日本でたくさん稼げる、と聞いていたのに…

人材ビジネスが何層にも介在する技能実習制度の現場では、受け入れ企業も技能実習生も「聞いていた話と違う」となるほどの深刻なミスマッチが発生しやすい、と斉藤氏は指摘する。

「現地の送り出し機関が、日本の零細企業とベトナム人双方に『条件を盛る』場合がある。例えば、日本の農業法人に『まじめで元気で日本語がわかるベトナム人を雇えます。機械化するより、よっぽど経済効率が良いですよ』と売り込む。ベトナム人には『残業で稼げて安全な職場環境で、宿舎には1人1部屋が用意されている』と伝える」

しかし……

「いざ雇用主が実習生に会ってみると、タトゥーが入っていて怠け癖があり、日本語も全く話せない。ベトナム人からしてみても、その農業法人が時給制でそもそも仕事があまりなく、稼げない。社長はパワハラ気味だし、部屋も集団生活、という状況が生まれている」(斉藤氏)

こうしたミスマッチが実習生・企業双方の不満を高まらせ、最終的には失踪してしまう実習生を増やす要因になっていると考えられる。

本来、このような事態が発生しないように事前にチェックするのが日本の監理団体の役割だが、同氏によると監理団体も玉石混交で、むしろ悪質な送り出し機関と共謀して、問題を見てみぬふりするケースもあるという。

【図表2】令和6年国籍別失踪者数
出典=出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者数の推移」を基に編集部作成

ベトナム語の読み書きができない人材

また、日本の労働市場としての魅力が低下している点も、失踪の遠因になっているようだ。

「オーストラリアや韓国といった国々に、日本は報酬で完敗している。したがって、市場原理で、来日の経費も相対的に安い。また、他国では就業前に現地語の試験を受ける必要があるが、(技能実習生の場合、介護職種を除き)日本では不要。要は、誰でも簡単に実習生になれるということだ。日本の労働市場は現地から『安い・早い』という、牛丼チェーン並みの見られ方で、レベルの高い人材は他国に流れている。最近は、日本には失踪する価値すらないと見られ、早々に帰国するケースも増えている」

「それでもまだ日本を選んでくれるベトナム人は多いが、全体として、広い意味でのレベルが落ちている。少数民族など、ベトナム語の読み書きすらおぼつかない人も増えてきた。中には『自分が技能実習生であること』を知らない人もいて、ベトナム語の対応が可能なこちらも苦労するほど。もっとも、そのような人材だからこそ、いまだに日本を選んでくれている、という側面もある。必然的に、職場や宿舎で、上司や他の技能実習生とのトラブルも増え、話し合いもできず飛び出してしまうケースがあとを絶たない」(斉藤氏)