハラ・パワハラ問題に関心を持ち、最近では、「note」や「プレジデントオンライン」で、企業や非営利法人の不祥事、組織の腐敗、不正の横行、問題の隠蔽、社外取締役の機能不全などの問題を取り上げてきた。

長期政権のフジグループで行なわれてきた専制支配を見るにつけ、不正の横行や不祥事の隠蔽が長年行なわれている出版社のことが思い起こされる。どのようにして権力が築かれていくのか、なぜ権力者は暴走するのか、以下、権力者の驕りと脆さについてレポートしたい。

経済誌や経営書などを発行するダイヤモンド社は1913(大正2)年に石山賢吉が創業し、月刊の「ダイヤモンド」誌を創刊。決算書、データに基づいて企業分析を行ない、産業、経済に強い雑誌として歴史を刻み、1955(昭和30)年に週刊誌化している。

昭和30年代に「週刊新潮」「週刊女性」「女性自身」「週刊現代」などの週刊誌が相次いで創刊されるが、1919(大正8)年に週刊化された「東洋経済新報」や「週刊ダイヤモンド」は出版社系週刊誌の先駆的な存在と言える。

1990年代の初頭、バブルが崩壊し、流通業界、建設業界、不動産業界、金融界などで過剰債務や赤字に転落する企業が急増し、企業倒産が相次ぐ中、週刊ダイヤモンドは財務分析と緻密な企業取材で、危ない会社や問題企業を炙り出し、警鐘を鳴らしてきた。

副編集長昇進に唯一賛成に回った麻生祐司氏

だが、2001年9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ事件」による世界不況の影響を受け、週刊ダイヤモンドの部数の低下、広告収入の減少などで、ダイヤモンド社は2003年3月期に15億円強の当期損失を余儀なくされ、経営危機に陥った。

現経営陣では経営改革ができないと考えた週刊ダイヤモンド編集長の辻広雅文氏と副編集長の湯谷昇羊ゆたに しょうよう氏は、旧三和銀行出身で、UFJカードの役員だった鹿谷史明しかたに ふみあき氏に声をかけて、ダイヤモンド社に転職するよう働きかけ、2003年6月、鹿谷氏はダイヤモンド社取締役に就任する。

湯谷氏は、企業再建で実績のあった高塚猛こうつか たけし氏の経営手法を評価する記事を週刊ダイヤモンドに連載し、『会社再建―福岡を燃えさせた男 高塚猛の軌跡』という書籍を出版しており、親しい高塚氏をスカウト。

高塚氏は2004年6月、ダイヤモンド社の社長に就任し、同年4月に湯谷氏は辻広氏の後任として週刊ダイヤモンド編集長に就いている。

高塚氏は福岡ダイエーホークスのオーナー代行時代にセクハラ問題を起こし、強制わいせつ罪で起訴された。2004年10月、わずか4カ月で高塚氏はダイヤモンド社社長を辞任。高塚氏の後釜あとがまに鹿谷氏が社長に就いたという経緯がある。

週刊ダイヤモンド編集長を退任し、販売部門の責任者となっていた辻広氏と湯谷氏、鹿谷氏は「戦友」「同士」であった。湯谷氏は、辻広氏の妻で、週刊ダイヤモンド記者であった遠藤典子氏を副編集長に昇進させようと強引にプッシュし、遠藤氏は2006年3月、副編集長に就任。

遠藤氏の記事に、夫である辻広氏(当時、販売部門責任者)が密かに原稿チェックしていることが、週刊ダイヤモンドの人事考課の検討会議や、遠藤氏の副編集長昇進を検討する編集部の管理職会議で指摘されていた。

遠藤氏の昇進に反対する声が複数挙がったが、賛成する副編集長が1人だけいた。昇進をすすめた麻生祐司氏はその後、昇進して現在、常務に就いている。昇進反対の声が多数を占めたものの、湯谷氏と経営陣は遠藤氏の副編集長昇進を苦もなく実現した。

盗用問題発覚後、湯谷昇羊編集長らが昇進

辻広雅文氏が週刊ダイヤモンド副編集長時代に、記者の遠藤典子氏と結婚し、同じ職場で仕事をしていた。編集会議にかけられていない企画を遠藤氏が独断で進めたり、特別扱いされていることが問題にされるまでになった。

某家電メーカーから「副編集長の奥様の(食事の)お好みは何でしょうか」と編集部に電話があり、「今度うちの理事と、お食事をしながらデジタル・ネットワークについてお話を伺いたいということなんですが」といった問合せなどが来ていた。

編集部内のルールを守らず、気ままに振る舞う、辻広氏の妻の言動に対し、モノが言えない雰囲気が編集部にあると、部内から不満の声が上がっていた。辻広氏は次期編集長と目され、力を持っていたからだ。遠藤氏の行動が組合問題となり、組合執行部は以下のように経営側に申し入れた。

「辻広副編集長は将来、週刊ダイヤモンドの編集長と目されている人物で、上司に面と向かって、その配偶者への苦言を呈することはできないし、身びいきするのは当たり前のこと。そうした事態を招きかねない、同一職場で夫婦が働くことは問題だ」

組合から、上下関係のある夫婦が同一職場で働くことの弊害が指摘され、遠藤氏は他の編集部に異動することになる。2000年のことだ。その後、辻広氏が編集長を辞めて販売部門の責任者になり、遠藤氏は週刊ダイヤモンド記者に戻っていた。

そして、週刊ダイヤモンド副編集長への昇進が進められた。遠藤氏が副編集長に昇進した直後に担当した特集「電機王国の幻想」(週刊ダイヤモンド2006年7月22日号)で、同氏が書いた部分で記事盗用問題が起きた。

日本経済新聞の同年2月20日の記事に酷似し、日本経済新聞社から抗議があったのだが、ダイヤモンド社側は有耶無耶うやむやにしたままで、1年後、ようやく週刊ダイヤモンド2007年8月25日号の編集後記の欄に小さく以下のような「お詫び」を掲載した。

「弊社で社内調査を行なったところ、本誌記者は取材先から入手した文書に基づいて記事を作成しましたが、その文書の中に日本経済新聞の記事を引用した箇所があり、記者および編集部はそのことに気づかず、日本経済新聞記事を無断で転載していたことが明らかになりました。日本経済新聞社ならびに関係者にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします」

朝日新聞社や読売新聞社での事例を見ると、盗用問題を起こした記者に対して、「諭旨解雇」あるいは「諭旨解職」という処分が出ている。大手新聞社をはじめ、「社会の木鐸」を自負しているジャーナリズムの世界では、盗用事件を起こした記者は「会社を辞める」ことが多い。だが、週刊ダイヤモンドでは「おどがめなし」。遠藤氏を副編集長に昇進させる人事を行った経営者は明確な責任を取っていない。

盗用問題が発覚した後、週刊ダイヤモンド編集部では「あり得ない軽い処分」といった反応があり、「盗用事件を起こすような副編集長に、原稿チェックをしてもらいたくない」などの声も上がった。他のメディアの処分とはかけ離れた、あまりにも軽い処分で、権力者による情実人事が行なわれていると囁かれた。

この盗用問題が起きている最中、2006年6月に辻広雅文氏がダイヤモンド社取締役に就任し、1年後の2007年6月、湯谷昇羊氏が取締役に就任している。

セクハラ騒動で揺れるダイヤモンド社

2008年7月26日付けの「日刊ゲンダイ」に、ダイヤモンド社に関する記事が掲載された。「老舗経済誌 ダイヤモンド社がセクハラ騒動で大揺れ」という見出しで、高塚猛前社長がセクハラで辞任したが、同じような騒動がダイヤモンド社内で持ち上がっていると報じている。

「編集長経験者の大物役員が、派遣社員に『正社員にしてやるから』と迫ったといいます。金融業界では知られた人物ですので驚いています」(金融関係者) (中略)
「6月中旬ごろから騒ぎは起きている様子で、社員の怒りも相当のようです。セクハラを受けた社員は休職中だとも聞いています。金融業界は、みずほコーポ(みずほコーポレート銀行)の斎藤宏頭取の不倫騒動があったばかりですが、金融業界に強い老舗経済誌の役員もオンナ絡みで揺れているとは……」(前出の金融関係者)   (以上、引用)

タイトルが大きく躍り、7段を使った記事は、ダイヤモンド社社内でも大きな話題になった。

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2008年7月26日付けの「日刊ゲンダイ」はダイヤモンド社のセクハラ問題の記事を掲載

理由がハッキリしないまま、湯谷氏は2008年8月、ダイヤモンド社を退社。ジャーナリストとして新天地で活動するという話であったが、その後、グループ会社のダイヤモンドフリードマン社の顧問に就いた。

ダイヤモンド社の鹿谷史明社長ら経営陣は「ダイヤモンドフリードマン社が独自の判断で、湯谷昇羊氏に顧問就任に要請した」と説明している。

湯谷氏はダイヤモンド社を辞めた際、社内や取材先に「セクハラはしていない」と発言しており、盛大な送別会が開催された。だが、実際はセクハラ問題で係争が起き、女性に「1000万円の和解金」を支払っているのだが、こうした事実をダイヤモンド社の経営陣はいまだに隠蔽し続けている。

社員が同様のことを行なえば、懲戒解雇(退職金が出ない)になる行為を犯したと見られるダイヤモンド社役員のセクハラ事件は闇に葬られた。和解条項に記された事実関係や和解内容を外部に漏さないことを盾に取り、経営陣やその同調者がもみ消し、その後、相手の女性に関する負の情報、誹謗中傷が流された。

「週刊朝日」の編集長が2013年10月、懲戒解雇になったが、それは「週刊文春」2013年10月18日号のセクハラ記事と関係があると言われている(朝日新聞社サイドは解雇理由を明らかにしていない)。

週刊文春によれば、週刊朝日の編集長は、雑誌「AERA」の副編集長時代、契約記者の女性に「自分と付き合えば社員にしてやる」と迫り、女性の下着に手を入れるなどの行為をしたという。

マスコミ関連のセクハラでは、共同通信社の人事部長が2012年12月、就職活動中の女子大生をホテルに誘い、関係を迫ったことで懲戒解雇になった。不正や不祥事を追及する立場にある通信社でありながら、当初、会社側はもみ消そうと必死だった。不祥事を隠していては取材活動に支障が出ると現場から批判の声が上がり、2013年6月、共同通信社社長は退任に追い込まれた。

役員の送別会を全社員に告知した辻広雅文氏

ダイヤモンド社に関するセクハラ記事が日刊ゲンダイに掲載されたが、セクハラが横行しているという記事はダイヤモンド社の信用を著しく傷付け、出版社にとって死命を制する人材採用にも影響する一大事だったはずである。

こうした記事が報じられたにもかかわらず、セクハラ問題に関して社内で処分はされず、「セクハラ事件などなかった」と、経営陣や彼らにつながる社員は説明し続けた。ダイヤモンド社も、記事を書かれた取締役も、日刊ゲンダイを名誉毀損で訴えていない、というおかしな状況になった。

湯谷氏は、親しい者に「社長も自分が連れてきた人間で、自分を頼りに回っている」と発言しており、逆らえない雰囲気があり、社内で強い影響力を持っていた。

湯谷氏が退社した直後の2008年9月、取締役の辻広氏はダイヤモンド社の社員全員にメールを送り、「湯谷昇羊氏の送別会」に出席するように呼び掛けた。メールの文面は以下の通りである。

「こんにちは。金融情報局の辻広氏(複数の部門を兼務)です。このメールは、ダイヤモンド社社員のみなさん全員に送信します。
私たちの友人であり、同僚であった湯谷昇羊氏が、8月1日に会社を辞められました。そこで、『湯谷昇羊氏の新たな人生のスタートをお祝いする会』をひらきます」   (以上、引用)

このメールに違和感を覚えた社員は多かった。辻広氏と湯谷氏がいかに強い結束で結ばれているかの表れであり、恩義のある同士への義理立て、同じ穴のむじなだったということか、といった指摘が社内で流れた。

社長や役員、社員の退社の際に、全社員に送別会をメールで告知し、参加を呼び掛けたことは、100年を超えるダイヤモンド社の歴史で前例がない。

日刊ゲンダイに報道される前に、労働組合と経営者との間でセクハラ案件は問題となっていた。役員と派遣社員とのトラブルが社内でうわさとなって広がり、社外からも問い合わせがあり、事実関係を明らかにせよと、組合は労使協議会で追及していた。

経営側は「調査中」を理由に回答を引き延ばしていたが、一部のマスコミから総務に取材が入っていることを組合は掴み、「これ以上“うわさ”の野放しは許されない!」という組合ビラ(正式名は、ダイヤモンド社労働組合 組合ニュース)を出した。

情報が社内外に流れていて、マスコミが報道すれば業務に影響が出ると記載し、現在、知り得ている事実と組合の見解を組合員に伝え、派遣社員は体調を崩し、休職中で通院していることなどを報告している。

「湯谷昇羊氏の新たな人生のスタートをお祝いする会」を案内するメールは、セクハラがモヤモヤとした問題になっている中、送信されたもので、辻広氏の呑気さ、危機管理のなさ、配慮のなさに呆れる社員もいた。

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労働組合は日刊ゲンダイの記事が出る前に、セクハラがあったのでは、という情報を問題視した

セクハラ、暴力事件を起こした京大・矢野教授

「ダイヤモンド社がセクハラ騒動で大揺れ」という日刊ゲンダイの記事を、辻広氏がどのように受け止めたのかは不明だが、セクハラが問題であることは、辻広氏も認識したと思われる。むしろセクハラ事件は関心の高いテーマであっただろう。というのも「京大・矢野事件」と接点があるからだ。

京都大学東南アジア研究センター(現・東南アジア地域研究研究所)の所長であった矢野とおる教授はセクハラ・性暴力事件、いわゆる「京大・矢野事件」を1993年に起こしている。

京大で発言権、人事権を持っていた矢野氏は気に沿わない教員を冷遇したり、秘書を採用する際に「秘書の仕事には添い寝も含まれる」などと発言し、秘書などにセクハラ行為を繰り返し、秘書が次々に辞めていく事態になっていた。

矢野氏が別の大学で教えていた、研究熱心な女子学生(甲野乙子氏)と、ホテルのロビーで東南アジア関連の話をしていた際、その途中で「疲れているから、続きは部屋でしたい」と予約していた部屋に誘い、断わることは失礼と考えて部屋に入った甲野氏と話を続けた。

矢野教授はいきなり甲野氏の手を握り、それを振りほどこうとすると、大声で罵倒し殴打を繰り返し、放心状態にさせて強姦した。甲野氏の学生時代はアルバイトとして、大学を卒業した後は非常勤職員、秘書として研究室で仕事を続けるよう矢野氏は説得し、恐怖と暴力で甲野氏を支配し続けた。

京都大学の女性職員有志は秘書問題について時の文部大臣宛に質問状を提出し、甲野氏は弁護士会人権擁護委員会に人権救済の申し立てを行うなど、矢野教授の一連の行為を問題にした。京都大学の教授たちは事を穏便にすませようとしたが、結局、矢野氏は京都大学を辞職することになった。

京都造形芸術大学教授で、精神科医の野田正彰氏は1994年1月、京都新聞に矢野氏の大学教授辞任事件に関するエッセイを掲載。その中で以下のように主張している。

「元秘書が矢野教授を告発したいのならば、刑事告訴をすべきであろう。(中略)私的な秘書との対立ならば、大学外の法律プロセスに基づいて処理されるべきである。なお一連の動きに触発されて、七、八年前の女性との関係について、京都弁護士会人権擁護委員会に人権擁護の申し立てが行われたときくが、それについてはいずれ結論が出るだろう。矢野教授は「中傷について答える必要はない」と否認している。否認している人に対し、世間を騒がせ、研究所に迷惑を掛けた式の安易な処理は許されない」(以上、引用)

この文章を読んだ京都大学教授の小野和子氏は「女性職員有志の告発は、矢野氏個人への誹謗と中傷に過ぎない、ということなりかねない」と、京都新聞に野田氏のエッセイへの反論を寄稿した。

その後、矢野氏は女性職員有志の弁護士と小野教授を訴え、矢野氏の妻は「貞操要求権」を持ち出して甲野氏を訴えた。裁判は、矢野氏側の全面的な敗北となった。

この「京大・矢野事件」は、週刊ダイヤモンド編集部でも話題になった。というのも、矢野教授を擁護した野田正彰教授と週刊ダイヤモンドの辻広雅文氏が親しい関係にあり、精神科医の野田教授が経営者を「診断」する記事を週刊ダイヤモンドに連載し、その編集担当が辻広氏だったからだ。

野田氏は、連載をまとめた書籍の『経営者人間学―リーダーはいかにして創られるか』や、『中年なじみ』『ミドルの転機―続・中年なじみ』をダイヤモンド社から出版している。

「京大・矢野事件」を擁護した教授への怒り

矢野教授に強姦され、結婚した後も関係を迫られ続けた甲野氏は『悔やむことも恥じることもなく 京大・矢野教授事件の告発』という書を著し、以下のように記している。

「一身上の都合」での辞職では、告発をうやむやにする。ほとぼりが冷めた頃、矢野教授はほかの大学に再就職するだろう。そうすればそこでまた同じことを繰り返すに違いない。それだけは避けたかった。 (中略)
矢野元教授の辞職を巡って「矢野擁護論」とでもいうような動きが始まっていた。最初が、京都造形芸術大学教授(当時)の野田正彰氏による「京都新聞」のコラムだった。野田教授は矢野元教授の辞職を、昨年末の「最も不愉快な問題」であり、中傷による冤罪だとみなし、被害者である女性は「告発したいのならば、刑事告訴すべきであろう」としていた。私は野田教授の無責任さにめまいがするほどの怒りを覚えた。 (中略)
野田氏が「心的外傷(トラウマ)」の専門家で、日航ジャンボ機事故の被害者を巡るトラウマに関する著作もあると聞き、いた口がふさがらなかった。その後阪神・淡路大震災の後、数少ない心的外傷の専門家として野田氏は一躍脚光をあびた。テレビで頻繁にPTSD(心的外傷後ストレス障害)が取り上げられ、野田氏が画面に登場する場面も急増した。私は画面に野田氏が出るやいなや、テレビのスイッチかチャンネルに手を伸ばした。氏には悪いが、野田氏自身が私のPTSDのフラッシュバックの引き金になったのだ。  (以上、引用)

昨今、セクハラ事件や性暴力事件が報じられることが多くなったが、加害者は問題が露見すると、反撃に出たり、誹謗中傷をしたり、組織ぐるみで隠蔽を図ることも多い。

以下の2冊の本は、セクハラや性暴力事件がどのように展開し、加害者がなり振り構わない行動に走るかを詳しく描写している。そして、被害者の苦悩についても。『京大・矢野事件』は裁判記録や意見書など「資料編」が充実している。

小野和子編著『京大・矢野事件  キャンパス・セクハラ裁判の問うたもの』甲野乙子著『悔やむことも恥じることもなく  京大・矢野教授事件の告発』

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京都大学は、学内掲示板に「関係者各位への書簡」を掲示したことで、被害者の謝罪は終わったとみなしている。その書簡を被害者には直接送付していない。被害者は関係者に入っていない

セクハラ事件、暴力事件を隠蔽し、「一身上の都合」や「新天地で活動する」といった理由で会社を辞める人物に何ら処分をして来なかったダイヤモンド社では、その後もセクハラ事件が続いている。

身びいきのゴリ押し人事を支えた鹿谷史明社長

2011年3月に東日本大震災が起き、東京電力福島第一原発事故で「メルトダウン」(炉心溶融。原子炉内の制御棒や構造物などの燃料集合体が核燃料の過熱で融解し、炉心の下部へ落ちた状態)が発生し、世の中が騒然としていた時期に、ダイヤモンド社では奇妙な人事が実施されようとしていた。

ダイヤモンド社の鹿谷史明社長、人事・総務担当の白壁文次常務、取締役の辻広氏、週刊ダイヤモンド副編集長の遠藤氏は、株式会社フォルマの芹澤ゆう代表と2011年7月14日、ダイヤモンド社の会議室で面会し、人事に関する話し合いを行なった。

フォルマは国際会議をアレンジする業務を行なっているが、大手信用調査会社の200万件を超える企業データに記載されていない。大手信用調査会社のデータベースには、ペーパーカンパニーの情報も記載されているのだが、マンションの1室で運営しているフォルマに対して信用調査の依頼がなく、調査対象になっていなかった。

芹澤氏の父親は大蔵省財務官や慶應義塾大学教授を務めた内海孚うつみ まこと氏で、辻広氏と内海氏は親しい間柄だった。

フランス革命記念日、パリ祭の7月14日にダイヤモンド社社内で行なわれた会合で、遠藤氏のフォルマへの出向が決まった。

「フォルマに出向し、フォルマの業務ノウハウをダイヤモンド社にフィードバックするのが遠藤さんの使命」と、常務の白壁文次氏は、後に「内部告発」した社員に質問されて、こう説明していたのだが、実際は「偽装出向」であった。

フォルマにとって遠藤氏は「幽霊社員」で、ダイヤモンド社は約2年半に渡って、同氏に給与とボーナスを支払い続け、社会保険料も負担している。

遠藤氏は週刊ダイヤモンドの業務をしながら京都大学大学院で学んでいたが、学業がはかどらなかった。それで出向という形で、自由に振る舞うことができる方策を、夫の辻広氏と画策。社長の鹿谷氏を動かして、一般にはあり得ないような出向を考案し、道を踏み外した。

休職して、大学院の勉学に励めばよかったのに、遠藤氏は出向という形で、会社の給与とボーナスを「詐取」したのだ。

週刊ダイヤモンド副編集長だった辻広氏と記者の遠藤氏が結婚し、同じ職場にいた1999年から2000年にかけて、ダイヤモンド社の労働組合で「上下関係のある夫婦が同一職場で働くことの弊害」が問題になり、組合は経営陣に以下のように追及していた。

「上司に面と向かって、その配偶者への苦言を呈せると思っているのか。ましてや、彼は次の編集長だとみなが思っている人物。人間の情として、配偶者や親子兄弟がかわいい、身びいきをするのは当たり前のこと。編集部内で弊害が目に付き始めた」  

身びいきには、かわいい女房の企画を優遇する、女房の担当業種を優遇する、女房にいい情報を教えてスクープさせる、女房の原稿を入念にチェックして実力以上に見せる、女房に重要な仕事を与える、女房を管理職に昇進させる。そうしたケースが想定される。

まさに「身びいき」が行なわれたのだ。権力者には驕りが生まれ、周囲から意見されることもなく、善悪の判断が付かなくなる。「誰も私に逆らえない」という傲慢さから、ガードが甘くなり、多くのミスを犯してしまう。

偽装出向の期間中(偽装出向であることが判明するのは、遠藤氏が退社した後。鹿谷社長は偽装出向であることを全面否認している)、遠藤氏は一体何をしていたのか。

後に岩波書店から出版する著書『原子力損害賠償制度の研究 東京電力福島原発事故からの考察』の取材と執筆に精を出し、この本を基に、京都大学大学院での博士論文を書くために時間を費やしていた。

「偽装出向」の「幽霊社員」は何をしたのか

偽装出向が始まったのは2011年8月からだが、半年後の2012年1月、遠藤氏は「株式会社E4ストラテジーズ」という個人会社を秘かに設立。その定款には、コンサルタント業、情報処理サービス業並びに情報提供サービス業、国際会議等のイベントの企画、制作、運営、出版業、投資業及びその仲介業、前各号に付帯関連する一切の事業となっている。

ダイヤモンド社と競合する情報提供サービス業、出版業が入っているにも関わらず、そうした会社を設立したことをダイヤモンド社に説明していない。この問題が発覚して、夫である辻広雅文氏はダイヤモンド社を辞めざるを得なくなったのだが、こうした事実も、社員や社会に隠蔽したままである。

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遠藤氏が設立した「株式会社E4ストラテジーズ」の概要。会社設立の事実を、ある社員から突き付けられた経営側は、久米功氏に法務局に行かせて、同様の書類を入手している

しかも、問題になったのは「E4ストラテジーズ」がNTTグループから4ケタの万円の金銭を受け取っていたことである。

出向期間中の遠藤氏は2013年9月、岩波書店から『原子力損害賠償制度の研究 東京電力福島原発事故からの考察』(6200円、A5判364ページ)を出版した。岩波書店から書籍が上梓された同じ月、同氏は、以下のメールをダイヤモンド社員に送っている。

「ダイヤモンド社でご一緒させて頂いた皆様
大変ご無沙汰を致しております。bccメールで失礼を致します。
昨日、人事部に辞表を提出致しました。
10月頭に京都で開かれるフォーラムの手伝いを終えた後、出向先のフォルマを離れ、
12月いっぱいでダイヤモンド社を退職致します。
今後は大学に席を置き、研究や執筆などを行って参りたいと存じておりますので、引き続きご指導くださいますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
18年と半年の長きにわたり、大変お世話になりありがとうございました。
皆様のご健勝とダイヤモンド社の発展を、心よりお祈り申し上げます」   (以上、引用)

「10月頭に京都で開かれるフォーラムの手伝いを終えた後」と記しているので、出向先でさまざまな業務を行なってきたように受け取れるが、実際には科学技術フォーラムの会場に1度、顔を見せただけで「お手伝い」はしていない。

フォルマへの出向が「終了」した際も(自分の都合で終わらせただけ)、フォルマに足を運んで退社の挨拶をしておらず、オフィス(マンション)の鍵をフォルマに郵送しただけだった。

遠藤典子氏の記事盗用問題を「週刊文春」追及

遠藤氏は、2013年12月末でダイヤモンド社を退社したが、同氏の出向やダイヤモンド社の経営姿勢を問題視する「内部告発」があり、ダイヤモンド社の社員に「出向・人事考課など人事・経営に関する質問・要望書」という文書がメールで送信された。名前を明記した文書で、怪文書ではない。

後に「カジノ管理委員会」の委員に任命された遠藤氏に関して、「週刊文春」は2020年1月23日号で特集を組むが、その取材を受けた際、遠藤氏は「出向・人事考課など人事・経営に関する質問・要望書」を「怪文書」と呼んでいる。時間が前後するが、若干補足しておこう。

2020年1月に、遠藤氏はカジノ管理委員会の委員になり強力な権力を発揮する立場になった。そのため、遠藤典子という人物を多面的に取材し、週刊文春は5ページの特集記事をまとめた。

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週刊文春の特集記事が出た後、遠藤典子氏はカジノ管理委員会の委員を辞めている

日本でカジノが解禁されたら治安が悪くなる、ギャンブル依存症患者が増えるといった懸念がある中、観光客や国際会議を誘致する起爆剤になると、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業は、安倍晋三内閣が推進する目玉政策だった。カジノに関わる業者の選定は厳正でなくてはならない。

週刊文春は「安倍官邸が指名 カジノ管理委員 遠藤典子氏に『夫婦で背任』告発 カジノ業者を審査・監督する『美魔女』に疑惑」のタイトルで、安倍官邸が決めた人事、遠藤氏のコンプライアンス(法令遵守)に関する問題を追及している。

文春の特集の冒頭は「なんで、彼女がこんなところに……」で始まり、以下のように続く。

テレビ画面に映る女性の姿に、彼女を知る人たちは皆、釘付けになった。 流れていたのは「カジノ管理委員会」の初会合の模様だ。一月十日、午後一時。東京・虎ノ門の超高層オフィスビルの一室で開催された初会合で、カメラを見据える女性は、ひときわ目立っていた。黒いスーツを身にまとい、ショートヘアに大振りのピアスが映える。だが、かつての同僚たちは、そこに映る“美魔女”をめぐる疑惑を思い起こし、「これは大変なことになる」と囁きあった――。  (以上、引用)

カジノ解禁を進める統合型リゾート(IR)事業をめぐって、秋元司衆議院議員が収賄容疑で逮捕され、IR参入を目指していた中国企業から国会議員5名がカネを受け取るなど、問題が多い案件であることを文春は解説し、遠藤氏がカジノ管理委員会の委員に就任した背景について、以下のように解説している。

「遠藤氏が上梓した書籍(『原子力損害賠償制度の研究 東京電力福島原発事故からの考察』)は、原子力損害賠償制度のスキームを構築した官僚を高く評価するものでした。この本を契機に、遠藤氏は原発推進の論陣を張って活動するようになりますが、中でも経産省の嶋田隆元事務次官に食い込み、原子力小委員会の委員などに任命されるようになった。嶋田氏は新進気鋭の女性論客として、メディア関係者に遠藤氏を紹介して回っていました。遠藤氏は財務官僚にも人脈を広げ、財政制度等審議会の委員にも就任しています」(経済ジャーナリスト)
 カジノ管理委員に就任したのも、こうした評判が官邸に届いたのが契機だった。
「カジノ管理委員の人選にあたってはカジノ事業者や関連会社との関わりが厳しく制限され、報酬もさほど高くないため、なかなか引き受け手が見つからなかった。そんな中、杉田和博官房副長官が、財務官僚からの評判を聞きつけ、依頼したそうです」(官邸関係者)
 この人事にダイヤ社関係者はそろって驚愕した。それが、冒頭の場面だ。  (以上、引用)

週刊文春は、この特集で当事者の遠藤氏に接触し、数々の疑惑の真相を聞こうとしたが、遠藤氏は文春の質問に文書で回答している。週刊ダイヤモンドの記者や副編集長だった時代に、遠藤氏の原稿を夫である辻広氏が添削しているという指摘に対して、以下のように答えているのが注目された。

「さような事実はございません。かつてダイヤ社内で怪文書メールが撒かれたことがございましたが、事実無根の中傷にすぎません」 (以上、引用)

日経新聞の記事盗用疑惑については、某大手電機メーカーから提供された社内資料に基づいて記事を作成し、日経の記事が数行あったと記憶していると、遠藤氏は答えている。

週刊文春は、日経の記事と遠藤氏が書いた記事を比較検証し、酷似する部分は33行あったと結論付け、取材先から提供された資料を「引用と示さずお手軽に引いて記事化するのが適切なのか」と、記者としての基本的な姿勢を批判している。

遠藤氏は文春の取材を面談で受けず、文書で回答した。疑問点を重ねて聞き返す、双方向の取材であれば、「かつてダイヤ社内で怪文書メールが撒かれた」と答えたとき、「文書には個人名が明記されています。怪文書ではありません」と、文春記者に即座に反論されていたであろう。文春は、盗用問題などをデータで解析し、事実に即して答えていないことを立証している。

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週刊文春は、週刊ダイヤモンドの「お詫び」(2007年8月25日号)を誌面に載せ、「"盗用"の苦しい釈明」という中見出しで、遠藤氏の原稿添削問題や盗用問題に斬り込んでいる

個人会社設立・金銭問題で会社を去った辻広氏

個人会社、 E4ストラテジーズの設立に関する週刊文春の質問に対して、遠藤氏は以下のように説明した。

「(出向時は)ダイヤ社の出向規定に従って、給与はダイヤ社から支払われました。出向後はF社の就業規則に従い、F社社長了承のもとでE4社を設立しました。(後にE4社がダイヤ社で問題になり、社長の処分に至ったことは)退社後の私はまったく聞き及びのないことです。E4社について調査やヒアリングを受けたことはありません」   (以上、引用)

遠藤氏はフォルマの就業規則に従っておらず、勤務していない。E4社設立についての許可を求める相手は、ダイヤモンド社であるのだが、会社設立を報告していない。ダイヤモンド社の就業規則の解雇規定に「上司の許可なく、在職のまま他に就職したとき」とあるが、遠藤氏は在職のままE4ストラテジーズの仕事をしている。

取締役としてダイヤモンド社に在籍していた、夫の辻広氏もE4社の設立を会社に報告しておらず、会社設立と金銭授受問題が発覚し、ダイヤモンド社を辞めることになった。

文春は辻広氏にも質問書を送っており、こちらも文書で回答。E4ストラテジーズの設立に関する質問に、辻広氏は以下のように弁明している。

「(E4社について)私が代表取締役になったのは、ダイヤ社退任後の一四年四月のことであり、ダイヤ社在籍中にE4社との関わりはございません。私は新たに学究生活に進むべく、一四年三月末にダイヤ社を円満に退社致しました。ダイヤ社在籍時代のことにつきましては守秘義務がございますのでお答えしかねます」   (以上、引用)

文春は、以下のように辻広氏の回答を皮肉っている。

“円満退社”を強調し、E4社が問題視されたことには守秘義務を盾に答えない。だが、鹿谷氏は辻広氏への管理不十分を理由に、自らに減俸処分を科した。遠藤氏が設立したE4社に重大な問題があったことは明らかだ。この間の経緯を知悉する人物が、絶対匿名を条件に明かした。
「鹿谷氏は当時、E4社について『辻広氏が実質的な社長だ』と話していました。遠藤氏の突然の退社にも『順序が違う』と苦々しく語っていた。そのうえで、役員が競合社を兼業していたことを非常に重く受け止め、責任を取って自ら減俸処分を決めたのです」
 遠藤氏の競合する個人会社設立や辻広氏の関与、社長の減俸処分などについてダイヤ社に確認を求めたところ、担当者は「ノーコメントとしか言えません」と声を絞りだすのだった。  (以上、引用)

そして、文春は以下のような指摘で特集を締め括っている。

 カジノ管理委員会はカジノ事業者の代表者はもとより、役員や株主などに至るまで、時にはその家族も含めて徹底的な背面調査をし、免許を付与する巨大な権限がある。それだけに資金力を背景に工作を試みるカジノ業者の標的になる可能性もある。五人の委員は国会同意人事でもあり、極めて高い規範意識が求められるのは当然だろう。
 果たして、遠藤氏にその資質があるのか。  (以上、引用)

「質問・要望書」が巻き起こした波紋

遠藤氏は「怪文書」と呼んでいるが、怪文書ではないことを知っているはずだ。彼女が言うところの怪文書、実際のタイトル「出向・人事考課など人事・経営に関する質問・要望書」は辻広氏、社長の鹿谷氏を含め、ダイヤモンド社の全役員にメールで送付されたものだ。

経営側が何の対応もせず無視し続けたので、不特定多数ではなく、面識のある社員に「質問・要望書」がメールで送られた。役員に送った文書には実名が入っていたが、社員への文書では実名をA、B、Cとアルファベットに置き換えている。

「質問・要望書」を送付した社員に対し、ダイヤモンド社の経営陣は懲戒処分を行なった。処分に当たって、会社側は送付した社員数を数えたが、184名に送られていた。

処分の理由は、メールを多くの社員に送信したこと、私的な内容のメールを会社のパソコンを使って送信したこと、人事に関して経営者に執拗に質問したこと、権限のない業務に意見したこと、週刊ダイヤモンドの人事評価の内容と評価方法を記載していること、広告部の個人(局長と広告部長の予算。人事評価制度の目標設定の際に広告部員全員に知らせている内容で、広告部内では公になっている情報)の予算を記載していること、憶測に基づき取締役の年収を記載していること(辻広雅文氏本人が「質問・要望書」の作成者に話した数字で、憶測の金額ではない)、会社に混乱を招来したこと、となっていて、懲戒処分の文書は、「代表取締役社長 鹿谷史明」の名前で出されたものだ。

「人事に関して執拗に質問したこと」「権限のない業務に意見したこと」となっているが、その後、この「文書」や遠藤氏出向問題が組合問題化し、労使協議会(労協)で話し合いが重ねられた。

経営側は労協の席で組合に対し、「会社の施策に対して、意見を述べたことが処分の対象ではありません」と発言している。組合に回答した内容と、実際に行なわれた処分には齟齬そご(不一致、食い違い)があり、経営側はウソの回答を組合にしていた。

「権限のない業務に意見したこと」で処分されているが、この論法では、経営に対して意見を述べることはできず、他部門への意見や批判もできないことになる。

始末書を提出させて、次は退職に追い込む

懲戒処分を言い渡したのは人事担当役員の久米功氏と人事部長の加茂慈子氏(現在、ダイヤモンド社取締役人事室長)だが、問題なのは、文面が用意されていた「始末書」に名前と住所を書かせて捺印させ、意見封じをしようとしたことだ。

始末書には、「社内外の関係者に混乱を招いた事を深く反省しお詫び申し上げます。私が今後同様の行為やその他就業規則に反する行為を行った場合は、いかなる処分にも不服を申し上げません」とすでに書いてあり、言論を封じる効力を持つ。

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ダイヤモンド社の経営陣は、何人もの社員に始末書を提出させてきた。「社内外の関係者に混乱を招いた事」と書かれているが、社外の関係者に「質問・要望書」を送っていない。コピペをして作成した始末書なのだろうか

後に労使協議会の席で、組合からの「会社の施策に対して意見を言いたいときはどうすればいいのか?」という質問に、社長の鹿谷氏は以下のように答えている。

「管理職に言えばいい。そして、いつも言っているとおり、社長室の扉はいつでも開いている」

「質問・要望書」を書いた社員への処分の内容が公になっていないので、鹿谷氏は好き勝手な発言をして、組合をけむに巻いている。「質問・要望書」の送付で処分された社員は、「処分の内容を各部署の会社の掲示板に張り出してほしい」と要望したが、久米氏は「前例がない」と拒否。処分はあくまで密室で行ないたかったようだ。会社の掲示板は各階に設置されており、組合用掲示板の隣りにある。

元々、全役員にメールで「質問・要望書」を送付する前に、人事室長である久米氏に面談して「質問・要望書」を手渡し、「全役員に渡してほしい」と依頼していたものだ。にもかかわらず握りつぶしたので、全役員にメールで送信したという経緯があった。「社長室の扉」は開いておらず、経営陣は聞く耳を持たず「馬耳東風」。

社長や役員に意見を具申しても、上長に意見を言っても、当事者意識がなく、もみ消したり無視するのが、ダイヤモンド社の経営の実態であった。

「質問・要望書」を送信した社員は懲戒処分の文書と始末書の原案を持って、知人の弁護士に面会し、アドバイスを受けている。弁護士は開口一番、「ダイヤモンド社の経営陣は弁護士に相談して、こうした処分を行なっているだろうか」と疑問を呈した。

「内心の自由(思想・良心の自由など)に反するし、始末書を書かせることを強要できないという裁判所の判例もあり、裁判を起こせば、会社側が負けます。会社の言う懲戒処分理由が、処分しなければいけない行為なのかも疑問」という意見だった。

こうしたアドバイスを基に、「始末書を書くつもりはないし、会社側が用意した始末書にサインもしない」と久米氏に伝えると、「提出しないことは業務命令違反である」「定期的に呼び出して提出するよう促す」と同氏は発言している。

実は、始末書を提出すると、次のステージが用意されている。ダイヤモンド社の就業規則第54条に「懲戒解雇基準」が記されている。

社員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇する。
1)重要な経歴をいつわり、その他不正な方法を用いて採用されたことが判明したとき。
2)正当な理由がなく連続14日以上無断欠勤したとき。
3)会社の重要な機密を漏らして、会社に実害を与えたとき。
4)上司の許可なく、在職のまま他に就職したとき。
5)会社の金銭、物品等を窃取、横領または無断使用、融通したとき。
6)第64条による制裁を受けたにもかかわらず、なお改めないとき、または情況がとくに悪いとき。
上記の「第64条による制裁」というのは以下の通り。

「第64条 制裁の方法」
制裁の方法は、次の一または二以上を合わせて行う。
1)けん責
2)昇給停止
3)減給
4)出勤停止
5)降格
6)懲戒解雇

けん責という軽い処分でも「なお改めないとき」は懲戒解雇に追い込める。始末書に署名させて提出させれば、その人物の口を封じ、行動をコントロールできるわけだ。

懲戒解雇になれば、退職金は出ない。そこで経営者は囁く。「自己都合退職にすれば、退職金は出る」。そう言われれば、自己都合退職を選ぶだろう。こうした手法で、ダイヤモンド社を辞めていった社員が多い。

労働していない出向を擁護する鹿谷史明社長

週刊文春が遠藤氏と辻広氏の特集を組んだ2020年の、年の瀬を迎える11月、武田良太総務大臣とNTTの澤田純社長らが会食し、NTTドコモの社外取締役の遠藤典子氏(当時)が同席していたことを、翌2021年3月に週刊文春はスクープした。

会食していた時期は、NTTがドコモの完全子会社化に向けた株式公開買い付け(TOB)を実施していた最中であった。

通信事業者を監督する立場にある総務大臣が、微妙な時期に通信事業者と同席することが問題視された。元々、政府は旧電電公社の分割を進め、競争原理を働かせるよう通信行政を進めてきたが、安倍政権はNTTドコモをNTTの子会社化するなど、NTTグループの統合を認める方向に方針転換している。

総務大臣、NTT社長、NTTドコモ社外取締役の会合を文春がスクープした翌年、遠藤氏はカジノ管理委員会の委員を辞めている。

遠藤・辻広両氏の問題及び経営者の経営姿勢にもの申した「内部告発者」は経営側の対応、隠蔽体質を追及し続けた。

遠藤氏の出向時に総務・人事担当常務だった白壁文次氏の後任として、三菱UFJ銀行から転籍してきたのが久米功氏だった。内部告発者は久米氏に面会して、「遠藤さんの出向の実態をきちんと調べたのですか。遠藤さん、辻広さんはルール違反をしていないのですか」と糺した。

久米氏は「徹底的に調査した結果、就業規則、取締役規定に照らして、一切問題がない」と胸を張って答えている。だが、久米氏はフォルマに連絡を取っておらず、調査を行なっていない。

フォルマ代表の芹澤ゆう氏に確認したところ、久米氏の名前も、人事部長の加茂慈子氏(現・取締役人事室長)の名前も知らなかった。フォルマは人事部門には連絡しておらず、すべて辻広氏と取り決めていたのである。

フォルマの仕事をせず、自らの書籍と博士論文の取材や執筆をしていて、出向のていをなしていない遠藤氏の態度に疑問を持った芹澤氏は、辻広氏に「出向と言っていたが、どうなっているのか」と苦言を呈した。辻広氏は答えることができず、質問から逃げている。

「出向・人事考課など人事・経営に関する質問・要望書」の内容を問題視して、事実関係を精査した労働組合は経営側を追及。ちょうどボーナス闘争の時期であったため、組合との団体交渉の席で議題にした。

遠藤氏の出向人事に関して「一時金(ボーナス)の原資が毀損されている可能性があるのではないか」という組合の指摘に対し、社長の鹿谷史明氏は余裕綽々しゃくしゃくで答えている。

「1銭も毀損されていない。法的にも会社的にも、違反は何もない。天地神明に誓ってない」と述べ、組合の執行委員を睨み返した。

同席していた経営側のメンバーは「代表権者である社長が天地神明に誓ってないと言っているんだ」と、社長におもねった発言をしている。代表権者が発言したからと言って、それが真実かどうかは別問題である。

労務提供で矛盾する発言をした久米功常務

組合は「メール問題に関する質問」を会社側に提出したが、のらりくらり
と回答を先延ばしにし、2013年12月27日、仕事納めの日に「遠藤典子氏の行動に問題はない」と経営側は回答している。その日はすべての手続きが完了して給与と退職金を支払い、遠藤氏がダイヤモンド社を「円満に」退社した日であった。

遠藤氏の出向時の「勤務の実態」を「天地神明に誓って、1銭も毀損していない」と言えるはずがない。遠藤氏出向時に人事担当常務であった白壁氏は「遠藤さんが出向後、会社に戻らず、会社に貢献しない場合、この出向人事は失敗」と発言していたのだが、それも口から出任せの言い逃れであった。

ダイヤモンド社には「特別長期休職制度」があり、社員が大学院で学んだり、留学する際に活用されてきたが、労働組合は「無給ではなく、有給で休職できるように、期間も1年ではなく弾力的に運用できるように制度変更を求めてきた。

遠藤氏の「偽装出向」があった後の2014年の春闘でも、組合は改めて、現在の「無給で最長1年取得可能」を「有給で必要な期間取得可能」にするように要求した。これに対して、経営側は次のように回答。経営企画、総務、人事を担当する常務の久米功氏は文書を読み上げた。

「特別長期休暇は、労務を提供することなく、会社が認めた場合に限り特別の目的を達成するために取得できるものです。給与は、労務を提供したことに対して支払われるものです。よって、この休暇中に給与を支払うことはいたしません。ただし、社会保険料(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)は負担しています。また取得期間についてですが、限られた要員で対応するため、1年以内が限界と考えます」

ダイヤモンド社の経営陣は「給与は、労務を提供したことに対して支払われるもの」と明確に答えているが、遠藤氏は出向期間中、ダイヤモンド社に対しても、フォルマに対しても、労務を提供していない。

翌年も、労働組合は特別長期休暇制度の変更を要求したが、労務の提供がない場合、給与は支払わない、と要求を頑なに拒否している。

遠藤氏の偽装出向が「1銭の毀損もしていない」と、ダイヤモンド社の経営陣が言い続けるのには無理がある。遠藤氏は個人会社を設立して競業避止きょうぎょうひし義務(会社の業務と競合する事業を行ってはいけないという義務)に違反し、NTTから多額のカネを受け取っており、その事実もひた隠しにしてきた。

投資業、投資仲介業を定款に入れた真意

ダイヤモンド社社長の鹿谷氏も、E4ストラテジーズの設立、NTTからの多額の金銭授受の事実を、遠藤氏が退社した時点では知らなかった。退職後であっても(実際、退職2カ月後に発覚)、不正や違法行為があればさかのぼって処罰できると、就業規則に明記してある。

だが、労務を提供していない遠藤氏に給与と退職金も支払ったままで、沈黙している。というより、鹿谷氏はこの出向人事に深く加担していたと見られてもやむを得ない。

「出向人事の真相」が露見するとは考えていなかった。そのため「脱法行為」と組合に指摘されると、食って掛かるように恫喝し、筋の通らない回答を繰り返し続けた。

E4ストラテジーズの事業目的に「投資業及びその仲介業」が入っているが、遠藤氏は週刊ダイヤモンド副編集長時代からM&Aに関心を持ち、人脈を広げていた。

医療機関向けの全自動血圧計で高いシェアを誇り、腕時計タイプの血圧、血圧脈波検査装置を開発していた日本コーリンは、ソニー出身の社長の経営判断ミスで民事再生法の適用を申請せざるを得なくなった。米国の大手投資会社のカーライルは、技術力の高い日本コーリンに強い関心を寄せていた。

カーライルの日本共同代表の安達保氏に週刊ダイヤモンド記者が取材を申し込み、カーライル・グループの狙い、日本コーリンの評価を聞こうとしたとき、どこから聞き付けたのか、遠藤氏が「私も取材に参加させてほしい」と同行を求めてきた。遠藤氏は日本コーリンに関心があるのではなく、安達氏との人脈作りが狙いであった。

「投資業及びその仲介業」を行なうために、遠藤氏はM&A関係者にアプローチし、その準備をしていたと見られる。E4ストラテジーズ設立後、記者、研究者という立場を利用しながら情報を収集し、M&A情報を企業に提供し、投資仲介業をしていたのだろうか。

人と組織を高圧的に支配できる役員持株会

なぜ、鹿谷史明氏、辻広雅文氏、湯谷昇羊氏、遠藤典子氏らがダイヤモンド社で権勢を振るい、不条理を押し通し、不正を隠蔽することができたのか。

企業経営をチェックする役割や機能として、株主、銀行、労働組合、マスコミ、消費者、世間の目などがある。ところがダイヤモンド社では、そうしたチェック機能が働いていなかった。正確に言えば、チェック機能が働かないように、経営陣が巧みに「工作」をしてきた。

ダイヤモンド社は石山賢吉が創業し、石山家の親族や従業員に株を持たせていた(50年ぐらい前まで)。大企業のトヨタ自動車(現在は保有していない)、松下電器産業(現・パナソニック、現在は保有せず)、東芝、味の素(現在は保有せず)、日清製粉グループ本社、イビデン、三井化学(現在は保有せず)、古河電気工業などに総株式数の2%~3%台の株式を保有してもらい、彼らを安定株主としていた(株主上位10位まで)。

石山家の親族や従業員は個人で株を持ち、役員はダイヤモンド社役員持株会として保有。2002年3月期の株主総数は240名で、役員持株会が9.41%を保有し、第2位の株主は石山久美子氏の3.64%だった。

週刊ダイヤモンド編集長だった辻広氏と、副編集長の湯谷氏が三和銀行出身の鹿谷氏をスカウトし、鹿谷氏が取締役に就任したのは2003年6月。

石山久美子氏の3.64%の株式は、2004年3月期に新設された石山賢吉記念顕彰会を中心に、役員持株会にも引き継がれた。

ダイヤモンド社は2006年6月に定款を変更して株式譲渡に関する規定を改訂し、株式を相続した者に対し、売渡を請求できるようにした。個人株主が死亡すれば石山賢吉記念顕彰会と役員持株会が買い取る仕組みを作ったのである。石山賢吉記念顕彰会は代表取締役が管理するため、代表取締役は筆頭株主として、オーナー経営者のごとく振る舞え、有無を言わせない体制を目指せた。

2003年3月期の役員持株会は10.15%の保有であったが、遠藤氏が偽装出向をした年の2011年3月期末の役員持株会と石山賢吉記念顕彰会の合計保有株式は31.32%に達していた。

前出の大企業の安定株主分と合わせると、取締役がダイヤモンド社を資本上支配できる形になり、株主のチェックが働かないガバナンス(企業統治)体制になった。

人事権を振りかざした鹿谷史明社長体制

2004年5月、ダイヤモンド社の経営陣は労働組合との間で、人事評価制度(MBO)の導入を決めた。全社員を対象とする査定制度だが、組合員に対しては評価結果を給与には反映させず、管理職に査定が適用された。

それまでダイヤモンド社では査定は行なわれず、男女同一賃金、学歴格差なしで、年齢が同じなら、どの職場の社員も給与と一時金(ボーナス)は同じだった。

さらに人事異動に関して、ダイヤモンド社には事前協議制と本人同意制があった。組合員を異動させる場合、経営側から組合に「Aを経理部から書籍編集部に異動させる」といった配置転換表(個人名は出さない)を事前に組合に提示し、労働強化が起きないかのチェック後、異動予定者本人と話し合い、本人が同意すれば、異動が実施される制度になっていた。

事前協議制と本人同意制は、不当な人事異動を阻止するため組合が勝ち取ったものだったが、経営側からすると「スムーズな人事異動」ができず、人事権を発動できないため社員をコントロールできない、もどかしさがあった。

辻広氏、湯谷氏、鹿谷氏は人事権を行使できる体制を目指していたが、週刊ダイヤモンド編集部の組合員の間にも、彼らに同調する者が増え、経営による人事権行使が行なわれやすい体制を望む動きが出ていた。

2004年、週刊ダイヤモンド編集部の組合員が連名で「職場アピール」の文書を作成し、組合執行部(文書は組合ビラに掲載されるため組合員全員に伝わる)に提出。要望書は、査定の導入、本人同意制の廃止、事前協議制の廃止、再雇用制の廃止を求めており、「経営危機を乗り切るため、我々のアピールを全職場で議論すべきだ」と主張していた。

こうした運動が功を奏して、ダイヤモンド社では2006年4月から、人事評価制度を昇進、昇格と連動させる仕組みが導入され、より人事権を発揮しやすい制度に変更された。

人事考課によって昇進や給与に差を付ける制度が導入され、「公平公正な人物評価」がより厳しく求められる状況になった。

遠藤氏の原稿を、週刊ダイヤモンド編集部に在籍せず、販売部門の責任者の辻広氏がこっそりチェックするのでは、公正な人事評価を歪めてしまう。

週刊ダイヤモンド編集部では、原稿の質と量、読者の満足度、締切の遵守などで記者の評価を決めていた。人事評価は年に2回行われ、評価会議の席で管理職である編集長と副編集長が話し合い、記者全員の評価をしていく。

ある記者の原稿を「非常に面白かった。適切なコメントを取っており、分析も説得力がある」と、ある副編集長が評価したが、担当した副編集長が「記事の突っ込みが足りなかったので、再度取材をさせ、7割ほど私が書き直した」などとコメントする。こうしたやり取りが繰り返され、評価を収斂しゅうれんさせていく。

遠藤氏が書いた記事に対し、1人の副編集長が「文章の構成がしっかりしており、分析もきちんとできている。高い評価を与えていいのではないか」と発言した。すると、別の副編集長が「遠藤さんの記事は辻広さんが原稿をチェックし加筆しているので、その分、考慮しないといけない」と指摘した。

何のため、誰のための人事評価制度なのか

当時の編集長の湯谷氏は、遠藤氏の記事の問題点を指摘した副編集長を「失礼なことを言ってはいけない。記者はプライドが高く、原稿を直されると殺意すら覚えるもの」と即座にたしなめたが、副編集長は反論した。

「複数の社員から証言を得ており、間違いありません。副編集長が部員の原稿に加筆した場合は、評価会議で判断の修正ができますが、編集部のあずかり知らないところで書き直されたものはチャックできません。たまたま情報を耳にしていたので、正しい評価をすべきだと発言しました」

2人の主張によって、会議室に重い空気が漂い、遠藤氏の原稿チェック問題は結論を出さないまま会議が終わった。遠藤氏の原稿を辻広氏がチェックしているかどうかは、2人に確認すれば分かることなのに、事実の解明は行なわれなかった。

だが、原稿チェック問題を指摘した副編集長は辻広氏と1対1で面会し、「原稿をチェックしているのか」と糺した。これに対し、辻広氏は「家にいたとき原稿があったので、見たことがあるかもしれない」と、事実を矮小化して回答。遠藤氏にも会って、原稿チェックの有無を確認したが、遠藤氏の答えは辻広氏とは異なっていた。

「私ら夫婦、仲が悪いので、そんなことするわけないじゃない」

平気でウソを付ける人がいるのだと驚き、『平気でうそをつく人たち―虚偽と邪悪の心理学』(M・スコット・ペック著)と『うそつき―うそと自己欺まんの心理学』(チャールズ・V・フォード著)を入手し、深層心理を理解しようと務めた。

『うそつき』の「他人の行動をあやつるためのうそ」に項目には、「罰を逃れようとして自分の責任を否定する人間の気持ちはだれにもわかる。(中略)人は、自分の欲求や希望を実現しようとして、また、ときには他人の欲求を満たしてやろうとして、うそをついたり事実を曲げたりするのである」と記されていた。

販売部門の責任者の辻広氏は、社員に同行して取引先を回ることもある。社員と行動を共にしているときにも、遠藤氏の原稿を入念にチェックしていた。社員が「それはまずいんじゃないですか」と指摘したのだが、あいまいに答えるだけ。

「家にあった原稿をたまたま見た」という辻広氏の言い訳もウソ。周囲が見ていても気にしないほど、権力を握った者は、脇が甘くなっていた。

遠藤氏を週刊ダイヤモンド副編集長に昇進させる決定がなされたのは、新人事制度が導入される直前であった。新人事制度下では、昇進・昇格の規定を満たさず、遠藤氏が副編集長に昇進するには数年の時間を要する制度設計になっていた。

そのため、強引にでも昇進人事を進める必要があった。人事評価制度はご都合主義的に運用され、遠藤氏は新人事制度が始まる2006年4月の直前の、同年3月に副編集長に昇進した。

お手盛りで20万円~120万円の差を付ける

ダイヤモンド社で、経営陣への監視機能やガバナンスが働かなくなった2つ目の理由は、銀行のチェックが入らなくなったことである。

同社の2004年3月期の長短借入金は25億円、社債残高が15億円、債務保証残高が17億円であったが、4年後の2008年3月期の長短借入金は7億円強で、社債、債務保証残高はゼロ。現金・預金が14億円強あるので、いつでも借金ゼロにできる状態まで改善していた。業績が好転すれば、銀行からとやかく言われることはなくなり、チェック機能は著しく低下していった。

かつて収益力が低く、社内で「お荷物部門」だった書籍編集部が収益の柱になり、厳しい出版業界の中で、ダイヤモンド社の業績は好調だったため、経営責任を追及する材料が少なくなったことも事実である。同業他社から転職した編集者の活躍もあって、ヒット作品を数多く出している。

『マネジメント(エッセンシャル版)』(P.F.ドラッカー著)といった経営書の他、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著)、『ロスジェネの逆襲』(池井戸潤著)、『伝え方が9割』(佐々木圭一著)のように100万部を超える書籍を筆頭にヒットが続いている。

ダイヤモンド社労働組合は経営側と対峙することもいとわず、数々の権利を勝ち取ってきたが、経営側の言いなりになる組合執行部も出てきた。

労働組合の執行委員の仕事は敬遠されるため、いきおい社歴が浅い中途採用の社員や新入社員が執行委員に就くことが多くなった。しかも任期は原則1年のため、組合活動に詳しくない素人集団になりがちなため、組合は弱体化していく。

経営者に擦り寄る組合員が組合三役(委員長、副委員長、書記長)に就くケースもあり、労働組合による経営監視機能も弱くなった。経営寄りの行動をする執行委員は、後に昇進などの恩恵を受けることもあり、経営者に睨まれることは得策ではない。

マスコミ界で仕事をする人は記事を書いたり、書籍を作ったり、出版物や広告のプロモーションなどに熱心なため、自社の経営に関心がない者が多いと言われる。関心が薄いことは、経営陣にとって都合がいい。

ダイヤモンド社では、業績がよければ年度末の3月に社員に一律20万円といった期末賞与が配られていた。だが、経営陣は20万円~120万円以上の差を付けて、社員に配布していたことが組合の調査で明らかになった。

自ら導入した人事評価制度に基づかず、部門の担当役員がお手盛りで、自分のお気に入りの社員に分配できる仕組みにしていた。人事評価制度で最高評価の「S」を取った社員は20万円で、子飼いの社員や、擦り寄ってくる社員には100万円以上の差を付けて期末賞与を与えていたのだ。

本来、給与に関する制度改正は労働組合に諮るものだが、黙ったまま行なわれていた。大きな差があることに気付いた組合執行部は調査をし、私情に基づく、好き勝手な期末賞与について経営陣を追及した。

この時の執行部は気骨があるメンバーだったが、鹿谷氏は「いろいろ文句を言うなら、期末賞与を止める。この執行部のせいだぞ」と言い放って実際、期末賞与を中止した。

不公平、不公正な制度下で期末賞与が配布されるくらいなら、止めたほうがいいと同執行部は判断した。だが、翌年度の執行部は「期末賞与を復活してほしい」と経営側に懇願して、不公平で不公正な期末賞与を甦らせた。

こうした会社が経済ジャーナリズム、企業報道の一翼を担っているのだがら、驚かされる。現在、ダイヤモンド社では組合員にも査定を導入し、一部の組合員の給与を下げ、組合員の給与やボーナスに差を付ける制度が導入されつつある。

2025年3月期末で「ダイヤモンド社役員持株会」は34.83%の株式を保有し、「石山賢吉記念顕彰会」が22.63%で、合計の保有株式は57.46%。株主数は106名に減り、個人株主が死亡すれば、役員持株会と石山賢吉記念顕彰会の持ち分はさらに増えていく。

このようにダイヤモンド社がガバナンスが効きにくく、コンプライアンスが軽んじられやすい状況になっているのに、ダイヤモンド社の社員は株主構成の状況を知らない。経営者が過半の株式を持つことの怖さに気付いておらず、警鐘を鳴らしても、危機感を持とうとしない。

遠藤典子著『原子力損害賠償制度の研究』受賞

遠藤氏は『原子力損害賠償制度の研究』を2013年9月に岩波書店から出版しているが、この著作の取材、執筆、校正、確認作業に、夫の辻広氏が深く関わっていた。

週刊ダイヤモンドの記者時代から夫に原稿を書き直してもらうのが当たり前だったため、2人で取材に行き、2人で原稿を書き、原稿の校正をすることに違和感はなかったようだ。辻広氏は、会社のデスクから取材先に疑問点などの確認の電話をしている。周りにダイヤモンド社の社員がいる中で、何ら躊躇することなく電話をかけ、執筆、編集作業をしていた。

彼らの合作の『原子力損害賠償制度の研究』は、2014年12月に朝日新聞社が主催する大佛次郎論壇賞を受賞した。

12月21日の朝日新聞の朝刊で、全6段のスペースを使って、著書の遠藤氏が執筆に至った経緯と受賞作品の解説をし、5人の選考委員の選評を掲載。朝日新聞の記者は、次のように紹介している。

 1961年に制定された原子力損害賠償法は、半世紀後に起きた東京電力福島第一原発事故に対処するにはひどく不十分なものだった。 
 なぜ、そのような制度のもとで原子力発電にかかわる政策が進められてきたのか。巨額賠償を実行するための緊急の仕組みはどう構築されたのか。受賞作は、綿密な調査を通じてそれらの問いに答えを出した。政策担当者など82人に上る関係者への聞き取りを踏まえた事例研究だ。 (中略) 
 政策担当者のヒアリングを始め、仕事と並行して学んでいた大学院の博士論文として、公共政策研究の手法で、2年半をかけてこの問題に迫った。(中略)
 もちろん、官僚機構の優秀さを訴えるための本ではない。(以上、引用)

朝日新聞の記者は大きな間違いを犯している。「仕事と並行して学んでいた大学院の博士論文として」というが、この間、偽装出向をしていて、仕事はしていない。

大佛次郎論壇賞の選者、千葉大学教授の酒井啓子氏は「飽くなき研究動機に感銘」というタイトルで、以下のように遠藤氏を絶賛している。

「ジャーナリストして阪神大震災を経験し、その後東日本大震災を経て研究の道に入ったという、その飽くなき研究動機にまず感銘を受けた。未曾有の危機に学問に何ができるかという反語的問いが繰り返されるなか、現場に起きていることを解明するためにこそ追求すべき研究があること、そのように動機づけられた研究が象牙の塔のなかで高い評価を受けて学術的高みまで至ることができるということを、博士論文をもとにかかれた本書はよく示している」   (以上、引用)

酒井氏のコメントにはいくつかの誤解があるが、「博士論文をもとにかかれた本書」は正確ではない。書籍と博士論文は並行して取材を進め、論文よりも書籍のほうが先に校了している。「研究の道に入った」という時期は、まさにフォルマに「出向」していた期間だ。

遠藤氏が京都大学大学院に提出した「原子力損害賠償制度の研究 ―東京電力福島原発事故からの考察」は、以下のサイトで概要が読める。

原子力損害賠償制度の研究 (要約版)

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/server/api/core/bitstreams/0f9fdaf8-446e-431c-8758-10a1c6a57a13/content

上記のレポートに、82人に対する聞き取り調査の具体的手法を記し、聞き取り調査の期間は2011年3月から2013年9月までの2年6ヶ月としている。岩波書店から出版したのは2013年9月なので、岩波書店の原稿はそれ以前に校了したことになる。

環境と原子力問題の専門家からの厳しい意見

遠藤氏よりも2年早く大佛次郎論壇賞を受賞している大島堅一氏は、遠藤氏の受賞のニュースが報じられた直後の12月23日、以下のようなコメントを「晴耕雨読」に掲載した。

大島氏は環境経済学、環境政策学が専門で、立命館大学教授を経て、龍谷大学政策学部教授となり、原子力市民委員会座長も務めている。

遠藤氏の『原子力損害賠償制度の研究』が大佛次郎論壇賞を受賞したときの感想を、以下のように記している。

 本当に驚いた。理由はなぜだかさっぱりわからないから。とりあえず、私は遠藤氏には何の思いも足を引っ張る理由もないということは断っておきたい。
 関係者に対してインタビューをしたのは努力として認めるし、損害賠償制度がどのような内部論理で作られたのか、ということは、読む人が読めば、まあそうなのだろうなとわかる。
 ただ特に新しい発見はない。
 むしろ、問題は、政策当局者へのインタビューが基礎になっているが、政策当局者の考え方や論理をそのまま無批判に受け入れ、叙述をつなげているところ。論理展開が強引なところがみられる。
 さらに疑問なのは、未曾有の事態に直面して、官僚によって課題が的確に整理され、国民負担を極小化する仕組みとして原子力損害賠償支援機構ができあがったと述べているところ。
 政策形成のあり方が本当に的確だったのか、国民負担が極小化されているのか、という点は内部論理とは別に評価されなければならないと思われる。
政府内部の思惑をつなげるだけでは、政策当局者がつくりあげた政策の正当化につながりかねないのではないか。
 ちなみに、私自身は、国民負担の最小化ではなく、東電・電力会社の負担の最小化ではないか、と思っていますし、その点を問題提起する論文を大阪市大(大阪市立大学大学院)の除本さん(除本理史よけもと まさふみ氏)と一緒に書いています。
 研究書であれば、政策当局者の認識や決定が正しいと思われる場合であっても、政策当局者の内部論理だけで政策を評価するのではなく、政策当局者の主観から独立し、政策形成視(史?)や、政策、制度を客体として扱い、政策当局者の思惑とは別のエビデンスを示しつつ、筆者の理論や視角から政策や制度のあり方を改めて評価すべきなのではないか。
 特に、今回のような巨大な問題を扱うような政策を評価するような場合は、政策当局者の思惑を相対化、客観化する作業が必要不可欠ではないかと思われました。
 その他にも、引用の誤りが明らかではないかと思われるところがあったり、箇条書きの後にその説明をつなげていたりする部分が散見され、数字や用語の点でも誤解なのではないかと思われるところがあったりして、本当に審査員がきちんと評価したのだろうかと疑問に思うところも多々あります。
以上の感想をもっていたので、私自身が受賞している大佛次郎論壇賞ということもあり、とても驚きました。
 審査員のコメントにも、本気なんだろうかと心から驚いた次第で、損害賠償制度の研究であれば、卯辰先生(卯辰昇うたつ のぼる氏)もいらっしゃるわけで、なんとも複雑な気分で一杯です。
 遠藤氏著がでたあと2013年12月に原災本部(原子力災害対策本部)がいわゆる福島復興加速指針(原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針)を出して、国費投入を打ち出しました。それによって国民負担最小化という建前はすでに崩れているわけですね。
 私は朝日新聞が、遠藤氏のこの本に対してあえて賞を与えることに強い疑問を持ちました。
 ぜひ、朝日新聞社に答えていただきたいものです。それ以前に、岩波書店がこういう本を出していることにも実は内心驚いていたのですが。
遠藤氏には、別に個人的な恨みも思いもありません。インタビューに関してはよくやったと思いますし、一部勉強にもなりました。朝日新聞社と審査員の見解にびっくりしているわけです。
 まとめると、ざっとこのような感じです。
1)研究書であるにもかかわらず、重要な論点で十分な説明や注記がなく叙述が進んでいるところが随所でみられる。
2)研究書における章の体裁をなしていないところがみられる。
3)研究書として引用が不十分または不適切・不要な点がみられる。
4)用語、数字に誤りでは無いかと思われるところが散見される。
5)研究書ではみられない表現がみられる。
といったところでしょうか。それらを考慮しても余りある功績があったということなのでしょうか。
 私のような者には理解できないことなのかもしれません。(以上、引用)

許されないゴースト・オーサーシップ

岩波書店から出版された『原子力損害賠償制度の研究』と、京都大学大学院の博士論文については、指摘しておかなければいけない問題がある。

岩波書店からの書籍と京都大学大学院の博士論文は並行して取材、執筆が行なわれているが、実態から見て、夫の辻広雅文氏を共同執筆者にしなければならない。

著書の「あとがき」に、3人の大学教授の名前を出して謝意を述べているが、本のどこにも、「辻広雅文氏」の名前は出てこない。

著作物や音楽の作曲で、ゴーストライターやゴースト作曲家の存在が話題になるが、論文、学術出版の執筆で、著者の要件を満たしているのに記載しないケースは「ゴースト・オーサーシップ」と呼ばれる。文部科学省は「研究活動上の不正行為」と定め、問題行動と断じている。

ゴーストオーサー(幽霊著者)とは、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない研究者のことで、取材、執筆、校正、確認作業をしていた辻広氏は共同執筆者である。

岩波書店の著書のゲラ(ゲラ刷り、校正紙)には、辻広氏がさまざまな箇所を校正した足跡が残されている。

画像
岩波書店から出版された遠藤典子氏の『原子力損害賠償制度の研究』の校正紙には、夫である辻広雅文氏の筆跡で赤字が入っている。辻広氏もアポイントを取り、一緒に取材に行き、原稿を書き、取材先に事実確認の電話をしており、本書と同時期に書いた遠藤氏の博士論文でも共著者に該当する。共著にしない場合、「研究活動上の不正行為」の「ゴースト・オーサーシップ」になるのでは

京都大学大学院は原発事故論文を調査せよ

京都大学では「卒業論文作成へ向けて」という文書を「京都大学研究公正教育小委員会」の名で配布しており、「科学研究活動とは(4)」に以下のように記載されている。

オーサーシップは、責任ある研究成果の発表が満たすべき基準をクリアしたことを保証し、義務を履行する責任を負います。そのことを踏まえ、オーサーシップの責任を踏まえ著者を記載する必要があります。例えば、著者としての資格がないにも関わらず、真の著者から好意的に付与される「ギフト・オーサーシップ」や著者として資格があるにも関わらず著者として記載されない「ゴースト・オーサーシップ」は許されません。  (以上、引用)

https://www.s-es.t.kyoto-u.ac.jp/mec/ja/oncampus/guidance/guidelines_for_bachelor_thesis

遠藤氏の博士論文『原子力損害賠償制度の研究』が「ゴースト・オーサーシップ」に照らして問題ないのか、京都大学と京都大学大学院は今一度、調査する必要がある。

京都大学では、矢野暢教授のセクハラ事件、強姦事件を、京都大学の教授たちが隠蔽しようとした過去があり、京都大学の学生や大学院生が発言し、行動を興して不正を糺すべきではないだろうか。そうしなければ、京都大学、京都大学大学院の国際評価、海外での評判は低下することになりかねない。

遠藤氏が教壇に立っている慶応大学と早稲田大学の学生も、遠藤氏が博士として、大学教授としての資格を有しているのか、大学教授として適任なのか、検討が必要ではないか。

政府委員や社外取締役に相応ふさわしい人物か

遠藤氏が著した『原子力損害賠償制度の研究』が2014年12月に大佛次郎論壇賞を受賞するが、翌2015年4月、遠藤氏は慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授に就任している。

その後、数々の政府の委員会の委員を務め、上場企業の5社~6社の社外取締役に就任している。社外取締役に関心のある関係者の間で、遠藤氏は「社外取締役の女王」とも呼ばれている。

政府の委員会の委員に相次いで就任しているのは、依頼する側にとって「都合のいい学者」だからであろう。

内閣総理大臣の菅義偉氏が、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名を任命しなかった「日本学術会議会員任命拒否問題」が2020年9月に起きたが、6名の共通点は政府の方針に異論を唱えてきたことだ。政府は御用学者を重宝し、政府に批判的な学者を敬遠する傾向があるようだ。

「御用学者」とは、時の政府首脳、権力者などに迎合、追随して、学問的節操を守らず、権力者に都合のよい説を唱える学者のこと。曲学阿世きょくがくあせいという言い方をすることもある。学をげ、時勢や世間に迎合したり、権力者に気に入られるような説を唱えることをいう。

週刊文春で特集が組まれるなど、問題提起されているのに、遠藤氏はいまだに政府の委員会の委員や上場企業の社外取締役といった要職に就いている。

偽装出向、競業避止義務違反、給与とボーナスの詐取、ゴースト・オーサーシップ問題など、数々のルール違反、違法行為をしてきた人物を社外取締役や政府委員会委員として、適任と判断していいのであろうか。

華麗なる経歴を持つ遠藤典子氏と辻広雅文氏

以下、遠藤典子氏がダイヤモンド社に入社し、週刊ダイヤモンド副編集長になり、フォルマに出向した後の歩みを年表風にまとめ、社外取締役再任の理由も記しておく。
        立教大学卒業
1994年6月 ダイヤモンド社に入社。       
2006年3月 週刊ダイヤモンド副編集長に就任。
2011年8月 フォルマに出向。
2012年1月 E4ストラテジーズを設立(本店所在地は自宅)。
2013年9月 『原子力損害賠償制度の研究』を岩波書店から出版。原子力損害賠償支援機構事務局長の嶋田隆氏にもインタビュー。嶋田はのちに経済産業省事務次官となる(在任時期は2017年7月~2019年7月)。
2013年9月  東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員となる。
2013年12月末 ダイヤモンド社を退社。
2014年1月 博士号取得(京都大学大学院)
2014年3月 KDDIがグノシーに資本参加し、業務提携。
2014年8月 総合資源エネルギー調査会 原子力小委員会の委員となる(東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員として)。
2014年12月 『原子力損害賠償制度の研究』が大佛次郎論壇賞を受賞。2015年4月  慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授に就任。
2015年4月 グノシー、東証マザーズに上場。
2015年6月 グノシー「アドバイザリーボード」を設置し、遠藤氏典子氏をメンバーに選任。
2015年8月 「エネルギー・環境問題に関する女性有識者会議」を起ち上げ、代表に。宇宙飛行士の山崎直子氏、NTTドコモの本昌子氏(もと まさこ。現・NTTドコモ執行役員総務人事部長)、カーレーサーで慶應義塾大学大学院特任准教授の井原慶子氏、日本エネルギー経済研究所の山下ゆかり氏(現・原子力小委員会委員)、事業コンサルタントの近藤寛子氏、NPO法人国際環境経済研究所の竹内純子氏、ファッション誌編集長の十河ひろ美氏ら、メーカーや金融機関など企業幹部やアナリストなどが参加。2019年まで積極的に活動し、その後、動きが止った。
2016年6月  KDDIのライバル企業であるNTTドコモの社外取締役に就任。
2016年10月 東電改革を議論する経済産業省の有識者会議(東京電力改革・1F問題委員会、略称=1F問題委)の委員となる。1Fとは、廃炉が予定されている福島第1原子力発電所。
2017年4月 「安倍フェローシップ・プログラム」のフェローに就任。日米での経済安全保障に関する調査・研究活動に従事。安倍フェローシップ・プログラムは国際交流基金日米センターが行なう研究奨学金プログラムで、安倍晋太郎元外務大臣が提唱した構想に基づき1991年に設立。
2017年4月 財政制度等審議会の委員に就任。
2018年2月 総合科学技術・イノベーション会議に財政制度等審議会委員の立場で出席。主催者は和泉洋人いずみ ひろと内閣総理大臣補佐官。総合科学技術・イノベーション会議 基本計画専門調査会の委員に。
2018年7月  アインホールディングス 社外取締役に就任(現任)。
2019年6月  阪急阪神ホールディングス 社外取締役に就任(現任)。阪急電鉄・阪神電気鉄道グループの持株会社。
2019年6月  バルクホールディングス 社外取締役に就任(現任)。セキュリティ・マーケティング事業を展開する。
2020年1月 カジノ管理委員会(内閣府の外局)委員に就任。杉田和博内閣官房副長官の後押しがあったとされる。
2020年1月 週刊文春が「安倍官邸が指名 カジノ管理委員 遠藤氏典子氏に『夫婦で背任』告発 カジノ業者を審査・監督する『美魔女』に疑惑」を特集(週刊文春2020年1月23日号)。
2020年4月 慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授に就任。
2020年7月 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 分科会構成員 臨時委員 宇宙政策委員会の委員に就任。
2021年5月 文科省原子力科学技術委員会 委員に就任。
2021年3月 テックポイント 社外取締役に就任。(上場廃止)。監視カメラ向け半導体のファブレスメーカー。
2021年6月 ジャパンエレベーターサービスホールディングス社外取締役に就任。 (現在に至る)。エレベーターなどの保守・管理を行なう会社。2021年7月 関西電力の原子力安全検証委員会 委員に就任。
経済産業省国立研究開発法人審議会 委員に就任。
国際協力銀行(JBIC)経営諮問・評価委員会 委員に就任。
2022年4月 資源エネルギー庁 革新炉ワーキンググループ 委員に就任。総合エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会の下に「革新炉ワーキンググループ」を設置。 
2022年6月 NTT(日本電信電話)社外取締役に就任(現任)。
2022年10月 デジタル臨時行政調査会作業部会 テクノロジーベースの規制改革推進委員会 構成員に就任。
2024年2月 防衛力の抜本的強化に関する有識者会議委員として第1回総会に出席
2024年4月 早稲田大学 研究院 教授に就任。(現任)。

NTTの再任理由

遠藤典子氏は、経済誌執筆編集活動や、大学における研究プロジェクト等を通じ、経営戦略、公共政策(エネルギー・経済安全保障分野など)に精通しており、また、企業の社外役員の経歴を通じて培った知識・経験を有しています。
2022年6月の当社取締役就任後は、独立した客観的な立場から、主にグループ運営、ガバナンス強化のほか、公共政策などに関する助言を行っており、重要な役割を果たしています。豊富な経験を有し、人格、見識ともに優れていることから、業務執行の監督機能強化への貢献および幅広い経営的視点からの助言を期待し、引き続き取締役候補者としたものです。

阪急阪神ホールディングスの再任理由

公共政策や環境・エネルギー分野の研究を通じて培った豊富な経験・知見を有しており、当社グループの経営に対する監視・監督機能の強化と意思決定の質の向上を図っていただくことが期待できるため、社外取締役として選任し、かつ、独立役員として指定しております。
なお、同氏は、証券取引所が定める独立性の要件を踏まえ当社が定める独立性の判断基準において問題とされうる事項はなく、一般株主との利益相反が生じるおそれはありません。

アインホールディングスの再任理由

経済誌編集者として小売・流通業を含めた多数の分野を担当し、その取材活動を通して多くの知見を有しております。また、エネルギー政策に関する公共政策研究を行う等、エネルギー・環境問題に造詣があり、幅広い知識を有しております。加えて、他の上場企業における社外取締役としての経験から、IT・通信、鉄道、不動産事業等の企業経営に関する深い知見を有しており、当社社外取締役就任以降は、当社取締役会等において主に事業戦略、コンプライアンスに関して助言いただいております。財務・金融、法務・コンプライアンス、サステナビリティ経営における知見を有しており、引き続き、経営方針・企業戦略の意思決定及び業務執行の監督機能を担う取締役として適任と考え、社外取締役候補者とするものであります。

バルクホールディングスの再任理由

他の上場企業での社外取締役としての経験と経済誌編集者としての取材活動や公共政策研究を通じて培った豊富な経験、知見を有しており、業務執行の監督機能強化への貢献及び女性の目線による多様で幅広い助言等を期待できることから、社外取締役として選任いたしました。

ジャパンエレベーターサービスホールディングスの再任理由

社外取締役候補者遠藤典子氏は、公共政策研究及び経済誌編集者としての取材活動により培われた知見や他の上場企業での社外取締役としての経験を有しており、経営全般の監視・監督の強化のみならず、その見識と知識等を当社の経営全般に活かしていただくことを期待し、引き続き社外取締役候補者といたしました。

テックポイント 2024 年時の再任理由(現在、上場廃止)

遠藤氏の、リサーチやコンサルティングで得た視点や経験、日本企業の取締役を務めた経験に鑑み、当社の社外取締役として適格であると当社は信じています。
また、東京証券取引所が定める独立役員の基準を満たすため、独立役員として指定しています。

社外取締役と大学教授、学科長になった辻広氏

次に、辻広雅文氏の略歴と、西武ホールディングス社外取締役の再任理由を記しておく。同氏も、日本年金機構理事など公共性の高い要職に就き、帝京大学経済学部教授、帝京大学短期大学現代ビジネス学科長として学生を指導している。

1981年3月 慶應義塾大学法学部を卒業。
1981年4月 ダイヤモンド社に入社。
1985年5月 電電公社からNTT(日本電信電話株式会社)に民営化された時期に週刊ダイヤモンドに連載された記事を基に『ドキュメントNTT 通信新世紀「主役」の条件』を出版。辻広氏は特別取材班の一員として取材、執筆。
2001年4月 週刊ダイヤモンド編集長に就任。
2004年3月 週刊ダイヤモンド編集長を退任。
2004年9月 マーケティング局長に就任。
2006年6月 取締役に就任。
2011年8月 辻広氏の妻、遠藤典子氏がフォルマに出向。
2012年1月 遠藤氏典子氏が「株式会社E4ストラテジーズ」を設立。本店所在地は自宅。事業目的はコンサルタント業、情報処理サービス業並びに情報提供サービス業、国際会議等のイベントの企画・制作・運営、出版業、投資業及びその仲介業、前各号に付帯する一切の事業となっている。
2013年12月 遠藤典子氏がダイヤモンド社を退社。
2014年3月 ダイヤモンド社を退社。
2014年6月 株式会社プリンスホテル(現・株式会社西武不動産)社外取締役に就任。 
2015年4月 帝京大学経済学部教授(現任)。
2018年1月 日本年金機構の理事に就任(非常勤)(現任)。
2018年4月 西武鉄道株式会社取締役
2018年6月 西武ホールディングス 社外取締役(現任)。
2020年4月 株式会社プリンスホテル 取締役
2022年4月 株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド 取締役、株式会社西武リアルティソリューションズ(現・株式会社西武不動産)の取締役に就任。
2022年8月 『金融危機と倒産法制』を岩波書店から出版。
2023年4月 帝京大学短期大学現代ビジネス学科長(現任)。

西武ホールディングス 社外取締役再任理由

長きにわたり経済誌の編集長を務め、現在は帝京大学経済学部教授として、日本経済及び企業経営に関する高い専門性と豊富な経験、高い見識を有しております。昨今の事業環境の変化への適用が求められるなかで、経済動向を踏まえた経営判断や方向性の示唆等、専門家としての発言やDX戦略やマーケティングに係る助言は、当社の取締役会の活性化及びグループの持続的成長に貢献しております。また、当社の報酬諮問委員会の議長として、新たな役員報酬制度の検討においても、議論を牽引してまいりました。今後も、当社グループの中長期的な企業価値の極大化をはかることができるものと考え、また、当社との間に、人的関係、資本的関係又は取引関係等の特別な利害関係はないことから社外取締役として選任し、独立役員として届け出ております。

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コメント

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前原進之介
前原進之介

Yu Morioもりおゆうさん
昭和をスケッチしたイラストを眺めたり、メッセージや解説を読ませていただくと懐かしさや、へえーといった発見があり、興味深く拝見しております。これからもさまざまなテーマで時代を描いてください。

前原進之介さん
このたびはフォローありがとうございます。
新しいご縁とつながりがまた1つ増えてとても嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します☺️
また読ませていただきにお邪魔させてもらいます^^

前原進之介
前原進之介

影武者コピーライター|宮本真愿さん
文章、出版、電子書籍、AI、YouTube、noteなど、さまざまなテーマで記事を書かれていますが、導入部からの展開が素晴らしく、グイグイ引き込まれていく感じです。例えば「現代最強の『手に職を』とは?」というレポートでは、大工、料理人、美容師、時計職人といった食いっぱぐれのない職業をマクラに、コピーライティングの重要性が説明されており、「人を動かす力」を身に付けられるよう、今後精進したいと思います。
私は書くことを職業としてきましたが、今は誰かのお役に立てればという思いと、書かなければという使命感で記事を書いています。他の記事も、お目に留まれば嬉しいです。

アラ還AIプログラマ
アラ還AIプログラマ

前原進之介さん
素敵なお話ありがとうございます。
フォロー感謝です!言葉を通じてつながれるって、やっぱり嬉しいですね。
そちらの記事もゆっくり読ませていただきます。
インスピレーション、もらえたら嬉しいなと思っています

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「社外取締役の女王」を生み出した ダイヤモンド社の奇怪な無軌道経営|前原進之介
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