【完全保存版】戦力外通告とは
はじめに
NPBにおける戦力外の制度に関して勘違いしたまま、浅い批判を球団にぶつけている人が多すぎる。だから書いた。
戦力外通告は「保留選手名簿に掲載せず、自由契約とすること」の通告
「保留選手名簿に掲載しない」ということ
NPBの選手登録は基本的に「支配下選手登録」という制度で行われている。支配下選手は晴れて一軍の試合(セ・パ公式戦)に出られる選手で、上限は70人と定められている。
支配下選手の数は、ドラフト会議や外国人選手の獲得などで毎年1月に8〜15人程度増える。それに先立ち、前年12月に支配下選手を同じくらい減らしていくという方式がとられている。
詳しく見ていこう。支配下選手を来季も登録する意思があるか否かを示す存在として、毎年11月末に各球団が「契約保留選手名簿」を提出する。この名簿に載っている選手は「契約保留選手」に、載っていない選手は「自由契約選手」になる。
契約保留選手・自由契約選手は12月の頭に一斉に公示され、翌年1月末に再び支配下選手登録されるのが通例である。
支配下選手は1年中支配下選手であるわけではないのだ。
この「契約保留選手名簿」に掲載しない旨の通告こそが「戦力外通告」である。
「保留されない選手」は、すなわち「契約保留選手名簿に載らなかった選手」である。
なお「契約保留権放棄」は途中で名簿から外した選手を意味する(この年は全てポスティング)。
まず契約保留選手の主述関係を明記すると、「球団が契約保留権を有している選手」となる。他球団に渡すことは許されない、チームに必要な選手だ。
球団が保留権を持っている選手は他のどの球団とも交渉できないので、「保留」は「保有」とも換言できる。
野球協約 第68条(保留の効力)
(1) 保留球団は、全保留選手名簿に記載される契約保留選手、任意引退選手、制限選手、資格停止選手、失格選手に対し、保留権を有する。
(2) 全保留選手は、外国のいかなるプロフェッショナル野球組織の球団をも含め、他の球団と選手契約に関する交渉を行い、又は他の球団のために試合あるいは合同練習等、全ての野球活動をすることは禁止される。なお、保留球団の同意のある場合、その選手の費用負担によりその球団の合同練習に参加することができる。
これに対置されるのが自由契約選手、つまり「どの球団とも自由に契約できる選手」である。
ただし戦力外通告を受けた場合、自由契約選手になる前からでも他球団を含めて来季の契約をすることが認められている。自由契約の公示は12月なのに、11月の段階で契約合意が発表されたりするのはそのためだ。
なお、ここでいう「保留」は「契約更改において保留すること」とはまた別なので注意されたい。また、外国人選手に関しては戦力外のルールの制約を受けない(FA権取得済みで日本人扱いとなる選手を含む)。
育成落ちの場合にも戦力外通告が必要
来季も同じ球団でプレーするということは、支配下選手登録されることとイコールではない。
実力が伴っていなかったり、大きな怪我をしてしまったりして育成選手として再契約する、いわゆる「育成落ち」も近年盛んである。
支配下選手を育成選手に切り替えるためには、上記の「契約保留選手名簿」に載せず自由契約にしてから再契約すること、つまり戦力外通告をすることが必須となっている。
育成選手に関する規約 第9条(支配下選手契約への移行等)
(前略)
② 球団が支配下選手を育成選手に移行させるときは、野球協約第58条(自由契約選手)の手続をとった後でなければならない。なお、参稼期間中に支配下選手を解除した球団は、その年度中にその選手と育成選手契約を締結することはできない。
ちなみに阪神は、再契約した段階でいきなり育成落ちになることを発表する方式(俗に言う「サイレント育成落ち」)をとっている。DeNAも2024年までは同じ形だった。
ただ、この場合も育成落ちする選手はきちんと自由契約になっているので、発表されていないだけで裏では戦力外通告が行われていると考えるべきだろう。
なお、支配下か育成か、ならびに同一球団か他球団かを問わず、戦力外通告を受けた選手が来季の契約を結べるのは12球団合同トライアウト(例年11月開催)の翌日からと申し合わせられている(野球協約に明文化はされていない)。それまでは、旧所属球団も手出しすることができない。
つまり、翌年は育成選手に切り替えると通告された時、契約するかどうかの最終決定権は選手側にある。実際、ソフトバンクから2024年オフに育成契約を提示されていた三浦瑞樹・仲田慶介の両支配下選手は、同球団との再契約を拒否して他球団と契約を結んで話題となった。
戦力外の発表があった際、育成落ち予定の選手について「育成契約を打診」と報じられるのはそのためである。
必ずしも「来季の契約を結ばないことの通告」ではない
ところで、球団公式HP等で戦力外通告が発表されるとき、たいていは「来季の契約を結ばないことを通告しました」だったり、それに近い文面が使われる。育成選手としての再契約を打診している(と報じられている)ケースでも同様だ。
しかしよく考えてみれば、これは戦力外通告の本来の定義とは合致しない。育成選手として再契約するかもしれないし、稀ではあるが支配下で再契約するケースもある。
最近、巨人が育成契約を提示している選手について「自由契約とすることを通知」と発表している。契約しない選手に「来季の契約を結ばない」としていることへの対比とはいえ、個人的にはこれが一番的確な表現ではないかと思う。
なお、「『戦力外通告』は報道機関が勝手に用いている呼称なので使用を避けるべきだ」という声が見られるが、NPBが「戦力外/現役引退選手の進路調査結果」という文書を出している以上、「戦力外通告」という語は何らかの形でルール上存在するものと考える。
「本人の意思に配慮…」でも戦力外は戦力外
北海道日本ハムファイターズは本日11月16日(火)、海外フリーエージェント(FA)資格を取得している西川遥輝選手、国内FA資格を取得している秋吉亮投手、大田泰示選手とFA資格について協議した結果、2022年度の契約を提示せず、野球協約第66条の保留手続きを行わないこととなりましたので、お知らせいたします。
荻野貴司選手が今シーズン限りで退団することになりましたのでお知らせします。
本人とはコーチ就任の打診を行うなど、話し合いを行ってきましたが現役続行の意向が強いことから、本人の意思を尊重し退団する運びになりました。
9月28日(水)、松田宣浩選手が会見を開き、今季限りでホークスを退団し、他球団で現役続行の道を探ることを明らかにしました。
功労者と呼ばれるクラスの選手に対して、上記のような発表がなされることがある。一見すると「選手の意向に沿って球団が退団を認めた」かのようなニュアンスだ。しかし、これらも事実上は戦力外通告の発表である。
選手が不祥事を起こしたようなケースを除き、現役続行を希望している選手に対してオフの保留者名簿に掲載しない措置を取ることは、戦力外通告なしにはできない。
特に日本ハムのケースに関しては、実際には「協議」と呼べるような場も設けられていなかったことが選手会によって明らかにされている。
無論、上記のような発表はファン感情を刺激しないための苦肉の策でもあるのだが、戦力外通告という概念を紹介するうえで避けて通れないため、紹介させていただいた。
育成選手への戦力外通告
ここまで書いてきたのは、支配下選手への戦力外通告に関する内容である。次は育成選手への戦力外通告について扱っていく。
育成選手の保留システム
育成選手にも「契約保留者名簿」というシステムが存在する。
保留者および自由契約選手の公示が一足早い10月末であること以外は、支配下選手の保留選手名簿と同じものと考えてよい。
だが、育成選手には年数経過により自動的に自由契約となるルールが存在する。
ドラフト指名から3年経過した選手
支配下から切り替えられた選手
上記に該当する場合、球団に契約更新の意志があるか否かに関わらず、1年ごとにいったん自由契約になる。
育成選手に関する規約 第10条(育成選手の在籍期間)
育成選手として入団後3年間(3シーズン)育成選手として在籍をした者が、当該球団から翌年度の支配下選手として選手契約を締結されない場合(原則として10月末日までにその旨本人に通告するとともに開示手続きをとる。)には、11 月末日をもって自動的に自由契約選手となる。ただし、この規定により自由契約選手として開示された者について、当該球団を含む各球団が開示日の翌日から支配下選手または育成選手としての契約交渉を行ない契約を締結することは差し支えないものとし、以降も当該選手に関しては1年(シーズン)毎に同様の手続により契約することができる。
② 球団は、育成選手の翌年度の契約保留者名簿を10月末日までにコミッショナーに提出し、コミッショナーはこれを開示する。この場合、保留者名簿に登載されなかった者については自由契約選手となり、開示の翌日(11月1日)からはいずれの球団とも支配下選手または育成選手として契約できる。
③ 支配下選手が自由契約選手となった後に、育成選手として自球団又は他球団と契約した者が、翌年度支配下選手として契約されない場合には、自由契約選手となることができる。この場合において球団は、原則として10月末日までに自由契約選手として開示手続をとる。この場合には第1項ただし書を準用する。
※上記③では「自由契約選手となる『ことができる』」としているが、実際には該当する全選手が自由契約となっている。
本来は「来季の契約を結ばないことの通告」のはずだが
育成より下位の契約形態はないので、育成選手に戦力外通告するということは、来季は選手としていかなる契約も結ばないということになるはずだ。それなら、本当に契約する気がない選手だけ「来季の契約を結ばない」と発表すればよいのか。
だがここで、前述した自動的な自由契約のルールが絡んでくる。
自由契約は10月末、再契約可能なのは11月のトライアウト後ということで、タイムラグがある。つまり、再契約可能日までに他球団からオファーがあれば移籍してしまう可能性があるのだ。
いわば「横取り」のような形だが、割と前例もある。
ソフトバンクで育成落ちしていた白根尚貴は、2015年オフに自由契約となったところで球団からの再契約打診を蹴り、DeNAに支配下で移籍した。
同じくソフトバンクで育成入団から3年経過していた長谷川宙輝は、2019年オフに一度自由契約となったところでヤクルトから支配下のオファーを受け、やはり移籍している。
それでも通常、再契約する選手は特に自由契約に関するアナウンスはなく、普通に契約更改をするのと同じ扱いをするのが通例である。
ところが、広島など一部の球団は再契約する意思がある選手についても「来季の契約を結ばないことを通告した」と発表している。報道を見る限り、少なくとも広島は本当にいったん戦力外通告をしているらしいが、同時に再契約の打診もしているとすればとんだ倒錯である。
この辺りは年ごとに扱いが変わる球団も多く、過去にはヤクルトや西武、オリックスあたりも再契約予定の選手に戦力外通告を発表していたことがある。ロッテは2025年から「育成契約満了」という表現を用いている。
ファンの混乱を招いているのは否めないが、移籍された時のことを考えると一概に批判できない部分もある。
ともかく、支配下選手の場合と同様に、育成選手に対して戦力外通告の発表があったとしても全員が退団するわけではないというのが現状である。
なお、育成選手の場合は日本人と外国人で扱いに違いはないようだ。
類似する概念との違い
戦力外通告と自由契約
ここまで書いてきた通り、戦力外通告は「自由契約選手とすることの通告」である。自由契約(選手)は状態、戦力外通告はそれを通告する行為であると理解できる。
ただこれも先述したが、巨人に限っては育成落ちにする選手について「自由契約とすることを通知」としており、メディアでは退団となる「戦力外通告」に対して育成契約の提示を「自由契約」として区別している。つまりここでの「自由契約」はそれを通告する行為である。
これらの比較であれば、どちらも結局は自由契約にすることの通告であるから中身は同じであり、単なるニュアンスの違いとなる。
そもそも自由契約になること自体、ウエイバー公示(後述)だったり、不祥事による契約解除だったり、現役引退だったりとさまざまな理由があるため、必ずしも「戦力外選手」ではない点には留意したい。
戦力外通告とノンテンダー
同じ。戦力外通告という表現を避けただけ。
戦力外通告とウエイバー公示
ウエイバー公示(報道では「ウェーバー公示」とも)は、選手を自由契約にする前に他11球団から譲渡希望がないかを募る手続きである。
譲渡希望があればトレード扱いでその球団に移籍するが、希望がないまま7日間経過すると「ウエイバー不請求」として自由契約選手になる。
「ウエイバー不請求」は、すなわち「ウエイバー公示をしたが引き取り手が付かなかった」ということである。
野球協約での記載はこうだ。
野球協約 第115条(ウエイバーの公示)
球団が参稼期間中その支配下選手の契約を解除しようとする場合、球団はあらかじめコミッショナーへ、その選手との選手契約を放棄し、その選手の保有を希望する球団に選手契約を譲り渡したい旨のウエイバー公示手続きを申請しなければならない。コミッショナーはただちにウエイバーを公示し、この旨をすべての球団と同選手に通告し、また、同選手の所属球団以外の球団に対しては、公示の日から7日以内に同選手の契約譲渡を申し込むか否か回答を求めなければならない。
同 87条(参稼期間と参稼報酬)
(1) 球団は選手に対し、稼働期間中の参稼報酬を支払う。統一契約書に表示される参稼報酬の対象となる期間は、毎年2月1日から11月30日までの10か月間とする。
(後略)
この「参稼期間中」というのがミソで、戦力外通告が参稼期間後(=12月)に自由契約とする手続きなのに対し、ウエイバー公示は参稼期間中(=11月以前)に自由契約とする手続きである点に違いがある。
ウエイバー公示の制度は育成選手には存在しないという点も特徴だ。
また、球団との紳士協定により、日本人は(シーズン中に)ウエイバー公示にかけることはできないことになっている。なぜそうなったかは「金本明博」で検索していただきたい。
おわりに
永久保存版にするつもりで殴り書きしたが、いかんせん文字ベースでここまで長い文章を書くのも卒論以来のものである。
「ここについてもっと詳しく書いてほしい」「これとこれの違いが分からない」など、要望があればぜひお寄せいただきたい。


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